• English
  • みんなのジュニア生態学講座

    幸せな研究生活を送るために / 桜井 良 (立命館大学政策科学部)

     私の専門は社会科学で、普段は人の意識や行動について研究をしています。生態学会になぜ社会科学の研究者がいるのか?生物多様性を守るためには様々な分野の関係者が連携する必要があります。生物多様性の損失や生態系の破壊が多くの場合、人間や人間の経済活動によって引き起こされているとするならば、自然環境の保全のためには生物や生態系そのものの研究とともに、人間や人間社会に関する研究も必要になってくるでしょう。生態学を中心としながら様々な研究者や関係者が集う日本生態学会は、問題解決や新しい価値の創出を目指し異分野の人が協働する「学会」の本来のあるべき姿を体現していると思います。

     さて、ちょっと堅苦しい話を最初に書きましたが、私自身のことを正直に話すと、私はただ自分の関心や直感をもとに研究をしてきたにすぎません。しかしどの学術分野においても、自分の関心や直感を信じ、人との出会いを大切にしながら自身がやるべき研究をすることが、「研究者」に求められる姿勢なのかもしれません。生態学会の大会期間中は素晴らしい研究発表が連日されていますので、研究とはどのようなものなのか皆さんにとって多くのヒントが得られると思います。そこで私はあえて他の方が話していないようなテーマ「どうすれば幸せな研究生活が歩めるのか」についてお話ししたいと思います。

     昨今、持続可能な社会を作ることの重要性がますます叫ばれるようになってきましたが、まずはそこに生きる人々が持続可能な生活・ライフスタイルを送っている必要があります。研究者に置き換えて話すと、無理をして調査をしたり、ストレスを抱えながら研究をしているようでは、長続きしないかもしれませんし、その人の研究生活そのものが持続可能ではなくなってしまいます。研究はいろいろな人と進めていくものなので、どのような人間関係を築いていったらよいかも大事なテーマになるはずです。皆さんにとって少しでも何かのお役に立てるような、そしてご自身の将来やキャリアについて前向きに考えられるようなお話しができればと思います。

    土の中の生き物の法則 / 藤井 さおり(森林総合研究所)

    私は、土壌動物(土の中のむし)を対象に、群集の分布を決める要因や生態系の中での役割について調べています。もとから植物や昆虫は好きでしたが、脚の多い生き物や長い生き物は苦手で、自分が土壌動物の研究を仕事にしていることをつくづく不思議に思います。私が生態学という学問分野を認識したのは、森林科学(林学)を専攻していた学部在学中でした。高校生の時に、幼少期より取り組んできた音楽家への道に限界を感じた私は、せめてなにか世のためになることをできればと考え、森林伐採や砂漠化などの環境問題、貧困や紛争などの国際問題に取り組める分野を探しました。その足掛かりとして大学で林学を学び始めたわけですが、科学というよりかは実学に近い林学関連の科目を履修する中で、生き物の分布や振る舞いを論理的に説明することを目的とする生態学に魅了されました。“世のため”にどうしても含まれる二面性や矛盾に疲れてしまっていたのもあって、目的が純粋な生態学の世界に安心したのも一因だと思います。そうして生態学の本を読み漁っていた頃、見たことのない独特なロジックで生態系を説明する授業をしてくれた先生が土壌動物の研究者でした。そこで、その先生のもとで、修士課程に進んだのが土壌動物との付き合いの始まりです。そこから今に至るまでは、少々の紆余曲折はあっても土壌動物のことばかり考えています。好きになったから続けているというよりは、生物の分布や振る舞いの理由が知りたくて生態学を始めたのに、土の中はまるでカオスで、これといった法則がなかなか見えてこない、一般的な理論で説明がつかないという状況からやめられずにいるという側面が強いかもしれません。それでも、ある程度続けてきたから分かってきたこと、得た境地というものに最近満足を覚えています。この講演では、その少しずつ見えてきた法則を中心に、土の中の生態学の魅力をお伝えできればと思います。

    湖沼堆積物で遡る、湖沼生態系・ミジンコ群集・個体群の歴史 / 大竹裕里恵 (兵庫県立大学大学院情報科学研究科)

     “ミジンコって可愛い”。私が科学や生態学に入り込むことになった大元のきっかけは、こんなありふれた感覚でした。変わった身体の形、どこか愛嬌を感じる顔の形や表情になんとなく心惹かれたのを覚えています。自由研究で近所の印旛沼のプランクトンを観察した際には、ミジンコの泳ぎや採餌に加え、掬ったわずかな水の中でのプランクトンの多様性に感動しました。その後、花里孝幸先生の「ミジンコはすごい!」という本に出会い、ミジンコの外見のみでなく、小さな生物が見せる多様でユニークな捕食防御戦略など、その生き様の面白さの虜になったのでした。

    生態学を学べるという点から選んだ進学先の東邦大学では、分子から進化生態まで、対象生物も酵母から植物、脊椎動物までと、生物学を体系的に、且つ多様な分野を網羅して学ぶことができました。その中でも、特に私が強く心を動かされたのは、幼少期から親しんだミジンコと湖沼生態系でした。かつて興味を持ったミジンコのユニークな戦略の発達が、生態学・進化学の視点で説明できることに感銘を受けました。勿論、幅広く生物学を学んだ経験が、生態学の面白さの理解にも役立っていると思います。

     現在は、特に、湖沼堆積物の中に丈夫な休眠卵が残り、これの遺伝分析や孵化ができるといったミジンコの特徴を活かして、ミジンコ個体群の数や特徴の変化や、これらと湖沼環境の変化の関係について、過去に遡って現在までの時間変化を再現する分析を行っています。今回は、この過去復元研究を中心にこれまで取り組んできたプランクトン・湖沼生態系の研究の紹介を通し、これらの面白さとプランクトンの愛らしさの一端をお伝え出来ればと思います。