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[要旨集] ポスター発表: 生理生態
- P1-001: 広葉樹の葉における細胞壁の力学的性質の発達 (齋藤, 寺島)
- P1-002: スギ樹冠における窒素動態と針葉の窒素利用効率 (小林, 田代)
- P1-003: 上層木の伐採による光環境の変化と窒素付加に対する落葉広葉樹稚樹4種の光合成特性の応答 (北岡, 渡邊, 石井, 奥山, 日浦, 小池)
- P1-004: 夏緑草本カニコウモリの富士山亜高山帯針葉樹林での優占機構 (堀, 高松, 源後, 清水, 河原崎, 安部, 中野)
- P1-005: 太平洋側山地におけるブナ実生の冬季の枯死要因 (丸田, 依田)
- P1-006: ルビスコおよびAPX活性の比較による高度分布上下限域におけるオンタデとイタドリの生理生態的特性の解析 (坂田, 中野, 横井)
- P1-007: 周期的な乾燥および回復における苗木の成長および生理的特性 (矢崎, 石田)
- P1-008: 光環境と葉齢が常緑林床植物のエゾユズリハの光合成特性に及ぼす影響 (片畑, 楢本, 角張, 向井)
- P1-009: カラマツの光合成速度と分光指標の季節変化 (中路, 小熊, 藤沼)
- P1-010: 常緑広葉樹カクレミノの陽シュートと陰シュートの窒素経済の比較 (小清水, 山村)
- P1-011: コケモモにおける葉の寿命と個葉特性の山岳間変異 (和田, 川守田, 鈴木, 成田, 工藤)
- P1-012: タカノツメの短枝は個体の生産量にどのくらい貢献しているだろうか? (長田)
- P1-013: 草本の群落上層個体の背ぞろいを引き起こすのは風か?光質(R/FR比)か? (長嶋)
- P1-014: ハンノキ実生苗の成長と生理におよぼす滞水の影響 (岩永, 山本)
- P1-015: 木本性つる植物におけるシュート間機能分化 (市橋, 長嶋, 舘野)
- P1-016: 生育温度・光・窒素供給がミズナラの葉の老化過程に与える影響 (小野, 江藤, 原)
- P1-017: イネ科草本における葉のサイズとSLAの種間変異の細胞レベルでの解析 (杉山)
- P1-018: 温暖化条件が常緑広葉樹へ及ぼす生理生態的影響 (今川, 周 承進 , 林, 中根)
- P1-019: 食葉性害虫による食害と乾燥がウダイカンバ当年生枝の枯死に及ぼす影響 (大野, 梅木, 渡辺, 滝谷, 寺澤)
- P1-020: アカマツ成木樹幹内における熱収支法測定による蒸散流速の季節変化 (川崎, 千葉, 韓, 荒木, 中野)
- P1-021: 釧路湿原達古武沼の水草はなぜ減少したのか?_-_光環境からの検討_-_ (辻, 高村, 中川, 野坂, 渡辺, 若菜)
- P1-022: ハンノキ(Alnus japonica)の根粒形成に及ぼす環境因子の影響 (山本, 高田)
- P1-023c: 冷温帯落葉広葉樹林構成樹の光合成生産における個葉生理特性とシュート構造の役割 (村岡, 小泉)
- P1-024c: ()
- P1-025c: FACE(Free Air CO2 Enrichment)を用いた高CO2環境下での冷温帯樹木の成長と光合成特性 (江口, 上田, 船田, 高木, 日浦, 笹, 小池)
- P1-026c: 撹乱跡地における更新初期種間の競合が各樹種に与える影響 (遠藤, 江口, 日浦, 笹, 奥山, 石井, 小池)
- P1-027c: ヒバ実生の根圏糸状菌はどのように根に残る?-種子成分の種子糸状菌、土壌糸状菌への影響 (山路, 石本, 森)
- P1-028c: 個体内の均等な水輸送とhydraulic architecture (種子田, 舘野)
- P1-029c: 根圏の酸素不足に対するガマ属3種(ガマ コガマ ヒメガマ)の応答 (松井, 土谷)
- P1-030c: 異なるCO2と窒素条件で生育させた落葉広葉樹稚樹を餌とした食葉性昆虫の成長 (柴田, 松木, 飛田, 北尾, 丸山, 竹内, 小池)
- P1-031c: カラマツ樹冠部での短枝・長枝葉の光合成特性 (佐久間, 渡邉, 藤沼, 市栄, 北岡, 笹, 小池)
- P1-032c: コジイとアラカシの分枝様式と樹冠内光環境 (長, 河村, 武田)
- P1-033c: 寒冷圏におけるダケカンバの光合成機能の環境ストレスに対する応答(2) (田畑, 小野, 隅田, 原)
- P1-034c: 低温と強光ストレスが当年生ミズナラ実生に与える影響 (津田, 小野, 原)
- P1-035c: 3種のマツヨイグサ属植物の受粉様式の違いによる発芽特性 (小林, 倉本)
- P1-036c: 苗場山ブナ樹冠における光環境と光合成特性の垂直、水平方向、方位による変異 (飯尾, 深沢, 能勢, 角張)
- P1-037c: 針葉樹3種の硝酸同化の季節変動:硝酸還元酵素活性を指標として (上田, 徳地)
- P1-038c: 水ストレス緩和後の光合成誘導の変化 (冨松, 堀)
P1-001: 広葉樹の葉における細胞壁の力学的性質の発達
新しい葉が形成される展葉期は葉の形態や生理的性質が大きく変化する興味深い時期である。葉の形態を決める葉肉細胞の体積増大は吸水と細胞壁の不可逆的伸展によって調節されると考えられる(Lockhart 1965)。展葉期における葉の光合成機能の構築は詳しく明らかになっているが、葉の形態形成に深く関与する葉の水分特性の変化は季節変化の一部として記述されているのみである。本研究では、葉面積の拡大が終了した日(Full Leaf Expansion: FLE)を基準とした葉齢を採用し、形態変化と葉齢とを関連付けた。FLE以前を拡大期、以後を成熟期として区別し、葉の水分特性の変化を関係する諸性質とともに明らかにした。
材料には常緑樹アラカシと落葉樹コナラを用いた。両種ともブナ科コナラ属だが、アラカシの葉は寿命が長く見かけ上ずっと硬い。葉の成熟過程を通してPressure-Volume曲線を測定し、葉の水ポテンシャルの日変化を測定した。また、引っ張り試験機を用いて細胞壁の力学的性質を測定した。
その結果、両種とも葉面積の完全展開には約20日を要した。アラカシの葉がコナラより見かけ上硬いのは厚いからで、それぞれの種で葉が成熟に伴って硬くなるのは密度が増大するからであった。拡大期において、細胞内浸透ポテンシャルは-0.8MPa付近で安定に保たれていた。一方、細胞壁の不可逆的伸展性は急激に低下し、葉身長の相対成長速度との間に極めてよい相関関係があった。よって、葉の形態形成は細胞壁の力学的性質によって強く調節されていることが明らかになった。体積弾性率は葉の成熟に伴って増大しやがて飽和した。種間差は見られなかった。値は葉標本のヤング率との間に有意な相関関係が得られ、傾きおよび切片に有意な種間差はなかった。よって、本研究は体積弾性率が細胞壁の力学的性質における可逆的成分をよく反映していることをはじめて立証した。
P1-002: スギ樹冠における窒素動態と針葉の窒素利用効率
スギの窒素利用効率を明らかにすることを目的として,針葉の窒素含量の季節変動を葉齢別に調べた。針葉の面積あたりの窒素含量は,当年葉においては6月から10月に増加し,その後,低下した。1年葉においては月を経るにつれて緩やかに低下したが,2,3年葉においては明瞭な季節変動は見られなかった。窒素含量は,葉齢別では齢の古い葉ほど低い値を示した。葉の寿命は3年で,落葉時における窒素の回収率は49%であった。窒素含量から既報の文献を用いて光合成速度を推定し,さらに葉の寿命と窒素の回収率を用いて窒素利用効率を計算した。得られた窒素利用効率は,これまでに報告されている常緑針葉樹のなかでも中程度の値であった。葉の寿命が短く,窒素の回収率もそれほど高くないスギは,窒素量あたりの光合成速度を高めることで窒素利用効率を高めているといえた。
