2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 口頭発表: 植物群落

8 月 26 日 (木)
  • O1-V01: 春植物群落の種組成的類型化について (村上, 林, 矢ヶ崎)
  • O1-V02: 冷温帯生広葉草本種が示す生育立地の地理的差異に関わる環境要因 (蛭間, 福嶋)
  • O1-V03: カナダ太平洋岸Douglas-fir(Pseudotsuga menziesii)優占林における林床植物の分布様式と土壌環境 (南, 平野, ブラッドフィールド)
  • O1-V04: 土地利用の履歴と空間構造が半自然草地の種多様性に及ぼす影響 (北澤, 大澤)
  • O1-V05: カキツバタ群落の20年の動態 (中西, 浜島)
  • O1-V06: 環境の違いが抽水植物(Eleocharis aphacelata) の生長に及ぼす影響について (浅枝, ラジャパクセ, ジャガト, 藤野)
  • O1-V07: 河川砂州上のツルヨシ群落の形成過程に関する考察 (藤野, 浅枝, 緒方)
  • O1-V08: 北海道内の湿原における, ミズゴケの成長量とハンモックの形状の地域差 (矢崎, 矢部, 植村)
  • O1-V09: 厚岸湖畔におけるアッケシソウ(Salicornia europaea L.)の分布に及ぼす影響 (山本, 神田)
  • O1-V10: 温帯性海草の種ごとの分布上限は乾燥耐性が決めているか? (田中, 向井, 仲岡, 小池)
  • O1-V20: 沖積砂礫地に成立するコナラ林の組成的特徴 (野田, 吉川, 福嶋, 平中)
  • O1-V21: 岡山県東部におけるGISを用いた植生の解析1 地質・地形と植生の関係 (森定, 山本, 難波, 山田, 波田)
  • O1-V22: 岡山県東部におけるGISを用いた植生の解析 2 約20年間における植生の変化 (山本, 森定, 難波, 山田, 波田)
  • O1-V23: 岡山県南東部の植生 -流紋岩質岩地域及び堆積岩地域の地形、土壌と植生- (太田, 能美, 波田)
  • O1-V24: スバールバル諸島ニーオルスン氷河後退域における土壌と植生の発達 (大塚, 内田, 吉竹, 中坪)
  • O1-V25: 風食による植被の破壊がもたらす強風地植物群落の種の多様性_-_飯豊山地の偽高山帯における事例 (小泉)
  • O1-V26: ノヤギの完全駆除から30年経過した小笠原諸島南島の地形的な植生パターンと種多様性構造 (朱宮)
  • O1-V27: トルコ南部・チクロバ平野領水域の植生と群落構造 (玉井)
  • O1-V28: ヤクスギ天然林の群集構造 (新山, 柴田, 田中, 八木橋, 安部, 野宮, 佐藤, 金谷, 吉田)
  • O1-V29: 高齢人工林内の植生構造と多様性を決める要因 (田内, 五十嵐)
  • O1-V30: キナバル山の熱帯下部山地林における熱帯針葉樹林の成立過程と構造 (清野, 北山)
  • O1-V31: 沖縄島漫湖湿地のメヒルギ林における現存量の器官分配と林分構造 (カーン, 萩原)

09:30-09:45

O1-V01: 春植物群落の種組成的類型化について

*村上 雄秀1, 林 寿則1, 矢ヶ崎 朋樹1
1国際生態学センター

春季に季観を呈する草本植物(以後「春型植物」)には以下の4タイプが含まれる。
 A.春季に展葉・開花・結実を完了する多年生の「春植物」(カタクリ、イチリンソウ属など)
 B.越冬葉を持ち、春季に開花・結実し、夏までに枯死する越年草(オオイヌノフグリなど)
 C.越冬葉を持ち、春季に開花・結実し、夏までに地上部が枯死する多年草(カモジグサ、スイバなど)
 D.葉は常緑あるいは夏緑で、春季に開花・結実を行う多年草(ショウジョウバカマ、フキなど)
このうちDを除く植物は、同一立地において夏・秋季の草本植物と季節的なすみわけを行う場合が多い。このため一時的な植物群落もしくは季相として認知され、種組成の比較・類型化の例は少ない。また、一般的な夏・秋季の種組成を基にした植生類型との対応も不明の点が多い。
 本報告はそれらを明らかにするため、以下の調査研究を行った結果である。
 期間:1998-2003年
 地域:本州・四国の3地域の常緑広葉樹林域-夏緑広葉樹林域に属する丘陵地域。
 方法:植物社会学的方法
 対象:春型植物群落(上記A-C、一部Dを優占種とする群落)。
 目的・内容:
  1.春型植物群落の種組成による類型化
  2.春型植物群落の類型と夏・秋季の植生類型との対応の把握
  3.春型植物群落類型とその構成種のタイプ(A-D)の対応の把握
 結果:
  1.春型植物群落には種組成の上から畑地から森林植生にいたる立地に対応する約10類型が認められた。
  2.春型植物群落の類型は一部では複数の夏・秋季の植生類型との重複があるが、概ね夏・秋季の植生類型と対応する。
  3.春型植物群落の類型・立地とその構成種の春型植物タイプには対応関係がある。


