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[要旨集] 口頭発表: 保全・管理
- O2-X01: DNAを指標とした外洋性鳥類のコロニー間の遺伝的交流 (馬場, 小池, 岡)
- O2-X02: イヌワシの繁殖活動を制約する要因:育雛期における餌のスイッチングの影響 (布野, 竹内, 関谷, 梨本, 松木, 阿部, 阿部, 関島)
- O2-X03: Counting in the dark: census vs. effective population size estimation in the endangered Bang窶冱 leaf-nose bat (Hipposideros turpis: Chiroptera, Hipposideridae). The case of Yonaguni Island (Echenique-Diaz Lazaro M.,Jun,Masakado)
- O2-X04: 音声変異から見た日高南部個体群のエゾナキウサギの保全 (小島)
- O2-X05: 知床半島におけるヒグマの冬眠穴の構造と立地条件の特性 (山中, 岡田)
- O2-X06: 山口県におけるニホンジカの生息頭数推移 (田戸, 杉本, 桑野, 伊藤, 山田, 細井)
- O2-X07: 猟期延長と狩猟者減少がニホンジカ個体群動態に及ぼす影響 (坂田, 鈴木, 濱崎, 横山)
- O2-X08: ニホンジカ個体群の密度依存性ー 環境収容力と管理効率に関する再検討ー (立澤)
- O2-X09: 北海道南西部におけるニジマスの定着条件 (宮田, 井上)
- O2-X10: 外来魚ブルーギルの除去による沈水植物群落の再生 (米倉, 高村, 西廣)
- O2-X11: 淡水産巻貝サカマキガイPhysa acutaにおけるCdの生物濃縮と成長と生殖に与える毒性影響 (福田, 内海)
O2-X01: DNAを指標とした外洋性鳥類のコロニー間の遺伝的交流
オオミズナギドリCalonectris leucomelas は、日本を中心に東アジアの離島で集団繁殖する外洋性鳥類であり、日本では現在、52箇所の繁殖地が知られている。生態研究が徐々に進み、雛の成長や給餌・索餌生態、越冬経路などの興味深い生態が明らかにされつつあるが、繁殖地間や世代を超えた遺伝的な関係はほとんどわかっていない。本研究は、オオミズナギドリのコロニー間の遺伝的交流を明らかにするために、ミトコンドリアDNA塩基配列を遺伝的マーカーとして分析した。
これまでに鹿児島県ハンミャ島から 草垣島、沖ノ島、Sasudo島、大波加島、御蔵島、粟島、岩手県日出島の、計8コロニーから計135羽の、血液、羽毛または死亡個体から採集した組織片いずれかの分析試料を用いて、ミトコンドリアDNAコントロ-ル領域ドメインIのうちの350bp(塩基対)のDNA塩基配列を決定した。その結果、97ハプロタイプに分類された。
近隣接合樹や、ネットワーク樹でハプロタイプ関係のつながりを調べたところ、各コロニー由来の系統は検出されず、各コロニーのハプロタイプが樹形内に重複を含めランダムに存在しており、遺伝的な交流があることが示唆された。
かつて約175万_から_350万羽が生息すると推定された伊豆諸島の御蔵島のコロニーではこれまでに35試料を分析した。これらのハプロタイプ多様度 (h) は0.997で、塩基多様度 (π) は0.024であった。これらの値は、これまでに論文等で報告された鳥類の中では、ハイガシラアホウドリやススイロアホウドリと同様に非常に高い値であった。冠島で行われてきた標識調査では、いったん繁殖を開始すると、毎年ほぼ同じ巣穴で繁殖する事例が示され、本種は地理的回帰性が高いとみられるが、高いハプロタイプ多様度、および塩基多様度の値は、本種が、長期にわたり安定的に異なるコロニー間で遺伝的な交流を重ねてきたことを示すものと判断される。
学会までにさらに未解析試料のDNA塩基配列を解析し、あわせて報告する。
O2-X02: イヌワシの繁殖活動を制約する要因:育雛期における餌のスイッチングの影響
多くの鳥類では,季節的な生息空間や餌密度の変化に伴い,採餌環境や餌種を変えることが知られている.この変化が育雛期に当たるとき,雛は,親鳥が給餌する餌の量的・質的変化に曝されることとなる.そのため,親鳥による季節的な餌利用特性は,雛の健全な成長やその後の生存に関わる重要な要因といえる.
