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[要旨集] 口頭発表: 動物植物相互作用
- O1-W01: 亜熱帯西表島におけるオヒルギの送粉生態 (斉当, 上田)
- O1-W02: ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割(1) -メジロの個体群密度はヤブツバキの開花数に依存しているか?- (長谷川, 国武, 阿部, 樋口)
- O1-W03: ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割(2) -ヤブツバキの繁殖成功を花粉の遺伝的多様性から評価する- (阿部, 上野, 国武, 津村, 長谷川)
- O1-W04: ボルネオの湿地林・山地林を往き来するオオミツバチ (鮫島, 永光, 中静)
- O1-W05: 花序形態と花序内の蜜分布がマルハナバチの訪花行動に与える影響 (平林, 石井, 工藤)
- O1-W06: 盗蜜型ポリネーターがエゾエンゴサクの繁殖成功に及ぼす影響 (笠木, 工藤)
- O1-W07: サトイモ科植物とタロイモショウジョウバエにおける送粉共生系の進化 (竹中, 戸田)
- O1-W08: 形態的にスズメガ媒に特化したサギソウ(ラン科)におけるアザミウマの種子生産への貢献 (茂田, 井鷺, 中越)
- O1-W09: アブラナ科野菜F1採種系を用いた実験生態学 - 開花フェノロジーと訪花頻度が異系統間交配に及ぼす影響の評価 (石塚, 堀崎, 新倉, 小沼)
- O1-W10: 鳥類による種子散布が林の維持・更新に与える影響について (中本)
- O1-W11: 溶岩上におけるコナラ属実生の定着に野ネズミの貯食行動が与える影響 (三浦)
- O1-W12: エゾシカの採食圧が森林植生に及ぼす影響-阿寒国立公園における1995年-2001年の調査から- (宇野, 宮木, 梶, 玉田, 高嶋, 冨沢, 鬼丸)
- O1-W20: 植食動物の糞内容物からDNA解析による餌植物の同定 (松木, 島野, 阿部, 竹内, 矢竹, 梨本)
- O1-W21: ブナ樹冠内にみられる被食レベルの変異の要因 -葉位と光環境- (山崎)
- O1-W22: 沖縄本島周辺のジュゴンの摂餌率と海草の生長について (池田, 明田, 向井)
- O1-W23: 植物乳液が対植食者防衛に果たす決定的役割 _-_乳液中に濃縮された酵素・物質の存在理由_-_ (今野, 平山, 中村, 立石, 田村, 服部, 河野)
- O1-W24: 北海道南西部におけるセスジカメノコハムシの分布と寄主特異性 (藤山, 富樫, 片倉)
- O1-W25: アブラムシがセイタカアワダチソウ上の昆虫群集に与える間接効果 (安東, 大串)
O1-W01: 亜熱帯西表島におけるオヒルギの送粉生態
花粉の送受粉を動物に依存している植物にとって、花蜜や花粉などの送粉者への報酬を、いつ、どのように用意し、その存在をどのような方法で宣伝するか、というのは重要な問題である。なぜなら、訪花者が必ず送粉者となるわけではないからである。報酬だけを持ち去り、送粉に貢献しない訪花者を避け、より有効な送粉者を惹きつけるために、植物は系統的な制限の中で、花の構造や開花習性、香りや蜜標などの送粉者誘引信号を、誘引したい送粉者の性質に合わせて様々に進化させてきた。一般的に、花が赤色で匂いがなく、深く太い花筒をしており、分泌される花蜜の糖度が希薄で多量である花は、鳥を誘引するためにこのように進化したと考えられている。本研究の対象種のマングローブの一種であるオヒルギBruguiera gymnorrhizaは、まさにこれらの特徴を備えている。例えば、オヒルギは、他のマングローブ植物が白もしくは黄色の花を咲かせるのに対して、赤色の硬い萼に覆われた花を咲かせる。また、花弁や蜜線は硬く長い筒状の萼に囲まれおり、希薄な花蜜を多量に分泌し、芳香性物質の生成はほとんどなくほぼ無臭である。これらのことから、これまでの研究では鳥媒花であると報告されており同様に、沖縄のオヒルギも、メジロZosterops japonicaを送粉者とする鳥媒花であろうと考えられてきた。しかし、最近になって、数種の大型カリバチ類が多数訪花していることが報告され、これらもオヒルギの送粉者となっている可能性が指摘され始めた。本研究では、沖縄でのオヒルギの送粉生態を明らかにするために、オヒルギへの訪花者相、各訪花者の体表への花粉付着の有無、開花フェノロジー及び花蜜分泌パターンを調べ、オヒルギの送粉生態について考察した。
O1-W02: ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割(1) -メジロの個体群密度はヤブツバキの開花数に依存しているか?-
