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[要旨集] ポスター発表: 繁殖・生活史
- P1-086: 鹿児島湾におけるヒメウズラタマキビガイの生息地による生活史の比較 (河野, 冨山)
- P1-087: アポイカンバの種子生産の花粉制限とダケカンバとの間の不完全な生殖隔離 (永光, 河原, 金指)
- P1-088: 越冬期におけるホソヘリカメムシの生息場所選好性 (伊藤, 田渕)
- P1-089: 北海道におけるイチヤクソウ亜科とマルハナバチの生活史の対応関係 (阿部, 大原)
- P1-090: トウキョウサンショウウオの食性の地点間の比較 (篌??)
- P1-091: 自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異 (柴山, 植田, 角野)
- P1-092: シデコブシの小集団化が近親交配と近交弱勢、花粉不足に与える影響 -集団サイズの異なる二集団での比較- (平山, 石田, 戸丸, 鈴木)
- P1-093: 下伊那地方における絶滅危惧種ハナノキの種子生産 (金指, 金谷, 鈴木)
- P1-094: アコウの一樹冠の遺伝構造 (金谷, 大谷)
- P1-095: 水生植物タヌキモ類における雑種形成と集団の維持機構 (亀山, 外山, 大原)
- P1-096: 山梨県都留市におけるカワネズミの繁殖、成長、および生残 (一柳)
- P1-097: 餌メニューがオオタバコガ幼虫の体色に与える影響について (山崎, 藤崎)
- P1-098: 日本産エンレイソウ属植物の開花フェノロジーの違いによる交雑の方向性 (三谷, 亀山, 大原)
- P1-099: ヒメシャガにおける花被片間の機能的分化 (森長, 酒井)
- P1-100: 翼のかたちが散布を決める!_-_ヤチダモ種子の画像解析と散布実験から分かったこと_-_ (後藤, 岩田, 芝野, 大屋, 鈴木, 小川)
- P1-101: 外来種フタモンテントウの日本における分布状況と在来テントウムシとの関係 (戸田, 桜谷)
- P1-102: 雌雄異株性樹木オノエヤナギにおける性比の偏りがメスの繁殖成功に与える影響 (上野)
- P1-103: ()
- P1-104: 森林の分断化がホオノキの結実率に与える影響 (舘野, 井鷺, 柴田, 田中, 新山, 中静)
- P1-105: 越冬条件がムカゴトラノオの発芽と成長に及ぼす影響 (西谷, 増沢)
- P1-106: アユモドキの産卵環境と仔稚魚の分布 (阿部, 小林, 近)
- P1-107: アオダモ局所個体群の性比と種子の性質 (半田)
- P1-108: 多雪地ブナ林における樹木群集のリーフフェノロジー (井田)
- P1-109: トチバニンジン(ウコギ科)における繁殖特性の集団間比較 (岡崎, 和多田)
- P1-110: アオモリトドマツの球果生産が当年枝伸長量に及ぼす影響について (関)
- P1-111: 奥日光ミズナラ天然林における稚樹と堅果の推定花粉親の比較 (伊部, 生方, 河原)
- P1-112: 個体識別法によるメダカの生態調査ー移動と成長の個体変異ー (佐原, 富樫, 國分, 東)
- P1-113: 種子のギャップ検出機構はそれらの適応度に常に貢献し得たのか? (本田, 伊藤, 加藤, 倉本)
- P1-114: 風散布植物センボンヤリの繁殖戦略 - 閉鎖花/開放花に由来する二型痩果の役割 - (名倉, 湯本)
- P1-115: エゾアカガエル(Rana pirica)の繁殖期の年変動 (竹中)
- P1-116: ヨツボシモンシデムシの繁殖における雄の役割 (岸田)
- P1-117: 雌雄同株から雌雄異株への進化条件 (中山, 舘野)
- P1-118: 雑種タンポポは親よりも早く成長するか?_-_乾燥土壌耐性と資源分配の違い_-_ (保谷, 芝池, 森田, 伊藤)
- P1-119: ブナのマスティングはなぜおこるのか_-_受粉効率仮説と捕食者飽食仮説の検証_-_ (今, 野田, 寺澤, 八坂, 小山)
- P1-120: マレーシア半島部における熱帯雨林構成樹種の種子・落葉試料を用いた個体レベルでのフェノロジー解析 (前田, 木村, 佐々木, 奥田, 新山, Ripin, Kassim Abd.)
- P1-121: 谷戸環境におけるトウキョウダルマガエルの成長とフェノロジーについて (戸金, 倉本, 福山)
- P1-122: ヨツモンマメゾウムシにおける幼虫間競争と産卵分布の関係 (石田, 徳永)
- P1-123: タチスズシロソウの低温処理による開花反応性の集団間変異 (杉阪, 工藤)
- P1-124: 雪田植物チングルマにおいて、雪解け時期の違いが個体サイズに依存した繁殖への資源分配に与える影響 (辻沢, 酒井)
- P1-125: 寄主の活性に着目した寄生蜂の性比調節に関する研究 (中村, 徳永)
- P1-126c: アイナメ属3種の繁殖場所選択と交雑との関係 (木村, 宗原)
- P1-127c: メスは精子制限のリスクに反応した配偶者選択をできるのか? (佐藤, 五嶋)
- P1-128c: エゾシカにおける対照的な2個体群の餌資源比較 (上野, 高橋, 西村, 梶, 齊藤)
- P1-129c: 亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性 (清水, 藤崎)
- P1-130c: 絶滅危惧植物ユキモチソウ(Arisaema sikokianum,サトイモ科)における性表現と個体サイズ,成長様式および個葉光合成との関係:圃場での被陰実験から (浦川, 小林, 深井)
- P1-131c: コバネナガカカメムシの個体群間でみられる生活史形質の変異について _-_ヨシ・ツルヨシ群落における生息環境の違いに関連して (嘉田, 藤崎)
- P1-132c: 木本植物の生育段階の指標変数としてのRGRの有効性 (藤木, 菊沢)
- P1-133c: メダカの脊椎骨数の緯度間変異に与える遺伝と水温の影響について (西田, 山平)
- P1-134c: メダカにおける成長と繁殖のトレードオフ関係とその緯度間変異について (武士, 山平)
- P1-135c: 野生メダカの成長スケジュールおよび個体群動態の緯度間変異 (山平, 岡田)
- P1-136c: Shorea acuminataの繁殖戦略: 不定期に大量開花/結実することの適応的意義 (内藤, 神崎, 沼田, 小沼, 西村, 太田, 津村, 奥田, Lee Soon, Norwati)
- P1-137c: オーストラリア産シロアリAmitermes laurensisにおける塚形状の多様性と種内分子系統 (小関, 井鷺, Peter, David)
- P1-138c: ヒノキ林における細根系の形態と分枝構造 (藤巻, 武田)
- P1-139c: ウスノキに見られたシュートレベルの繁殖コスト:花形成における発達上の制約 (河村, 武田)
- P1-140c: 単独性花蜂、キオビツヤハナバチ(Ceratina flavipes)は近親交配を行っているか? (城所, 東, 東)
- P1-141c: 暗い林床に生育するベニバナイチヤクソウはなぜ菌根を持つのか? (國司, 長谷川, 橋本)
- P1-142c: 樹林-水田複合生態系で生活するノシメトンボの雌における週休5日制の産卵パターン (諏佐, 渡辺)
- P1-143c: 熱帯雨林に共存するサラノキ属18種の稚樹における形態的シンドローム (饗庭, 中静)
- P1-144c: オオバナノエンレイソウ集団の遺伝的時空間構造 :孤立林と連続林の比較 (山岸, 富松, 大原)
- P1-145c: エイザンスミレとヒゴスミレの光環境、送粉昆虫に対応した資源分配 (遠山)
- P1-146c: ウルシ属2種(ヌルデ、ヤマウルシ)における栄養成長・繁殖成長の季節的パターンと経年的繁殖行動との関わり (松山, 嵜元)
- P1-147c: ネジキ、ナツハゼの枝系内の位置に対応した花芽分布のパターン (平野, 河村, 武田)
- P1-148c: 針葉樹型樹形と広葉樹型樹形の光資源獲得様式の違いについて (佐野, 藤本)
- P1-149c: ヤマユリの花の香り:その個体サイズ・時間依存変化が繁殖成功に与える影響 (太田, 森長, 熊野, 山岡, 酒井)
- P1-150c: フキにおける三つの花型の適応的意義:訪花昆虫の誘引に貢献しているか? (鈴木, 星崎, 小林, 酒井)
- P1-151c: 亜寒帯針葉樹林内で倒木更新している幼木と外生菌根菌の関係 (米田, 橋本)
- P1-152c: 雌雄異株クローナル植物ヤマノイモのラメット間競争を検出するー圃場1年目の試みー (井上, 石田, 菊澤)
- P1-153c: 海岸砂丘前面,背面に生育するコマツヨイグサのフェノロジーの変異 (荻津, 長谷川, 大塚, 堀)
- P1-154c: AFLP法を用いた蛇紋岩遺存植物オゼソウの集団分化と遺伝的変異の解析 (川瀬)
- P1-155c: タナゴ亜科魚類の産卵資源利用の違い (北村)
- P1-156c: タンチョウの繁殖に天候はどう働くか (正富, 正富, 東)
- P1-157c: 海浜に生育する植物14種の永続的シードバンク形成の可能性 (澤田)
- P1-158c: アズキゾウムシにおける雄の同居のコスト (柳)
- P1-159c: 異なる地形における樹木の生長と生残 (辻野, 日野, 揚妻, 湯本)
- P1-160c: ヤマモモ(Myrica rubra)の集団間の遺伝的分化-サルのいる森といない森の比較 (寺川, 菊地, 金谷, 松井, 湯本, 吉丸)
- P1-161c: スズランにおけるクローンの空間構造と種子繁殖の関係 (荒木, 山田, 大原)
- P1-162c: モンカゲロウの産卵場所選択性 -砂礫堆と樹冠の影響- (田中, 山田, 竹門, 池淵)
- P1-163c: クロヒナスゲCarex gifuensisの生活環と実生の動態 (吉場)
- P1-164c: 吊下げるべきか、切り落とすべきか?エゴツルクビオトシブミの揺籃作製をめぐる代替戦術の戦術間比較 (小林)
- P1-165c: 北タイ熱帯山地林における下層の光環境と樹木の生存戦略 (中島, 武田, KHAMYONG)
- P1-166c: オオヤマオダマキにおける、花序内の花間で雄期・雌期の長さが性投資量に及ぼす影響 (板垣, 酒井)
- P1-167c: 沖縄島におけるオヒルギの開花・結実特性と受粉システム (野口, 佐々木, 馬場)
- P1-168c: 季節的性比調節の解析的ESSモデル (向坂, 雨甲斐, 吉村)
P1-086: 鹿児島湾におけるヒメウズラタマキビガイの生息地による生活史の比較
ヒメウズラタマキビガイLittoraria intermediaはタマキビガイ科に属する雌雄異体の巻貝で,瀬戸内海や有明海などの内湾の岩礁や礫地などに生息している。鹿児島湾喜入町愛宕川河口と鹿児島市祇園之洲海岸の二カ所で本種の殻のサイズ頻度分布の季節変動を明らかにし,生活史を検討した。また,垂直分布の季節変動から生息場所の季節変化を調査した。祇園之洲は,海岸の改修工事が行われている地域で,生息環境の攪乱が本種個体群に与える影響も考察した。調査の結果,本種は春と秋に幼貝の新規加入が認められたが,年によっては新規加入が行われない年もあった。垂直分布の季節変化から,冬季の寒さを避けて,生活場所を変える季節的な移動習性も認められた。祇園之洲個体群では,新規の幼貝の加入がまったく認められず,年々,個体群を構成する個体サイズが大型になる傾向がある。今後もこの傾向が続くと,近い将来,祇園之洲地域のヒメウズラタマキビが消滅していまう事態が危惧される。隣接する自然海岸の本種個体群には幼貝加入が認められることから,祇園之洲個体群の幼貝未定着の現象は,海岸整備による攪乱が大きいものと思われる。
P1-087: アポイカンバの種子生産の花粉制限とダケカンバとの間の不完全な生殖隔離
北海道日高地方のアポイ岳にのみ生育する絶滅危惧種アポイカンバの繁殖を調べた。 胚珠数に対する健全(充実または発芽)種子数の比率は無受粉と自家受粉が他家受粉よりも低く自家不和合性があった。 また、胚珠数に対する健全種子数の比率は自然受粉が他家受粉よりも低く60 m以内の個体数が増えると高くなった。 よって、自然条件では健全種子の生産が花粉不足によって制限されていたといえる。 アポイ岳にはアポイカンバとダケカンバがともに生育している。 開花時期と花粉散布時期は、アポイカンバが早いものの両種の間で重なった。 しかし、胚珠数に対する健全種子数の比率は、ダケカンバとの種間受粉が種内の他家受粉より低かった。 よって、アポイカンバはダケカンバとの間に不完全な生殖隔離の機構をもっているといえる。
P1-088: 越冬期におけるホソヘリカメムシの生息場所選好性
ホソヘリカメムシRiptortus clavatusは大豆子実を吸汁加害する重要害虫であるが、その生活史に関しては不明な点が数多く残されている。特に、越冬に関する知見は乏しく、本種がどのような場所で越冬しているのかについての系統的な調査は行われていない。本種の越冬場所を明らかにすることは、生活史の解明という意味だけでなく、大豆圃場での発生初期の密度を予測し, 効果的な防除を行う上できわめて重要な意味を持つ。そこで、ホソヘリカメムシの越冬する環境を推定することを目的として、様々な環境を人為的に再現し、越冬期間を通じてそれらを選択させる野外実験を行った。
茨城県つくば市の中央農業総合研究センター敷地内に3m*3m*1.8mのケージを四つ設置して1mmメッシュの網で覆い、その中に4つの環境となる基質 a)敷石, b)枯死イネ科雑草, c)広葉落葉(ケヤキ・ニレ主体)d)枯死スギ枝葉+スギ幼木(以下, 人工スギ林)を等面積に配置した。越冬期前に休眠状態に調節したホソヘリカメムシの飼育個体を放飼し、越冬後全ての環境基質を精査して放飼した個体を回収した。実験は2003年12月から2004年3月まで行った。
実験の結果、放飼したホソヘリカメムシのうち72.8%が回収されたが、全ての放飼個体は死亡していた。死亡個体が回収された環境基質を「越冬場所として選択した基質」として解析すると、基質をランダムに選択しているという帰無仮説は棄却され、人工スギ林>枯死イネ科雑草>広葉落葉>敷石の順で選択する傾向があることが示された。
P1-089: 北海道におけるイチヤクソウ亜科とマルハナバチの生活史の対応関係
虫媒花の主要なポリネーターの1つであるマルハナバチでは巣内に幼虫がいる期間は花粉・蜜の両方を必要とするが、巣の解散間際には幼虫がいなくなるため花粉を採餌する必要がなくなる。マルハナバチが利用する餌資源の季節的変化は植物の繁殖戦略にも大きな影響をもたらすと考えられるが、近縁な植物種を対象として、その繁殖特性とポリネーターが必要とする餌資源との関係を明らかにした例はない。本研究で対象としたイチヤクソウ亜科には、花粉花の種(イチヤクソウ属5種)と花粉・蜜両方をもつ種(ウメガサソウ属2種、コイチヤクソウ属1種)の両方が認められ、北海道においては同所的に生育している。主要なポリネーターであるマルハナバチの採餌行動とイチヤクソウ亜科8種の開花時期との関係を明らかにするため、北海道千歳市の針葉樹林下においてイチヤクソウ亜科の開花時期、マルハナバチ4種の営巣期間、訪花頻度の調査をおこなった。
その結果、(1)イチヤクソウ亜科8種の開花ピークはそれぞれ異なっていること、(2)花粉花5種は花蜜をもつ3種よりも早く開花すること、(3)花蜜をもつ種の開花時期は主要なポリネーターであるエゾコマルハナバチの巣の解散時期と一致していること、などが明らかになった。イチヤクソウ亜科における開花時期は、同所的に生育する近縁種との種間競争および花粉媒介者であるマルハナバチの餌資源の双方によって規定されているものと推察された。
P1-090: トウキョウサンショウウオの食性の地点間の比較
アジア産サンショウウオの地域ごとの餌の違いや捕食行動の比較については,これまで未調査であった.そこで,トウキョウサンショウウオの神奈川県横須賀市津久井,野比,山中,千葉県夷隅町万木,福島県いわき市四ツ倉の各個体群の餌組成や捕食行動を比較し,その違いや共通性を検討した.本研究では総計で82個体のトウキョウサンショウウオを捕獲し,胃内洗浄法を用いこららの内59個体から個体を傷つけることなく胃内容物を採取した.その結果,検出した個体あたりの胃内容物の湿重量,捕食した餌個体の体長や体積には地域間での差は無いことが示唆された.餌動物の内,ミズムシを除いた動物の全てが土壌動物であり,各地点の餌組成の個体数割合の中で等脚目の占める割合が最も高かったが,地点ごとに捕食された主要な等脚目の種は異なっていた.この結果から,トウキョウサンショウウオは生息地の潜在的な餌資源のなかで等脚目を餌として選考することが示唆され,サンショウウオの餌とする等脚目の選考基準として個体数や体の大きさの違いが重要な要因の様であり,餌とする等脚目の生態にあわせて捕食活動を変化させている可能性が示唆された.
