2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] ポスター発表: 物質生産・物質循環

8 月 26 日 (木)
  • P1-039: 陸域環境研究センター圃場におけるC3/C4混生草原の地下部バイオマスと成長量の季節変化 (劉, 莫, 及川)
  • P1-040: 岩手県・安比高原のブナ二次林における土壌呼吸の平面分布 (橋本, 三浦, 池田, 志知)
  • P1-041: フクジュソウの物質生産と繁殖サイズ (大窪, 新井)
  • P1-042: 広葉樹二次林における枯死木の動態 (上村, 小南, 金澤, 後藤)
  • P1-043: ブナ林を流れる渓流における有機物収支 _-_C,Nベースでの試算_-_ (阿部, 藤枝, 吉永, 壁谷, 野口, 清水, 久保田)
  • P1-044: スギ人工林の発達に伴う土壌炭素ダイナミクスのモデルシミュレーション (首藤, 中根)
  • P1-045: 高CO2が森林生態系に及ぼす影響のシミュレーション研究 (戸田, 渡辺, 横沢, 高田, 江守, 隅田, 原)
  • P1-046: ヒノキの幹呼吸速度の日変化における温度依存性 (荒木, 川崎, 韓)
  • P1-047: カワウによる森林への窒素供給とその長期的影響 (亀田, 保原, 木庭, 大園, 寺井)
  • P1-048: 冷温帯落葉広葉樹林における樹冠上CO2フラックス形成過程 (高梨, 小杉, 中西, 松尾, 田中, 日浦)
  • P1-049: 亜高山帯の常緑多年生草本ベニバナイチヤクソウの標高にともなう窒素・りんの動態の変化 (磯海, 山村, 中野)
  • P1-050: ヤナギ林の地下部根系の動態と純一次生産量 (糟谷, 山本, 糸永, 斎藤)
  • P1-051: 北海道東部河川におけるサケの死骸が河畔林と河川生物に及ぼす影響 (柳井, 河内)
  • P1-052: プロセスアプローチによる農地生態系の炭素収支比較 (関川, 木部, 横沢, 小泉, 鞠子)
  • P1-053: カワウ営巣林における木質リター: 現存量・組成・化学性の変化 (勝又, 大園, 武田, 亀田, 木庭)
  • P1-054: 落葉広葉樹二次林における土壌のCO2、CH4、N2O発生・吸収速度と伐採の影響 (籠谷, 金子, 浜端, 中島)
  • P1-055c: 自動開閉式チャンバーを用いた根呼吸量の連続測定 (檀浦, 小南, 金澤, 深山, 玉井, 後藤)
  • P1-056c: 林床性高茎草本の成長戦略
    -冷温帯落葉樹林の季節的光変動環境下における同化様式- (谷, 工藤)
  • P1-057c: マレーシアの熱帯林とプランテーションにおける土壌特性が土壌呼吸速度に与える影響 (安立, 八代, 近藤, 車戸, Rashidah, 奥田, 小泉)
  • P1-058c: タイ東北部の熱帯乾燥常緑林における大型枯死材を中心とする炭素循環 (清原, 神崎, 太田, 梶原, ワチャリンラット, サフナル)
  • P1-059c: 炭素・窒素・硫黄安定同位体比を用いたLake Chain生態系の物質循環解析 (土居, 菊地, 溝田, 鹿野, 狩野, Natalia , Elena, Elena)
  • P1-060c: 硫気荒原におけるリン脂質脂肪酸を指標とした土壌微生物群集構造の解析 (吉竹, 中坪)
  • P1-061c: 天然のCO2噴出地:将来予測される高CO2環境のモデル生態系 (小野田, 彦坂, 広瀬)
  • P1-062c: 樹木肥大成長の気象変動に対する応答とサイズ依存性 (鍋嶋, 日浦, 久保)
  • P1-063c: 消費者の栄養塩再循環による空間的異質性: 被食者多様性への捕食者の役割 (加藤, 占部, 河田)
  • P1-064c: 干潟の物質循環におけるイボウミニナ Batillaria zonalis の役割について (上村, 土屋)
  • P1-065c: ブナにおけるマスティングとリターフォール量の関係 (安村, 彦坂, 広瀬)
  • P1-066c: スギ人工林の成立に伴う土壌無機態窒素動態の変化 (福島, 徳地, 舘野)
  • P1-067c: 北米冷温帯針葉樹林における樹冠の枯死枝の現存量と分解過程 (石井, 角谷)
  • P1-068c: リンの存在形態からみた日本の干潟の特徴 (宇田川, 広木, 野原, 矢部, 佐竹, 河地)
  • P1-069c: ヒノキ細根系内の寿命異質性からみた生産・枯死・分解過程 (菱, 武田)
  • P1-070c: 中央シベリア永久凍土帯に成立するカラマツ林の土壌中窒素動態  (近藤, 徳地)
  • P1-071c: 八ヶ岳山麓の湿地林における地上部現存量とリター量の空間分布 (小川, 上條, 黒田, 荒木, 曽根)
  • P1-072c: 自動開閉チャンバーを用いた温帯森林での土壌呼吸の連続測定 (李, 徐, 李, 李, 横沢)
  • P1-073c: プランクトンを利用したPOMの流下距離推定 (山本, 竹門, 池淵)
  • P1-074c: マレーシアにおける土地利用変化とN2Oフラックス (八代, 安立, 奥田, Wan, 小泉)
  • P1-075c: 河川窒素動態に与える水草の影響 (小野田, 田中, 向井)
  • P1-076c: 安定同位体分析を用いた冷温帯落葉広葉樹林におけるCO2動態の季節変化の評価 (近藤, 内田, 村岡, 小泉)
  • P1-077c: 森林生態系における林冠構成種と林床植生の光合成生産量の推定 (酒井, 三枝, 山本, 秋山)
  • P1-078c: 北海道北部の冷温帯林における細根動態と土壌環境要因の季節変化 (福澤, 柴田, 高木, 佐藤, 笹, 小池)
  • P1-079c: 河川の出水特性と有機物の流下・滞留様式の関係 (三島, 河内, 柳井)
  • P1-080c: Differences of O2/CO2 exchange ratio on soil respiration using two chamber types in forests soil (李, 遠嶋, 井上)
  • P1-081c: 安定同位体を用いた森林土壌における炭素・窒素動態に関する研究 (新井, 徳地, 木庭)
  • P1-082c: 冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の肥料的価値 (中村, 香川, 江成)
  • P1-083c: 温暖化環境下での樹林の炭素循環・収支研究のためのオープントップチャンバー(OTC)の環境条件の制御 (周, 林, 今川, 中根)
  • P1-084c: オープントップチャンバーを用いて温暖化環境に制御された条件下での常緑広葉樹(アラカシ)の成長量と生産物の再配分 (林, 今川, 周, 中根)
  • P1-085c: 亜高山帯針葉樹林における細根の現存量と生成量の推定 (土井, 菱, 森, 武田)

12:30-14:30

P1-039: 陸域環境研究センター圃場におけるC3/C4混生草原の地下部バイオマスと成長量の季節変化

*劉 建軍1, 莫 文紅1, 及川 武久1
1筑波大学

草原生態系の植物体に蓄積されている炭素量は地上部現存量と地下部(根,地下茎などの地下器官を含む)現存量の両方を含む.地上部に関してはそれまでに多くの研究成果があり(莫ほか2003; 井桝ほか2002;横山・及川,2000;田中・及川,1998,1999),しかし,地下部に関しての実測例はとても少なく,特に植生の地下部から土壌への炭素移入量についてはほとんど明らかになっていない.本研究が調査地とする筑波大学陸域研究研究センター圃場のC3/ C4混生草原では,1993年以降長期間にわたって継続して植生調査が行なわれ,C3植物とC4植物の地上部バイオマスやLAIの季節変化と気象要因との相関関係などが解明されつづである.しかし,地下部バイオマスと成長量に関するのデータは殆どなかった.そこで,本研究は地下部のバイオマスおよび成長量の季節変化を調査し,C3/C4混生草原の炭素循環における地下部の役割を定量的に解明することを目的とした.
本研究の調査地となったC3/C4混生草原では,C3植物であるセイタカアワダチソウの優占区において,生きている地下部バイオマスは1580.7g d.w. m-2で,地下部の成長量は481.7g d.w. m-2yr-1で;死んた地下部の蓄積量は593.7g d.w.m-2で,地下部のリターフォールは483.6g d.w. m-2yr-1であった.C4植物であるチガヤの優占区では,生きている地下部バイオマスは1762.1g d.w.m-2で,地下部の成長量は584.1g d.w.m-2yr-1で;死んた地下部の蓄積量は456.4 g d.w.m-2で,地下部のリターフォールは318.7g d.w.m-2yr-1であった.C4植物でありススキの優占区では,生きている地下部バイオマスは2624.9g d.w.m-2で,地下部の成長量は875.0g d.w.m-2yr-1で;死んた地下部の蓄積量は538.7 g d.w.m-2で,地下部のリターフォールは351.7g d.w.m-2yr-1であった.
2003年における地下部バイオマスおよび成長量は優占種によって大きく変動し,地下部の成長は主に地上部の成長を依存することを明らかにした.本草原サイトのように,地下部バイオマスに貯留されている炭素は,草原生態系において地上部バイオマス以上に重要なリザーバーとして機能していることを示唆した.


12:30-14:30

P1-040: 岩手県・安比高原のブナ二次林における土壌呼吸の平面分布

*橋本 徹1, 三浦 覚1, 池田 重人2, 志知 幸治1
1森林総研・東北, 2森林総研

 土壌呼吸は、森林生態系の中で主要な生物過程の一つであり、炭素循環と密接に関係している。しかし、土壌中では大きな空間的な不均一性が生じており、その不均一性を把握することなしに土壌呼吸動態を定量的に調べることはできない。そこで、本研究では東北地方の代表的樹種であるブナ林下の土壌呼吸の空間分布について調べた。
  調査は、岩手県安代町安比高原において、約70年生のブナ二次林で行った。30 × 30 mのプロットを設定し、そこに直径40 cm、深さ15 cmの円筒型チャンバーを5 mおきに7 × 7個埋め込んだ。バイサラ社のCO2センサー(GMM222)を用いて、密閉法で、7/29、10/11、10/31の3回測定した。
 その結果、各測定日の土壌呼吸速度は、7/29が133.9 μgCO2/m2/s (S.D. = 26.4)、10/11が84.4 (15.8)、10/31が71.1 (11.2)であった。土壌呼吸速度平面分布の凹凸差が最も大きかった7/29では、最大(198 μgCO2/m2/s)と最小(88)で2倍以上の差が見られ、30 × 30 mの枠内で土壌呼吸速度の低いくぼ地がいくつか認められた。7/29の平面分布の形状を維持しつつ、土壌呼吸速度の高い山の部分が下がるような形で経時変化した。10 cm深地温と土壌呼吸速度の相関係数は、3回の測定日でそれぞれ、0.02、0.51、0.46であり、7/29の値が非常に小さかった。含水率と土壌呼吸速度の相関係数はそれぞれ-0.52、-0.53、-0.31であった。立木密度の小さいところで土壌呼吸速度が低い傾向が見られた。土壌呼吸の平面分布には、上木の立木位置が影響しているようである。


12:30-14:30

P1-041: フクジュソウの物質生産と繁殖サイズ

*大窪 久美子1, 新井 隆介2
1信州大学農学部, 2信州大学大学院農学研究科

 キンポウゲ科多年生草本植物フクジュソウ(Adonis ramosa)の物質生産と繁殖サイズとの関係を知るため、2000年4月に長野県長谷村の自生地個体群においてサンプリング調査を行った。本種は環境省RDBに絶滅危惧_II_類(VU)として指定されているが、調査は個体群が開発行為によって消失するため、土地所有者の許可を得て、保全のための移植を行う際に一部の個体で実施した.自生地の水田畦畔に2×2m2の方形区を5プロット設置し,計532個体のフクジュソウをサンプリングした.地上部は光合成器官(葉),非光合成器官(地上茎),繁殖器官(花,果実),地下部は栄養器官(根茎、根)の各部位に分け,地上茎について2方向の根元直径(D)および長さ(H),また花弁と萼片の長さを測定した.その後,乾燥機で105℃,72時間乾燥し,部位ごとに乾燥重量を測定した.
1.フクジュソウのT/R比は平均値0.43(SD;±0.34)であった.一般に多年生草本のT/R比は一年生草本や木本に比べて一般的に小さく,1以下のものが多い(岩城1973,吉良1976)が,他の多年生草本と比較すると,フクジュソウのT/R比は小さく,地下部への配分が大きかった.繁殖個体と非繁殖個体との間にはT/R比の明確な違いはなかった.
2.個体乾燥重量(地上部+地下部)wは地上茎の根元直径(D)と長さ(H)の関係から、次式で求められた.(dw=0.7665D2H+0.1811(R2=0.8842))
3.繁殖ステージのサイズクラスは乾燥重量0.3g以上1.0g未満クラスでは繁殖個体が6.52%,1.0g以上3.2g未満クラスでは54.73%,3.2g以上10g未満クラスでは繁殖個体が93.26%であった.
4.個体サイズと部位別分配比はサイズが大きくなるごとに,地下茎(R)の分配比が増加し,地上部(葉(L)と茎(S))への分配比は減少した.


