会長からのメッセージ -その9-
「リールにて」
英仏生態学会の合同大会に参加するためにリールに来ています.リールは北フランスのフランドル地方に位置し,冬は氷点下になることもしばしばですが,まだ雪はありません.空は低く,どんよりと曇り,晴れ間がのぞくことがありますが,毎日のように小雨に見舞われます.空をみているとミレーの絵を思い出します(ミレーの絵のモデルはパリに近いバルビゾンだそうですが).
“Global societies forum meeting” について報告します.このミーティングは,英仏米日の生態学会が呼びかけたもので,各国の生態学会の代表者が集まって,気兼ねなく意見を交換しようという会合です.会合は合同大会会期中の12月11日の昼に昼食をとりながら持たれました.会合には呼びかけた4学会の他にオーストラリア,アルゼンチン,ハンガリー,イタリア,スペイン,トルコまた,国単位の団体ではありませんが,北欧のオイコスの代表者も参加しました.
はじめに自己紹介を兼ねて各国生態学会の紹介がありました.会員数は「よくわからない」という紹介もありましたが,大きい順に並べてみましょう(会員数はいずれも概数).米国(10,000人),英国(5,000人),日本(4,000人),フランス(たぶん,500-1,000人),イタリア(600人),オーストラリア(200人),ハンガリー(100人),トルコ(90人),スペイン(不明),アルゼンチン(不明).また,学会が出版している雑誌は,米国,英国の充実したラインアップの紹介は省きますが,フランスは英文誌1,オーストラリアが2誌となり,個体群生態学会の Population Ecology を含め,英文誌2誌,和文誌2誌の合計4誌を出版している日本の生態学の地力は,国際的にみてトップクラスといってよいと思います(ドイツと北欧も大変立派な活動をしていることを忘れていけませんが).
ざっくばらんな話し合いの中で,自他共に認めるリーダーである英米学会がどちらも経済的な問題を抱えていることが非常に印象に残りました.米国は,収入の基盤である図書館による雑誌の購入が減っており,大手出版社への移行を真剣に検討しているそうです.また,たくさんの雑誌を Wiley-Backwell から出版している英国は,出版事業で多くの収入を得ているそうですが,十分ではなく,大会参加者数の増加に取り組んでいます.どちらの学会も政府からの援助はなく,真剣に経営努力をしています.日本は Ecological Research の国際情報発信強化や公開講演会の研究成果促進事業を通して政府のサポートを受けています.しかし,政府の科学政策は米国をモデルとしはじめていますので,このサポートがいつまで続くかわかりません.米国,英国をビジネスモデルとして学会の経営方法を勉強し始める必要がありそうです.
大まかにいうと,米国,英国生態学会の主な収入源は雑誌販売と大会参加費で,米国は雑誌購入先の減少で悩み,英国は大会収入の伸び悩みに苦しんでいます.これが,今回の英仏合同大会の背景にありそうです.一言で言うなら,英米ともに国内の状況が成熟したため,次の展開を模索しているようなのです.英国側から見ると合同大会開催理由は大変わかりやすいと思います.ここ数年の英国生態学会の大会参加者数はほぼ800名で安定し,どこか「マンネリ感」があったようです.Gala dinner (懇親会)でテーブルがいっしょだった Oxford University の編集者は,「ここ十年以上英国の大会に出てきたが,今回の大会が一番エキサイティングだ」と言っていました.合同大会の参加者は1200名くらいなので,英国生態学会の収入増に大きく貢献したとは思えませんが,大会の魅力は十分にアピールできたと思います.Gala dinnerの最後を飾るダンスパーティはいつ終わるかわからない盛り上がりでした(私は夜11時ごろに引き上げました).今後の参加者増につながるかもしれません.
フランス側からも合同大会は魅力的だったと思います.まず,仏生態学会の50周年記念事業としてふさわしい企画でした.また,力量でまさる英国学会から大会の運営方法など多くを学んだことでしょう.米国にとっては国際展開の橋頭堡を築いたといえそうです.合同大会は,“Global societies forum meeting”を開催するのによいきっかけでした.また,ミーティングの雰囲気も良く,何かを決めたわけではありませんが,各学会それぞれの事情を理解することの意義は十分に伝わりました.日本生態学会にとって,今回集まったメンバーの状況は,われわれの過去であり,未来であるように思えました.我々の今後を探る意味で大変勉強になる会合でした.次のミーティングは来年の米国生態学会100周年記念大会で開かれます.
大会の印象については別に報告します.
2014年12月12日 会長 齊藤 隆