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[要旨集] 口頭発表: 群集生態
- O2-W01: 軍拡競争と拡散共進化 (山村)
- O2-W02: 分散の進化と生物多様性 (河田)
- O2-W03: ()
- O2-W04: 侵入種と在来種の種間相互作用を特徴付けるのはなにか?:適応の役割に関する理論的考察 (近藤)
- O2-W05: 種間相互作用の再検討:昨日の敵は今日の友!? (河井)
- O2-W06: ギルド内捕食は捕食者のパフォーマンスを向上させるか:生態化学量論的視点から (松村, Traffelet-Smith G., Gratton, Finke D., Fagan W., Denno R.)
- O2-W07: 遺伝的に決定された植物の化学型が植食性昆虫群集に及ぼす影響 (林, 大串)
- O2-W08: 農地生態系の土壌圏_-_安定同位体比を用いて食物網を探る_-_8.畑地に生息するクモの餌資源の推定 (藤田, 藤山)
- O2-W09: 4種の比較系統地理から明らかになった海浜性ハンミョウ種群の歴史的な形成過程 (佐藤, 曽田, 上田, 榎戸, 白, 堀)
- O2-W10: 佐渡島のブナ残存林に棲息する地表徘徊性甲虫の群集構成及び体サイズに関する特徴 (池田, 久保田, 本間)
- O2-W11: 早池峰山のアカエゾマツ南限地におけるアカエゾマツとキタゴヨウ、コメツガ、ヒバとの競合関係 (杉田, 金指, 高橋)
- O2-W12: 山地小流域における冷温帯林の12年間の森林動態?林冠ギャップと地形との関係? (本間, 杉田, 國崎)
O2-W01: 軍拡競争と拡散共進化
食うものと食われるものの関係において、食われるものの側の防御と食うものの側の防御を打ち破る攻撃が共進化して、互いに投資をエスカレートさせるという軍拡競争が生じることが、理論的にも実証的にも知られている。しかし、食うものと食われるものの関係では、植物と草食動物や昆虫寄主と寄生蜂の関係に見られるように、1種対1種の関係ではなく多種対多種の関係である場合が多い。多種対多種の関係における共進化は拡散共進化と呼ばれている。今回は、1種対1種(多種対多種)の関係がどのような条件の下で成立するのか、また、1対1の共進化と比べて、拡散共進化ではどのような様相が発現するのかを、数理モデルを使って解析する。
O2-W02: 分散の進化と生物多様性
これまでの発表者の研究で、個体の分散は様々な生態学や進化生物学のプロセスに重要な影響を及ぼすことを示してきた。たとえば、個体の分散が制限されることで、交配に関する遺伝子と適当度に関する遺伝子がリンクし易くなり、生殖隔離による種分化がおこり易くなる。また、個体の分散の大きさは集団の分布境界に影響する。分散が大きいとき、集団は中心からの分散によって局地適応が妨げられ、分布が拡大できないが、分散が小さいときは、局地適応を可能にし分布を拡大する。同様に、分散が大きいとき、利用する資源幅を大きく進化させることができず、そこで生息できる種の数を増大させるが、分散が小さいときは、新しい資源利用の進化がおこり易くなり、共存できる種数が減少する。しかし、これまでの予測は、生物の分散距離は、集団によって別の要因で決定されているとみなし、生物の分散自体が進化するという仮定をおいていなかった。そこで本発表では、分散自体も進化できる状況で、種分化や生物の多様性の進化がどのような場合に促進されるかについてのシミュレーションを行った。
O2-W03:
(NA)
O2-W04: 侵入種と在来種の種間相互作用を特徴付けるのはなにか?:適応の役割に関する理論的考察
同じ生息地に長い間共存している在来種同士は、進化的な時間スケールで、互いに遭遇したり相互作用をしたりしてきた「経験」をもっている。在来種同士が互いに相手を認識したり、適応的な行動をとったりすることができるのは、この「経験」のおかげである。それに対して、外来種と在来種は時空間な隔離のせいで、比較的短い歴史しか共有していない。その結果、外来種と在来種は、在来種同士であれば当然できるような相手の認識や適応的反応ができない場合がある。このような「経験不足」の種間相互作用のため、外来種の侵入を受けた生物群集は、特徴的な個体群動態や群集構造をもつ可能性がある。
この発表では、この考え方を「食う-食われる」関係と食物網に適用する理論的枠組みを紹介する。外来種-在来種間の「食う-食われる」相互作用は、互いを認識する能力や適応的に反応する能力の欠落のため、3つの特徴を持つ可能性がある。
第一に、遭遇経験の欠落のため、生態学的役割(捕食者/被食者)の認識、被食者の取り扱い、捕食者からの防御等に失敗する可能性がある。このため、外来種と在来種の間の「食う-食われる」関係は、異常に強くなったり、弱くなったりする可能性があり、これは、個体群動態を不安定化させるかもしれない。
第二に、外来種-在来種間の適応速度のミスマッチのために、外来種の個体数が一時的に大爆発を起こすかもしれない。
第三に、外来種と在来種は種の区別に失敗しやすいため、互いに相手の個体数の変動にうまく対応できない。その結果、外来種の侵入は、在来群集における生物多様性をおおきく減少させるかもしれない。
これらの仮説は、外来種-在来種間の相互作用は、在来種間の相互作用と質的に異なっており、特徴的な個体群動態や群集構造を生み出す可能性があることを示唆している。
O2-W05: 種間相互作用の再検討:昨日の敵は今日の友!?