12:30-14:30

P1-042: 広葉樹二次林における枯死木の動態

*上村 真由子1, 小南 裕志2, 金澤 洋一1, 後藤 義明2
1神戸大学大学院自然科学研究科, 2森林総合研究所関西支所

森林生態系の炭素循環を考える上で、枯死木の動態を定量評価することが重要である。短期的には、森林生態系のNEPを評価する上で、NPPからRhを差し引くため、Rhの定量化を行わなければならず、枯死木呼吸量はRhの構成要素なので呼吸量を定量化する必要がある。また、長期的には、枯死木はリターに比べて、林床への落下量の年変動が大きく、また分解速度が遅いため、遷移や攪乱によって生じた枯死木が長期間にわたって森林の炭素循環に影響を与える。このように、森林の炭素循環を短期的、長期的に評価する上で、枯死木の動態を調べることは重要である。しかし、これまでの炭素循環研究の中で、枯死木の発生量、現存量、分解量について十分に研究がなされているとは言い難い。よって、この研究では広葉樹二次林における枯死木の動態を調べることとした。
調査・観測は、京都府南部の山城試験地で行われた。この試験地は広葉樹二次林であり、現在はコナラとソヨゴが優占するが、過去にはアカマツが優占し、現在は倒伏や立ち枯れの状態でアカマツの枯死木が多く存在する。
枯死木の動態を調べるためには、枯死木の発生量、現存量、分解量を定量化しなければならない。枯死木の発生量は、試験地(1.6ha)の3cm以上の毎木調査を1994年、1999年に行っており、1999年以降、2000、2001、2003年に調査を行い、樹木の生死を判別している。枯死木の現存量は、試験地全体に存在する直径が10cm以上の枯死木を対象とし2003年に調査を行った。枯死木の分解量は、枯死木からの分解呼吸量を赤外線ガスアナライザーを用いて測定する装置を開発し、同一枯死木からの連続測定や多サンプル観測により、環境要因や枯死木の状態と呼吸量との関係を調べた。これらの調査、観測の結果をもとに、広葉樹二次林における枯死木の動態を考える。


12:30-14:30

P1-043: ブナ林を流れる渓流における有機物収支 _-_C,Nベースでの試算_-_

*阿部 俊夫1, 藤枝 基久1, 吉永 秀一郎1, 壁谷 直記1, 野口 宏典1, 清水 晃1, 久保田 多余子1
1(独)森林総合研究所

 茨城県北部のブナ原生林を流れる小渓流において,有機物流出量および有機物供給量を観測し,kgC,kgNベースでの有機物収支の試算を行った.調査渓流の集水面積は約55ha,調査区間は100mである.有機物流出は,CPOM(φ>8mm),MPOM(φ=1_から_8mm),FPOM(φ=0.7μm_から_1mm),DOC(φ<0.7μm)に分けて観測した.有機物供給としては,リターフォール,林床からのリター移入,渓流内の草本および藻類の生産量を調査した.観測は2001年に行った.固体有機物は,乾燥重量(またはAFDM)に,C,N含有率(この要旨では一部暫定値を使用)を掛けて,C,N量を求めた.DONについては,DOC量をC/N比(暫定的に20と仮定)で割って推定した.
 調査区間からの年流出量は,6.98tC,0.35tNと推定された.FPOMの占める割合が高く,Cで73.6%,Nで82.5%であった.未分解のリターに相当するCPOMは,Cで6.9%,Nで2.9%と少なかった.一方,上流からの年流入量は,6.59tC,0.34tNと推定され,流出と流入の差は,392.0kgC,5.9kgNであった.
 調査区間への供給量は,年間121.8kgC,3.1kgNであった.供給の大部分は,陸起源有機物のリターであり(Cで97.8%),水中起源の有機物である藻類の割合は小さかったが,藻類は比較的N含有率が高いため,N供給量としてみると,藻類も全体の9.3%を占めた.なお,流出と流入の差に対して供給量が過少になっているのは,林床や渓岸からのFPOM供給,地下水によるDOM供給など未観測の項目によるものと考えられる.


12:30-14:30

P1-044: スギ人工林の発達に伴う土壌炭素ダイナミクスのモデルシミュレーション

*首藤 勝之1, 中根 周歩1
1広島大学大学院生物圏科学研究科

今回の研究では、皆伐後のスギ人工林における土壌炭素循環について、枝打ち・間伐などの管理を考慮に入れた場合と入れない場合とに分けて時系列的にシミュレーションを行った。このシミュレーションはVBAプログラムにより計算し、またこのシミュレーション結果と、スギ人工林における炭素循環の実測値とを比較する事により、このプログラムの精度を検証した。管理を考慮したシミュレーションの結果、皆伐後の地上部バイオマス・リターフォール速度は迅速に林齢に伴い回復し、その変化に伴い地温は減少、土壌水分量は増加の傾向を示した。
A0層(SRA)・ミネラル層(SRM)の呼吸速度、そして全土壌呼吸速度(SR)のそれぞれは皆伐後に急激に上昇し、その後徐々に減少して、それぞれ1.58(SRA), 3.11(SRM), 4.9(SR)tC ha-1y-1で安定した。皆伐後のA0層(M0)、ミネラル層(M)の炭素蓄積量は急速に減少し、枯死根層(Mr)の炭素蓄積量は伐採により生じた枯死根により増加した。M0とMは減少後、林齢に伴い徐々に増加し、それぞれ11、120 tC ha-1y-1で安定した。Mrは増加後、林齢に伴い減少し、3.3 tC ha-1y-1で安定した。また、管理を考慮した場合と考慮しなかった場合とのシミュレーションの結果の間に、有意な差が無かり、そしてそれぞれの結果は実測値と良く合致する結果となった。これらの事から、スギ人工林における炭素循環は、管理を考慮しなくても正確にシミュレートする事が可能であり、よって林齢さえ分かれば、目的の林分の履歴が分からなくても正確な土壌炭素循環のシミュレートが可能である事が示唆された。


12:30-14:30

P1-045: 高CO2が森林生態系に及ぼす影響のシミュレーション研究

*戸田 求1, 渡辺 力2, 横沢 正幸3, 高田 久美子4, 江守 正多5, 隅田 明洋1, 原 登志彦1
1北海道大学低温科学研究所, 2森林総合研究所, 3農業環境技術研究所, 4地球フロンティア研究システム, 5国立環境研究所

大気中CO2濃度の上昇による温暖化といった環境変化は、植物個体の生長、競合、群落構造(サイズ構造)に影響を与え,また逆に群落構造の変化はその周りの環境を変化させる。これまで草本群落については,高CO2濃度や高温条件下での実験的研究が多く行われているが、木本については,その規模や時間の制限のため実験を行うことが困難である。本研究では、このような環境変化が森林生態系の物質収支や森林構造動態に及ぼす影響を調べるため、森林内の微気象と個体サイズ動態の相互作用を取り扱う数値モデル(MINoSGI, Multilayered Integrated Numerical Model of Surface Physics-Growing Plants Interaction)を用いて,環境応答に関する数値実験を行った。数値実験では、初期条件として同一種同齢の苗木(スギ)を植林した状態を想定し、様々な環境条件を変えつつ,20年間にわたる群落構造・物質収支の時間推移について調べた。結果の一例として,大気CO2濃度が現在の373ppmの場合とその2倍とした場合,また,あわせて,葉内窒素濃度を変えた場合(これは土壌中の利用可能な窒素量が異なる条件に対応する)について示す。計算の結果、高CO2環境において森林は樹高頻度分布のサイズ不均一性を高め、高窒素条件下ではその影響がより顕著であることがわかった。そして、高CO2環境下で多くの大個体によって占められた森林群落では総光合成量が増加する一方で呼吸も増加し、純生産量(NPP)は低下することがわかった。本発表では高CO2環境の数値実験の他、気温上昇や乾燥条件など地球温暖化を想定した数値実験を行い、木本植物の環境応答についての考察を加える。


12:30-14:30

P1-046: ヒノキの幹呼吸速度の日変化における温度依存性

*荒木 眞岳1, 川崎 達郎1, 韓 慶民1
1森林総研

 森林生態系における二酸化炭素収支の研究が進むにつれ,非同化器官による呼吸特性の解明の必要性が高まっている。本研究では,50年生のヒノキ人工林においてヒノキ成木の幹の呼吸速度を,地上高2mおきに2年間にわたって測定してきた。今回は,幹呼吸速度の日変化における温度依存性について考察する。
 1秒あたりの呼吸速度R(μmol CO2 m-2 s-1)は,幹温度の上昇・下降にともなった日変化パターンを示し,呼吸速度(R)と幹温度(T)の関係を各測定日,各高さごとに次の指数関数で近似した。
              R = R15 Q10((T-15)/10)
ここで,R15は幹温度を15°Cに標準化した時の呼吸速度,Q10は温度係数(温度が10°C増加した時の呼吸速度の増加比)である。Q10の値は大体1.5から2.5の範囲にあり,その平均は1.95であった。しかしQ10は季節変化を示し,冬に大きく夏に小さい傾向が認められた。Q10は気温と有意な強い負の相関を持ち,Q10と気温との関係は負の傾きを持つ直線で回帰できた。また,Q10に幹の高さによる差は認められなかった。一方R15は季節や幹の高さによって大きく異なった。
 幹呼吸速度の日変化における幹温度への反応は,同じ幹温度でも夜の方が昼よりも高く,ヒステリシスを示す場合が多かった。数時間前の幹温度に対して呼吸速度をプロットすることで,ヒステリシスが解消されることもあった。これは,同じ幹内でも温度が異なり測定した幹温度が呼吸活性の高い部分の温度を代表していなかったことや,幹の拡散抵抗が大きいことなどが原因として考えられた。


12:30-14:30

P1-047: カワウによる森林への窒素供給とその長期的影響

*亀田 佳代子1, 保原 達2, 木庭 啓介3, 大園 享司4, 寺井 雅一4
1滋賀県立琵琶湖博物館, 2国立環境研究所, 3東京工業大学総合理工学研究科, 4京都大学大学院農学研究科

 水鳥類は、水域で採食し陸域で繁殖を行うことにより、水域から陸域へと物質を輸送している。海洋島や極地などの海鳥繁殖地では、海鳥類による養分供給により、陸上生態系の生産量増加や食物網構造の複雑化が生じる。一方、河川や湖沼、海岸部に生息し、水辺の森林で集団営巣を行うカワウ(Phalacrocorax carbo)も、水域から森林への物質輸送を行っている。カワウによる物質輸送では、森林に直接養分が供給されるのが特徴であり、そこでの養分動態や生態系の変化は、島嶼や極地とは異なる特徴を持つと考えられる。そこで本研究では、カワウの糞に多量に含まれる窒素に注目し、森林の窒素動態に対するカワウの影響を調べた。
 調査は、滋賀県琵琶湖のカワウ営巣地、近江八幡市伊崎半島およびびわ町竹生島で行った。営巣林内に、カワウが営巣中の区域、以前営巣していたが放棄した区域、一度も営巣されたことがない区域を設定し、カワウの糞、土壌有機物層、鉱質土層、植物生葉、リター、土壌菌類の窒素同位体比を測定した。その結果、営巣区と放棄区では、土壌や植物の窒素同位体比はカワウの糞に近い高い値を示すことがわかった。特に、伊崎の放棄区の土壌有機物層と植物は、営巣区より有意に高い値を示した。土壌の窒素同位体比と窒素含量の相関関係から、放棄区では土壌表層に高い窒素同位体比をもつ有機物が堆積し、対照区や営巣区とは異なる窒素分解過程が生じている可能性が考えられた。
 営巣区の優占菌類は、有機態窒素を分解し無機化する能力が高かった。したがって、カワウの糞由来の窒素は無機化され、植物に吸収されることで植物体の窒素含量がすみやかに増加したものと考えられた。カワウは巣材として周囲の枝葉を折り取ることから、営巣区ではリター量が増加する(Hobara et al. 2001)。また、リターの窒素含量は営巣放棄後においても高い値を示す。したがって、カワウによって供給された窒素は、カワウが営巣を放棄した後でも植物に利用され、リターによって再び土壌に供給されることで、森林内に滞留することが明らかとなった。