P1-003: 上層木の伐採による光環境の変化と窒素付加に対する落葉広葉樹稚樹4種の光合成特性の応答
上層木の伐採などの攪乱により、林床の樹木が利用できる光や資源は大きく変化する。カラマツ林に侵入した落葉広葉樹稚樹には葉の生物季節に固有の特徴があり、光や窒素利用特性が異なるため、攪乱に対する応答は樹種によって異なることが予想される。そこで攪乱に対する個葉レベルでの応答に着目し、上層木の伐採と窒素施肥を組み合わせた処理区を設け、落葉広葉樹稚樹4種の葉の構造と機能の変化について検討した。材料は、ギャップ依存種のホオノキと遷移中後期種のミズナラ、林床に生育する遷移後期種のシウリザクラとサワシバの稚樹を用いた。ホオノキとミズナラでは伐採後2年目に,伐採区と伐採+施肥区で光飽和の光合成速度(Psat)の有意な増加が見られた。しかし、サワシバとシウリザクラでは伐採区でPsatが増加したが,処理後1年目と2年目で有意差はなかった。葉の窒素含有量(Narea)の増加はシウリザクラとサワシバの林床+施肥区を除いて、伐採後1年目には明瞭な傾向は無かった。伐採後2年目には,ホオノキとミズナラの伐採+施肥区でNareaの増加が見られた。強光の利用に有効な柵状組織の伸長は,伐採後1年目からホオノキとミズナラで見られ、伐採区と伐採+施肥区で有意な伸長が見られた。シウリザクラとサワシバでは柵状組織の有意な伸長は見られなかった。これらに対して,比葉面積(SLA)の低下は1年目から4樹種ともに伐採区で見られた。またホオノキとミズナラでは伐採+施肥区で1年目から柵状組織の伸長が見られ,2年目以降にはNareaも増加した。以上のことから,ホオノキとミズナラは葉の構造や窒素含有量を大きく変化させることで伐採後の環境に対して高い応答能力を示し,これに対してシウリザクラやサワシバでは変化が小さく、伐採後の環境に対する応答能力は小さいことが推察された。また、窒素施肥は伐採後の環境への応答を促進する働きがあると考えた。
P1-004: 夏緑草本カニコウモリの富士山亜高山帯針葉樹林での優占機構
本州中部の亜高山帯の常緑針葉樹林林床にはカニコウモリがしばしば卓越した優占群落を形成する。なぜ、冷涼かつ弱光環境にカニコウモリは優占群落を形成出来るのか、富士山において、光環境、林床植生、生理生態、成長から解析した。
カニコウモリの分布域は標高1,600mから2,300mで、特に2,000mから2,300mで優占群落を形成し,林床はコケ層が発達し、年間を通じ弱光環境のため林床植物は少ない(マイヅルソウなど)。一方、カラマツ林やダケカンバ林では林床のコケ層は貧弱で、林床植物が多い。
1,900mで種々の明るさの林床でカニコウモリ及び他種のバイオマスを測定した。明るさの増加に伴って、出現種数(最大12種)、全バイオマス、カニコウモリのバイオマスは増加した。逆に、全バイオマスに対するカニコウモリのバイオマスの割合は減少した。1,750m(L個体群)と2,150m(H個体群)で、個体群構造、成長、光合成、呼吸を調べた。H個体群で個体密度がより高かった(閉鎖林冠下2.6倍、ギャップ下1.8倍、実生密度10倍)。両個体群で光合成と呼吸速度はほぼ等しく、光補償点は低く(5μmolm-2s-1)、強光下で強光阻害をおこした。H個体群でRGRは高かった。総生産に占める呼吸量の割合はL個体群で66%、H個体群で45%であった。L個体群でのRGR低下は、気温が2-3℃高く、呼吸量が増加することによると推察された。
以上から、カニコウモリが亜高山帯針葉樹林林床で優占種となる要因は,(1)光補償点が低く弱光下で生育でき、逆に,ギャップ下で強光阻害を起こし、(2)植物高が大きい(60cm)ため他種を被陰するが、林縁では他の大型種に抑制され、光資源利用様式の他種との相違が、閉鎖林冠下と林縁・ギャップでの競争的排除の方向を逆転させることにある。さらに(3)実生の定着サイトであるコケ層が発達している、(4)低温下でより高いRGRを実現する、があげられる。
P1-005: 太平洋側山地におけるブナ実生の冬季の枯死要因
日本海側山地に比べて、太平洋側山地ではブナの後継樹の生育が悪く、特に冬季の枯死率が高いことが知られている。そこで、日本海側と太平洋側のブナ林において、ブナの当年生実生の越冬状況を調べ、どのような要因によって枯死率に差が生じているのかを明らかにすることを試みた。日本海型ブナ林である長野県北部のカヤノ平で2002年10月に採取したブナ堅果を、山梨県の東大富士演習林に播種した。なお、この周辺には小面積ながらブナの天然林が残されている。発芽後は、光条件を相対照度50%と2%の2段階に変えて生育させた。秋の生育終了後にそれぞれを、(1)演習林内のブナ人工林に移して越冬、(2)零下6℃の温度を数日間経験させた後に、その一部を12月下旬に実験室に移し、気温15℃で越冬、(3)冬季の最低気温が零度以下にならない海岸近くで越冬、(4)長野県北部のブナ林床で越冬、といった4つのグループに分けた。明所・暗所のブナ実生はともに、いずれの処理でも12月上旬までは、水分通導能力をもち、木部圧ポテンシャルも高い値を保っていた。演習林のブナ林では、冬季もほとんど積雪はなく、林床で12月下旬になって夜間に数時間、零下6℃まで下がる日が続いた後には、明所で生育した実生の通導能力は一部残っていたが、暗所の実生では、まったく通導能力は失われていた。これは、木部内の水の凍結・融解によりエンボリズムが生じたためと考えられる。いったん完全に通導能力を失った暗所の実生は、いずれの越冬条件でも春に通導は回復せず、開芽することなくすべて枯死した。一方、1月上旬には明所の実生でも完全に通導能力は失われたが、春に土壌凍結が解除されると根圧が発生し、エンボリズムが回復して、ほぼすべての個体が開芽した。これに対し、日本海側のブナ林では、12月から5月中旬まで積雪下にあって、常に零度付近にあり、エンボリズムも生じることなく、春には明・暗所の実生はともに開葉した。
P1-006: ルビスコおよびAPX活性の比較による高度分布上下限域におけるオンタデとイタドリの生理生態的特性の解析
富士山では八合目から五合目付近に分布するオンタデと,五合目以下に分布するイタドリの二種が五合目付近で分布域を接し,両種の分布下限個体群と上限個体群が同一環境下に共存していることが知られている.高地にのみ生育するオンタデと,低地から高地まで分布標高幅の大きいイタドリの高地環境への適応様式の違いを明らかにすることを目的に,演者らは両種の生理生態的特性の比較をこれまでに行ってきた.本公演では,富士山五合目における両種の個葉の窒素量,タンパク質量,ルビスコおよびAPX活性などの地上部成育期間を通じた比較に加え,オンタデの分布下限から上限付近まで4個体群(2250m,2580m,2850m,3130m)を比較した結果について報告する.
五合目の両種は6月上旬にほぼ同時に葉が展開を開始し,展開直後の葉面積当たりの窒素およびタンパク質量はオンタデの方が有意に多かった.その後7,8月には両種の葉面積当たりの窒素およびタンパク質量に差が見られなくなった.またタンパク質中のルビスコの割合にも,両種に違いは見られなかったが,ルビスコの活性はオンタデのほうが高く,オンタデは,葉窒素あたりおよび葉面積当たりの光合成能力がイタドリよりも高いことが示唆された.一方 APX活性は,葉の成育期間がオンタデより約30日長いイタドリにおいて,成育期間後期に顕著な上昇がみられた.
また,高標高に成育するオンタデの個体群(2850m,3130m)は低標高に成育するオンタデに比べ,葉面積当たりのタンパク質量が多く,ルビスコやAPXの活性が,特に成育期間末期にも高く維持されていることが示唆された.本公演では,以上の結果などから,両種の分布制限要因について議論を行う.