イヌワシは本州から九州の落葉広葉樹林帯に分布する大型の希少猛禽類であり,その育雛期は消雪・落葉広葉樹の展葉に伴う生息空間や餌密度の季節変化の時期に相当する.これまでに,我々が新潟県に生息するイヌワシを対象に行った調査の結果,消雪・落葉広葉樹の展葉の進行に伴って,雛への給餌動物がノウサギからヘビ類に切り替わること(以下,スイッチングとする),加えて,このスイッチングの時期を境に雛への餌搬入量が減少することが明らかとなってきた.餌質の急激な変化や給餌量の減少は,雛の成長量の低下や栄養状態の悪化,さらに,餓死に至る場合も考えられるため,雛の生存に重大な影響を及ぼしている可能性がある.特に,育雛ステージの早期にスイッチングが生じた場合,雛の生存力は低いため,スイッチングの影響を受けやすいと予測される.
そこで本研究では,イヌワシの育雛期および消雪・落葉広葉樹の展葉期が異なる2地域において,1)イヌワシの繁殖開始時期,2)イヌワシ行動圏内における消雪・広葉樹の展葉の進行状況,3)イヌワシの餌動物利用,4)雛の巣立ち率を評価し,それらの地域間比較から餌のスイッチングが雛の生存に与える影響を明らかにする.そして,スイッチングを考慮したイヌワシ生息地管理対策について提言を行う予定である.
O2-X03: Counting in the dark: census vs. effective population size estimation in the endangered Bang窶冱 leaf-nose bat (Hipposideros turpis: Chiroptera, Hipposideridae). The case of Yonaguni Island
A DNA sampling and marking procedure for behavioral studies on H. turpis, in Yonaguni Island, gave a data set, which was also useful for population size estimation. Three mark-recapture estimates gave a census size (Nc) of between 449 to 644 bats. Conversely, a maximum-likelihood estimate of historical effective population size (NeI) gave 1257 bats. This 3-fold ratio of NeI/Nc suggests that the Yonaguni population has declined. However, a cryptic bottleneck test implied that there has been no deviation from mutation-drift-equilibrium in the past. Populations suffering from census number reduction (demographic bottleneck) may not exhibit a reduced NeV (genetic bottleneck) if the historical NeV has always been low as a result of fluctuations in population size. We hypothesize that a bottleneck could not be detected bacause insufficient time has elapsed since the population declined. It is also possible that a long term decline due to human impacts, might have occurred even without a bottleneck. H. turpis in Yonaguni Is. shows marked differences in roosting behaviour compared with other island populations. Furthermore, microsatellite analysis has suggested that this is an isolated population. Our results suggest that a reconsideration of the conservation status of the this population is necessary.
O2-X04: 音声変異から見た日高南部個体群のエゾナキウサギの保全
エゾナキウサギOchotona hyperborea yesoensisは,北東アジアに分布するキタナキウサギの北海道固有亜種で,おもに森林限界を超えた高山帯に生息する.エゾナキウサギは,最終氷期に道内に広く分布していたが,後氷期の気候温暖化とともに山岳地帯に隔離され,遺存的な隔離分布を呈したと考えられている.そうした中で,分布域の南限にあたる日高南部の個体群は,幌満川沿いの標高50mをはじめとして,低標高地に認められる.
演者は,1996年から継続的に,日高・夕張・大雪山系の3個体群における音声を収録してきた.音声のうち,特になわばりの誇示やつがい維持・形成の役割を果たすとされる成体雄が発するロングコールについて,重点的に分析を行なった.その結果,日高南部の個体群の音声にのみ,特殊なソナグラムが多数確認された.以上により,日高南部の個体群は,他の個体群と比べてとりわけ低い標高地に生息することと,特殊なソナグラムが現出されたことから,他の個体群とは異なる隔離遺存の機構が推論された.
日高南部の個体群は,上記に加えて,生息地が散在したメタ個体群を形成すること,それぞれにおいて個体数が少ないことから,特に保全に留意すべきと考える.ところが,このような日高南部個体群の生息地において,大規模林道平取・えりも線の建設工事が進められている.この工事は,日高南部の特殊な個体群の存続にとって深刻な影響を与える恐れが大きいので,保全生態学の立場から,この林道建設は容認できるものではない.
