2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
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[要旨集] ポスター発表: 行動・社会生態

8 月 27 日 (金)
  • P2-001: 同所的に生息する淡水巻貝2種の種間関係 (小野田)
  • P2-002: 吸虫の感染は中間宿主コメツキガニの摂食行動に影響を与えるか? (古賀)
  • P2-003: 長野県伊那盆地におけるダルマガエルの生息状況と移動性 (水野, 大窪, 澤畠)
  • P2-004: ツキノワグマ誤捕獲個体の放獣後の移動状況 (西, 藤田, 山本)
  • P2-005: ニホンザルの群れの空間的な広がり (杉浦, 下岡, 辻)
  • P2-006: タイ王国・カオヤイ国立公園に生息するブタオザル(Macaca nemestrina)雄の繁殖戦略 (丸橋, 北村, 湯本, プーンスワッド)
  • P2-007: 滋賀県北部におけるイノシシの行動圏と植生 (竹村, 丹尾, 井上, 近, 野間, 寺本, 山中, 常喜, 鋒山, 上田)
  • P2-008: 異なる対捕食戦略をとるアブラムシ2種に対するナナホシテントウ幼虫の餌選好性 (井手)
  • P2-009: マダガスカル北西部におけるブラウンキツネザルの行動圏,日周活動,採食様式 (水田)
  • P2-010: 沖縄島におけるサワガニ類2種のブナ科堅果の貯食行動について (佐々木)
  • P2-011: pioneerは一人で十分? ーインゲンゾウムシの幼虫にみる2つの戦略ー (大塚, 徳永)
  • P2-012: オガサワラオオコウモリの冬季集団ねぐらでの社会構造 (杉田, 藤井, 稲葉, 上田)
  • P2-013: シジュウカラでは、どんなオスが父性を失い、どんなオスが婚外父性を得ていたか? (河野, 山口, 矢原)
  • P2-014: 制約された形質相関:サンショウウオの卵サイズと表現型可塑性 (道前, 西村, 若原)
  • P2-015c: シロアリと卵擬態菌核菌の共生 (松浦)
  • P2-016c: 単独性ハナバチは先に採餌された花を見分けられる? (横井, 藤崎)
  • P2-017c: 琵琶湖固有種であるハゼ科魚類イサザの雄が複数雌との配偶を拒否する理由 (高橋, 麻田, 武山, 高畑, 加藤, 安房田, 幸田)
  • P2-018c: 繁殖アマゴにおける体側模様の二型性と文脈依存メス擬態 (鹿野, 清水)
  • P2-019c: ハサミムシ類の系統関係と交尾行動にみられる左右性 (上村)
  • P2-020c: アライグマとタヌキの資源利用特性の比較 (岡部, 揚妻)
  • P2-021c: ヨツモンマメゾウムシの地理的系統内で生じた競争様式と生活史形質の変異 (真野, 徳永)
  • P2-022c: 個体間関係はエゾシカ (Cervus nippon yesoensis) のオスの空間利用に影響を与えるか? (島, 齊藤, 高橋, 梶)
  • P2-023c: 真似るべきか、真似ざるべきか (上原, 横溝, 巌佐)
  • P2-024c: 腸内共生細菌伝播時におけるマルカメムシの行動 (細川, 菊池, 深津)
  • P2-025c: 採食地におけるマガンの時空間分布変化とその決定要因 (天野, 牛山, 藤田, 樋口)
  • P2-026c: エゾクロテンの行動圏と生息地利用 (三好, 東)
  • P2-027c: コオロギの歌の配偶者選択における役割 - 鍵となるパラメーターの特定 (角)
  • P2-028c: 雌が単婚制のキアゲハにおける有核精子と無核精子の動態 (小林, 渡辺)
  • P2-029c: ヨツモンマメゾウムシにおける産卵行動と均等産卵分布の実現:ニューラルネットモデルによる意思決定の解析 (瀬戸山, 嶋田)
  • P2-030c: 寄生バチMelittobiaの極端な雌偏向性比:長い羽化期間と雄間闘争の関係 (安部, 上村, 嶋田)
  • P2-031c: 海藻穿孔性甲殻類コンブノネクイムシではなぜ複数腹の幼体が1夫1妻の親と同居するのか? (青木, 山口)
  • P2-032c: 雌の複数回交尾の進化:アズキゾウムシを用いた物質的な利益の検証 (桜井, 粕谷)
  • P2-033c: アカネズミApodemus speciosusの雌におけるテリトリー性とその防衛行動 (坂本)
  • P2-034c: ツチバチ類のホスト選択と寄生行動 (井上, 遠藤)
  • P2-035c: ホストの個性を活かす-性質が異なる寄主に対するアオムシコマユバチによる行動操作様式の比較- (田中, 大崎)

