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[要旨集] 口頭発表: 物質生産・物質循環
- O1-U01: 未来の陸域生態系を予測する (次世代の動的全球植生モデルの構築) (佐藤, 伊藤, 甲山)
- O1-U02: チュウシャクシギNumenius phaeopusの摂食活動が干潟生態系の物質循環系に果たす役割 (松原, 土屋)
- O1-U03: 生葉と陸生昆虫の糞の流入が渓流棲ヨコエビの成長に与える影響 (河内, 加賀谷)
- O1-U04: 極域ツンドラ生態系における土壌溶存態有機窒素動態のリンによる制御 (保原, 阿江, 木庭, 矢野, Shaver)
- O1-U05: Effects of polyphenols on the loss of nitrogen as protein in tropical forest ecosystems (Luiza,Kanehiro)
- O1-U06: 植物の被食防衛は森林生態系栄養塩循環に正のフィードバックをかけるか? (黒川, 永益, 中静)
- O1-U07: ボルネオ島キナバル山の標高と土壌の違う立地の地下部菌類バイオマス (里村, 北山)
- O1-U08: ()
- O1-U09: 成熟した照葉樹林の粗大有機物(CWD)の現存量 (佐藤)
- O1-U10: 冷温帯の遷移に伴う土壌炭素蓄積量の比較 (石川, 大江, 齋藤, 鞠子)
- O1-U11: ()
- O1-U20: Microbial biomass and diversity three years after fire in a pine forest (Jhonamie,Nobukazu)
- O1-U21: 河畔域に生息するクモ類の安定同位体比の河川区による差異 (赤松, 戸田, 沖野)
- O1-U22: 農業生産に共なう農地への重金属負荷の推定 (三島)
- O1-U23: 水田および転換畑における、CO2フラックスの季節変化および炭素収支の比較 (西村, 米村, 澤本, 秋山, 須藤, 八木)
- O1-U24: 冷温帯生態系における主要温室効果ガス(CO2,CH4.N2O)の大気-土壌間フラックスの比較 (熊谷, 大江, 八代, 鞠子)
- O1-U25: 冷温帯広葉樹林土壌におけるCH4酸化とCO2放出の季節変動 (大江, 熊谷, 鞠子)
- O1-U26: NOAA/AVHRRと多層モデルによる冷温帯落葉広葉樹林におけるCO2フラックスの解析 (中西, 小杉, 高梨, 田中, 日浦, 松尾)
- O1-U27: 冷温帯落葉広葉樹林生態系における土壌有機物層重さの減少率の時・空間変動 (賈, 秋山)
- O1-U28: 河畔植生のリターの行方:陸上と水中でのリター分解 (佐々木, 吉竹, 中坪)
- O1-U29: 山地斜面における落葉リターの移動と分解:スズタケ群落は移動を妨げ分解を促進する (塩川, 加賀谷)
- O1-U30: 山地小渓流における落葉枝リターパッチの季節動態 _-_リター形態変化の重要性_-_ (小林, 加賀谷)
- O1-U31: マルチ自動開閉チャンバーを用いた森林木部呼吸の連続測定 (梁, 藤沼, 井上, 宇都木, 飛田, 渡辺)
- O1-U32: 森林群落における木部表面積の推定法 (千葉, 檀浦, 右田, 毛塚, 韓)
- O1-U33: コナラ林における光合成特性の時空間的変動 (右田, 千葉, 韓, 丹下)
- O1-U34: 3次元シュート構造・光合成特性・フェノロジーを考慮し、年間光合成量を計算する樹木モデル (梅木, 菊沢, 白川, 鈴木)
O1-U01: 未来の陸域生態系を予測する (次世代の動的全球植生モデルの構築)
気候環境は植生の構造や機能を強く規定するが、植生の構造や機能もまた、蒸散、炭素循環、アルベドの変化などを通じて、気候環境にフィードバック的な影響を与える。このような過程を気候環境の変動予測に含めるためには、生物地理化学過程や植生動態を取り込んだ陸域生態系モデルが必要とされる。
そこで我々は、陸上生態系の機能(炭素や水の循環など)や構造(植生の分布や構成など)における短期的・長期的変化を予測を可能とする全球動的植生モデル(Dynamic Global Vegetation Model, DGVM)を開発している。これは、異なる計算間隔を有する複数の素過程モジュールを結合したものであり、幾つかのモジュールを環境条件の関数とすることで、生態系の環境応答をシミュレートできるようにしたものである。
このモデルの基本的なデザインは、陸域炭素循環モデルSim-CYCLEに、LPJ-DGVMの植生動態コンポーネントを組み合わせたものであるが、さらに林分の空間構造を明示的に組み込み、木本を個体ベースで扱うという野心的な拡張を行った。これらの拡張によって、森林ギャップの再生過程や樹木個体間の競争過程が的確に表現され、植生動態に伴う炭素収支変化や、気候変動に伴った植生分布変動の速度などを、これまで構築されてきたどのDGVMよりも的確に予測できることが期待される。
平成15年度中までに、一林分の計算を行うプログラムコードの開発がほぼ完了し、現在このプログラムによる試行計算を繰り返す事で、諸パラメーターの推定作業を行っている。今後、ベクトル化、並列化、調整等の過程を経て、平成16年度中までには全球グリッドでのシミュレーション結果を得る予定である。
O1-U02: チュウシャクシギNumenius phaeopusの摂食活動が干潟生態系の物質循環系に果たす役割
渡りを行う鳥類にとって、途中にある中継地点で、採餌や休息を行うことは、渡りを成功させるために重要である。鳥類にとっての干潟の重要性を調べるためには、彼らが干潟をどのように利用しているか定量化することが必要である。本研究では、干潟で鳥がどれだけ餌を摂取し、糞をどれだけ排出しているかを調べることで、鳥が干潟生態系の物質循環系においてどのような役割を果たしているのか、定量的な値として示すことを試みた。2003年4月から12月まで、沖縄島南部の干潟上でのチュウシャクシギNumenius phaeopusの餌摂取量、糞排出量に着目し、窒素と炭素量を指標としてそれぞれの値を定量的に示した。