P1-091: 自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異
日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほかに、ヒメシロアサザNymphoides coreana (Lev.)Haraが存在し、3種とも絶滅危惧植物に指定されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒメシロアサザは他の2種と異なり、自動自家受粉による高い自殖性を維持していることが明らかになった(植田・角野,未発表)。ヒメシロアサザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群にみられる遺伝的分化を調査した。
各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)を比較観察した。
その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(ため池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多型分析により多型が認められたPGM, MDH, TPI, ADK, SkDHを組み合わせたmultilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有なMLGが存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖という繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてきたものと推測される。
今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個体群の存続可能性を検討するためにF1, F2を作出して、近交弱勢や他殖弱勢の存在などを確認する予定である。
P1-092: シデコブシの小集団化が近親交配と近交弱勢、花粉不足に与える影響 -集団サイズの異なる二集団での比較-
シデコブシは、東海地方の里山湿地に生育するモクレン属の樹木であり、絶滅が危惧されている。温帯域のモクレン属では、特有の繁殖システム(asynchronous flowering, self-compatibility)によって、木本植物の中でも高い自殖率を示すことが報告されてきている。さらに、集団の分断・孤立化が進行しているシデコブシでは、外部からの遺伝子流動の減少、遺伝的浮動などが起こり、集団における近親交配の程度がますます高まっていると予想される。シデコブシの保全を考えていく上では、分断・孤立化に伴う送粉効率の低下等とともに、近親交配がもたらす近交弱勢の大きさや遺伝的荷重を明らかにすることも重要である。本研究では、繁殖個体が245株の愛知県春日井市(中規模集団)、29株の三重県四日市市(小集団)の2つのシデコブシ集団を対象に、人工受粉実験とマイクロサテライト分析によって、近交係数(FIS)、結実率と胚生存率(種子に至る胚珠の生存率)に現れる近交弱勢の大きさ(δ)、種子の他殖率を求め、Ishidaら(2003)の方法を用いて未受精率、胚段階に現れる近交荷重(自家受精率×δ)の推定を行った。
成木のFISは、中規模集団が0.02と低い値を示す一方で、小集団が0.29と高い値を示しており、シデコブシでは小集団化するに伴い近親交配の程度が高まることが示唆された。果実当たりの結実率に現れるδは小集団の方が小さかったものの、胚生存率に現れるδは中規模集団と小集団で大きく異ならず、両集団とも受精した胚の約4割が自殖による近交弱勢によって死亡していると推定された。未受精率や近交弱勢以外の原因による胚死亡率は、いずれも小集団で高くなっていた。最終的な胚珠の生存率は、中規模集団で2.6%であったのに対し、小集団では0.3%にとどまっていた。小集団化したシデコブシでは、近親交配が進むものの、理論的に予想されているような近交荷重の減少はそれほど大きくなく、さらに花粉不足や近交弱勢以外の原因(被陰等)が胚珠の生残により大きく影響してくることが明らかとなった。
P1-093: 下伊那地方における絶滅危惧種ハナノキの種子生産
ハナノキAcer pycnanthum K.Koch(カエデ科ハナノキ節)は、長野県南部、岐阜県東南部、愛知県北東部の限られた地域にのみ遺存的に分布する日本の固有種である。ハナノキはミズゴケが優占する湧水のある小湿地に生育するが、土地の開発などにより個体数の減少が進み、現在、絶滅危惧(II)類に指定されている。ハナノキ自生地保全のための基礎的情報として、繁殖・更新特性を明らかにする必要がある。その一環として、ハナノキの種子生産の現状を把握するため、下伊那地方で比較的まとまった個体が分布する2カ所の局所集団(土橋、備中原)において、各11個体を対象としてそれぞれの樹冠下に開口部0.5m2のトラップを3ヶ設置し、雌雄花および未成熟から成熟種子の落下量を測定した。さらに、成熟したサイズに達した種子の中の充実種子数を軟X線照射によって観察して求め、これらより、捕捉した雌性生殖器官をもとにした結実率(充実種子数/雌花総数)や充実種子率(充実種子数/成熟サイズに達した種子数)を求めた。同時に成熟種子の中の食害種子の割合を調べた。
樹冠下における雌花から種子までの雌性生殖器官の総生産量は、2002年は658.0ー4374.7個/m2、2003年は810.0ー12570.0個/m2であり、いずれの個体も2003年は生産量が多い傾向がみられた。また、結実率は2002年に7.6ー53.8%、2003年は6.6ー28.7%で、個体によるバラツキとともに、全体に2003年が低い傾向がみられた。2002年における充実種子率は42.3ー75.3%で、結実率と同様、個体によってバラツキがみられた。ハナノキにおいて、種子の初期落下やシイナが形成される主な要因は明らかにされていない。周囲の雄個体との位置関係、雄花開花量などを考慮して、個体ごとの充実種子率や結実率について検討した。
P1-094: アコウの一樹冠の遺伝構造
植物と動物の相互関係、特に種子散布に関わる相互関係を遺伝的側面から解析することは、森林生態系における樹木の空間的な遺伝的多様性の維持機構を理解するために重要である。本研究で対象としたアコウ(Ficus superba var. japonica)は、クワ科イチジク属の常緑高木で、いわゆる絞め殺し植物である。屋久島西部においては、通年大量に結実し、ヤクシマザルや各種の鳥類にとって重要な餌資源となっている。同時に、これらの動物は、フンによって種子を散布しアコウの更新や分布に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
アコウ個体群の遺伝的多様性を明らかにするためには、まず1個体を定義することが必要である。しかしながら、絞め殺し植物という特殊な成長様式のため、このことが困難でなる。気根が絡み合い、複数の枝が様々な場所から伸びている外見からは、見かけの1個体が遺伝的にも同一なのかどうか判断が難しい。例えば、同所的に見られるガジュマル(Ficus microcarpa)も絞め殺し植物であるが、アコウにガジュマルが着生していることがあるので、遺伝的には異なる複数のアコウが絡み合って生育することがあり得ると考えられる。外見上の1個体が遺伝的にも1個体であるかどうかを検証することは、アコウの遺伝的多様性を評価する研究をすすめていく上で必須である。
本調査では、屋久島西部におけるアコウの空間的な遺伝的多様性を解析するために、マイクロサテライトマーカーを開発した。次に、アコウの樹形を絞め殺し型(樹木に着生)、岩上型(岩の上に生育)および地面型(地面より直立)の3つに分類し、樹形ごとに一樹冠内における遺伝構造について検証した。最後に、ヤクシマザルのフン塊から発生した実生の遺伝的多様性を分析し、一樹冠内の遺伝構造との関係について考察した。
P1-095: 水生植物タヌキモ類における雑種形成と集団の維持機構
一般に、水生植物は陸上の植物に比べて無性繁殖への依存性が高く、特に浮遊性の水草では、植物体が断片化することによるラメット数の増加や集団内・集団間の移動は、種子に依存するより確実かつ効率的と考えられている。日本に生育する浮遊性の水生植物、タヌキモ類(タヌキモ、イヌタヌキモ、オオタヌキモ)のうち、タヌキモは種子を形成できず、無性繁殖によって集団を維持している。しかし、タヌキモにおける不稔現象の原因や、集団の維持機構についてはほとんど分かっていない。本研究では、交配実験、葉緑体DNA分析、AFLP分析によって、タヌキモの起源と集団の維持機構について検討をおこなった。
交配実験の結果、有性繁殖能力を持つイヌタヌキモとオオタヌキモの間には非対称的な交配親和性があり、イヌタヌキモを種子親、オオタヌキモを花粉親として多数の種子が形成された。また、イヌタヌキモとオオタヌキモは種特異的な葉緑体DNAタイプで識別されたのに対し、タヌキモの大部分はイヌタヌキモ型の葉緑体DNAを持っていた。さらに、イヌタヌキモとオオタヌキモに認められた多数の種特異的なAFLPバンドのほぼ全てが、タヌキモでも確認された。
以上の結果から、1)タヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種第一代である、2)タヌキモの形成はイヌタヌキモ(種子親)×オオタヌキモ(花粉親)の場合が圧倒的に多い、3)雑種起源かつ不稔にも関わらずタヌキモの遺伝子型は集団ごとに異なっており、多様な起源を持つ、ことが明らかとなった。タヌキモ類の生育適地は明らかに異なり、それらが同所的に生育することは稀である。タヌキモがいつ、どのように形成されたのかは不明だが、その後の分布拡大や集団維持には、旺盛な無性繁殖能力と雑種強勢による広範な適応能力の獲得が関与しているものと推察された。
P1-096: 山梨県都留市におけるカワネズミの繁殖、成長、および生残
カワネズミChimarrogale platycephalaは、食虫目トガリネズミ科に属する、数少ない日本在来の半水生哺乳類である。山梨県都留市の山間の小渓流において、この種の生活史に関する調査をおもに標識再捕獲法により行った。今回の発表では、繁殖時期の推定、巣離れ後の成長・生残について報告する。
標識再捕獲調査のために、渓流に沿って1.7kmの調査区を設定した。その調査区において、2000年11月から2004年2月まで、捕獲を繰り返した。捕獲は、毎月3-9回行った。それぞれの捕獲調査では、日の入り前におよそ40個のトラップを調査区河川に設置し、1-2時間おきに見回ってカワネズミの捕獲をチェックする、という作業を日の出まで繰り返した。捕獲された個体は、性別、体重、歯の摩耗度による相対齢を記録し、固有のナンバーを刻印した脚輪により個体識別して、捕獲場所に放逐した。
調査期間中、72個体に標識した。若い個体が初捕獲される時期は、5月と11月にピークがあった。これは本種の離巣時期にあたると考えられ、本種は基本的に春と秋の2回の繁殖期をもつと推定される。ただし、11月のピークは5月のピークより捕獲できた個体数はずっと少なく、春に産まれた個体がその年の秋に繁殖することはないか、あってもわずかであると考えられる。離巣時の体重はおよそ30gと推定され、幼体はその後およそ0.2g/日の速度で成長し、2-3ヶ月で成体と同様の体重に達した。成体の体重は、平均で、メス45g、オス48gであり、オスの方がやや大型になった。離巣後の生残率(生き残って、調査区から移出しない率)は、年10%程度であり、特に冬の減少率が高かった。
P1-097: 餌メニューがオオタバコガ幼虫の体色に与える影響について
オオタバコガHelicoverpa armigeraは、近年の地球温暖化によって、日本でもその被害が拡大している亜熱帯性の重要害虫である。本種は終齢幼虫において体色に顕著な色彩多型現象がみられるが、この体色は飼育密度、温度、日長の影響を受けず、餌条件によって変化することが示唆されてきた。しかし、餌条件がどのように関与しているかについては具体的には明らかになっていない。さらに、体色による幼虫期間、生存率、蛹重などの形質にも差がみられず、それは中立的な形質であるとみなされている。このように、本種における色彩多型には、未だに解明されていない点が多い。加えて本種は広食性であることが知られており、栽培植物だけでも49科以上、約160種近い寄主植物が報告されている(Zalucki et al, 1986)。
本研究では、オオタバコガの広食性に着目し、さまざまな餌植物と幼虫体色との関係について検証した。その結果、与えた餌植物によって体色の発現頻度が異なり、同一の植物でも摂食する部位により体色が大きく異なることが示された。また、実験に用いた植物に共通して、果実部を与えたものは茶色、葉や花を与えたものは緑色の体色のものが多く出現し、幼虫は摂食部位の色に近い体色を発現する傾向があることが示唆された。さらに、与えた餌植物やその部位によって、幼虫期間、蛹重、生存率などに大きな違いがあり、餌メニューが幼虫の体色の違いだけでなくパフォーマンスにも影響を与えていることが確認された。
このように本種の終齢幼虫は、利用する植物やその部位に似せて体色を変化させることで、鳥などの捕食者に対して目立ちにくくなっている、つまり隠蔽色として機能している可能性が高いと考えられた。
P1-098: 日本産エンレイソウ属植物の開花フェノロジーの違いによる交雑の方向性
エンレイソウ属(Trillium )は北米および東アジアに生息域を持ち、北海道には9種が生育している。北米種が全て2倍体であるのに対し、日本産エンレイソウ属には、著しい倍数体が存在しており、これらはエンレイソウ(T. apetalon )、ミヤマエンレイソウ(T. tschonoskii )、オオバナノエンレイソウ(T. camschatcense )の3種を基本種とした雑種および倍数化により形成されていることが染色体の研究から明らかになっている。しかし、自然野外集団における雑種形成の要因や過程に関する生態遺伝学的研究は少ない。そこで、今回は、野外自然集団における基本3種間の交雑親和性と雑種の母系構成を明らかにし、雑種形成の一要因と考えられるフェノロジーとの関係について研究を行った。
基本3種が生育する千歳において、3種それぞれを種子親・花粉親とした種間交雑実験を行った。その結果、全ての種間において高い交雑親和性が認められた。一方、種間雑種の開花個体における葉緑体DNAを用いて母系分析を行った結果、オオバナノエンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であるシラオイエンレイソウ(T. hagae )では、全ての個体でオオバナノエンレイソウ型、エンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であるヒダカエンレイソウ(T. miyabenum )では全てミヤマエンレイソウ型というような一定の規則性が見られた。
自然野外集団の開花フェノロジーをみると、エンレイソウ、ミヤマエンレイソウ、オオバナノエンレイソウの順で開花しており、各雑種のDNA分析で種子親とされた種が、親種2種のうち、より開花の遅い方の種であることが示された。さらに、開花個体の分布様式についての分析を行った結果などから、開花フェノロジーによる花粉移動の方向性が、雑種形成の重要な要因であることが示唆された。
P1-099: ヒメシャガにおける花被片間の機能的分化
花弁や花被片などの誘引器官の多様性は、それぞれの植物が効率的な送受粉のために進化させてきた結果である。このような花弁(花被片)の多様性と進化を理解するためには、それぞれの花弁(花被片)に対する選択圧を検出する必要があると考えられる。
本研究では、大きさと形の異なる花被片(外花被片と内花被片)をもつヒメシャガ(アヤメ科)を材料に、花被片間の機能分化と各花被片に対する選択圧の違いを明らかにすることを目的とした。そこで2003年仙台市青葉山のヒメシャガ集団において、個体ごとに各花被片の長さを人為的に処理して、送粉者の訪花頻度と送受粉数/訪花、そして最終的な雌雄繁殖成功の指標として送粉数/花(雄繁殖成功)と種子数/花(雌繁殖成功)を調査した。
その結果、外花被片と内花被片間には雌雄機能への貢献度と選択圧に違いがあった。外花被片は雌雄機能に貢献しており、現在の長さが適応的であった。一方、内花被片は雄機能のみに貢献しており、ある程度短くしても送粉数が減少しないため、現在よりも短い長さが適応的であった。また内花被片が適応的な長さに進化しなかったのは、外花被片と内花被片間の遺伝相関などの制約によるものかもしれない。花弁(花被片)にみられる多様性は、各花弁(花被片)に対する選択圧の違いとその間の制約により進化してきたと考えられる。
P1-100: 翼のかたちが散布を決める!_-_ヤチダモ種子の画像解析と散布実験から分かったこと_-_
北海道の水辺林の主構成種であるヤチダモは,翼のある大型の種子をつける.ヤチダモ種子は,母樹間でその大きさやかたちが大きく異なることから,母樹によって散布パターンが異なる可能性がある.そこで,本研究では,ヤチダモの母樹間で種子の飛翔能力に違いがあるか,また,どのようなかたちの種子がより飛翔するかを解明するため,9母樹から採種したヤチダモ種子の人工散布実験を行なった.散布実験の前に,各種子の重さと面積を測定した.種子のかたちについては,形状解析ソフトウエアSHAPEを用いて,デジタル画像から種子の輪郭を抽出し,楕円フーリエ記述子(EFD)により定量化した.さらに,EFDの主成分分析により,種子の長軸に対して対称な変異と非対称な変異について別々の主成分を求め,主成分スコアをかたちの特徴値とした.人工散布実験では,8.3mのタワーから各母樹10個の種子を1つずつ散布し,各種子の飛翔時間と飛翔距離を測定する実験を5回繰り返した.分散分析の結果,種子の重さ,面積,形の対称成分,飛翔時間は母樹間で有意に異なっていた.そこで,種子の飛翔時間を目的変数として重回帰分析を行った結果,面積,重さ,形の主成分として対称成分のAP3,AP5,非対称成分のBP3が有意な相関が認められた.特に,AP3は種子のかたちの変量としては7%程度と小さいにもかかわらず,飛翔時間と強い相関が認められ,種子の両端が尖るほど飛翔時間がより長くなるという興味深い傾向が検出された.この成分では母樹間の違いが高度に有意であったことから,強い遺伝的支配が示唆される.以上の結果から,森林内において飛翔により有利なかたちの種子をつける母樹が,実際により広範囲に種子散布を行っているかについて,今後明らかにする必要がある.
P1-101: 外来種フタモンテントウの日本における分布状況と在来テントウムシとの関係
フタモンテントウ(〈I〉Adalia bipunctata〈/I〉)は、1993年に大阪市南港において日本で初めて発見され、外来種と考えられている。1993年以降これまで発見地を中心に継続的に調査を行ってきた。本研究では発見地および周辺の公園・緑地等において、侵入後の分布や生活史、在来テントウムシとの種間関係を調査した。分布については、最初の発見地である南港中央公園(350m×500m)において発見以来ほぼ毎年発生が確認されているが、他の場所では2001年まで発生がみられず、分布の拡大は起こっていないと考えられた。しかし、2002年には2から3kmほど離れた2ヶ所で発生がみられるようになり、2003年には新たに2ヶ所で分布が確認された。2004年には南港地区(約3km四方)のほとんどの調査地で発生が確認され、南港以外の大阪府内や、約20km離れた兵庫県神戸市でも発生が確認された。発生密度は南港中央公園で最も高く、そこから離れるに従って減少する傾向にあった。したがって、南港中央公園が最初の侵入地で、発生の中心と推察された。この2から3年で分布がかなり広がり、さらに飛び火的に拡大する傾向にあると考えられる。種間関係については、フタモンテントウと同じ樹上(シャリンバイやトウカエデ)に生息する在来種ナミテントウとの個体数関係を中心に調べた。その結果、フタモンテントウの生息密度が高い地域の方が低い地域よりもナミテントウの個体数の割合が低い傾向がみられ、フタモンテントウの個体数増加や分布拡大はナミテントウやダンダラテントウ等、在来テントウムシの生存に影響を与えつつあると推察される。
P1-102: 雌雄異株性樹木オノエヤナギにおける性比の偏りがメスの繁殖成功に与える影響
雌雄異株性植物個体群におけるメス・オスの個体数比(性比)は各個体の繁殖成功、ひいては適応度を決定する重要な生態学的要因である。一般に植物における個体の繁殖成功は周囲の異性個体の頻度や異性個体までの距離に依存する。もし個体群における性比に偏りが生じている場合には、メスとオスの間で繁殖成功や適応度に頻度・距離依存的な差が生じ、多数を占める性をもつ個体(メスが多ければメス、オスが多ければオス)に不利益が生じるだろう。このため、進化的な観点では、頻度・距離依存的な繁殖成功の制限が十分に強く働くなら性比の偏りは解消されてしまい、恒常的な性比の偏りは生じにくいと考えられる。しかしながら、いくつかの雌雄異株性植物においては性比の偏りが観察されている。例えば、冷温帯から亜寒帯にかけての河畔に生育するオノエヤナギは、雌雄異株性樹木であり、他のいくつかのヤナギ属樹木と同様に個体群の性比が強くメスに偏ることが報告されている。このような性比の偏りが維持されるメカニズムを明らかにするためには、各個体の繁殖成功に対し性比の偏りがどの程度の影響を与えているかを明らかにする必要がある。
オノエヤナギは河川攪乱に依存し河畔に侵入する先駆性樹木である。河畔ではオノエヤナギのような先駆性樹木が個体数の異なる小集団を形成し、パッチ状に分布している。小集団を構成するメスにおける最近接オスまでの距離や周囲のオス密度は各パッチの性比に依存する。各小集団における性比は、小集団の個体数が少ないほどばらつくため、メスにおける最近接オスまでの距離や周囲のオス個体密度にかなり大きな変異が見られる。
本研究では、個体群内におけるメスへの性比の偏りが、オノエヤナギメスにおける繁殖成功にどのように影響するかを明らかにするため、メスの結実率と最近接オスまでの距離・周囲のオス密度の関係を明らかにした。
P1-103:
(NA)
P1-104: 森林の分断化がホオノキの結実率に与える影響
森林の分断化などの人為攪乱が、樹木の個体群や遺伝的多様性におよぼす影響には、繁殖個体の空間分布の変化という直接的な影響と、生物間相互作用を介した間接的な影響がある。繁殖に関わる様々な動物群との生物間相互作用系の変化は、例えば送粉・種子散布者の個体数の減少や絶滅、送粉者群集の多様性の喪失などを介して、間接的に樹木の繁殖成功や実生・稚樹の分布、最終的には次世代の個体群構造や遺伝構造に影響する。本研究では、冷温帯落葉広葉樹林で低密度な個体群を維持しているホオノキ(虫媒)に着目し、森林の分断化が樹木の繁殖過程に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査は、小川群落保護林とその周辺地域で行った。調査地とした約2km×3kmのエリアには、面的に残された約100haの天然林(保護林)と人工林などによって魚骨状に分断化された約30haの天然林(保残帯)・人工林・二次林・農地などさまざまな景観が含まれる。調査地ほぼ全域を踏査しホオノキ個体の分布図を作成し、開花期には、繁殖の有無を確認した。保護林と保残帯で周囲繁殖個体密度が低い個体から高い個体まで含むように、それぞれ14個体を選定し、果実を各個体3_から_32個採取した。採取した果実から成熟種子・虫害種子・未成熟種子・その他を取り出し、それぞれの個数を数え、受精率、虫害率、結実率を算出した。
保護林と保残帯では、受精率、虫害率、結実率の平均値に有意な差は見られなかった。保残帯では、周囲200mの周囲繁殖個体密度と受精率・結実率の間に有意な正の相関が見られた。一方で、保護林では、個体密度と受精率・結実率の間に有意な相関は見られなかった。虫害率は、保護林と保残帯ともに個体密度と有意な相関は見られなかった。保残帯では、個体密度の減少は、受精率の低下を引き起こし結実率が低下するが、保護林では個体密度の影響は受けないことが示唆された。このような違いは、訪花性昆虫の個体密度や行動様式(訪花頻度や行動範囲)が分断化によって変化することが原因なのではないかと考えられる。
P1-105: 越冬条件がムカゴトラノオの発芽と成長に及ぼす影響
ムカゴトラノオは極域から温帯の高山に広く分布するタデ科の多年生草本である。結実が非常にまれであるため,むかごの発芽・定着が本種の個体群維持には必須である。この研究では,野外で予想される越冬時の環境を実験的にむかごに経験させ,その間の生存率,および翌春の発芽特性を比較した。
2002年7月下旬から8月中旬にかけてノルウェー領スバルバール諸島の4地点,合計9集団からむかごを採集した。むかごには色変異があるため,同じ地点でも色が異なる場合は別の集団として扱った。採集したむかごを温度(-5°C,-25°C)と水分条件(乾,湿)を組み合わせた4条件で保存し,翌年5月に発芽実験に用いた。-25C湿条件で保存したむかごでは,観察による生死の判別が困難であったため,一部のむかごを用いてTTCテストを行った。発芽実験は,温度(5°C,5°C /15°C変温,15°C)と光(明,暗)を組み合わせて行い,発根と展葉の有無を1週間おきに4週目まで記録した。ただし暗処理のむかごについては4週目の観察のみとした。
保存中のむかごの生存率は,-25°C湿条件では非常に低く,4集団ではすべてのむかごが死亡した。一方で他の3条件で保存したむかごは99%以上が生存し,発芽条件によらず4週目までには,ほぼ100%の発芽率に達した。ただし5°Cでは他の温度に比べて発芽が遅れ,その傾向は乾燥保存したむかごで顕著であった(-5°C,-25°C共に)。乾燥保存したむかごの中には,5°Cでは発根のみで展葉しない個体もみられた。-25°C湿条件下での生存率や5°Cでの発芽速度において,集団による変異の存在が示唆された。
P1-106: アユモドキの産卵環境と仔稚魚の分布
アユモドキLeptobotia curtaはドジョウ科に属する日本固有の純淡水魚である.琵琶湖淀川水系と岡山県の数河川にのみ生息するが,近年どの生息地においてもその減少が著しく,国の天然記念物,環境省のレッドリストの絶滅危惧IA類に指定されている.そこで,保全のための基礎資料を得ることを目的とし,繁殖生態に関する研究を行った.今回はその中の産卵環境と仔稚魚の分布について報告する.
