日本生態学会

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会長からのメッセージ -その7-

EAFES大会の印象など

 東アジア生態学連合(EAFES)の大会は、7月17日~20日に韓国の済州島で開催されました。EAFES大会は2年ごとに日本、中国、韓国の持ち回りで開催され、2004年の初回から数えて今回が10回目の大会になりました。通常の国際会議よりはアットホームな雰囲気ですが、国内大会では知りえない話題や人々と接することができる大変貴重な機会です。

 パンデミックにより学会大会が軒並みオンラインで開催されてきたなか、対面の国際大会が開かれたことの意義は大きかったと思います。参加者は800人にも及び、過去最大となりました。前回の名古屋大会が約300人だったことを考えると、この人数は驚きでした。このうち600人以上が韓国の参加者であったことからすると、韓国の生態学会が総力を挙げて参加を促したようです(韓国生態学会の会員は約800人らしい)。日本からも90人ほどが参加しました。また、東アジアだけでなく、タイやインド、ニュージーランドからの参加もあり、程よい広がりを感じました。

 まず最も印象に残ったのは、若手の参加者が圧倒的に多かったことです。日本の参加者も多くが学生やポスドクだったように思います。若い人たちが如何に対面の大会参加を望んでいたかが窺えました。隣国で旅費が安かったことや、英語を母国語としない者同士がbroken Englishで会話できるという気軽さも手伝っていたかもしれません。ただ、国をまたいだ若手同士が議論している様子をあまり見かけなかったことはやや残念でした。

 東アジアは共通のバイオームをもつため、生態学的にも共通課題が多いことを改めて認識できました。私は初日のプレナリーで東アジア視点からの景観構造と生物多様性や生態系サービスの話をしました。初日の早朝にもかかわらず、立ち見が出るほど大勢の方に聞いていただきました。個別のセッションやシンポジウムでは、行動生態や保全関連の発表を主に聞きましたが、哺乳類、鳥類、両生類、昆虫など、共通ないしは近縁の種を対象にした話題が多く、いくつか質問をさせていただきました。また近隣国で共通して生息する生物が置かれた状況が大きく異なっていることに大変興味を惹かれました。例えば、カワウソは日本では残念ながら絶滅しましたが、韓国では水質の改善により急増し、ロードキルが問題になっていることは驚きでした。経済成長や技術革新のタイミングの違いが、絶滅と急増の分岐点になったのでしょう。一般に歴史は一回生起で因果推論は困難と言われますが、気候やバイオームが似通った隣国の歴史を比較することで、ある種の法則性や教訓を得られるという歴史学者の主張を再認識できました。

 次回は2025年に日本で開催されます。先日の生態学会の理事会で、東京が会場になることが承認されました。開催時期は今回と同じく7月中旬になる見込みです。EAFESはあまり収穫がないと思っている会員もいるでしょうが、比較的コンパクトでありながら広範囲の話題を聞けるメリットは大きく、他の大会では得られない様々な気づきが得られます。むろん、共同研究への発展もありうるでしょう。開催期間も数日ですので、多くの方が気軽に参加していただければ幸いです。

2023年8月2日  会長 宮下 直

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