種間相互作用を考える上で、これまではpredation(捕食)、competition(競争)、facilitation(?)といったメカニズムに基づいた認識・分類がなされてきた。しかし、この事が近年まで、野外で確認しやすく実験的にも検出しやすいpredationやcompetitionのようなマイナスの作用を持ったメカニズムの研究に重点がおかれ、一方でプラスの作用を持つfacilitationが注目されなかった一つの要因である。また、一般的に種間相互作用は単一の要素から成り立っていることは稀であり、多くの場合プラスとマイナスの複数の要素が組み合わさって見かけの作用が形成されている。すなわち、マイナスの要素がより大きければ見かけの作用はcompetitionに、プラスの要素のほうが大きければfacilitationに、同程度だと互いに打ち消しあい表面上neutralな関係になると考えられる。従って、種間相互作用の成分及び大きさ、さらにその変動性をより精密に検証するためには、これまでのように表面上の見かけの作用のみに注目するのではなく、その作用を形成するプラス・マイナスの要素を検出しそのバランスを検討することが必要となる。九州天草において、岩礁潮間帯に棲息する固着性動物であるカメノテとムラサキインコの見かけの種間相互作用はfacilitationであることが、演者らによりすでに明らかになっている。本講演では、さらにこの2種間の相互作用を要素に分ける試みを発表する。プラスとマイナスの要素の強さが季節的に変動することにより、結果的に表面上の見かけの種間相互作用がfacilitationからneutral、neutralからfacilitationへと推移することが明らかとなった。
O2-W06: ギルド内捕食は捕食者のパフォーマンスを向上させるか:生態化学量論的視点から
近年,ギルド内捕食の起源や進化の解明において,生態学的化学量論(Ecological stoichometry)すなわち異なる栄養段階の生物間で窒素含有率(N比)など栄養素の相対的バランスを調べる新たなアプローチが進められている。この中で,捕食者は植食者に比べ一般的にN比が高いことが明らかになりつつある。このことから,捕食者は高い栄養要求量を満たすため植食者よりN比の高い捕食者をよく捕食し,そのためギルド内捕食が広くみられるようになったという仮説が考えられる。この仮説の検証のため,アメリカの潮間帯雑草の昆虫群集について,栄養段階ごとに構成種のN比を調査したところ,栄養段階が高い種ほど(捕食者>雑食者>植食者)N比が高くなることがわかった。また,コモリグモPardosa littoralisを植食者(ウンカProkelisia dolus),ギルド内捕食者(卵捕食性カスミカメTytthus vagusまたは小型クモGrammonota trivittata),両者を交互に与える区の3つの餌条件下で約1ヶ月飼育し,生存,成長,捕食量,N摂取量を測定した。その結果,ギルド内捕食者としてカスミカメを与えた実験では,コモリグモの生存と成長はカスミカメ>交互に与えた区>ウンカの順に高かった。この理由は,コモリグモがよく動き回るカスミカメを多く捕獲したためで,カスミカメのN比が高いからではなかった。一方,ギルド内捕食者として小型クモを与えた場合,小型クモのN比は高いにもかかわらず,コモリグモの生存と成長はウンカを与えた場合より低く,前の実験と逆の結果となった。この理由は小型クモがコモリグモに捕獲されにくいことによった。以上から,ギルド内捕食によるパフォーマンスの向上には,当初予想した栄養価(N比)よりも,捕獲されやすさや捕食に対する防御行動に起因した摂食量の違いが大きく影響していると考えられた。
O2-W07: 遺伝的に決定された植物の化学型が植食性昆虫群集に及ぼす影響
