2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 企画シンポジウム L03

8 月 28 日 (土) シンポジウム概要
  • L3-1: 国際共同研究による千島列島フロラの特性研究 (高橋)
  • L3-2: 北海道_から_カムチャツカの植生分布とその成因 (沖津)
  • L3-3: カムチャツカにおける植生動態と環境変動 (原)
  • L3-4: 北方四島の海洋生態系 _から_北方四島調査の概要と課題_から_ (絨钃?筝??)
  • L3-5: オホーツク海の環境変動と生物生産 (中塚)

09:30-12:30

L3-1: 国際共同研究による千島列島フロラの特性研究

*高橋 英樹1
1北海道大学総合博物館

1994年から2000年にかけて、米・露・日の生物分類学者が毎年30名以上参加して、国際千島列島調査International Kuril Island Projectが行われた。このうち4回の調査に参加することができ、千島列島における維管束植物フロラの概要を把握することができた(高橋 1996, 2002)。この国際調査の概要について紹介する。昆虫、貝類、植物の生物地理学的なまとめはPietsch et al. (2003)でおこなわれ、これまで生物分布境界線として択捉島とウルップ島の間に引かれていた「宮部線」よりも、ウルップ島とシムシル島の間のブッソル海峡(以下、「ブッソル線」と仮称する)に北方系と南方系とを分かつ重要な生物地理学的境界がある事が明らかにされた。「宮部線」は植生学的な境界線であり、「ブッソル線」は分類地理学的な境界線と解釈されているが、両者の違いと意義について解説する。
千島列島とその周辺での種内レベルの地理的分化の例として、エゾコザクラ(Fujii et al. 1999)とシオガマギク(Fujii 2003)の葉緑体DNA研究を取上げる。エゾコザクラにおいては氷河期を通して、数回の南北移動があったことを示唆する。またシオガマギクでは千島とサハリンとの二つのルートを移動した個体群間には遺伝的な分化があることが示されている。さらにエゾコザクラの花の多型性の頻度分布は、大陸に近い島と、列島中部で孤立した島とで差異が認められ、生態学的な意味があると推測される。
 戦前に採集されたサハリン・千島の標本をも有効に利・活用しながら採集標本のDB化作業をおこなっている。サハリン_-_千島列島間での現存個体数を比較するための間接的で簡便な指標としてS-K indexを考案した。裸子植物、ツツジ科、シダ類等の植物群の植物地理学的な考察をこのS-K indexを使って試みる。


09:30-12:30

L3-2: 北海道_から_カムチャツカの植生分布とその成因

*沖津 進1
1千葉大学園芸学部

北東アジアの北方林域を対象に,主として沿岸から海洋域にかけての森林分布を整理し,優占樹種の生態的性質の変化に着目して森林の境界を類型化した後,それぞれの森林境界決定機構を考察,展望した.北東アジア北方林域における森林分布は複雑で多様である.内陸域ではグイマツが広い面積にわたって優占する.沿岸域では,南部ではチョウセンゴヨウが優占するが,北にむかうとエゾマツの分布量が増加し,さらに北ではグイマツ林に移行する.海洋域では落葉広葉樹優占林が広がり,サハリンではエゾマツ優占林となる.エゾマツ優占林は山岳中腹斜面に分断,点在し,低地では分布が少ない.さらに海洋度が著しいカムチャツカ半島ではダケカンバ林が分布する.陽樹が広範囲にわたって植生帯の主要構成種となっていることが特徴である.大陸部でのグイマツ,カムチャツカ半島におけるダケカンバ,沿海地方におけるチョウセンゴヨウがその例である.そのなかでも,グイマツ優占林の広がりが大きい.森林境界は主なもので6タイプあり(モンゴリナラ_-_エゾマツ,チョウセンゴヨウ_-_エゾマツ,エゾマツ_-_グイマツ,チョウセンゴヨウ_-_グイマツ,エゾマツ_-_ダケカンバ,ダケカンバ_-_グイマツ),境界構成優占樹種の生態的性質はそれぞれ異なった変化をみせる.北東アジア北方林域では,大陸度_-_海洋度の傾度が著しく,永久凍土が沿岸域近くにまで分布し,さらに,沿岸,海洋域では山岳地形が卓越する,という自然環境が複合的に作用して,陽樹,特にグイマツ優占林の広がりが大きい森林分布が成立すると推察される.いっぽう,ヨーロッパや北米大陸東部の北方林域では普通な,落葉広葉樹林_-_常緑針葉樹林という移り変わりは,冬季に比較的温暖かつ湿潤な地域に限られるため,それが現れる分布域は広くないのであろう.