12:30-14:30

P2-001: 同所的に生息する淡水巻貝2種の種間関係

*小野田 剛1
1鹿児島大学大学院理工学研究科

同所的に生息する淡水巻貝2種,カワニナ Semisulcospira libertina と イシマキガイ Clithon retropictus のニッチ分けとその要因について調査した。鹿児島市内を流れる五位野川の中流部淡水域では,この2種が同所的に生息 しているのが見られる。五位野川の中流から河口にかけて4つの調査区を設置し,それぞれ Station 1, 2, 3, 4とする。Station1_から_4の調査区4地点において,1:瀬の岩表,2:淵の岩表,3:淵の砂泥地の3つのカテゴリーを設定し,2001年は毎月1回,2002年以降は各季節(春夏秋冬)ごとに,カワニナとイシマキガイの2種のそれぞれのカテゴリーにおける出現数を計測した。ニッチ分け調査の結果,カワニナしか生息していないStation1では,淵の岩表に生息しているのが多く確認されたが,2種が同所的に生息しているStati on2,3で,カワニナは淵の砂泥地で多く確認された。イシマキガイはどのStationでも ほとんど瀬や淵の岩表で多く確認された。両種の好む生息場所の傾向に季節的変化はみられなかった。
ニッチ分けの要因として,他種の粘液が影響しているという仮説をたて,室内で各種の他種の粘液に対する行動を観察する 実験を行った。実験の結果,カワニナはイシマキガイの粘液を忌避する傾向にあり,イシマキガイにはカワニナの粘液に対 する忌避の傾向はみられなかった。


12:30-14:30

P2-002: 吸虫の感染は中間宿主コメツキガニの摂食行動に影響を与えるか?

*古賀 庸憲1
1和歌山大学教育学部

コメツキガニScopimera globosaは,吸虫の1種Gynaecotyla squatarolaeの第2中間宿主になっている.終宿主はシギ・チドリ類であり,吸虫は捕食によってカニから終宿主の鳥へと感染するので,終宿主に確実にたどり着くために,カニの行動に影響を与えて鳥に捕食されやすくしていることが期待される.以前,コメツキガニの調査において,寄生する吸虫数の多い個体ほど体重が軽いという結果が得られていた.そこで,寄生数の多いカニほど盛んに摂食を行うと予測して調査を行った.摂食行動を盛んに行う(摂食活性が高まる)ことにより,カニの鳥に対する警戒がおろそかになり,捕食されやすくなると考えられる.
 カニの摂食活性の指標として,単位時間あたりの摂食時間の割合および鉗脚を口器に運ぶ回数を測定した.約30分毎に気温と地表温度を測定した.観察終了後カニを捕獲し,体サイズと体重を測定し,寄生吸虫数を調べた.
 寄生数は体サイズの大きな個体ほど多かったが,これは大きな個体ほど齢が進んでいて干潟で吸虫に曝される時間が長いためだと考えられる.そこで,体サイズをコントロールして解析したところ,カニの体重は寄生数の影響を受けていなかった.即ち,吸虫はカニの体重を減少させていなかった.摂食活性の高さはカニの体サイズおよびその時の地表温度と有意な関係があった.小さい個体ほど,また地表温度が高いときほど摂食活性が高い傾向があった.しかし,摂食活性は寄生数とは無関係であった.
 したがって,吸虫はカニを痩せさせているわけではなく,また摂食活動や活動距離にも影響を与えておらず,カニを操作していると判断する材料は見つからなかった.なぜ影響がないのか,議論する.


