第4回(2016年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者
立木 佑弥(九州大学大学院理学研究院)
長谷川 克(総合研究大学院大学)
山尾 僚(弘前大学農学生命科学部)
日本生態学会奨励賞(鈴木賞)には11名の自薦による応募があった。受賞に値する優秀な応募者が多く選考は容易ではなかったが、これまでの研究業績や今後の研究発展への期待を総合的に評価して、特に優れていると評価された立木佑弥氏、長谷川克氏、山尾僚氏を受賞候補者として選定したことを報告する。選考に漏れた応募者にはぜひ、再度の応募を促したい。
選考理由
立木佑弥氏は、主として数理モデルを利用したアプローチによって、森林性樹木における種子生産の豊凶現象に関連する理論研究を進めてきた。例えば、適応進化の観点から豊凶現象の成立条件について調べた研究では、森林の更新動態が豊凶現象の進化に果たす役割を明らかにしている。また、ササ・タケ類の一斉開花の周期に見られる地位的クラインを近親者間競争回避のための適応進化の結果として説明した研究は、他の生物への応用・発展も見込まれ、今後の優れた研究展開が期待できる。これらの研究成果は、Journal of Theoretical Biology、Journal of Ecology、Evolutionary Ecology Researchなどの国際誌に8編の学術論文として発表されている他、2編の著書や国際学会における発表も多い。また、生態学会では、多くの発表を行っているとともに、企画集会も複数回にわたって企画している。以上の理由により、立木佑弥氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。
長谷川克氏は、ツバメの長期野外調査に基づく性選択の研究、およびベイズ統計を用いた雄間闘争能力の分析手法の開発を行い、多面的に性的形質の進化に関する研究を進めてきた。大変な労力と時間を要するツバメの野外調査から、なわばりが装飾進化の鍵であることを見出し、また、雄が未熟な雛に擬態して雌を誘引するというきわめて興味深い現象を世界で初めて発見した。さらに、ベイズ統計を駆使し、雄間闘争における潜在能力を直接数値化する分析手法を開発し、実際にチンパンジーの長期データやメキシコマシコの室内実験データの解析に活用した。これらの成果は、Animal Behaviour, Behavioral Ecology, Behavioral Ecology and Sociobiologyなどの学術誌に22編もの論文として発表されている。今後も、綿密な野外調査と最新の解析手法を組み合わせた包括的アプローチによる研究のさらなる発展が期待される。以上の理由により、長谷川克氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。
山尾僚氏は、アカメガシワ幼木を主な材料として、植物が、葉齢や光・土壌養分などの生育条件に応じて、植食者に対して異なる防御戦略を採用することを実証的に明らかにした。具体的には、明るい条件下ほど、土壌養分が多いほど、また葉が加齢するほど、毛による物理的防御や腺点による化学的防御よりも、花外蜜線と脂質からなる食物体でアリ類を誘引する生物的防御に資源を配分することを、観察および操作実験により示した。従来の研究は、ある特定の防御戦略のみを対象としてきたが、山尾氏の研究では、複数の防御戦略に注目し、植物がそれらを同時に備える意義にまで踏み込んだ点や、コストの低い生物的防御を用いることでより生長が早くなることを示した点が新しい。これらの研究成果は、Proceeding of the Royal Society B, Journal of Ecology, Annals of Botanyなどの学術誌に16編もの論文として発表されている他、1編の著書もある。学会発表や集会企画を通じて成果を活発に発信しており、今後の継続した研究展開が十分に期待される。以上の理由により、山尾僚氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。
選考委員会メンバー:大園享司,中野伸一,野田隆史,工藤洋,近藤倫生(委員長),松浦健二,鏡味麻衣子,日浦勉,吉田丈人