09:45-10:00

O1-V02: 冷温帯生広葉草本種が示す生育立地の地理的差異に関わる環境要因

*蛭間 啓1, 福嶋 司2
1東京農工大学連合農学研究科, 2東京農工大学農学部

 演者らは東日本において,太平洋側ではブナ林成立立地(頂部緩斜面・山腹斜面)に生育するが,日本海側ではブナ林に隣接した谷もしくは小谷の谷壁斜面に生育が限られるという,広葉草本種の生育立地の地理的差異を確認した(蛭間・福嶋 2004).本研究は,広葉草本種の生育立地の地理的差異に関わる要因について,林床の光環境やリターの堆積状態の違いから考察することを目的とした.
 広葉草本種の生育立地の地理的差異を確認した奥多摩・道志地域,北上山地北東部地域,富山県五箇山地域,山形・新潟県境朝日地域における植生調査スタンドにおいて,林床環境に関する以下の項目の調査を行った.1. リターの堆積状態(被度,厚さ,層数),2. 夏季の光環境(GSF),3. 春季の光環境および群落フェノロジー,4. 消雪日.
 太平洋側,日本海側間での広葉草本種の生育立地の差異には,積雪の多寡と微地形条件の複合要因によって引き起こされる,林床環境の違いが関わっていると考えられた.すなわち,日本海側のブナ林成立立地における広葉草本の生育を制限している要因として,1. 太平洋側と比較してリターの層数および層数密度(積雪による圧縮度合い)が高く,広葉草本の発芽の妨げになること,2. 春季に雪が残存し,林冠のブナの展葉が,広葉草本の展葉に先行することによって,生産性の高いこの時期の林床の光環境が悪いこと,の2点が考えられた.また広葉草本種が,日本海側のブナ林成立立地に隣接した小谷の谷壁斜面には生育する理由として,小谷の谷壁斜面ではリターの量が少ないことと,小谷では上層を被う低木よりも広葉草本のほうが先に展葉を開始できることが,広葉草本の生育に有利にはたらいていると考えられた.


10:00-10:15

O1-V03: カナダ太平洋岸Douglas-fir(Pseudotsuga menziesii)優占林における林床植物の分布様式と土壌環境

*南 佳典1, 平野 華苗1, ブラッドフィールド ゲイリー2
1玉川大学農学部, 2ブリティッシュコロンビア大学

Douglas-fir優占林において,Salalと数種の林床植生構成種の種間競争および共存関係を明らかにすることを目的とし,土壌要因に着目して,他種の分布および出現傾向を検討した.その結果,SalalとDull-Oregon grape,SalalとBracken fernが同所的に出現した.前者は成熟林で貧栄養の影響で,後者は二次林の影響で出現したと考えられた.Salalが出現しなかった成熟林ではStep moss,Sword fern,Vanilla-leafが同所的に出現した.この森林はSalalが生育するのに適した土壌環境であると推測されたが,光透過量が少ないことからSalalは生育しにくいと考えられた.


10:15-10:30

O1-V04: 土地利用の履歴と空間構造が半自然草地の種多様性に及ぼす影響

*北澤 哲弥1, 大澤 雅彦2
1東京都, 2東京大学大学院新領域創成科学研究科

日本の里地では人為管理に伴う多様な群落の成立によって高い生物多様性が維持されると言われている。人為管理の影響はその後に成立した群落の組成や種多様性に影響を及ぼすことが、二次林を対象にした研究より明らかにされつつある。一方、半自然草地は里地の重要な構成要素の一つであるが、草地の履歴が群落の組成・種多様性に及ぼす影響を明らかにした研究は行われていない。またこれらの草地は面積的に小さいものが多いため、隣接する土地利用の影響を強く受けることが予想される。そこで本研究では里地の半自然草地において、土地利用の履歴(持続期間)と空間構造(隣接土地利用)が群落の組成と種多様性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
千葉県千葉市と四街道市にまたがる谷津田を中心とした1km四方の範囲において、刈り取りにより維持されている23箇所の半自然草地を選び、植生調査を行った。
その結果、持続期間の長い草地では地中植物・半地中植物・重力散布種が多く出現し、持続期間の短い草地と比較して全出現種数は20種程度多くなった。持続期間の長い草地で多く見られた種は移動能力が低く、安定した草地環境が維持されてきた草地にのみ生き残ることができた遺存種群であると考えられた。さらに持続期間の長い草地を隣接土地利用により区分した。水田と森林に隣接する草地(水田/森林草地)は、道路/森林草地および道路/水田草地と比較して種数が30種程度多かった。ほとんどの休眠型・散布型の種数が水田/森林草地において最大となったが、一年生草本は道路/水田草地において、また体外動物散布種は道路/森林草地において最大となった。森林と隣接する草地での体外・体内動物散布型の種の多さは林縁という特殊環境を利用する動物種群の存在を反映すると考えられた。また道路との隣接はU字溝の設置や拡幅・舗装工事などによる局所的な土壌攪乱によって、多年生草本の種数を減少させると考えられた。


10:30-10:45

O1-V05: カキツバタ群落の20年の動態

*中西 正1, 浜島 繁隆2
1豊橋高校, 2愛知県文化財委員

 国指定天然記念物・小堤西池カキツバタ群落(刈谷市)の保護増殖研究の一環として、永久枠6ヶ所(PQ1_から_6)とベルト3本を1984,85年に設置し、毎年群落調査を行なってきた。それをカキツバタ群落の20年間の動態としてまとめた。
 (1) 永久枠法から得られたもの
 PQの調査では、20年の間にカキツバタが増加したもの(PQ1,3)と減少したもの(PQ4,5)、及びそのほか(PQ2,6)に分かれた。
 カキツバタが減少したもの(PQ4,5)では、その減少はヨシ、アンペライの増加による生物的な競争による結果と考えられる。この現象は、管理(除草作業等)が行なわれなかった時の様子を表わしているといえる。このコドラートでは、ヨシとアンペライの競争も興味深い。
 カキツバタが増加したもの(PQ1,3)では随伴種のチゴザサ、イヌノハナヒゲが減少していた。この理由には水位の変化(増加)が考えられる。以前(1990)、カキツバタの生育環境を土壌厚と水深で説明し、植生管理の方法を提案した。現在のカキツバタの純群落の形成は、その環境条件が作られているためと考えられる。ただ、水位変化は多くの植物種に影響しており、出現種数の減少しているのもこのためと考えられる。
 そのほか(PQ2,6)のグループのうち、PQ6は、調査開始時からカキツバタの純群落であった。PQ2は岸辺に近い湿地状の場所で、出現種や優占種は年毎に変化していた。
 (2)ベルトトランゼクト法から得られたもの
 ベルトAでは、微地形が出現種に影響している。島状地では出現種類数が多く、カキツバタはこの部分では少ない。20年の変化では、カキツバタはやや減少傾向であり、出現種数は減少している。
 ベルトBは水位が先から基に向かって徐々に浅くなり、微地形的には単調である。出現種数は全域で少なく、全域がカキツバタの純群落的な状態になっている。出現種数は90年まで減少しその後一定である。
 ベルトCの20年間は、カキツバタは徐々に増加しており、出現種数は94年を境に減少した。


