第5回(2017年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者
安藤 温子(国立研究開発法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)
伊東 啓(長崎大学 熱帯医学研究所)
山﨑 絵理(Department of Evolutionary Biology and Environmental Studies, University of Zurich)
日本生態学会奨励賞(鈴木賞)には3名の自薦による応募があった。これまでの研究業績や今後の研究発展への期待を総合的に評価して、安藤温子氏、伊東啓氏、山﨑絵理氏を受賞候補者として選定したことを報告する。
選考理由
安藤温子 氏
安藤温子氏は、海洋島に生息する鳥類の遺伝構造と採食生態に関して、分子生物学的手法と野外調査を組み合わせた保全生態学的研究を展開してきている。鳥類の遺伝構造に関する氏の研究は、主に島を単位として行われてきた島嶼生絶滅危惧種の保全において、移動を考慮した生息地保全という新たな視点を提供している。また、鳥の採食研究に関する氏の研究により、在来希少種が、一方的な駆除が行われがちな外来種に依存していることを明らかにし、在来種と外来種の相互作用を考慮した保全を推進する必要が示された。これらは、島や絶滅危惧種における保全にとどまらず、保全生態学全般における新たな視点を提供していると思われる。これらの研究成果はEcology and EvolutionやIbisなどの英文誌に9編発表している。また、学会発表においても、国際学会、国内学会併せて35回の発表を行ってきている。さらに、研究面だけでなく、実際の保全活動にも積極的に関与するなど、社会とつながりをもつ生態学者になる資質を備えていると考えられる。以上の理由により、安藤温子氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相当しいと判断する。
伊東啓 氏
伊東啓氏は、主として数理モデルを利用したアプローチによって、ゲーム理論に関わる諸問題や協力行動の進化に関する理論研究を進めてきた。ゲーム理論における「山分け(half-sharing)」という概念について、quantitative criterion とutility criterionという異なる二つの定義がまったく異なる帰結をもたらす可能性を議論している。また、13年または17年おきの一斉羽化で知られる「素数ゼミ」の羽化タイミングの周期性進化の仕組みを提案する研究では、羽化タイミングを決定する遺伝子にかかる自然選択を考慮した数理モデルによって、温度環境の変化が積算温度に依存しない周期的羽化の進化を促すことを示した。これらの研究成果は、Scientific Reports、PLoSONE、Evolutionary Ecology Research等の国際誌に14報の学術論文として発表されている。以上の理由により、伊東啓氏は日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者としてふさわしいと判断する。
山﨑絵理 氏
山﨑絵理氏は、オオバギ属植物の送粉共生と被食防衛共生の関係に着目し、相利共生関係の進化と維持に関する研究を進めてきた。オオバギ属のほとんどの種はアリと被食防衛共生関係をもち、葉の花外蜜腺でアリを誘引しているが、一部の種は花序にも円盤状蜜腺をもつことで送粉者を誘引していることを明らかにした。蜜腺の比較分析により、祖先的に風媒であったオオバギ属植物において、アリを誘引する花外蜜腺が外適応となって送粉者を誘引する花序の蜜腺を獲得したことを示した。また、ランビル国立公園において送粉者であるアザミウマと防衛アリの行動実験を行うことにより、アリと遭遇したアザミウマがアリ忌避物質デカン酸を分泌し、アリの攻撃を避けることを明らかにした。2つの共生関係のコンフリクトと、それを解消する仕組みに着目したユニークな研究である。これらの研究成果は、Evolutionary Biology、Evolutionary Ecologyなどの国際誌に5編の学術論文として発表されている他、国際学会における発表も多い。現在進めている開花フェノロジーの研究など、今後の研究展開が十分に期待される。以上の理由により、山﨑絵理氏は、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者として相応しいと判断する。
選考委員会メンバー:工藤洋,近藤倫生,松浦健二,鏡味麻衣子,日浦勉(委員長),吉田丈人、岸田治、塩尻かおり、土居秀幸