P1-007: 周期的な乾燥および回復における苗木の成長および生理的特性
●小笠原諸島は亜熱帯に属するが,高い山が少ないことから降水量は少なく,特に先駆性の樹種は乾燥ストレスに晒されやすい。一方で,水分状態が好転した場合に素早く生理的活性を回復させることが,乾燥地で生育する上で重要である。しかしながら,乾湿の変化に対する樹木の反応については不明な点が多い。本研究では,小笠原諸島の植生の先駆種で、比較的湿潤な地で生育するウラジロエノキ(Trema orientalis)と,乾燥地でも生育するキバンジロウ(Psidium cattleianum)の7-9か月生ポット苗に対して,15日間の乾燥処理・2日間の回復処理を3サイクル行い,成長・ガス交換速度および水ポテンシャル(ψL)を継時的に測定し,水分環境の変化に対する種の反応特性を評価した。
●ウラジロエノキにおいては1サイクル目で離層形成を伴った落葉が観察された。
●日中のψLは,乾燥処理中キバンジロウでより低い傾向にあった。また,サイクルが進むにつれ,この低下の程度は大きくなっていった。ウラジロエノキはサイクル間で変動パターンがほぼ同様であった。
●乾燥処理によるψLの低下に伴い,ガス交換速度が低下したが,1サイクル目においてのみ、ウラジロエノキでの低下が顕著であった。回復処理直後,ウラジロエノキにおけるガス交換速度が乾燥処理前に比べて上昇した。キバンジロウは乾燥処理前と比べ、回復後のガス交換速度は大きく違わなかった。
●以上の結果より,ウラジロエノキは乾燥時に落葉することで樹体の水収支が調節されたと考えられ,葉数の減少による補償作用で個葉あたりのガス交換機能が上昇した可能性がある。一方,キバンジロウは葉のψLがより低い値となったことから、葉-土壌間のポテンシャル勾配が上昇し,その結果吸水力が高まったと考えられる。
P1-008: 光環境と葉齢が常緑林床植物のエゾユズリハの光合成特性に及ぼす影響
新潟県苗場山に多く見られるブナ林床には様々な林床植物が生育している。林床は樹冠によって太陽光が遮られるため、樹冠外と比べ制限された光環境である。しかしながら、gap周辺や林縁の光環境は林内と比べ良好である。このようにブナ林床には様々な光環境が存在し、そこに生育している林床植物は光を効率よく利用するための適応戦略を保持していると想像できる。その一つが窒素の利用であると考えられる。窒素は生態系で最も不足しがちな元素の一つであり、「窒素をいかに効率よく利用するか」が植物の適応度を決める一因であると考えられる。
本講演では、ブナ林床の様々な光環境に生育する常緑林床植物のエゾユズリハを用い、葉齢と光環境が光合成特性と光合成系への窒素分配に及ぼす影響を調べた。当年葉が受けるる光は0.9_から_17.82 mol/m2/dayであったのに対し、一年葉では0.71_から_9.14 mol/m2/dayであった。当年葉の光合成特性、Rubisco含有量や窒素含有量は光強度と正の相関を示した。しかし、一年葉は当年葉に比べ光強度とこれらのパラメーターとの相関は低かった。エゾユズリハは光環境により葉の寿命が異なり、強光条件で生育している個体ほど葉の寿命は短い傾向がある。したがって、強光条件で生育している個体の一年葉は老化が始まっており、葉内窒素の回収が生じていることが推察できる。光環境の違いによって葉の寿命が異なるのは、個体全体の物質生産量を増加させるための適応であると考えられる。
P1-009: カラマツの光合成速度と分光指標の季節変化
【はじめに】 広域の植生のフェノロジーや生理機能の定性・定量評価に向けたリモートセンシング利用手法の開発が望まれている。本研究では、北方林の主要構成樹種であるカラマツを対象に、その炭素固定のフェノロジーを評価するための基礎研究として、個葉の光合成活性の季節変化と分光観測によって得られる植生指標の関係を調査した。
【調査手法】 観測は北海道苫小牧市内に位置する44-46年生ニホンカラマツ(Larix kaempferi)人工林において行った。2003年6月から同年10月にかけて、月に1-2回、晴天日に樹冠最上部(13m高)の短枝葉におけるガス交換速度、葉内成分(色素、全窒素濃度)および分光反射率画像を計測した。光合成測定を行った針葉における531nm, 571nm, 671nm, 782nmの反射率をもとに、植生指標であるPRI、NDVIおよび赤色域の反射率逆数と近赤外域反射率逆数の差(1/Rnir)-(1/Rred)を算出した。
【結果と考察】 カラマツ樹冠の短枝葉は5月中旬から6月下旬にかけて展開し、10月中旬に黄葉しはじめ、観測終了直後には落葉が認められた。SLAは夏期(7-8月)に低下し、秋には若干増加する傾向にあった。葉内全窒素濃度は、8月をピークに増加する傾向にあった。葉内クロロフィル濃度は夏季に高い値を示した。日平均をとったときの純光合成速度と光利用効率LUE(純光合成速度/PPFD)はともに8月をピークにした山型の季節変化を示した。光合成活性の指標として用いられるNDVIや(1/Rnir)-(1/Rred)は春から夏季にかけて増加したが、6月下旬から7月にその値が飽和する季節変化を示した。これに対して、PRIの日平均値は季節を通して値の飽和(頭打ち)を示さず、8月にピークを持つ増加パターンを示した。PRIは光強度に応答する葉内のキサントフィルサイクルを反映した分光指標であるが、相関解析の結果、日平均LUEの季節変化にも対応した指標になりうることが示唆された。
P1-010: 常緑広葉樹カクレミノの陽シュートと陰シュートの窒素経済の比較
植物は光条件によって光合成特性、葉の形態、葉寿命などを変化させる。特に常緑広葉樹の陰葉では、しばしば数年にも渡る寿命の延長が見られ、このような光の強さに伴った高い可塑性は個体あたりの物質生産の効率を高めていると考えられる。葉の窒素含量は光合成能力と強い相関があり、植物は受光量の勾配に応じて窒素を分配し、個体全体で効率的な物質生産を行うような窒素経済を発達させていると考えられる。樹木にとってシュートは構造的、機能的な基本単位であるので、個体の物質生産を考えるうえでシュートレベルの解析を行うことは有効である。そこで本研究は常緑広葉樹の物質生産における陽葉化、陰葉化の可塑性の意味を評価することを目的とし、カクレミノ個体内の陽シュートと陰シュートのフェノロジーと季節的成長、光合成速度および窒素含量の季節変化を測定した。
陽葉の葉の平均寿命は約300日、陰葉は約500日であった。陽葉の光合成活性は陰葉よりも常に高く、夏では6倍近く高かった。陽葉と陰葉の葉内窒素濃度はほとんど変わらなかったが、葉面積あたりの窒素含量は陽葉が陰葉に比べ約1.8倍高かった。陽シュートは新シュート成長時に必要な窒素の多くをシュート外からの転流に依存するが、陰シュートは前年以前の葉からの転流と落葉の際の回収により100%をまかなえることが分かった。回収率および回転率は陽シュートが陰シュートに比べ高かった。
以上のことから常緑広葉樹のカクレミノは、受光量に応じて窒素を分配し、陽シュートでは短時間に高い物質生産を行い、陰シュートでは長時間で窒素を節約的に使って低い物質生産を補償することで、個体全体の物質生産の効率を高めていると示唆された。
P1-011: コケモモにおける葉の寿命と個葉特性の山岳間変異
近年,グローバルスケールにおける個葉形質間の相関や気候条件との関係についての解析が精力的に行われるようになった(Kudo et al. 2001; Wright et al. 2004).高山の山頂付近に生育する植物にとっては,葉の性質は物理的環境要因に強く支配されていることが予想され,また同時に正のカーボンバランスを維持するために生育期間の長短に応じて葉の寿命・個葉形質を調節することが期待される.本研究においては,北日本から中部地方にかけての山頂付近・風衝地に生育するコケモモ(常緑性矮生低木;ツツジ科)を材料に,葉の寿命・個葉形質の山岳間変異を明らかにすることを目的とし,また気候条件・特に有効積算温度との関係を解析した.さらに,山頂付近のハイマツ群落内に生育するコケモモについても同様に調べ,微環境(被陰)に対する応答様式についても解析を行った.
個葉の平均寿命は山岳間において異なっていたが,緯度との関係は見られなかった.標高補正した各調査地の気温から夏期における有効積算温度を算出したところ,葉の寿命と負の相関関係が見られ,生育期間の短い個体群では葉の平均寿命を延ばしていることが示唆された.また,風衝地よりもハイマツ林冠下に生育していたコケモモの方が個葉の平均寿命が若干長い傾向があった.
ハイマツ林冠下におけるコケモモの葉については,葉の平均寿命とLMA(Leaf dry mass per unit area)との間には正の相関が,LMAと葉の窒素濃度との間には負の相関が認められたが,風衝地の個体群においてはそれらの関係が不明瞭であった.これらの原因について考察を行った.
P1-012: タカノツメの短枝は個体の生産量にどのくらい貢献しているだろうか?
さまざまな樹種において、当年枝の形態には分化がみられ、長枝と短枝を作り分けていることが知られている。このような2型には生態学的な意味合いがあり、長枝はより空間獲得を重視しているのに対し、短枝は空間獲得よりもその場での受光効率を高めていることが指摘されている。しかし、こうした研究は当年枝レベルでの枝と葉への物質分配パターンや形態による判断にとどまることが多く、長枝と短枝をつくり分けることが個体全体の受光量やその結果としての個体の成長に及ぼす影響についてはあまり調べられていない。本研究では明瞭な長枝と短枝をつくり分けるタカノツメの稚樹を対象として、個体内で長枝と短枝をつくり分けることの意義を調べた。コンピュータシミュレーションモデルY-plantを用いることによって、個体内のすべての葉についての生育期間の受光量を推定し、長枝と短枝の当年枝レベルでの受光量を計算した。さらに、個体内における長枝と短枝による受光量の割合と、その翌年の成長量との関係を調べた。
この結果、個葉レベルの受光量は短枝の方が長枝よりもやや少なかった。当年枝あたりの総葉面積は長枝の方が短枝よりも大きかったため、個体内における相対的な受光量の割合は長枝の方が大きかった。一方、翌年の成長量は長枝では増加していたのに対し、短枝では減少する傾向が見られた。受光量×葉面積で査定した個体内における長枝および短枝の相対的な受光量と翌年の成長量の相対的な割合を比較すると、長枝から出た翌年の当年枝のバイオマスは相対的な受光量よりも大きくなり、短枝では逆に小さくなっていた。この結果は、短枝による光合成産物を翌年長枝の先の枝の成長に回し、幹の先端での成長を促進している(correlative inhibitionがおこっている)可能性を示している。
さらに、短枝をつけない仮想個体に比べて現実の個体では受光量が大きくなっているかを調べることにより、タカノツメが長枝と短枝をつくり分ける意義を考察する。
P1-013: 草本の群落上層個体の背ぞろいを引き起こすのは風か?光質(R/FR比)か?