ヤブツバキの有力な花粉媒介者であるメジロ(Kunitake et al., in press)は、冬期の餌資源としてヤブツバキの花蜜に大きく依存している(国武・長谷川、未発表)。そこで、両者の相互依存性がどの程度の強さなのかを明らかにするために、メジロの個体群密度に対するヤブツバキの花資源量の影響評価を試みた。
1995年以来、我々は伊豆諸島の新島において、厳冬期におけるメジロの個体数とヤブツバキの開花数、及び繁殖期におけるメジロのさえずり個体数をモニタリングしてきた。2000年から2003年には、島の一部でトビモンオオエダシャクの大発生が続き、局地的にヤブツバキの開花がみられない地域が生じた。さらに、三宅島においては、2001年以後、噴火の影響程度が異なる地点でメジロとヤブツバキの生息・生育状況についてセンサスを行った。これらのデータセットを用いて、ヤブツバキの開花数がメジロの冬期個体数密度に及ぼす影響とメジロの冬期個体数密度と繁殖期におけるさえずり個体数の関係について解析を行い、以下の結果を得た。
1) 新島では、エダシャクの大発生が起きる前までは、島内に設置した3ヶ所においてメジロの冬期個体数は同調して年変化を示したが、発生後は、エダシャクの発生地域でのみメジロの個体数が減少した。
2) エダシャクによる食害程度が異なる10ヶ所において、ヤブツバキの開花個体密度とメジロの個体数は有意な正の相関を示した。
3) 三宅島において、メジロの冬期生息密度とヤブツバキの個体当たりの開花数は正の相関を示し、ヤブツバキの花が多い場所ほどメジロの生息密度が高かった。
4) 新島において、メジロのさえずり個体数密度は、冬期個体数密度によって左右されたが、冬期個体数密度には影響を与えていなかった。
以上の結果から、メジロの個体数密度は、ヤブツバキの花資源量に大きく規定されていることが明らかにされた。
O1-W03: ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割(2) -ヤブツバキの繁殖成功を花粉の遺伝的多様性から評価する-
本研究では伊豆諸島におけるヤブツバキの繁殖システムについて統合的な理解を図るために、花粉媒介における生物間相互作用について、花粉の遺伝的多様性に注目した検証を行った。
調査地である三宅島は、2000年から続く火山活動により、森林は破壊的な影響を受けている。しかし、森林を構成する樹種は火山ガスに対する耐性が異なっており、主要な構成種であるヤブツバキは、火山ガスに対する耐性が高く、展葉や開花活動が行われている。一方ヤブツバキの受粉に関与する鳥類(主にメジロ)は、ヤブツバキとは異なる影響を被っていると考えられる。そのため、花粉媒介における生物間相互作用系のモデルとして、三宅島内の火山活動の質が異なる複数地点において、ヤブツバキ(生存率、着葉率、葉の食害率、開花率、樹木あたりの開花数、結果率)と花粉媒介者の生息密度調査を行ってきた。
この結果、火山活動の質が異なる複数地点では樹木あたりの開花数が異なっており、それに正比例して花粉媒介者の生息密度が高くなることが明らかになった。そのため、開花数の少ないところでは、花粉媒介者の密度が低下しているために結果率が下がると考えられたが、結果率の調査の結果では、開花数の少ないところで逆に結果率が高くなっていた。しかしながら、たとえ噴火による開花率と花粉媒介者の密度の低下が、種子の受粉率を低下させないとしても、花粉の遺伝的多様性には何らかの影響を与えている可能性が考えられる。
そこで、まずは個体群間における開花密度の違いが花粉媒介者の生息密度とヤブツバキの繁殖成功に与える影響を検証するために、隣島である新島において、開花密度の異なる個体群間で結実率と花粉の遺伝的多様性の比較を行った。さらに噴火による被害程度の異なるヤブツバキ個体群間においても、花粉の遺伝的多様性について検証をおこなった。
O1-W04: ボルネオの湿地林・山地林を往き来するオオミツバチ
