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[要旨集] 口頭発表: 繁殖・生活史
- O1-Z28: アカクローバにみられる生活史特性の密度依存性 (平田)
- O1-Z29: 雑種起源種トウカイコモウセンゴケの集団間における生活史特性の変異 (中野, 小藤, 植田, 石田, 木下)
- O1-Z30: 関東地方におけるコナラ果実形態の3年間の比較とその形態変異に関わる要因の一考察 (岩渕, 星野)
- O1-Z31: 水位変動下における両生植物ヒメホタルイの種子からの定着と水散布の役割 (石井, 角野)
- O1-Z32: 熱帯雨林の林床植物Acranthera属2種のハビタットと更新様式 (森, 名波, 伊東, Sylvester, Chong, 山倉)
- O1-Z33: シウリザクラの雌雄繁殖成功とクローン繁殖 (森, 永光)
- O1-Z34: マイクロサテライトマーカーによる花粉1粒を対象とした遺伝子型解析 (井鷺, 近藤, 松木, 陶山)
- O1-Z35: 葉寿命や葉質からみた常緑草本の類型 (大野)
O1-Z28: アカクローバにみられる生活史特性の密度依存性
アカクローバは、生育期間が2-4年である短年生草本に分類されており、本来、造成後5-10年以上利用される採草用牧草地への利用には適さない草種といえる。個体の持続性のような植物の生活史特性は、個々の個体の遺伝的要因に加え、その近傍の環境的要因に支配されている。本報告では、アカクローバの生活史特性における密度効果の影響を検討するため、局所密度に勾配を持たせた密度勾配区を設け、アカクローバの生活史特性と局所密度間の関連について検討した。
調査した品種は、古くから北海道で利用されている「サッポロ」とそれを母材の一部として育成された「ホクセキ」である。2001年6月に、各品種のプラグ苗を、起点から8方向に、株間3cm、5cm、10cmおよび20cmでそれぞれ3列定植し、試験区(各品種5試験区)とした。各試験区は、4つの密度区(UH区、H区、N区、L区、各区の3列目はボーダ)を設けた。調査は、3試験区については2001年から2003年の刈取時(年2回、2001年は1回のみ)に行い、生存個体の配置を調査した後、各密度区あたり4-6個体について個体毎に開花頭花数、着花茎数、部位別乾物重を調査し、2003年の刈取2回目では、堀取調査を行った。残りの2試験区は、刈取を行わず、1試験区は2001年に、生存率および堀取調査、もう一つの試験区では、2002年における生存率の調査を行った。
各密度区間で生存割合を比較したところ、局所密度が高くなるにつれ生存割合が減少する傾向が認められた。開花個体の割合は、2002年刈取1回目までは局所密度が低下するにつれ、増加する傾向が認められたが、それ以降、サッポロのUL区を除き、差異が減少した。乾物分配では、2001年の調査では高密度区で頭花の割合が高かったのみ対し、2003年の調査では、高密度区で根部の割合が高かった。以上のように、アカクローバにおいて生活史特性の密度依存性が認められた。
O1-Z29: 雑種起源種トウカイコモウセンゴケの集団間における生活史特性の変異
トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケとコモウセンゴケを両親種とする交雑起源の複倍数体種である。地球規模で見るとモウセンゴケとコモウセンゴケの分布域は全く異なり、モウセンゴケは北半球の温帯域から亜寒帯域に分布するのに対し、コモウセンゴケは暖温帯域を中心に分布する。トウカイコモウセンゴケの分布は日本に限られ、両親種の中間域に分布しており、コモウセンゴケが生育する大平洋側海岸付近から、コモウセンゴケの分布域外の本州内陸部、北陸地方に達している。モウセンゴケの種子は休眠性、コモウセンゴケの種子は非休眠性である。トウカイコモウセンゴケの種子には、休眠性種子と非休眠性種子がある。単独の個体が性質の違う種子を生産することは種子異型性と呼ばれ、変動環境下における両がけ戦略の効果があると考えられている。種子異型性が危険分散であるとする理論的研究では、非休眠種子の生産比率は好適条件が来る確率に比例すると予測されている。生育環境が地域集団間で異なり、種子異型性を示すトウカイコモウセンゴケでは、個体の休眠/非休眠種子生産比率が遺伝的に決定されており、集団によって適応的な生産比率が異なっている可能性がある。