O2-X05: 知床半島におけるヒグマの冬眠穴の構造と立地条件の特性
クマ類は中型以上の哺乳類で唯一冬眠を行うことが知られており、しかも、妊娠したメスは冬眠中に出産と育児も行う特異な生態を持っている。冬眠はクマ類の生活史の中で極めて重要な位置を占めるが、北海道に生息するエゾヒグマでは冬眠穴の立地する環境やその構造について十分な研究は行われていない。
本研究では、1989年から2004年の間、知床半島において46例のヒグマの冬眠穴の位置を特定し、内21例について計測を行った。
ヒグマの冬眠穴は、樹木の根張りを利用してその下に掘り込むタイプ(ST型)と樹木に依存することなく地面に掘る土穴(S型)に分けられる。また、自然の穴を利用するものは岩穴と樹洞に分けることができる。本研究では冬眠穴のタイプを確認できた25例中20例(80%)がS型であった。また、構造は入り口が一つで、その奧に寝床がある単純な構造であった。入り口から寝床まで直線的は位置されたものが13例(62%)で最多であった。奥行きは平均2.14m、最大幅は平均1.32mであった。
知床半島では、冬眠穴は海岸段丘斜面など低標高の海岸部から高山帯のハイマツ帯まで幅広い環境に存在しており、46例中半数の23例は高木層を欠く高山・亜高山植生の地域や海岸段丘斜面にも立地していた。これらはダケカンバを中心とする高木層を持つ上部広葉樹林帯の森林内に冬眠穴が集中的に分布するとした大河(1980)による支笏湖周辺での立地条件と大きく異なっていた。また、知床半島では支笏湖周辺では確認されなかった人間の活動域に近接した場所の冬眠穴や平坦地に掘られた冬眠穴も見られた。
また、海外の研究例では、一定の地域に冬眠穴が集中的に分布する事例が報告されており、その要因として個体毎の地域選択性や特定の年の個体群の分布特性があげられている。知床半島でも3ヶ所以上の冬眠穴を確認できた個体について、一定の場所を選択的に使う傾向が見られた。
O2-X06: 山口県におけるニホンジカの生息頭数推移
山口県では、1998年・2001年・2004年と3年おきに区画法及び糞塊密度調査法により生息頭数の推定を行ってきた。区画法はニホンジカの保護管理の対象地域内で12箇所行い、同地域において糞塊密度調査も行うことにより、相関式を作成し、生息密度を推定する基礎とした。この、調査区域の単位は、調査時点での生息分布地域を生息密度が同程度と考えられるユニット(約4k_m2_)に分割し、糞塊密度調査を行った。その結果を全体の生息密度及び推定生息頭数とした。
生息分布は年々拡大しており、1998年は180ユニット、2001年は200ユニット、2004年は220ユニットを調査した。その間の年は、1/4のユニットを調査対象として、モニタリング調査を行った。山口県のニホンジカは、生息分布が近県の島根県弥山半島、広島県可部付近、福岡県の個体群とは隔離された状態にあり、個体群間の行き来は全くないと考えられる。
捕獲に関しては、近年までオスジカの捕獲禁止措置を行ってきたことや、ワナ架設禁止区域を設定しているため、狩猟による捕獲が有害駆除による捕獲に比べて著しく少なく、2002年度有害駆除が1093頭であるのに対し、狩猟は142頭であった。このことから、山口県のニホンジカに関する捕獲データは、有害駆除に伴う情報がほとんどである。ニホンジカの管理に関するあいまいな情報が多い中で、捕獲データの誤差は少ないと考えられる。生息頭数は1998年の推定値から、捕獲頭数によるシミュレーションを行い、2001年及び2004年において評価したが、シミュレーションのとおりとはならず、その生息頭数を捕獲数から説明するのは困難であった。捕獲頭数と生息頭数の関係から、その生息頭数を推定していた基礎となる区画法による生息密度と糞塊密度の相関式を、現実の生息頭数の推移に沿ったものとなるように、改良を加えた。
O2-X07: 猟期延長と狩猟者減少がニホンジカ個体群動態に及ぼす影響
1999年から2003年までの、兵庫県におけるニホンジカの密度指標や狩猟圧と土地利用や植生、気象などの環境条件のデータから、シカの個体数変動を分析・予測した試みを発表する。特に、これまでの予測結果の検証や、2003年度の猟期延長の影響、狩猟者人口の変化の予測結果などをふまえて、試行錯誤のうえに予測モデルを修正した過程を発表する。また、今後の狩猟期間の調整や狩猟者減少があった場合のシカの密度の増減をシミュレーションした結果を示す。
O2-X08: ニホンジカ個体群の密度依存性ー 環境収容力と管理効率に関する再検討ー
近年,農林業被害だけでなく,生態系の保全・復元の観点からも,各地でニホンジカの「増えすぎ」が指摘され,密度管理の努力が続けられている.その際,個体群密度が「環境収容力」を超えたことが管理の論拠とされたり,低密度で安定的に推移させて絶滅と食害の双方を防ぐことを管理目標におく場合がある.しかし,そもそも密度変動データから解析的に求められる生態学的環境収容力がニホンジカで算出された例はほとんどない.また,環境収容力算出の前提であり,動態予測や密度管理の効率性検討に不可欠な,個体群パラメーターの密度依存性の検討もほとんど行われていない.そこで,マゲシカ(馬毛島個体群)などを材料に,個体群パラメーターの密度依存性の検討と環境収容力の算出を行った上で,これらを前提とした密度管理手法の可能性や問題点を検討したい.