毎月チュウシャクシギの行動観察、個体数調査および餌動物であるシオマネキ類とチュウシャクシギの糞の含有窒素、炭素量の測定を行った。これらの数値から、各月にチュウシャクシギ個体群が干潟上で摂取および排出した窒素、炭素量を算出した。そして、摂取量から排出量を引くことにより、チュウシャクシギ個体群が干潟上で消費した窒素、炭素量を求めた。
以上からチュウシャクシギ個体群は、6月に最も多く窒素を約300g、炭素を約1400g消費した。チュウシャクシギは2003年5月から12月まで干潟上で確認され、その個体群サイズは5月に最も大きく、12月に最も小さくなった。6月のチュウシャクシギ個体群のサイズは2番目に大きく、しかし消費した窒素・炭素量は最も多くなった。
チュウシャクシギ個体群が消費する窒素、炭素量を、年間平方メートルあたりの消費量に換算すると、窒素は0.0164g/year/m2、炭素は0.0793g/year/m2という結果になった。この数値は今後の研究におけるひとつの指標として利用できる。
チュウシャクシギの消費量には季節変化が見られ、干潟上の鳥類個体数や底生生物の生息状況に影響を受けているのではないかと考えられた。
O1-U03: 生葉と陸生昆虫の糞の流入が渓流棲ヨコエビの成長に与える影響
ヨコエビは、山地渓流において粗大有機物を主食とする底生動物であるが、枯葉の分解が進行し粗大有機物の現存量が少ない夏季にも、細粒有機物や藻類を摂食して成長する。夏季に渓畔林から流入する生葉や陸生昆虫の糞は、ヨコエビにとって粗大有機物資源となりうる一方で、それらから溶出する栄養塩が藻類を増殖させることで、間接的にヨコエビに正の影響を及ぼす可能性がある。本研究は、室内実験により、細粒有機物資源が制限された状況下で、生葉および陸生昆虫の糞の流入がタキヨコエビの成長にもたらす効果について、直接の摂食による効果と、付着藻類の増殖を介した間接的な効果を区別して検証することを目的とする。
ヨコエビは個別飼育し、少量の細粒有機物(<1 mm)のみを与えた処理を対照とし、同量の細粒有機物に十分量の生葉(ハンノキとイタヤカエデ)もしくは糞(クスサン)を添加した処理と比較した。また、十分量の糞に加え生葉を添加した処理も設定し、糞のみ添加処理との比較も行った。飼育容器に入れた付着基盤により実験終了時に藻類の測定を行った。生葉や糞が藻類の増殖に及ぼす影響を、ヨコエビの摂食を排して評価するために、食物のみを入れた処理も設定した。
ヨコエビの成長速度は、生葉添加、糞添加処理のいずれもが対照より大きく、これらの流入はタキヨコエビの成長に正の効果をもたらすことが明らかになった。生葉は直接摂食されていたが、生葉添加による藻類の増殖は認められなかった。糞は直接の摂食が観察されるとともに、糞添加による藻類の増殖およびヨコエビの摂食が認められた。ヨコエビの成長は、糞添加処理よりも糞と生葉をともに添加した処理の方が大きかった。以上より、夏季の生葉や陸生昆虫の糞の流入は、ヨコエビに直接に資源を供与するものであるとともに、糞の流入は、藻類の増殖を介してヨコエビに正の影響を及ぼす場合があることが確証された。また、十分量の糞が流入しても生葉の流入は、タキヨコエビにプラスになることが示唆された。
O1-U04: 極域ツンドラ生態系における土壌溶存態有機窒素動態のリンによる制御
極域ツンドラ生態系は、その一次生産が窒素の可給性に強く制限されている系であるが、窒素の系内循環については依然不明な点が多い。ツンドラ生態系土壌では、温帯や熱帯の森林に比較して無機態窒素の生成が非常に小さく、窒素は主に溶存の有機態として循環している。溶存態有機物の多くは、土壌中で主に配位結合によって吸着されているため、その動態、とくに流出にはこの配位結合に影響する何らかの作用が関係すると考えられる。無機態のリンは、土壌中において微量金属などと結合し、溶存有機物の吸着と競合する吸着様式を持っており、溶存態有機窒素の動態に影響を与えている可能性がある。そこで本研究では、極域ツンドラ生態系土壌中の、リンによる溶存態有機窒素動態の制御について調査した。
調査地は、アラスカ・ブルックス山地の北側に位置する2カ所のArctic-LTERサイト(Sagavanirktok River, Toolik Lake)である。この両サイトでは、生態系タイプ別に長期に渡り窒素やリンを施肥した複数のプロットがある。本研究では、リンを施肥したプロットと対照プロットにおいて表層土壌を採取し、リン酸緩衝液により抽出可能な溶存態有機窒素量を比較した。その結果、どちらのサイトにおいても、どの生態系タイプにおいても、リンを施肥したプロットでは対照プロットに比して抽出可能な溶存態窒素量が少ないことが明らかとなった。これにより、リンが溶存態有機物の動態に影響を与え、その効果が窒素循環にも作用することが示唆された。
O1-U05: Effects of polyphenols on the loss of nitrogen as protein in tropical forest ecosystems
Plants growing on nutrient deficient soil produce more carbon-based secondary metabolites such as polyphenolic compounds to defend themselves against herbivores and pathogens. Polyphenols can bind with protein to form protein-polyphenol complexes and recent studies have shown that polyphenols may alter nutrient cycling in infertile forest ecosystems.
