会長からのメッセージ -その7-
「生物季節観測の継続について」
6月20日付で新型コロナ感染症に関する緊急事態宣言が沖縄県を除いて解除されましたが、東京オリンピックを控えていることもあり、いまだ感染症拡大について予断を許さないところがあります。会員のみなさまには研究や教育でたいへんご苦労されていることと推察いたします。またご自身あるいはご家族が感染して辛い思いをされた方もいらっしゃるかもしれません。まずは日本生態学会を代表して、すべてのみなさまにお見舞いを申し上げます。
昨年12月25日の会長メッセージで『気象庁による生物季節観測の変更の見直しを求める要望書』についてお知らせいたしましたが、その後のフォローアップができていなくて、誠に申し訳ありません。
新聞報道などですでにご存知の会員のみなさまも多いでしょうが、関係者のご尽力の結果、今年3月末、気象庁と環境省はこれまでの約70年にわたる観測データを生かしながら、今回の変更で対象外になった動植物についても試行的に観測をおこなっていくことを発表しました。新たに生き物の生息環境の変化や、気候変動による生態系への影響を把握することも目的に加えられ、このような専門性の高い調査に関しては国立環境研究所が担っていくことも決まりました。このことは生物季節観測の目的そのものが、気象庁が観測当初に目論んでいた気象の進み遅れを把握するよりも、むしろ環境省の職掌である身近な自然環境のモニタリングに名実ともにシフトしたことを意味しており、日本生態学会では歓迎すべきことだと考えています。
また生物季節観測が生き物を通じて四季を感じる文化的な役割を持つことを再確認し、学校教育あるいは市民科学として発展させることにもご配慮をいただきました。まず自然保護団体などに協力を求め、対象の種目を少しずつ広げながら一般市民への協力を呼びかけていく予定だと聞いております。こうして得られた情報は、環境省・生物多様性センターが運営するデータベース「いきものログ」に蓄積することで、わたしたちが求めていた国の機関によるデータの集約という提案も併せて実現されることになりそうです。
この日本が世界に誇るべき生物季節観測の継続に関して、昨年度末の要望書の取りまとめから、その後の気象庁・環境省・国立環境研究所の連携確立にご尽力くださった会員のみなさま、および関連学会のみなさまに改めて御礼を申し上げます。
なお国立環境研究所では、過去の記録との比較研究に利用できる水準のデータを、さまざまな機関・個人と連携して取得する仕組みを検討する取り組みをスタートさせ、以下のサイトで協力者の募集を開始いたしました。生態学会の研究者や関連団体にもご参加いただきたいとのことで、会員みなさまに周知させていただきます。
2021年6月21日 日本生態学会会長 湯本貴和