仔魚,稚魚の捕獲はタモ網を用い,そこに生息する魚種がもれなく確認でき,かつ攪乱が大きくなりすぎないように配慮し,地点ごとに調査時間を設定して行った.そのデータと,調査時に測定した水深や流速,植被率等の環境のデータをもとに分布に影響する環境要因を解析した.また,目視観察により産卵行動の調査を行い,仔魚の確認された環境とあわせて産卵環境の把握に努めた.
その結果,アユモドキの産卵環境は灌漑開始前には陸上の植物が繁茂し,灌漑開始後はそれらが水に浸かる,流れのほとんどない泥底の一時的水域であった.また,それらは水深20cmから50cm程度ではあるが,恒久的水域から容易に進入できる地点であった.卵や仔魚は流れに対する抵抗力が非常に弱いので,流れがほとんどないことは必要な条件だと考えられる.また,植生が豊富であることは,降雨等の増水時に流されたり,進入してきた捕食者から発見されたりする確率を低下させると考えられる.
稚魚は仔魚とは異なり,比較的流れがあり,底質に砂礫を含む地点で多く確認された.流れがあるということはそこに水の供給があることを意味する.安定した水域を求め移動分散する過程の中でそのような流れを目安にしていることが考えられる.また,成長に伴う食性の変化や岩陰等に隠れる習性の発現等も,移動分散に影響しているものと考えられる.
P1-107: アオダモ局所個体群の性比と種子の性質
2002年は北海道内では各地でアオダモが同調して豊作年となったように観察され,林木育種センター北海道育種場構内(北海道江別市文教台緑町)でもサイズが極端に小さい個体を除いてほぼ全個体が開花した。調査地は大きな沢と平坦地の針葉樹人工林に挟まれた帯状の斜面で,花粉の交流は流域毎に行われているのが大部分と想定されたので,小さな流域毎にAからHの9局所個体群に分けて行った。雌雄の調査は5月に、秋に配置図により,雌孤立個体,雌雄隣接個体,林縁個体,樹冠下個体など環境を考慮して21個体から枝を切り落として果実を採取し、25粒を抽出し,軟X線装置を使用して種子の内部形質を調べた。
結果:雄123,雌196株が確認できた。雌の平均胸高直径は11.9cm,樹高8.2m,雄の平均胸高直径12.2cm,樹高8.1mであり,分散分析の結果では差がなかったが,頻度分布図では雄の胸高直径のピークが雌より3cm大きいところにあった。性比が1:1と仮定した場合のカイ二乗検定結果では,集団全体とE,F局所個体群が棄却され,雄の比率が雌より多いことが確かめられた。調査個体数が少ないH,I以外について検討すると,A,B,C,Gは雄が多く,Dだけが雌が多かったが,いずれも有意ではなかった。個体サイズはB,C,Dがほかよりも小さかった。またFでは雌サイズの平均が雄サイズよりも小さがったが統計的には有意でなかった。種子の充実率は76から100%で、調査地ではサイズの小さい個体を除いて全ての個体が同調して開花したことにより,雄雌個体が隣接していなくても,孤立していても周囲から花粉が飛散,もしくは訪花昆虫により交流は広範囲におこなわれていると予想された。また種子に幼虫の入っていたもの、穴があき幼根部分が被害を受けているものも観察された。
P1-108: 多雪地ブナ林における樹木群集のリーフフェノロジー
多雪地ブナ林において残雪や林分構造が樹木の葉フェノロジーに与える影響を明らかにするために,樹木群集を対象に冬芽から落葉までのフェノロジーのパターンを解析した.調査地は長野県木島平村カヤの平ブナ林で,ブナが圧倒的に優占する典型的な日本海型ブナ林の様相を示す林分である.フェノロジー調査は1999年4月下旬から12月上旬にかけて,当林分に設置した100m四方の方形区内の直径5cm以上の生存樹木全て(全19樹種,550本)について行った.葉群の観測は約1-4週間間隔で樹幹ごとに行い,各観測日には葉のステージ(冬芽から落葉までを7段階に区分)と,最も早いステージにある葉の樹冠あたりの割合(4段階に区分)を記載した.
ブナは4月下旬の残雪期,高木の個体群(樹高18m以上)が開葉し,続いて亜高木(樹高5-18m)が開葉した後,低木(樹高5m未満)が5月上旬にかけ消雪に伴って開葉し始めた.結局,ブナの低木全てが完全に開葉したのは高木全てが完全開葉した約10日後の6月中旬であった.ブナの紅葉(黄葉)も低木より高木の方がやや早く,それは9月下旬に始まった.しかし落葉期は階層間で顕著な差異はなかった.一方,本数でブナに次いで優占していたテツカエデやハウチワカエデについてみると,開葉の季節パターンはブナと類似していたが,紅葉および落葉時期はブナよりも概して早かった.
以上から多雪地ブナ林では,下層木の開葉が残雪の影響で高木よりも遅れ,さらに樹木群集全てが完全に開葉を完了するまでには約2ヶ月間を要することがわかった.また,ブナの着葉期間は他樹種よりも平均して長かったが,これはブナが多雪環境下でも効率よく生育できるような光合成期間を有していることを示唆している.したがって,こうしたフェノロジーのパターンもまた多雪地特有の純林状のブナ林の更新維持に重要な役割を果たしていると考えられた.
P1-109: トチバニンジン(ウコギ科)における繁殖特性の集団間比較
植物の生活史での各生育ステージは個体群での繁殖と密接に関わっている。生育ステージの移行は、繁殖での性資源配分に大きく関与する一方で、生育環境に影響されていることが知られている。両性花植物における性機能の揺らぎや性機能調節の実態を理解していくためには、生活史の発育ステージでの性資源配分の違いを明らかにし、その地域特性を考慮しながら、各生育ステージでの繁殖成功を制限する要因を結びつけて解析を行っていく必要がある。本研究で扱うトチバニンジンはウコギ科の林床性多年生草本で、花は両性花であるが、結実率の異なる5タイプの花をつける。開花ステージには主軸の花序のみをつけるT-stageと主軸と側枝に花序をつけるL-stageの2ステージがある。本研究では、トチバニンジンの繁殖特性特に資源配分に注目し、その地域特性を明らかにするため、生育ステージの移行と資源投資量の指標であるサイズと種子生産の関係を、能勢(大阪府)・美山(京都府)・上市(富山県)の3集団で比較した。また、能勢集団を用い除花・強制授粉実験を行い、種子生産の制限に資源制限と花粉制限のいずれが各発育ステージで関与しているのか調べた。その結果、次のことが明らかになった。1)各集団におけるサイズ分布は異なり、特に上市集団の開花ステージへの移行が、能勢・美山集団よりも著しく大きいサイズで行われていた。2)トチバニンジンの資源投資は、生育ステージによって異なることが明らかになった。能勢集団で、T-stageは、サイズの増加に対して花数を変化させず、花型をトレードオフさせることにり結実率を上昇させていた。L-stageでは、主軸の花序と側枝の花序で異なるサイズとの反応を示し、その両者の組み合わせで個体レベルの種子生産性を高めていた。他の2集団では、各生育ステージの反応は多少異なっていた。3)トチバニンジンの種子生産を制限する要因には、花粉制限ではなく資源制限が関与していることが明らかとなった。どの生育ステージにおいても、花数の人工的減少に対し、残りの花のタイプの割合を変化させず、結実率を上昇させることで種子生産の不足を補っていることが判明した。
P1-110: アオモリトドマツの球果生産が当年枝伸長量に及ぼす影響について
木本植物では有性繁殖を2、3年から数年に一度行う種がある。このような種においては、繁殖器官と栄養成長に光合成産物を同時に分配する結果、有性繁殖している年の当年枝への光合成産物の分配量が繁殖していない年より低い可能性がある。一方、同じ個体においては、元々の当年枝のサイズが部位ごとに異なる。このため、有性繁殖が当年枝成長量に及ぼす影響は、樹冠における当年枝の位置によって異なるかもしれない。
アオモリトドマツは2〜数年に一度球果を生産する。円錐形の樹冠を形成し、ターミナルリーダーと一次枝(幹から直接出る枝)の主軸が明瞭である。本研究では、(1)球果の成長と当年枝の伸長の生物季節を確認し、(2)樹冠上部の球果数が当年枝の伸長量に及ぼす影響について、痕跡による経年変動データをもとに解析した。
当年枝の伸長と球果の成長の生物季節については、岩手山付近で観察した。
経年変動の調査は八甲田山の亜高山帯下部で行った。対象とした当年枝はターミナルリーダーと一次枝の主軸である。なお、幹から直接伸長した当年枝(枝階1)は幹に埋没するため解析対象から除き、幹から出現後1年(枝階2)から5年(枝階6)経った一次枝先端の当年枝を対象にした。経年変動の解析は1975年から1990年を対象にした。
生物季節において、当年枝の伸長は常に球果の成長以降に開始していた。
当年枝長は、ターミナルリーダー、枝階2の主軸、枝階3〜6の主軸の順で長かった。球果数と当年枝長の関係では、ターミナルリーダーと枝階2の当年枝のみにおいて有意な負の相関が検出された。一方、球果数と当年伸長/前年伸長比の関係では、どの部位においても有意な負の相関が検出されたが、ターミナルリーダーや枝階2の当年枝で顕著だった。
球果生産は、ターミナルリーダーや先端付近の当年枝など、サイズの大きい当年枝の伸長に影響を及ぼしやすいことが示唆された。
P1-111: 奥日光ミズナラ天然林における稚樹と堅果の推定花粉親の比較
天然林内でのミズナラの繁殖特性を明らかにするために、林内に分布する稚樹や採取した堅果から得られた苗を対象にDNAのマイクロサテライト(SSR)マーカーを用いて、雌性親と花粉親の推定を行った。
調査は、日光国立公園内、西ノ湖湖畔のミズナラを主体とした天然林内で行った。この天然林内に250m×150mの調査区を設定し、調査区のほぼ中央に位置する林冠木を中心にして20m×20mのサブプロットを設定した。調査区内の全ミズナラ林冠木(85個体)、サブプロット内の中央部に生育する稚樹(122個体)および2年前にサブプロット内の中央部から採取した堅果を播種し、温室内で養苗している稚樹(360個体)について成葉を採取し、全DNAを抽出した。5種類のSSRプライマーを用いてDNAを増幅し、シークエンサー(ABI社製PRISM3100Genetic Analyzer)と付属ソフト〈genotyper〉を用いて遺伝子型を決定した。
遺伝子型から稚樹の両親の推定を行ったところ、両親候補とも調査区に存在するグループ、片親候補のみが存在するグループおよび両親候補とも存在しないグループに分けられた。天然林内の稚樹も温室内の稚樹も、ほとんどが調査区内に片親候補のみが存在するグループだった。花粉と堅果の分散のしやすさを考慮すると、調査区内に存在しない親候補は花粉親の可能性が高いと考えられる。調査区外から飛来した花粉が、当調査地内のミズナラの次世代の生産に大きく関与していることが示唆された。また、各グループ間で稚樹の苗高に有意差は認められなかった。
P1-112: 個体識別法によるメダカの生態調査ー移動と成長の個体変異ー
本研究の目的
メダカOryzias latipesの主要な生息地である水田地帯は、水路が複雑に連絡している上、季節的な変動も大きい。このような環境の中で、メダカがどのような生活を送っているのかを、個体ごとに異なるマークを施して識別し、再捕獲によって移動や成長を追うことによって、個体レベルで明らかにすることを試みた。
調査場所と方法
青森市の水田地帯にある水路からメダカを採集して、蛍光エラストマーを用いて個体ごとに異なるマークを施した。370個体を5月に現地に放流し、以後8月まではほぼ毎週、6ヶ月以上にわたって再捕獲を行って個体ごとの移動や成長を調べた。
結果
移動の個体変異
370個体のうち、少なくとも1回は再捕獲されたものは175個体であった。そのうち、4回以上再捕獲された15個体について検討したところ、「水路から別の水路へ頻繁に移動する個体」と「あまり移動しない個体」とに分けることができた。この違いはオス・メスに関連しておらず、むしろ放流時の体サイズに関係がある。「頻繁に移動する個体」は放流時の体サイズが小さく、「あまり移動しない個体」は放流時の体サイズが大きい傾向があった。
成長と寿命の個体変異
放流時の体サイズが小さな個体は、その後の成長が、とくに5月・6月に速いが、放流時のサイズが大きな個体は成長が遅い。8月以降まで生残が確認された個体は、オスの場合には放流時の体サイズが小さな個体が多かったのに対して、メスの場合には逆に、8月以降まで生残の確認された個体は、放流時の体サイズの大きな個体が多かった。
P1-113: 種子のギャップ検出機構はそれらの適応度に常に貢献し得たのか?
