日本生態学会

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会長からのメッセージ -その5-

「EAFESの良いところ」

 EAFES (East Asian Federation of Ecological Societies) の第6回大会に参加しました.大会は2014年4月9日-11日に中国海南島海口市で開かれました.参加者は260名,連盟の構成学会である日本,中国,韓国,台湾の4学会の国(地域)に加え,インドネシア,シンガポール,インドからの参加もありました(写真1).日本からの参加者は31名(日本の研究機関に所属する外国人も含む),シンポ・オーガナイザーを務めるなど大会の成功に大きな役割を果たしました.また,大会実行委員会はEcological Researchの紹介に便宜をはかってくださいました(写真2).EAFES 会長の松田裕之さん,事務局長の中野伸一さん,また,ホストを務めてくださった中国生態学会の皆さんに感謝いたします.

 私自身としては,EAFES大会への参加は3回目でした.これまで,新潟大会(2006年),大津大会(2012年)にしか参加しませんでしたから,海外で開催された大会への参加は初めてです.自分の専門分野(動物の個体群生態学)の発表が少なく,自分の研究に直接役立つ情報を得るチャンスが少ないだろうと思い,これまで,EAFES大会への参加に消極的でした.

 たしかに,今回の大会でも,発表の多くは水文を中心とする環境問題や物質循環,植生に関する研究で,昆虫を含む動物に関する発表は数えるほどでした.が,EAFES大会の違った一面に今回の大会で気づくことができました.

 中国の生態学者の興味は応用問題に集中しています.来年,中国と米国の生態学会が共同で出版を始めるオンライン,オープンアクセス雑誌:"Ecosystem Health and Sustainability"の以下のスコープにその特徴が端的に表れています.

"EHS will publish articles on advances in macroecology and sustainability science, on how changes in human activities affect ecosystem conditions, and on systems approaches for applying ecological science in decision making to promote sustainable development."

 このような国のホストに基礎的な生態学の問題を大会の主要課題に据えてもらおうと期待することは虫が良すぎるでしょう.用意してもらった大会に出て,必要な情報を得ようとする「受け身」の姿勢ではなく,有意義な大会を自分で作ることによってこそEAFES大会の良さを活かせるのだと思いました.

 EAFESは大会の規模といい,運営委員会の風通しの良さといい「使い勝手のよい」組織です.例をあげましょう.今回の大会で微生物に関する "Microbial ecology in relation to soil-plant interactions" というシンポジウムが開かれました.シンポのオーガナイザーの一人茨城大学の太田寛行さんは,これまで EAFES には縁がなかったそうですが,今回は実行委員会から頼まれてシンポの企画に応じたそうです.微生物の生態学に関わる研究者は日本国内では複数の学会に分散して活動しているのが現状で,アジア地域との交流は,国内の学会の連携が十分でないこともあり,あまりに進んでいませんでした.ところが今回の大会では,日本,中国,韓国から21題の口頭発表が集まり,5シンポの中で最大サイズになりました.太田さんは中国の研究者のパワーに感心し,今後の交流の重要性を実感したそうです.

 微生物の生態学の場合は実行委員会から太田さんへの依頼という流れでしたが,逆方向の提案も難しくありません.日本の場合,事務局長の中野伸一さん(京都大学)に相談していただければ,提案はこれから韓国生態学会が組織する実行委員会に確実に届きますし,オーガナイズのパートナーとなる中国,韓国の研究者を紹介してくれるでしょう.私も,"Units for conservation and management of wildlife: theory and practice" というようなシンポを提案しようかな,と思い始めました.

 書き留めておきたいもうひとつの良かった点は,日本の会員の発表が大変立派だったことです.発表内容の質が高いことは言うまでもなく,英語そのものも他国の発表にひけをとるものではありませんでした.皆さん,自信を持って発表に臨まれていました.欧米で開かれる大会では,なかなかこのようにはいかないでしょう.私は,欧米での大会には,機関銃のように放たれる英語,米語の嵐の中で奮闘する覚悟を固めて臨みます.でも,緊張しても良いことはあまりありません.決定的な失敗をしたことはありませんが,発表が終わるまではあまり楽しめないことも事実です.英語で発表したり,議論することを特別のこととは考えずに肩の力を抜いて参加できるようになりたいものです.

 日本語を使っての会話でも聞き逃しや誤解はしばしばあるでしょう.にもかかわらずほとんどの場合は大きな問題になりません.英語での会話では「聞き逃しや誤解」が多くなるので,ちょっと困ったことも起きますが,結局は何とかなります.EAFESでは,「聞き逃しや誤解」がお互い様なので,だいぶ気が楽です.こういう機会を活かして,英語でのコミュニケーションに慣れていけば「何とかする」ことが上手になるに違いありません.EAFESは使えます.

 「お互い様」という感覚は「友情」を育むのに有効です.昼食をとりながらの非公式の運営会議も和やかでしたし,懇親会も大変盛り上がりました(中野さんの奮闘も大きかったのですが).アジアを地盤にコミュニティを拡大し,日本の生態学の存在感を世界のコミュニティで高めていきましょう.我々の研究が国際的に正当に評価されるために!(我々の研究はもっと引用されて良いと思いますよ).

【運営委員会(非公式)で確認された事項と研究発表に関する記録】
EAFES新執行部
会長:Shirong Liu (中国生態学会会長, Chinese Academy of Forestry)
事務局長:中野伸一(京都大学)
第7回EAFES大会(2016年)のホスト:韓国生態学会
次回運営委員会の開催:2015年,韓国
第6回EAFES大会発表数(合計):154
総会講演:10;口頭発表:92(基調講演9を含む);ポスター発表: 52
ポスター賞 11題 日本生態学会の会員は3名(うち2名は中国からの留学生とポスドク).

2014年4月12日 会長 齊藤 隆


写真1. 第6回EAFES大会グループ写真(2014年4月10日,寰島泰得大酒店, 中国海口市)


写真2. 受付でEcological Researchの紹介に協力してくれた施紅さん.

 
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