10:45-11:00

O1-V06: 環境の違いが抽水植物(Eleocharis aphacelata) の生長に及ぼす影響について

*浅枝 隆1, ラジャパクセ ヘマンサラリス1, ジャガト マナトゥンゲ1, 藤野 毅1
1埼玉大学大学院理工学研究科

Australia NSW州の性質の異なる2箇所のウェットランド(RosesLagoon及びThe University of Newcastle)において、Eleochais spahcelataの地上部および地下部を1_-_2ヶ月に一度の頻度で観測を行った。RosesLagoonはキャンベラ近郊に位置し、寒暖の変化が激しく、年間に3ヶ月程度湛水するのみで頻繁に数ヶ月程度全く雨の降らない状態が続く。一方、Newcastle大学のサイトは、冬も比較的温暖で、水深は1m程度に保たれ、底には大量の有機質の泥が堆積している。この二箇所の結果を比較したところ、以下の点が明らかになった。まず、地上部の生長期間は、RosesLagoonで10月から3月、Newcastle大学ではほぼ年間を通して新しい葉が観測された。また、地上部の年間の最大量の平均はRosesLagoonで3000g/m2、Newcastle大学で5120g/m2、一方、地下部はRosesLagoonで6460g/m2、Newcastle大学で2850g/m2となっていた。特に、今年新しく形成された地下茎の量は最大でそれぞれ、14%、18%となった。また、地下茎の長さはRosesLagoonで37m/m2、Newcastle大学で20m/m2となっており、Newcastle大学ではRosesLagoonに比べ相対的に短くなっていた。さらに、茎の最大本数はRosesLagoonで676/m2、Newcastle大学のもので374/m2であり、後者では太く長い茎が少数存在していた。以上のことより、気候や水分補給の状況の厳しいRosesLagoonにおいては、乾燥や地上部が枯れた場合の再生に備えているためや、地上部がすべて枯死し生産のない期間が長く続くことに対処するために、地上部に比べ地下部の量を多くし、また、小さい茎を多数だしていること。一方で、酸素供給の条件の厳しいNewcastle大学のものでは地下茎の長さを短く太くすることで対処し、また、深い湛水深のために茎は本数を少する代わり個々には太く長くしていることが伺える結果となった。


11:00-11:15

O1-V07: 河川砂州上のツルヨシ群落の形成過程に関する考察

*藤野 毅1, 浅枝 隆1, 緒方 直博1
1埼玉大学大学院理工学研究科

 京都府京田辺市を流れる木津川の砂州に広がるツルヨシPhragmites japonica群落について、それぞれ標高が異なる砂州上流、中流、下流の全7箇所で地上部と地下部のバイオマス、リター、土壌有機物等を採取し、比較を行った。
一方、この調査地区は、数年に一度の割合で大規模な洪水が発生し、その擾乱によって砂州上のツルヨシ群落の一部が消失する。これまでも航空写真等による調査から、洪水が生じない期間は、ツルヨシのバイオマスやリターは増加する傾向にあることが確認できた。
昨年に行ったサンプリング調査の結果と照らし合わせると、リターの蓄積量は、洪水が生じて以降、明瞭に経過年数に対し加速度的に増加していることがわかった。この理由は、流出後、多少残った地下茎によって新しく群落が形成され始め、地上の葉茎を形成、転流によって地下茎の生長を繰り返し、年を追うごとに、地上部および地下部のバイオマスが増加する。秋に枯死した葉茎は、リターとして堆積するものの、地下部、地上部は徐々に増加するため、リターの供給量は年々増加する。さらに、ツルヨシのリターは分解速度が極めて遅いためにこれらのほとんどが砂州上に残されていく。そのため、ある年に堆積するリター量は、増えていく地上部に比例する。すなわち、経過年数以上の速さでリター量は増加していくことになる。このようにして考えると、洪水の影響が最も小さくなる比較的標高が高い砂州上のツルヨシ群落では、リターは最終的にその場所の有機土になり、土によって構成される砂州は元来の砂によるものよりも安定化を促進する。またこの過程が洪水による擾乱の影響を小さくさせるだけでなく、更に大きな群落を形成する傾向になるものと推察される。


11:15-11:30

O1-V08: 北海道内の湿原における, ミズゴケの成長量とハンモックの形状の地域差

*矢崎 友嗣1, 矢部 和夫2, 植村 滋3
1北海道大学大学院農学研究科, 2札幌市立高等専門学校, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