Do polyphenols exacerbate nutrient deficiency in these forest ecosystems by binding to protein in recalcitrant form? We hypothesize that loss of nutrients, particularly nitrogen, as protein-polyphenol complexes is higher in infertile soil. To test the hypothesis, we compare two tropical montane forest sites on Mount Kinabalu, Sabah, Malaysia, that are contrasting in soil nutrient availability, particularly phosphorous. Total phenols concentration in soil water was highest in the nutrient deficient site compared to the relatively fertile site in both the upper (0-10 cm) and lower (10-60 cm) layer of soil horizon. The upper horizon has a significantly higher total phenolics content in the nutrient poor site only. Correlation using least linear regression analysis showed a positive relationship between protein nitrogen in terms of amino acids and total phenols suggesting that higher amounts of protein-polyphenol complexes were present at the nutrient poor site. Our observations suggest that the formation of protein-polyphenol complexes may be aggravating nutrient deficiency in this forest.
O1-U06: 植物の被食防衛は森林生態系栄養塩循環に正のフィードバックをかけるか?
植物中のフェノール性物質は、被食防衛機能のみならず、落葉分解をも制限し栄養塩循環に大きく影響を与え得る。植物の防衛投資量を予測する仮説の一つに、「利用可能資源の少ない環境では、成長が遅く防衛投資量の多い植物が有利」という資源利用可能性仮説がある。この仮説とフェノール性物質の落葉分解制限効果を統合すると、「植物の被食防衛(フェノール性物質)が森林生態系栄養塩循環に正のフィードバックをかける」と予測される。つまり、貧栄養な場所では、成長が遅く防衛に投資しフェノール性物質の多い葉を持つ樹種が出現し、その結果、落葉分解が制限され、土壌への栄養塩回帰量が更に減少する。この検証の為、1)土壌栄養塩濃度と葉中フェノール性物質濃度との関係、2)フェノール性物質の被食防衛と落葉分解における効果、の2点を明らかにした。
マレーシア熱帯林に10調査区を設置し、各調査区の群集レベルでの葉中フェノール性物質(総フェノール、タンニン、リグニン)濃度を調べた結果、葉中フェノール性物質濃度は土壌栄養塩との相関が高かった。しかし、同じフェノール性物質でも、総フェノールとタンニン濃度は土壌栄養塩と負の関係を示し資源利用可能性仮説を支持する一方、リグニン濃度は正の関係を示し資源利用可能性仮説を支持しなかった。
次に、40樹種を用いフェノール性物質の被食防衛と落葉分解制限の効果を明らかにした。その結果、一般に分解速度は葉中フェノール性物質(特にリグニン)濃度に強く影響されるのに対し、被食はフェノール性物質では説明されなかった。
以上から、マレーシア森林生態系では、植物の被食防衛(フェノール性物質)による栄養塩循環の正のフィードバックは起きないと考察できる。その理由として、落葉分解を制限する葉中リグニンが森林群集レベルで資源利用可能性仮説を支持しない、被食防衛戦略は種により多様でありフェノール性物質のみが有効な被食防衛ではない、等が挙げられる。
O1-U07: ボルネオ島キナバル山の標高と土壌の違う立地の地下部菌類バイオマス
土壌菌類には、植物と共生して植物の水や栄養塩の獲得を直接手助けする機能グループ(菌根菌)が存在する。さらに、有機物を分解する機能グループ(腐生菌)も、植物が吸収可能な土壌中の栄養塩を増加させることで、間接的ではあるが植物の栄養塩吸収に関与している。これらのことから、土壌中の菌類の量と活性は植物の栄養塩吸収、ひいては植物の生産性と密接に関係していると考えられる。そこで、マレーシア キナバル山の5標高,2つの土壌タイプ(堆積岩,蛇紋岩)の合計10のサイトにおいて,土壌(根を含む)の菌類バイオマスを調査し、森林の生産性との関係について考察した。各サイトでは地表面から0_-_5、5_-_10、10_-_15 cmの土壌を採取した(n=15)。活性のある菌類バイオマスの指標として、菌類に特有な細胞膜成分、エルゴステロール、を定量分析した。
すべてのサイトで、土壌中のエルゴステロール含量は土壌表層で最も多く、下層になるに従って低下する傾向があった。しかし、標高によって土壌の発達度合いが異なるため、土壌深度に伴うエルゴステロール含量の低下率は異なっていた。単位土地面積あたりのエルゴステロール総量(土壌深度15 cmまで)を標高間で比較したところ、堆積岩上と蛇紋岩上の立地に共通する傾向は見られなかった。標高が異なれば、気象条件、特に温度環境が異なるため、一定量の菌類が一定期間に分解しうる有機物量が変化し、あるいは菌類相が変化するため、結果として植物の栄養塩吸収と菌類の量に関連性が見られなかったのだと考えられた。一方、各標高において堆積岩と蛇紋岩を母岩とする立地間を比較したところ、単位土地面積あたりのエルゴステロール総量は、どの標高においても生産性の高い堆積岩上の立地で高い傾向を示した。気象条件が同じサイト間では、活性のある土壌菌類の量は生産性の高い森林では高く、生産性の低い森林では低いことが示された(成立年代が異なる堆積岩の立地を除く)。