オノエヤナギ(Salix sachalinensis)には二つの化学型がある。一方の化学型は、葉に含まれる低分子フェノールの主成分としてアンペロプシンを生合成し(A型)、他方の化学型はアンペロプシンに加えて二種類のフェノール配糖体を生合成する(AP型)。この二つの化学型は遺伝的に決定されている。我々は、これらの化学型が植食性昆虫の群集構造に与える影響について明らかにした。
実験は北海道石狩川の河川敷で行った。調査地内の二カ所に、鉢植えにした化学型の挿し木を置き、植食性昆虫群集と葉の形質について調査を行った。植食性昆虫の群集構成の非類似度に対して、有意な場所の効果と化学型の効果が認められたが、場所と化学型の相互作用の効果は有意ではなかった。A型の挿し木でのヤナギルリハムシの成虫の密度はAP型の密度より有意に高く、逆にA型の挿し木でのリーフゴールsp1.の密度はAP型の密度より低かった。葉の形質に対して行った主成分分析によって、三つの主成分が抽出された。主成分1はフェノール性成分の対比を、主成分2は炭素及び窒素含有率の対比を、主成分3は柔毛密度を示した。主成分1に対して有意な化学型の効果が認められた。一方、場所の効果と化学型と場所の相互作用の効果は有意ではなかった。主成分1のスコアは、ヤナギルリハムシの成虫の密度と正に相関し、リーフゴールsp1.と負に相関した。
同じ調査地に自生する化学型について、植食性昆虫群集の調査を行った。植食性昆虫の群集構成の非類似度に対して、有意な化学型の効果は認められなかった。
以上の結果から、遺伝的に決定された化学型は、植食性昆虫群集に影響することが明らかになった。特に、植食性昆虫の種によって、化学型に対する選好性が異なることが、化学型間での植食性群集の違いを生み出す上で重要であることが示された。しかしながら、自然状況下では、植物の遺伝変異が植食性昆虫群集に及ぼす影響は、相対的に弱いものであることが示唆された。
O2-W08: 農地生態系の土壌圏_-_安定同位体比を用いて食物網を探る_-_8.畑地に生息するクモの餌資源の推定
第6報では、ハンドソーティング法(ハンド法)で採集された有機農業畑のクモ類の餌の起点となっている炭素源はC3植物、C4植物および腐食物質であること、分解者を捕食する2次消費者が主である可能性が高いことを明らかにした。そこで栽培作物とクモ類の餌資源の関係を明らかにするため、圃場内にδ13C値の異なる作物を栽培し、餌資源の推定を試みた。
[材料および方法]調査圃場は、1970年に区画整備事業を実施して以来、化学肥料、農薬は一切使用せずに栽培している。2003年は無化学肥料・無農薬・不耕起条件下で、6月_から_8月はエダマメとスイートコーンを、10月_から_5月は刈り敷き用のライ麦を栽培した。クモ類を含む大型土壌動物群集の調査は、01年6月より年4回(6、8、10、2月)、ハンド法にて実施している。加えて、03年はピットホールトラップ法(トラップ法)にてクモ類を採集し、炭素および窒素安定同位体比を測定した。
[結果および考察]土壌性のクモ類はその生活型から、占坐性と徘徊性に分けられる。ハンド法とトラップ法では、ともに占坐性および徘徊性のクモ類が捕獲できるが、前者では占坐性が、後者では徘徊性が多く捕獲できることが予測される。
ハンド法で採集したスイートコーン跡地のクモ類のδ13C値は、エダマメ跡地から採集したクモ類に比べて、有意(P<0.01)に高かった。このことから、スイートコーン跡地のクモ類は、スイートコーンを起源とした食物連鎖上にあることが推察される。この一方で、スイートコーン跡地とエダマメ跡地のクモ類のδ15N値に違いはみられなかったことから、起点となる炭素源は違っても栄養段階は同じと考えられる。
両跡地からトラップ法で捕獲したクモ類(徘徊性、コモリグモ科)のδ13C値およびδ15N値に違いはみられなかった。これは徘徊性のクモ類が栽培作物の境界を超えて調査地を移動し、炭素源の異なる動物を捕食したためと考えられる。