12:30-14:30

P1-048: 冷温帯落葉広葉樹林における樹冠上CO2フラックス形成過程

*高梨 聡1, 小杉 緑子1, 中西 理絵1, 松尾 奈緒子1, 田中 夕美子2, 日浦 勉2
1京都大学農学研究科, 2北海道大学苫小牧研究林

冷温帯落葉広葉樹林(北海道大学苫小牧研究林)において、渦相関法によって測定されているCO2フラックスがどのような要因によって決定されているかを明らかにするため、多層モデルを適用し、森林群落を特徴づける種々のパラメータを求めた。個葉ガス交換特性について、気孔コンダクタンスモデルにはBall型モデル、光合成モデルにはFarquhar型モデルを用いている。個葉のガス交換特性はクロロフィル蛍光測定装置付きポロメータおよびクロロフィル蛍光測定装置による測定から得られた情報を元に水利用効率、呼吸量、VcmaxJmax、量子収率等のパラメタライズを行った。Vcmax、呼吸量、Jmaxは樹冠上部のミズナラで高く、樹冠中部のミズナラになると急激に低くなりさらに、樹冠下部を構成するオシダでさらに低くなった。量子収率は樹冠上部で低く、中部、下部となるにつれて高くなっていた。放射伝達過程は短波放射、長波放射と光合成有効放射量に分け、さらに光合成有効放射量については光合成の光に対する反応が非線形なため、散乱成分と直達成分に分けて計算を行い、直達光透過確率は葉の傾斜角分布と葉の透過・反射率によって計算している。葉の平均傾斜角は16.9度標準偏差12.9度であった。葉群集中度に関して、透過PPFDのトランセクト観測を行い、解析を行ったところ、葉群はランダム分布からそれほど離れておらず、ランダム分布とした。群落全体の葉面積指数は刈り取り法によって得られた6.63を用いた。光学的手法によって葉面積指数の鉛直分布を測定したところおおむね12m付近の樹冠層と2m付近の下木層に分かれていた。土壌呼吸量に関しては、多点チャンバーを用いた既存の年間観測結果をもとにQ10式に回帰した。これらのパラメータを用いて樹冠上CO2フラックスを再現計算し、渦相関法によるデータと比較、考察を行った。


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P1-049: 亜高山帯の常緑多年生草本ベニバナイチヤクソウの標高にともなう窒素・りんの動態の変化

*磯海 のぞみ1, 山村 靖夫1, 中野 隆志2
1茨城大学 理学部, 2山梨県環境科学研究所

高標高の地域では、標高が上昇するにつれ、低温・積雪の期間が長くなり、土壌有機物の無機化が制限されるため、土壌はより貧栄養になると考えられる。常緑性植物は,一般に落葉性植物と比べて 保存的な栄養塩サイクルを持ち、土壌からの養分要求性が低いため、貧栄養な環境ほど常緑植物の割合が増加すると言われている。
 ベニバナイチヤクソウ(Pyrola incarnata)は、亜高山帯の幅広い標高域の林床に生育する常緑多年生草本である。イチヤクソウ属の植物は、菌根と共生しており、りんの吸収において利益を得ているといわれている。そのため、高標高のより貧栄養立地においては,りんよりも窒素の制限をより受けやすいと考えられる.
 本研究では、富士山北斜面の標高約1790mと2350mにそれぞれ調査地を設け、植物の成長にとって重要な栄養塩である窒素とりんに着目し、ベニバナイチヤクソウの季節的成長にともなう全窒素と全りんの動態と土壌栄養(硝酸態N・アンモニア態N・りん酸態P)を解析し、高標高の貧栄養条件下でのこの植物の適応の仕方について調べた。
 土壌中の硝酸態窒素とりん酸態P濃度は、生育期間を通して1790m地点の方が高く、アンモニア態Nは、6月のみ1790m地点の方が高かった。各器官の全窒素の含有量は、両標高で差が見られず、茎や地下部ははっきりとした季節変化も見られなかった。全りんの含有量は全体的に1790m地点の方が高い値を示した。植物体のN/P比は 1790m地点の方がかなり高かった。
 以上のことより、当初の予測に反して,高標高のベニバナイチヤクソウは、全体的にりんの制限を受けている可能性があると考えられる。


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P1-050: ヤナギ林の地下部根系の動態と純一次生産量

*糟谷 信彦1, 山本 武郎1, 糸永 恵理子1, 斎藤 秀樹1
1京都府大・院・農

森林の物質生産研究は日本でもこれまでにいろいろな林分でなされてきているが,日本のヤナギ群落ではほとんど見られない.本研究では約10年生のヤナギ群落を対象に地上部と地下部の両方の生産プロセスを評価した.特に地下部の根系では,活発な更新が予想される細根(直径5 mm以下)とそれより太い根に分けて測定した.京都府美山町北桑田郡大字萱野の大野ダム畔にあるウラジロヨシノヤナギ群落に20m×40mの固定調査区を設置し,10個の小プロットに分割した.細根の生産量評価には2つの方法を用いた.各小プロットにおいて幹の中心より0.5mの地点からオーガーを用いて土壌コア(深さ30 cm)を採取し,10 cmごとに分けた(連続コアサンプリング法).採取後の穴には砂を埋め戻し1ヶ月後それを同じく層別に取り出した(イングロース法).この作業を5月から12月まで毎月一度行った(これ以後継続中).土壌サンプルから根を水で洗い出し,ヤナギ,草本,シダにグループ分けし,さらに生死判別した.また毎木調査の胸高直径データと,現地での伐倒調査により作成された相対成長式およびリターフォールデータを用いて幹,枝,葉,太い根の現存量及び純生産量を推定した.
ヤナギの細根量の季節変化から,細根は6月に成長を開始し8月にピークを迎え11月には停止する1山型を示し,これは地温変化と対応していた.5月から6月にかけての枯死細根量の増大,また細根の成長開始時期が比較的遅いのは5月中旬までの冠水や地上部シュートの成長の影響が考えられた.細根の現存量は2.21 t/haで地上部地下部を合わせた現存量の約3%であった.細根の純生産量は連続コアサンプリング法では1.13 t/ha yrで全体の9%を占め,一方イングロース法から求めた純生産量は0.9 t/haであった.いずれも他の報告例に比べ値は小さかった.本研究では1年のうち3から4ヶ月冠水するヤナギ群落の地上部地下部を合わせた生産量を定量的に示すことができた.


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P1-051: 北海道東部河川におけるサケの死骸が河畔林と河川生物に及ぼす影響

*柳井 清治1, 河内 香織2
1北海道工業大学, 2東京大学大学院農学生命科学研究科

近年,北米においては遡上サケの死骸の生態的役割に関する多くの研究が行われ,渓流および陸上生態系にとって重要であることが多くの研究で明らかにされてきた.しかし同じサケ類が分布する東アジア地域においては,この点に関する情報は極めて乏しい。そこで本研究は,サケが遡上する河川において,河川動物と河畔林植物の安定同位体比の測定,サケ死骸に取り付けたテレメトリーによるサケ死骸の移動過程の追跡などにより,1)サケの遡上が河川動物に及ぼす影響,2)サケの遡上が陸上生態系、特に河畔林や土壌に及ぼす影響を評価した.調査地は、北海道東部網走管内藻琴川流域と根室管内標津川流域で,サケが遡上する本流と同じ水系の非遡上河川(対照河川)を選定した.次に河畔植生の葉と土壌について,河岸から5m以内と25m以上離れた林内の2地点において採取を行った.水生動物については,春と秋に出現頻度の高い昆虫類を捕獲し,採取したサンプルは乾燥後,質量分析計(Finnigan MAT社、DELTA plus)により主要な栄養素である窒素の安定同位体比値を測定した.また遡上時期の11月に遡上後斃死したサケにテレメトリ-発信機を装着し,半年後の5月にその位置の追跡を行った.
この結果,春に行った調査からテレメトリ-発信機は8個中6個が装着地点から20m以内の河畔で発見された.しかし残りは移動距離が大きく,渓流から500m離れた尾根付近まで運ばれたものもあり,サケの死骸は河畔だけでなく流域内に広く拡散している可能性が示された.また安定同位体測定の結果から,草本を除いて木本には対照河川と有意な差が見られなかった.しかし河川内の水生動物類は,遡上時期に捕獲したものが非遡上時期に採取したものに比べて有意に高かった.河川内では死骸が直接摂取または間接的に体内に取り込まれ,河川の生産性に寄与している可能性が示された


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P1-052: プロセスアプローチによる農地生態系の炭素収支比較

*関川 清広1, 木部 剛2, 横沢 正幸3, 小泉 博4, 鞠子 茂5
1玉川大学農学部, 2静岡大学理学部, 3農業環境技術研究所, 4岐阜大学流域圏科学研究センター, 5筑波大学生物科学系

 農地生態系の炭素シーケストレーション機能として,畑地は炭素ソース,水田は炭素について均衡状態にあることが知られてきた。これは,畑地や水田では炭素プールが土壌のみであることや,除草の徹底など栽培管理によるものと考えられる。一方,果樹園のように樹木を栽培対象とする農地生態系では,樹木も炭素プールとなる点や,樹木以外に下層植生も生態系に炭素を供給する点が,畑地や水田と異なっている。さまざまなタイプの農地で炭素循環の特徴が解明されれば,今後の土壌炭素管理に資することができるものと期待される。畑地と水田については茨城県つくば市の農業環境技術研究所内の圃場で得られた結果(Koizumi 2001)を用いた。果樹園として,甲府盆地北東部(山梨市)に位置する山梨県果樹試験場のブドウ園および隣接するモモ園を対象とし,炭素シーケストレーション機能の評価と農地生態系間の比較を行った。いずれも,炭素供給量を積み上げ法により,炭素放出量として通気法による土壌呼吸測定を行い,微生物呼吸量HRを推定した。土壌レベルで比較すると,畑地では炭素供給量はHR量の1/3から2/3と著しく少なく,水田では炭素供給量≒HR量であった。一方,ブドウ園,モモ園ともに,炭素供給量はHR量の2倍程度であった。果樹園の土壌炭素収支はブドウ園で約180 g C m-2 y-1,モモ園で約590 g C m-2 y-1と,いずれも著しい炭素蓄積を示し,両園の土壌は炭素シンクであることが明らかとなった。果樹園土壌が炭素シンクとなるのは下層植生による炭素供給が大きいためであり,このような作物以外の植物による土壌への炭素供給(総供給量の約1/2)は,畑地や水田には見られない特徴である。土壌炭素収支が正(炭素シンク)である生態系(果樹園)を加えて,炭素シーケストレーション機能の視点から農地生態系は3タイプに分けられると結論される。


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P1-053: カワウ営巣林における木質リター: 現存量・組成・化学性の変化

*勝又 伸吾1, 大園 享司1, 武田 博清1, 亀田 佳代子2, 木庭 啓介3
1京都大学大学院農学研究科, 2琵琶湖博物館, 3東京工業大学大学院 総合理工学研究科

枯死した枝などの木質リター(本研究では直径1cm以上とした)は、森林生態系の物質循環や生物多様性に影響を与える重要な要素の一つであると考えられている。特に撹乱を受けた林分では、撹乱後に更新する樹木が利用する養分物質の供給源になるとされる。本研究を行った滋賀県近江八幡市の伊崎半島のヒノキ人工林では、大型の水鳥であるカワウが集団営巣している。カワウが営巣している林分(カワウ営巣林)では、樹木の衰弱や枯死が観察されている。枯死木の本数割合が30%を超える林分もあり、カワウ営巣林は強度の撹乱を受けていると考えられる。樹木の衰弱・枯死の原因としては、カワウの踏みつけや巣材採集による枝・葉の破損、葉への糞の付着、糞の供給による土壌の変化などが考えられている。これまでの研究で、カワウ営巣林では葉や小枝などのリター供給量が増加することや葉と小枝の分解速度が低下することが明らかにされており、林床では木質リターの現存量が増加していることが予想される。また、木質リターの樹種・直径・腐朽の程度の組成も変化していることが予想される。しかし、木質リターの実際の現存量および組成は明らかにされていない。木質リターの現存量や組成を明らかにすることは、カワウ営巣林において木質リターが物質循環に与える影響を考察する上で重要である。また、カワウ営巣林では糞として多量の窒素が供給されており、この窒素がリターに不動化されることが指摘されている。しかし、木質リターの窒素不動化については不明な点が多い。木質リターの化学性を明らかにすることで、カワウ営巣林での木質リターの窒素不動化と窒素循環に与える影響について考察できると思われる。本研究はカワウの営巣という撹乱が物質循環に与える影響を木質リターに着目して明らかにすることを目的とし、カワウが営巣していない林分とカワウ営巣林において木質リターの現存量・組成・化学性を比較する。


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P1-054: 落葉広葉樹二次林における土壌のCO2、CH4、N2O発生・吸収速度と伐採の影響

*籠谷 泰行1, 金子 有子2, 浜端 悦治2, 中島 拓男2
1滋賀県大・環境科学・環境生態, 2琵琶湖研究所

 森林土壌の温室効果ガス代謝を明らかにすることは、森林が地球の温暖化にどのような影響を及ぼしているかを解明していく上で欠かすことができない。さらに、森林の人為的な改変の影響を知ることもあわせて重要となる。本研究では、滋賀県朽木村の落葉広葉樹二次林(コナラ林)において、土壌のCO2、CH4、N2O発生・吸収速度の季節変動を調べ、伐採等森林の人為的な改変の影響を明らかにすることを目的とした。
 10m×30mの区画を単位とし、調査地にこれを多数設置した。1区画あたり6点の測定点を設け、チャンバー法により土壌のCO2、CH4、N2O発生・吸収速度を測定した。測定は2003年8月から行われた。そして、2003年12月以降に地上部植生の伐採が行われた。区画ごとに適用された処理条件は、(1)伐採・再生植生除去、(2)伐採・再生植生除去・寒冷紗設置、(3)伐採・植生導入、(4)伐採・表土攪乱、(5)非伐採であった。
 2003年8月から2004年3月までの測定結果を平均値で示すと、CO2で217_から_690 mgCO2/m2/hr、CH4では-0.14_から_-0.10 mgCH4/m2/hrとなり、一方N2Oはほとんど0であった。CO2では8月、CH4では8_から_10月に発生あるいは吸収速度が高くなった。N2Oの発生は局所的に観測されることがあり、その最高値は0.11 mgN2O/m2/hrであった。3月の時点では、伐採等の影響はまだ顕著に現れてはいない。