O1-U08:
(NA)
O1-U09: 成熟した照葉樹林の粗大有機物(CWD)の現存量
粗大有機物(CWD)として知られる立枯れ木や倒木は,森林生態系内の一次生産力や養分循環の中で重要な役割を果たしている。本報告では,立地環境の違いによるCWD現存量の変化を知る目的で,南九州の成熟した照葉樹林においてCWDの測定を行った。対象とした林分は,綾試験地(宮崎県綾町)と大口試験地(鹿児島県大口市)の2林分であり,イスノキ,タブノキ,常緑カシが優占する成熟林である。各試験地で20m×20mの方形区を設定し(綾試験地:6個,大口試験地:9個),直径10cm以上のすべての枯死木および枯枝の現存量を求めた。CWD現存量は,綾試験地で36.9Mg/ha,大口試験地で20.8Mg/haであり,これらの値は地上部現存量のそれぞれ9.9%と8.1%に相当した。CWDの形態を比較すると,両試験地とも林床に倒伏した枯死幹や枯枝が最も大きかったが(綾試験地:56.7%,大口試験地:48.1%),大口試験地では幹折れによるCWDも全体の41.2%を示し,両試験地ではその構成比が異なっていた。微地形間のCWD現存量の比較すると,綾試験地では頂部斜面で最も高い値を示し(66.9Mg/ha),斜面上部から下部へ推移するに従いCWD現存量も減少する傾向にあった。一方,渓流を伴う平坦面に成立する大口試験地では,隣接する麓部斜面に比べて渓流沿いの立地でCWD現存量が高い傾向にあった。いずれの試験地でも高いCWD現存量を示した方形区では,幹折れあるいは根返りによる枯死幹が認められた。地上部現存量および林分枯死率とCWD現存量との間には明瞭な関係は認められず,台風による撹乱の履歴がCWD現存量の変動に寄与しているものと考えられた。
O1-U10: 冷温帯の遷移に伴う土壌炭素蓄積量の比較
生態系における土壌炭素蓄積は、植物体地上部および地下部リターによる有機炭素の供給と、微生物の有機物分解による二酸化炭素としての炭素の放出により制御される。これらの土壌炭素蓄積に関わるプロセスは主に生物的要因と気候的要因に大きく依存するが、植生遷移によっても変化すると考えられる。しかし、従来の研究が土地履歴の異なる遷移段階で行われてきたため、遷移の正しい評価は困難であった。
本研究では、土壌炭素蓄積量を同じ土地履歴をもつ場所において比較検討することを目的とする。その中でも草本から木本へ移行する遷移段階では、植生の構造と機能、微気象的環境が大きく変化するため、炭素動態が劇的に変化すると予測される。そこで、草本から木本へ移行する遷移段階の生態系における変化に着目して研究を行った。調査地は、筑波大学菅平高原実験センター内に保存されているススキ草原(草本後期)、主に低木であるズミの侵入がみられるススキ草原(低木侵入期)およびアカマツ林(高木初期)である。これら3つの生態系は、一続きのススキ草原から部分的に二次遷移を進行させてつくられたため、クロノシークエンスを考慮できる。土壌は、エンジン式採土機を用いて無機質土壌層から1mの土壌コア(直径5cm)として採取した。コアは各生態系から10地点以上採取し、10cmごとに分割し乾燥後、CNアナライザーで炭素含有率を求め、乾重量から炭素量を算出した。その結果、深さ10cm以下の土壌炭素含有率は、草本後期、高木初期、低木侵入期の順に高い値を示した。この要因として、遷移に伴う植生変化により地上部および地下部リターの供給量および質の変化が挙げられる。また、土壌のばらつきが大きいことが確認され、土壌の多点測定の重要性が示唆された。
O1-U11:
(NA)
O1-U20: Microbial biomass and diversity three years after fire in a pine forest
The objectives of this study were to determine the microbial biomass carbon and microbial diversity in soil three years after the occurrence of fire in a pine forest. The effects of fire on topographic positions were also determined. Three plots, each measuring 15m x 15m, were arrayed along each of four transects, three in a burned area and one in an unburned area. Plot 1 was located at the valley bottom, plot 2 was at the middle slope and plot 3 was at the ridge. Microbial biomass carbon was determined using the Chloroform Fumigation-Extraction Method, while microbial diversity was determined using Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism (TRFLP) analysis of 16SrRNA genes. Analysis showed that the microbial biomass and diversity of the plots in the unburned area did not differ significantly and so they were treated as one control plot. The unburned plot showed the highest microbial biomass and diversity, followed by the valley bottom, the middle slope, and then the ridge of the burned area. Among the burned plots, the ridge was found to be significantly different from the valley bottom and the middle slope. The ridge was shown to have been the most affected by fire. Data show that even three years after the occurrence of fire, the microbial biomass and diversity had not even recovered to 40% of the unburned area.
