日本生態学会

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会長からのメッセージ -その10-

会長退任にあたって

 3月18日に横浜の関内ホールで開かれた生態学会の定時総会の終了をもって、2年間の会長任期を無事終えることができました。この間、執行部や理事、各種委員会の方々をはじめ、会員の皆様から多大なるご協力とご支援をいただきました。また、事務局の鈴木晶子さんには、あらゆる面でお世話になりました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

 私の会長任期は、地震に始まり地震に終わったと言っても過言ではありません。2年前の総会で私が会長に就任したその夜に、東北地方を震源とする大きな地震がありました。すぐに大会の危機管理委員会の主要メンバーと連絡を取り、翌早朝に大会継続の最終判断を行いました。そして今年の大会最終日である3月21日の朝には、ふたたび関東中部を震源とするやや強めの地震が発生したのです。私はすでに3日前の総会で会長を退任していましたが、危機管理委員会の責任者としての役割は継続していたため、新会長や執行部、大会実行委員会と連絡を取り、会場の様子を確認しました。今回も事なきを得てほっとしました。

 さて、私は任期中、アジェンダの改定、ダイバーシティ推進宣言の設立、Ecological ResearchのOA出版費用の補助、男女共同参画学協会連絡会の幹事会の担当、大会のハイブリッド開催、などに取り組みました。アジェンダとダイバーシティ推進宣言については、前回の会長メッセージで詳細を記しましたが、今回の総会で正式に認められ、まもなく学会HPに掲載されます。今後は具体的な取り組みに生かされることを祈念します。

 学会からのOA出版補助については、国際的なオープンサイエンスの潮流に対応するための措置で、Ecological Researchの被引用回数や格付けを高める狙いがあります。具体的には、著者負担が1編当たり18万円で、残りの金額を学会が負担する仕組みです。昨今の円高により、学会からの支援は相当な金額になりますが、生態学会は余剰金が蓄積されてきたため、数年間は財政的に大きな問題はありません。むしろ、余剰金の最も有効な使い道であると判断しました。2023年度のOA出版補助の申請は、予算の上限に届くほどの件数はありませんでしたが、転換契約を結んでいない機関に所属する方からは感謝されました。来年度も引き続き支援を継続しますので、是非ご活用ください。

 大会のハイブリッド開催については、学会として初めての取り組みでした。大会後半では2019年以来の対面開催が実現し、活気に満ちた大会となりました。やはり大会の醍醐味は会場に集って様々な人たちと会話し、互いに刺激し合うことにあると改めて実感しました。ハイブリッド大会は、オンラインと対面の双方の利点を享受できる素晴らしい仕組みですが、実質的に2つの大会を同時開催するほどの業務量と資金が必要です。とくに大会実行委員会や大会企画委員の負担は大きく、1年以上にわたる事前準備から当日の運営に至るまでの時間的制約や精神的負担は、計り知れないものがあります。今後は対面を基本とし、録画配信など必要最小限なオンライン要素を残すことが現実的ではないかと思います。

 新型コロナウイルスのパンデミックも終息に近づき、日常生活もコロナ前の状態にほぼ戻りました。この間、私たちは様々な困難に直面し、様々な教訓を得ました。野外や海外での活動は一時的に停滞しましたが、それを乗り越え、生態学も新たな発展を見せています。地域から地球規模まで、様々な問題が山積するなかで、生態学が課題解決に果たすべき役割はますます大きくなっていくことでしょう。ポストコロナ時代の新たな学会の在り方を、北島会長以下、学会員の皆さんで力を合わせて考えていただけるものと確信しています。

2024年3月29日  会長 宮下 直

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