種子のギャップ検出機構は、実生の定着に適さないミクロサイトでの無駄な発芽を抑制し埋土種子集団として土壌中での永続性を獲得するための機構であり、発芽に好適なタイミングの検知に導く。そのため、この機構は種子植物の適応度を高めることに貢献すると考えられているものの、ギャップとの結びつきの強い植物でさえもこの機構をもたないという現象も見られる。そこで、ギャップ検出機構をもつ植物(あるいはもたない植物)が他種植物と種間競争をしながら生育する状況を模した単純なモデルを想定し、ギャップ検出機構をもたないことが最適戦略となるような条件を検出することにより、ギャップ検出機構をもつことの生態学的意義を再検証するためのコンピューター・シミュレーションを試行した。その結果、ギャップ検出機構を獲得することは必ずしも適応度を高めることではなく、攪乱頻度や定着に不適な条件の発生頻度が高まるほど、ギャップ検出機構を獲得せずに確率的な埋土種子集団を形成することが最適戦略となる頻度が上昇する。種子の永続性そのものを獲得することは、攪乱などの予想不能な事態に対する適応の結果であり、攪乱頻度が高かったり定着に不適な環境であったりするほど獲得されるものであるものの、その永続性に対するギャップ検出機構への依存度は小さくなり、休止などによる他の機構への依存性が相対的に強くなる。そのため、ギャップ検出機構を獲得することの実際の選択性は、種子の永続性とそれに対するギャップ検出機構への依存性の相互作用により決定され、中程度の攪乱頻度のハビタットにおいてギャップ検出機構を獲得する選択圧が最も高まる。加えて、単純な永続性と同様にギャップ検出機構においても種子散布距離に対するトレードオフが存在するため、短距離散布しか行えない種においてギャップ検出機構はより重要な発芽戦略であり、そして種間競争に弱い場合はさらにその重要性は増す。
P1-114: 風散布植物センボンヤリの繁殖戦略 - 閉鎖花/開放花に由来する二型痩果の役割 -
本研究では、閉鎖花・開放花に由来する二型痩果を付ける多年草の風散布植物センボンヤリ(キク科;Leibnitzia anandria (L.) Turcz.)を対象に、植物の繁殖システムと種子散布様式における、閉鎖花/開放花に由来する痩果の二型の役割を明らかにすることを目的とし、センボンヤリの種子散布におけるNear and far dispersal modelの妥当性を検討することで、集団の維持に閉鎖花由来種子と開放花由来種子がどのような条件でどの程度貢献しているかを調査した。六甲山および金剛山の各3集団を対象に行った。痩果の二型性を示すために痩果間の形態差の定量化と散布能力の比較、二型痩果の集団の遺伝構造に対する影響を明らかにするためにAFLP解析を行った。
痩果の散布に関わる形態である冠毛長や冠毛の外径を調べた結果、開放花由来痩果よりも閉鎖花由来痩果のほうが長かった。落下速度実験および野外での痩果散布実験の結果、閉鎖花由来痩果のほうが開放花由来痩果よりも散布距離が長いことがわかった。また、集団内の遺伝構造は見られなかった。これは痩果が広範囲に散布されているためだと考えられた。これらの結果からセンボンヤリはNear and far dispersal modelとまったく逆の現象を示していた。
センボンヤリにおいて、自殖個体を遠くに散布し他殖個体を近くに散布することの意義として、兄弟間競争の回避が考えられた。
P1-115: エゾアカガエル(Rana pirica)の繁殖期の年変動
エゾアカガエルの繁殖時期を1995年_から_2004年にかけて調査した。調査地点は2地点で、北海道札幌市の北海道東海大学敷地内の林地にある沢周辺および札幌市南部の丘陵地域に入った中ノ沢の砂防提が形成する湿地である。大学林地における初産日は4月4日から4月16日のあいだで変化し、終産日は4月15日から5月3日であった。産卵期間は7_から_26日間であり、産卵期間が長かった年には大雨による水量増加や降雪による一時中断があった。大学林地では、調査開始の初期は水路や人工池に多数の産卵が見られたが、最多359卵塊(1996年)から減少して2004年にはひとつの水たまりで12卵塊の産卵がある程度となった。これは人工水路、人工池での生育が困難であったことが主な要因と考えられる。
中ノ沢では、1995_から_1997年と2002年については産卵数のみの調査となり、繁殖経過はそれ以外の6年のデータである。初産日は4月6日から4月17日、終産日は4月26日から5月4日で変化した。産卵期間は11_から_21日間となった。中ノ沢は、特に人為等の影響は見られなかったが、最多295卵塊(1995年)から減少傾向にあり、2004年は56卵塊の産卵が見られただけとなった。
エゾアカガエルは、昼間繁殖と夜間繁殖を行う。大学林地では初期の年度は昼間繁殖が主であったが、その後夜間繁殖のみになった。中ノ沢では、調査期間を通して昼間繁殖が主であり、その年の繁殖時期後期になると夜間繁殖が見られるようになる。繁殖時期は水温の上昇とともに開始する傾向が見られるが、夜間繁殖である大学林地の繁殖開始時期よりも昼間繁殖である中ノ沢の繁殖時期のほうが水温がやや低い。これは日照のもとで繁殖活動を活発に行う昼間の行動と関係すると考えられる。
P1-116: ヨツボシモンシデムシの繁殖における雄の役割
亜社会性昆虫のモンシデムシ類は両親で子の世話をする。しかし、雄の子の世話の意義については十分解明されていない。本研究の材料としたヨツボシモンシデムシでは、資源量が最適な場合は雌雄とも子の世話をする。一方資源量が少ない場合、資源処理は雌雄共同で行うが、その後の給餌は雌が単独で行うことがある。
雌が単独で給餌を行う理由として以下の4つの仮説が考えられる。
(1)資源量が少ない場合、雄の摂食行動は幼虫の餌不足をもたらす危険があるため、雌が雄を巣から追い出す。
(2)雄の摂食行動が幼虫の餌不足をもたらさないとしても、資源処理行動をあまり行わない雄を雌が巣から追い出す。
(3)雌の産卵数が少ない場合、投資に対する利益が小さいため、雄は給餌という投資を放棄し、巣から去る。
(4)投資に対する利益とは無関係に、資源量が少なく、幼虫数が少ない場合、雌単独給餌だけで幼虫の高い生存率が確保できるため、雄は給餌せずに巣から去る。
そこで、本研究では資源量が最適な条件下(資源量25g区)と不足する条件下(資源量10g区)で資源処理行動を測定し、仮説を検証した。雄の摂食量には資源量10g区の雌単独給餌、雌雄共同給餌および25g区の雌雄共同給餌の間で有意差はみられなかった。したがって仮説(1)は棄却された。資源量10g区では、雄の資源処理時間が雌単独給餌の方が雌雄共同給餌の場合より短かったが、雌の雄への攻撃頻度は雌単独給餌と雌雄共同給餌の間で有意差はみられなかった。また雄が巣に留まって給餌を行うか否かは、雄の意志決定(decision making)によることが判明した。したがって仮説(2)は棄却された。資源量10g区では、産卵数と幼虫の生存率には雌雄共同給餌と雌単独給餌の間で有意差はみられず、仮説(3)は棄却されたが、仮説(4)の可能性が示唆された。
P1-117: 雌雄同株から雌雄異株への進化条件
種子植物の7割以上の種は雄機能(花粉etc.)と雌機能(胚珠etc.)をあわせ持つ両性個体であるが、雄個体・雌個体に分かれている雌雄異株や、雌個体と両性個体が共存する雌性両全異株、雄個体と両性個体が共存する雄性両全異株など、その繁殖様式はさまざまである。これには古くから多くの研究者が興味をもってきたが、その進化条件や過程についての統合的な理解は得られていない。これら繁殖様式の違いは雄機能・雌機能への資源分配様式の違いとみることができ、雄機能及び雌機能を通じて得られる適応度が投資量に対してそれぞれどのように変化するかによって資源の分配比が決定すると考えられている。この仮説 に基づいてさまざまな考察がなされているが、現在までの研究は定性的なものにとどまっている。これは雌機能、または雄機能を通じて得られる適応度を計測するための手法が確立されておらず、定量的な議論をすることが非常に困難なためである。私は、定量的な議論が可能なモデルを考案し、それに基づいた考察を行った。このモデルではランダムに交配がおこることと、柱頭に付着した花粉同士が胚珠をめぐって確率的に競争することを仮定している。被子植物においては、数々の繁殖様式は両性から進化したと考えられているので、はじめに両性個体であるという条件のもとでESSを求めてみた。すると、ESSに達している両性個体集団には他のいかなる繁殖様式をとる個体も侵入し得ないことが示された。これにより、両性以外の繁殖様式をとる個体が侵入するためには、環境の変動が不可欠であることが示唆された。
P1-118: 雑種タンポポは親よりも早く成長するか?_-_乾燥土壌耐性と資源分配の違い_-_
2倍体在来種とセイヨウタンポポとの交雑から生じる雑種タンポポは、遺伝マーカーにより4倍体雑種と3倍体雑種、雄核単為生殖雑種の3タイプに分類が可能であり(2000年芝池ら)、さらに分布調査からセイヨウタンポポよりも雑種(特に4倍体雑種)の頻度が高かった。このような頻度の差が生じる原因のひとつとして、生活史初期の解析から種子発芽特性や実生期の高温耐性などの違いが示唆された(2003年保谷ら)。雑種頻度が増加するメカニズムを生活史の各段階ごとに比較することを目的として、本研究では実生期以降に着目し、幼植物体期の乾燥に対する耐性、発芽後約1年間の植物体の乾燥重量などに基づく成長量の比較を行った。
本葉が2から3枚展開した幼植物体を用いて、3段階の土壌水分条件下で生残率と個体の乾燥重量を測定した。その結果、いずれの条件下でも生残率に差はなかった。個体の乾燥重量については、すべての条件下で4倍体雑種が他のタイプに比べて重く、本葉展開後の成長量が大きいことが確認された。
発芽後1年間の約1ヶ月ごとの成長量を乾燥重量などに基づいて比較した結果、(1) 根際直径は、どのタイプでも月ごとに大きくなった。花期以降を比較すると、(2) ロゼットサイズと葉数は、在来種以外は増加する傾向があり、また、(3) 地上部の成長は4倍体雑種と雄核単為生殖雑種で大きく、地下部は在来種で大きくなる傾向があり、在来種とそれ以外のタイプでは、地上部と地下部の比率が異なっていた。
以上のことから、4倍体雑種はセイヨウタンポポに比べて、より乾燥した環境下でも本葉展開後の成長量が大きくなり、また花期以降も地上部が減少しないことから、光合成産物が夏の間にも蓄積される可能性がある。これらの特性により、裸地などの都市的な環境下で4倍体雑種がセイヨウタンポポよりも頻度が高くなる可能性が示唆された。また花期以降の地上部・地下部の比率の違いと自生地との関係についても考察を行う。
P1-119: ブナのマスティングはなぜおこるのか_-_受粉効率仮説と捕食者飽食仮説の検証_-_
マスティングにおける受粉効率と散布前の捕食者飽食を検証するために、北海道南西部の5つのブナ林における種子生産量(1990-2002年)のデータ解析を行った。ある年の充実種子率は、「開花量」→「受粉率」、「被食回避率」という関係と「開花比(当年の開花量/前年の開花量)」→「被食回避率」という2つ関係によって導かれる、という仮説を立て、パス解析を行った。その結果、ブナの充実種子率は受粉効率と捕食者飽食の両方を含んだモデルによってもっともよく説明された。それに対して、受粉効率と捕食者飽食のどちらかだけのモデルでは充実種子率は説明できなかった。
次に、種子生産の変動が受粉効率と捕食者飽食を通じて、繁殖成功にどのように影響しているかを調べるために、Kelly&Sullivan(1997)によって開発されたシュミレーションモデルを使った。種子生産の変動係数(CV)の増加による捕食者飽食の変化率は、受粉効率の変化よりも大きかった。受粉効率の利益はわずかな増加にとどまったが、一方、捕食者飽食の利益はCV0.8を境に急激に増加し、現実のCV値(1.0)で頭打ちになった。その結果、充実種子率はCV0では6%であったがCV1.0では41%へと急激な増加を示した。したがって、ブナは捕食を減少させるために最適な種子生産の変動をとっていると思われた。加えて、CV1.0における相対的な利益は、受粉効率で10%、捕食者飽食で90%と大きく異なっていた。このことは、ブナのCVが種子捕食者の自然選択圧によって決まっていることを示していた。
P1-120: マレーシア半島部における熱帯雨林構成樹種の種子・落葉試料を用いた個体レベルでのフェノロジー解析
東南アジア島嶼部の熱帯雨林で起こる現象として、数年に一度の周期で多くの種と個体が同調して結実する"一斉開花現象"が知られており、一月に起こる低温が一斉開花を引き起こす要因として現在最も有力であると考えられている。では、このような明確なトリガーの無い非結実年において植物はどのようなリズムを持って活動し、一斉開花年まで推移しているのだろうか。
そこで本研究では、リタートラップを用いて捕らえた落下種子・落葉を用い、一斉開花年を含めた個体レベルでの落葉と結実フェノロジーを調査し、同一種内における個体間のフェノロジーの同調性を確認することを目的とした。
調査地はマレーシア半島部にあるセマンコック保護林とパソ保護林である。試料は環境庁の地球環境総合推進費の熱帯林プロジェクトの一部として両調査地に設定された2haプロットに設置されたリタートラップから1992-1997年に回収された葉・種子試料を用いた。解析に用いた種はパソ20種、セマンコック10種であり、それぞれの落葉量は総落下葉量の38.6%、21.4%を占めている。これらの種は調査期間内にリタートラップで種子が捕らえられた種を中心に選択した。
個体間の同調性を解析するために、母樹からリタートラップまでの距離とトラップが捕らえた落葉量から個体ごとの葉の落下範囲を推定した。そこから個体の落葉量の時間的変動を求め、結実個体間の同調性と非結実個体と結実個体での同調性に違いがあるのか、または非結実年から結実年にかけて個体間の同調性がどう変化していくのか等を解析していく。
P1-121: 谷戸環境におけるトウキョウダルマガエルの成長とフェノロジーについて
関東地方においてはトウキョウダルマガエル(Rana porosa porosa)はその分布域や個体数が徐々に減少してきているカエルであるといわれている。しかし、本種の保全生態学的なデータは不足しているため、基礎的なデータの収集が必要とされている。
本研究では東京都町田市にある2つの谷戸(神明谷戸、五反田谷戸)を調査地とし、トウキョウダルマガエル個体群における成長およびフェノロジー(生物季節)を明らかにすることを目的とした。
定期調査では、原則として毎週フィールドを調査し、ルートセンサス後、発見した個体全てを捕獲した。捕獲した個体の体長と体重を測定し、年齢査定を行うために左後肢の指1本を切り取り研究室へ持ち帰った。さらに再捕獲認識をするための写真(上、横向き)を撮った。
その結果、稲の耕作期とほぼ一致する4月中旬から10月下旬にかけてが本種の活動期であり、残りの期間は冬眠する可能性が高いと考えられた。また、成熟個体と未成熟個体とで出現時期にずれがあることが推測された。すなわち、成熟個体は未成熟個体よりも春先の出現が遅い傾向を示すにも関わらず、秋の早い段階で調査地から姿を消してしまった。一方、体長の測定結果から、この個体群での年間を通した平均体長は、オスで57.5mm(SD=6.75)、メス59.7mm(SD=9.81)であった。また、月別の体長ヒストグラムの分析結果から、冬眠後の1齢及び当歳個体はいずれも5_mm_/月程度成長していると考えられた。講演ではこれらの結果から本種の谷戸田におけるフェノロジーと成長について考察する。
P1-122: ヨツモンマメゾウムシにおける幼虫間競争と産卵分布の関係
ヨツモンマメゾウムシは世界中に広く分布する貯穀豆の害虫で、幼虫期に豆を寄主として利用している。幼虫間競争を引き起こす幼虫の干渉能力の強さと、産卵分布の均一度には地理的変異が報告されており(Messina and Mitchell 1989; Takano et al. 2001)、それぞれ干渉能力が強いものから弱いものまで連続的に存在している。両形質の関係を考えたとき、幼虫の生存率は幼虫密度に大きく影響を受けるので、雌親が卵をどのように分布させるかは、幼虫間の競争を避ける、あるいは競争の影響を弱めるという点で重要である。幼虫の干渉能力が強い場合には、産卵分布の均一度が低いと羽化成虫数が減る。一方、干渉能力が弱い場合には均一度に関わらず比較的多くの成虫が羽化できる。これらのことから、次の仮説が導かれる。幼虫の干渉能力が強いと、産卵分布を均一にするような強い選択圧がかかると考えられる。反対に幼虫の干渉能力が弱いと、産卵分布の均一度への選択圧も弱く、他の選択圧や遺伝的浮動の効果が相対的に強くなり、産卵分布の均一度に関する形質は動きやすくなると考えられる。以上の仮説から、幼虫の干渉能力が強く、産卵分布の均一度が低い地理的系統はいないと予測される。
幼虫の干渉能力の強さと、産卵分布の均一度を定量的に測定したところ、両形質には特徴的な関係がみられた。幼虫の干渉能力が強い系統では、産卵分布の均一度が高く、干渉能力が弱い系統では、均一度はばらつくという傾向を示した。この結果は仮説を支持しており、強い幼虫の干渉能力により、高い産卵分布の均一度が維持されていると考えられる。さらに産卵数や体サイズなどの適応度に直接関わる形質と産卵分布、競争様式の関係について議論する。
P1-123: タチスズシロソウの低温処理による開花反応性の集団間変異
シロイヌナズナ属のタチスズシロソウは西日本の湖岸・海岸の砂地に集団を形成することが知られている。この植物は、形態的類似性と分布パターンから、山地に生育する多年生のミヤマハタザオより派生的に進化してきたと推察される。しかし、その生育地では、夏期の地温が植物体の成長/生存が不可能なほど高くなるため、一年生の生活史を示すと予想した。本研究では、フェノロジー調査によって、タチスズシロソウ集団のうちほとんどの個体が一年草としての生活史を示すことを明らかにするとともに、発芽と開花結実の時期を特定した。個体の死亡が実生、小型のロゼットである秋の時期におこり、越冬中は少なかったことから定着時の生存が重要であることが分かった。一年生なら種子繁殖が確実に行われなければならないため、繁殖様式について実験的に調べた結果、自家和合性であることが明らかになった。集団によっては小型昆虫による頻繁な訪花が観察されたが、訪花の少ない集団でも自動自家受粉によって種子繁殖が保証されていることを明らかにした。アブラナ科の開花タイミングは日長と冬季の低温感受により支配される。一年草において、繁殖成長への移行タイミングは繁殖成功度に直接影響を与えるため、集団間で適応的分化が見られる可能性が高い。そこで複数集団からの種子を用いて栽培実験を行った。その結果、各集団とも低温処理により開花が早まったが、琵琶湖北側2集団と琵琶湖南側と伊勢湾岸集団とで処理後120日経過しても開花に至らない個体の割合が異なることが分かった。こういった集団分化の要因を特定するのが今後の課題である。
P1-124: 雪田植物チングルマにおいて、雪解け時期の違いが個体サイズに依存した繁殖への資源分配に与える影響
消雪時期の違いに依存した、繁殖への資源分配戦略の個体サイズ依存性の違いを明らかにするために、雪田に生育するチングルマ(Sieversia pentapetala)を用いて、消雪時期が異なるサイトごとに、繁殖器官への資源分配量と個体サイズ(個体が持つ資源量)との相関関係を調べた。
花への資源分配量のサイズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられなかったが、遅いサイトではみられた。この傾向は調査年度によらず一定であった。花の各器官への資源分配量を個別にみると、雄蕊群への資源分配量のサイズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられなかったが、遅いサイトではみられた。この傾向は調査年度によらず一定であった。雄蕊群への資源分配戦略は、消雪時期の違いによって生じるポリネーター環境の変化の影響を受けていると考えられる。その一方で、雌蕊群の資源分配量のサイズ依存性には、年変動がみられた。雌蕊群への資源投資戦略は、年によって大きく変動するなんらかの環境要因の影響を受けていることを示している。花弁への資源分配量は、すべてのサイトにおいて個体サイズによらず一定であった。繁殖成功に関しては、種子の大きさはすべてのサイトで、個体サイズによらず一定であった。種子の数のサイズ依存性は、年度によって異なるパターンを示した。
以上の結果より、消雪時期の違いによって生じる繁殖成功の違いは、繁殖への資源分配戦略の個体サイズ依存性のパターンに影響を与えていないことが示唆される。
P1-125: 寄主の活性に着目した寄生蜂の性比調節に関する研究
寄生蜂の性決定様式は半数倍数性であり、雌は腹部に精子をためておくことができる貯精嚢をもっている。そのため、寄生蜂の雌は貯精嚢にためてある精子を卵に受精させるかどうかで性比を調節することができる。また、寄主の体重とその寄主から出てきた寄生蜂の体重との間には正の相関が見られる。寄生蜂は体重を重くすることで繁殖成功度を高くすることができ、さらに雄に比べて雌の方が体重を重くすることで得られる繁殖成功度は高くなる。したがって、寄生蜂がより体重の重い寄主に雌を産卵するよう性比を調節できることには大きな意義がある。実際に寄主の体重に伴う寄生蜂の性比調節は広く知られている。
本研究室で飼育している寄生蜂はマメゾウムシを寄主としている。この寄生蜂は豆の中にいるマメゾウムシの幼虫を寄生の対象としている。このような場合、寄生蜂が寄主の体重を直接感知して性比を調節することが困難であると考えられる。そこで、この寄生蜂が豆の外部から寄主の体重を推定できるような情報が必要になってくる。
本研究では寄主の活性(寄主が豆を摂食するときに生じる音に頻度)に着目し、日数に伴う寄主幼虫の体重の変化と活性の変化を比較した。
結果から、寄主の体重、活性はともに大きく増加する期間を示し、またその期間(12日目から13日目)は一致していることがわかった。このことから、活性は寄生蜂が寄主幼虫の体重を知るための情報として可能性があると考えられる。また、寄主の活性において、12日目と13日目の幼虫間にのみ変化が見られたことから、寄生蜂はこの変化を閾値として利用し、性比を変換しているのではないかということも考えられる。
P1-126c: アイナメ属3種の繁殖場所選択と交雑との関係
北海道南部は、温帯性のクジメHexagrammos agrammusとアイナメH. otakii、および亜寒帯性種のスジアイナメH. octogrammusが同所的に生息する世界でも珍しい海域である。クジメとスジアイナメはともに浅場の藻場で繁殖するため、両種の分布が重なる海域ではしばしば雑種が報告されてきた。これに対してアイナメはクジメやスジアイナメよりも深場に生息するため、繁殖場所が隔離し交雑は回避されていると考えられてきた。しかし近年、北海道南部太平洋岸の臼尻沿岸でアイナメと他の2種との交雑が確認された。このことはこれまでアイナメと他の2種との間で働いていると考えられていた繁殖場所の違いによる交配前隔離機構が、この海域では十分に機能していないことを示している。そこで本研究では、同所的生息海域におけるアイナメ属3種の繁殖場所の分布に関する基礎的知見を得ることを目的として、臼尻沿岸における3種の繁殖場所の分布と産卵基質を調査した。
その結果、クジメとスジアイナメは丈が長く葉状部が枝状を呈し岩上に密生する小型藻類を、アイナメは丈が短く凹凸があり平面的に広がるコケムシ類や網などを産卵基質として利用していた。すなわちアイナメは他の2種と産卵基質の選好性が異なることが明らかとなった。3種のなわばり形成場所は産卵基質の分布に対応しており、クジメやスジアイナメは小型藻類が繁茂する浅場の岩棚部分で、アイナメはコケムシ類の付着する深場の魚礁のほか、漁港外縁にある消波ブロック帯の海底に沈む根固め用の石を入れた網袋の結び目などで見られた。また消波ブロック帯は急峻な斜面を形成するため上部には小型藻類が繁茂し、クジメやスジアイナメのなわばりも見られた。このように消波ブロック帯の複雑な地形が性質の異なる産卵基質が混在する環境を作り出し、アイナメ属の交配前隔離機構を撹乱している可能性が示唆された。
P1-127c: メスは精子制限のリスクに反応した配偶者選択をできるのか?