O1-U21: 河畔域に生息するクモ類の安定同位体比の河川区による差異
本研究では、河川の流下に伴う,河川敷および河川内の食物網構造、物質の流れの変化を、炭素・窒素安定同位体比を用いて解析した。千曲川本流の,甲武信岳(河口から357km,以下同様)樋沢(329km),臼田(298km),生田(258km),鼠(250km)の各河川敷で、陸上植物,陸生昆虫,クモ類,付着藻類,水生昆虫を採集し、それらの炭素・窒素安定同位体比を測定した。
流路に近い陸上植物,クモ類、および流路内の付着藻類,水生昆虫の窒素安定同位体比(δ15N値)は、流下に伴い上昇していた。千曲川に流入する窒素の同位体比は、窒素汚染源の変化を反映して流下に伴い上昇することが知られている。流路に近い河川敷の各生物群も、食物連鎖を通して、流域の窒素源の変化を反映していることが明らかになった。一方、流路から離れた陸上植物のδ15N値には、各河川敷間で差異はみられず、流路近くの植物とは窒素源が異なっていることが示唆された。
河川敷のクモ類の炭素安定同位体比(δ13C値)は,いずれの地点においても,陸上昆虫と水生昆虫のδ13C値の中間に位置し,陸上・河川両生態系の餌資源をともに利用していることが示された。水生昆虫への依存度は、クモの種によって大きく異なり、水平網を張る種で依存度が高かった。クモ類のδ15N値にも,流下に伴う上昇がみられた。餌資源である水生昆虫を通して,間接的に流域の窒素汚染源の影響を受けていることが示された。
O1-U22: 農業生産に共なう農地への重金属負荷の推定
世界食料農業機関傘下のCODEX委員会では、農作物に含まれるカドミウム(Cd)の許容基準の見直しを行っており、基準が強化された場合には日本の水稲の5%程度が不適合になる可能性が指摘されている。農地へのCd負荷は、鉱山等を起源とするCdに汚染された水を灌漑に用いた場合や、Cdを含む化学肥料や堆きゅう肥など肥料資材の施用に共なって発生する。本研究では、化学肥料と堆きゅう肥による農地への負荷量を推定し農地の汚染リスクに関して検討した。
市販の化学肥料を分析した結果、Cdはリン酸を含む化学肥料に2-5ppm程度含まれており、化学肥料由来のCd負荷の99%がリン酸を含む肥料によって生じていると推定された。これはリン鉱石にCdが夾雑物として含まれることによる。文献調査から家畜ふん尿由来の堆きゅう肥中には、1-5ppm程度のCdが含まれていた。
1997年における農地へのCd負荷は、化学肥料由来が7.0Mg、堆きゅう肥由来が2.2Mg、合計9.2Mg(2.09g/ha)と推定された。他に廃棄される家畜ふん尿中に1.4MgのCdが含まれると推定された。廃棄される家畜ふん尿が化学肥料の代わりに施用される場合を試算したところ、Cdの負荷は増加しないことから、家畜ふん尿の利用は環境への負荷を低減する面からすすめられるとともに、農地へのCd負荷が増えないと言う面から問題はないと言える。
農耕地の作土中に含まれるCdの総量は2.216Mgと推定されており、資材施用に共なうCd負荷は総量の0.4%に相当する。現状のCd負荷が続いた場合に土壌中のCdが増加するかどうかは明らかではない。化学肥料の施用は作物によって異るため化学肥料によるCd負荷は野菜(2.87g/ha)、工芸作物(3.07g/ha)で高く水稲(1.14g/ha)で低い。野菜は多毛作されることからCd負荷が高く、農地土壌中のCdが増加するリスクは高いと考えられた。
O1-U23: 水田および転換畑における、CO2フラックスの季節変化および炭素収支の比較
2002年から2004年にかけて、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)内の実験圃場において、3種類の作付体系(水稲単作(PR区)、陸稲単作(UR区)、および大豆(夏作)・小麦(冬作)二毛作(SW区))の農耕地におけるCO2フラックスの季節変化を通年測定し、土壌炭素収支を推定した。CO2フラックスの測定は、自動開閉チャンバーおよび赤外線ガス分析計を用いた自動測定システムによって行った。作物の収穫および鍬込に伴う炭素の持ち出し・持ち込み量は、乾物重量調査および乾物中の炭素含量分析によって求めた。
作物の栽培期間中には(夏作・冬作ともに)、作物の光合成による顕著なCO2吸収が観測された。一方、作物の植えられていない期間には、土壌からのCO2放出が観測された。特に、作物の収穫・耕起に伴い、土壌からのCO2放出の一時的な上昇が観測された。
年間積算CO2フラックスは、PR区では-437から-394 [g C m-2]、SW区では-354 [g C m-2]と、それぞれ負の値(炭素の固定)を示したが、UR区では、+161から+238 [g C m-2]と正の値(炭素の放出)を示した。
年間積算CO2フラックスのデータに、作物の収穫および鍬込に伴う炭素の持ち出し・持ち込み量を加味して推定した、土壌炭素収支は、PR区では-141から-73 [g C m-2]と負の値であったのに対して、UR区では+277から+346 [g C m-2]、SW区では+373 [g C m-2]と正の値であった。
水田を排水して畑作物を数年間栽培する「転換畑栽培」は、日本全国で広く行われているが、本研究の結果から、水田を排水して転換畑にすると、土壌中の炭素が徐々に減少していく可能性が示唆された。
O1-U24: 冷温帯生態系における主要温室効果ガス(CO2,CH4.N2O)の大気-土壌間フラックスの比較
CO2,CH4.N2Oは主要な温室効果ガスであり、地球温暖化に対する寄与率は80%を越える。土壌はこれらのガスに対してシンク・ソース機能を持っており、これらのガスの大気中の濃度変化に影響を与えている。土壌CO2フラックスは多くの研究がなされてきたが、CH4やN2Oを含めた3種のガスについての同時測定はまだ少ない。しかし、CH4やN2Oの温暖化ポテンシャルは、それぞれCO2の約56倍および280倍あるといわれており微量であっても無視できない。したがって、土壌の温暖化影響力を評価するためには3種のガスフラックスを同時に評価する必要がある。また、これら3種のガスフラックスは植生の違いだけでなく、人間活動による撹乱によっても影響を受けるため、生態系の種類、土地履歴などを考慮した研究を行う必要がある。