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P1-055c: 自動開閉式チャンバーを用いた根呼吸量の連続測定

*檀浦 正子1, 小南 裕志2, 金澤 洋一1, 深山 貴文2, 玉井 幸治2, 後藤 義明2
1神戸大学大学院自然科学研究科, 2森林総合研究所関西支所

土壌呼吸量に占める根呼吸量を推定することは森林の炭素循環を解明するうえで重要な課題となっているが、方法論の確立にはいたっていない。これまでの調査により根呼吸のなかで細根が果たす役割が重要であることがわかってきた。そこで、根呼吸の特徴を理解するために自動開閉式チャンバーを用いて連続測定を試みた。京都府に位置する山城試験地において、A層の有機物を取りのぞいて細根だけを残し、マサ土で充填した処理区、B層以下のみを測定する処理区、土壌呼吸量を測定するコントロール区の3種類のチャンバーを設置した。その結果、根呼吸量は有機物呼吸量よりも温度変化にそれほど敏感ではなかった。また、通常観測される土壌呼吸は、根呼吸量と有機物呼吸量の総和として測定されるため、両者の特徴が入り混じった形で表される。


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P1-056c: 林床性高茎草本の成長戦略
-冷温帯落葉樹林の季節的光変動環境下における同化様式-

*谷 友和1, 工藤 岳1
1北大・地球環境

落葉樹林の林床は、上層木の葉群動態を反映して光環境が季節を通じて大きく変化する。夏緑性高茎草本植物は冷温帯林にふつうにみられ、生産性が高く、時として地上高が2m以上に達する。本研究では北海道道央域の2カ所の落葉樹林下において、6種の高茎草本(チシマアザミ、ヨブスマソウ、バイケイソウ、エゾイラクサ、ハンゴンソウ、オニシモツケ)を材料に、高茎草本が光環境の季節変動に対し、どのような生産活動を行っているのかを明らかにし、林冠下で高くなるための成長戦略について考察する。
サイズの異なる個体の地上部を採取し、乾燥重量を測定したところ、どの種でも同化-非同化器官重の比は高さによらず一定であり、単位重量当たりの葉を支持する茎への投資は高さに関わらず一定であると考えられた。同一個体の複数の葉で最大光合成速度(Pmax)と呼吸速度の季節変化を調べたところ、どの高さの葉でも、林冠閉鎖による光量低下に伴って、Pmaxと暗呼吸速度が低下した。個体内では上の葉から下の葉に向かってPmaxと暗呼吸速度の勾配が生じた。葉の老化による光合成低下と共に、弱光環境への光順化が起こったと考えられた。光合成速度、葉面積の季節変化と林床層の光環境の季節変化を組合せ、伸長成長が終了するまでの期間の個体ベースの日同化量を推定した。順次展葉種では、林冠閉鎖の進行途中に純同化量が最大となった。光量の低下と共に光合成と呼吸速度を低く抑え、かつ伸長成長と共に葉を蓄積し、同化面積を増やすことで個葉レベルの光合成低下を補っていたと考えられた。このような成長様式は、林床の光変動環境下で個葉レベルの同化量を維持するための戦略であると考えられた。一方、一斉展葉型のバイケイソウでは、林冠閉鎖の進行と共に純同化量は減少を続けたため、短期間に同化活動を集中させる春植物的な戦略を取っていると考えられた。


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P1-057c: マレーシアの熱帯林とプランテーションにおける土壌特性が土壌呼吸速度に与える影響

*安立 美奈子1, 八代 裕一郎1, 近藤 美由紀1, 車戸 憲二1, Rashidah Wan2, 奥田 敏統3, 小泉 博1
1岐阜大学 流域圏科学研究センター, 2マレーシア森林研究所, 3国立環境研究所

森林生態系や農業生態系における炭素収支の解明が注目されいるが、炭素循環の中で最も大きなCO2放出の系として土壌呼吸量を把握することが重要視されている。本研究では、東南アジアにおける土地利用形態の変化が炭素循環に及ぼす影響を、土壌呼吸量を中心にして明らかにすることを目的とした。
 半島マレーシアのパソ保護林の天然林およびパソ保護林に隣接するヤシ園とゴム園に8m×8m のコドラートを設置し、16地点において土壌呼吸速度と地温、土壌含水率を測定した。土壌呼吸測定後、100 mlの採土管を用いてチャンバー内の土壌を採取し土壌三相の調査をおこなった。また各コドラートに近い場所において、土壌中の空気を採取するためのシステムと真空バイアル瓶を用いて土壌中の空気を採取し、ガスクトマトグラフィーによりCO2濃度の分析をおこなった。
 天然林、ヤシ園、ゴム園の土壌呼吸速度はそれぞれ、796、517、407mg CO2 m-2 h-1でゴム園における土壌呼吸速度の値は天然林の値の約半分となり統計学的に有意に低い値であった(t検定、p<0.05)。土壌呼吸速度に大きな影響を与えると考えられる深さ10cm付近のCO2濃度は、天然林では0.9 %(1 % = 10000 ppm)、ヤシ園では2.9 %、ゴム園では4.2 %となり、ゴム園では天然林の4.7倍のCO2濃度となった。これらの結果より、土壌呼吸速度の違いは地下部のCO2濃度を反映していないことが示唆された。土壌の物理特性に注目すると、天然林は通気性の富んだ土壌であることが示された。また、全ての調査地において土壌呼吸速度と気相率の間に統計学的に有意な正の相関関係が認められた。これらの結果より、土壌呼吸速度は土壌中のCO2の存在量よりも土壌の物理的特性、特に気相率や気相率を左右する土壌含水率に強く影響を受けることが示唆された。


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P1-058c: タイ東北部の熱帯乾燥常緑林における大型枯死材を中心とする炭素循環

*清原 祥子1, 神崎 護1, 太田 誠一1, 梶原 嗣顕1, ワチャリンラット チョングラック2, サフナル ポンサック3
1京都大学, 2カセサート大学, 3宇都宮大学

大型木質遺体(Coarse Woody Debris、以下CWD)は森林生態系内における炭素、養水分のサイクルに果たす役割の重要性のため、1970年代から研究が行われてきた。しかしその多くは冷温帯林を対象としたもので、熱帯林についての研究例は多くない。高温多湿な湿潤熱帯林では有機物は迅速に分解されるのに対し、明瞭な乾季を持つ季節林では分解速度は遅く、それに応じてCWDの貯留量も大きい可能性がある。本研究では、タイ東北部の乾燥常緑林を対象としてCWDの動態を調査し、その炭素貯留機能、放出速度について明らかにした。
 タイ東北部サケラート環境研究ステーション域内に分布する天然生乾燥常緑林に2.5haプロットを設け、18年間にわたり胸高直径20cm以上の樹木に由来するCWD の発生量、残存状態について継続調査した。本研究ではこの林分の優占種Hopea ferreaを対象としてCWDの現存量、年間発生量、分解速度の推定を行った。2003年1月_から_3月に直径別に厚さ5cmのCWDディスクサンプルを採取し、材密度、炭素と窒素濃度の測定を行った。
 ディスクサンプルによって得た材密度は枯死後の経過年数に関わらずほぼ一定で、容積密度も同様であった。NCアナライザーによって求めた炭素・窒素濃度にも、一貫した経年変化は見られなかった。この結果は熱帯乾燥林のHopea材ではシロアリによる被食が主要分解経路になっていることを示唆している。
Hopea のCWD現存量は23.7 Mg・ha-1(11.6 MgC・ha-1)、相対成長式と投入時の胸高直径から求めたCWD発生量は年平均1.8 Mg・ha-1・yr-1 (0.9 MgC・ha-1・yr-1)であった。指数関数的分解を想定して発生量と現存量から求めたCWDの半減期は約9.2年であった。また、全樹種の合計CWD現存量は49.4 Mg・ha-1(24.2 MgC・ha-1)と全Biomass量の11%に相当し、年間発生量は3.9 Mg・ha-1・yr-1 (1.9 MgC・ha-1・yr-1)、半減期は8.8年と推定された。一方Hopeaの枯死木の材残存率と枯死後の経過年数との関係から推定したCWDの分解速度は、直径20_から_30cm未満と30cm以上とで大きく異なり、前者の半減期は4.5年、後者では11.3年であった。


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P1-059c: 炭素・窒素・硫黄安定同位体比を用いたLake Chain生態系の物質循環解析

*土居 秀幸1, 菊地 永祐2, 溝田 智俊3, 鹿野 秀一2, 狩野 圭市1, Natalia Yurlova4, Elena Yadrenkina4, Elena Zuykova4
1東北大大学院生命科学研究科, 2東北大学東北アジア研究センター, 3岩手大学農学部, 4ロシアアカデミーシベリア支部

チャニー湖はロシア,西シベリアに位置する湖沼群である.チャニー湖は流出河川がなく,大きく分けて3つの湖沼が連結して成り立っている.また,乾燥地帯に位置するため塩分が蓄積しており,塩分は流入河川やその近傍では1 PSU以下であり.奥部の大チャニー湖が7-8 PSUと最も塩分が高い.そこで,炭素・窒素・硫黄安定同位体比をトレーサーとして,Lake Chain生態系としてのチャニー湖の物質循環について検討を試みた.
 採集地点として,流入河川:St.1,流入河川近傍の湖:St.2,小チャニー湖:St.3,大チャニー湖:St.4,大チャニー湖奥部:St.5において調査を行った.試料として,ユスリカ幼虫,堆積有機物と湖水中の懸濁粒子を採集し,炭素・窒素安定同位体比を測定した.また,堆積物中の硫化物と湖水中の硫酸イオンをそれぞれ各地点において採集し,硫黄安定同位体比を測定した.
 懸濁粒子の炭素安定同位体比はSt.1からSt.4に向かう従って高くなる傾向が認められた.これはpHが大チャニー湖奥部に行くに従って高くなっていたことから,溶存の二酸化炭素から炭酸水素イオンへと,植物プランクトンが利用する無機炭素が変化したためと考えられた.同様に窒素安定同位体比でも,St.4ではSt.1-3に比べて有意に高くなっていた.脱窒やアンモニアの希散の作用によって,硝酸やアンモニアの窒素同位体比が高くなることがしられている.よって,チャニー湖では脱窒やアンモニアの希散が起こっており,窒素循環に大きく寄与していることが推察された.また,硫酸イオンの硫黄安定同位体比は,St.5に向かうに従って上昇する傾向があった.このことから,硫酸還元菌によって硫酸イオンが硫化物として還元され,残った湖水中の硫酸イオンの同位体比が高くなったことが考えられた.よって,チャニー湖Lake Chain生態系内での硫黄の循環には,硫酸還元菌が大きく寄与していると考えられた.