多くの群落では光の競争が生じており,個体の高さはその個体の光獲得量を大きく左右する.一方,高さが高いと,力学的に個体を支えるために多くの投資が茎に必要になったり,風による倒伏の危険が増大したりする.高さ成長の調節は、群落内で植物が生活するにあたって非常に重要である.
群落上層を占める個体は,周囲の個体の高さに揃うように高さ成長が調節され,その結果,地上部バイオマスが大きくばらつくにもかかわらず,高さは比較的均一になる.このときの高さ成長の調節がどのような生理学的機構によるかを確かめた.茎の高さ成長は,風などによる物理的刺激によってエチレンが生成することで低下したり,隣接個体によって光の波長組成(赤色光/遠赤色光比)が変化しそれにファイトクロムが反応することで促進したりすることが知られている.周囲個体よりも突出している場合と低くなっている場合では,風環境も光質環境もそれぞれ異なることが予想されるが,これらのうちどちらが群落上層個体の高さ成長の調節に関係しているかを確かめた.
ポット植えにした一年生草本シロザを平面的に並べて,ポット群落をつくった.一部の個体はポットを上げて個体の高さを周囲よりも高くし,一部の個体はポットを下げて高さを低くした.このようなセットを,さらに,茎を支柱に固定して風による揺れを減らしたもの,周囲を黒く着色した造花で囲むことで光量は低下させたものの光質は孤立個体と変わらないようにしたもの,その両方の処理をほどこしたもの,で作製した.2週間後に個体の高さを測定したところ,茎を支柱に固定しても,緑の周囲個体が存在すれば高さ成長の調節が生じることがわかった.逆に,黒い造花の周囲個体では,周囲個体にそろうような高さ成長はあまりみられなかった.これらのことから,群落上部を占める個体の高さ成長は,主に光質によって調節されていることが明らかになった.
P1-014: ハンノキ実生苗の成長と生理におよぼす滞水の影響
滞水環境下におかれたハンノキ(Alnus japonica)は、幹の肥大や肥大皮目の形成などの形態変化を示すが、この現象は滞水環境での生存に大きく関わっていると考えられる。本研究ではハンノキの滞水耐性機構の解明を目的として、滞水深度や滞水期間がハンノキの光合成特性と形態変化に及ぼす影響について検討した。また、滞水条件下の水分生理特性についても調べた。実験は3年生のハンノキ実生ポット苗を用い、2003年5月20日から6週間、鳥取大学乾燥地研究センター・ガラス温室内にて行った。滞水深度はポット地際から1cmまでの地際滞水区と、ポット地際から30cmまでの30cm滞水区の2処理を設定した。対照区は滞水処理せず、通常の灌水管理下で育成させた。各処理の繰り返しは5個体であり、伸長・肥大成長の測定、不定根数、萌芽数の測定、および光合成速度の測定を行った。また同年8月3日からハンノキ実生苗を用いて滞水処理を1週間行い、滞水処理前後の蒸散速度および葉の水ポテンシャルの日変化を測定した。この結果、乾重は対照区、地際滞水区、30cm滞水区の順に低下し、相対成長率(RGR)も同様の傾向を示した。光合成速度、気孔コンダクタンスは滞水深度が深くなるほど大きく低下した。光合成速度は滞水処理開始直後から低下したが、不定根の発生に伴って回復する傾向を示した。滞水後の気孔コンダクタンスも、光合成速度と同様の変化が認められた。また滞水後のハンノキでは日中の蒸散速度低下が認められたが、葉の水ポテンシャルは高いまま維持された。これらの結果から、滞水は気孔閉鎖とともに光合成を抑制するが、滞水後の不定根形成や幹の肥大等などの形態変化は光合成速度を回復させることを確認した。
P1-015: 木本性つる植物におけるシュート間機能分化
つる植物は自分の茎で直立できず、成長するために外部の支持を必要とする植物である。多くは支持物獲得のための特殊なシュート(長く伸びて巻き付く、巻きひげや付着根を形成するなど)を作るが、これは一般に葉をあまり発達させずに著しく伸長するという特徴を示す。つる植物のシュート形成に関しては、この伸長成長と支持物獲得の機能に着目した研究は多いが、シュートのもう一つの重要な機能である葉の展開についてはあまり評価されてこなかった。そこで、つる植物が伸長成長と葉の展開をどのように両立させているかを明らかにするため、木本つる植物5種(サルナシ、ツルウメモドキ、マツブサ、ミツバアケビ、イワガラミ)の当年枝解析を行った。
いずれの種でも当年枝の茎長頻度分布は離散的であり、茎長10cmに満たない多数の短いシュートの他に、1mを超えるような長いシュートがごく少数現れた。長いシュートは巻き付く、あるいは付着根を形成するという、支持物獲得のための特殊な性質を示したが、短いシュートはこのような特殊な性質を持たなかった。支持物獲得の機能を持つ長いシュートを「探索枝」、それ以外の短いシュートを「普通枝」と呼んで区別した。探索枝と普通枝とでは、長さそのものに加え、長さあたりの葉面積に差が現れた。即ち探索枝では、普通枝の作り方から予想されるよりも、その長さの割に展開している葉面積がはるかに小さいことがわかった。これは探索枝では普通枝よりも節間が長くなると同時に、個々の葉の面積が小さくなるためであった。さらにシュートの生産性の指標として、シュート重量あたりの葉面積(LAR)を評価すると、探索枝は普通枝の2割から5割という著しく低い値を示した。以上から、探索枝は伸長成長を指向し、普通枝は葉の展開を指向するという性質が明らかになり、つる植物が伸長成長と葉の展開という機能を、シュート間で明瞭に分化させることで両立していることが示唆された。
P1-016: 生育温度・光・窒素供給がミズナラの葉の老化過程に与える影響
北方林を構成する樹種で、一斉展葉を行うミズナラ(Quercus crispula)を用い、個体の成長や光ストレスが、葉の老化過程にどのような影響を与えているのかについて調べた。 2段階の生育温度(25°C:高温、15°Cまたは10°C:低温)および2段階の生育光(100µmol m-2 s-1:弱光、1000µmol m-2 s-1:強光)を組み合わせた条件で、栄養液の供給が無い状態または栄養供給下で種子から生育させた。老化の指標として、飽和光下での光合成活性を、また、光ストレスの指標として最大量子収率および活性酸素消去系の酵素活性の測定を行い、同時に成長の指標として個体の乾燥重量、窒素量、炭素量の変化を調べた。弱光栄養なしでは、高温下における個体の成長、特に根の成長が早くなった。飽和光下での光合成活性は、高温・低温ともに葉の展開終了後次第に低下した。最大量子収率は、葉の展開終了後から、低温で高温に比べ、若干低い値を示した。生重量あたりのクロロフィル量は葉の展開終了後、次第に低下した。一方、キサントフィルサイクルのプールサイズ、クロロフィル当たりのチラコイド膜結合型のアスコルビン酸パーオキシターゼ活性は葉の展開終了後、次第に増加する傾向が見られたが、低温で高温よりも高い値を示す傾向が見られた。栄養供給なしの条件では、弱光下でも低温条件のもので高温条件のものよりも光ストレスを受けやすく、光ストレスを防御しようとする応答が起こっているもののストレスが老化のひとつの要因になっているとも考えられる。強光下で、より光ストレスを強く受けると考えられることから、強光下で生育したミズナラ個体の老化過程についても議論する。
P1-017: イネ科草本における葉のサイズとSLAの種間変異の細胞レベルでの解析
C3型イネ科草本16種間に見られる葉の長さとSLAの変異を細胞レベルで調査した。葉基部を固定し,組織を透明化した後,細胞の分裂と伸長が起こる生長ゾーンの葉肉細胞長のプロファイルを微分干渉顕微鏡で計測し,kinematic methodにより細胞分裂と細胞伸長に係わる様々なパラメーターを算出した。16種間に,算出した細胞パラメーターすべてに有意差が見られた。細胞分裂活性と細胞サイズには密接な関係があり,高い細胞分裂活性をもつ種ほど,小さな葉肉細胞をもつ傾向にあった。これは,細胞分裂の活性が高くなると細胞の伸長時間が短縮することに起因していた。 細胞サイズの変異の70%は分裂ゾーンの細胞数により決まり,このことは細胞サイズの決定が特定の遺伝子よりむしろ発育プロセスの影響を強く受けることを示している。 核DNA量の多い種も細胞サイズが大きくなる傾向が見られたが,この効果は核DNA量が多くなると細胞伸長速度が高くなることに起因していた。 葉の長さは,細胞の大きさよりも細胞の生産速度と密接に関係していた。細胞生産速度は,分裂組織で細胞が行う分裂サイクルの回数と高い相関を示した。高い分裂活性を持つ種は含水率が高く葉の密度が小さくなる傾向を示したが,SLAとは高い相関を示さなかった。
P1-018: 温暖化条件が常緑広葉樹へ及ぼす生理生態的影響