09:30-12:30

L3-3: カムチャツカにおける植生動態と環境変動

*原 登志彦1
1北海道大学 低温科学研究所

ロシア・カムチャツカの西側に位置するオホーツク海は、北半球で最も低緯度の季節海氷域として知られている。そのカムチャツカの氷河やオホーツク海において気候変化の影響が近年徐々に現れており、いくつかの例をまず紹介する。そのような地球規模での環境変化に最も大きな影響を受けるのは北方林であろうといわれているが、その詳しいメカニズムはまだ解明されていない。そこで、我々は、カムチャツカにおける北方林の成立・維持機構や植生動態を北方林樹木の環境応答の観点から解明することを目指し研究を行っている。北方林が存在する寒冷圏は、低温と乾燥を特徴としており、我々はそのような環境条件下で増幅されると予想される光ストレスに注目して研究を進めている。例えば、成木の枯死によって形成される森林のギャップに実生が定着し森林更新が起こること(ギャップ更新)が熱帯や温帯ではよく知られているが、カムチャツカの北方林ではギャップ更新ではなく、成木の樹冠下に実生が定着し森林更新が起こること(樹冠下更新)を我々は発見した(日本生態学会大会1999年、2000年;Plant Ecology 2003年)。このような北方林の更新メカニズムに光ストレスがどのように関与しているのか、そして、近年の環境変動が北方林の動態に及ぼすと予想される影響などについて話を進めたい。


09:30-12:30

L3-4: 北方四島の海洋生態系 _から_北方四島調査の概要と課題_から_

*絨钃?筝??1
1学術振興会・特別研究員

北方四島および周辺海域は第2次世界大戦後、日露間で領土問題の係争地域であったため、約半世紀にわたって研究者すら立ち入れない場所であった。査証(ビザ)なしで日露両国民がお互いを訪問する「ビザなし交流」の門戸が、1998年より各種専門家にも開かれたため、長年の課題であった調査が可能になった。
1999年から2003年の5年間に6回、北方四島の陸海の生態系について、「ビザなし専門家交流」の枠を用いて調査を行ってきた。その結果、択捉島では戦前に絶滅に瀕したラッコは個体数を回復しており、生態系の頂点に位置するシャチが生息し、中型マッコウクジラの索餌海域、ザトウクジラの北上ルートになっていること、また南半球で繁殖するミズナギドリ類の餌場としても重要であることも分かってきた。歯舞群島・色丹島では3,000頭以上のアザラシが生息し、北海道では激減したエトピリカ・ウミガラス等の沿岸性海鳥が数万羽単位で繁殖していることが確認された。
北方四島のオホーツク海域は世界最南端の流氷限界域に、太平洋側は大陸棚が発達しており暖流と寒流の交わる位置であることや北方四島の陸地面積の約7割、沿岸域の約6割を保護区としてきた政策のおかげで、周辺海域は高い生物生産性・生物多様性を保持してきたと考えられる。
一方、陸上には莫大な海の生物資源を自ら持ち込むサケ科魚類が高密度に自然産卵しており、それを主な餌資源とするヒグマは体サイズが大きく生息密度も高く、シマフクロウも高密度で生息している明らかになった。海上と同様、陸上にも原生的生態系が保全されており、それは海と深い繋がりがあることがわかってきた。
しかし近年、人間活動の拡大、鉱山の開発、密猟や密漁が横行しており、「北方四島」をとりまく状況は変わりつつある。早急に科学的データに基づく保全案が求められている。そのために今後取り組むべき課題について考えて行きたい。


09:30-12:30

L3-5: オホーツク海の環境変動と生物生産

*中塚 武1
1北海道大学低温科学研究所

北大低温研では、98年から4年間、オホーツク海の物理・化学・地質学的な総合観測を進めてきた。また現在は、総合地球環境学研究所と連携して、アムール川から親潮域に至る、陸から海への物質輸送が生物生産に与える影響についての総合研究プロジェクトを推進中である。本講演では、それらの成果や目標を踏まえて、オホーツク海の生物生産、特に基礎生産の規定要因について議論する。オホーツク海の物理・化学環境は、(1)世界で最も低緯度に位置する季節海氷、(2)半閉鎖海に流入する巨大河川アムールの存在によって特徴付けられる。東シベリアからの季節風によって生じる(1)は冬季の海洋環境を過酷にする反面、海氷と共に生成される高密度水(ブライン水)は海水の鉛直循環を活発にし、窒素やリン、シリカ等の栄養塩を海洋表層にもたらして春季の植物プランクトンブルームを引き起こす。また有機物を豊富に含む高密度水塊を大陸棚から外洋中層へ流出させ、特異な中層の従属栄養生態系を発達させている。(2)はそれ自身が海氷形成を促進する一方、栄養塩、特に北部北太平洋で基礎生産を制限している微量元素である鉄を大量にもたらすことで、当海域の生産を支えていると考えられている。現在のオホーツク海では、その高い栄養塩・鉄濃度を反映して、主たる一次生産者は珪藻であるが、珪藻の繁栄は約6000年前から始まったばかりであり、それ以前の完新世前期には、円石藻などの外洋の温暖な環境に適応した藻類が繁茂していたことが明らかとなった。海の植物相が劇変した時期に、アムール川周辺では鉄の源である森林の形成が進み、海では寒冷化が進んだ。こうした事実は、オホーツク海の生物生産を支える原動力が、過去_から_現在を通じて、アムール川からの物質供給と海水の鉛直循環にあることを意味しており、近年の地球温暖化はオホーツク海の生物相の大きな変化をもたらす可能性があることを示唆している。