O2-W09: 4種の比較系統地理から明らかになった海浜性ハンミョウ種群の歴史的な形成過程
日本各地の海岸には、2_-_4種のハンミョウ(甲虫)が同所的に見られる。共存しているハンミョウ類では、種の組み合わせに関わらず種間で顎サイズは重ならず、顎サイズと対応した餌をめぐる種間競争が、共存種の決定に大きな意味をもつと考えられている。本研究では、大型4種の海浜性ハンミョウ類に注目し、地域集団間の遺伝的変異を解析することで、現在各地域で見られる海浜性ハンミョウ相の歴史的な形成過程を検討した。
ハンミョウの採集は、日本17地点と近隣諸国(韓国、台湾、フィリピン)で行い、各種1地点につき約10個体ずつ、4種で計229個体のハンミョウを採集した。そして、各個体の胸部筋肉組織からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのCOI領域と16SrRNA領域(計1433bp)の塩基配列を決定した。
その結果、64種類の塩基配列の変異型が確認された。種内の遺伝的変異に注目してみると、イカリモン(以下ハンミョウ略)では、石川県、宮崎県(九州南東部)、種子島の3つの地域間で大きな遺伝的変異が存在しており、3つの地域間で長い間遺伝的交流がなかったと推測された。一方、イカリモンと似た分布域を持つハラビロでは、地域間の遺伝的変異は小さく、最近まで広い地域にわたって遺伝的交流があったと推測された。ルイスにおいても、地域間の遺伝的変異は小さかった。一方、カワラでは、遺伝的に大きく分化した変異型が同所的に見られ、地域間のまとまりは小さかった。このことから、カワラは日本の中で分布域の縮小・分断化(地域間の遺伝的分化)と拡大(地域間の再交流)を繰り返し経験したと推測された。以上の結果より推測された日本の中での分布変遷過程と、日本と近隣諸国との遺伝的関係、そして顎サイズと関連した4種の種間関係を基にして、海浜性ハンミョウ相の歴史的な形成過程を検討した。
O2-W10: 佐渡島のブナ残存林に棲息する地表徘徊性甲虫の群集構成及び体サイズに関する特徴
佐渡島は本州から30kmほど離れた陸橋島で、15から50万年前に本州から分離したといわれている。かつては北部の大佐渡山系全域がブナ林だったと考えられ、このブナ林の昆虫相は、佐渡島の本来の昆虫相の指標になると考えられる。本研究では、移動能力が低い地表徘徊性甲虫を、佐渡島と本州のブナ林で比較することにより、1)佐渡島の甲虫群集の特徴をα、β、γ多様性の3段階の観点から明らかにし、2)佐渡島の甲虫における形態的な特徴を明らかにし、3)その特徴が形成された要因を考察することを目的とした。ここでは、α多様性は調査地点内の多様性を、β多様性は調査地点間の種組成の違いを、γ多様性は佐渡の調査地全体及び本土の調査地全体での多様性を表す。
調査地は、佐渡島では9地点設定し、本州では群馬県の三国山、谷川岳、玉原高原、新潟県の浅草岳、粟ヶ岳に計12地点設定した。各調査地で10×20mの調査区を設定し、ピットフォールトラップを2m間隔で格子状に50個設置し2日後に回収した。調査は2002、2003年の6、8月に行った。体サイズは、オサムシ科で多く捕獲された種について、指標として体長を測定し比較した。
その結果、101種3680個体が捕獲され、群集構成に関しては、α多様性に違いはみられずβ多様性が佐渡島で低く、それによってγ多様性も若干低い傾向がみられた。これは、小型捕食者の種数が佐渡島において少ないためであった。本研究において佐渡島で捕獲された小型捕食者の大半は低山地性もしくは平地性の種であった。移動能力の高い低山地性及び平地性の種は本州と陸続きだった時期に佐渡島に侵入したが、移動能力の低い種はほとんど侵入できなかったために、種数が少なくなっていることが示唆された。体長に関しては、春繁殖の種の体長が佐渡島で大きく、温量指数(>5℃)との間に正の相関が認められた。佐渡島は本州と比較して春に比較的温暖なため、春繁殖の種の活動期間が長く幼虫期間も長くとれるために大きくなっている可能性が示唆される。