近年、地球温暖化の進行とともに、CO2吸収源として森林の持つ役割が注目されている。そこで現在、世界各国において人工的に温暖化環境を創出し、森林群落へ与える影響を調査する研究が盛んに行われている。本研究では6基のオープントップチャンバーを用いて、温暖化環境がアラカシ(Quercus glauca)群落の生理生態へ及ぼす影響を調査した。本研究の特徴は、高CO2濃度と高温を組み合わせた環境下で、チャンバーに直接植栽した常緑広葉樹群落を長期にわたって継続調査する点にある。
方法としては、まず2002年10月に、各チャンバーに3年生のアラカシ36本を植栽し、同一条件下で半年間育成した。次に2003年4月から、温度2段階(外気±0℃、+3℃)×CO2濃度3段階(外気×1倍、×1.4倍、×1.8倍)の6処理区を設定し、実験を開始した。温度とCO2濃度以外の環境条件は全ての処理区で等しくした。本研究では特に温暖化環境が光合成能力に及ぼす影響に着目し、光_-_光合成曲線やA-Ci曲線、最大光合成速度、クロロフィル蛍光、葉緑素量などの側面から調査した。測定には主にLI-6400(Li-cor社)、MINI-PAM(WALZ社)を用いた。
その結果、光飽和状態での光合成速度は、全ての処理区を外気CO2濃度で測定すると、外気温区では処理区のCO2濃度が高いほど大きい値を示し、高温区では処理区のCO2濃度が高いほど小さい値を示した。これは温暖化環境によって植物体の光合成活性が変化したことを示している。特に高温と高CO2濃度の相互作用が働く処理区の値が低いことから、相互作用が光合成活性を鈍化させている可能性がある。一方、生育CO2濃度で測定すると高CO2濃度区ほど大きい値を示した。つまり、高CO2濃度環境は光_-_光合成曲線の上限を増加させることが示唆された。
P1-019: 食葉性害虫による食害と乾燥がウダイカンバ当年生枝の枯死に及ぼす影響
近年,ウダイカンバ林冠木の樹冠衰退(樹冠上部の枝の枯死)が北海道の山火再生林で報告されている。衰退には食葉性昆虫の大発生や乾燥の影響が指摘されているが,樹冠衰退に至ったメカニズムは明らかになっていない。そこで,食葉性昆虫により被食された40年生のウダイカンバを対象に当年生シュートのセンサス,被食率,葉の水分生理特性を調査し,樹冠衰退に至るメカニズムについて検討した。
高さ8_から_16mにある当年生シュート100本に目印をし,被食(7月中_から_下旬)に対する応答を調べた結果,被食率がシュートの応答に影響していた。被食率が80%を超えたシュートでは,被食されてから一月後に二次開葉する確率が急激に高くなったが,80%以下のシュートは食べ残された葉が着いたままであった。
二次開葉したシュートの枯死率は28.6%と二次開葉しなかったシュートの枯死率(6.9%)よりも高かった。シュートの枯死した時期は,いずれも降水量の少なかった8月下_から_9月上旬に集中していた。シュートの枯死率に及ぼすシュートの特徴(着生高,サイズ,二次開葉の有無)を解析した結果,着生高が高く二次開葉したシュートが枯死に至りやすいことが示された。
膨圧を失って「しおれ」を起こす時の葉の水ポテンシャル(Ψtlp)を二次開葉により生産された葉(以下,二次葉と示す)と食べ残された葉との間で比較した結果,二次葉は食べ残された葉よりもΨtlp)が高く,しおれやすい性質であった。
壊滅的な食害を受けたウダイカンバ当年生枝では,二次開葉により新たに葉を生産した。しかし,このことは,同時に夏期にしおれやすい性質の葉を着けることになり,葉のしおれを通じて当年生枝の枯死に大きく影響したものと思われる。
P1-020: アカマツ成木樹幹内における熱収支法測定による蒸散流速の季節変化
われわれは大気フラックスモニタリング中のアカマツ林で、生産機構モデル構築を目的に林木個体の炭素固定能力を中心した物質の循環を測定してきた。非同化部の樹幹については高さ毎の樹幹の直径成長を追跡するとともに、二酸化炭素ガスの発生源として、樹幹温度の変化にともなう、季節毎の樹皮呼吸の日変化を測定してきた。
樹幹内部を上方に流れる蒸散流は、樹幹中の細胞の呼吸により発生した二酸化炭素を上方に持ち去り、樹幹表面で観察される樹皮呼吸の値を変動させる可能性がある。また樹幹の直径成長は形成層の肥大成長だけでなく、樹幹木部内の含水量変化の影響を受ける可能性がある。これら変動の検討も目的に、蒸散流速の季節変化を調査した。
調査は山梨県環境科学研究所敷地内、富士山北麓の溶岩原に成立したアカマツ純林で行った。測定対象は胸高直径19.8cmの二股と胸高直径18.7cmの2個体である。先述した直径成長と樹皮呼吸の定期的な測定を行っている。2002年夏より両個体の地上高4 mと12mの樹幹計5箇所で熱収支法による樹幹内蒸散流速の測定を開始した。測定機材は米Dynamax 社製 TDPセンサー(プローブ長3cm)を用い、延べ20ヶ月の連続測定を行った。
TDP測定値は早春に大きく夏から秋にかけて低かった。土壌層が未風化の溶岩原のため極め少なく、むしろ冬季の積雪下で土壌水分が豊富であったためと考えられた。雪からの土壌水分供給は、冬季の温暖な日に観察される若干の光合成、樹皮呼吸、直径成長、春先の成長開始の急速な立ち上がりにも寄与していると考えられた。
P1-021: 釧路湿原達古武沼の水草はなぜ減少したのか?_-_光環境からの検討_-_
釧路湿原は北海道東部に位置するわが国最大の湿地であり、その主要地域は釧路湿原国立公園、天然記念物「釧路湿原」、国設鳥獣保護区、並びにラムサール条約登録地に指定されている。
近年、釧路湿原湖沼群では水生植物や底生動物などの種数および生物量が減少しているとの報告が相次いでいる(角野ほか1992,財団法人日本鳥類保護連盟1998,阿寒マリモ自然誌研究会2002,片桐ら2002)。
われわれは、水中の光環境の悪化が、水生植物の減少の原因である可能性について検討するため、釧路湿原湖沼群で最も南に位置する達古武沼において、2003年4月11日から2003年11月18日かけて、水中の光量子量を定期的に観測し、消衰係数を求めた。
達古武沼は、環境省が進める釧路湿原自然再生事業の対象地域に含まれており、本研究は同事業の達古武沼地域自然再生プロジェクトの一環として行われた。
達古武沼は周囲長4.9kmの楕円形の沼で、平均 水深1.9mと比較的浅い。今回の調査では湖心部に調査地点を設け、月2回、水中の光量子量を測定した。湖内の調査地点の消衰係数は、湖の解氷直後である4月25日では1.43だったが、6月6日から急激に増加し、6月20日の消衰係数は年間最高値である5.26となった。消衰係数とは1mあたりの水が吸収する光の割合であり、数値が高いほど水の光透過性が低いことを示している。達古武沼では水生植物の生育期に光の透過性が低くなることが示された。
今後はクラーク型酸素電極を用いて、同沼から採取した水生植物を様々な光_-_温度条件において光合成速度を測定する。この実験から得られた各水生植物の光補償点から補償深度をもとめ、達古武沼における光条件が水生植物の生育を制限している可能性を検討する
P1-022: ハンノキ(Alnus japonica)の根粒形成に及ぼす環境因子の影響
ハンノキ(Alnus japonica)はカバノキ科ハンノキ属の落葉性広葉樹であり、湿潤な河川流域、谷間,湖畔、湿原などに分布する。また根系にはフランキア(Frankia)属の放線菌が根粒を形成し,窒素固定を行う。このため、ハンノキは生態系の窒素循環に重要な役割を担っており,林業的には肥料木としても評価されている。このような根粒の形成にはさまざまな環境因子が影響しているものと考えられる。例えば釧路湿原のような湿原では地下水位が根粒の形成とハンノキの生育に大きな影響を及ぼしている可能性が高い。本研究では、さまざまな環境条件が当年生ハンノキ苗木の成長、およびこれにともなう根粒形成に及ぼす影響を調べた。生育環境としては、1)根圏の窒素濃度環境、2)滞水環境、3)乾燥環境、4)光環境、および5)土壌pH環境の5種類の条件を変えて設定した。実験は鳥取大学構内造林学研究室の苗畑にて行った。なお、実験1)_から_4)はポット栽培によって行ったが、5)の土壌pH環境を変える実験は水耕栽培にて行った。実験期間は2003年8月17日から9月29日の約6週間、もしくは8月1日から9月29日の約8週間である。実験期間中に伸長成長量と肥大成長量を測定するとともに,実験終了後に乾燥重量や葉の窒素含有量などを求めた。以上の結果、伸長成長量には滞水、乾燥、光環境、および土壌のpHが大きく影響した。しかしながら窒素濃度の差異は顕著な影響を及ぼさなかった。これに対しハンノキの成長にともなう根粒の形成比率は、根圏の窒素濃度の上昇、および滞水環境によって強く抑制されることがわかった。さらに乾燥、光条件、および土壌のpHの変化は根粒の発達に有意な影響を及ぼさなかった。
P1-023c: 冷温帯落葉広葉樹林構成樹の光合成生産における個葉生理特性とシュート構造の役割