パキスタンからインドネシアにいたる熱帯アジアにおいてオオミツバチApis dorsataは最も重要な送粉者の一つとして知られている。森林が開花シーズンを迎えると多数のコロニーが飛来・営巣し、幅広い植物種の送粉を行う。数ヶ月間の開花シーズンが終わるとすべてのコロニーは飛び去り、次の開花シーズンまで帰ってこない。その遊動パターン・メカニズムは森林の植物群集の繁殖成功を大きく左右するにもかかわらずほとんど明らかになっていない。彼らはそれぞれの森林でいつも決まった場所に営巣することが知られているが、近年マイクロサテライト解析によっていつも同じコロニーあるいは以前の娘コロニーが同一営巣場所に飛来してくるということが明らかにされており、コロニーごとに比較的安定な遊動ルートを持っていることが示唆される。本研究は広域調査によってその遊動パターンの全貌を明らかにしようとした。調査地はマレーシア連邦サラワク州北部ランビル丘陵国立公園を含むバラム川流域(23,000km2)で、低地湿地林〜丘陵フタバガキ林〜山地林を含む。地域住民への聞き取り調査などから多数の営巣場所をおさえ、2002年11月以来営巣数のモニタリングを行っている。これまでおおよそ6-8月と11-1月は低地湿地林で、3-5月と9-10月は丘陵フタバガキ林(の一部地域)で多数の営巣が観察され、年2回の上下方向の遊動が推察された。また低湿地林全域と丘陵林の一部の営巣コロニーからはワーカー・幼虫を採集し、マイクロサテライト解析を行っている。この結果親子関係のコロニーの組み合わせが植生をまたいで見つかり、この植生間遊動説を支持した。同時に巣貯蔵花粉・蜜中の花粉植物種の同定を進めており、各植生での主要利用植物種も明らかになりつつある。これらの植物個体群の繁殖成功はオオミツバチ個体群の動態を通じて相互に影響しあっていると考えられる。
O1-W05: 花序形態と花序内の蜜分布がマルハナバチの訪花行動に与える影響
隣花受粉(同一個体内の花間の受粉)は植物の繁殖成功に負の作用をもたらすことが知られている。隣花受粉はポリネーターの花序内連続訪花や滞在時間の増加に伴って増えることが知られている。それに対して植物は、花序内の花蜜分布を変化させる、あるいは蜜を出さない花(空花)を提示することによって隣花受粉を減らす戦略を持っていると考えられている。しかしこれまでの研究では、蜜分布や空花の存在が多様な花序形態においてどのように機能するかについては十分議論されていない。本研究では植物の花序サイズ(花数)、蜜分布、花序形態がマルハナバチの行動に与える影響について、交互作用を含めた評価を行うことを目的とした。他の影響を排除するために同一規格の人工花序と、人工的に増殖させたマルハナバチのコロニーを用いて実験を行った。人工花序はサイズ2種類×形態3種類×蜜分布3種類を用意した。この際、全ての花序の花あたり平均蜜量は同じになるよう設定した。これらの花序にマルハナバチを訪花させ、最初の訪問中の花序内滞在時間と連続訪花数を計測した。
蜜分布は花序内滞在時間と連続訪花数に影響を及ぼした。特に、空花を含んだ花序では花序内連続訪花数が顕著に小さかった。一方、花序形態は花序内滞在時間と連続訪花数にほとんど影響を及ぼさなかった。また花序サイズにおいては、蜜分布や花序形態に関わらず、大きい花序で滞在時間と連続訪花数が増加した。以上より、マルハナバチの訪花行動は蜜分布とディスプレイサイズにより影響を受けるが、今回の実験においては花序形態によってその効果は変化しないことがわかった。
O1-W06: 盗蜜型ポリネーターがエゾエンゴサクの繁殖成功に及ぼす影響
オオマルハナバチはエゾエンゴサクの花弁後端にのびる距に穴を開けて盗蜜するが、花序上を動きまわる時に花内部の繁殖器官に接触して受粉に貢献することがある。このようにオオマルハナバチはエゾエンゴサクにとって盗蜜型ポリネーターとして機能するが、個体群レベルでの繁殖成功に対する効果は明らかではない。オオマルハナバチが多い低地林個体群と正当訪花型のマルハナバチが多い山地林個体群で、盗蜜行動を制限するために距の部分をストローで覆う処理(以下、ストロー処理と略す)を行い、エゾエンゴサクの結実と花粉持ち去りへの影響を調べた。
エゾエンゴサクへのマルハナバチの全訪問のうちオオマルハナバチの訪問が占める割合は、低地林では8割以上、山地林では4割以下であった。どちらの個体群でもポリネーターのタイプによらず花序訪問頻度と花序内訪花数はストロー処理と未処理間で差がなかった。正当型のマルハナバチは1花あたりの滞在時間に処理間差がなかったが、オオマルハナバチはストロー処理によって滞在時間が短くなった。これらから、ストロー処理によってオオマルハナバチの訪問及び花序内での移動を妨げずに盗蜜行動だけを制限することができたと考えられた。
山地林ではストロー処理と未処理間で結実率に違いはなかったが、低地林ではストロー処理によって結実率が低下した。花粉は両個体群とも開花期間中に徐々に持ち去られた。山地林では1花あたりの花粉残存量は開花期間を通して処理間差がなかった。一方、低地林ではストロー処理をした花の花粉が開花後期になっても多く残る傾向があった。これらの結果は、低地林個体群はオオマルハナバチに繁殖成功を依存しているが、山地林個体群ではそうではないことを示している。以上から、オオマルハナバチが優占するエゾエンゴサク個体群では、植物と盗蜜型ポリネーターの間に相利共生関係が生じていることが明らかになった。
