日本生態学会

Home > 学会について > 学会各賞奨励(鈴木)賞歴代受賞者

第13回(2025年) 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞者

大崎 晴菜(東京都立大学)
柴﨑 祥太(国立遺伝学研究所)
髙橋 大樹(九州大学大学院農学研究院)


選考理由

自薦による6名の応募がありました。審査にあたっては、研究の独創性、主導性、発展可能性を中心に評価しました。また日本生態学会における活動についても評価の参考としました。結果として、意欲的な研究展開を特に高く評価された大崎晴菜氏、柴﨑祥太氏、髙橋大樹氏を候補者として選出しました。

大崎晴菜 氏
大崎氏は、同種植物の個体間相互作用に着目し、植物個体が単独で生育するか集合して生育するかによってフェノール類の蓄積に差が生じていることを見出した。この応答の帰結として、植食者の採餌行動や分布が変化することを2つの系で見出している。シロヨメナの系ではシカの採餌行動が変化すること、エゾノギシギシの系ではハムシの分布の決定要因の一つとなっていることを示した。これらの研究結果を中心に8報の論文を発表している。同種植物個体間の相互作用に関する発見は新規性が高く、今後そのメカニズム、適応度に対する効果、群集における帰結などを明らかにすることにより、より強固で一般性の高い研究課題として展開することが期待される。以上のように、大崎氏はその研究の独自性の高さにおいて、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価した。

柴﨑祥太 氏
柴崎氏は、環境と進化動態、個体群・群集動態が相互に与える影響について数理モデル研究を中心に取り組んできた。柴崎氏の研究の特徴は、数理モデリングのみにとどまらず、具体的な生物種を基に実験やデータベース解析を織り交ぜて展開していることである。環境変動によって2種類の協力行動が見られる細胞性粘菌において、モデル解析と実験の両面から協力行動の進化的安定性を明らかにした。また環境条件によって食物網のネットワーク構造が変化し、最高位の栄養段階(食物連鎖長)が非線形に変わることを数理モデルとデータベースの解析で示した。現在は研究の関心を広げ、人間社会の文化が生態系や進化とどのように相互作用するのかの研究も進めている。民間伝承に登場する動物の地理分布と現実の動物の地理分布の関連を調べた研究で論文を出版するとともに、日本生態学会大会で関連する公募シンポジウムを開催するなど、分野横断的な新しいテーマに関する研究にも力を入れていると言える。柴崎氏は学位取得後約2年の時点で8報の主著論文を含む13報の英語論文を出版している。生態学会では、ポスター賞審査員やモアイワーキンググループメンバーも務めている。このように、目覚ましい業績と学会活動への積極的な参加により、今後も一層の活躍が期待されることから、柴崎氏は日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価された。

髙橋大樹 氏
髙橋氏は、集団遺伝解析を基盤として、訪花者観察や発芽実験、形態測定、元素分析、生態的ニッチモデリングなどの手法を組み合わせることで、日本列島における野生植物の多様性がどのように形成され、また維持されてきたかの解明に取り組んでいる。その成果として、カンアオイ属の多様化が地形的な複雑さや第四紀の気候変動などによる分布域の分断や、訪花者との相互作用、局所環境への適応によりもたらされていることなどが示されている。他にも、屋久島の矮小植物群落を対象とした研究では、草食獣の採食を回避するために80種以上の植物群が平行的に矮小進化したことを示唆する結果も得られている。これらウマノスズクサ科カンアオイ属、ユキノシタ科イワユキノシタ属、ジンチョウゲ科シャクナンガンピ属、屋久島の矮小植物群落など多様な分類群を用いた研究成果は26報の英語学術論文や著書として公表されており、国際学会などでも積極的に発信されている。日本生態学会大会でも非モデル植物を用いたゲノミクス研究の振興のための自由集会の企画や発表などを行い学会への貢献もある。これらの研究には、系統的に異なる様々な分類群の植物を材料にした多地点での調査、系統地理解析、野外観察をはじめとする多岐にわたるアプローチが必要である。髙橋氏は、熱意をもって、それらすべてを主導して行っており、今後の研究発展が期待されることから、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)の受賞者に相応しいと評価する。

選考委員会メンバー:鈴木俊貴、鈴木牧、辻かおる、門脇浩明、瀧本岳(委員長)、深野祐也、工藤洋、深谷肇一、山口幸

トップへ