森林生態系による炭素吸収機構の理解のためには,森林構成樹種の生理生態的特性を十分に把握することが重要である。本研究では,冷温帯落葉広葉樹林(岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地)での林冠木と低木の光合成生産における個葉光合成特性とシュート構造の役割を評価することを目的とした。
林冠木であるダケカンバ(樹高約18m)とミズナラ(約15m)の樹冠頂上,林床低木であるノリウツギとオオカメノキを対象として,個葉光合成特性とシュート構造,林内の光環境の測定を盛夏に行った。光合成生産性に対する個葉光合成特性とシュート構造の効果はY-plant (Pearcy & Yang 1996)を用いて解析した。Y-plantはシュートの3次元構造と個葉ガス交換特性に基づいて,個葉やシュートの光合成速度を推定するシミュレーションプログラムである。個葉の受光量はシュート直上の光環境および葉面配向と他の葉との相互被陰によって決まり,個葉ガス交換速度は受光量や気温,湿度に応じて光合成モデル(Farquhar et al. 1980)と気孔コンダクタンスモデル(Leuning 1995)によって計算される。
ダケカンバとミズナラでは最大光合成速度は同程度であった。しかしモデル計算により,(1)ダケカンバでは葉が垂れていることにより日中でも葉温の上昇が抑えられている上に相互被陰が小さいためにシュート全体で高い光合成速度を維持するが,(2)葉面傾斜の小さいミズナラでは日中の強光により葉温が上昇することに加えて相互被陰が大きいために光合成速度が制限されることが示された。また(3)低木のシュートでは相互被陰を避けるように葉が配置されており,光を効率的に受け取って光合成生産に利用していることが示された。
P1-024c:
(NA)
P1-025c: FACE(Free Air CO2 Enrichment)を用いた高CO2環境下での冷温帯樹木の成長と光合成特性
将来CO2濃度が上昇したときの冷温帯林の応答を予測するため、現在最も自然状態でCO2を付加することができる「開放系大気CO2増加(Free Air CO2 Enrichment; FACE) 」を用いて冷温帯林構成樹木の成長と光合成応答を調べた。2003年5月にCO2の付加を開始し、CO2濃度はFACE内が2040年ごろを想定して50 Pa、対照区は現在の37 Paであった。また、高CO2での植物の反応は土壌栄養に大きく影響を受けるといわれることから、FACE内の地面を半分に区切り、半分を富栄養の褐色森林土、残りを北海道の土壌の特徴である貧栄養の火山灰土壌とした。材料は2年生の代表的な冷温帯林構成樹木11種を用いた。調査項目は、成長量(葉面積指数;LAI、樹幹体積)と光合成速度とした。
1〉11種類の樹木のうちケヤマハンノキは、高CO2・火山灰土壌で成長が著しく増加した。ケヤマハンノキは窒素固定菌(Frankia sp.)と共生することが知られる。一般的に高CO2環境では窒素不足が起こり、成長があまり促進しないとされる。つまり本結果から高CO2環境下での窒素固定菌の役割の重要性が示唆された。
2〉遷移後期種の光合成速度は高CO2濃度により上昇したものの、成長量はそれほど変化しなかった。光合成産物は成長・貯蔵・被食防衛などへ分配される。ゆえに、遷移後期種では高CO2環境下で増加した光合成産物が地上部の成長ではなく、他の器官や他の機能(例えば、地下部の成長や貯蔵物質、被食防衛物質など)に分配される可能性が示唆された。
樹木は多年生であるため数年にわたる継続調査が必要である。今後はこれまで不明な点が多かった地下部の成長特性を調べ、高CO2濃度に対する冷温帯樹木の応答をより詳細に検討していく。
P1-026c: 撹乱跡地における更新初期種間の競合が各樹種に与える影響
これまで、樹木の生理特性は種ごとに解明されてきたが、樹種間の相互作用を被陰に対する順化能力の違いなど生理的特性から研究した例は少ない。しかし、多種の共存を可能にする混交林への転換を進めるうえで、樹種を通じた生理的応答を理解することが求められている。この視点から、本研究では北海道の森林の遷移初期において侵入してきた先駆樹種が他の樹種とどのように影響を及ぼし合うのか、を明らかにすることを目的とした。
供試木として、遷移前期種であるシラカンバ(Betula platyphylla var. japonica)・ウダイカンバ(Betula maximowicziana)・ケヤマハンノキ(Alnus hirsuta)の2年生苗木を対象にした。2003年5月に、その3種を組み合わせ、単一植栽区が3、二種混合区が3、三種混合区1の計7区画を北大苫小牧研究林330林班の風害跡地に植栽した。9月に地際直径と樹高を測定し、地際直径の2乗に樹高を掛けたものを成長量として比較した。
その、結果、ケヤマハンノキと組み合わせて植えたシラカンバやウダイカンバの成長は、それぞれ単一で植えた時よりも良く、ケヤマハンノキは単一で植えた方が成長が良かった。これは、ケヤマハンノキと共生関係を形成しているFrankia sp.が固定した窒素を他樹種も利用したためと考えられる。また、三種を一緒に植えた試験区では他のどの区画よりもすべての樹種で成長が悪かった。これは、同一種では遺伝的な変異はあるものの、同じ資源を同じように必要とするため、個体間の競争が激化した結果と推察した。そこで、種間の光合成特性の差や葉の可塑性の種間差などを調査し、先駆種の共存機構を解明したい。
P1-027c: ヒバ実生の根圏糸状菌はどのように根に残る?-種子成分の種子糸状菌、土壌糸状菌への影響
青森ヒバ(Thujopsis dolabrata Sieb. et Zucc. var. hondai Makino)の種子はヤニ袋を持ち、数種のテルペノイド類を含有する。一般にテルペノイド類には、抗菌活性を示すものが存在することから、本研究では種子成分がヒバ実生の根圏糸状菌相に与える影響について調査した。
種子は2003年4月下旬に、カヌマ土(鉱質土壌)と苗畑土(黒ボク土)に播種した。また、ヒバ実生の根圏糸状菌の源として考えられる種子糸状菌と土壌糸状菌について、その種類や出現頻度を調査した。種子や土壌からの出現頻度が高い菌種については、土壌培地上での生育速度と種子成分に対する感受性を調べた。7月初旬には実生の根圏糸状菌を分離し、その種類や出現頻度を調査した。以上の結果をもとに、実生の根圏糸状菌の出現頻度と1)種子からの出現頻度、2)土壌からの出現頻度、3)土壌培地での生育速度、4)種子成分に対する感受性、の間に相関関係があるかどうか、Pearson's correlation test(P<0.05)で解析を行い、どのような要因が根圏糸状菌相形成に関わっているかを検討した。
その結果、ヒバ実生が生育する土壌の種類に関係なく、実生の根圏糸状菌の出現頻度は、種子成分に対する感受性とのみ有意な相関関係を示した。これは、ヒバ実生の根圏では種子成分に対して耐性がある種子糸状菌と土壌糸状菌が優占種として残りやすい、ということを意味する。我々は、種子成分がヒバ実生生育初期の根圏糸状菌相に主要な影響を与えていると結論する。
P1-028c: 個体内の均等な水輸送とhydraulic architecture
植物の地上部では,水分の供給源に近い茎の基部についている葉と茎の先端についている葉では,水分の輸送距離が大きく異なる.導管を通る水輸送では,通導抵抗は水分の輸送距離に比例して大きくなるため,単純に考えれば,枝の先にある葉ほど水分が供給されにくくなる可能性がある.理論的には,節や分枝部分にある大きな通導抵抗がバルブとなって基部の葉だけに水分が流れることを防いでいるのだと考察されている.しかし,現実の植物でこうした効果が起きていないのかどうか,また起きていないのであればどのようなメカニズムによって克服されているのか,について実験的に明らかにした研究はない. 〈BR〉そこで,茎の全長が15m程度のクズ〈I〉Pueraria lobata〈/I〉を用いて,葉の間で生じる水分の輸送距離の違いによる通導抵抗への効果について解析を行った.〈BR〉茎から葉柄までの経路と土壌から葉までの経路とについて,基部の葉から3枚おきに通導抵抗の分布を測定した.この結果,葉柄までの経路では通導抵抗に大きなvariationが生じたのに対して,葉までの経路では,通導抵抗は水分の輸送距離のよらずほぼ等しくなった.〈BR〉クズの地上部を構成する茎,葉柄,葉身の通導抵抗を測定すると,葉身の通導抵抗は最も大きく,葉柄の5_-_10倍,茎の100_-_1000倍もの値になった.測定された通導抵抗の分布を電気回路に模して,葉の位置と通導抵抗の関係についてシミュレーションを行った結果,上記の結果をほぼ再現することができた.〈BR〉これらの結果は,地上部での輸送距離の違いによって生じる通導抵抗のvariationは,輸送経路の末端にある,葉身の大きな通導抵抗によって打ち消されることを示している.