O1-W07: サトイモ科植物とタロイモショウジョウバエにおける送粉共生系の進化
Many species of Colocasiomyia (Diptera, Drosophilidae) depend exclusively on flowers of Araceae species for mating, oviposition and larval development. These flies play an indispensable role in pollination of their host plants. This resembles fig and fig wasp system in having features of both plant-herbivore and plant-pollinator relationships. Characteristic of this pollination mutualism is that fly larvae do not eat the seeds. Furthermore, plant-insect relationships range widely, from obligate mutualism to broad generalism. However, there is some correspondence in host selection between Araceae tribes and Colocasiomyia species-group. Another feature of this pollination mutualism is 痾?ynhospitalism痾? in which two Colocasiomyia species coexist in a single host inflorescence. Usually, one fly species in a synhospitalic pairs uses mainly the upper (male) part of the inflorescence and the other species the lower (female) part. A phylogenetic tree of the flies suggests two possible pathways for the coevolution of this synhospitalism. We review this pollination mutualism and present new findings from Borneo.
O1-W08: 形態的にスズメガ媒に特化したサギソウ(ラン科)におけるアザミウマの種子生産への貢献
形態的に適応関係が確認される植物と送粉昆虫に関しては数多く研究が行われている.近年になり,形態的な適応関係が見られない送粉昆虫が植物の繁殖に高く貢献している事例の報告があり,その役割に注目が集されている.本研究ではサギソウ(Habenaria radiata; ラン科)において,適応対象の送粉者(スズメガ)と非適応対象の送粉者(アザミウマ)の種子生産への貢献度を,送粉実験により明らかにする.サギソウは細長い距により長い口吻を持つスズメガに適応している.スズメガはガ類の中で口吻の長さが特に長く,ホバリング飛行し,飛翔能力が最も高いグループである.アザミウマは体長1-2mm程度の小さな昆虫で,花粉や蜜,花弁などを餌とする.様々な植物の送粉を行うジェネラリストの送粉昆虫として知られている.
夜の訪花昆虫の観察ではスズメガの訪花が確認され,昼の観察ではアザミウマの訪花が確認された.サギソウの距の長さとサギソウを訪花したスズメガの口吻の長さはほぼ一致し,両者の緊密な適応関係が示された.
受粉実験では6つの実験を行った.その内の3つは,I メッシュの袋を被せてスズメガを排除.アザミウマが送粉.II 放置.スズメガとアザミウマが送粉.III 紙の袋を被せて両者を排除.
それぞれにおいて結朔率と結実率を求め,両者をかけ合わせたものを種子生産指数とし,送粉昆虫の種子生産への貢献度を次のように求めた.
スズメガの貢献度:[(種子生産指数 II - 種子生産指数 I)/ 種子生産指数 II ]x 100 = 72%
アザミウマの貢献度:[(種子生産指数 I - 種子生産指数 III)/ 種子生産指数 II ]x 100 = 26%
スズメガと長い距を持つランの緊密な送粉共生は,共進化の有名な例である.そのような共生関係を確立した植物において,アザミウマのようなジェネラリストタイプの送粉昆虫が全種子生産の1/4に貢献しているということは驚くべき事実である.