はじめに
北海道のミズゴケハンモックの形状には地域差がみられ, 日本海側で低く扁平, 太平洋側西部で中程度で山型, 太平洋側東部で高く円筒形である(Yabe and Uemura, 2001). 著者らは, ハンモックの高さ異なる4湿原においてミズゴケの成長量, ハンモックの標高, 水文化学環境の季節変化などを測定し, ハンモックの形状に地域差が生じる過程を検討した.
方法
観測地はサロベツ・歌才(日本海側), ウトナイ(太平洋側西部), 風蓮川(太平洋側東部)の4湿原である. 4月から10月まで約1ヶ月間隔でハンモックを形成するミズゴケの伸長成長量(以下, 成長量), ハンモックの標高などを測定した. 雪圧と他の植物による被陰の効果を検討するため, 無処理区, 雪圧除去区, 他の植物刈り込み区, 雪圧除去×刈り込み区を設置した.
結果と考察
ミズゴケの成長量の地域差
同種でミズゴケの成長量を比べると, 北海道西部または日本海側で東部を上回る傾向がみられた. これは, 2002年と同様の傾向であった(2003年度大会にて発表済み).
被陰の影響
ほとんどのハンモックで他の植物の刈り込みによって乾燥または枯死するミズゴケの割合が増加し, 成長量も低下した. また, 刈り込み区では夏季に標高が低下した. 刈り込みによって被陰による蒸発散抑制効果が失われ, ミズゴケが乾燥し, ハンモックを構成する泥炭が収縮していたと考えられる.
雪圧の効果
太平洋側では雪圧による標高はほとんど変化しなかったが, 日本海側では雪圧によってハンモックの標高が低下していた. 歌才では無処理区で標高が大きく低下したが, 翌年の成長量も大きく, 2003年秋には2002年の秋と同程度の標高になった. このことから, 歌才では積雪がハンモックの標高を地下水面に近づけ, その結果ミズゴケの生育に良好な湿潤環境が形成されたことが推察された.


11:30-11:45

O1-V09: 厚岸湖畔におけるアッケシソウ(Salicornia europaea L.)の分布に及ぼす影響

*山本 昭範1, 神田 房行2
1筑波大学大学院環境科学研究科, 2北海道教育大学・釧路・生物

アッケシソウはアカザ科の一年草で、海岸の塩湿地や内陸の塩湖に生育する。アッケシソウはわが国では四国の塩田で見つかっている例を除けば、北海道東部の海岸の塩湿地に分布する。アッケシソウは北海道東部の厚岸町の厚岸湖で発見されたことから、その名がつけられた。厚岸湖では牡蠣島に主に分布していたので、牡蠣島のアッケシソウ群落は「厚岸湖牡蠣島植物群落」として国の天然記念物ともなっていた。しかしながら、近年、牡蠣島は地盤沈下が著しく、牡蠣島のアッケシソウ群落は全く姿を消してしまった。しかし、以前からアッケシソウは、牡蠣島の他にも金田崎地区を中心として、厚岸湖の湖畔にも分布していることが報告されている。しかし厚岸湖の湖畔においても、生育環境の悪化などにより、その分布域、分布量が減少しており保護の必要性が認識されている。保護には基礎的な生態学的知見が不可欠である。そこで、アッケシソウの分布と微地形、満潮時の水深、土壌有機物量との関係に着目し調査を行った。湖岸から内陸にかけてベルトトランセクト法で調査を行った結果、アッケシソウは湖岸から約20mから90mの地域に分布していた。これを微地形の変化と比較すると、アッケシソウは微地形の変化に対応して分布していることがわかった。また、アッケシソウの分布と満潮時の水深を比較すると、水深の変化に対応した分布が見られ、比較的に水深の深い場所に分布することが確認された。さらに、アッケシソウは粗質泥土の土壌を好んで生育するが、今回の調査でもアッケシソウの分布している場所は粗質泥土であったことが確認された。しかし、土壌有機物量との間に有意な関係は見られなかった。これらの調査から、厚岸湖においては、アッケシソウは微地形と満水時の水深が分布の一要因として働いていると考えられた。


11:45-12:00

O1-V10: 温帯性海草の種ごとの分布上限は乾燥耐性が決めているか?

*田中 義幸1, 向井 宏2, 仲岡 雅裕3, 小池 勲夫1
1東京大学 海洋研究所, 2北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター, 3千葉大学 自然科学研究科

海草は堆積性沿岸生態系の主要な構成要素として、高い一次生産力を保持し、多様な生物種を維持している。アマモ(Zostera marina)とコアマモ(Zostera japonica)は温帯域に広く分布する海草であり、あらゆる地点においてコアマモの分布上限はアマモより浅いことが知られている。北海道東部の厚岸湖では、潮下帯にはアマモとコアマモが分布するのに対し、潮間帯にはコアマモしか分布しない。本研究はアマモとコアマモの分布上限の差を決定するメカニズムを検討した。
室内では、時間の経過にともなう葉の含水率の低下を測定した。野外においては潮下帯から潮間帯にアマモとコアマモを移植し、コントロールとして潮下帯、潮間帯に本来分布する種をその場で移植した。これらの株について、移植をおこなった7月から10月までの間、株数と株の高さならびに光合成活性(Diving-PAMによる)を測定した。また、株が干出した際、地面との間に出来る空間の大きさも計測した。
この結果、空気中ではコアマモはアマモと比較してより短い時間で葉から水分を失うことが明らかになった。潮下帯から潮間帯の移植では、実験開始時に対して終了時のコアマモ株数は118%であった。それに対して、アマモ株数は、28%まで著しく減少した。株の高さは、潮間帯に移植したアマモだけが有意に減少した。光合成活性は、コアマモでは潮間帯への移植、コントロールともに、有意な差が認められなかったが、アマモでは潮間帯へ移植した株の活性が有意に減少した。また、潮間帯のコアマモでは、干出時に地面との間に隙間がほとんど出来ないのに対して、アマモでは大きな空間が認められた。これらから、アマモとコアマモの分布上限の差は、形態上の特性によって決定されていることが強く示唆された。
 