P1-029c: 根圏の酸素不足に対するガマ属3種(ガマ コガマ ヒメガマ)の応答
多くの水生植物の生育環境における底質の酸素濃度はほぼゼロに等しい。そのため植物の地下部は常に酸素不足のストレスに曝されている。酸素不足ストレスに対する耐性の違いは水生植物の分布を決める重要な因子となっており、しばしば水深に沿って帯状分布が見られる。
ガマ属は世界中の湿地によく見られる抽水植物であり、日本にはガマTyphalatifolia L. コガマ T. orientalis Presl ヒメガマ T.angustifolia L.の3種が分布する。一般にガマは水深の浅い場所に、ヒメガマは水深の深い場所に群生しているのが観察される。コガマの生育地に関しては報告例が少ないため不明確である。
ガマ属には地上部から地下部へ空気を送る換気機能が発達しているが、ヒメガマは換気能力がガマに比べて高いため、水深の深い場所でも生育が可能であると考えられている(Tornbjerg et al. 1994 )。これまで根の呼吸特性に関する報告はないが、生育環境から推測すると、ヒメガマはガマに比べて、根の呼吸特性を根圏の低酸素条件に対応させて変化させていると考えられる。そこで、本研究ではガマ、コガマおよび、ヒメガマの根圏の酸素不足に対する応答について、根の呼吸特性に焦点をあてて比較検討した。
ガマ属3種の根圏環境を好気的および嫌気的の2条件に設定して1ヶ月間培養し、それぞれ呼吸速度を測定した。ガマの呼吸特性は培養条件によって違いはみられなかったが、ヒメガマとコガマは嫌気的環境で培養した植物体の方が、全体的に高い呼吸速度を示した。また、推測したとおりこの違いはヒメガマの方が顕著であった。ただし、いずれの種も、根圏環境の酸素濃度によらず、同程度の呼吸速度を維持していることがわかった。
P1-030c: 異なるCO2と窒素条件で生育させた落葉広葉樹稚樹を餌とした食葉性昆虫の成長
大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の急激な上昇による温暖化や近隣諸国の経済発展にともなう酸性降下物の増加がわが国の生態系に及ぼす影響は大きいと予想される。そのため、これらの無機ストレスによる生物相互作用の変化を考えることが重要である。
異なるCO2と窒素条件で育てた落葉広葉樹稚樹(ケヤマハンノキ、イタヤカエデ)について化学分析と生物検定を行い樹木の葉の質変化や植食者に対する防御について検討した。化学分析は多くの樹木が持つと知られる縮合タンニンと総フェノールについて行った。このほかにも硬さの指標とされるLMAや葉のC/N比も測定した。また、生物検定では広食性の食葉性昆虫であるエリサンを用いた。イタヤカエデでCNB仮説を支持する結果が得られた。しかし、ケヤマハンノキでは貧栄養条件で予想に反する結果を示した。またエリサンの生存日数もケヤマハンノキの貧栄養では富栄養よりも長くなった。この理由としてFrankia sp.との共生関係にあることが考えられる。ケヤマハンノキでは光合成産物を自己の成長や防御だけでなくFrankia sp.にもまわす必要があるためCNB仮説と一致しない結果が得られたのだと考えられる。
P1-031c: カラマツ樹冠部での短枝・長枝葉の光合成特性
地球温暖化の進行に伴い、北方林の持つ大気中二酸化炭素の固定能力に期待が寄せられている。北方林の重要樹種であるカラマツ属は、高い光合成能力と広範囲に渡る分布からCO2シンクとして特に注目されているため、光合成特性の解明が急務である。
北海道に多く植林されているニホンカラマツ(Larix kaempferi)は、春先に一斉に開葉する短枝葉とその後、順次開葉する長枝葉を持つ。今日までに、短枝葉と長枝葉の形態学的な違いについては研究が進展してきた。しかし、光合成機能を含めた生理的特性についてはまだ未解明の部分が多く、短枝葉の方が光合成機能が高いという結果(倉地1978)と大きな違いはないという結果(北岡2000)の二つの異なる見解がある。一方で、長枝葉の弱光利用能力が短枝葉より低いことから長枝葉は空間の獲得、短枝葉は獲得した空間の維持という役割を持つことが指摘されている。そこで、長枝葉と短枝葉の光合成機能の差を明らかにするために、光環境の異なる点での光合成能力の測定を行うと同時に、葉の発達に伴う構造の変化に注目し針葉の形態の観察を行った。
測定は、月1回、北海道苫小牧国有林のニホンカラマツ人工林内に設置された林冠アクセス用の仮設足場から手の届く範囲にある葉について行った。本研究では、陽樹冠、陰樹冠各々の短枝葉及び長枝葉の光合成能力の測定を行い、光-光合成曲線とA-Ciカーブを作成した。測定結果から、光-光合成曲線の初期勾配、光飽和点、カルボキシレーション効率を求め、針葉の形態の観察結果と比較し、考察した結果を報告する。
P1-032c: コジイとアラカシの分枝様式と樹冠内光環境
植物個体の炭素獲得は個体の周囲の光環境だけでなく、樹冠内の光の分布様式にも影響される。それゆえ、個体全体の生産量を定量化する場合、樹冠内の光の不均一性を考慮する必要がある(Ashton 1978; Chazdon et al. 1988)。樹冠内の光の不均一性は相互被陰の程度といった葉の配置様式によってもたらされる。(Pearcy and Valladares 1988)。また、樹木の分枝様式は光環境と密接に関連するため、樹冠内の光環境に対応しているはずである。しかしながら、葉の配置様式や樹冠内の光環境の定量的なデータは測定の困難さゆえに十分に調べられていない(Chazdon 1985; Oberbauer 1988)。本研究では、コジイとアラカシの稚樹を対象に、葉の配置様式と分枝様式、樹冠内の光環境を調べ、これらの関連を考察する。
葉の配置様式:三次元デジタイザ(FASTRAK electro-magnetic 3-D digitizing appratusPolhemus U.S.)を用い、樹冠内全ての葉の三次元座標を測定した。このデータを用いて、樹冠内の葉群分布を定量的に記述した。
分枝様式:樹冠の上・中・下から各一本ずつ側枝(幹から直接分枝した枝)を選び、分枝図を作成し、3年間にわたって追跡調査を行った。これから、種の分枝様式を明らかにした。
樹冠内光環境:分枝図を作成した枝を対象に、感光フィルム(Oil-red O film, Taisei Chemical Industries, Tokyo)を各枝3箇所ずつ設置し、各枝の光環境を調べた。
以上の結果から、光環境に対応した分枝様式を明らかにし、葉の配置様式と関連して議論したい。
P1-033c: 寒冷圏におけるダケカンバの光合成機能の環境ストレスに対する応答(2)
北海道の森林は,林床にササ(Sasa kurilensis)が繁茂し,下層のササと上層の樹木との間で資源をめぐる競争が起こっていると考えられる。林床のササが樹木に及ぼす影響を調べるために,北海道大学・雨龍研究林のダケカンバ(Betula ermanii)林では,林床のササを除去した調査区(除去区)と除去しない対照調査区(ササ区)が設置された。ササ区のダケカンバは除去区のダケカンバよりも林床のササによって制限される環境要因が多いため,光エネルギー過剰の状態となり,光阻害を回避する様々な機能がより活発に働くことが予想された。本研究では,植物が受けるストレスの定量化を行い,樹木が光ストレスに対してどのような生理的応答をするのかを調べた。前回の発表では,約30年生のダケカンバにおいて,光合成速度が低かった除去区でも光阻害が起きていないことや,ササ区と除去区では過剰光エネルギーを消去する方法が異なっていることを報告した。今回は約20年生のダケカンバを対象にして行った調査について報告する。
約20年生のダケカンバでは、約30年生と同様にササ区で光合成速度や葉面積が大きい傾向を示した。光阻害の指標となる光化学系IIの最大量子収率の値には,除去区,ササ区ともに大きな低下は見られなかった。過剰な光エネルギーを熱放散する指標となるキサントフィルサイクルの脱エポキシ化の割合は,ササの有無に関わらず高い値を示した。活性酸素消去系酵素の活性にも,ササの有無による違いはみられなかった。
以上の結果から,約30年生と同様に約20年生のダケカンバ林では,ササの有無に関わらず光阻害を受けないように防御していると考えられる。中でも,キサントフィルサイクルの結果から,ダケカンバは過剰な光エネルギーを熱として消去している可能性が示唆され,ササの有無による葉面積あたりの光合成速度の違いに,光ストレスは影響を与えていないと考えられる。
P1-034c: 低温と強光ストレスが当年生ミズナラ実生に与える影響
植物が生育するためには、光は重要な環境因子である。しかし、過剰な光は光合成の低下(光阻害)などを引き起こす。この原因となるのは、光合成や熱放散などの光ストレス防御で消費できなかった過剰エネルギーであると考えられている。本実験では、北方林の主要樹種であるミズナラ(Quercus crispula)を用い、生育環境によって光ストレス防御反応と過剰エネルギー量がどのように変わるのか明らかにすることを目的とした。