O1-W09: アブラナ科野菜F1採種系を用いた実験生態学 - 開花フェノロジーと訪花頻度が異系統間交配に及ぼす影響の評価
高等植物における生態学的な仮説を検証する際の実験系を組もうと考えた時、野生植物を用いるとしばしば実験材料の制約を受ける。例えば、遺伝的背景が比較的均一な個体を多数そろえることは難しい。このような困難を克服するためには、既存の実験植物を用いるかあるいは自ら材料を育成して実験に供することになる。しかしながら、これらの方法にはどちらも問題が存在する。実験室系統のシロイヌナズナのような前者は、自殖性が強くかつ環境条件の変化に対する様々な反応性を失っているため野外実験には適さない。また、後者のような場合は材料の作出に長い時間がかかる。そこで我々は、これらの問題を回避するためのモデル植物としてアブラナ科野菜のF1採種系で用いられる自家不和合性を有した近交系統品種を採用し、植物の他殖率に与える要因を実験的に明らかにするための研究を開始した。この系を用いることの利点は、遺伝的背景がそろっておりかつ栽培条件等がよく分かっている材料をそろえた野外実験を行えることにある。
本研究では、人工集団を構成し、他殖率に影響を与えるであろう2つの要因、すなわち他個体との開花の同調性および訪花頻度が他殖率(系統間交配率)に及ぼす影響を評価した。
系統間交配率を目的変数、各系統での各花の開花期間中の平均訪花頻度の推定値(平均訪花頻度)、各開花日での全開花数に占める相手系統の花数の割合(系統間での開花同調性)、個々の花の開花期間中の平均気温 (気温)、それぞれの花の花序中での位置(花の位置)、各花が位置する分枝の違いおよび系統の違いを説明変数として名義ロジスティック回帰分析を行った。分析の結果、開花の同調性の増加は系統間交配率を有意に増加させることが検出されたが、平均訪花頻度、気温、花の位置、及び分枝の違いの系統間交配率に対する影響は有意ではなかった。この結果は、本研究に試供した2系統での系統間交配率は、第1に系統間での開花の同調性に最も大きな影響を受けていること、第2に訪花頻度の影響は開花の同調性に比べ検出できないほど小さなものであったことを示している。
O1-W10: 鳥類による種子散布が林の維持・更新に与える影響について
本研究は、多肉果樹種の種子の散布傾向を明らかにし、季節による果実食鳥の役割の違いについて検討した。
<方法> 北海道帯広市近郊の9林分において多肉果樹種と鳥類の出現を調査した。多肉果樹種は上層(樹高2m以上)と下層(樹高2m以下)に分け、下層はさらに林縁と林内に分け出現種を記録し、結実期により夏型と冬型に分類した。林内の上層と下層、林内の下層と林縁の下層、全下層と上層の出現種の間でシュレンセンの類似度を算出し種子の散布傾向を把握した。出現した鳥類を夏期の果実食鳥(夏鳥とする)・冬期の果実食鳥(冬鳥とする)及び果実食鳥以外に分類し、夏鳥と冬鳥の多様度指数(J指数)を算出した。季節による鳥類群集の構造の変化が種子散布にどのように影響しているか、類似度との比較により検討した。
<結果> 夏鳥の個体数が増えると、全下層と上層の類似度が上がった(P>0.05)。冬鳥の割合が増えると、林内の下層と上層の類似度は下がり(P>0.05)、林内の下層の出現種に占める多肉果樹種の割合は減った(P>0.05)。冬鳥のJ指数が増すと、林内の下層と林縁の下層の類似度は上がった(P>0.01)。夏鳥は、林分内で生産された種子を林分内に散布し、冬鳥は種子を均等に分散させ、林外に運び出していることが示唆された。
<考察> 夏期の鳥類は、繁殖期に当たりつがいでなわばりを持つ。夏型の果実は、果実が短時間で落下することに加え、夏鳥が被食してもその散布範囲は狭く、林分内で生産された種子は多く林分内に散布される。一方、冬期の鳥類は群れで広範囲を周回する。冬型の果実は、長時間植物体上に残ることからも、冬鳥に被食され林外に持ち出される機会は多く、林分内で生産された種子は主に林外に散布される。夏鳥は林分内での多肉果樹種の分布の拡大・個体群の維持に貢献し、冬鳥は広い範囲での種子の林間の移動・分布の拡大に貢献しているものと考えられた。
O1-W11: 溶岩上におけるコナラ属実生の定着に野ネズミの貯食行動が与える影響
富士山北麓では,溶岩流上に針葉樹林が成立し,そこに所々コナラやミズナラが混生している.ここでは,露出した溶岩と薄い土壌がモザイク状に分布し,実生が定着可能な場所が限られている.このような環境では,コナラやミズナラの堅果は野ネズミによってどのような場所に運ばれ,それが実生の定着にどう影響するかを知るために,野ネズミによるミズナラ堅果の貯蔵場所と運搬経路,実際の実生の生育場所について調べた.調査は,富士山北麓の剣丸尾溶岩流上に成立したアカマツ林内で行った.堅果の貯蔵場所と運搬経路は,糸巻きをつけた堅果を林床に置いて野ネズミに運搬させ,そこから繰り出された糸を追跡することによって調べた.その結果,大部分の堅果が溶岩中の空洞の奥に運び込まれていた.空洞の奥は,ほとんど光が届かず,土壌も全くないため,実生の発芽には不適である.また,運搬経路は露出した溶岩上や溶岩沿い,倒木上や倒木沿いに偏っていた.一方,コナラ属の実生が生育していた場所は,溶岩が露出した場所付近や,倒木付近に偏っているという傾向は見られなかった.このように,実際の実生の生育場所は堅果の貯蔵場所や運搬経路と全く異なる環境であった.さらに,堅果は実生の定着に不適な環境に貯蔵されていることから,野ネズミの貯食行動は実生の定着率を下げていると思われた.実際に定着している実生は,豊作年に野ネズミによる運搬を免れたものが落下地点で発芽したものではないかと推察した.