13:30-13:45

O1-V20: 沖積砂礫地に成立するコナラ林の組成的特徴

*野田 浩1, 吉川 正人2, 福嶋 司2, 平中 春朗3
1東京農工大学大学院連合農学研究科, 2東京農工大学農学部, 3(株)国土環境

 コナラ林は山地、台地、丘陵地などに自然林もしくは二次林として広く分布しているが、東北南部や北関東、中部内陸域では河川沿いにも自然状態で発達したと考えられるコナラ林が成立していることが知られている。このコナラ林の成立立地は河川が山地から平野に流出する際に、上流から運ばれてきた物質が堆積することによって形成される沖積砂礫地である。
 本研究はこのような沖積砂礫地に成立するコナラ林の種組成およびその特徴を知ることを目的とした。
 調査地域は福島県の荒川、栃木県の蛇尾川、山梨県の小武川である。各地域の沖積砂礫地に成立しているコナラ林、周辺の山脚部に成立しているコナラ林、河川上流部に成立する渓谷林についての植生資料を収集し、これらの群落の種組成を地域ごとに比較検討した。
 いずれの地域でも沖積砂礫地に成立する林の優占種はコナラであることが多いが、シデ類やクリなど多くの樹種が混生していた。また、多くの場合、林床にササ類が繁茂せず、草本層は多様な種によって構成されていた。地域ごとに種組成を比較した結果、このコナラ林の構成種の中には山脚部に発達するコナラ林や渓谷林にはほとんど出現しない種が含まれており、比較した群落に対しては組成的な独自性を持っていることが分かった。また、その傾向は蛇尾川沿いに成立しているコナラ林でより顕著であった。各群落タイプをDCAによって序列化すると、調査対象とした林はいずれの地域においても山脚部のコナラ林に比べ、渓谷林に近い位置に配列され、より渓谷林との関係が強いと判断された。


13:45-14:00

O1-V21: 岡山県東部におけるGISを用いた植生の解析1 地質・地形と植生の関係

*森定 伸1, 山本 圭太2, 難波 靖司3, 山田 哲弘3, 波田 善夫2
1株式会社ウエスコ, 2岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科, 3財団法人岡山県環境保全事業団

目 的:岡山県東部を対象に植生図と地質図、50m格子間隔のDEMを用いて、地質・地形と植生の発達状況に関する詳細な解析を行い、植生の発達要因を明らかにする。
調査地:吉備高原の東端に位置し、最高点は妙見山の519m。調査地のほぼ中央を南北に、吉井川が流下する。気候的には、年平均気温13.9°C、年間降水量1,440mmの地域であり、暖温帯林の下部に位置する(暖かさの指数111.8°C・月、寒さの指数-5.1°C・月)。地質は多様であり、泥質岩、砂質岩等の堆積岩類、安山岩質岩、流紋岩質岩等の火山岩類のほか、花崗岩質岩を主とする深成岩類が分布する。全域がアカマツ、コナラ、アベマキの生育する代償植生とスギ・ヒノキ植林に広く覆われており、自然植生はコジイ群落、アカガシ群落等が社寺林として僅かに残されるのみである。
方 法:以下の各地図情報をオーバーレイし、関係解析を行った。
 植生図・・1/2万5千地形図を基図として、2001年に現地調査(植生調査結果から凡例を設定)と空中写真の判読により作成(環境省より貸与)。
 地質図・・土地分類基本調査「周匝・上郡」表層地質図(岡山県.1982)1/5万スケールを使用。
 DEM・・数値地図50mメッシュ(標高)日本_-_3(国土地理院.1997)を使用。傾斜角度、斜面方位、集水面積指数等の地形属性値を算出。
結果・考察:泥質岩や礫岩・砂岩などの堆積岩地域ではコナラ群落が比較的広く発達し、流紋岩質岩地域や花崗岩質岩地域ではコナラ群落よりもアカマツ群落が広く発達していた。地質が異なると、発達する植生の種類とそれらの分布量が異なっていた。同一の植生でも、異なる地質では、成立する地形が異なっていた。植生図化を効率的に行うためには、予め対象地域の地質地形情報を整理し、活用することが有効である。


14:00-14:15

O1-V22: 岡山県東部におけるGISを用いた植生の解析 2 約20年間における植生の変化

*山本 圭太1, 森定 伸2, 難波 靖司3, 山田 哲弘3, 波田 善夫1
1岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科, 2株式会社ウエスコ, 3財団法人岡山県環境保全事業団

目 的:岡山県東部を対象に作成年代の異なる2つの植生図と地質図を用いて、植生の変化と地質の関わりについて解析を行い、植生の発達要因を明らかにする。
調査地:吉備高原の東端に位置し、最高点は妙見山の519m。調査地のほぼ中央を南北に、吉井川が流下する。気候的には、年平均気温13.9°C、年間降水量1,440mmの地域であり、暖温帯林の下部に位置する(暖かさの指数111.8°C・月、寒さの指数-5.1°C・月)。地質は多様であり、泥質岩、砂質岩等の堆積岩類、安山岩質岩、流紋岩質岩等の火山岩類のほか、花崗岩質岩を主とする深成岩類が分布する。全域がアカマツ、コナラ、アベマキの生育する代償植生とスギ・ヒノキ植林に広く覆われており、自然植生はコジイ群落、アカガシ群落等が社寺林として僅かに残されるのみである。
方 法:以下の各地図情報をオーバーレイし、関係解析を行った。
 植生図・・第3回自然環境保全基礎調査「周匝」現存植生図(環境庁.1988)1/5万スケール(1984年調査)と1/2万5千地形図を基図として、2001年に現地調査(植生調査結果から凡例を設定)と空中写真の判読により作成(環境省より貸与)の作成年代の異なる2種類の植生図を使用。
 地質図・・土地分類基本調査「周匝・上郡」表層地質図(岡山県.1982)1/5万スケールを使用。
結果・考察:約20年間の植生の経年変化を比較すると、調査地全域でアカマツ林は75%に減少していた。1984年にアカマツ林であったメッシュのうち2001年には、25%がコナラ林へと変化し、10%のメッシュはマツ枯れによる治山回復措置として行われたと思われる植林の分布へと変化していた。アカマツ林の減少は花崗岩質岩地域で特に顕著で、流紋岩地域ではあまりその傾向が見られないなど、植生の変化には地質による違いがみられた。