当年生ミズナラ実生を人工気象器内で2段階の光強度1000µmolm-2s-1(強光)・100µmolm-2s-1(弱光)と2段階の温度25°C(高温)・10°C(低温)を組み合わせた4条件で生育させた。展葉が終了した段階で、最大量子収率(Fv/Fm)は低温で生育した個体で低く、ストレスを強く受けていることがわかった。最大光合成速度とFv/Fmの値は高温で生育した個体で高く、その中でも弱光高温で生育させた個体で最も高かった。逆に、低温で生育した個体は値が低かった。しかし、光ストレスの原因と考えられる過剰エネルギーの量を(1-qP)×Fv’/Fm’から求めると、高温で生育した個体の方が大きかった。また、光化学系IIの電子伝達速度は強光高温で生育した個体で最も大きかった。この原因として、強光高温の個体では光化学系II以降で過剰電子の消去が行われている可能性が考えられるので、Water-Water サイクルの寄与を検討した。熱放散に働くキサントフィルサイクルの脱エポキシ化率を測定したところ、強光低温で生育した個体で最も大きく、次に強光高温と弱光低温が大きな値を示した。クロロフィルaとクロロフィルbの比を測定したところ、強光低温で生育した個体で最も高い値を示しアンテナサイズが小さく、弱光高温で生育した個体は最も低い値を示した。
以上より、ミズナラ実生では光ストレス防御において強光と低温で同様な応答を示すことが明らかになった。
P1-035c: 3種のマツヨイグサ属植物の受粉様式の違いによる発芽特性
マツヨイグサ属植物は辺りが暗くなり始めたら開花し、強い芳香を放つ外来種である。マツヨイグサ属植物の中で最も花径の大きいオオマツヨイグサOenothera erythrosepala Borbasは近年減少し、花径の小さいメマツヨイグサOenothera biennis L.、匍匐性のコマツヨイグサOenothera laciniata Hillが分布を拡大している。マツヨイグサ属植物はポリネーターをスズメガ、ヤガとする虫媒花であるが、自家和合性も確認されている。そこで、受粉様式の違いがマツヨイグサ属植物の増減に影響しているかを検討するために、花に対する袋がけ実験を行うことで、自家受粉率と受粉様式の違いによる結実率を調べた。受粉様式は、1)自家受粉、2)除雄、3)隣花受粉、4)他家受粉の4処理とし、処理を行った後に袋をかけた。マツヨイグサ属植物は一日花なので、袋は翌日はずした。また、結実した種子の数と重量を測定し、さらに強光条件、変温・恒温条件のもとで発芽実験を行った。なお、オオマツヨイグサの自家受粉率については、実験に十分な個体群が見つからなかったため、行っていない。
袋がけ実験の結果より、メマツヨイグサ、コマツヨイグサの自家受粉率はそれぞれ83.1±13.9%(n=342)、89.5±9.2%(n=365)であった。また、オオマツヨイグサの自家受粉率は既存の文献より、81.1%(n=307)(Kachi 1983)という報告がある。結実率、種子重、種子数においては3種とも有意な差は認められなかった。また、発芽実験の結果においても、3種とも受粉様式の違いによる発芽率に有意な差は認められなかった。
以上の結果から、受粉様式が異なっても種子は結実し、結実した種子には発芽能力があることがいえる。また、3種とも自家受粉率が80%以上と高いことから、ポリネーターに依存しなくても種子生産は可能であることが示唆された。これらのことから、オオマツヨイグサの減少とメマツヨイグサ、コマツヨイグサの分布拡大には受粉様式の違いが影響していないと考えられる。
P1-036c: 苗場山ブナ樹冠における光環境と光合成特性の垂直、水平方向、方位による変異
樹冠層の光合成量を推定するためには、光合成特性と光環境の空間分布とその相互関係を知ることが重要である。そこで、樹冠層を垂直、水平方向、方位で分割し、それぞれの区画で葉の光合成特性と光環境を調べ、それらの相互関係を整理した。試験地は新潟県の苗場山標高900mにある70年生ブナ2次林である。測定期間は2002年7月5_から_13日である。供試木の空間情報は樹高21.5m、最下葉高17m、胸高直径26.5cm、樹冠半径2mである。試験地内には高さ24mの鉄塔が建設されており、供試木にあらゆる方向から自由にアクセスできる。供試木の樹冠を円柱形であると仮定し、まず方位で4分割した。さらに垂直方向、水平方向にそれぞれ3分割した(垂直方向;上層、中層、下層、水平方向;外側、内側1、内側2)。光環境の違いが顕著になる北側と南側の葉層を測定対象とした。それぞれの区画で光合成能力(Vcmax)、窒素含有量、クロロフィル、ルビスコ、比葉面積(LMA)と光環境を測定した。光環境は樹冠内と樹冠外の光量子束密度との比(rPPFD)であらわした。rPPFDは垂直方向に0.96_から_0.15まで変化した。水平方向では、上層と中層でそれぞれ0.98_から_0.25、0.78_から_0.16まで低下した。下層では水平的な位置にかかわらず約0.15であった。方位について比較すると、上層と中層の区画において北側は南側よりも0.05_から_0.15大きかった。樹冠内のVcmaxは29.4_から_83.8μmol m-2 s-1 でありrPPFDと同様に垂直、水平方向で大きく変化した。rPPFDとVcmaxの関係は垂直方向、水平方向でほとんど同じ傾向を示したが、北側と南側を比較すると、同じrPPFDにおいて北側のVcmaxは南側よりも低かった。しかし、葉面積あたりの窒素含有量とLMAは北側のほうが南側よりも大きかった。樹冠北側の葉は南側よりも多くの資源を投資しており、窒素利用効率が低いことがわかった。クロロフィル、ルビスコ含有量、葉の解剖学的特性を調べ、北側の葉で窒素利用効率が低くLMAが大きい原因について考察する。
P1-037c: 針葉樹3種の硝酸同化の季節変動:硝酸還元酵素活性を指標として
窒素は植物にとって多量必須元素である。硝酸態窒素(以下硝酸)は植物の窒素源として最も重要な物質の一つであることから、植物による硝酸同化を理解することは重要であると考えられる。植物による硝酸同化の指標として硝酸還元酵素活性(NRA)が広く用いられている。植物による硝酸同化ポテンシャルの指標となるNRA(NO₃)を用いた研究は多く、硝酸同化の特性は種間差が大きいことが知られている。さらに、近年は実際の硝酸同化量の指標となるNRA(H₂O)の測定も行われ、2種類のNRAを同時に測定することで植物の硝酸同化をより正確に把握できると考えられる。
本研究は日本の代表的な植栽針葉樹であるスギ・ヒノキ・アカマツを用い、NRA(NO₃)とNRA(H₂O)を年間を通して測定することにより、硝酸同化の種特性と季節性を明らかにすることを目的とした。
3樹種はいずれも、展葉が盛んな時期にNRA(NO₃)とNRA(H₂O)が有意に高くなった。このことから、これら3樹種は展葉に伴う窒素需要増大を補うために硝酸同化ポテンシャルを高め、硝酸同化量を増大させていると考えられた。さらに、いずれの樹種でも、休眠期とされる12月_から_2月にNRA(NO₃)・NRA(H₂O)ともに高くなった。この傾向は常緑広葉樹では見られず(小山 未発表)、常緑針葉樹の特徴であると考えられた。これまで樹木の硝酸同化に関する研究は成長期を中心に行われてきたが、本研究から常緑針葉樹の場合は休眠期も重要であることが示唆された。
アカマツはスギ・ヒノキと比較して、単位重量あたりのNRA(NO₃)は高かったがNRA(H₂O)は低かった。このことからアカマツはスギ・ヒノキよりも硝酸同化ポテンシャルが高いにも拘わらず、同化量は小さいことが示された。これはアカマツのアンモニア嗜好性と関連があると考えられた。
P1-038c: 水ストレス緩和後の光合成誘導の変化
林床に生育する植物にとって光は重要な資源であり、効率よいサンフレック利用が重要である。弱光から強光へと変化すると、光活性化酵素、RuBPCase、気孔コンダクタンスなどの活性化により、光合成が徐々に誘導される。このような光合成誘導反応は、生育地の環境によって大きく影響される。しかし、降雨や乾燥による誘導反応への影響を調べられた報告は少ない。そこで我々は、水要求が強く乾燥に弱いと考えられる林床渓畔草本ヤマタイミンガサを用いて、水ストレスから緩和された後、光合成誘導がどの様に変化するのかを調査した。
実験は、1 湿潤条件で生育させた個体を乾燥状態にさせLI-6400でTimed-Lamp測定(CO2:360μmol m-2s-1、光:20⇔500μmol m-2s-1を3回繰り返す)、2 測定後十分な水をやり、180分後に同様の測定をおこなった。
その結果、乾燥状態から湿潤状態に回復することによって、光合成がより早く誘導されるようになり、光合成速度も約2倍になった。しかし、乾燥状態では、繰り返された3回の誘導ごとに光合成速度の上昇(1.12、1.31、1.52μmol m2 s-1)が見られたが、湿潤状態では3回の誘導全てで同じ光合成速度(2.74、2.71、2.71μmol m2 s-1)であった。気孔コンダクタンスは、乾燥状態では、0.01から0.015mol m-2s-1の間で低かったが、徐々に大きくなった。一方、湿潤状態では、0.06から0.04mol m-2s-1と大きかったが、徐々に小さくなった。
光合成速度は、乾燥と湿潤の間で差があり、また誘導反応にも違いが見られた。この結果は、気孔による影響が大きいと考えられた。湿潤だと、気孔を大きく開くことで、常にアイドリング状態を維持できる。そのため、強光に対してすぐに誘導を開始できる事で、効率良く炭素同化できると示唆された。