12:30-14:30

P2-003: 長野県伊那盆地におけるダルマガエルの生息状況と移動性

*水野 敦1, 大窪 久美子2, 澤畠 拓夫3
1信州大学大学院農学研究科, 2信州大学農学部, 3越後松之山「森の学校」キョロロ。

ダルマガエルRana porosa brevipoda の移動性及び個体数密度の季節変化,個体群構造,環境要因と密度との関連性を把握するため調査を行った.2003年6月から12月長野県上伊那郡南箕輪村の水田(62筆)・水路・畑地を巡回してトノサマガエル群を捕獲し,体長・体色・個体標識・捕獲位置・行動等を記録し放逐した.2箇所の水田(計10筆)では個体の水田内・水田間の移動を把握するため,指切り法による標識を行った.
指切り区を9巡,非指切り区を6巡し,ダルマガエルを779回採捕した.指切り区では377個体に標識を行い,75個体を再捕獲,再捕獲率は19.9%,最多再捕獲回数は3回だった. 標識個体の再捕獲回数は91回だった.再捕獲場所は前回と同じ水田での採捕が69.2%,前回の水田と辺を接する水田が18.7%であった.移動距離では5m以内が42.8%,10m以内が17.6%で,最大は約58mだった.背中線を有する個体の採捕は83回(10.7%)だった.調査地域内でも局所的な背中線発生率は異なっており,調査地域の北側で高かった.環境要因別の個体数密度の解析では,水量では水抜き中(水無・水少)より水が多い方が,水田面積では6a以上より6a未満の小さい方が,畦の植物高では40cm以上より未満の方が,有意に個体数密度が高かった.
ダルマガエルの移動性は低く,1箇所の水田に留まる傾向がみられた.背中線の出現が遺伝的要素によるものだとすれば,背中線出現率の差はダルマガエルの移動性の低さによる遺伝的差異の増大に起因すると推測され,この結論を支持するものだと考えられた.またダルマガエルは水田で91.6%が採捕され,個体数密度と水田水量の間には強い相関がみられた.以上からダルマガエルは生息する水田に強く依存し,個々の水田の影響を受けやすい性質を持つといえた.


12:30-14:30

P2-004: ツキノワグマ誤捕獲個体の放獣後の移動状況

*西 信介1, 藤田 文子2, 山本 福壽2
1鳥取県林業試験場, 2鳥取大学農学部

 鳥取県ではイノシシ被害の増加に伴って有害鳥獣駆除罠の設置が増えており、イノシシ罠によるツキノワグマの誤捕獲が問題化している。鳥取県のツキノワグマは絶滅のおそれのある地域個体群に指定されていることから、県は2002年から誤捕獲されたツキノワグマの放獣を始め、2002年と2003年の2年間に6頭の移動放獣を行った。その内5頭に電波発信機付き首輪を装着し、放獣後の移動を追跡したので、その結果を報告する。
 2002年は5月31日に幼齢の♂(個体M)と11月12日に4才の♂(個体F)の2個体を、2003年は7月16日に12才の♀(個体A)とその仔の♂(発信機無)、8月18日に若齢の♀(個体S)、11月25日に13才の♀(個体Z)の4個体を放獣した。調査は、原則として放獣後1週間はほぼ毎日、その後は週に1回以上、日中に行って位置を特定した。
 個体Zは放獣2日後に見失い、継続して追跡できたのは4頭であった。継続追跡できた4頭は捕獲地から同一町内の3-8km離れた場所で放獣されたが、4個体ともに捕獲地付近への移動がみられ、生息していた場所へ回帰する性質が強かった。個体Mは放獣した6ヶ月後に行方不明となったが、その間の行動範囲は最外郭法で110km2と広かった。しかし、他の3個体は調査期間に差があるものの3-19km2と既存の報告より狭く、特に個体Aは子連れであったためか、捕獲地付近に戻ってから冬眠までの5ヶ月の行動範囲は2km2と極めて狭かった。
 今回調査したツキノワグマは回帰性が強かったので、一度誤捕獲された地域では再度誤捕獲される可能性がある。また行動圏は従来の報告より狭かったことから、鳥取県は生息環境が良くて狭い地域で十分餌が確保できる、または生息密度が低くて餌をめぐる競争が少ないなどが考えられた。調査個体数が少ないので、更に調査の蓄積が必要である。