14:15-14:30

O1-V23: 岡山県南東部の植生 -流紋岩質岩地域及び堆積岩地域の地形、土壌と植生-

*太田 謙1, 能美 洋介2, 波田 善夫2
1岡山理科大学 総合情報院 生物地球システム専攻, 2岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科

目的 :
 植生の分布割合や遷移段階、地形の傾向に、地質が大きく影響していることが寺下(2002)等の研究から明らかになってきた。瀬戸内沿岸地域では、劣悪な植生が発達する流紋岩質岩地域が広く分布しており、植生成立要因の解明が必要である。解析の結果、従来の知見と異なる地形と植生の関係を明らかにできたので、隣接する未変成堆積岩地域と比較し、報告する。
調査地、解析方法 :
 岡山県備前市(流紋岩質岩地域)と瀬戸町(堆積岩地域)において202地点で植生調査を行い、表操作から群落を区分し、植生図を作成した。STRIPE法(Noumi, 2003)によって格子間隔5mのDEMを作成し、地形属性を算出した。表層地質図、地形属性等を植生図とオーバーレイし解析を行った。さらに表層土壌を採取し、24- 2-3mmの篩にかけ、粒度組成を9段階に分け重量を測定した。
結果、考察 :
 流紋岩質岩では遷移の遅れたアカマツ低木群落が大半を占め、谷頭等には湿原が散在していた。堆積岩では乾燥しやすい尾根や斜面上部にアカマツ高木群落が分布し、斜面下部や谷の適潤地に、より遷移の進んだコナラ群落アラカシ群が分布していた。地質の異なる2つの地域に共通する群落は無く、地質によって明らかに植生が異なっていた。
 堆積岩地域の土壌は、地形に大きく影響を受けており、堆積傾向の場所ほど微粒成分が少なかった。一方、流紋岩質岩地域では地形に関係なく全域で微粒成分が多かった。
 堆積岩地域では、集水面積の増加に従い、より遷移の進んだ群落の割合が増加し、水分条件と遷移の間に大きな関係があることがわかった。しかし、流紋岩質岩においては、集水面積と植生の間に顕著な関係がみられなかった。従来の知見では、地質によって地形が異なり、植生に反映する要素が大きいと考えていたが、本研究では母岩の性質によって、地形の影響の割合が異なる事を明らかにできた。


14:30-14:45

O1-V24: スバールバル諸島ニーオルスン氷河後退域における土壌と植生の発達

*大塚 俊之1, 内田 雅己2, 吉竹 晋平3, 中坪 孝之3
1茨城大学, 2国立極地研究所, 3広島大学

  スバールバル諸島・ニーオールスンには、氷河後退域のツンドラ生態系が広がっており、氷河後退時期や微地形などの違いにより植生のモザイク状分布が認められる。生態系機能は植生タイプと密接に関係しており、ツンドラ生態系の広域的な炭素固定機能評価の第一段階として、一次遷移に伴う土壌の発達プロセスと植生構造との関係を明らかにすることを目的とした。
  2003年の8月に東ブレッガー氷河の先端から海岸まで約3kmのライントランセクトを5本設定し、各トランセクト上に200m間隔で調査プロット(各4m2) を設置した。各プロットにおいて、植生調査として藻類の被度と、コケ・地衣植物及び維管束植物のリストと被度、土壌調査として地表面の礫被度、動物の糞被度、土壌深度、土壌水分量、pHの測定を行った。さらに各調査プロットの複数の地点で深さ別の土壌サンプリングを行い土壌中の全炭素量と全窒素量を測定した。
 調査を行った全64プロットにおいて維管束植物は43種出現した。維管束植物の出現しない場所を除いた51プロットの組成からTWINSPANにより植生タイプを区分した結果、Salix polarisOxilia digynaを指標種として、両種が出現しないプロット(氾濫源と若い氷河後退域)と両種の出現するプロット(古い氷河後退域)の大きく二つのグループに分けられた。一次遷移の初期段階である、前者のグループでは礫被度は80%以上で、土壌深度は浅くpHは8以上のアルカリ性を示した。このグループのプロットでは植物の被度は極端に少ないが、コケや地衣類とほぼ同時に一次遷移のごく初期段階から維管束植物のSaxifraga oppositifolia が侵入することが確認された。一次遷移が進行した後者のグループでは土壌深度は10cmを超える場合もあり、pHもほぼ中性であった。このグループのプロットでは維管束植物のSalix polarisとコケ植物のSanionia uncinataが優占する群落が広がっているが、地形的要因によって、Dryas octopetala群落などのいくつかの植生タイプが区分された。


