日本生態学会

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会長からのメッセージ -その5-

「奨励賞(鈴木賞)の新設について」

 日本生態学会は、今回新たに日本生態学会奨励賞(鈴木賞)を設けることにしました。

 本来なら、3月の大津大会の全国委員会と総会の場で決議する予定でした。議論を事前に十分詰めることができなかったことを、執行部としてお詫びします。この議論を通じて、学会賞に対する過去の受賞者、賞選考委員、皆さんの熱い思いを改めて知ることができました。

 宮地賞、大島賞という賞の名称は、寄付をいただいた生態学会の先導者のお名前を冠しています。若い方にとっては、教科書の中で始めて知る伝説の偉人のお名前を冠した賞という意識が強くあるのでしょう。これらの賞の基金は授賞のたびに減っていきます。いずれほかの寄付を頂かないと続かないと思っていましたが、たとえ賞金がなくなっても伝統ある賞を続けるべきであるという受賞者たちの声に、心洗われる思いがしました。

 わが日本生態学会の顕彰制度の歴史は、そう長いものではありません。かつて当会では、賞などの形で権威付けをすることを戒める意見が強かったものです。ほかの学会に比べて、学会推薦のような活動は今でも手薄といえるでしょう。しかし、人事などでほかの分野と競合する場合など、受賞歴で生態学分野全体が不利益をこうむってはいけません。1997年に創設された宮地賞は30歳代の若手研究者の登竜門として、2008年に創設された大島賞は40歳代中堅研究者のような地道な長期野外研究者にも光を当てる賞として、その受賞講演は年次大会の晴れ舞台の場となっています。

 ほかに2001年創設のEcological Research論文賞と2002年創設のポスター賞があり、学生も含めてしのぎを削り、当会会員の研究能力と発表技術の底辺を広げています。また、2003年から学会賞と功労賞が設けられ、さらに2010年から大会行事に高校生ポスター賞が設けられています。

 故鈴木信彦さんは、不幸にして在職中に不慮の事故によって他界されました。私が九州大学在職中に、遠路長崎から九大のセミナーにいらっしゃって、お人柄に接する機会がありました。昆虫生態学の専門家としてだけでなく、動植物をはじめとする生物間相互作用の重要性に早くから注目され、学会の企画シンポジウムや特集などを先導されました。ご自身も若いころに苦労されたこともあり、常に若手を励ましていらっしゃいました。

 このたび、ご遺族から寄付を頂くことになり、鈴木さんの遺志を重んじ、頂いた浄財を活用して、学位取得後4年程度までを対象とした、宮地賞より若い世代の賞を新設することになりました。ポスター賞がその役割をある程度果たしていましたが、奨励賞は宮地賞、大島賞、学会賞と同じく、学会賞選考委員会の審議による賞です。多くの研究者にとって、最初の研究の集大成は学位論文ですから、この賞を設けることで、学位取得前後にどのような研究を行うことが重要かを、後進と社会に示すことができるでしょう。

 賞の名称については、全国委員会および大津大会総会の場でもさまざまな意見がありました。今後も寄付を頂くたびに賞を新設する訳ではないこと、伝統ある賞の呼称を寄付を頂くたびに変える訳にはいかないことは、多く会員の意思でした。寄付していただいた方のお名前は基金の名称として明記することで、ご遺族のご厚意に応えることができると思います。故人の若手を育てたいという遺志に沿う賞を作るという趣旨で、この賞の名称を「奨励賞(鈴木賞)」とさせていただきます。今後も、ご寄付を頂くことができれば、これらの顕彰活動などに活用させていただきたいと存じます。

 鈴木さんが若くして他界されたことは大変残念です。さらに研究を続け、後進を育て、分野を超えた研究の交流を指揮されたかったと思います。ご遺族だけでなく、本人も大変無念だったことでしょう。不幸なことに、道半ばにして命を落とされた有能な生態学者が、ほかにも少なからずいます。若手の優れた研究をたたえるとともに、その命も大切にしていただきたいものです。

 宮地賞や大島賞がそうだったように、奨励賞(鈴木賞)の実際の性格は、歴代の選考委員会と受賞者が決めていくことでしょう。若手の賞ということで、賞の選考方法にも今後工夫の余地があるかもしれません。賞創設に立ち会った会長として、私は、丹精こめた学位論文を大切にする賞としたいと期待しています。

 各賞の細則に重複授賞については触れていませんが、過去に宮地賞、大島賞、学会賞の重複授賞の例はありません。けれども、今回は最も伝統ある宮地賞よりも若手を対象とした賞の新設です。奨励賞受賞者が宮地賞などを重ねて授賞することもあるでしょう。よい応募者と受賞者が毎年現れることを願っています。

 賞の新設には、学会の会則29条の改訂が必要です。本来ならば総会の議を経るべきですが、大津大会の総会の場で、全国委員に一任させていただくことを了承いただきました。全国委員会で熱心に議論した結果、主たる賞を宮地賞、日本生態学会賞、大島賞、奨励賞(鈴木賞)と設置順に記述することにしました。来年の総会を待つことなく、いただいた浄財を活用して、奨励賞(鈴木賞)の公募を始めさせていただきます。

 最後に、特に日本生態学会賞の対象となりそうな年配の方々には、論文業績一覧をウェブサイトなどで公開いただくようお願いします。この賞は原則他薦であるため、選考委員会が候補者の業績を検索せねばならないことになり、大変です。学会賞選考委員会の方々の手厚い努力によって支えられた賞であることをご理解いただきたいと思います。

日本生態学会長 松田裕之

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