O2-X09: 北海道南西部におけるニジマスの定着条件
現在、多くの野生生物が本来の生息地以外の地域に持ち込まれており、それら外来種が在来生物群集に及ぼす影響が懸念されている。しかしながら、持ち込まれた外来種が必ずしも定着に成功するとは限らない。定着の成否を左右する環境要因を検討することは、外来種の管理を考えるうえで重要である。
北アメリカ原産のニジマスは“世界の侵略的外来種ワースト100”に選定され、生態系への影響が懸念される外来魚である。日本では1877年から全国各地に遊漁資源として移植されてきたが、本州、四国、九州においてはほとんど定着が確認されていない。一方、北海道では70を超える水系で本種の生息が確認されている。ニジマスの定着の成否には、河川の環境特性と近縁在来種との競合といった様々な要因が関与していると思われる。
本研究ではニジマスの定着に影響を及ぼす要因を明らかにするために北海道南西部の15河川で野外調査を行い、ニジマスの生息の有無、および生息密度と環境要因との関係を検討した。その結果、ニジマスの定着には河川流量の安定性が強く関与していることが示唆された。
O2-X10: 外来魚ブルーギルの除去による沈水植物群落の再生
霞ヶ浦(茨城県)では過去最大23種あった沈水植物群落が現在,ほぼ壊滅した状態にある. 特に,富栄養化による透明度の低下は散布体バンク(再生可能な状態で休眠している種子や胞子など)からの個体の再生を著しく阻害することにより,沈水植物群落の消失に大きく関与している.我々は,欧米で広く応用されているバイオマニピュレーション(生物操作)が霞ヶ浦の透明度を改善させ沈水植物を再生させる手段として有効であるかどうかを野外操作実験により確かめた.実験は32基のペン型エンクロジャーを霞ヶ浦・石川地区の沿岸域に設置し,「外来魚ブルーギルの有無」と「シュートとして移植する水草種(カナダモ類もしくはササバモ)」をそれぞれ独自に操作することで,(1)ブルーギルの除去が沈水植物群落の再生(現存量)を促すか,(2)シュートとして移植した水草種の違いが散布体バンクから再生する水草種の現存量ならびに種数に与える影響を与えるか,(3)再生された水草種の違いが水中栄養塩濃度に与えるかどうかを評価した.実験の結果によると,ブルーギルの除去により隔離水界内の甲殻類プランクトン(特に大型種)の現存量の増加と植物プランクトンの減少が生じ,透明度が増加した.隔離水界内における透明度の増加により,ブルーギルを除去した実験区ではブルーギルを導入した実験区と比較して1.6倍から9.0倍の沈水植物が再生されたが,カナダモ類を移植した実験区ではその独占的な繁茂により散布体バンクからの他種の水草種の再生は著しく阻害された.対照的に,ササバモを移植した実験区では散布体バンク由来と思われるオオトリゲモやコウガイモなどの多様な水草種が再生された.水中の栄養塩濃度は主に沈水植物の再生により減少する傾向にあったが,その程度は隔離水界内で卓越する水草種により大きく影響された.
O2-X11: 淡水産巻貝サカマキガイPhysa acutaにおけるCdの生物濃縮と成長と生殖に与える毒性影響
カドミウム(Cd)は汚染のない自然環境下においてもほとんどすべての魚介類から微量ながら検出される重金属である。カドミウムは多くの生物、特に微生物や軟体動物では容易に蓄積されることが知られているが、濃縮の程度は生物により異なることからさまざまな生物においてその生物濃縮性についての知見が求められている。有肺類は金属結合タンパク質のメタロチオネインを持っているが、このメタロチオネインは体内微量金属濃度を制御したり有害金属を無毒化したりするなどの多機能タンパク質として知られている。メタロチオネインをもつことから有肺類はカドミウムを生物蓄積する能力が高く、食物連鎖による蓄積(biomagnification)によって生態系に及ぼす影響は大きいと考えられる。
本研究では、淡水産巻貝有肺類であるサカマキガイ(Physa acuta)を室内の制御環境下でカドミウム濃度0.1, 10, 1000 µg/Lに3週間暴露することで、カドミウムがサカマキガイの成長と生殖に与える影響と生物濃縮係数(BCFs)を解析し、カドミウムの慢性毒性影響を評価することから、サカマキガイを淡水環境のリスクアセスメントに用いる際の有効性を評価することを目的とした。
野外で採集したサカマキガイについて実験室環境下で1週間順応させた後、コントロール(カドミウムを含まない)を含む4濃度処理区において3週間の暴露を行った。成長に与える影響評価として、殻長を測定しその変化を解析した。また生殖に与える影響評価として、個体あたりの産卵数と卵塊数、卵塊あたりの卵数の計数を行った。暴露実験終了後、個体は-20°Cで冷凍保存し、ICP質量分析法(ICP-MS)によってサカマキガイ体内の蓄積カドミウム濃度を測定した。生物濃縮係数は(巻貝の体内Cd濃度)/(試液Cd濃度)から算出した。