O1-W12: エゾシカの採食圧が森林植生に及ぼす影響-阿寒国立公園における1995年-2001年の調査から-
生態系の中で、大型の草食獣である有蹄類が植生に大きな影響を及ぼすことが広く知られている。国立公園などの保護地域では希少植物種の地域的な絶滅や鳥類群集への影響等が危惧されている。近年、エゾシカ(Cervus nippon yesoensis)個体群の増加により、森林生態系における自然植生に大きなインパクトを与えていることが明らかになってきた。国立公園の生物多様性を保全していく上で、植生に及ぼす草食獣の影響を把握することは急務である。本研究は、1) エゾシカの採食圧が森林植生に及ぼす影響を明らかにすること、2) エゾシカの個体群管理の効果を測定することを目的として行った。
1995年8月、阿寒国立公園内の針広混交林に4箇所、落葉広葉樹林に2箇所、開放環境(土場)に1箇所、囲い柵(10×20m)を設け、シカを排除した「囲い区」と対照としてシカの行動を妨げない「放置区」を隣接箇所に設置した。1995年8月に樹高1.3m以上の木本について毎木調査を行い、個体ごとに標識した。その後1997年、1999年、2001年に追跡調査を行い、エゾシカの採食の有無、新規加入個体等を記録した。
林床植生については、各調査区内に2×2mの方形区を設置し、1×1mの小区画ごとに草本類の植被率、種ごとの被度・草丈等を記録した。優占するクマイザサについては被度のほかに、3調査区において1995年-1997年に刈り取り調査を実施し現存量の変化を測定した。
2001年に6箇所(86%)の囲い区において加入個体が観察されたのに対して、放置区においては全く観察されなかった。これは放置区の稚樹がエゾシカに採食され、胸高に達する個体がなかったためであった。また、クマイザサの地上部現存量は囲い区において、1997年に有意に増加した。これらのことから、エゾシカの採食圧が森林植生に大きな影響を与えていることが明らかとなった。本報告では主に木本類と林床(クマイザサ)の調査結果について報告し、さらにエゾシカの個体群管理の効果、生息密度の変化と植生の変化等について考察する。
O1-W20: 植食動物の糞内容物からDNA解析による餌植物の同定
はじめに
野生動物の食性調査としては糞や胃内容物の観察による分析が一般的であるが,破砕・消化により形状が変化したものでは餌種の判別が困難な場合が多い。そこで,糞中の形状が変化した残渣からでも餌種が同定できるように,DNA解析を用いた食性調査法について検討した。
材料と方法
山地帯から亜高山帯にかけて生育している植物700種からDNAを抽出し、葉緑体遺伝子rbcLの一部領域(105bp-420bp)の塩基配列を決定し、データベース化した。糞の未消化の植物残渣からDNAを抽出し、上記DNA領域をPCRで増幅した。増幅産物をクローニングし、無作為に選んだ40ヶのコロニーについてダイレクトシークエンスした。得られたDNA配列を上記データベースと照合し、植物種を同定した。
結果と考察
データベース化した植物種は、シダ植物7科7属8種、種子植物110科381属692種(亜種23種を含む)で種子植物を中心に広範な分類群を含むものである。塩基配列の解析から476種類の配列が認められた。364種類については種特異的配列で種までの同定が可能であり、112種については複数の近縁種まで絞り込むことが可能であった。
野外に排泄されたノウサギ糞から餌植物の同定を試みた。夏季のほぼ同じ時期に伐採跡地およびブナ自然林で採取した糞を解析した結果、それぞれ9種類および7種類の植物の配列が検出され、採食した餌植物を種レベルで同定することができた。1種を除き両地域では異なる植物種を餌としており、伐採跡地では主に草本植物が多く、ブナ自然林では木本植物が多く検出された。このように植生タイプの違う生息地では、異なる植物を採食していることが示された。また、カモシカおよびヤマドリの糞からも同様に分析を行い、餌植物を同定できることを確認した。したがって、本方法は植物食の動物の餌種同定に汎用的に適用できる可能性が高いと考えられた。