本研究ではトウカイコモウセンゴケには集団間で遺伝的な変異があり、異なる生活史戦略をとっているという仮説を立て、分子データによる解析および生活史特性の集団間比較を行った。
その結果、休眠/非休眠種子生産比率等,生活史特性には集団間や集団内で変異があった。太平洋側の2集団は休眠/非休眠種子生産比率が約0%であるのに対し、日本海側の1集団は約100%、別の1集団は40〜60%であった。トウカイコモウセンゴケと両親種2種が同所的に生育する集団では、0%〜100%というように集団内の変異が大きかった。本研究では、このような集団間変異について、分子データを用いて考察する。
O1-Z30: 関東地方におけるコナラ果実形態の3年間の比較とその形態変異に関わる要因の一考察
関東地方に生育するコナラ個体の堅果,殻斗を2000から2002年の3年間採集し,採集年間での形態比較,また形態と母樹生育地の環境要因との関係を年毎に解析した。また2001年,2002年で採集した同一個体の堅果,殻斗形態について,採集年間での形態変異に関わる要因について考察した。堅果,殻斗は,東京都,神奈川県,埼玉県,栃木県,群馬県,茨城県の標高30から1100mの地域で採集した。各年の採集個体数は,2000年に43個体,2001年に61個体,2002年に40個体であり,2001年と2002年で20個体を同一個体から採集した。堅果で長径,短径等4項目,殻斗で直径,柄の長さ等5項目,計9項目を計測し,このうち2項目を用いて堅果,殻斗椀内,殻斗の柄の近似体積を算出した。堅果,殻斗形態についてのこれら12項目の中央値を解析に用いた。採集年間での形態比較の結果,堅果2項目と殻斗2項目とに年間で有意差がみられた。また,同一個体の堅果,殻斗形態を2001年,2002年間で比較した結果,堅果2項目に有意差がみられ,2002年の堅果2項目値は2001年に比べて値が小さくなる傾向がみられた。堅果,殻斗形態についての12項目と,母樹生育地の標高,月平均・月最高・月最低気温,暖かさの指数 (WI),月降水量との関係を年毎に解析した。気温,降水量データは,気象庁による気温,降水量のメッシュ統計値と,母樹生育地に最も近い気象台の気温値,降水量値とを用いた。堅果3項目と母樹生育地の標高との間には,3年間に共通して有意な負の相関がみられた。堅果2項目と気象台の月平均・月最高・月最低気温,WIとの間には,3年間に共通して有意な正の相関が,8月の降水量との間には有意な負の相関がみられた。堅果3項目と月平均・月最高・月最低気温のメッシュ統計値,WIとの間には,3年間に共通して有意な正の相関がみられた。
O1-Z31: 水位変動下における両生植物ヒメホタルイの種子からの定着と水散布の役割
両生植物は、水位変動に対応して水中形と陸生形をとることができる水辺に生育する植物のグループである。両生植物の1種であるヒメホタルイ(Schoenoplectus lineolatus)は、水位が低下して陸生形となったとき成長ならびに繁殖が最適になることが今までの研究から明らかにされている。特に、有性繁殖は水中では起こらず、開花シーズン中の水位低下を待って開花・結実する。
このようにして生産された種子は、その後、水位上昇にさらされるかもしれない。ヒメホタルイの種子による定着は、水位変動にどのように影響を受けるのであろうか?また多くの水生植物が水散布を行っており、両生植物においては水位変動と水散布が密接に関係している可能性がある。本研究では、ヒメタホルイの自生地および圃場での栽培実験により、(1)種子の発芽および実生の生存と水位との関係を明らかにし、(2)種子からの定着のために水散布が果たす役割を検討した。