12:30-14:30

P2-005: ニホンザルの群れの空間的な広がり

*杉浦 秀樹1, 下岡 ゆき子1, 辻 大和2
1京都大学霊長類研究所, 2東京大学大学院農学生命科学研究

ニホンザルは、凝集性の高い群れをつくる。野生のニホンザルの1群れを対象に、群れが、どれくらい広がっているかを推定した。
複数の観察者が個体追跡を行い、観察者の位置をGPSで記録した。観察者の位置を、対象個体の位置の近似値と見なし、個体間の距離を測定した。
調査時期によって平均的な個体間距離は変化した。これは、群れの凝集性が時期によって変化することを示唆している。群れの広がりの大きさに影響するのは、食物の利用のしかたや、交尾期にオスからの攻撃を避けるために凝集することなどが、考えられる。また、群れは常に同じ大きさを保っているわけではなく、広がったり、集まったりしていることが、示唆された。


12:30-14:30

P2-006: タイ王国・カオヤイ国立公園に生息するブタオザル(Macaca nemestrina)雄の繁殖戦略

*丸橋 珠樹1, 北村 俊平2, 湯本 貴和3, プーンスワッド ピライ4
1武蔵大学, 2京都 大学, 3総合地球環境学研究所, 4マヒドル大学

ブタオザル(Macaca nemestrina)の一亜種(M. n. nemestrina)は、スマトラ、ボルネオ、マレー半島の熱帯多雨林に分布し、もう一つの亜種(M. n. leonina)は、タイ、ベトナム、ミャンマーの熱帯季節林に分布している。
タイのカオヤイ国立公園に生息するブタオザルの繁殖戦略や性行動を、2001年5月から2002年3月まで、群れの第1位と第2位オスと発情オトナメスを、375時間個体追跡して調査した。G群とT群のサイズは148頭と168頭であった。群れの個体数推定値から、群れサイズは30頭から170頭程度までの大きな幅があり、カオヤイ国立公園では、100頭を超えることも稀ではない。
オスの最大射精能力を測定した。オスの連続個体追跡による射精平均間隔時間は、1.78時間(n=20)で、最短で36分間、最長で3時間5分であった。オスの1日(12時間)最大可能射精回数は、平均6.7回に過ぎなかった。発情メスは射精直後から、プレゼントを盛んに繰り返してオスの交尾を誘うが、オスのスラスト交尾が回復するのには時間がかかる。
コンソートしていた劣位オスが射精した直後あるいは射精後10分までに、優位オスが発情したメスに接近したり交尾を試みると、劣位なオスは、優位オス個体に攻撃を挑むが、優位個体の交尾を阻止できなかった。精子が掻き出されるのを防ごうとする行動と考えられる。
個体追跡中に攻撃交渉のためメスから離れてしまうと、メスが積極的にその場を離れ、他の順位の低いオスが接近する、スニーキング行動も観察された。メスは、プレゼントして交尾を誘い、わずか2回のスラスト交尾で射精に至った。射精を獲得したメスは、オスから離れた場所に駆け戻り、このメスを探していた第一位オスと再会してコンソートが継続していった。再開後、オスからメスへの攻
撃行動や点検行動は見られなかった。


