日本生態学会

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第3回(2015年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

石川 麻乃(国立遺伝学研究所新分野創造センター)
門脇 浩明(京都大学大学院人間・環境学研究科)
末次 健司(京都大学大学院人間・環境学研究科)
山道 真人(京都大学白眉センター/生態学研究センター)


選考概要

 石川麻乃氏 は、アブラムシやイトヨを研究対象とし、ポリフェニズム・表現型多型のメカニズムを分子生物学、生理学的手法を導入して解析し、着実に学術的成果をあげている。特に生態学的に重要な形質(適応度成分を構成する形質)の表現型可塑性のメカニズムを明らかにすることを目的として、遺伝子発現の差を利用して表現型の決定要因の候補となる因子をリストアップすることに成功している。これらの成果は、Journal of Evolutionary Biology, Journal of Experimental Zoology, Insect Molecular Biologyなどに発表されている。今後は、表現型可塑性遺伝子の同定というブレークスルーをなすことが期待される。日本生態学会では、学会発表・企画集会のオーガナイズなど研究を積極的に発信しており、今後も日本生態学会における活発な活動が見込まれる。
 以上の理由により、石川麻乃氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

 門脇浩明氏 は、群集生態学の根本的な課題である、共存機構・多様性維持機構をテーマに着実に研究成果を上げている。野外研究と実験を組み合わせて多種共存機構に関わる仮説についての研究を進め、複雑に要因が絡むデータセットから先住効果・分散‐競合トレードオフについて実証的に検証した。例えば、食虫植物のピッチャー内の原生動物の共存機構における競争と先住効果の役割を人工ミクロコズム内で実験的に評価した。また、菌食甲虫の共存に関する野外データを用いて、競合と分散のトレードオフ効果を検出した。また、メタゲノミクスを用いた土壌微生物群集の研究についても、群集生態学における多量データの活用として展開が期待できる。今後、大規模な系を用いた群集研究への展開が望まれる。EAFESシンポジウム講演や地区会でのシンポジウム企画などを行っており、今後も日本生態学会において、海外の研究室を渡り歩きながら着実に研究論文を発表してきた経験を活かした活発な活動が見込まれる。
 以上の理由により、門脇浩明氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

 末次健司氏 は、これまで菌根系や送粉系など大半が相利共生となる相互作用系における寄生者の存在に着目し、それらが群集構造や生物多様性及び生態系機能に及ぼす影響に関して研究を進めてきた。例えば、植物寄生性のセイヨウヒキヨモギが宿主間での競争的優位種であるマメ科やイネ科植物に選択的に寄生することで、他の植物種の成長が促進されることを示した。また、従属栄養植物の地上部の環境適応、特に低光量下での繁殖に関わる適応様式についても精力的に研究を進めてきた。
 氏は博士課程在学中でありながら、すでに26編の原著論文をAnnals of BotanyやBotanical Journal of the Linnean Societyといった国際誌に発表していることは特筆に値する。また生態学会での発表も精力的で集会の企画も経験している。今後は、細胞生物学者や分子生物学者の協力のもと、菌従属栄養植物の菌への寄生を可能にする遺伝基盤の解明にむけての研究を指向しており、将来の成果が期待される。
 以上の理由により、末次健司氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

 山道真人氏 は、理論研究を通して捕食被食系の個体群動態と進化とに関して興味深い成果を上げてきた。たとえば、対捕食者防衛において表現型可塑性で対応する遺伝子型は個体群が振動する場合に進化的に有利である一方で、個体群動態を安定化させる効果を持つため、その遺伝子頻度は周期的に変動することがあることを示した。一方、振動する捕食被食系において、外来性餌種の侵入の成否に対し、導入個体数と導入のタイミングの両方が決定的な役割を果たすことを示した。これらの研究成果は、Evolution, The American Naturalist, Ecologyなどの一流の国際誌に発表されている。生態学会では多くの発表を行なうなど研究成果を活発に発信してきた。加えて、シンポジウムの企画や生態学会誌へのニュースレターの連載記事執筆など、若手生態学者に向けた新たな研究アプローチの普及啓発にも大きく貢献している。今後は進化と生態学的現象のフィードバックを操作実験、集団遺伝学的手法、数理モデル解析を組み合わせた包括的アプローチから進めていくことが期待される。
 以上の理由により、山道真人氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。

選考委員会メンバー:大手信人,佐竹暁子,正木隆,大園享司,中野伸一,野田隆史(委員長),工藤洋,近藤倫生,松浦健二

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