14:45-15:00

O1-V25: 風食による植被の破壊がもたらす強風地植物群落の種の多様性_-_飯豊山地の偽高山帯における事例

*小泉 武栄1
1東京学芸大学

 東北地方南部に位置する飯豊山地は、海抜2100mをわずかに越す程度の山地だが、残雪と高山植物に恵まれ、本邦屈指の広大な偽高山帯の草原が展開している。この山地では主稜線に沿うところどころで、強風によって植被や土壌の一部が縞状に削り取られ、地表に細長い裸地や溝ができているのが観察できる。筆者は北股岳の南東斜面を事例として、縞状の裸地とその周辺の植生調査を行い、風食が強風地の植物群落に種の多様性をもたらす役割を果たしていることを見出した。裸地は最初無植生だが、ソリフラクションなどの働きで礫が集積し、安定化すると、ミヤマウシノケグサやホソバコゴメグサなどの先駆植物が侵入する。それに続いてチシマギキョウやミヤマウスユキソウなどが混生し、さらにハクサンイチゲやコタヌキランが加わるなど、遷移の進行に伴って植物の種類は急速に増加する。これに対し、強風地で広い面積を占め、極相に達していると考えられるイネ科の草本を主体とする風衝草原では、植物の種類は大幅に減少してしまう。このことから風食による植被の破壊が、強風地の豊かな植物相の維持に大きな役割を果たしていると考える。


15:00-15:15

O1-V26: ノヤギの完全駆除から30年経過した小笠原諸島南島の地形的な植生パターンと種多様性構造

*朱宮 丈晴1
1(財)日本自然保護協会

過去にヤギの放牧で壊滅的な状態だった小笠原諸島の南島においてヤギの完全駆除から約30年たった植生の回復状況をドリーネ地形に沿った地形的な植生パターンと種多様性構造に注目して解析した。調査は地形に沿っていくつかのトランセクトを設置し、種類、最大高、被度を測定した。トランセクトは、1m×1mのコードラートを最小単位とし種数が飽和するまでコードラートを連結し、その立地の代表的な種群が全て含まれるようにした。その結果、ソナレシバ型、イソマツ型、コウライシバ型、ハマゴウ型、コハマジンチョウ型、モンパノキ型、クサトベラ型という7つの植生タイプが区分され、それぞれドリーネ内側と外側、斜面と尾根というように地形に対応して植生が分化していた。これは南島において30年を経てようやく植生パターンが形成され安定した状態になりつつあることを示しており、全種数が約60種で種飽和状態を示していることからも支持されると考えられた。ただし、種数の増加の背景には観光利用に伴うクリノイガなど人為的に散布されたと考えられる外来種の侵入が大きく影響しており、保護と適正な利用に向けて今後の保全策が求められている。


15:15-15:30

O1-V27: トルコ南部・チクロバ平野領水域の植生と群落構造

*玉井 重信1
1鳥取大学, 2京都, 3鳥取大学, 4チクロバ大学農学部

トルコ南部・チクロバ平野領水域の植生と群落構造
 玉井重信(鳥大・乾地研セ)・安藤信(京大・フィ_-_ルド研)・佐野淳之(鳥大・農)Yilmaz Tulhan(チクロバ大・農))
トルコ南東部の地中海に面したチクロバ平野の植生を「気候変動による半乾燥地植生の影響」(総合地球環境学研究所)に関する研究の一環として調べた。海岸林から標高1200mの亜高山帯針葉樹林まで垂直的に調査区を設定し種組成と群落構造を解析した。海岸から標高600m付近までは小麦、綿などの耕作地帯で現在殆ど原植生を反映した天然林は残っておらず、かろうじて国立公園、自然保護区などにマキ_-_構成種が優占した林分がある程度である。標高600_から_1000mの間は、Pinus bruita優占の林分が多く少ない降水量下で比較的大きい蓄積を維持しているものがあっったが、土壌条件(石灰岩、花崗岩)や家畜による被食の影響が植生の種組成、構造に認められた。現存している海岸林は上層がP.halepensis,下層がElicaなどマキ_-_の類が優占していた。群落構造は発達しておらず、上層と下層灌木の2層のみで形成されていた。標高0_から_600mの間の残存している植生は、上層はP.brutiaが優占している林分が多く古い林分ではQuercus cocciferaなどが混交し群落で垂直構造が発達しているが、新しい林分はArbutus andrachne、Q. occiferaなどを主とした灌木林が多い。標高600mから亜高山帯までは優占種はP.brutiaが多いが殆どは人工林である。1000m以上の亜高山帯林は土壌、斜面方位などによりAbies ciliica, Juniperus oxycedrus, Cedrus libani, Pinus nigraが優占し高蓄積林分もある。今後上記の群落が維持され、或いは気候変動によりどのように変化するか、とくに上層優占種推測が困難なマキ_-_と有効土壌がほとんど無い亜高山帯上部の遷移予測は本研究の大きな課題である。


15:30-15:45

O1-V28: ヤクスギ天然林の群集構造

*新山 馨1, 柴田 銃江1, 田中 浩1, 八木橋 勉1, 安部 哲人1, 野宮 治人1, 佐藤 保1, 金谷 整一1, 吉田 茂二郎2
1森林総合研究所, 2九州大学

屋久島のスギ天然林の群集構造を明らかにするため、既存の天文の森試験地(1ha)を2002年に拡張し、4haの試験地を設定した。試験地は太忠岳に近く、標高は約1200mで、全域にスギが分布している。ここで胸高直径5 cm以上のすべての幹の周囲長を測定し、4haで31種を確認した。林冠層はスギ、亜高木層、低木層ではサクラツツジとハイノキが優占していた。スギ天然林は、低標高の照葉樹林と比べると、種数の少ない、優占種のはっきりとした森林である。最大胸高直径を基に、突出木 (Emergent > 180 cm)、林冠木 (180 > Canopy > 60 cm)、亜高木 (60 cm > Sub-canopy > 30 cm)、下層木 (30 cm > understorey 15 cm)、低木 (15 cm > shrub)の5つに分けた。また幹数を種の豊富さ(abundance)として、優占種 (Abundant > 16 no./ha)、普通種 (Common > 4 no./ha)、まばらな種(Sparse > 1 no./ha)、まれな種 (Rare < 1 no./ha)の4つに区分した。突出木と区分されたのは全て針葉樹で、スギ、モミ、ツガ、林冠木は、ハリギリ、ヤマグルマ、ヒメシャラ、ウラジロガシの4種だった。亜高木にはカナクギノキ、リョウブなど7種が含まれる。サクラツツジ、ハイノキに代表される下層木には8種が区分されたが、この2種だけで全幹数の53%を占めた。まばらな種、あるいは稀な種と区分された15種の内、13種は下層木と低木であった。この森林では、個体数の少ない下層木や低木が種数に寄与している。最大胸高直径や幹数から区分した種群は、あくまで、この4ha 試験地での状態に基づいたものである。同じ樹種が照葉樹林では違うグループに属する可能性もある。


