会長からのメッセージ -その5-
「Ecological Research 誌へのオープンアクセス出版支援について」
誰でも自由に科学情報にアクセスして利用できるオープン化の時代が到来しています。今年5月に開催されるG7の科学技術大臣会合でも、オープンサイエンスに向けた国際連携が議題の一つになっています。
科学論文のオープンアクセス(OA)化には、だれでもアクセスして利用できること以外にも、様々な利点があります。まず、大学図書館や研究機関は論文購読料を出版社に支払っていますが、これらの掲載論文をOAとして出版すれば購読料が不要になり、出版のための編集料(APC)との差し引きで機関等の負担総額は軽減されます。また、OA論文はそうでない論文に比べ、他の論文に引用される回数が8割増しになり、SNSやマスメディアで注目される回数は3倍以上になるという統計があります。これは著者側の利点になりますが、機関購読が出来ない環境にいる科学者や、一般市民の知る権利を保障するという点からも重要です。研究費の多くが税金を使った公的資金で賄われていることからすれば、ある意味当然ともいえます。学術成果が狭い世界だけで流通し、評価されるという従来の閉ざされた世界からの脱却に大きく貢献するはずです。
ただ、論文をOA化するにはAPCが必要です。大型の外部資金を獲得している恵まれた研究者はともかく、そうでない多くの研究者にとって、OA論文を出版するには相当なハードルがあるのも事実です。そうした現状を受け、海外では様々な資金援助の仕組みが整いつつあります。日本では、まだ国の補助の仕組みが整っているとはいい難い状況ですが、2022年から東北大学、東京工業大学、総合研究大学院大学、東京理科大学の4大学は、Wiley社とオープンアクセスの促進に向けた転換契約を結びました。この契約により各大学は、Wiley社が出版する雑誌の論文を自由に読めるようになるとともに、研究者はOA出版費用の全額もしくは一部補助をうけられるようになりました。2023年からは東大や京大など18大学も転換契約を結び、その流れは広がりを見せています。費用補助の金額や条件は大学や機関によって様々ですが、OA化への壁が多少なりとも低くなったのは確かでしょう。
日本生態学会でも、Ecological Research誌(ER)を国際的に開かれた雑誌にするためには、OA化をより一層促進することが必要と考えています。これまで、受賞論文や特集号に対して学会からOA化補助を行ってきましたが、すべての論文をOA化することは、現時点では財政的に不可能です。いっぽう、大学や研究機関で進めている転換契約のみに頼っていては、OA化の促進には限界があります。転換契約を結んでいない機関に所属する研究者にも、OA化の門戸を広げていく必要があります。そこで当学会では、2023年度より、筆頭著者もしくは責任著者が生態学会員であるER論文について、著者負担が18万円でOA出版できる制度をつくりました。
18万円の負担は決して小さくありませんが、OA専門誌であるEcology and EvolutionやScientific Reportsなど、APCが比較的安い雑誌でも、今では30万円近い負担が必要であることを考えると格安です。この制度は少なくとも数年間は継続し、学会員のOA補助のニーズや国内外の動向も見極めながら、その後の対応について考えていくことになります。
どんなにいい制度があっても、その存在を知ってもらい、多くの人に利用してもらわないことにはプラスの効果を発揮することはできません。会員の皆さんにはこれを機会に、ぜひER誌でのOA出版をご検討していただければ幸いです。
2023年3月29日 会長 宮下 直