オス間競争において優位なオスは質的に優れており、メスはそのようなオスを配偶者として好むと考えられる。多くの研究では、そのような優位オスと交尾をすることにより、メスは適応度を上げると想定されている。しかし、優位オスとの交尾が必ずしもメスに利益をもたらすわけではない。多くの交尾機会を得ることができる優位オスほど、保有精子量を枯渇させていることがある。そのため、優位オスと交尾をしたメスは不十分な精子量しか受け取ることができず、精子制限に陥る可能性がある。メスにとって精子制限は避けるべきものである。しかし、メスの精子制限のリスクに対する反応の研究はほとんどなく、メスが精子制限のリスクに反応するメカニズムについてはほとんどわかっていない。
そこで本研究では、イボトゲガニHapalogaster dentataを用いて、メスの配偶者選好性パターンとそのメカニズム、また精子制限のリスクに反応した配偶者選択の有無について調べた。まず、体サイズの大きなオス、小さなオスを同時にメスに与え、メスはどちらのオスを選ぶか? また、メスはどのようなcueによってオスを選択しているのか? について調べた。次に、交尾を重ね、交尾あたりの射精量の低下したオスと、まだ交尾をしておらず十分な精子を持っているオスを同時にメスに与え、メスがどちらのオスを選ぶかを調べることにより、メスが精子制限のリスクに反応した配偶者選択を示すかどうかについて調べた。その結果、メスは体サイズの大きなオスを好み、そのメカニズムはオス由来の化学物質によることが示された。そして、メスは精子の枯渇したオスを避け、十分に精子を持っているオスを選んだ。以上の結果から、メスはオス由来の化学物質を基に精子制限のリスクを回避できることが示された。これはこの種において、メスにとって精子制限は重要な圧力のひとつであることを示していると考えられる。
P1-128c: エゾシカにおける対照的な2個体群の餌資源比較
本研究は、糞の窒素(糞中窒素)がエゾシカの餌の質の指標として有効なのかについて、異なる個体群動態を示す2個体群を対象に検討した。まず、個体群の栄養状態の評価として体サイズを比較した。次に、(1)食性(2)餌資源(第1胃内容物)の窒素(3)糞中窒素(4)胃内容物の窒素と糞中窒素の関係を分析し、個体群間比較を行った。対象個体群は、個体数が増加途上にある西興部村と、個体数がすでに飽和状態に達している洞爺湖中島である。結果、西興部は中島よりも体サイズが有意に大きかった。次に(1)西興部では牧草に依存し、洞爺湖中島では落葉に依存していた。(2)胃内容物において、西興部は中島よりも高い窒素値を示した。また、個体群間の窒素値の差は春に大きく、夏と秋は春よりも差が小さかった。(3)糞中窒素の結果は、胃内容物の結果と必ずしも一致せず、春は胃内容物の窒素値の優劣と同じであったが、夏は胃内容物の窒素値と逆の優劣結果を示した。(4)共分散分析より、胃内容物の窒素に対する糞中窒素の値は、中島が西興部よりも相対的に高いことが明らかになった。つまり同じ窒素値の餌を食べた際に、中島は西興部よりも高い窒素値の糞を出すことが示された。春は西興部の餌の窒素値は中島に比べてはるかに高いため、糞中窒素も付随して高く、比較の優劣は変わらなかったが、夏は個体群間で餌の窒素値に有意な差がありながらもその差が縮まるため、個体群ごとで胃内容物の窒素と糞中窒素の関係性が異なることにより、中島が西興部よりも高い糞中窒素値を示したと考えられる。胃内容物の窒素と糞中窒素の関係は消化率を反映すると考えられることから、西興部は中島に比べて消化率の高い餌資源を利用していると示唆される。
以上のことより、糞中窒素は、個体群間で餌の質を評価する上では、指標として適切ではないことが明らかになった。
P1-129c: 亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性
亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性
○清水 健・藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態)
近年日本の農業現場で問題となっているヤガ科広食性害虫のオオタバコガHelicoverpa armigeraは、世界各地の被害分布から亜熱帯性の種であると一般に認識されていた。その休眠特性に関して温帯性近縁種タバコガH. assultaとの間に顕著な相違が見られたことからも本種は温帯日本の気候には十分に適応していないものと考えられてきた。温帯や亜熱帯で採集されるオオタバコガは、タバコガと同様に休眠機構を備えてはいるのであるが、たとえ短日であっても高温条件下では休眠が誘導されず、発育期間中の長期にわたる低温刺激が休眠誘導の必須条件であった。一方で、本種が温帯野外で休眠を誘導する秋季に訪れる急速な気温低下は、この時期に幼虫が休眠ステージ(蛹)までの発育を完了する際に致命的であるのだ。
しかし温帯でも、初秋の極めて短い時期には本種の休眠誘導に適した穏やかな低温が短日条件に伴ってタイミング良く訪れる。運良くこの時期に休眠に入った個体は越冬し翌春まで生存することが確認された。さらに、この時期を予測して休眠を誘導するために有効であると考えられる短日化と低温化を感受する機構において、亜熱帯個体群と温帯個体群との間に明確な変異が確認された。温帯個体群では、秋の温度低下が比較的緩やかであると考えられる亜熱帯個体群よりも、変温変日長シグナルにより強く反応したのである。
この変異は、従来まで地理的傾向の指標とされてきた臨界日長における個体群間変異よりも顕著であった。この結果は本種の地域適応とは無関係なのだろうか。亜熱帯性害虫が温帯へ分布拡大する可能性と、地球温暖化がそれに及ぼす影響について考察する。
P1-130c: 絶滅危惧植物ユキモチソウ(Arisaema sikokianum,サトイモ科)における性表現と個体サイズ,成長様式および個葉光合成との関係:圃場での被陰実験から
植物は,光合成で獲得したエネルギーを成長・繁殖・貯蔵のいずれに振り分けるか,常にジレンマに遭遇している。林床に生育する草本は,弱光下で強いられる低生産性の下でも成長を維持し,なおかつ繁殖を行わなければならない。ユキモチソウ(Arisaema sikokianum Franch. et Savat.,サトイモ科)は四国と本州の一部にのみ分布する夏緑性の多年生草本で,園芸採取や里山の管理放棄などにより絶滅危惧種となっている。本種は体サイズの増加に応じて可変的に無花 _二重左右矢印_ 雄 _二重左右矢印_ 雌と性表現を変える「時間的な雌雄異株植物」であるが,同一の体サイズであっても異なる性表現を示すことがあり,この定義は必ずしも明確ではない。しかし,本種の成長と性表現との相互関係と,それらに対する光強度の影響に関する生理生態学的な知見は極めて少ない。本研究では,林床を模した異なる光条件下(相対光量子密度28%,14%,4%)でユキモチソウを栽培し,以下の点を検討した。光強度の変化にともなう,1)地上部形態・光合成機能の可塑性と個体サイズ・性表現との相互関係,2)貯蔵器官である球茎の成長速度を指標とした前シーズンの生産性と今シーズンの性表現との関係。
光強度の減少にともない,本種の葉面積成長は長期化し,葉柄が長くなる傾向にあった。遮光による成長抑制は有花個体よりも無花個体で顕著だったが,成長速度は光強度の影響を受けにくかった。雌個体では,体サイズが大きいほど繁殖器官に多くのバイオマスを投資していた。一方,雄個体では繁殖器官への投資を抑制して貯蔵器官への分配を維持しており,次年への成長と開花・結実に備えていると考えられた。小葉の光ム光合成特性は遮光の影響をほとんど受けなかった。一方,日中の小葉の光化学系IIの光利用効率(Fv/Fm)は相対光量子密度14%から28%の下で有意に低下していた。
P1-131c: コバネナガカカメムシの個体群間でみられる生活史形質の変異について _-_ヨシ・ツルヨシ群落における生息環境の違いに関連して
コバネナガカメムシは、イネ科のヨシとツルヨシを主な寄主植物とする吸汁性昆虫である。同一個体群中に飛翔可能な長翅型と不可能な短翅型を出現させる翅二型性を示す。またヨシ群落は湖沼環境で見られるのに対し、ツルヨシ群落は河川環境で見られる。河川環境下のツルヨシ個体群は頻繁に洪水にさらされるのに対して、ヨシ個体群は安定している。そして洪水による攪乱が選択圧となり、それらの間で分散型出現頻度がツルヨシ個体群の方で高くなっているのではないかと考えられた。まず室内飼育によってコバネのツルヨシ個体群、ヨシ個体群由来の孵化幼虫を育て、それらの間での長翅出現に関する違いがないかをみた。成虫の長翅率はツルヨシ個体群由来の場合に比較して、ヨシ個体群由来の方で低く、長翅発現性に関して遺伝的な違いがあることが示唆された。次に野外調査によりツルヨシ群落、ヨシ群落でみられるコバネの長翅率を調べた。しかし、野外で見られた個体群密度が低かったこともあり、一定の傾向は検出できなかった。
また、コバネの発生消長を両群落において比較した。その結果、ツルヨシ個体群では年1化であるのに対して、ヨシ個体群では年2化する年があることが分かった。これらのことも含めて、両個体群における生活史戦略の違いについて考察する。
P1-132c: 木本植物の生育段階の指標変数としてのRGRの有効性
木本植物の幹の生育段階の指標として相対成長速度(RGR)の逆数を対数化したLRR (the logarithmic reciprocal RGR)を使うことを提案する.最初に我々は,生育段階の指標変数としての必要十分条件を以下のように仮定した.1)変数は個体発生直後にある極値をとり,枯死直前に別の極値をとる.2)異なる個体間で変数の変動幅に差はない.この条件に基づき,LRR,齢,サイズの3変数の中で,どの変数がもっとも上記条件を満たすかを調査した.
林床低木のクロモジ(Lindera umbellata)の自然枯死地上幹を対象に樹幹解析を行い,幹の寿命,LRRと幹材積量の生存期間を通した変化を明らかにした.その結果,以下の点が明らかになった,1)全ての枯死地上幹において3変数ともにその最小齢において最小値をとり,最終齢に最大値をとること.2)各変数の変動幅の幹間変異は,LRRで最も小さいこと.以上より,生育段階の指標変数としての必要十分条件は,3変数の中でLRRがもっとも満たしていることが明らかになった.
次に,野外に生育する生存地上幹を対象に,そのLRR,幹材積,幹齢,樹冠上の当年生枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力(単位材積成長量当たりの年間花序生産量)を調査した.得られたデータを用いて,当年生枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力をそれぞれ従属変数とし,LRR,幹材積,齢を独立変数として回帰した.その結果,それぞれの従属変数においてLRRを独立変数として回帰した場合に最も高い決定係数が得られた.このことは,樹木個体レベルにおいて,生育段階に依存して変化するパラメータは,LRRを用いることでこれまでより高い精度で予測できることを示唆していた.
P1-133c: メダカの脊椎骨数の緯度間変異に与える遺伝と水温の影響について
魚類の脊椎骨数は種間あるいは集団間で地理的に変異し,一般に高緯度に生息する魚ほど脊椎骨が多い傾向にある(=Jordanの法則).しかし,その生態的・進化的要因は解明されていない.これは,脊椎骨数の緯度間変異に与える遺伝および発生水温の影響,ならびに両者の相互作用や共分散に関する知見が少ないことによると考えられる.メダカOryzias latipesをモデルシステムとして,緯度の異なる野生集団間で脊椎骨数を比較した結果,高緯度集団ほど脊椎骨が多く,本種にJordanの法則が適合することが示された.さらに,この脊椎骨数の緯度間変異は,尾椎骨数ではなく腹椎骨数の変異によるものであることもわかった.また,共通環境実験の結果,どの水温環境で発生させても,高緯度集団から得られた稚魚ほど腹椎骨数,ひいては脊椎骨数が多くなることが示された.これは,腹椎骨数ないし脊椎骨数は遺伝形質であり,Jordanの法則は適応的変異であることを示唆している.しかし,腹椎骨数および脊椎骨数は発生水温により可塑的に変化することも明らかになった:どの集団も低水温で発生した稚魚ほど脊椎骨および腹椎骨が多くなる傾向にあった.また,集団と発生水温の間に有意な相互作用は存在しなかった.これらの事実は,緯度という水温環境の勾配に沿って,腹椎骨数あるいは脊椎骨数に関与する遺伝子型が水温による可塑的変異を押し広げるように偏在しており(=cogradient variation),遺伝子型と環境の影響が正の共分散関係にあることを意味している.講演では,個体の腹椎骨数あるいは脊椎骨数と適応度の関係についても言及し,Jordanの法則が各緯度の気候環境に対する適応進化を反映している可能性について検討する.
P1-134c: メダカにおける成長と繁殖のトレードオフ関係とその緯度間変異について
近年の研究から,高緯度に生息する変温動物は,短い成長期間を補償する適応進化の結果として,遺伝的に高い成長能力を有することが明らかになってきた.一方で,低緯度の変温動物が速い成長を進化させないのは,速い成長に対するトレードオフの存在を示唆している.例えば,成長と繁殖はトレードオフ関係にあり,成長の速い個体は繁殖への投資が小さくなることがこれまでに幾つかの生物で報告されている.では,高緯度の変温動物は,成長が速い代わりに繁殖能力において劣っているだろうか?メダカOryzias latipesをモデルシステムとして,緯度の異なる集団間で,実験室の共通環境下における成長と繁殖のスケジュールを比較した.その結果,高緯度の集団ほど,どの水温環境の下でも稚魚期(=繁殖開始前)の成長が速い上に一腹あたりの卵への投資量も大きく,一見,成長と繁殖の能力が正の相関関係にあるように見えた.しかし,低緯度の集団に比べ,高緯度の集団は繁殖開始サイズが大きく,その後の成長が頭打ちになる傾向にあることもわかった.このような成長および繁殖スケジュールの緯度間変異は,成長と繁殖の間にトレードオフが存在することを示唆している.すなわち,高緯度のメダカは小さい体サイズでの繁殖を犠牲に繁殖開始前の高い成長パフォーマンスを発揮する一方,繁殖開始後の成長を犠牲に高い繁殖能力を維持していると考えられる.しかし,各集団内では,繁殖開始後の成長が速い個体ほど一腹あたりの卵投資量も大きい傾向にあった.これは,速い成長と高い繁殖能力が,本来は同時進化し得るということを示唆している.
P1-135c: 野生メダカの成長スケジュールおよび個体群動態の緯度間変異
変温動物では一般に,外界の温度が低いほどあらゆる代謝速度が低下するため,個体の成長と繁殖の速度が遅くなる.緯度に沿った環境の温度勾配も変温動物の成長と繁殖に同様の影響を及ぼすため,高緯度に生息する個体ほど年間の成長率および繁殖率が低下すると考えられる.しかし,成長や繁殖は適応度と密接に関係する形質であるため,高緯度の集団では,成長・繁殖が被る負の影響を補償すべく適応進化が起こっているかもしれない.メダカIOryzias latipes/Iをモデルシステムとして,緯度の異なる野生集団間で(1)成長の季節的スケジュール,ならびに(2)個体数の季節消長パターンを比較した.サイズヒストグラムの季節変化から,高緯度の集団ほど,当歳魚は短期間に一気に成長することがわかった.この成長スケジュールの緯度間変異パターンは,高緯度のメダカほどどの水温条件下でも遺伝的に速く成長する能力を有することを示唆している.また,高緯度の集団ほど当歳魚の新規加入期間が短いにもかかわらず,加入数は著しく多いことがわかった.これは,高緯度の集団では短期間に集中して繁殖が行われていることを示している.この繁殖スケジュールの緯度間変異パターンは,高緯度のメダカほどどの水温のもとでも遺伝的に高い繁殖能力を有することを示唆している.
P1-136c: Shorea acuminataの繁殖戦略: 不定期に大量開花/結実することの適応的意義
東南アジア低地フタバガキ林では,非定期的に群集レベルで開花/結実が同調する一斉開花/結実現象が知られている.この特殊な現象を進化させた究極的な要因として特に,植物とその送粉者や種子捕食者との間の相互作用が注目されている.しかし,実際に一斉開花の起きる間隔や規模が異なった場合に,その相互作用が種子生産に対してどのような影響を及ぼすのかを定量的に扱った研究はあまりない.
マレーシアのパソ森林保護区では,2001年8月とその約半年後の2002年3月からそれぞれ数ヶ月にわたって,短い間隔で一斉開花が確認された.前回の一斉開花から数年の間隔をおいて起きた2001年の開花は,開花規模の面では2002年に比べて小さく,開花間隔と規模の両面で2002年の開花とは性格を異にしている.本研究では,この2回の一斉開花結実期に同調して繁殖を行った,一斉開花参加型樹種であるShorea acuminata (フタバガキ科)を対象に,花から種子に至る過程での死亡数(死亡率)と,結実の不成功に伴う資源損失量を繁殖イベント間で比較することにより,長期間隔で大量開花/結実することが種子生産を行う上でもたらす適応的意義を,特に植物-動物間相互作用に注目して議論する.