O1-W21: ブナ樹冠内にみられる被食レベルの変異の要因 -葉位と光環境-
樹高18mのブナ(Fagus crenata)を対象に、植食性昆虫による被食面積の樹冠内における空間的な変異及び時間的な変化を2001年と2002年の2年間調査した。京都市北部の京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林において、樹冠観察用のタワーを設置したブナの樹冠内で光環境が異なる24葉群を設定し、各葉群で計約6000枚の葉を開葉直後から落葉するまでモニタリングし、葉の被食面積の変化を追った。植食性昆虫による被食が観察された際は、葉をちぎらずにデジタルカメラで写真を撮り、被食面積の割合を NIH Image を用いて計算した。こうして得られた被食面積のデータについて、開葉後1ヶ月以内・1ヶ月以降の2期間に分けて、光環境の異なる葉群間及び葉位の異なる葉群間で比較した。
開葉後1ヶ月以内は光環境が被食面積に及ぼす影響は明らかではなかったが、葉位の異なる葉群間では被食面積に有意な差が認められ、開葉時期が遅い葉位の葉の方が被食面積が大きい傾向がみられた。この時期は葉の成熟が完了しておらず、葉の特性の変異が葉位によって、すなわち開葉時期のずれによって生じていると思われ、これが葉位の異なる葉群間での被食面積の差となって表れていると考えられた。
開葉1ヶ月以降の被食面積については葉位の影響は見受けられず、光環境の影響が認められた。すなわち、明るい環境下の葉群ほど被食面積が小さくなる傾向がみられた。この時期は葉の成熟も完了しており、明るい環境下の葉は陽葉化、暗い環境下の葉は陰葉化して、葉の特性に及ぼす影響は葉位よりも光環境の方が大きいと考えられた。そして、植食性昆虫は厚く固い陽葉よりも薄く柔らかい陰葉の方を選好していることが示唆された。
O1-W22: 沖縄本島周辺のジュゴンの摂餌率と海草の生長について
ジュゴン (Dugong dugon)は沖縄本島周辺にもわずかに生息し,沿岸浅海域に生育する海草を摂餌している.本研究は,ジュゴンが利用した海草藻場の1つにおいて,摂餌痕(ジュゴントレンチ)を基にジュゴンの摂餌率を調査し,また同海域で海草の生長量を測定することで海草の回転率を把握することを目的とした.
2003年9月に,沖縄県名護市の東海岸の海草藻場において,10cm×10cmの方形枠をジュゴントレンチ内・外のペアで14ペア設置・坪刈採取し,海草種毎の現存量を測定した.また,海草種毎(10株)の葉部の生長量を夏季,冬季で測定した.
調査地の海草藻場は6種の海草が混生しており,調査地点ではボウバアマモが優占し,海草現存量は0.713-1.302gdw/100cm2(1.01gdw±0.25/100cm2)であった.
ジュゴントレンチの平均長は110-230cm(平均172cm±49),平均幅は15-25cm(平均20cm±3)であった.トレンチ内外の海草現存量比較から求めたジュゴンによる海草葉部の摂餌率は33.7-87.7%であり,平均71.5±22.1%であった.また,トレンチ毎の葉部の摂餌量は0.153-0.678gdw/100cm2であった.
海草の生長量については,夏季ではボウバアマモが5.0±2.3 mm、マツバウミジグサが6.5±3.0 mm,ベニアマモが10.6±3.9 mm,リュウキュウスガモが11.6±3.3 mm,リュウキュウアマモが6.8±3.5mmであった.冬季は夏季の成長に比べて,ボウバアマモが53.9%(2.7±1.3mm),マツバウミジグサが56.0%(3.7±1.2mm),リュウキュウスガモが42.5%(4.9±1.6mm),リュウキュウアマモが73.8%(5.0±1.5mm)であった.
伸長から求めた海草の種毎の回転率は夏,冬それぞれ,マツバウミジグサで14.8日,29.5日,リュウキュウスガモで16.5日,40.4日,ボウバアマモで23日,45.7日,リュウキュウアマモで29.6日,40.6日で,マツバウミジグサの回転率が夏期・冬期とも一番高かった.
