会長からのメッセージ -その5-
「学生会費の値下げ」と国際的な学会に向けて
日本生態学会学生会員の経済的負担を少しでも軽減するため学生会費を現行の6500円から2000円減額することを理事会で検討し、8月に開催された臨時代議員総会(メール会議)で承認していただきました。2019年より、学生会費(及びそれに準じている所得の低い若手会員)は4500円になります。一般会員の会費は従来どおりです。
学会にとって学問の発展は副次的なもので、会員の研究発表と議論の場を提供することこそ、学会の存在理由です。会員が多く集うことで研究は盛り上がり、知的好奇心の地平は広がります。今までにない手法や新しい視点は、殆どの場合、若い会員から発信され広がっていきます。それが刺激や呼び水となって新たな研究がさらに産まれるとすれば、それこそ学問の発展でしょう。学生会員は学問発展の源泉に他なりません。会長就任の際、「生態学会は若い研究者のためにある」と述べました。 学生及び所得の低い若い会員の経済的負担を少しでも減らせたことは、生態学会の伝統を具現化することになるので、たいへん嬉しく思っています。
学生会費が軽減できた経緯についてお話したいと思います。2017年3月の東京大会代議員総会で「正会員の会費は一般が現行の平均水準を超えない額とし、学生は一般の半額程度とする」という方針が承認されました。また、2018年3月の札幌大会代議員総会では「学会財政改革においては、学生会員の値下げを最優先する」という方針が承認されました。これらはあくまでも方針で、学会財政が安定しなければ絵空事にしかすぎません。実は、このような方針が採択されてきた背景は、会費値上げが必須になった場合、学生会員に負担をかけない方策を取りやすくするためでした。ここ数年、生態学会では将来的な赤字が懸念されており、私が会長に就任した際にまずすべきことは「赤字可能性を低減する」ことだと覚悟していました。
ところが、可知前会長の英断、代議員各位の熱意、さらに関係する理事や幹事、特に久米出版担当理事や仲岡EcoRes編集長の尽力により、今年から5年間の研究成果公開に関わる科研費が採択され、Wiley社との英文誌合同出版契約にあたって出版支出の大幅な減額に成功しました。その結果、財政について一息つくことが出来ました。私にとっては、将来を遮っていた高い壁が幻であったかのように消え、いきなり地平が広がりました。前向きに学会を運営して行く基盤が出来た!というのが実感です。具体的には、これまでと同様の会費収入があれば、少なくとも向こう5年間は黒字となる見通しです。この黒字分は、広報やアウトリーチ、保全誌の即時公開など、学会活動の充実と会員サービスのさらなる向上に役立てたいと理事や各種専門委員会と検討しています。ですが、何よりもまず「学生会員の値下げを最優先する」方針に従って学生会費を減額することにしました。
ここまで読んで、科研費がなくなる5年後はどうなるの?と疑問をもつ会員も多いと思います。実は、その答えは「会長からのメッセージ −その3−」 ですでに述べています。これまで会費収入の多くは雑誌出版費用として支出して来ました。しかし、5年後に英文誌出版に際してさらに有利な契約をすることができれば科研費の助成がなくても財政的に安定した学会運営が可能となります。私達会員が研究を通じて直接・間接的に我が英文誌をアピールすれば、国際的にも肩を並べる学会(研究発表と議論の場)になり、会員であることのメリットはさらに増すはずです。大会での日本語バリアフリー はその布石ですし、今回の学生会費値下げも、国際的にも肩を並べる学会という目標への道標と私は考えています。
会費の支出や学会の運営について、良いアイデアやご意見があれば、私に、あるいは身近な代議員や理事にお声がけください。また、大会時の総会にも是非足をお運びください。学生会員や若手研究者からのご意見は特に歓迎です。これまでもそうであったように、これからも学生や若手研究者の活躍できる学会であるよう、会員みなさまの声を学会運営に活かしたいと思っています。
2018年8月30日 会長 占部城太郎