15:45-16:00

O1-V29: 高齢人工林内の植生構造と多様性を決める要因

*田内 裕之1, 五十嵐 哲也1
1森林総合研究所

間伐等の施業が適度に行われた人工林内の林内植生の種多様性は天然林のそれよりも高いと言われている。また、高齢になれば多様性が高くなるとも言われている。過去の人工林内の植生調査は、更新の可否を評価する目的としたものが多い。これらのデータセットを種多様性の解析に使用できれば、過去のデータが有効利用出来る。本研究では、1990年頃に北海道の国有林内にある50年生以上の針葉樹人工林約220地点で行われた植生調査資料を利用した。各調査地では、植栽木、天然更新木、ササの量、立地条件(標高・土壌など)、植栽や保育方法等の管理履歴が調査されている。このデータセットを利用し、人工林内に定着・生育した樹種の構造および多様性と環境要因との関係を解析した。植栽木を除いて植生分類を行うと、種子の散布型つまり風散布や動物散布の種が占める割合の大小によって分類出来た。さらに、序列化による解析を行うと、これらの種群ごとに環境要因と対応することがわかった。種多様性は多くの場合、過去の人為圧(管理履歴)によって大きな影響を受けていることがわかった。つまり、種数は立地要因や群落の持つ内的要因とも相関が認められなかったが、管理履歴としての更新(植栽)前の地拵え方法とに相関を持った。多様度指数H’も立地要因との相関をもたなかったが,過去の間伐率と相関を示し,間伐率が高いほどH’が大きくなる傾向を示した。これは,同じような中間的優占度を持つ種が多く存在することを意味する。実際に,H’が高い林分では同じサイズクラスの個体が多く,より多くの量を伐採した間伐行為が多数の種および個体の一斉侵入を許した結果でないかと考えられた。なお、高齢といえども人工林の林内植生は、植栽前の人為撹乱の影響が高く、伐採前後の管理方法が50年後も大きく影響していることがわかった。


16:00-16:15

O1-V30: キナバル山の熱帯下部山地林における熱帯針葉樹林の成立過程と構造

*清野 達之1, 北山 兼弘1
1京都大学生態学研究センター

マレーシア・キナバル山の熱帯下部山地林において,ナンヨウスギ科ナギモドキ属(Agathis kinabaluensis)が優占する林分で,熱帯針葉樹林の成立過程とその構造を調査した.A. kinabaluensisは調査地で最も優占し,最大樹高・胸高直径・地上部現存量ともに他の樹種よりも大きな値を示した.A. kinabaluensisの胸高直径の頻度分布では,L字型を示したが,胸高直径5cm以下の実生・稚樹は極めて少なかった.成長率から推定した A. kinabaluensisの最大樹齢は900年を越し,動的平衡状態を仮定したA. kinabaluensisの回転時間は約350年弱であった.同所的な他の針葉樹や広葉樹は,A. kinabaluensisよりも低い樹齢と回転時間を示した.A. kinabaluensisの空間分布や更新は調査地内の微地形に特別な関係を示さず,これは同所的な他の針葉樹や広葉樹でも同様であった.A. kinabaluensis は同所的な針葉樹や広葉樹とは上位の階層で,同所的な他の針葉樹や広葉樹と比較すると長い時間スケールで更新していることが示唆された.調査地の地形と土壌の堆積状況から過去に大規模な撹乱が起きていることが推察され,その後にA. kinabaluensisが成立し,現在の相観になったものと推察される.


16:15-16:30

O1-V31: 沖縄島漫湖湿地のメヒルギ林における現存量の器官分配と林分構造

*カーン エムディーナビウルイスラム1, 萩原 秋男1
1琉球大学 理学部

The weight of aboveground organs (leaves, stems, branches and their sum) and the leaf area of the Kandelia candel trees were estimated through the allometric method using D0.12H (D0.1, stem diameter at a height of H/10; H, tree height). The sample trees ranged from 0.52 to 6.90 cm in DBH and from 1.44 to 4.47 m high. A tree census was performed in a 20 m × 20 m plot, where the tree density was 15475 ha-1. The root biomass was estimated using a top/root ratio of 1.121, which was obtained by felling all the trees and digging out all the roots in a nearby plot (4 m × 4 m). In the K. candel stand, the biomasses of leaves, branches, stems, roots, aboveground total and total, and the leaf area index were estimated to be 5.70 Mg ha-1, 29.5 Mg ha-1, 40.5 Mg ha-1, 67.5 Mg ha-1, 75.7 Mg ha-1, 143 Mg ha-1 and 3.60 ha ha-1, respectively. The M-w diagram plotted on a log-log scale showed a strong linear relationship (r2 = 0.980), which indicates that the mangrove stand consists of only one canopy stratum. The analysis showed a single individual random distribution for the main stems, and a compact colony random distribution when the forks under breast height were counted.