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P1-060c: 硫気荒原におけるリン脂質脂肪酸を指標とした土壌微生物群集構造の解析

*吉竹 晋平1, 中坪 孝之1
1広島大・院・生物圏

硫気荒原とは火山活動終息後も火山性ガスを噴出し続ける噴気孔を含む荒原である。荒原中央部では、低土壌pH、低土壌C・N濃度、火山性ガスなどのために植生が未発達である。硫気荒原における物質循環に関する研究は皆無であったが、前報で我々は荒原中央部においても有機物分解に関与していると考えられる耐酸性・好酸性微生物が存在することを報告した。しかしこのような微生物群集の量的・質的な実態については依然不明のままである。近年、微生物群集構造の解析にはリン脂質脂肪酸を指標とした方法が広く用いられているが、この方法を用いることで培養不可能な微生物を含む微生物群集全体について、それらの量的な情報だけでなく、糸状菌・バクテリア比(F / B比)といった質的な情報を得ることが可能である。本研究では硫気荒原土壌の微生物群集構造をリン脂質脂肪酸分析に基づいて把握し、各種環境要因との関係を明らかにした。
大分県別府市の硫気荒原を調査地とし、噴気孔周辺及び周辺の林内を通る全長30 mのトランゼクトを設置した。土壌pHは噴気孔周辺で2.7と最も低く、林内では3.4 ~ 4.0であった。トランゼクト上に設置した7プロットから土壌を採取し、既存の方法に従いリン脂質脂肪酸分析を行った。
微生物バイオマスの指標である全脂肪酸量は噴気孔周辺で少なく(約30 nmol / g)、林内(約600 nmol / g)に比べて1 / 20程度であった。一般に酸性環境では糸状菌優勢になると言われているが、本研究では噴気孔周辺のF / B比は林内よりもむしろ低くなる傾向が見られた。以上の結果より全脂肪酸量、F/B比は土壌C・N量との間に高い相関が見られた。このように硫気荒原では微生物群集のサイズ・群集構造に大きな違いがあることが示されたが、その要因について各種土壌環境要因(土壌C・N、易分解性C、土壌pHなど)の影響を検討した。


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P1-061c: 天然のCO2噴出地:将来予測される高CO2環境のモデル生態系

*小野田 雄介1, 彦坂 幸毅1, 広瀬 忠樹1
1東北大学・院・生命科学

 大気CO2濃度増加が植物に及ぼす影響については、これまで多くの研究があり、個体の生理特性や成長についてはかなり理解されている。しかしながら、これらの実験結果を自然生態系に応用するには、まだいくつかの重要な問題がある。(1) 植物の長年の高CO2応答は、実験から得られる植物の高CO2応答と同じなのか? (2) 高CO2が選択圧となり、特定の遺伝型、または特定の種が優占するのではないか? (3) 植物だけでなく、捕食者、分解者も存在する自然生態系で、高CO2はどのような影響を及ぼすのか?などである。
 これらの問題は、天然のCO2噴出地(CO2 spring)周辺の植物を研究することによって解明できると考えられる。CO2 springでは、長年に渡り火山ガス由来のCO2が湧き出しているため、付近の植生は高CO2に順化または適応していると考えられる。以前、私たちは、天然の植生が多く残っており、さらに有害なガス(H2SやSO2)を出していない良好なCO2 springを青森県の龍神沼に発見した(第50回日本生態学会)。私たちは更に信頼度の高いデータを得るために、新たな調査地を青森県の湯川と山形県の丹生鉱泉に設定した。
 各調査地では、6月から10月にかけて、毎月2-4日間、高さ1 mにおけるCO2濃度の観測を複数の地点で行った。どの調査地でも、CO2 springに近い場所でCO2濃度が常に高く維持されていた。それぞれの調査地において、高CO2サイトとコントロールサイトを設定し、サイトの微環境や優占種の葉の生理特性を調査した。多くの種において、高CO2サイトで、葉のデンプン濃度は高く、また葉の窒素濃度は低かった。光合成速度は高CO2によって促進したが、同じCO2濃度で比較すると、高CO2サイトの植物のほうが低い値を示した。これらの結果はこれまでの制御環境実験結果と概ね一致し、設定した調査地が将来のモデル生態系としての役割を担うことができると考えられる。


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P1-062c: 樹木肥大成長の気象変動に対する応答とサイズ依存性

*鍋嶋 絵里1, 日浦 勉1, 久保 拓弥2
1北大・苫小牧研究林, 2北大・院地球環境

樹木は実生から林冠木に至るまで、その体サイズを大きく変化させる。樹木における体サイズの増大は、光資源獲得に有利である一方、水通導長が増加することによって水輸送機能が低下したり、光合成機能が低下したりすることなどが指摘されている。このような体サイズの増加に伴う資源利用の制限の違いは、樹木の成長や生産性の環境応答においてどのようなサイズ依存性をもたらすのだろうか?環境変動に対する樹木の成長応答については、これまで、年輪年代学的手法によって肥大成長と気象条件との関係を明らかにする試みなどが行われてきたが、体サイズによる影響を考慮しているものはほとんどない。そこで本研究では、気象条件の変化に対する樹木の肥大成長の応答を、体サイズによる依存性も考慮して明らかにすることを目的とした。
苫小牧研究林内の成熟林において1haの範囲に生息する直径10cm以上の樹木約600個体にデンドロメータを設置し、各個体の胸高直径の測定を6年間毎月行った。測定結果から月毎の肥大成長量を計算し、成長に寄与する気象要因として、気温、降水量、光合成有効放射、大気飽差の4つを用いた。気象要因は当年の影響と、光合成生産を通した前年の影響とに分けて考え、ある年の気象値を気象フィルターによって評価した。気象フィルターとは、成長や光合成にとって条件の良い日を選び出して年間値として積算するためのものである。このようにして計算した前年、当年の気象値と個体サイズとを説明変数とし、月別肥大成長量の変動について、樹木の個体差を考慮している一般化線形混合モデルを用いた推定計算を行う。解析は、個体数が十分に確保できるイタヤカエデなどを対象として樹種ごとに行い、気象に対する各樹種の成長の応答とそのサイズ依存性について検討する。また、樹種間での応答の違いについても比較検討を行う。


12:30-14:30

P1-063c: 消費者の栄養塩再循環による空間的異質性: 被食者多様性への捕食者の役割

*加藤 聡史1, 占部 城太郎1, 河田 雅圭1
1東北大学 大学院 生命科学研究科 生態システム生命科学専攻

生物の多様性が維持されるメカニズムは生態学における重要な問題の一つである。共存できる種の数は資源の数を超えないという理論予測と、数種類の資源が制限要因とされる野外の湖沼で実際に観察される藻類の種数の多さとの矛盾は、「プランクトンのパラドクス」(Hutchinson,1961)とよばれる古典的命題として知られている。
制限となる資源をめぐる競争系での多種系維持のメカニズムのひとつに、資源供給比の不均一性による説明がある(Tilman, 1982)。しかし、一般的に均質と考えられている水系においては、何がそうした資源の不均一性の成因となるのかが不明である。
われわれは捕食者による栄養塩再循環(以下CNRと略記する)に着目し、CNRを考慮すると、捕食者バイオマス(とそれに伴う栄養塩リサイクル)の時間的・空間的変動によって、捕食者が藻類多種系を維持する要因となり得るのではないかと考えた。
そこで、3栄養段階(栄養塩!)藻類!)ミジンコ)のケモスタット系についての個体ベースシミュレーションモデルを用いて、(1)CNRの有無、(2)空間の有無、(3)資源供給量、が藻類多種系の維持にどのように影響するかを調べた。
その結果、捕食者のリサイクルと空間構造があるときに維持される藻類の種数が最大となる、つまり、捕食者が多種系を維持する要因となり得るという結論が得られた。
本発表では、上記(1)_から_(3)に挙げたそれぞれの要因が藻類多種系の維持メカニズムにどのように働いているかを考察し、捕食者が多種系維持に与える効果として、従来考えられてきた被食者の死亡に働きかけることで種間競争を調節する効果ではなく、被食者の生産性に働きかける効果という新たな側面からのアプローチを提供する。


12:30-14:30

P1-064c: 干潟の物質循環におけるイボウミニナ Batillaria zonalis の役割について

*上村 了美1, 土屋 誠1
1琉球大学 大学院 理工学研究科

干潟で生産されたり,近隣の生態系から入ってきた有機物は,沈降,再懸濁,分解,同化などの物理的あるいは化学的作用を受けるが,それらの過程には大型底生生物の摂食活動が大きく関わっていると考えられる.本研究では沖縄県南部の与根干潟に優占的に生息するイボウミニナ Batillaria zonalis について,バイオマスや摂食活動の変化が干潟の物質循環に与える影響を評価した.イボウミニナは懸濁物とアナアオサUlva pertusaを餌とする日和見的な摂食活動を行うため,単一の摂食様式を持つ種とは異なる役割を持つことが期待された.
野外調査ではイボウミニナのバイオマスは2-4月に比較的高い値を示した(2001-2002年,採集地点7ヶ所,各4コドラートの平均値).餌の指標と考えられる海水中のクロロフィル量は6月に最も多く,懸濁物量は8月にピークを示した.アナアオサは1- 4月に出現し,5月に入るとほとんどみられなくなった.イボウミニナのバイオマスは,海水中の餌量よりもアナアオサの被度の増減と連動する傾向がみられた.
室内実験では,イボウミニナに懸濁物のみを与えた時のろ過率は温度に比例して増加したが,アナアオサを同時に与えた場合には懸濁物のみを与えた場合よりも低いろ過率を示した.アナアオサの摂取量は,アナアオサのみを与えた場合には温度に比例して増加したが,懸濁物を同時に与えた場合には温度が高くなるにつれて減少する傾向がみられた.
実験結果を野外のバイオマスにあてはめてみると,イボウミニナ個体群のろ過量は同じ干潟に生息する二枚貝の個体群を上回る計算になり,イボウミニナ個体群は水相から底質への懸濁物の輸送に大きく寄与しているといえる.またアナアオサの摂取量は,水温が低く,イボウミニナのバイオマスが比較的多い1-3月に多くなると考えられ,イボウミニナ個体群がこの時期の大型藻類の分解に重要な役割を果たしていることが示唆された.


12:30-14:30

P1-065c: ブナにおけるマスティングとリターフォール量の関係

*安村 有子1, 彦坂 幸毅1, 広瀬 忠樹1
1東北大学大学院生命科学研究科

 ブナ(Fagus crenata)はマスティング(不定期に大量結実する現象)を行う種として有名である。繁殖量の変動とともに一次生産量、繁殖器官への資源投資量、そしてリターフォールを介する窒素循環量がどう変化するかについて青森県八甲田山のブナ林にて調査を行った。
 1999年から2003年までの5年間、リタートラップでブナのリターを定期的に収集した。2000年と2003年は成り年で、多くのブナ個体が同調して大量に結実していた。その他の年にはほとんど種子生産がなかった。
 年間の全リター量は5年間で2.1から3.2(t/ha)と変動した。成り年のほうが非結実年より有意に多かった。葉リター量は1.7から2.2(t/ha)で、成り年と非結実年の間には明確な差は見られなかった。繁殖器官のリターは非結実年は0から0.1(t/ha)とほとんどなく、成り年には0.7から1.2(t/ha)と変動した。枝などその他のリターは0.2から0.4(t/ha)で有意な年変動は見られなかった。
 リターとともに放出された窒素の量は24から44(kg/ha)で、成り年に多くなる傾向があった。葉リターとともに放出された窒素は20から32(kg/ha)で1999年でだけ有意に多かった。繁殖器官とともに放出された窒素は0から19(kg/ha)で成り年で高かった。その他のリターに伴う窒素放出は1から3(kg/ha)で有意な年変動はなかった。
 これらの結果より、葉の生産量(リター量)や葉リターを通しての窒素循環は、結実の有無に関わらず毎年ほぼ一定のレベルであることが示唆された。成り年には、大量の種子生産のため、全リターの量やリターを介しての窒素循環が増加していた。また、成り年の種子生産量には変動があることがわかった。


12:30-14:30

P1-066c: スギ人工林の成立に伴う土壌無機態窒素動態の変化

*福島 慶太郎1, 徳地 直子2, 舘野 隆之輔3
1京都大学大学院農学研究科, 2京都大学フィールド科学教育研究センター, 3総合地球環境学研究所

森林生態系における窒素循環は、土壌-植物系での内部循環と降雨や渓流水による外部循環が存在し、森林成立の初期には外部循環系に依存しているのに対し、成熟した森林では内部循環が卓越するといわれている。本調査地は、集水域を単位として伐期約90年の輪伐経営が行われているスギの一斉人工林で、1-89年生のスギ林が隣接して存在しており、内部循環を経た渓流水中のNO3-濃度が、皆伐・植栽後上昇し、森林の成立に伴って減少することが明らかになった。そこで本研究ではこの調査地を用いて、林齢と植物?土壌系の無機態窒素動態の関係を明らかにすることにより森林成立に伴う窒素循環機構を明らかにすることを目的とした。
4、14、29、89年生の集水域内で0-10、10-30、30-50cmの各層位で土壌を採取し、2MKClで抽出後、オートアナライザによって土壌中のNH4+、NO3-現存量を測定した。また現地培養法、イオン交換樹脂法を用いて土壌中での無機態窒素の生成量・垂直移動量を求め、植物に利用可能な無機態窒素量を推定した。
植物に利用可能な無機態窒素は4、14、29、89年生でそれぞれ33.5、36.8、23.2、37.4kgN/ha/yrであり、29年生で低かった。一方、植物体の総窒素蓄積は0.03, 0.15, 0.39, 0.48tN/haで、30-40年で頭打ちになった。皆伐・植栽後は、利用可能な無機態窒素に対して植物体による吸収量が少ないため、渓流水へ流出するNO3-濃度は高いが、森林の成立に伴って吸収量が増加し、土壌中の利用可能な無機態窒素が減少して、渓流水のNO3-濃度が減少したものと考えられる。また89年生では可給態窒素量が多く、吸収量が頭打ちとなっている状態で渓流水への窒素の流出が少ないのは、窒素無機化に占める硝化の割合が若齢林よりも少なく、土壌にNH4+として蓄積されるからと考えられる。