本研究では、長野県菅平高原において、様々な冷温帯生態系(裸地、畑、草原、森林など)における3種土壌ガスフラックスの季節変化とその制限要因を明らかにすることを目的とした。フラックスと土壌環境の測定は密閉法と濃度勾配法を用いて2003年8月から毎月行った。その結果、ほとんどの生態系において、CO2の放出フラックスが見られ、地温と有意な相関があった。CH4は堪水状態の湿地で放出フラックスが見られたが、その他の生態系では吸収フラックスであった。しかし、夏期にマルチをした畑では、場所によってCH4の放出が見られた。その原因はマルチにより土壌への酸素供給が絶たれ、土壌呼吸により酸素が消費された結果、嫌気的状態が発生したためと考えられた。N2Oは、夏期に湿地(ヨシ,ザゼンソウ,ハンノキ)、ヤナギ、畑では放出されていたが、それら以外の生態系では放出も吸収もなかった。CH4、N2Oフラックスの環境依存性は不明瞭であった。
O1-U25: 冷温帯広葉樹林土壌におけるCH4酸化とCO2放出の季節変動
土壌は主要な温室効果ガスであるCH4、CO2のシンクまたはソースとして機能している。好気土壌において、CO2は従属栄養生物と根の呼吸による放出フラックスとして、CH4は土壌に存在するCH4酸化菌の分解による吸収フラックスとして測定される。化学量論的には、一分子のCH4の酸化は一分子のCO2を生成するので、CH4酸化は土壌CO2フラックスの一部に寄与する。このことは炭素フラックス研究のトピックスの一つになっている。CH4酸化は陸上における重要なCH4シンクであることやそのGWPが20であることを考慮すれば、土壌の温暖化影響力はCO2フラックスだけではなくCH4フラックスを含めて行うべきである。
本研究では、菅平高原実験センター内の冷温帯ミズナラ林において、土壌CO2、CH4フラックスを2002年2月_から_2003年11月まで密閉法で測定し、季節変動、変動要因、年間量の推定を行った。また、積雪期間(12-4月)は濃度勾配法による測定を行った。その結果、CO2放出およびCH4酸化フラックスは冬に低く夏に高いという季節変動を示した。季節変動を有意に説明する環境要因は地温であり、土壌水分との相関は有意でなかった。連続測定した地温から年間のCO2放出量とCH4酸化量を計算すると、それぞれ451.4、1.83 (g C m-2 yr-1)となった。CO2フラックスは他の日本の冷温帯林よりも若干低かったがCH4フラックスは世界の温帯林よりも3-7倍大きい値であった。これは調査林の土壌は気相率をもち、CH4輸送が容易だったためと考えられた。
O1-U26: NOAA/AVHRRと多層モデルによる冷温帯落葉広葉樹林におけるCO2フラックスの解析
冷温帯落葉広葉樹林において、展葉、落葉といったフェノロジーを通じた樹冠上CO2フラックスの時間的変化について、正規化差分植生指標(Normalized Difference Vegetation Index; NDVI)及び群落構造と個葉の環境応答特性を組み込んだ多層モデルを用いて解析を行った。研究対象地域は北海道大学苫小牧研究林で、1999年から2002年までを対象期間とした。多層モデルのパラメータを得るために、2003年7月に個葉ガス交換特性、放射伝達特性、群落構造などに関する現地での調査を行った。葉面積指数(Leaf Area Index; LAI)の及び土壌呼吸の季節変化については2001年の年間観測データをもとにパラメタライズを行った。NOAA/AVHRRデータから、フラックスタワーを中心とする1km×1kmの植生地域におけるNDVIを取得した。NDVIの季節変化と地上で観測されたLAIを比較したところよく類似し、NDVIが群落構造をよく反映することが示された。NDVIとCO2フラックスの対応関係より、春においてCO2フラックスはNDVIに遅れて増加傾向を示し、秋にはNDVIに先駆けて減少傾向を示すことがわかった。また、CO2フラックスには日々変動が見られた。そこでCO2フラックスの決定要因を明らかにするために、観測されたCO2フラックスを、日射、飽差、気温といった気象データ、さらに、多層モデルによるCO2フラックスの計算結果と比較した。解析の結果、CO2フラックスの日々の変動は概ね日射、飽差、気温などの気象要因の変動によって説明できた。個葉ガス交換特性を7月の最盛期に固定した多層モデルの計算結果と観測値の比較では、展葉初期や落葉期、また夏季以降で夜間低温あるいは日中高温にさらされる日などにおいて不一致がみられた。これらの日において個葉ガス交換特性の変化がCO2フラックスの低下を引き起こしていることが示唆された。
O1-U27: 冷温帯落葉広葉樹林生態系における土壌有機物層重さの減少率の時・空間変動
はじめに リターは森林生態系の特別な部分で森林生態系の物質及びエネルギー循環に大きく貢献し、それらの変動は森林生態系が行っている炭素の吸収あるいは放出のメカニズムの解析、さらに生態系の炭素循環を正確に把握するうえでとくに重要である。ここでは1999年6月から4年間に渡って冷温帯落葉広葉樹林に属する高山試験林で行ったリター重の減少率についての試験方法及び予備解析の結果を報告する。
試験材料及び方法 用いたリター箱法は自ら開発し、現地状態のままでリターの減少率を調べることができる利点がある。今回はリターだけではなくA0層即ち土壌有機物層を研究対象とした。試験はアクリル棒の骨格と、周囲を1mm meshの網で被ったリター箱(20cm×20cm×4-6cm)を用い、現地で原状態のままでリター重の変化を計測する。1999年6月リター箱28個、そのうち11個(1-11)は同じ場所で採取したリター(L層)を、残り17個(12-28)は、20cm×20cmにハサミで切断したリター(L層、F層、H層)を現地状態のままで箱に入れ込んで立地別に設置した。2000年5月さらに15個(29-43)を追加し設置した。1999年の8月、10月、2000年の4月、6月、9月、12月及び2001年の6月、2003年の6月に回収調査を行った。