ヒメホタルイの自生地で4段階の水深(実験開始時;0, 0.3, 0.7, 1.1m)の栽培実験を行った結果、種子の発芽および実生の生存ともに水深0mで最も良好であった。さらに夏の水位低下によって干上がると水深0.3mと0.7mにおいても種子の発芽数が再び増加した。またヒメホタルイの種子は、水上の花穂から脱落した場合は水面に浮遊したが、いったん水中に沈むとほとんどの種子が再び浮上することはなく水底に沈んだ。
以上の結果から、ヒメホタルイの種子は水位低下時を待って発芽し定着する特性を持っていることが明らかとなった。種子散布の後に水位が上昇しても、水面に浮遊している種子は水際に運ばれて発芽しその実生は定着できる。水散布されずに水没した種子は、次の水位低下を待って定着するのだろう。
O1-Z32: 熱帯雨林の林床植物Acranthera属2種のハビタットと更新様式
ボルネオ産アカネ科Acranthera属の近縁2種,A. frutescens Val.(種1)および A. involucrate Val. (種2)(Bremekamp, 1947)は,マレーシア国サラワク州ランビル国立公園の52ha調査区にも出現する.2002年から2003年にかけて,調査区内で2種の住み場所,個体数,個体あたり茎数を調べ,2種の住み場所と更新様式を比較した.住み場所および個体数の調査のため,20m毎に選んだ1300地点で半径22mの円形調査枠を設定した.また,調査区内の8箇所に10m×10mの継続観察枠を設定し、枠内の個体数、個体あたり茎数,茎長、および花と果実の有無を時間方向で記録した。未開花の花序を袋で覆い,自殖の可能性も検証した。2種について各5個体を抽出し,トラップを設置して花数と果実数の時間方向の変動をモニタリングした.
生息地点数および個体数は,共に種1<種2となった。2種の生息場所は谷に偏っていたが,種2は稀に尾根にも出現した.茎長に枝長を加えた茎総延長(サイズ)を個体ごとに求めると,個体サイズは種1>種2となった.更には,個体あたり茎数は種1>種2となった.すなわち,種1は根元から盛んに茎を萌芽させて大形化する.再生産に関して,2種ともに自殖を確認できなかった.種1では総軸長が3.0m以下の個体は開花できなかったのに対し、種2では総軸長が0.5以下の個体でも開花した.個体の繁殖参加率(開花個体数÷全個体数)は種1<種2となった.結果率は種1(0.10)<種2(0.04)となった.これらの結果は,種1が個体の持続を謀るためにより多くの資源を投資するSprouter(萌芽戦略者)として振る舞う傾向にあるのに対し,種2がSeeder(種子生産戦略者)として振る舞う傾向にあることを示唆する.
O1-Z33: シウリザクラの雌雄繁殖成功とクローン繁殖
シウリザクラ(Prunus ssiori Fr. Schmidt)は本州の中部以北と北海道の冷温帯を中心に分布している落葉高木種で、種子による有性繁殖と根萌芽による無性繁殖とを行う。根萌芽によって形成されたジェネットのラメット数はばらつき、空間的に混在することなく固まって分布する。このようなクローン構造は隣花受粉をもたらし、雄と雌の繁殖成功を低下させると考えられる。
まず受粉操作実験によって自家和合性を調べ、隣花受粉が繁殖成功を減少させるかどうかを確かめた。また、雄の繁殖成功への効果を推定するためにマイクロサテライト遺伝マーカーを用いて花粉親推定をおこない、雌の繁殖成功への効果を推定するために結実率を調べ、ともに統計モデルを用いて解析した。花粉親になる確率に影響する要因として、胸高直径で与えられる花粉親のサイズ、花粉親と種子親との距離、花粉親と種子親との遺伝的関係、花粉親ジェネットのラメット数を考えた。果実数に影響する要因として、花序の長さ、種子親の周辺にある同ジェネットのラメットの効果、種子親の周辺にある他ジェネットのラメットの効果を考えた。
受粉操作実験の結果、部分的な自家不和合性が検出された。統計モデル解析の結果、雄成功には花粉親サイズは大きいほど、種子親との距離は近いほど正の影響を及ぼし、同ジェネットの花粉は成功に結びつかず、単木ジェネットの方が成功しやすいことが示された。雌成功は花序長が長いほど正、種子親の周辺にある同ジェネットのラメットは負の影響を及ぼし、種子親周辺にある他ジェネットのラメットの効果は検出できなかった。