12:30-14:30

P1-067c: 北米冷温帯針葉樹林における樹冠の枯死枝の現存量と分解過程

*石井 弘明1, 角谷 友子1
1神戸大学大学院自然科学研究科

アメリカ北西部の老齢ダグラスファー-ツガ林において、樹冠内の枯死枝現存量とその分解過程を明らかにするために、ダグラスファーの樹冠内に単ロープ法で登り、調査を行った。個体あたりの枯死枝現存量は個体サイズ(胸高直径および樹高)と高い相関が見られ、生枝現存量の増加に伴い枯死量は指数的に増加した。このことから、個体成長に伴い枯死枝が樹冠内に蓄積していくことが示唆された。森林全体の樹上の枯死枝現存量は5.19-12.33 Mg/ha、地上は1.80-2.05 Mg/haで樹上が地上の約5倍であった。
 樹冠内の枯死枝と地上に落下した枯死枝では、水分や微生物などの条件が異なるので、分解の過程も異なると考えられる。樹冠内及び地上の枯死枝を腐朽の進行具合によって5段階に分け、各段階におけるC、N、リグニン含有量を分析した。樹上と地上の間でCN比に明瞭な違いが見られなかったことから、地上で採取された枯死枝は樹上で枯死し、時間が経ってから落下したことが示唆された。一方、倒木に由来し地上で分解が進んだと考えられる枯死枝ではCN比が低かったことから、地上で分解が進むと菌や微生物などの分解作用により、CN比が減少すると考えられる。よって、樹上での分解には生物的作用があまり働かないことが示唆された。樹上では各腐朽度の間でリグニン含有率に明瞭な違いが見られなかったが、地上では腐朽の初期に増加する傾向があり、腐朽が進むと減少した。リグニンの分解においても、樹上では生物的作用があまり働かないことが示唆された。


12:30-14:30

P1-068c: リンの存在形態からみた日本の干潟の特徴

*宇田川 弘勝1, 広木 幹也1, 野原 精一1, 矢部 徹1, 佐竹 潔1, 河地 正伸1
1国立環境研究所

【緒論】陸域と海域の境界に位置する干潟は,栄養塩類のシンクとソースという2つの重要な機能を併せ持つ場である。とくに海域の一次生産に影響を与える底質-海水間のリンの移動は,その存在形態に依存することが知られている。そこで,底質中におけるリンの存在形態とリン酸を収着保持できる最大量(リン酸保持可能容量とする)の観点から,わが国における干潟の特徴づけを試みた。
【方法】調査および試料採取は,北海道東部3ヶ所,東京湾4ヶ所,伊勢湾2ヶ所,有明海2ヶ所,および八重山諸島3ヶ所の計14ヶ所において,1999-2001年に実施した。底質試料は表層0-10cm深を5反復で採取した。これらを用いてリンの形態別定量方法を詳細に検討し,吸蔵態,Fe/Al結合態,Ca/Mg結合態および有機態に分画した上で,各形態のリン含量を決定する要因を解析した。さらにリン酸保持可能容量を実験的に求め,リン酸収着のメカニズムを検討した。
【結果】各形態のリン含量は,有機炭素,遊離酸化FeおよびAl,交換態CaおよびMgの各含量,粒度組成,および間隙水のpH値に支配されていた。とくに交換態Mgはリン酸と沈殿を生成することで,リン酸の貯蔵に大きく寄与していることが示唆された。これらの知見をもとに各干潟の特徴を以下のように整理した。〔北海道東部〕未分解有機物由来の有機態リンが多い。塩性湿地では間隙水のpHが中性に近く,Ca/Mg結合態リンも多い。〔東京湾〕粗粒な有色一次鉱物内に包含されている吸蔵態リンが比較的多い。〔伊勢湾〕間隙水のpHが高めでCa/Mg結合態リンが少ない。逆にFe/Al結合態リンの割合は高い。〔有明海〕各形態のリン酸含量,リン酸保持可能容量ともにきわめて高い。特異な干潟と言える。〔八重山諸島〕生体由来の交換態Caが非常に多いためリン酸保持可能容量は高い。しかしリン含量が総じて少なく,貧栄養な干潟と言える。


12:30-14:30

P1-069c: ヒノキ細根系内の寿命異質性からみた生産・枯死・分解過程

*菱 拓雄1, 武田 博清1
1京大・農・森林生態

植物体から供給される枯死有機物の量と質は、土壌の腐食連鎖群集の資源として重要なパラメータである。森林土壌における有機物源としての細根系の重要性は、葉との比較において生産・枯死量から量的に、化学性などから質的にも認められている。従来葉のような、均質な一次細胞系と見なされてきた細根が、近年の研究によって二次成長根を含むこと、根系内の個根寿命、化学性が分枝位置でまったく異なることが示された。これらの細根系内の形態、化学的な違いは、土壌有機物源として量・質的に無視できないと考えられる。本研究ではヒノキを材料とした。ヒノキ細根が原生木部の数によって二次成長する、しないの生活環が異なることを利用し、枯死様式の違う根の生産と枯死が根系生長とどのように対応するかを調査した。連続イングロースコア法により、細根の根端数、根系数の動態、同時に、各原生木部群の根長動態を調べた。根系数、根端数の動態から、根系の状態を侵入(0-4mo.), 分枝(4-7mo.), 維持(7-19mo.), 崩壊(19-24mo.)期に分けることができた。各原生木部群の生産・枯死様式はそれぞれ異なっており、各根系成長段階で特徴的な動態を示した。二次成長した細根は崩壊期に至るまであまり枯死せず根系内に蓄積した。二次成長に至る前に枯死する細根の割合は、全期間合わせて72_%_を占めた。二次成長根の枯死は崩壊期に集中(全期間の76%)した。細根は二次成長によって構造物質の増加と窒素濃度の低下によって分解に抵抗的になる。従って細根系崩壊に至るまで二次成長根を維持しながら、先端近くの一次根で生産、枯死を繰り返す細根動態は、根系全体の枯死が生じるよりも細根、土壌間の物質循環を速めると考えられる。発表では一次根、二次根の分解率を合わせて求め、形態、化学的に異なる根の死に方が土壌への有機物供給に与える影響を考察するつもりだ。


12:30-14:30

P1-070c: 中央シベリア永久凍土帯に成立するカラマツ林の土壌中窒素動態 

*近藤 千眞1, 徳地 直子2
1京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林育成学研究室, 2京都大学フィールド科学教育研究センター

温暖化等の環境変化が北方森林生態系内の物質循環に影響を与える可能性が指摘されている。そのため、北方森林生態系に関する情報を得ることは急務である。本研究では、多くの森林生態系において植物の成長の制限要因であると言われている土壌中無機態窒素の動態を把握することで、北方森林生態系内の物質循環に関する情報を得ることを目的とした。
本研究の調査地はロシア共和国クラスノヤルスク地方Tura(64°19′N 100°13′E:年平均気温:-9.2℃、年平均降水量:322mm)である。約100年生のカラマツ林内(220×300m)に、12プロット(15×15m)設置し、各プロットに土壌断面を2つ作成し、各断面のA0層、0-10cm層の2深度で調査を行った。
調査項目は現存量、窒素無機化速度、移動量で、現存量は2002年9月と2003年9月に採取した生土から測定し、窒素無機化速度は現地培養(Buried Bag法)と実験室培養で求めた。移動量はイオン交換樹脂(IER)法を用いて測定した。以下単位は全てkgN/ha/yrである。
A0層の無機態窒素現存量は一年間で2.7増加した。0-10cm層では有意な増減はなかった。なお、現地培養では、A0層での無機態窒素の生成はみられなかったが、0-10cm層での生成量は7.1であった。実験室培養でも同様の傾向が見られた。
IERへの吸着量は、A0層1.5、0-10cm層1.1であった。
以上の結果と、林外雨、渓流水の窒素含有量(2.1,<0.1;Tokuchi et al. 2003)から、可給態窒素量を推定した。その結果、各層位の可給態窒素量はA0層-2.1、0-10cm層7.5、10cm以下1.0となり、合計は6.4と推定された。
今回得られた可給態窒素量6.4はカラマツの年間窒素要求量6.8(Kajimoto et al. 1999; 石井 2004より推定)と、ほぼ同量であるが、林床植生の窒素要求量を考慮すると、本調査地では可給態窒素が不足している可能性が示唆された。


12:30-14:30

P1-071c: 八ヶ岳山麓の湿地林における地上部現存量とリター量の空間分布

*小川 政幸1, 上條 隆志2, 黒田 吉雄2, 荒木 眞之2, 曽根 祐太3
1筑波大・環境, 2筑波大・農林, 3筑波大・生物資源

生態系の構造と機能は、時間、標高、気温、地形、地質などの要因により、どのように変化するか研究がなされている。本研究は、水分環境による生態系の構造と機能の変化を、湿原生態系を対象として明らかにしようと試みた。八ヶ岳山麓の湿地林に1ha(100m×100m)の調査地を設置し、分割した400メッシュ(5m×5m)について毎木調査をおこなった。また、調査地内にリタートラップを100個設置し、リターを採集し重量を測定した。100地点のリター量から、リターの空間分布を図化した。
 各メッシュごとの胸高断面積合計の分布を見ると、湿原内で小さく、湿原外で大きい値を示した。また、特徴的な種であるハンノキ、ズミ、ミズナラについて、それぞれ相対成長式を用いて地上部現存量を推定すると、ハンノキは、湿原を中心に124メッシュに分布し、25m2あたり最大で274.9kgの地上現存量を示した。ズミは湿原辺縁部から湿原外にかけて237メッシュに分布し、25m2あたり最大で287.4kgの地上部現存量を示した。ミズナラは、湿原外のメッシュ(27個)に分布し、25m2あたり最大で2867.6kgの地上部現存量を示した。
 採集した2003年9月から10月の一ヶ月間のリター量は最大492.5g/m2、最小5.6g/m2であり、湿原外で多く、湿原内で少ない分布であった。さらに、葉リターを樹種別に見てみると、最大でミズナラは354.1g/m2、ズミは183.8g/m2、ハンノキは149.2g/m2であった。リター量の分布は、地上部現存量の分布と対応関係が見られた。その一方で、樹林を含まない湿原においても、周縁部からのリター供給がなされていた。水分という環境要因が、ミクロなスケールで変化する湿原では、そのモザイク性を考慮したうえで純一次生産力や植物と土壌の相互作用を明らかにする必要があると考えられる。


12:30-14:30

P1-072c: 自動開閉チャンバーを用いた温帯森林での土壌呼吸の連続測定

*李 載錫1, 徐 尚1, 李 俊1, 李 美善3, 横沢 正幸2
1建国大学, 2農業, 3国立

環境要因と関連した正確な土壌呼吸のデータは陸地生態系における炭素循環を理解と予測において大変重要である。我々は森林の土壌呼吸を安定的かつ連続測定するため、直流モーターを使った空気シリンダーを使用する方法より比較的簡単な構造の自動開閉チャンバーシステム(AOCC)を開発した。AOCCはチャンバー、ポンピンシステム、タイマーシステムで構成されている。チャンバーは空気が停滞する空間をなくすため、長い八角形(20×30×10cm, L×W×H)になっている。チャンバーは土壌面に予め設置した台の上に装着されるようになっているため、場合によって一つのチャンバーを数箇所の土壌呼吸データが得られる。チャンバーの上部に付いた蓋はDCモーターによって開閉する。本システムは室内のテストの後、韓国の温帯落葉広葉樹林で2003年9月から2004年2月まで約6ヶ月に掛けて測定を行った。測定期間日平均土壌呼吸速度は2003年9月の7.9g CO2 m-2 d-1から2004年1月の0.8 g CO2 m-2 d-1 に減少した。土壌呼吸の季節変動は10cm深さの地温の変化と強い相関関係を示した。しかし、土壌呼吸の時間的な変化は0cm 地温の変化と高い一致性を示した。また、測定期間土壌から放出されたCO2は0.48kg m-2、のQ10値は4.4であった。


12:30-14:30

P1-073c: プランクトンを利用したPOMの流下距離推定

*山本 佳奈1, 竹門 康弘2, 池淵 周一2
1京都大学工学研究科, 2京都大学防災研究所水資源研究センター

河道や河岸に滞留する粒状有機物(POM:Particulate Organic Matter)の流出様式を明らかにするために木津川においてPOM動態を調査した.木津川下流地点における増水前後調査では,フラッシュ放流(ピーク時 40m3/s)の流出曲線に対して流下POM(SPOM:Suspended POM)濃度は,増水初期にピークを示した。とくに,1mm以下の細粒分(FPOM:Fine POM)は全体の79%を占め,早く流下量が増加したが,増水後も流下が継続した.いっぽう,1mm以上の粗粒分(CPOM:Coarse POM)は全体の21%を占め,増水の後半に流下量が増加した.4mm以上の流下POMの組成は,陸生植物11.85%,河原植物25.66%,水際植物40.49%,水生植物20.68%,水生動物0.27%,水生動物脱皮殻・羽化殻1.02%,陸生動物0.03%だった.河岸沿いに滞留する有機物量は,砂州上の位置よりも,局地的な瀬地形,植生の有無によって異なっていた.フラッシュ放流のピーク流量が40m3/s程度の増水ではその分布様式は変化せず,砂州上流端では流下起源の有機物が多く,水際植生のある場所で水際植物起源のPOM滞留が卓越する傾向を示し,木津川下流域においては現場生産起源のPOMが卓越することが示唆された.この結果から,砂州の発達している木津川下流域ではPOMの流下距離が比較的短いことが予測される.
そこで今回,流下ネット(POMネット)による濾過採集とボトル採水により,ダム湖から流出するプランクトン濃度の流程変化調査を実施した.比較対象は,河床材料の粒径が比較的小さく砂州が発達している木津川下流域と,河床低下によって砂州が減少し岩盤や粘土層が露出している宇治川とした.今後,試料の分析を進め,SPOMの流下距離を推定するとともに,各流程の河床地形が果たすSPOMの補足機能や供給機能の違いを評価する予定である.