試験結果 リターは、6-8月に減少率が高く(平均108.8 g/m2/月)、そのうち特に同じ試料を用いた調査の場合は頂部で最も高く(145.3g/m2/M)、谷底部には一番低かった(51.3g/m2/M)。9-10月に減少率は平均30.8 g/m 2/M、夏より低くなっていた。11月-翌年の4月に減少率は0ないしマイナスになっていた。第一年目の減少率は130-550、二年間の減少率は81-480、3-4年間の減少率は88-828 g/m2/yrであった。平均は250 g/m2/yrぐらいであった。
O1-U28: 河畔植生のリターの行方:陸上と水中でのリター分解
河畔植生は河畔域における主要な有機物供給源の一つである。演者らはこれまでに、河畔ネコヤナギ群落が温帯林に並ぶ生産量を持ち、河畔域に多くのリターを供給していることを明らかにした(佐々木・中坪 第48回日本生態学会大会)。河川の増水によって水中に入ったリターは、水中でCO2まで分解(無機化)されるか、あるいは有機物として下流へ流出すると考えられる。しかし河畔域での無機化を含めたリターの動態についてはよく分かっていない。本研究では河畔植生のリター分解過程を定量的に明らかにする目的で、1)陸上と河川水中でのリターの重量減少を調べ、さらに2)河川水中での年間のリター無機化量を推定した。
調査地とした広島県太田川中流域では、砂州上にネコヤナギ群落が成立しており、群落は河川が増水すると冠水する。群落内でのリターの重量減少をリターバッグ法によって調べた結果、一年を経ても約60%のリターが残っており、陸上での重量減少が非常に遅いことが分かった。これらのリターの一部は増水によって河川水中に入ると考えられる。河川水中での重量減少を同様に調べたところ、一年間で60%もの重量が失われた。リター重量の減少は、微生物による無機化や、溶存態・細粒有機物の流出によって起きる。そこで次に河川水中でのリターの年間無機量を推定した。一定期間野外に設置したサンプルの無機化速度とその温度依存性をもとにモデルを作成し、調査地付近の年間の水温データを用いて年間の無機化量を見積もった。その結果、河川水中での重量減少は6割に達していたにもかかわらず、完全に無機化されるリターの割合はわずか10%にとどまることが示された。このことは河川水中に入ったリターの5割に当たる量が溶存態や細粒状の有機物として下流へと流出したことを示しており、河畔植生に由来する多量の有機物が河川を通して下流域へと運ばれている可能性が示唆された。
O1-U29: 山地斜面における落葉リターの移動と分解:スズタケ群落は移動を妨げ分解を促進する
山地斜面に成立する森林では,落葉リターは斜面下方への移動ポテンシャルを持つ。林床に密生するササは,リターの移動を妨げ,流域内に有機物や栄養塩を貯留する上で重要であると予想される。一方,ササの存在は,落葉リターの分解速度に影響を及ぼす可能性がある。本研究は,山地斜面における落葉リターの移動,滞留,分解に及ぼすササ群落の影響を定量的に評価することを目的とし,スズタケ群落がパッチ状に点在する東大秩父演習林のブナ-ミズナラ林において調査を行った。
3カ所のササ群落内とそれに隣接した場所に,斜面上方側に開口部をもつトラップを設置して1年間リター移動を測定した結果,ササ群落外での広葉樹の落葉リターの年間平均移動量は1200 g/m,推定年平均移動距離は5.4 mと評価された。リターの移動は強風が観測された12月上旬と3月にピークを示し,これらの時期のみで移動の60%が生じていた。ササ群落内のリター移動量は,ササ群落外と比較して有意に小さく10%程度であった。また,ササ群落パッチの斜面側上端部から下部方向3 m程度の範囲に,顕著なリターの堆積が観察された。5カ所のササ群落内とそれに隣接した場所にリターバッグを12月に設置し,ミズナラおよびスズタケ枯葉の破砕を比較した結果,9カ月後の残存重量には有意差が認められ,ササ群落内の減少率は群落外のそれぞれ1.24,1.89倍であった。また,ササ群落内のリターは,群落外に比べて,含水率は有意に大きく,CN比は有意に小さかった。ツルグレン装置によりリターバッグから抽出された土壌動物の個体数は,ササ群落内が群落外の1.6倍であった。ササ群落内では,湿潤なため微生物および土壌動物によるリター分解が促進されるものと考えられる。山地斜面に成立する森林において,ササ群落は,落葉リターの貯留機能を有することで流域外への有機物や栄養塩の流出を抑制すると同時に,リターの分解を介した栄養塩循環を促進する作用があるといえる。
O1-U30: 山地小渓流における落葉枝リターパッチの季節動態 _-_リター形態変化の重要性_-_
森林渓流において、生物のエネルギー源として重要な落葉枝リターは、集積したリターパッチとして存在する。演者らは、形成場の異なるリターパッチの3タイプ(瀬、淵央、淵縁)のうち、淵央パッチは底生動物の二次生産や落葉破砕速度が特に高いことを明らかにし、淵央パッチと他のパッチに存在するリターの相対量によって渓流区間スケールでの二次生産や落葉破砕は大きく異なりうることを示した。この相対量は、タイプによるリター破砕速度の違い、またはタイプ間のリター移動によって季節変化することが考えられる。本研究は、埼玉県秩父の複数の小渓流(流域面積60–800ha)での調査と、これまでのリター動態に関する研究を合わせて、区間スケールでの各タイプに存在するリターの相対量の季節変化を明らかにすることを目的とした。
2002年3、5、7月の調査の結果、対象全13区間に共通したリターパッチ量(100m区間あたり河床被覆面積、重量)の季節変化がみられた;いずれのタイプも季節とともに減少したが、淵央パッチの減少度は他のパッチに比べて小さく、淵央パッチに存在するリターの割合は3月の20%から7月の80%に増加した。
この季節変化は、淵央パッチで速い落葉破砕パターンから説明することは難しい一方、秋冬は瀬や淵縁パッチで春以降は淵央パッチで量が多いリターの移入_-_滞留パターンと一致しており、これをもたらす季節によるリターの小片化、それに続くパッチ間移動再分布により生じている可能性が考えられた。全区間を通して見られる今回の季節変化は少なくとも近辺地域の渓流において普遍性の高いパターンと考えられる。季節とともに淵央パッチの割合が高くなるということは、実際の渓流における底生動物二次生産量や落葉破砕速度は、季節とともにリター量や温度から予測されるものより高まる可能性を示している。
O1-U31: マルチ自動開閉チャンバーを用いた森林木部呼吸の連続測定