以上の結果から、多数のラメットからなるジェネットは雌雄の繁殖成功にとって単木からなるジェネットよりも不利であることが示され、ディスプレイ効果の正の影響よりも隣花受粉の負の影響のほうが強いことが示唆された。
O1-Z34: マイクロサテライトマーカーによる花粉1粒を対象とした遺伝子型解析
植物の繁殖成功を支配する要因として送受粉はきわめて重要である。また、孤立して存在している植物個体群を保全生物学的に評価する場合にも、送受粉過程の実態の詳細な解は重要である。しかしながら、どのようなベクターが、どのようなタイミングで、どの程度の量の花粉をどこまで運ぶか、という点について、個々の花粉粒レベルで詳細に直接的に測定された例はない。花粉粒からのDNA抽出とシーケンシングによる系統解析はこれまでにもなされているが、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析では、(1)核DNAを対象とするため、葉緑体DNAに比べてコピー数が少ない、(2)父性解析のためには複数の単一コピー遺伝子座を解析しなければならないが、花粉1粒に由来する複数の単一コピー核遺伝子座を複数のPCR反応チューブに分注することはほとんど不可能、等の困難さがある。この様な問題に対処するためには、個々のマイクロサテライトマーカーをPCRで増幅する前に、ゲノム全体の増幅が必要である。
キシツツジ、トチノキ、ホオノキ、クリ等を対象に、実体顕微鏡下で花粉1粒を分離し、0.2 mlマイクロチューブ内で花粉壁をつぶすことでDNAを花粉から取り出し、LL-DOP-PCRまたはGenomiPhi (アマシャム)によって、花粉に含まれているゲノム全体の増幅を行った。増幅されたDNAをPCRテンプレートとして、複数のマイクロチューブに分注し、マイクロサテライト遺伝子座の増幅を行った結果、増幅が認められたサンプルにおいては、既知の花粉親が持つ対立遺伝子と同様のピークパターン及びサイズの対立遺伝子が花粉に引き継がれている事が確認され、送受粉におけるポリネーターの役割を直接的に解析できる事が明らかになった。ゲノム全体の増幅方法の違いが最終的な解析効率にもたらす影響や、種間における解析パフォーマンスの差異についても報告する。
O1-Z35: 葉寿命や葉質からみた常緑草本の類型
常緑性とは年間を通じて成葉がみられる性質である。日本本土に生育する常緑性の樹種(常緑樹)では、葉の寿命は通常1年以上で、葉質は革質であり、一斉開葉を示す傾向があることが知られている。一方、常緑草本については葉寿命についての調査例はほとんどない。そこで、演者は千葉県や東京都の低地(暖温帯域)の、おもに林床・林縁に生育する常緑性草本約40種について葉寿命、葉質、開葉パターンなどを調べたところ、およそ以下のような3タイプが認められた。
ヤブラン型:葉寿命は1年以上。葉は革質で全縁。一斉開葉を示す。多くは地上に茎をほとんど持たない(根生葉のみ)。ヤブラン、ヒメヤブラン、オオバジャノヒゲ、イチヤクソウ、スハマソウなど。属レベルで常緑性を示す。
キミズ型:葉寿命は1年以上。葉は非革質。多くは全縁葉。順次開葉を示し、地上に茎をもつ種が多い。キミズ、サツマイナモリ、モロコシソウ、アケボノシュスラン、ベニシュスラン、ハナミョウガなど。南関東を北限とする種が多い
タチツボスミレ型(仮称:連緑性):葉寿命は8カ月以下。葉は非革質で非全縁。順次開葉。すなわち、短命な葉(夏緑葉と冬緑葉など)をリレー的に着け替えることで成葉を1年中保持する。地上茎の有無は様々だが冬期には地上茎をほとんどもたない。タチツボスミレ、アオイスミレ、セントウソウ、ダイコンソウ、ヤマルリソウ、アキノタムラソウ、シロヨメナ、アズマヤマアザミなど。上記2型に比べ、夏緑林や林縁など光環境に恵まれたところに生育する種が多い。また、冷温帯にまで分布が及んだり、同属に夏緑性の種が認められることが多い。
ヤブラン型の葉の特性はシイ・カシ類などの常緑樹に近似するが、キミズ型、タチツボスミレ型は日本本土の樹木には例がなく、草本の常緑性は樹木に比べて多様であるといえる。