12:30-14:30

P1-074c: マレーシアにおける土地利用変化とN2Oフラックス

*八代 裕一郎1, 安立 美奈子1, 奥田 敏統2, Wan Rashidah3, 小泉 博1
1岐阜大学流域圏科学研究センター, 2国立環境研究所, 3マレーシア森林研究所

(背景と目的)
主要な温室効果ガスの一つである亜酸化窒素(N2O)は主に土壌微生物によって生成されるため、土壌環境の影響を強く受け生成量が変化する。湿潤熱帯土壌は温暖で湿潤な気候のため土壌微生物の働きが活発であり、N2Oの大きな放出源となっている。さらに、近年熱帯林は急速な開発を受け、プランテーションなどの農用林として利用されている。その急激な土地利用変化はN2Oの放出量に大きな影響を与えていると考えられる。そこで、本研究では熱帯マレーシアにおいて代表的な土地利用形態である天然林、アブラヤシ園およびゴム園においてN2O放出量を測定すると共に、土地利用を変えた際のN2O放出量の変化及びそのメカニズムを解明することを目的としている。
(調査地および方法)
 半島マレーシア・パソ地域にある保護林内の天然林およびその近辺にあるアブラヤシ園とゴム園において、N2O放出速度と環境要因(温度、土壌水分)を測定した。
(結果と考察)
マレーシア・パソ地域におけるN2O放出速度を土地利用形態別に比較すると、天然林が一番大きく(20.1-201.3μgN2Om-2h-1)、次いでゴム園となった(6.3-12.5μgN2Om-2h-1)。アブラヤシ園ではほとんどN2O放出が確認されなかった。このことから、熱帯林を伐採・農地化により生態系レベルでのN2Oの放出量は減少すると推察される。このことから生態系レベルでのN2O放出の時期的な変動は大きく、土壌水分と強い相関(R2 = 0.826)を持つことが明らかとなった。土壌水分が増加すると、土壌中が嫌気状態となる。N2O生成源である脱窒は嫌気条件下でN2Oを活発に生成するため、天然林からのN2O放出量が増加したと考えられる。一方、アブラヤシ園とゴム園ではN2O放出量と土壌水分との間に明確な相関は認められなかった。


12:30-14:30

P1-075c: 河川窒素動態に与える水草の影響

*小野田 統1, 田中 義幸2, 向井 宏3
1北海道大学大学院理学研究科, 2東京大学海洋研究所, 3北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

河川生態系は陸上生態系と沿岸生態系をつなぐ主要な場である。陸上生態系から流出した栄養塩や有機物は河川生態系内の生物過程により、量質ともに変化し、沿岸生態系に流入する。河川生態系内の生物過程の中で、水草と微細藻類は重要な基礎生産者であり、河川の窒素動態に貢献していると考えられる。水草の窒素動態への貢献については、湖沼において研究がなされているが、流水中においては十分な研究が行なわれていない。北海道東部の別寒辺牛水系ホマカイ川上流域ではバイカモ(Ranunculus nipponicus)が非常に密な群落を形成しており、窒素動態への貢献が考えられる。
本研究では、流れの上流側(流入側)と120m下流側(流出側)で溶存無機窒素(DIN)量を測定し、栄養塩収支から調査区域内に取り込まれた窒素量を推定した。また、水草の生物量、生長量から水草が調査区域内で取り込んだ窒素量を推定した。この推定値を比較する事によって水草が窒素動態にどの程度寄与しているかを評価した。また、底生微細藻類の生物量、生長量を測定し、窒素動態への寄与を調べた。
水草その他の要因によって調査区内において水柱から失われたDIN濃度からの推定量は0.12 kg-N day-1となった。バイカモによる生長速度から推定した窒素取り込み量は0.076 kg-N day-1 であった。水草の窒素取り込み量は、調査区全体で取り込まれた窒素量の63.3%と見積もられた。これは流入窒素量の1%にあたる。本調査区域の窒素吸収過程において水草の寄与は大きいと言える。


12:30-14:30

P1-076c: 安定同位体分析を用いた冷温帯落葉広葉樹林におけるCO2動態の季節変化の評価

*近藤 美由紀1, 内田 昌男2, 村岡 裕由1, 小泉 博1
1岐阜大学流域圏科学研究センター, 2海洋研究開発機構

森林生態系における炭素循環機構を解明するためには,系外から取り込まれる二酸化炭素(CO2)だけでなく系内で生じるCO2の動態も考慮する必要がある。本研究では,森林生態系内での呼吸起源CO2の再吸収過程に注目し,炭素安定同位体比(δ13C)分析を用いて森林生態系内の炭素動態を明らかにすることを目的とした。調査は,岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地(36°80’N,137°26’E,標高1400m)の冷温帯落葉広葉樹林において行った。2003年の春期(5月;展葉期),夏期(8月)と秋期(10月;落葉後)に,大気CO2の濃度とδ13Cの鉛直勾配(0.1m∼18m),および林床に優占するクマイザサの葉のδ13Cを測定し,林床植生が呼吸起源のCO2を吸収する割合を推定した。
森林内のCO2濃度は,林床植生の直上付近から地表面に向けて急激に高くなったが,δ13C値は反対に地表面付近ほど低くなっていた。これは,クマイザサが林床を覆うことにより,δ13C値の低い土壌呼吸起源のCO2が林床に溜まりやすくなったためと考えられる。また,森林内のCO2濃度およびδ13Cの鉛直勾配は,夏期に大きく,春期や秋期に小さかった。この理由として,1)林冠が開いている春期や秋期には森林内外での大気の交換が盛んであること,2)夏期に比べて土壌呼吸量が低いこと等が考えられる。さらに,森林内のCO2濃度とδ13C値,およびクマイザサの葉のδ13C値,Sternberg(1989)の理論式を用いて,クマイザサによる呼吸起源CO2の再吸収率を計算すると,春期には6∼27%,夏期に16∼53%,秋期に10∼20%程度と推定された。以上のことから,呼吸起源CO2の一部はクマイザサによって吸収されていることが示唆された。また推定に用いた計算方法も含めて、季節性を与える要因についても考察を行った。


12:30-14:30

P1-077c: 森林生態系における林冠構成種と林床植生の光合成生産量の推定

*酒井 徹1, 三枝 信子2, 山本 晋2, 秋山 侃1
1岐阜大学 流域圏科学研究センター, 2産業技術総合研究所

森林生態系は,陸域生態系の中で二酸化炭素のシンクとして重要な役割を果たしていると言われている.これまでにも森林の生産量を推定する試みは多くなされてきたが,そのほとんどが樹木(林冠構成種)のみを対象としており,林床植生の生産量は無視されている.林床植生は,林冠に葉のない時期に多くの二酸化炭素を固定する能力に優れているとの指摘があり,樹木と同様に森林生態系の二酸化炭素の固定に大きく寄与していると思われる.
そこで,森林生態系のうち,樹木と林床植生が占める光合成生産量の寄与率について把握を試みた.そして,種による着葉量や着葉期間の違い,光の利用効率の違いが,いかに森林生態系全体の光合成量に影響しているかを検討した.
本研究では,森林生態系を樹木(樹冠構成種,主にミズナラ,ダケカンバ,シラカンバ)と林床植生(クマイザサ)に分けた時の光合成生産量を推定した.その結果,森林生態系全体の光合成生産量(GPP)は,104.3 mol m-2 year-1を示した.その内,林床植生のGPPは全体の25%(26.1 mol m-2 year-1)を示し,樹木の展葉が始まる前の4月において樹木とササのGPPはそれぞれ0,0.30 mol m-2 day-1 (100%,カッコ内は森林生態系のうちササが占めるGPPの寄与率),展葉途中の5月には0.04,0.28 mol m-2 day-1 (86.9%),樹木の展葉が完全に終わった8月には0.70,0.09 mol m-2 day-1 (11.8%)の値を示した.このことから,森林生態系の中で林床植生(ササ)のGPPは,無視できない大きさであることが判った.特に,樹木の葉が展葉前・落葉後の良好な光環境下で高いGPPを示した.また,林冠が樹木の葉によってうっ閉されていても,ササは弱い光環境に適応した光合成特性を持つため,比較的高いGPPが保たれた.また,本研究で推定した森林生態系のGPPと渦相関法によるフラックス測定から推定したGPPを比較したとき,互いに近い値を示したことから,本研究で使用した光頻度分布モデルの精度が高いことが示された.


12:30-14:30

P1-078c: 北海道北部の冷温帯林における細根動態と土壌環境要因の季節変化

*福澤 加里部1, 柴田 英昭2, 高木 健太郎2, 佐藤 冬樹2, 笹 賀2, 小池 孝良2
1北海道大学大学院農学研究科, 2北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

森林生態系における細根動態は細根を介した炭素や養分フラックスを明らかにする上で重要である。細根動態の季節変化は森林生態系の環境要因と相互に影響しあっていると考えられる。しかし、野外の森林における細根の生産・枯死分解パターンやその季節変化は定量的に明らかにされていない。本研究では、細根生産速度・枯死分解速度の季節変化を定量的に明らかにし、土壌環境要因の季節変化との関係を明らかにすることを目的とした。
調査は北海道大学天塩研究林の上層木にミズナラが、林床にクマイザサが優占する林内でおこなった。細根動態観測にはミズナラ個体から2m、4m地点に埋設したミニライゾトロンを用いて2002年4月から8月まで月1回おこなった。地表から45cmまでの土壌深度において、チューブと土壌の境界に現れた細根の画像を撮影してパソコンに取り込み、後に画像解析により根長・直径を測定した。そして画像面積あたりの根長密度、細根生産速度、細根枯死分解速度を算出した。また、環境要因として、地温、体積含水率、土壌呼吸速度、上層木およびササの葉面積指数(LAI)を測定した。
 画像面積当たりの根長密度および細根の生産速度は、全深度において8月に最大になった。また、これらは土壌表層(0-15cm)で最大になり、深くなるほど低下した。細根の枯死分解速度は生産ほど急激な季節変化を示さず、6月から8月にかけて徐々に上昇する傾向があった。また、枯死分解速度は15cm以深では著しく低かった。一方、環境要因では、地温・気温・土壌呼吸速度・上層木およびササのLAIは8月に最大になった。土壌の体積含水率は34-41%で推移し、7-8月に上昇する傾向があった。細根生産速度が上昇する時期と地温・気温・土壌呼吸速度・ササLAIが上昇する時期は一致した。特に、細根生産速度は土壌呼吸速度とササLAIと強い相関があった。以上から、細根の生産速度は土壌環境要因と密接に関係しながら大きな季節変化を示し、気温や地温などが高い時期に高まることが明らかとなった。


12:30-14:30

P1-079c: 河川の出水特性と有機物の流下・滞留様式の関係

*三島 啓雄1, 河内 香織2, 柳井 清治2
1ナチュラル リソーシズ リサーチ, 2北海道工業大学

 森林から渓流に流入する有機物の多くは、流下や滞留を繰り返し水中で分解されていく。水中の有機物の滞留や流下量は、融雪や台風などの出水による流量変化に伴って変化すると考えられる。しかし流量の変化と河川中のこれら有機物の関係に関する知見は未だ不十分である。有機物の中で量的に多い葉や枝は、底生動物の食物資源や生息場所として重要な役割を果たすため、流量との関係を明らかにすることは重要である。本研究は、水中の滞留、流下有機物を採取し水理量との関係を明らかにすることにより、これらの有機物量と流量の関係を明らかにすることを目的とした。
 積雪の有無は流量に大きく影響していると考えられるため、調査河川は、北海道内の多雪河川として長流川支流の大滝村に位置する左沢川、寡雪河川として白老町毛敷生川とした。両河川の地質は第四紀の火山噴出物、河川次数は2、平水時の水面幅は4から5m、水深約20cm、流速0.3から0.4m/sの山地渓流である。渓畔林からの有機物流入量は同程度であるが、流入のピーク時期は左沢川のほうが2週間以上早い。
 左沢川の流量は、厳冬期の2003年12月以降は漸減傾向を示し、融雪期の2004年3月上旬からは増加傾向を示し、5月上旬をピークとした後低下した。一方毛敷生川では、融雪に伴う顕著な流量変化は見られなかった。流下有機物量は左沢川では10月上旬に、毛敷生川では11月上旬にピークが認められた。両河川において2003年内は滞留有機物に落葉が見られ、翌年2月以降は枝が顕著であった。両河川とも、流入した落葉は秋から冬の間に流下もしくは分解されているものと考えられる。左沢川では融雪出水後の枝の滞留量は減少したが、毛敷生川では顕著な変化は見られなかった。左沢川では融雪出水により難分解性の枝が送流されたと考えられる。


12:30-14:30

P1-080c: Differences of O2/CO2 exchange ratio on soil respiration using two chamber types in forests soil

*李 美善1, 遠嶋 康徳1, 井上 元1
1国立環境研究所

In order to quantify the terrestrial biosphere and ocean uptakes for anthropogenic CO2, recently, atmospheric O2-CO2 budget approach has been noticed (Keeling & Shertz, 1992, Bender et al. 1996, Keeling et al. 1996, Langenfelds et al. 1999). First, Keeling employed (1988) terrestrial CO2 flux with an O2-CO2 exchange ratio (R–O2/CO2) of 1.05, which is oxidative ratio evaluated from elemental abundance data for wood. After that, Severinghaus (1995) estimated R–O2/CO2 to be 1.10 from the measurements of the respiratory R–O2/CO2 for several forest soil samples, which were around 1.20 (1.06~1.22). However, the factors controlling respiratory R–O2/CO2 are still unknown. In addition, we have little information about R–O2/CO2 for the processes of leaf photosynthesis/ respiration, and stem, root and soil respiration.
The aim of the present study is to investigate the soil R–O2/CO2. Dry air was passed through a glass chamber, in which forests soil was collected, and the changes in the CO2 and O2 concentrations in the dry air were measured by NDIR (LI-6252) and GC-TCD (Tohjima, 2000), respectively. In order to investigate the effects of experimental conditions to the observed R–O2/CO2, we used two types of chamber: flow-through chamber (FTC) and head-space chamber (HSC). We analyzed soil core samples (400ml) from three sites: 1) Tsukuba site, 2) Ogawa site, and 3) Tomakomai site.
The results showed that soil R–O2/CO2 for the FTC type (1.10) was significantly higher than that for the HSC type (1. 02) for all of the forest sites. The HSC type is considered to reflect the natural condition better than the FTC type because of the unnaturally rich O2 condition in soil for the FTC type.