O1-W23: 植物乳液が対植食者防衛に果たす決定的役割 _-_乳液中に濃縮された酵素・物質の存在理由_-_
植物に傷をつけたときに溢出してくる乳液は多くの植物に存在しているが、乳液の植物にとっての本来的役割には諸説があった。諸仮説のなかで、植物乳液が植物の対植食者防衛に重要な役割を果たしているという「防衛仮説」は乳液中に毒物質が存在しているケースが多いことなどの客観的・実験的証拠に支持されているため有力であるが、毒物質が全く報告されていない乳液も非常に多いなど問題点も多かった。
そこでパパイア・ハマイヌビワ・クワ・タンポポ・ガガイモなどこれまで特に毒物質が報告されていない植物について調べたところ、これら植物の乳液はエリサン・ヨトウガ・ハスモンヨトウ等の広食性昆虫に顕著な防衛効果を持っていた。特に、パパイアやハマイヌビワ(クワ科イチジク属)では乳液中に高度に濃縮されたタンパク質分解酵素(システインプロテアーゼ)が強力な防衛の主因であった。この2種の乳液植物の葉はエリサン・ヨトウガ類に顕著な殺虫毒性を持っているが、乳液除去やシステインプロテアーゼ阻害剤のE-64塗布により殺虫性が完全に失われる。植物乳液中には以前から種々の酵素・タンパク質の存在が知られていたが、我々の結果は植物乳液の酵素・タンパク質が植食昆虫にたいする防衛において決定的役割を持つことを実験的に示した初めての例である。乳液を出す植物であるクワ科植物についてさらに調べたところ、いずれの乳液も植物の植食昆虫に対する防御に重要な役割を果たしているが、乳液中に濃縮されている防御物質は非常に多様であることがわかった。また、他の植物乳液に濃縮して存在する諸酵素・物質も耐虫性物質として解釈可能なものも多く興味深い。以上の点をもとに、植物乳液が植物の対植食者防衛に果たす役割と乳液による防衛の特徴について論じる。
O1-W24: 北海道南西部におけるセスジカメノコハムシの分布と寄主特異性
セスジカメノコハムシCassida vibexは旧北区に分布し、アザミ類を食草としている。日本では一般的に、本種は本州に分布するとされているが、北海道南西部にも分布していることが経験的に知られている。本講演では、北海道南西部における本種の分布と食草利用状況の調査結果および実験室内で調べた寄主特異性を報告する。2003年に計39地点でマルバヒレアザミ・ミネアザミ・サワアザミ・オオノアザミ・タカアザミ・チシマアザミ・Cirsium sp.・エゾノキツネアザミの8種の潜在的食草を調査したところ、同属の普通種アオカメノコハムシC. rubiginosaが31地点で6種のアザミより確認された一方で、セスジカメノコハムシは2地点でのみいずれもミネアザミ上で確認された。室内実験は野外で一般的であるマルバヒレアザミ・ミネアザミ・サワアザミ・オオノアザミを対象として行った。セスジカメノコハムシの成虫を用いた無選択摂食実験ではミネアザミ以外のアザミ類もおおむねミネアザミと同じ程度摂食し、ミネアザミと他のアザミ類のうち1種の葉を同時に与えた選択摂食実験においてもミネアザミをより好むという傾向は認められなかった。また、幼虫を4種のアザミで飼育したところ、羽化率は全体に低かったもののアザミ種間での有意差は検出されず、成育期間と体サイズに関してもミネアザミが食草としてより適しているという証拠は得られなかった。以上の結果は、北海道南西部におけるセスジカメノコハムシの食草がなんらかの生態学的要因によってミネアザミに限定されているか、あるいは、今後ミネアザミ以外からも本種が確認される可能性の両方を示唆している。
O1-W25: アブラムシがセイタカアワダチソウ上の昆虫群集に与える間接効果
We investigated insect communities on a perennial forb Solidago altissima in Japan. The most dominant species was an aphid Uroleucon nigrotuberculatum, which mainly occurred from June to August. The aphid was tended by an ant Formica japonica for honeydew. Moreover, the aphid colonization induced rapid branching and increased the production of new leaves in October. Therefore, we hypothesized that the aphid colonization indirectly affected not only co-occurring herbivorous insects through removal behavior by the attending ants, but also temporally-separated insects in autumn. To test this hypothesis, we conducted an aphid exclusion experiment. The aphids negatively affected the abundance of caterpillars and leafhoppers by the excluding behavior of the attending ants in early season. On the other hand, the aphids also affected the abundance of temporally-separated insects, such as scale insects and grasshoppers, in late season. Prior sucking by the aphids decreased the density of scale insects. The decreased scale insects may be due to changes in plant quality by the feeding of aphids in early season. The decreased density of scale insects resulted in a reduction of density of the attending ants to scale insects. Therefore, the density of grasshoppers increased because of the low impacts of tending ants.