各繁殖イベントについてS. acuminataの繁殖木約10個体を選び、シードトラップを用いて花から種子にいたる過程のデモグラフィーを調査した.繁殖木ごとに開花数,結実数,結実率の推定を行い,合わせて,散布前種子食害率とそれに伴う資源損失量の推定を行った.その結果,いずれの繁殖イベントにおいても,開花後約1-2ヶ月の間に開花総数の90 %以上にあたる種子が落下し,初期の大量落下が種子生産数を大きく規定することが明らかになった.昆虫および樹上哺乳類の食害によって失われた種子数の合計は,いずれの繁殖イベントにおいても全開花数の2 %程度であった.さらに2回の繁殖イベント間で資源損失量の比較を行い,一斉開花結実現象が示す進化的な意義を考察する.
P1-137c: オーストラリア産シロアリAmitermes laurensisにおける塚形状の多様性と種内分子系統
オーストラリア北部に生息するAmitermes属のシロアリは、様々な形状の塚を作っている。その中でもA. laurensisは、種内で、南北に扁平、大きな円錐状、および小さな円錐状の3つのタイプの塚を作ることが知られおり、各タイプの塚を作る集団はそれぞれ特定の地域に分布していることが報告されている。
本研究では、ミトコンドリアDNAのCOII領域と16sRNA領域、および核DNAのITS領域の塩基配列を利用して、A. laurensisにおける種内系統と塚形状の違いの関係、および種内系統とその地理的分布の関係を明らかにした。
2002年と2003年に、オーストラリアのCape York半島およびArnhem Landで採集した15集団179個体について、上記の解析を行った結果、単一の塚から複数のハプロタイプが確認される例も少数あったが、多くの場合、単一の塚から単一のハプロタイプが検出され、それらは6つのクレードに分かれた。単一のクレードには異なる形状の塚を作る集団が含まれかつ、同じ形状の塚を作る集団は複数のクレードに分かれたため、塚形状の違いに対応した単系統性は認められなかった。
COII領域の塩基配列を利用して、遺伝的距離と地理的距離の相関関係を調べた結果、距離による隔離の効果が確認された一方で、地理的距離が小さいにも関わらず遺伝的に著しく分化している集団も確認された。このことから、A. laurensisの遺伝構造には、過去の集団間の遺伝的交流が一定でなかったなど、地理的距離以外の要因も関連していることが示唆された。
P1-138c: ヒノキ林における細根系の形態と分枝構造
自然生態系の土壌では、水分や養分などの資源は非常に不均一に分布している。植物は土壌の資源を獲得するため、根系の構造や発達の程度を順応させて土壌資源の不均一な分布に対応している。根系の構造には、個々の根の吸収域が重ならないように土壌の中で効率よく根を配置することが重要であり、これは根系の枝分かれの形と関係している。また、個々の根の直径や伸長などの形態的特性も土壌資源の獲得効率に強く関わると考えられる。
本研究では、樹木の土壌利用様式を根系構造という観点から明らかにするため、ヒノキの細根系を材料として、窒素可給性の異なる有機物層と鉱質土層で細根系の分枝構造を比較した。
京都市近郊の天然生ヒノキ林において、有機物層と鉱質土表層(0-5cm)から土壌ブロックを採取し、ヒノキ細根系を分枝構造が壊れないよう丁寧に採取した。水洗した後、根端から基部に向かって分節毎に次数を割り振り、切断した。各次数の根について重量、根長、平均直径、平均密度、根長/根重比(SRL)を測定した。
採取した細根系の総根長の比較から、鉱質土層に比べ有機物層において細根系のサイズが大きくなることが示された。各次数の根の構成比を比較すると、有機物層において根端部の割合が高かった。根長あたりの根端数について有機物層と鉱質土層との間で有意差は認められず、分枝の頻度に変化は認められなかった。根の平均密度は、根端から基部にかけてほぼ一定で、土壌層位間にも有意差は認められなかった。平均直径は基部ほど太くなるが、その増加率は鉱質土層でより大きかった。また、SRLは全般に有機物層の根で高かった。以上の結果から、ヒノキ細根系について、土壌の不均一性に対し伸長成長により細根系のサイズを変化させ、根端部に配置する根の形態を変化させるという土壌利用様式が考えられた。
P1-139c: ウスノキに見られたシュートレベルの繁殖コスト:花形成における発達上の制約
ウスノキは落葉性のツツジ科低木である。前年枝の先端に花を形成する。花を形成しなかった前年枝は枝を伸長させるため、枝の先端を花にするか枝にするかという構造的なトレードオフがある。花を形成した前年枝(繁殖シュート)と、枝を形成した前年枝(栄養シュート)を比較対象とし、花形成が樹冠発達に与える負の影響(繁殖コスト)について調べた。
1)シュートレベルで見た成長に対する繁殖コストは大きな前年枝で高いと考えられた。前年枝上に形成された花以外の当年枝の数・長さは、繁殖シュートよりも栄養シュートで大きく、また、大きな前年枝ほど、両者の差が大きく開いたためである。大きなシュートほど内的にも外的にも環境条件が良いため、芽の発達ポテンシャルが高く、したがって、芽を花にすることによって生じる繁殖コストが高いと考えられる。
2)シュートレベルで見た生存に対する繁殖コストは小さな前年枝で高いと考えられた。枝の枯死頻度は、栄養シュートよりも繁殖シュートで高く、また、小さな前年枝ほど、両者の差が大きく開いたためである。小さなシュートほど、資源が不足しているため、限られた資源を花形成に投資することによって枯死確率が高まると考えられる。
3)花形成の有無はシュートのサイズに依存して決定されていると考えられた。樹冠を構成するすべての前年枝を枝長によってサイズクラスに分け、各クラスに含まれる繁殖シュートの割合を調べた結果による。繁殖が起こる確率は、小さいシュートではサイズの増加に伴って増加し、中程度のサイズで最大に達し、大きいシュートでは再び低下していたためである。
4)シュートのサイズに依存的な花形成のパターン(3)は、サイズに依存的な繁殖コスト(1と2)を最小化する意義があると考えられる。芽を花にするか枝にするかという発達上の制約が、シュートレベルの花形成のパターンを決定する内的な制約となっていると考えられる。
P1-140c: 単独性花蜂、キオビツヤハナバチ(Ceratina flavipes)は近親交配を行っているか?
越冬前に交尾が観察されているキオビツヤハナバチ(Ceratina flavipes) は以前、越冬後にも交尾行動が確認されている。越冬前の交尾率は高く、未交尾雌が少ないことから、雌のC. flavipesの多数回交尾が行われていると示唆される。観察から、最初の交尾は羽化直後、もしくは越冬前に同巣内の雄個体と行われていると考えられる。北海道では新成虫の羽化から、新成虫が越冬巣へ分散するまでに数日間、同巣内に成虫の兄弟姉妹が共存している。この数日間で同じ母蜂から産まれた血縁のある兄弟姉妹同士によるInbreedingが行われている可能性があり、本研究ではDNAを用いて、Inbreedingの有無を検証する。また、以前より唱えられている、越冬後に交尾での交尾相手も同様にDNAを用いてInbreedingの有無を検証する。雌蜂の体細胞と雌蜂の授精嚢内にある精子細胞(交尾相手の雄細胞)から核DNAを抽出し、マイクロサテライトマーカーを用いて検出されたバンドの位置から両検証を行い、本発表では、その結果を発表する。
P1-141c: 暗い林床に生育するベニバナイチヤクソウはなぜ菌根を持つのか?
ベニバナイチヤクソウ(Pyrola incarnata)は森林の林床に生育する多年生常緑草本である。その根には、木本植物と相利共生関係をもつとされる外生菌根菌によって菌根が形成される。しかしながら、暗い林床に生育する植物にとって、光合成産物を要求される菌根共生が一概に有利であるとは言いがたい。そのため、常緑性で林床に生育するイチヤクソウ属の植物がなぜ菌根を形成するのかは興味深い問題である。そこで本研究では、1)野外のベニバナイチヤクソウ生育地において、菌根形成量と菌根菌の多様性を調査した。また、2)カラマツ、ベニバナイチヤクソウ、菌根菌の三者関係を成立させたポットを作成し、カラマツに炭素安定同位体13Cを与え、ベニバナイチヤクソウに日よけをして、トレース実験を行った。さらに、3)rDNA-ITS領域のPCR-RFLP解析によってベニバナイチヤクソウとカラマツの菌根の遺伝的同一性を比較した。その結果、1)野外では本種の根には多様な菌根菌が定着しており、また、林冠木の葉が展開し林床が暗くなる夏期に、20%以上の菌根形成量のピークを示すことが明らかとなった。また、2)トレース実験の結果、ベニバナイチヤクソウの地上部と地下茎から通常よりも高い割合の13Cが検出された。さらに3)カラマツとベニバナイチヤクソウの両菌根のITS-RFLPパターンが一致した。これらから、ベニバナイチヤクソウはカラマツに菌根を形成する菌根菌と同一の菌によって菌根を形成し、その菌糸を通じてカラマツの光合成産物を受け取っている可能性が示された。
P1-142c: 樹林-水田複合生態系で生活するノシメトンボの雌における週休5日制の産卵パターン
ノシメトンボは水田で羽化した後に、近接した樹林内のギャップへ移動して定住し、産卵時のみ水田に飛来する。産卵様式は、連結打空産卵である。雌雄ともギャップ内ではほとんど静止しており、待ち伏せ戦術による採餌活動を終日行ない、求愛行動や交尾行動は示さない。調査地のギャップと水田で同時に標識再捕獲法を行なったところ、林内のギャップには水田の2倍以上の雌が生息していることがわかった。推定日当たり個体数は、ギャップにおいて雄1万頭、雌1万8千頭、水田において雄1万頭、雌8千頭であった(2001年)。ギャップにおける雌の体内の卵成熟過程と水田における実際の産下卵数は、本種の生活史における林内のギャップという生息場所の利用と密接に関わっているはずである。そこで、林内のギャップと水田で捕獲した雌の産下卵数や蔵卵数を調べた。水田において連結態の雌がもっていた成熟卵数は、産卵行動が開始される9時頃には500個近くあったが、同時刻に林内のギャップに静止していた雌では120個程度しかもっていなかった。雌は水田において、もっている成熟卵をほぼ産み尽したので、産卵を終えて林内へ戻ったばかりの雌は成熟卵をほとんどもっていなかった。産卵を終えた雌は、その日の夜間に、成熟卵を約130個つくりだしていた。日中の体内の卵生産を考慮すると、卵を産み終わった雌は、1日に200から300個の卵を成熟させ、蓄積しているといえる。したがって、産卵前の雌がもっていた成熟卵数(約500個)まで卵を成熟させるためには、少なくとも2から3日間はギャップに留まらねばならず、雌は週に約2回、産卵活動のために水田へ飛来すると考えられた。すなわち、雌は週休5日はあるといえる。
P1-143c: 熱帯雨林に共存するサラノキ属18種の稚樹における形態的シンドローム
樹木の更新戦略と稚樹の構造の関係を明らかにするために、マレーシアサラワク州ランビル国立公園において共存するサラノキ属18種の稚樹の構造を解析した。樹高0.1-1.5mの個体を対象に、樹冠や幹の形状、物質分配を測定し、更新戦略と強く関係していると考えられる最大光合成速度、成木の材密度と比較した。共分散分析の結果、多くの形質でアロメトリー式の切片と傾きの両方に有意な種間差がみられ、実生・稚樹の構造的特徴は強く成長段階の影響を受けることがわかった。この結果を受け、2つの成長段階に分けて主成分分析を行ったところ、5gの実生では、葉への投資が大きい種で幹が太く樹高が低いという傾向が顕著であった。30gでは、個葉面積が小さい種で枝への投資が大きく、樹冠が幅広く幹が細くなる傾向が強かった。また、両ステージで葉への投資と根への投資の間のトレードオフがみられ、それぞれの乾重量が種間で大きく異なっていた。また物質分配は、樹冠や幹の形状から基本的に独立していることがわかった。主成分スコアと光合成速度、材密度との順位相関を計算したところ、耐陰性が強いと考えられる種ほど、葉への投資が少なく根への投資が大きい傾向があった。樹冠の形状と耐陰性の間には相関がみられなかった。
一方で、分子系統樹の発表されている10種を対象に、各形質のIndependent Contrastを計算し、これを対象とした主成分分析を行った。その結果、進化的には、耐陰性が高くなると物質分配においては、葉への投資が少なく枝への投資が増え、外見的構造においては、葉が小さくなり樹冠体積が大きくなるとともに、幹が細くなり、樹高が高くなる傾向があることがわかった。これらの結果、耐陰性の強い種間の更新戦略と稚樹の構造の関係は、異なる機能タイプに属する種を比較した従来の研究結果とは異なる点も多いことが示唆された。
P1-144c: オオバナノエンレイソウ集団の遺伝的時空間構造 :孤立林と連続林の比較
北海道十勝地方では、1880年代から農耕地や住宅地を造成するための開拓により、これまで大規模な森林伐採が行われてきた。その結果、現在、防風林などわずかな森林が孤立林として点在している。このような森林の分断・孤立化は、伐採された木本種のみならず、その林床に生育する草本植物の生活にも大きな変化をもたらすものと考えられる。多年生植物集団の遺伝的空間構造は種子や花粉の散布様式のみならず、生育地の環境の変化や集団の成立過程などを反映して形成される。したがって、生育地の孤立による様々な影響は集団の遺伝的空間構造を変化させていると予想される。
オオバナノエンレイソウは北海道に広く分布し、十勝地方でも一般的に見られる林床性多年生草本である。本研究の目的は、十勝地方において孤立林林床下に生育するオオバナノエンレイソウ集団の遺伝的空間構造を明らかにするとともに、生育地の孤立・縮小による集団への影響を遺伝的な側面から連続林林床下集団と比較し検討するものである。調査プロットは2002年に孤立林(帯広清川18m×4m)と大規模連続林(広尾12m×4m)に設置した。それぞれの集団の遺伝的構造を明らかにするために調査プロットを2cmメッシュに区切り、格子点上に存在する個体の位置をすべて記録した。さらにそれぞれの個体を生育段階別に実生・1葉・3葉・開花個体の4つに区分し、これらすべての個体は酵素多型により遺伝子型を特定した。この遺伝情報から空間的自己相関や遺伝的多様性などを求め生育段階別に比較を行った。以上の調査から、生育地の孤立・縮小化がオオバナノエンレイソウ集団の遺伝的構造にもたらす影響について時間的・空間的側面から検討した。
P1-145c: エイザンスミレとヒゴスミレの光環境、送粉昆虫に対応した資源分配
スミレ属の多くは開放花、閉鎖花をつける。このような2型的な花による繁殖システムは、送粉昆虫利用度の季節的変化に対する適応であると考えられている。つまり、送粉昆虫の利用度が高い春先に開放花の他殖による種子生産を行い、樹木の展葉にともなって光環境が悪化し、送粉昆虫の利用度が低下する初夏以降に閉鎖花の自殖による種子生産を行うことで、一年を通じ繁殖成功を最大にしていると考えられている。
このような繁殖システムを持つスミレ属の近縁2種間では、生育地の光環境や送粉昆虫利用度の違いに対応して開放花への投資量が異なる可能性がある。つまり明るい環境下に生育し、開放花による他家受粉が期待できる種は開放花へより多くを投資し、一方で暗い環境下に生育し、送粉昆虫があまり期待できない種は開放花への投資を抑え、残りの資源を閉鎖花に投資するのではないかと考えられる。そこで、本研究では、主に明るい環境に生育するヒゴスミレと暗い環境下に生育するエイザンスミレを用いて、種間の光環境や送粉昆虫に対応した資源分配パターンを検証し、両種の適応的な資源分配パターンを明らかにする事を目的とした。
この目的にそって、熊本県阿蘇の集団で季節的な光環境、開放花数、閉鎖花数の変化、生育地の送粉昆虫の種構成、開放花への総投資量を調べた。
種間の光環境と送粉昆虫の違いに対応して、開放花生産期間や開放花への投資量の違いが観察された。暗い環境下に生育するエイザンスミレは、効果的な送粉者であるクロマルハナバチへ適応しており、その女王が現れる春先の短い間に開放花生産を集中して行い、残りの資源を閉鎖花へと分配していた。一方で、明るい環境下に生育するヒゴスミレは、多くの分類群の送粉昆虫へ適応しており、開放花生産期間を長くし、開放花へ多くを投資する事で他家受粉を促していた。
P1-146c: ウルシ属2種(ヌルデ、ヤマウルシ)における栄養成長・繁殖成長の季節的パターンと経年的繁殖行動との関わり
森林性樹木における繁殖コストの補償メカニズムを解明する一環として、雌雄異種性樹木で、シュート上の花序形成位置と花序形成時期の異なるヌルデとヤマウルシを対象に、当年生シュート(モジュール)の形態、モジュールレベルでの栄養・繁殖成長投資パターン、開花・結果過程、個体レベルの直径成長量、そして経年的な繁殖行動を調べた。
当年生シュートの長さと重さは2種ともに有意な雌雄差が認められなかった。モジュール当たりの葉重、葉数、葉面積には2種間で違いが認められ、ヌルデにおいて雌の方がそれぞれ有意に大きくなっていた。花期は2種間で異なるが、ヤマウルシが開葉とほぼ同時期の春季であり、ヌルデが開葉終了後の夏季である。花期における花序重は、2種ともに雄の方が有意に大きくなっていた。花序当たり花数は2種ともに雄の方が有意に大きくなっていた。個花の重さは、ヌルデでは有意な雌雄差が認められなかったのに対して、ヤマウルシでは雄の方が有意に大きくなっていた。モジュール当たりの花序数は、頂生で1本の花序を形成するヌルデでは雌雄差がなく、腋生のヤマウルシでは雄の方が有意に大きくなっていた。結果率は、ヌルデが0.38、ヤマウルシが0.32であった。またモジュールレベルにおける葉、シュート、繁殖器官への投資割合は、ヌルデで有意な雌雄間差がなかったのに対して、ヤマウルシでは繁殖器官への投資割合は雌の方が有意に大きくなっていた。一方、個体当たりの花序形成枝率(花序形成枝数/枝数)の経年変化は、ヌルデでは小さくなっていたものの、ヤマウルシでは大きくしかも有意な雌雄差が認められる年もあった。また胸高直径測定による個体レベルの栄養成長率はヌルデ、ヤマウルシともに雌雄差が認められなかった。
講演では、これらの結果をもとに、花序形成の位置と時期の違いが繁殖コストの補償レベルの違いをもたらす要因になる可能性とそのメカニズムについて考察する。
P1-147c: ネジキ、ナツハゼの枝系内の位置に対応した花芽分布のパターン
樹木は、芽などの構成単位(モジュール)が繰り返し生産され、積み重ねられることによって構成されている。芽は栄養枝か繁殖枝、もしくは休眠芽になるが、繁殖枝をつけることは栄養成長にとって不利になるといわれており、繁殖枝が形成されるか否かは栄養成長とのバランスに影響されると考えられる。したがって、繁殖枝は無秩序に形成されるのではなく、何らかのパターンが見られるはずである。そのパターンを樹木の構成単位であるモジュールレベルから明らかにすることは、樹木がいつ、どれだけ繁殖枝を形成するかを理解し、応用的にはそれらを予測する上で重要である。このような視点から、本研究では京都市近郊の二次林に一般的なツツジ科の落葉小高木であるネジキ(Lyonia ovalifolia)と、落葉低木のナツハゼ(Vaccinium oldhami)について、繁殖枝が枝系内でどのような規則性をもって形成されているのかを調べた。
調査は京都市北部にある京都大学フィールド科学研究センター上賀茂試験地にて行った。2003年6月に、容易に調査可能な高さにあり、当年枝を30_から_100本程度含むよく分枝した枝系を、複数の個体から各種16本と14本選び、繁殖枝数、当年枝長、一年枝長などを測定した。また、枝系を同心円状に3等分し、内側から基部、中部、外部として各部分に含まれる花枝の頻度などについて解析を行った。
枝系に含まれるシュート長は、2種共に基部から外部へ向かって増加していた。また長い一年枝には繁殖枝が形成されず、やや短い一年枝に繁殖枝が多い傾向が両種で見られた。その結果枝系内では、長い一年枝が多く分布する外部よりも、中部に繁殖枝が多く見られた。これらの結果は、長い一年枝は栄養成長を、やや短い一年枝は繁殖をするという役割の分化を示唆している。これは枝系レベルでの成長と繁殖を両立させるという意義を持つと考えられる。
P1-148c: 針葉樹型樹形と広葉樹型樹形の光資源獲得様式の違いについて
針葉樹、広葉樹ともに、樹形形成には、その経時的発達を樹体を構成する枝条(主軸も含む)の総伸長量(枝条の伸長量の総和)で見ると、時間tの累乗式F(t)=Ltrに従って増加する傾向が認められる(ここでLは年平均樹高成長量)。しかし、両者の間には相違も認められ、_丸1_針葉樹のr値はほぼ3と大きいが、増加速度が急速に頭打ち化し、ミッチャーリッヒ型のリチャーズ関数に従うようになるのに対して、広葉樹ではr値が平均2.1と小さいが、上層木化するまで増加速度が殆ど低下しない。また、_丸2_針葉樹では、葉量が枝条長に比例し、また、個体の齢が増加しても、単位枝条長当たりの葉量が変化しないのに対して、広葉樹では、短い枝条ほど単位枝条長当たりの葉量が多く、また、個体の齢の増加に従って平均当年枝長が低下するので、結果的に、枝条の単位長さあたり当年葉量が加齢されるに従い増加していく特性を持つ。従って、_丸1_、_丸2_より、_丸3_針葉樹では、総葉量も時間のほぼ3乗に比例して増加するが、増加速度が急速に頭打ち化し一定となるのに対し、広葉樹では、r値が低いため、葉の増加速度も緩やかであるが、その速度は一定に保たれ、また、枝条の総伸長量の増加速度(2.1)よりは大きな速度を示すことになる。
今回は、上記のような違いを参考にして、針葉樹型樹形と広葉樹型樹形の個体レベルでの総光合成量、同化器官及び非同化器官の形成コスト・維持コストの定式化(時間の関数への置き換え)を試みた。また、Cost-benefit 解析(Kikuzawa(1996)などを参考)に従い、樹形によって、被陰ストレスの度合い毎の耐忍期間(積算繰越生産物量がプラスである期間)、最適なL値、上層木化率がどう変化してくるのかをパソコンで算定し、2つの樹形の持つ更新特性や分布特性上の意味の違いの抽出などを試みたので報告する。
P1-149c: ヤマユリの花の香り:その個体サイズ・時間依存変化が繁殖成功に与える影響
これまでの研究では、集団間では送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。
1. 個体サイズ:個体サイズによって繁殖形質(花冠の大きさ等)が変化することがあるため。
2. 花齢:訪花要求量が変化するため。
3. 昼夜:送粉者が変化することがあるため。
そこで本研究では、花の香りが個体サイズ・時間(花齢・昼夜)に依存して変化するのかどうかを調査した。今回は、香りの強さに特に着目して解析を行った。
・ 実験方法
ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。
1. 香りの個体サイズ依存変化
2. 香りの時間依存変化
3. 送粉者の昼夜変化
4. 繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、種子成熟率・花粉放出率を比較)
・結果
1. 個体サイズが大きいものほど花の香りは強くなる傾向にあった。
2. 昼に比べ夜の方が香りは強くなるが、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。
3. 昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。
4. 種子成熟率・花粉放出率共に、昼夜での違いはなかった。
今後はGC-MSを用いた香りの成分分析を行う予定である。これらの結果を統合することにより、個体サイズ・時間に依存した花の香りの適応戦略を明らかにしていきたい。
P1-150c: フキにおける三つの花型の適応的意義:訪花昆虫の誘引に貢献しているか?
