会長からのメッセージ -その16-
「米国生態学会100周年」
米国生態学会が100周年を迎えました.今(2015年8月),ボルティモアの巨大なコンベンションセンターを会場に約5,000名の参加者を集めて,盛大な年次大会を開いています.
まず,“Global societies forum meeting” について報告しましょう.このミーティングは,英仏米日の生態学会の呼びかけをきっかけに始まったもので,第1回は英仏生態学会合同大会のリールで,昨年12月11日に昼食をとりながら開かれました.今回は2回目です.各国の生態学会の代表者が集まって,気兼ねなく意見を交換しようという会合です.今回は夕食を取りながらの会合で,前回よりもより一層なごやかな雰囲気に包まれていました(写真).参加者は,会合を呼びかけた4学会の他にアルゼンチン,イタリア,北欧のオイコスが連続参加,その他の参加者は下のリストを見てください.
はじめに自己紹介を兼ねて各国生態学会の紹介がありましたが,これは前回の報告と重なるので省略しますが,米国生態学会(esa)の David Inoue 会長の挨拶だけは紹介しましょう.100周年大会の規模は過去最大で,会長はちょっと誇らしげに見えました.esa 大会の直前まで,同じコンベンションセンターでアニメ主人公にちなんだ催しがあり,ヒーロー,ヒロインのコスプレを楽しむ参加者が街にあふれていました.その数は8,000人,esa の参加者を凌駕しており,その催しを紹介しながら,David 会長は悔しそうな表情を作り,笑いを誘っていました.皆で,共有した最初の話題は,大会2日目に紹介されたオバマ大統領のビデオメッセージでした.100周年を祝う祝辞が数分間流れました(正確には1分40秒,以下のサイトで見ることができます: http://esa.org/baltimore/ ).大統領が生態学を認知したことはちょっとした事件だと思います.生態学は「開発」や「経済成長」とは相性が悪いので,経済成長が国是である米国の大統領が生態学を認知し,期待したことは,新しい時代の到来を告げているように感じました.また,市場経済主義の行き詰まりを示しているとも感じました.いずれにしても,象徴的な出来事でした.
大統領のビデオメッセージ自体も驚きですが,それを可能にした esa の政治力にも驚きました.David 会長によれば,ワシントンに強いコネクションがある会員の努力の賜だということですが,それを築いてきた努力はちょっと想像ができません.esa の影響力のある会員は,政治課題に助言する用意があることを示した名刺をたくさん政治家に配っているのだそうです.組織的なロビー活動があたりまえの米国ならでは行動だといえるでしょうが,手本とすべきなのか,距離を置くべきなのか,私の立ち位置は定まりません.
前回の会合とはおおいに異なった点が1つあります.それは,フランス生態学会からの提案で COP21 と欧州連合に対して,「署名した各国生態学会は近年の生物多様性の減少を憂慮していること」,「COP21(あるいは欧州連合)は必要な大胆な措置に直ちに着手すること」を趣旨とした声明を発表しようというものです.各国の代表者は迅速に母国と連絡をとりあい,つぎつぎに賛同を表明しました.日本生態学会もメイルで理事会に諮り,2日後には全理事の支持を得ることができました(理事の皆さん,急なお願いに対応いただき,ありがとうございました).
“Global societies forum meeting”は親睦会のようなものですから,声明を発するような「形に残る活動」は初めてのことです.今後,親睦会から明確な目的をもつ連合体に姿を変えていく第一歩かもしれません.日本生態学会も国際的にどのような活動をするのかについて議論を始める時期に来ています.
オイコスからの報告も印象に残りました.北欧では各国生態学会(学会ではなく,グループのような集まりかもしれません)の他にノルウェー,スウェーデン,デンマーク,フィンランドの4カ国が集まってオイコスを作っています.北欧では,オイコスと各国グループがそれぞれ2年1度集会を開いているそうですが,オイコスの集会は質量ともにとても満足がいかない,と担当者が率直に紹介してくれました.これに対して,「オイコスは雑誌としては成功しているのだから,大会で優秀な発表に賞を出し,それを招待論文として雑誌に掲載してはどうか」,というアイディアがすぐに寄せられました.しかし,オイコスはすでにそのような取り組みをしているのだが,雑誌に掲載できるような優れた発表がないそうです.具体的な解決策にはつながりませんでしたが,素直に問題点を紹介し,それに親身に答えるという大変良い雰囲気が流れました.
私も,もっと多くの日本の若い研究者が米国,英国などの学会で発表してもらいたいと思っている.彼らをエンカレッジする良い知恵はないか,と訴えてみました.皆それは大切なことだと相槌を打ってくれましたが,これも具体策にはつながりませんでした.
このように“Global societies forum meeting”に具体的な何かを求めることは,まだ難しいのですが,各国の代表者が互いの立場を尊重し,経験に富む学会が比較的若い学会の問題を親身になって助言するようなことは続くように思います.一方で,声明などの具体的な行動が今後どのように位置づけられていくのか私には見通せません.日本生態学会が“Global societies forum meeting”に何を求めるのかを明確にし,“forum meeting”をリードしていくことは可能です.日本生態学会の発展の芽がそこにあるようにも感じました.
大会の印象については別に報告します.
2015年8月13日 会長 齊藤 隆
“Global societies forum meeting” (Baltimore, August 10, 2015)参加者リスト
Ecological Society of America
David Inouye, President
Monica Turner, President-elect
Katherine McCarter, Executive Director
Jacoby Carter, Chair, International Affairs Section
British Ecological Society
Bill Sutherland, Council President
Hazel Norman, Executive Director
Canadian Society for Ecology & Evolution
Mark Vellend, on behalf of President Judy Myers
French Ecological Society (Société Française d'Ecologie )
Jean-Louis Martin, President
Ecological Society of Japan
Takashi Saitoh, President
Ecological Society of Mexico (Sociedad Científica Mexicana de Ecología)
Miguel Martínez-Ramos, President represented by Erik de la Barrera
Italian Society of Ecology (Società Italiana di Ecologia)
Alberto Basset, President
Ecological Society of Australia
Mike Bull, Managing Editor - Austral Ecology
New Zealand Ecological Society
Chris Bycroft, President
Nordic Society Oikos
Åsa Langefors, Managing Editor of Oikos
Ecological Society of Argentina (Asociación Argentina de Ecología)
Laura Yahdjian, member of the Board
Ecological Society of Mongolia
Bazartseren Boldgiv
Israel Union of Ecology and Environmental Science
Daniel Orenstein, Board member
Ecological Society of Germany, Austria, and Switzerland (GfÖ)
Stefan Klotz
European Ecological Federation
Stefan Klotz
INTECOL
Shona Myers, President