12:30-14:30

P2-007: 滋賀県北部におけるイノシシの行動圏と植生

*竹村 菜穂1, 丹尾 琴絵1, 井上 貴央1, 近 雅博1, 野間 直彦1, 寺本 憲之2, 山中 成元3, 常喜 弘充3, 鋒山 和幸3, 上田 栄一3
1滋賀県立大学, 2滋賀県東近江地域農業改良普及センター, 3滋賀県農業試験場湖北分場

全国的に鳥獣害による農作物被害が増加してきている中で、イノシシ(Sus scrofa leucomystax)による2002年度の農作物被害金額は獣害の中で一番多い。滋賀県においても同様で、イノシシによる農作物被害の軽減は重要かつ緊急の課題である。しかし、イノシシは警戒心が強く臆病で、森林や藪の中を好むため、生態や行動に不明な点が多い。そこで、本研究では滋賀県湖北部におけるイノシシの行動圏と植生との関係を明らかにすることを目的として調査を行った。
イノシシ被害のある伊香郡高月町、木之本町の山田山周辺で檻を用いてイノシシを3頭捕獲し、そのイノシシに首輪型発信機、耳タグタイプの発信機を取り付け、ラジオテレメトリー法により発信機個体の追跡を行った。2003年1月_から_12月に1頭につき月1回、24時間連続で1_から_2時間おきに追跡調査を行った。航空写真と現地調査から作成した植生図から植生と行動圏の関係を調べた。
イノシシの行動圏面積は最外郭法で約8ha_から_231haであった。行動圏の占める地域が1年を通して大きく移動することは少なかった。一般に餌が集中していれば行動圏のサイズが小さくなり、この逆であれば大きくなる。調査個体は良い環境の地域を基点にして季節ごとに行動圏の大きさを変化させて餌資源の季節変化に対応している可能性が考えられた。今後餌資源量の季節変化の推定が必要である。
イノシシの行動圏内の植生比率と測定点の植生から、アカマツ林よりも広葉樹林、スギ・ヒノキ植林地を選択する傾向がみられた。他の研究ではイノシシは植林地を避けると考えられているが、本研究では植林地を選択していた。調査地の植林地が比較的よく間伐されていることにより、下草が多く生えてイノシシにとってよい環境となっている可能性がある。今後行動圏内の詳しい植生調査が必要である。


12:30-14:30

P2-008: 異なる対捕食戦略をとるアブラムシ2種に対するナナホシテントウ幼虫の餌選好性

*井手 徹1
1佐賀大学 農学部

 カラスノエンドウやソラマメなどのマメ科植物上で同所的に見られるマメアブラムシとエンドウヒゲナガアブラムシに対するナナホシテントウ幼虫の餌選好性について調べた。
 野外調査において、カラスノエンドウ群落上のマメアブラムシ数およびエンドウヒゲナガアブラムシ数とそこに訪れるナナホシテントウ幼虫数の間にはともに正の相関があり、アブラムシが多い場所にナナホシテントウ幼虫は多く訪れていた。しかしナナホシテントウ幼虫はエンドウヒゲナガアブラムシが多く寄生したカラスノエンドウ群落よりもマメアブラムシが多く寄生したカラスノエンドウ群落に来訪する割合が高かったことから、ナナホシテントウ幼虫はエンドウヒゲナガアブラムシよりマメアブラムシの方に高い選好性をもつことが示唆された。
 ナナホシテントウ幼虫の発育や成長はマメアブラムシのみを与えて飼育した場合とエンドウヒゲナガアブラムシのみを与えて飼育した場合でほとんど違いはみられなかった。したがって、ナナホシテントウ幼虫の餌としてマメアブラムシとエンドウヒゲナガアブラムシでは質的な違いがないと考えられた。
 室内実験において、ナナホシテントウ幼虫のアブラムシ捕食成功率はマメアブラムシの方が高く、また捕食数もマメアブラムシの方が多かった。したがって、ナナホシテントウ幼虫にとってはマメアブラムシの方が利用しやすい資源であると考えられた。
 またナナホシテントウ幼虫に攻撃された時、マメアブラムシよりエンドウヒゲナガアブラムシの方が寄主植物上から落下する個体が多かった。その結果、実験終了時まで寄主植物上に残っていたアブラムシ数はマメアブラムシの方が多く、ナナホシテントウ幼虫はマメアブラムシが寄生した植物上でより長い時間滞在していた。
 以上のことから、ナナホシテントウ幼虫の餌選好性にはアブラムシの捕食効率と餌パッチの持続性が重要であることが示唆された。