フキは雌雄異株植物であるとされている。メス花序は、多数のメス小花(雌しべ稔性有り・花粉なし)と少数の両性小花(雌しべ不稔・花粉無し)を持つとされ、オス花序は、両性小花(雌しべ不稔・花粉有り)のみを持つとされている。最近これに加えて、両性小花(雌しべ不稔・花粉有り)とメス小花(雌しべ稔性有り・花粉なし)を持つ花序(「オスメス花序」と呼ぶ)も低頻度で出現することがわかってきた。フキにおいて、この3つの花型はなぜ維持されてきたのだろうか。
そこで本研究では、メス花序・オス花序・オスメス花序の3つの花型の花序・頭花・小花それぞれの形態を比較した。また、それぞれの花型への昆虫の花序訪問回数を調べた。その際、メス花序への訪花昆虫の誘引に役立っているとされている両性小花を除去した時、昆虫の花序訪問回数に影響するのかどうかも調べた。
その結果、オスメス花序とオス花序の形態がきわめて近いことがわかった。昆虫の訪花が十分に見られた時の花序訪問回数は、オスメス花序とオス花序はほぼ同じで、どちらもメス花序より有意に高かった。両性小花を除去したメス花序と無処理のメス花序の花序訪問回数は変わらなかった。
これらのことからオスメス花序は、形態においても訪花昆虫の誘引においても、オス花序により近いといえるだろう。メス花序は、オスメス花序やオス花序と比べて訪花昆虫を有効に誘引していないのではないかと考えられる。今後は、3つの花型の雄繁殖成功や雌繁殖成功を調べ、それぞれの花型が共存する条件を探る必要があるだろう。
P1-151c: 亜寒帯針葉樹林内で倒木更新している幼木と外生菌根菌の関係
倒木更新とは倒れた親木を苗床にして、次世代の幼木が育つ現象である。しかし、この倒木材上は植物の利用可能な養分が少なく、このような環境で生育する実生には、養分吸収を促進するとされる外生菌根菌との共生関係が重要であると考えられる。そこで本研究では、倒木材上で生育している実生を対象に、その外生菌根の形成量や菌の多様性を調べた。また、実生の枯死率を定着場所ごとに比較した。調査地は北海道中央に位置する大雪山国立公園内の三国峠付近と石北峠付近の2ケ所に設置し、そこで倒木更新している1-6年生のエゾマツ、トドマツ実生を調査対象とした。その結果、両樹種の実生から計7つの形態タイプの外生菌根が観察され、同一種が形成していると考えられるタイプの外生菌根が、調査期間を通して全菌根タイプの80%以上を占め優占していた。この優占していた菌根タイプはrDNA-ITS領域のPCR-RFLP解析の結果、その約40%以上が同一のパターンを示し同一種と考えられた。また、調査地から採取した倒木材や林床腐植に実生を植え、その外生菌根を調べた結果、アカエゾマツ実生の外生菌根形成率が倒木材で13.2%、林床腐植では5.3%を示した。また、倒木材に植えた実生根からは、野外で採取した実生で優占していたタイプと同一の菌根が優占的に見られた。一方、高湿度条件下で生育させて枯死率を比較した結果、倒木材において11.5%であるのに対し、倒木上にたまった腐植、林床腐植ではそれぞれ67.8、58.3%という高い枯死率を示し、倒木上は病害などの発生が少ないと考えられた。以上より、倒木上で生育する実生は、林床と比べて病害などの発生が少なく、一方で多くの外生菌根が形成されると考えられる。この菌根の多くを占める特異的な菌根菌が、亜寒帯針葉樹林での倒木更新メカニズムに大きな役割を担っている可能性が考えられた。
P1-152c: 雌雄異株クローナル植物ヤマノイモのラメット間競争を検出するー圃場1年目の試みー
クローン繁殖様式によってラメット間競争の強さは異なり、Local crowding のコストも異なってくる(Silvertown and Charlesworth: 2001)。ラメット間競争の程度は狭い範囲にラメットが集中する地下茎や匍匐型タイプのクローン繁殖では強く、水生植物では小さい。しかし、繁殖量の違いでもラメット間競争の差は生じるだろう。クローン繁殖としてムカゴ繁殖を行う雌雄異株のヤマノイモの場合、メスに比べオスでクローン繁殖量が2倍程度多いことがこれまでの研究から明らかになっている。そのため、ラメット間競争に性差が生じる可能性がある。2002年に雌7雄5個体(ムカゴ親)からムカゴを採取し、2003年に同一ムカゴ親ごとに竿1本あたり1、2、12ラメットと密度を変え、各区画のラメット数が12となるように苗畑に植栽した。ムカゴ、花序、果実序を採取、乾燥重量を測定し、雌雄で比較した。総葉面積やシュート重を推定した。
区画ごとの成長量やクローン繁殖量は密度の影響は受けるものの性差はなかったが、有性繁殖量は性・密度いずれの影響も有意に受けていた(交互作用なし)。ラメットごとの分析では、密度が増加するとクローン繁殖量・有性繁殖量はともに減少するが、性と密度の交互作用は有性繁殖量でのみ有意であった。
密度の増加に対する有性繁殖量の減少はオス(12倍区/コントロール区=11%)よりメスで加速度的に減少した(12倍区/コントロール区=1.5%)ことから、野外においては有性繁殖に対するLocal crowding のコストがメスでより大きいと予測される。一方、クローン繁殖量は密度の影響は受けるものの性差が有意でなかったことから、オス(クローン繁殖により多く投資し、より強いラメット間競争が現れると考えられる)は、クローン繁殖に対するLocal crowding のコストがより大きいと予測される。
P1-153c: 海岸砂丘前面,背面に生育するコマツヨイグサのフェノロジーの変異
コマツヨイグサ(Oenothera laciniata Hill.)は北アメリカ原産の帰化種で,東北以南の海辺や河原など,乾いた砂地に広く分布する可変性二年草である。一般の海浜植物と比較すると,種子サイズが小さく,根系も貧弱で,このような環境に適しているとは考えにくいが,かなり大きな純群落を形成することもある。
これまでの研究で,茨城以北では,一般的な可変性二年草とは異なり,環境が厳しいと考えられる北で生育期間を短くし,越年一年生ではなく,夏生一年生の生活環を示すことが明らかになった。特に,分布域北限近くの宮城県深沼では,90%以上の個体が夏生一年生の生活環を示した。これは,繁殖開始サイズを小さくすることで,環境ストレスが大きく,死亡圧が高くなる冬季を種子で回避するための生活史戦略であると考えられる。しかし,同じ場所でも,他の植物も生育している砂丘背面と比較して,海に近くより厳しい環境である砂丘前面では,個体サイズが小さくなり,フェノロジーも一年生の個体が多くなる傾向が観察された。そこで,砂丘の前面と背面でコマツヨイグサ個体群を追跡調査し,そのフェノロジーと個体サイズを比較した。
調査は2003年,茨城県大竹海岸で行った。海風の吹き付ける砂丘前面から頂上部にかけてと,砂丘背面下部から続くなだらかな斜面にコドラートを設置し,当年生実生をマーキングして葉数とロゼットサイズを追跡調査し,開花や結実などの生育段階も記録した。
8月の砂丘前面と背面と比較すると,死亡率は28%と1%で前面で有意に大きく,平均葉数は9.3枚と24.2枚で有意に小さかった。また,生育期間後期に当たる10月の二年生個体の割合はそれぞれ2%と15%で砂丘背面で有意に高くなった。このことから,コマツヨイグサは,生活史の地理的な変化と同様に,局所的な生育環境の差によってもそのフェノロジーを変化させ,死亡圧の高い時期を回避している事が示唆された。
P1-154c: AFLP法を用いた蛇紋岩遺存植物オゼソウの集団分化と遺伝的変異の解析
日本の高山に飛び地状に分布する蛇紋岩環境は、Mgや重金属イオンの存在や貧栄養、土壌の崩壊性などの性質によって植物にとって生理的ストレスが高い環境である。そこでは蛇紋岩環境に適応した、最終氷期以降の遺存植物が生育し特異的な植生が形成されている。
本研究では、蛇紋岩植物の生育環境と集団遺伝構造を明らかにするため、北海道の天塩研究林と群馬県の至仏山、谷川岳の3地域のみに生育する蛇紋岩遺存植物オゼソウを対象として、植生調査、AFLP法による集団遺伝学的解析を行った。
植生調査からは、オゼソウ群落は雪田群落環境ではあるが、草丈の高いハクサンイチゲなどの優占種が生育しない腐植土層の浅い立地に限って出現することがわかった。このような立地環境は、土壌崩壊が容易に起こりうる場所であり、いったん登山道が作られると流水による土壌流出がオゼソウや他の植物の生育に大きな影響を与えている可能性が高い。これらのことは、蛇紋岩土壌の化学的性質よりも物理的性質がより強くオゼソウの生育に影響を与えていることが示唆された。
AFLP解析の結果からは、北海道側と群馬側ではオゼソウ集団に大きな集団分化が起きていることが示された。このことはオゼソウ群落が地域個体群ごとに強いまとまりを持ち、蛇紋岩地帯に分断化されて以降、遺伝子流動が起こらずに独自に分化していったと考えられる。また、集団内の遺伝的変異が全般的に低い傾向が見られ、蛇紋岩環境に対するクローン繁殖による適応が示唆された。
P1-155c: タナゴ亜科魚類の産卵資源利用の違い
生物多様性の生成・維持の仕組みの理解は、生態学の中心課題であり、それを管理・保全していく際に必要となってくる。局所的なスケールにおける種多様性は、競争・捕食・再生産・攪乱・移動などによって形成・維持されている(Mora et al. 2003)。そこで、私は日本に生息する純淡水魚のコイ科タナゴ亜科魚類を用いて、局所的な地域での種多様性とその構造がどの様に維持されているのかを明らかにすることを目的とする。
タナゴ類は、アジア大陸を中心に適応放散した種類で、世界に44種(うち日本には14種類)が存在する。全種類が一生を淡水で過ごし、湖や河川に同所的に複数種が共存している。タナゴ類は地史的なイベントによって移入と分断を繰り返しながら、大陸から日本列島各地の陸水域に定着し、地域固有の種組成および種固有の分布パターンを形成してきた(Watanabe 1998)。各河川の個体群は海で分断されていることから、単独域と他種との共存域とでは、競争による自然選択圧が異なることを反映し、同種であっても各河川固有の生態を有していることが予想される。
本研究は、様々な地域で、その地域固有のタナゴ類の種組成とその種の産卵生態のパターンを明らかにし、種内変異と種間変異が、どの様な選択圧(競争、環境、系統など)によって決定されているのかをこれまで得られた結果から考察する。
P1-156c: タンチョウの繁殖に天候はどう働くか
北海道東部に生息するタンチョウGrus japonensis は、1900年代初頭に絶滅の危機に瀕したが、現在は給餌等の保護活動により1000羽近くまで個体数が回復した。しかし、生息適地が開発により減少し、個体数が増加した場合の環境収容力の限界が危惧されている。したがって、健全な個体群を維持するには、繁殖に関わる要因についての解析が欠かせない。今回は、これまで集められたデータを基に、繁殖期間中の天候が孵化、育雛、雛の生存に与える影響について検討した。
タンチョウは3月末頃から産卵および抱卵を行い、地域や年毎に多少差はあるが、おおむね6月中ごろまでに孵化する。本研究では4月から6月までを主要繁殖期とし、この期間中の天候とタンチョウの繁殖状況を調べることで、両者にどのような関係があるかを解析した。調査対象は1997年から2002年までの6年間とし、18地点の気象台、測候所の中で営巣地に最も近い所で得られたアメダスデータを用いた。使用した気象データは主に気温と降水量である。繁殖状況は、4月から6月に月一度、繁殖地上空を飛行して得た営巣地点・番い・雛・営巣環境等の記録から、孵化や育雛の状況を調べ、繁殖の成否を把握した。その結果、測候所のある鶴居及び厚床に近い営巣地では、繁殖期間中に最大日降水量が60mmを超えた年の繁殖成功率が有意に減少した。その他の営巣地でも、最大日降水量が50から60mmを超えると繁殖に悪影響を及ぼす傾向が見られた。各観測地点の最低気温による繁殖成否への影響はあまり見られない。これに対し、4月と5月の平均気温が平年より高いと全体の繁殖状況が良くなる傾向が見られた。これはその時期の気温が雛の生存、特にその初期段階に影響しているものと考えられた。これらの結果を基に、さらに他の要因との関係についても考察する。
P1-157c: 海浜に生育する植物14種の永続的シードバンク形成の可能性
近年、各地の海浜において防波堤工事や車両乗り入れなどの人為撹乱が生じている。このような状況下で、いくつかの海浜植物種は絶滅が危惧されるほど減少している。
海浜植物の生育地は孤立していることが多く、またその生育地では人為撹乱の影響を強くを受ける場合がある。このため海浜植物は局所的な絶滅が生じやすいと考えられる。局所的な絶滅からの個体群の回復は埋土種子または侵入種子によって開始されると考えられるので、海浜植物の保全を検討するにあたっては、種子の発芽・休眠特性や散布特性を把握することが重要である。
本研究では、徳島県に生育する主な海浜植物14種の永続的シードバンク形成の可能性を評価することを目的として、種子の埋土試験およびフィールド条件での1年間の発芽試験を行った。なお対象とした14種には、海浜に普遍的に生育する普通種(在来種)、近年減少傾向にある絶滅危惧種(在来種)、海浜に優占している外来種を含む。
埋土試験では、地表面下1mに埋土した種子を1年後に回収し、制御環境下での発芽試験により埋土後の発芽能力を確認した。その結果、いずれの種でも種子散布直後と同等の発芽能力が維持されていた。フィールド条件での1年間の発芽試験では、海浜の砂を満たしたプランタを圃場に設置し、地表および地表面下5cmに播種し、約1年間の発芽試験の後に未発芽で生残している種子数を数えて生残率を算出した。その結果、ハマヒルガオ、コウボウムギ、ビロードテンツキ、ハマゴウ、コウボウシバ、コマツヨイグサでは種子の生残率が高く、散布された種子の多くが土壌シードバンクに蓄積されることが示された。一方、ハマニガナ、ケカモノハシ、オニシバ、ハマボウフウでは未発芽で生残する種子がほとんど無く、散布後にシードバンクとして土壌中に蓄積される種子が少ないことが示された。
P1-158c: アズキゾウムシにおける雄の同居のコスト
アズキゾウムシでは雄と同居した雌はそうでない雌よりも産卵数に違いがないにもかかわらず、生存日数が短くなることが知られている(Yanagi and Miyatake, 2003)。したがって、処理区間の雌の生存日数の違いは同居した雄の交尾や求愛行動などの効果によると考えられた。しかし、雄との交尾などによって産卵スケジュールが早くなることによって雌の生存日数が短くなることが示唆されている(Chapman et al., 2003)。アズキゾウムシの先行研究では雌に産卵基質となる小豆を与えないようにして産卵を抑制した条件で行われていたので、雌の産卵スケジュールの生存日数への効果を検証することができなかった。そこで、雌に産卵基質となる小豆を与え、雄と同居をさせる時間を羽化後4日間(high)、1日2時間を4日間(middle)、羽化日に2時間のみ(low)と変えた3つの条件下で雌の生存日数、日毎の産卵数、総産卵数、卵の孵化率を測定し、処理区間における比較を試みた。また、このような実験系を長期間室内で飼育されている実験室系統であるjC系統と比較的最近実験室に導入された野外系統のisC系統を用いて行った。予備的な実験からは、jC系統では生存日数は有意ではなかったが、low > middle > high の順で長くなった。しかしisC系統では予測とは異なり有意にhigh > middle = lowの順に生存日数は長かった。発表ではサンプルサイズを大きくした実験の結果から、生存日数、総産卵数、産卵スケジュール、卵の孵化率について系統内における3つの処理区間あるいは系統間について比較をすることによって、雄と同居することが雌にとってコストとなるかどうかとそのメカニズムについて考察をする予定である。
P1-159c: 異なる地形における樹木の生長と生残
ある気候帯に属する地域に多様な樹木が生育してそれぞれの種が地形特異的に空間分布しているということが知られており,これに関する研究はこれまで多数おこなわれてきた.このような地形特異的な樹木の空間分布を維持・形成するメカニズムを解明するためには,まず長い樹木の生活史のうちいったいどのステージが重要であるのかを明らかにする必要がある.そこでわれわれは,今回とくに胸高直径で5cm以上のステージを対象にした.毎木調査と再調査を屋久島低地照葉樹林,2.6haで行い,計量的な地形指数を利用して樹木の生残・生長と地形の関係を明らかにした.まず,樹木が地形特異的に分布していることなどから,一様でない地形は多様な植物種多様性を高める一因と考えられた.次に胸高断面積生長量が上に凸な斜面と下に凸な斜面でどのように異なるかを種ごとに比較すると,下に凸な斜面でよりよい生長を見せる樹種が多い中でほとんどの種では有意な差が見られなかった.また樹木の生残率に関してもほとんどの種で有意な差は見られなかった.また生残・生長に差が見られた一部の種でもその樹種の地形特異的な空間分布を反映するような差とはいえなかった.以上より,樹木の生残・生長と成木の地形特異的な空間分布には齟齬があることがわかった.これは樹木の地形特異的な空間分布パタンは胸高直径5cm未満ですでに形成されており,5cm以上では一旦定着できた場所で生育しているに過ぎないのではないかと考えられた.したがって,地形特異的な樹木の空間分布を維持・形成するメカニズムを解明するためには,樹木の初期定着ステージを重点的に個体群動態と環境との対応を調査する必要があることが示唆された.