森林の中で最も大きいバイオマスを占めている幹と枝の呼吸量を見積もることは、森林生態系の炭素収支を評価する上で重要である。本研究では小径木から大径木までのあらゆる樹木に対応できる現地取り付け型マルチ自動開閉チャンバー式幹呼吸自動測定システムを開発した。2002年8月に開発したシステムを苫小牧フラックスサイトのカラマツ林において樹木別、高度別、枝の太さ別など多地点に設置し、地上木部呼吸速度の観測を開始した。16個あるチャンバーのうち測定中のチャンバー(1個)に対しては中の空気を循環させながらCO2アナライザへ送り、測定していないチャンバーに対しては外気を通過させてチャンバー内の環境を外の環境に近づける。各チャンバーの測定時間は225秒に設定し、16個のチャンバーの測定周期は1時間である。
カラマツ林における地上木部の吸速度は顕著な季節変化を見られた。幹呼吸速度については幹の上部ほど高く、特に樹幹の先端や枝で高かった。また幹呼吸速度は日変化を示し、夜より昼の方が高かった。そして呼吸速度は幹温と指数関係を示した。幹呼吸のQ10 は幹の下部(高さ2 m)と中部(高さ8 m)はそれぞれ2.4と2.8であったが、幹の先端(高さ12-14 m)と枝は4.1であった。しかしながら、呼吸速度は幹温に対して2時間のヒステリシスを示した。また、得られた幹呼吸速度と地上部のバイオマスのデータを元に、森林生態系レベルの地上木質部の呼吸量を推定した。落葉時期におけるカラマツ林の地上木部の呼吸量は、森林生態系の総呼吸量の31%を示した。
また、2004年の春に24チャンネルの改良型幹呼吸システムを森林総合研究所の羊ヶ丘フラックスサイトに設置し、約90年生落葉広葉樹混交林の幹呼吸の測定も始まった。
O1-U32: 森林群落における木部表面積の推定法
森林のエネルギー収支や二酸化炭素収支は環境条件によって刻々変動する。こうした生理的プロセスを介した物質収支を評価するためには、植物体による光合成と同様に、呼吸消費量の定量化も不可欠である。呼吸プロセスは光合成ほどには複雑な現象ではないが、枝・幹・根の各部位ごとに測定した呼吸量を、個体_から_群落レベルにスケールアップしなければならず、木部器官の直径サイズ分布とその成長量を定量的に扱えるようにしておく必要がある。
木部器官の直径階ごとの頻度分布については、パイプモデル理論(Shinozaki et al. 1964)において単純なベキ乗関係が見出されている。さらに、いくつかの樹種の伐倒調査結果から、幹を含めた樹冠重量Wは、生枝下高における樹幹直径DBとベキ乗関係で近似できることが確認できた。これらの関係を基礎として、個体ベースの木部表面積の推定方法とその妥当性を検討した。ただし、簡単のため、両対数グラフ上における木部直径階とその頻度(該当する直径階の総延長)とのベキ指数(勾配)を_-_2と見なし、木部の比重Rは樹種ごとに固有とし枝・幹に共通と仮定した。その結果、樹冠内木部の全表面積Acrは次式で与えられる。
Acr=4*W*log(10*DB)/(R*DB)
樹冠下の幹形を暫定的に切頭円錐体とみなせば、この部分の樹幹表面積は、生枝下高、胸高直径、生枝下高直径を与えれば簡単に計算できる。根系表面積については、樹木を逆さにひっくり返した状態を想定すれば、樹冠表面積の推定と同様に計算可能なことは明らかであり、幹の地際直径と根系重量が与えられれば推定可能である。以上の計算式を用いて、広葉樹および針葉樹の木部表面積の推定結果と比較したところ、良好な推定値が得られた。
O1-U33: コナラ林における光合成特性の時空間的変動
気候変動に伴う陸上生態系の物質生産の変化予測には、光合成など生理機能の環境応答特性の把握が不可欠である。本研究ではコナラの光合成生産に影響を与える要因を明らかにすることを目的として、林冠内の異なる環境条件に配置された個葉の光合成特性の時空間的変動を調べ、個体レベルの物質生産との関係について解析を行った。調査林分はつくば市にある森林総研構内の26年生コナラ林である。観測用タワー内にある3個体を供試木として選定し、樹冠上層(地上高14m)、樹冠下層(同12m)、樹冠下に着生している後生枝2層(同7m,4m)、計4層において、03年5月から11月までの着葉期間に葉およびシュート伸長等のフェノロジーを観測し、携帯型光合成測定装置(米国Li-Cor杜,LI-6400)を用いて、光強度,二酸化炭素濃度を段階的に変化させて光合成速度を測定した。供試葉の光環境と窒素含有量も併せて測定した。
光合成パラメータであるVcmaxは、3個体ともに5月から6月にかけて急激に低下した後増大し、個体No.2とNo.3は7-8月に、個体No.1は9-10月に最大値を示した。5月から6月にかけての低下は食葉性昆虫(主にゾウムシ)の食害による可能性が考えられる。個体No.1は他の2個体に比べて6月のVcmaxが著しく低く、回復により時間がかかったものと思われる。同時期の比較では、樹冠下層よりも上層の方が、春伸びシュートよりも秋伸びシュートの方が高い光合成能力を持つ傾向がみられた。陽樹冠の光合成能力と材積成長率を個体ごとに比較したところ、個体No.2はNo.1に比べ光合成能力、肥大成長ともに高い傾向がみられた。一方、被圧木である個体No.3は光合成能力に比べて材積成長率が小さかった。これは、葉量が少ないために剰余生産が少なく、幹の成長に反映できていないことが考えられた。
O1-U34: 3次元シュート構造・光合成特性・フェノロジーを考慮し、年間光合成量を計算する樹木モデル
近年、植物の機能と構造をコンピュータ内で再現するモデルが数多く開発されている。これらのモデルを使用すると植物の機能・構造の特徴を定量的に評価することができ、また、特定環境下での植物の挙動を予測することができる。植物の機能・構造をどれほど詳細にモデルに取り入れるかは、モデルの目的によって様々であるが、植物のシュート成長・開葉・落葉・機能量の季節的な変動(フェノロジー)の詳細を取り入れたモデルはない。そこで、著者らはシュート成長・開葉・落葉・機能量の季節的な変動を取り入れて年間光合成量を計算する構造的機能的樹木モデルを開発した。本発表ではこのモデルの概要を紹介し、いくつかの計算例を示す。計算の結果は、年間光合成量決定に際しフェノロジーが重要な役割を果たすことを示した。開発されたモデルは葉・シュートなどの詳細な樹木構造を扱うことができるので、これを使用すると、測定された樹木の3次元構造やシュート動態の特徴を光合成などの機能量で評価できる。