12:30-14:30

P1-081c: 安定同位体を用いた森林土壌における炭素・窒素動態に関する研究

*新井 宏受1, 徳地 直子2, 木庭 啓介3
1京都大学大学院 農学研究科, 2京都大学 フィールド科学教育研究センター, 3東工大院総合理 科技機構

森林土壌は多くの有機物(SOM: Soil Organic Matter)を蓄積している。森林土壌中のSOMは全球的な物質循環過程においても重要な位置を占め、その動態把握は重要であると考えられる。安定同位体比分析は、起源植生や土壌中で受けた作用に関する情報を残していることからSOM動態把握に有用である。そこで、本研究では炭素・窒素に着目し、安定同位体を用いた森林土壌中のSOM動態の把握を目的とした。
調査は京大フィールド研和歌山研究林のスギ人工林内で行い、120cmまでの土壌サンプルと表層リターを採取した。試料は風乾後、炭素・窒素濃度、安定炭素・窒素同位体比を測定した。
全層位を通して深度が増すにつれ有意に炭素濃度と窒素濃度は低下し、窒素同位体比は増加傾向を示した。一方、炭素同位体比は深度に伴う有意な傾向は見られなかった。さらに、炭素と窒素の深度に伴う濃度、同位体比の傾向の変化から、土壌プロファイルは上下2層に分離できた。その場合、上層では深度に伴い炭素・窒素濃度は有意に急激な低下傾向を示し、同位体比は増加傾向を示した。これらのことから、本調査地では特に上層において炭素・窒素の分布に分解が強く影響を与えていることが示唆された。しかし、下層での深度に伴う傾向は炭素と窒素では異なり、炭素濃度は深度に伴う有意な傾向を示さなかったが、窒素濃度は上層よりも弱いが、有意な低下傾向を示した。また、下層での同位体比は炭素、窒素共に深度に伴う有意な傾向を示さなかった。このような違いをさらに炭素同位体比より推定された古植生起源の有機物の存在割合、Isotopic discrimination factorを合わせて考察した結果、特に下層での炭素と窒素の蓄積機構に大きな違いが存在する可能性が示唆された。また、特に森林土壌中の炭素動態を把握する上では古植生を考慮することが必要な場合があると考えられた。


12:30-14:30

P1-082c: 冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の肥料的価値

*中村 雅子1, 香川 裕之2, 江成 敬次郎3
1(財)ホシザキグリーン財団, 2東北緑化環境保全(株), 3東北工大・環境情報工学

最近、冬の田んぼに意図的に浅く水を張る冬・水・田んぼという農法が日本各地で行われている。冬・水・田んぼは春の抑草効果、その結果の減農薬、冬鳥のカモ類の利用がある場所では冬鳥の生息地の保全、またカモ類が利用した際に落ちた排泄物の施肥効果が期待されるなど、生き物と共存する環境保全型農業として注目されている。しかし、冬・水・田んぼに関する調査は始まったばかりでデータの蓄積が急務である。そこで、冬・水・田んぼを行った際のカモ類排泄物の施肥効果について仙台市内の田んぼで調査を行った。
カモ類排泄物の施肥効果を検証するために冬・水・田んぼの土壌養分(N・P・K、ケイ酸、炭素)の経日変化を追い、湛水開始時と田植え直前で養分量を比較した。また、冬・水・田んぼは秋耕せずに冬に水に張るため、対照区として慣行区(秋耕あり・湛水なし)、不耕起区(秋耕なし・湛水なし)を設け、さらにカモ類の利用がない湛水防鳥区(秋耕なし・湛水あり)を設け、計4調査区の土壌養分の経日変化を追った。
結果、Nに関しては全ての調査区で調査開始前と開始後で土壌中のNは減少を示し、P・Kは全ての調査区で増加し、ケイ酸については土壌の表層で全調査区において増加傾向を示した。また炭素に関してはほとんど変化が見られなかった。測定項目の増加・減少の幅に調査区間での大差はなかった。つまり、P・K・ケイ酸について、冬・水・田んぼ区で土壌養分の増加が見られたが、対照区においても同様に増加が見られたため、今回の調査結果からは冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の施肥効果は認められなかった。ただし今回の調査では、湛水が上手く保持できなかったこと、冬・水・田んぼ初年度だったこと、カモ類が採食場として利用していたことなどがあり、今後、ハクチョウがネグラとして利用している田んぼや何年も冬・水・田んぼを行っている田んぼなどでの調査を行い、どのような鳥の利用があれば施肥効果になるのかを検討する必要がある。


12:30-14:30

P1-083c: 温暖化環境下での樹林の炭素循環・収支研究のためのオープントップチャンバー(OTC)の環境条件の制御

*周 承進1, 林 明姫1, 今川 克也1, 中根 周歩1
1広島大・生物圏

大気中の二酸化炭素濃度増大による地球温暖化の問題は21世紀以降に向けて深刻な問題である。森林をめぐるCO2固定対策は少なくとも数十年のスパンでの施策計画が求められるが、その際予測される温暖化環境下での森林、樹木のCO2固定能の変動予測が不可欠である。そのためには、人為的に温暖化環境を創出できる施設を用いて、長期にわたって樹木の生理生態、光合成能、土壌有機物の分解能などを追跡する必要がある。そこで、2002年広島大学精密実験圃場(34゜24´N, 32゜44´E, 230 m a.s.l.)に設置したオープントップチャンバー6基を使用して、B1(外気±0℃と外気CO2濃度の1倍)、B2(±0℃と1.4倍)、B3(±0℃と1.8倍)、A1(+3℃と1倍)、A2(+3℃と1.4倍)、A3(+3℃と1.8倍)の6通りの環境設定で、植栽した常緑広葉樹(アラカシ)の光合成能、蒸散能、純生産量、生産物の再配分、リター分解及び幹、根系、土壌呼吸などの研究が進行中である。本研究では、2003年5月から1年間の6基のオープントップチャンバーの制御環境を検討することを目的とする。光量子束密度についてはチャンバーの覆(エフグリーン)の影響で外より約3%程度下がったが、6基すべて等しく維持された。外気、B1、B2、B3、A1、A2、A3基での年平均気温は、それぞれ14.1℃、14.1℃、13.9℃、14.0℃、16.9℃、16.6℃、16.7℃となり、B系とA系の間に約2.7℃の温度差が維持された。地温の場合は、それぞれ15.5℃、16.1℃、15.6℃、15.9℃、17.4℃、17.9℃、16.7℃となり、B系とA系の間に約1.5℃の温度差が生じた。相対湿度と土壌水分は、外でそれぞれ76%、28%、B系で78%、30%、A系で66%、26%となり、A系の方が若干低く維持された。外気、B1、A1、B2、A2、B3、A3基での年平均CO2濃度(昼間)は、それぞれ392、389、393、552、547、705、701 ppmとなり、外気の1倍、1.4倍、1.8倍の目標濃度で正確に維持された。


12:30-14:30

P1-084c: オープントップチャンバーを用いて温暖化環境に制御された条件下での常緑広葉樹(アラカシ)の成長量と生産物の再配分

*林 明姫1, 今川 克也1, 周 承進1, 中根 周歩1
1広島大・生物圏

本研究では、広島大学精密実験圃場に設置したオープントップチャンバー(OTC)6基を用いて異なるCO2 濃度と温度の温暖化環境に制御された条件下で、1年間生育した常緑広葉樹(アラカシ、Quercus glauca)の成長の特徴を分析し、上昇する大気のCO2 濃度と温度の相互要因が植物の成長に与える影響を考察することを目的とする。2002年11月、216個体のアラカシ(3年生)の樹高、地表直径などの毎木調査を行い(平均樹高±SD:126.0±13.7 cm、平均地表直径±SD:16.3±1.8 mm)、6基のOTCそれぞれに36個体ずつ植栽した。別の49個体のアラカシを伐倒して、幹、枝、葉及び根の乾重量を測定し、相対成長関係を適用して、植栽されたアラカシの初期個体重を推定したが(平均個体重±SD:158.8±33.5 g)、6基のOTCの間に有意差はなかった。2003年4月から6基のOTC内の環境条件の制御が開始され、B1(外気±0℃と外気CO2 濃度の1倍)、B2(±0℃と1.4倍)、B3(±0℃と1.8倍)、A1(+3℃と1倍)、A2(+3℃と1.4倍)、A3(+3℃と1.8倍)の6通りの環境条件を設定した。ただし、夜間においてCO2 濃度は6基すべて外気濃度に追従した。2003年11月、6基のOTCでの毎木調査(36個体ずつ)とOTC周囲に植栽されたアラカシ12個体の伐倒調査を行い、6通りの環境条件下での生育期間1年のアラカシの成長を調べた。B1、B2、B3、A1、A2及びA3区において、平均樹高はそれぞれ136、153、144、161、164、173 cm、平均地表直径はそれぞれ17.9、19.1、18.8、19.4、20.8、21.3 mm、平均個体重は198、244、225、263、299、329 gとなり、高CO2 濃度と高温の正の影響が認められた。相対成長率(RGR)の場合、B1区で0.25、B2区で0.38、B3区で0.33、A1区で0.52、A2区で0.57、A3区で0.71となり、高CO2 濃度と高温の相互作用の影響が見られた。地下部重/地上部重は、B1区で0.48、B2区で0.44、B3区で0.46、A1区で0.43、A2区で0.47、A3区で0.45となり、有意差はなかった。


12:30-14:30

P1-085c: 亜高山帯針葉樹林における細根の現存量と生成量の推定

*土井 裕介1, 菱 拓雄1, 森 章1, 武田 博清1
1京都大学大学院農学研究科地域環境科学専攻森林生態学研究室

 樹木の細根動態を調べる事は,森林生態系の物質循環を考える上で重要である。本研究では,中部山岳地帯に位置する御岳山の亜高山帯林(標高 2050 m)において,細根(直径 2 mm 以下の樹木根)の現存量,生長量,季節変化,そして垂直分布を調べた。現存量,生長量,季節変化を調べるために,2 ヶ月ごとに土壌コアとイングロースコア(共に深さ 8 cm)のサンプリングを行った。イングロースコアの中に詰める基質は調査プロット付近の根を取り除いた鉱質土と,バーミキュライトの 2 種類を用意した。根の垂直分布を調べるために,プロットの付近に深さ 52 cmの土壌断面を1箇所作成し,4 cm間隔で,それぞれの深さから5つコアを採取し,細根の垂直分布を調べた。直径2 mm以上の根(太根)の分布は,土壌断面に現れた太根の直径,地表面からの深さから求めた。
 垂直分布の結果から,全体の 9 割近くの細根が表層から深さ 8 cmまでに集中していた。一方,太根は表層から見て4 cm - 12 cm の間に多く存在した。また,土壌コアで得られた樹木の細根の現存量は 163 g m-2 (2003 年 5 月のデータ)で,Vogt (1996) の寒帯のデータと近い値を示した。しかし,イングロースコア(基質:バーミキュライト)で得られた細根の純一次生産量(NPP)は12.8 g m-2 year-1,ターンオーバー速度は 0.079 year-1と寒帯で行われた先行研究と比べるとかなり遅かった。季節変化を見てみると,5 月 - 7 月は変化が少なく,7 月 - 9 月に活発に伸長し,9 月 - 10 月にわずかに枯死が起こり,10 月 - 翌年 5 月に再び伸長が始めていた。これらの結果から,このサイトにおける細根の生長は遅く,寿命が長いことが推察される。そのことは,冬季における長期間の積雪のため樹木の生長期間が短いことに加え,このサイトの葉リターフォール量は 238 g m-2 year-1と多く,土壌の有機物層は厚く,含水率も高いこと(Tian 1997),つまり土壌が根にとって良い環境にあることが関係しているのかもしれない。