P1-160c: ヤマモモ(Myrica rubra)の集団間の遺伝的分化-サルのいる森といない森の比較
植物は固着性であるため、種子や花粉を水、風、動物などにより運ぶことで、遺伝子を流動させる。動物による種子散布は、植物‐動物間の相互作用として注目されており、種子散布距離をはじめとしてこれまでに様々な研究がなされてきた。ある植物の散布者である動物が絶滅した場合、その植物の更新が妨げられ、次世代が育たなくなると考えられることが多い。これを遺伝的な視点からみた場合、散布者の喪失は少なくとも母親の遺伝子の流動を妨げるため、散布者がいる場合と比べて集団間の遺伝的な変異は大きくなると予想される。
本研究では、ヤマモモを対象に散布者の有無で集団間の遺伝的変異に差が生じるかを比較、検討した。調査地は、主な散布者であるサルが生息する屋久島(西部林道)と、サルが絶滅した種子島(犬城海岸)に設置した。これまでの屋久島での研究では、ヤマモモはサルにとって重要な食物資源であり、多くの種子が実際に運ばれていることが観察された。種子島では2004年5月末に60時間に亘り、果実消費の観察を行った。観察樹の周囲にはハシブトガラスなど18種の鳥が滞在していたにもかかわらず、ヒヨドリ以外の鳥はヤマモモの果実を採食しなかった。また、ヒヨドリが消費した果実数は一滞在あたり1から2個であり、1日一本あたり多くても十数個しか消費しないことが明らかになった。観察樹の下には多くの完熟した果実が落ちているのも確認された。したがって、種子島において鳥類は、サルに匹敵する散布者としての役割を果たせてはいないと考えられた。
遺伝解析のため、解像度が高いとされるマイクロサテライトマーカーをヤマモモについて開発した。各島で4プロット、各30個体ずつランダムサンプリング行い、開発したマーカーのうち多型性の高いものを用いて遺伝解析を行った。今回の発表はその結果について報告する。
P1-161c: スズランにおけるクローンの空間構造と種子繁殖の関係
スズラン(C. keiskei)は、強い芳香を有する多数の白い花からなる花序を持つ林床性の多年生草本である。これまで調査を行ってきた北海道十勝地方の集団では、交配様式に関して、自家不和合性を示し、訪花昆虫を介した他家受粉により種子繁殖を行うほか、地下茎によるクローン成長を通じて空間的に広がることが明らかになっている。
一般に花序をつける植物では、ディスプレイサイズ(同時開花花数)が大きいほど送粉昆虫を誘引する効果が強い反面、連続訪花による隣花受粉が生じやすいことが知られている。そのため、「クローンサイズが大きくなりすぎると隣花受粉が生じやすくなり、結実量が低下する」ことが考えられる。
そこで、クローン成長による空間構造を明らかにするために、スズランの優占する林床に90m×100mのプロットを設置し、さらに5m×5mのサブ・プロットに分割した。各区画内のシュートならびに花序密度を測定するとともに、サブ・プロットの各交点より地上葉を採取し、アロザイム分析によるmultilocus genotypeを用いて、クローンの広がりの程度を調べた。
さらに、集団内の大小さまざまなクローンの種子生産を評価するために、サブ・プロットの各交点における結果・結実率の調査を行った。そして、種子生産量に影響を及ぼすと考えられる、花序・シュート密度、隣接するクローンの遺伝的構造と数、クローンサイズとの関係を解析した。このほか、訪花昆虫のクローン内・クローン間での行動パターンの観察を行った。
以上の調査・解析に基づき、自家不和合性スズランのクローン成長による空間構造と有性繁殖の関係、またそれに対する訪花昆虫の寄与について報告する。
P1-162c: モンカゲロウの産卵場所選択性 -砂礫堆と樹冠の影響-
河川に生息するモンカゲロウ(Ephemera strigata)などの水生昆虫類では,砂礫堆上流端に位置する淵尻の瀬頭に集中的に産卵する行動が知られている.このような産卵場所選択性は,砂礫堆の河床間隙水の透水性や溶存酸素濃度などの物理化学特性と関係していると考えられる.しかしながら,産卵場所の環境条件と産卵個体数の関係や産下された卵やふ化幼虫生存率などを実証的に示した研究は行われていない.一方,近年各地の河川で生じている砂礫堆の樹林化やツルヨシの繁茂によって,このような産卵適地が減少しつつあると懸念されている.
そこで,本研究では,産卵雌数に対する瀬-淵,樹冠の有無,岸際の状態,微生息場所環境条件として透水係数,動水勾配および河床間隙水流速の影響を調べた.また,モンカゲロウ卵野外孵化実験を通して,卵の孵化率・死亡率に対する河床間隙水域の物理化学的環境の影響を調べた.その結果,モンカゲロウは,上空が樹冠で覆われず,岸際が植生に覆われていない裸地部分を産卵場所に選ぶことが確認された.また,産卵場所と瀬-淵の相対的位置関係を分析した結果,産卵の集中地点は,必ずしも瀬頭とは限らず,瀬中央付近でも集中的に産卵することがわかった.次に,微生息場所条件の分析の結果,瀬の産卵雌数は,ばらつきは大きいものの動水勾配との間に有意な正の相関が認められた(r=0.61, p<0.01).これに対し,透水係数,間隙水流速との間には有意な相関は認められなかった(透水係数r=-0.17, 間隙流速r=0.25,n.s.).
さらに,野外孵化実験の結果,モンカゲロウ卵は産卵場所に選ばれていない場所でも孵化できることが確認できたが,死亡率は,間隙水流速が小さく,DO供給量が小さくなる砂礫堆内陸側や下流側において大きくなる傾向が認められた.本研究の結果は,「モンカゲロウの選択する産卵場所条件は,間隙流速が大きく豊富な溶存酸素が供給される間隙水域に対応しており,卵や孵化した若齢幼虫の生存率を高めるのに役立っている」という仮説を支持している.
P1-163c: クロヒナスゲCarex gifuensisの生活環と実生の動態
クロヒナスゲは、岐阜県と栃木県に隔離分布する。栃木県では西部を中心に平地から山地の林床に普通に見られ、マット状の群落を形成する一方、岐阜県では特定の地域に痕跡的である。クロヒナスゲは地下茎を発達させて栄養繁殖を主としているが、有性繁殖の実態についてはほとんど知られていない。そこで本研究では、有性繁殖、特に種子や実生の動態に注目して、生活環の全体像を明らかにする事を目的とした。
2003年3月から2004年6月までの期間に、栃木県北部に位置する宇都宮大学農学部附属船生演習林で調査を行った。毎月1回クロヒナスゲのフィールドにおける成長状態を観察した後、一定量を採取し、器官乾物分配費を測定した。また、5月から6月にかけて、クロヒナスゲの実生の分布調査を行った。実生個体数については、斜面の下から上に向かって幅1m、長さ約15mのトランゼクトを20m間隔で3箇所設置し、その中の実生の分布位置と併せて記録した。クロヒナスゲの生活環は、次の通りである。
1.10月にラメットの葉の付け根に新枝が き、新葉の展開とともに花序が形成される。
2.11月〜3月に、主根から多くの側根が発生する。
3.越冬後、花茎が伸長して花序が葉の上部に突出し、開花する。
4.4月〜5月に葉が著しく伸長し、結実 する。
5.5月中旬に多数の実生が発生する。
6.6月中〜下旬に地下茎が伸長する。
7.7月上旬、新しい地下茎から発根し、新ラメットが完成する。
P1-164c: 吊下げるべきか、切り落とすべきか?エゴツルクビオトシブミの揺籃作製をめぐる代替戦術の戦術間比較
オトシブミ科に属するオトシブミ亜科・アシナガオトシブミ亜科の種は、母親が子供のために食料兼シェルターとしての葉巻・いわゆる揺籃を作製する。オトシブミ亜科の一種・エゴツルクビオトシブミは、一匹のメスが二つの型の揺籃を作ることが知られている。一方は葉をJ字状に裁断して木から吊下げるタイプ(吊下げ型)で、もう一方は葉を両側から直線的に裁断して、木から切り落とすタイプ(切り落とし型)である。二つの戦術が共存する適応的意義を探るため、それぞれの揺籃の作製数、生存率および死亡要因ごとの死亡率を季節変化とともに調べ、戦術間で比較し、違いを検出した。その結果、エゴツルクビオトシブミが揺籃を作製する4月下旬から7月初旬にかけて、初期に作られる揺籃ははほとんど全てが吊下げ型であることが分かった。その後、切り落とし型の比率は季節とともに上昇した。また、切り落とし型の生存率は吊下げ型より常に高かった。さらに、吊下げ型・切り落とし型ともに卵期で最も死亡率が高く、特にオトシブミ亜科に特異的な二種の卵寄生蜂、Poropoea morimotoiおよびP. sp.1 (ともにタマゴコバチ科)の寄生による死亡が多かった。P. morimotoiによる寄生率は、切り落とし型の比率が高い時に切り落とし型の方が吊下げ型より高く、P. sp.1の寄生率は、吊下げ型の比率が高い時に吊下げ型の方が切り落とし型より高いという、より多い方が集中的に寄生を受ける頻度依存的寄生がみられた。この二種の卵寄生蜂による頻度依存的寄生が、エゴツルクビオトシブミにおける二つの戦術の維持に関与している可能性があると考えられる。
P1-165c: 北タイ熱帯山地林における下層の光環境と樹木の生存戦略
光資源の分割は、熱帯林における樹木の共存機構に大きく寄与している。光環境に対応して種が棲み分けているのか、またその分布を説明できるような多種間の生存戦略の変異が存在するのかを、北タイ、ドイステープ国立公園の熱帯山地林の優占種11種を対象に調査した。
各種、樹高0.5ー3 mの個体において、1年間の直径成長、全天写真による光環境の測定を行った。低木を2つの機能グループ、「下層種の成木」5種、「林冠種の幼樹」6種に分類した。
(1)調査区内の林床の林冠開空度、直接光の分布には空間的な変異が存在した。
(2)林冠種のうち、Castanopsis diversifoliaは斜面下部にのみ存在し、下層種のうち4種は斜面上部に分布していた。
(3)個体直上で測定した光環境の分布には、種間差があった。林冠種うちSchima wallichii、C. diversifoliaは比較的暗いところに分布していたが、Anneslea fragransは比較的明るいところに分布していた。下層種は林冠種と比べると様々な光環境に分布していた。光に対する種の分布は必ずしも、地形に沿った分布とは対応していなかった。
(4)11種とも成長速度-光環境関係においては相関がなかったが、明るいところに分布が制限されていたAnneslea fragransはほとんどの個体で成長速度が大きかった。最優占種のC. acuminatissimaは明るいところでより成長速度が大きかった。C. DiversifoliaとSchima wallichiiは暗いところでも高い成長速度を保っていた。いくつかの種で、出現頻度の高かった光環境において成長速度が最大であったことは、その種が生育するのに好適な光環境のレンジが存在することを示唆している。
(5)直接光の分布から求めた耐陰性の指標と樹高獲得効率の間には多種間でトレードオフ関係があった。
P1-166c: オオヤマオダマキにおける、花序内の花間で雄期・雌期の長さが性投資量に及ぼす影響
開花期間の長さは雌雄の繁殖成功に影響する。すなわち、開花期間が長いほど多くの花粉を送受粉できるだろう。開花中の気温の違いなどのため花序内の花間で開花期間が異なる場合、花間で繁殖成功が異なるのではないだろうか?もしそうなら、花間で性投資量も異なるのではないだろうか?本研究では、2002, 2003年にオオヤマオダマキを材料に、花ごとの開花期間(雄期・雌期の長さ)、性投資量(花粉数・胚珠数)、および繁殖成功(放出花粉数・種子数)を、花序内の開花の早い花と遅い花とで比較した。
その結果、両年とも開花の早い花ほど雄期が長く、花粉数も多かった。また、雄期が長い花ほど多くの花粉を放出していた。一方、雌機能は両年で異なるパターンだった。2002年は開花の早い花ほど雌期が長く、胚珠数も多かった。しかし、2003年は花間で雌期間・胚珠数に差はなかった。また両年とも、雌期の長さとその花の生産種子数とに有意な関係は見られなかった。
これらの結果から、雄器官への投資量の花間の違いは、雄期の長さが雄繁殖成功に影響するためと考えられる。これに対して、雌器官への投資量には雌期の長さは影響しないようだ。一般に、雄繁殖成功に比べて雌繁殖成功は、ポリネーターの訪花数に対して早く頭打ちすることが知られている。そのため、雌期間は短くても十分な訪花量が得られると考えられる。このように、花間の開花期間の違いは、雌器官よりも雄器官への投資量に影響することが示唆される。
P1-167c: 沖縄島におけるオヒルギの開花・結実特性と受粉システム
オヒルギは、琉球列島に成立するマングローブの主要な構成樹種の1つで、東南アジアを中心に熱帯から亜熱帯にかけ広く分布し、国内では奄美大島が分布の北限となっている。今回、沖縄島において、本種の群落の成立とその維持に重要な影響を及ぼす、開花・結実特性と受粉システムについて調査を実施した。
開花数は、冬季には減少するものの年間を通して開花が見られたが、1月から5月に開花した花は全く結実しなかった。インドネシアに分布するオヒルギでは、1年中開花・結実することが報告されている。そこで、各月の葯の状態と花粉の発芽率を調べたところ、1月から5月に開花した花では、葯の発達不全と花粉の発芽率の低下が確認された。このことから、低温による葯及び花粉の発育不全が、冬季の結実率低下の主要な要因であると考えられた。類似した事例は、温帯域に導入されたマンゴーやアボカドなどの熱帯原産の果樹でも報告されており、分布の北限に近い沖縄島のオヒルギは、十分な季節適応を獲得していないことが推察される。
一方、オヒルギの花は両性花であるが、開花直後の雄ずいは鞘状の花弁に包まれており、訪花動物の接触刺激を受けて初めて花弁が裂開し雄ずいが裸出する。また、このとき花弁の裂開に伴い、その衝撃で雄ずいから花粉の一部が飛散し柱頭に付着し自家受粉が生じるとともに、ポリネーターの体表にも花粉が付着する。交配実験の結果、本種は高い自家和合性を有しており、上記のような受粉システムにより、他殖と自殖の両方を可能にしているものと推察される。また、当地域における主要なポリネーターは、物理的に花弁の裂開が可能な大型のハチ類や鳥であることが明らかになった。
P1-168c: 季節的性比調節の解析的ESSモデル
季節的に出生性比を調節する生物の存在はいくつか知られているが、その適応的意義を解明する上では数理的アプローチが重要である。特に、体サイズも小さく、一回の産仔数が多い両生類では、成長後の繁殖参加の雌雄差を出生時期毎に実際に追跡するのは非常に困難であり、数理的解析によって、調べるべきポイントを明らかにすることは特に重要である。演者らはツチガエル(Rana rugosa)では長期に渡る繁殖期中で季節の進行と共に出生性比の変化が起きていることを明らかにした。また、その傾向が地域集団間で逆転していることも明らかにした(第49回大会発表)。我々はツチガエルの生活史を念頭に置き、シミュレーションのような確率的要素に依らない解析的ESSモデルを構築し、繁殖機会が年に2回あるモデル生物での季節的性比調節の可能性を、雌雄で異なる成長速度などを考慮して検討した。これまでに我々が構築してきたモデルでは、性比を集団内の出生性比とは独立にとれる突然変異個体の侵入条件を考察する際に、出生年とその前後1年づつの非突然変異個体しか背景集団として考えていなかった。しかし、繁殖機会が最大2年に及ぶモデルでは、各年次での背景集団を考慮しなければ正確なESSの解析はできない。今回その範囲を前後それぞれ2年ずつ計5年分を考慮し、さらに突然変異個体が前期と後期のいずれの場合に生まれるかについても分離して考えることで、より詳細な条件推定をすることを可能にした。年2回の繁殖機会相互での出生性比の適応的パターンは8通りでき、大まかに分けると4通りに区別できた。このことから、雌雄間でその後に経験する繁殖機会の数に差ができ、またその違いのでき方が出生時期によって異なるような場合には繁殖時期によって性比を1:1からずらすような形質がESSとなり得ることがわかった。