O2-W11: 早池峰山のアカエゾマツ南限地におけるアカエゾマツとキタゴヨウ、コメツガ、ヒバとの競合関係
早池峰山には南限のアカエゾマツ集団があり、最終氷期以降の植生変遷の過程で衰退してわずかに残った遺存林として学術的に貴重であることから天然記念物、自然環境保全地域として保護されている。しかし、1948年の土石流被害を免れた中州状の成熟林分ではアカエゾマツはキタゴヨウ、コメツガ、ヒバと混交し、アカエゾマツの稚樹がほとんどみられないことが報告されている。一方、土石流跡地ではそれらの樹種と混交してアカエゾマツの更新樹が多数みられる。アカエゾマツの存続を考える上で重要なそれらの樹種との競合関係を明らかにするため、中州地の成熟林分に40m四方の、土石流跡地の更新林分に10m×50mのプロットを設置し、林分構造を解析した。
土石流被害を免れた成熟林分では、林冠層で最も優占しているのはキタゴヨウであり、アカエゾマツがそれに次いだ。亜高木層ではコメツガが圧倒的に優占し、低木層ではヒバが優占した。アカエゾマツの稚樹は閉鎖林冠下、ギャップともに少なく、アカエゾマツの更新はあまり期待できない。次世代の森林は、コメツガの、さらにはヒバの優勢なものへと移行していくと推察される。一方、土石流跡地の更新林分ではキタゴヨウとアカマツが最も成長が良く、それに次いでダケカンバ、ウダイカンバ、ナナカマド、アカエゾマツなどが林冠層を形成していた。アカエゾマツはこれらの樹種と競合しながら林冠構成樹種として存続していくと考えられる。
土石流は、コメツガやヒバへの植生遷移のトレンドをリセットするとともに、鉱質土層の露出した更地を形成し、落葉・腐植に覆われた地表では稚樹の定着が困難なアカエゾマツに更新場所を提供する。一定の期間を置いて繰り返し発生した土石流による破壊とその後の再生のなかでこのアカエゾマツ集団が維持されてきたと考えられる。
O2-W12: 山地小流域における冷温帯林の12年間の森林動態?林冠ギャップと地形との関係?
広がりを持った山地天然林は様々な地形にまたがると同時に、その林冠状態は閉鎖林冠、ギャップといった異なる状態のモザイクとなっている。様々な微地形が含まれる山地小流域では地形や林冠状態が森林動態に影響を及ぼしていることが予測される。そこで、本研究では枯損木及び新規加入木の空間的分布が林冠状態及び斜面位置によって傾向が異なるか解析した。
調査地は岩手県雫石町、岩手大学御明神演習林の大滝沢試験地内の4haの小流域である。この森林は一斉林からモザイク林への移行段階にあると考えられ、1973年頃から林冠ギャップ形成がはじまり、1991年以前の林冠ギャップ面積比率は6.2%だった。主要構成樹種はヒバ、ホオノキ、スギ、ブナ、トチノキ、アカイタヤ、ミズナラ、サワグルミである。1991年、1998年、2003年に毎木調査を行い、12年間の枯損木、新規加入木(3cm)の斜面位置、林冠状態を記録した。
調査開始時の林分全体での出現樹種数は39種で、本数は606本/ha、胸高断面積は44.79_m2_/ha、加入率は0.91%/年、死亡率は1.41%/年、胸高断面積の増加率は0.88%/年、減少率は0.90%/年であった。死亡率や胸高断積の増加率、減少率の斜面位置による違いはみられなかったが、加入率は斜面下部で大きい傾向がみられた。立ち枯れ木はギャップ周辺に集中する傾向はみられなかったが、台風による枯損では古い林冠ギャップが拡大した事例もあった。新規加入木については、サワグルミ、コシアブラ、クサギ、クリなどは林冠ギャップ及び周辺に集中して出現し、ヒバ、スギは林冠下に分布していた。また、斜面下部の林冠ギャップにおける新規加入木ではサワグルミが、斜面上部ではコシアブラが優占した。