12:30-14:30

P2-009: マダガスカル北西部におけるブラウンキツネザルの行動圏,日周活動,採食様式

*水田 拓1
1東邦大学理学部地理生態学研究室

2003年10月から翌年3月にかけて,マダガスカル共和国北西部に位置するアンカラファンツィカ国立公園内の乾燥林においてブラウンキツネザルの10個体の群れ(当歳のコドモ2個体を含む)を追跡し,行動圏,日周活動,採食様式を記録した.観察地点の最外画を結んだこの群れの行動圏は約20ヘクタールで,マダガスカル西部で記録されている面積(7ヘクタール)より大きく,東部の降雨林に棲息する同種と同じくらいの面積であった.本種は昼夜行性の活動様式を持つと言われている.観察によると,まだ薄暗い5時前に活動を開始して移動,採食をし,気温が30°Cを越える7時半から8時半頃に休息に入った.そのまま15時ごろまで同じ場所で休息を続け,その後また移動と採食を始めた.日没前には大きく移動し,夜間も採食を行なっていた.採食行動を見ると,果実と葉が食物の大部分を占めており,雨季の初めには特に新芽を多く食べていた.観察対象の群れは人家近くにも現れ,夜間にはマンゴーなどの栽培果実も食べていたため,行動圏は,人為的な採食場所にも影響を受けていることが示唆された.一方,同地域に棲息する鳥類マダガスカルサンコウチョウ(以下サンコウチョウ)の巣の卵や雛に対する捕食圧は非常に高いことが知られている.調査期間中,ブラウンキツネザルがサンコウチョウの巣を発見し,卵と雛を捕食するところがそれぞれ1回ずつ観察された.捕食にあった巣は壊れて地面に落ちていた.このように卵や雛がなくなった上に壊された巣は多く発見されている.このことから,ブラウンキツネザルはサンコウチョウの巣の卵や雛にとって主要な捕食者であることが示唆された.しかしブラウンキツネザルは積極的に鳥類の巣を探しているわけではなかったので,鳥類の卵や雛は主要な食物ではなく,たまたま巣を見つけたときに食べる,いわば副食のようなものであると考えられた.


12:30-14:30

P2-010: 沖縄島におけるサワガニ類2種のブナ科堅果の貯食行動について

*佐々木 健志1
1琉球大学資料館

 沖縄島北部の山地には、イタジイを優占種とするオキナワウラジロガシ、イスノキなどからなる常緑広葉樹の森林が広がっている。このうち、イタジイやマテバシイ、オキナワウラジロガシなどのブナ科植物が生産する大量の堅果は、様々な動物の重要な餌資源となる一方で、動物による堅果の加害や散布がこれらの樹木の更新や分布の拡大に様々な影響を与えている。今回、ネズミ類の巣穴調査中に偶然発見された、サワガニ類によるブナ科堅果の貯食行動に伴う種子散布の可能性について報告する。
 当地域には5種類のサワガニ類が生息しており、水への依存度の違いにより活動空間の異なることが知られている。このうち、林床で活動することが多いオオサワガニの5例と主に水辺で活動するオキナワミナミサワガニの1例で、イタジイ堅果(1例のみオキナワウラジロガシ)の巣穴での貯食行動が確認された。両種とも、巣穴は沢の流底から0.4_から_5m離れた谷の斜面部に直径葯10cm、長さ40cm程の坑道が水平に掘られていた。ファイバースコープで巣穴内の個体が確認できた6例中、雌雄の識別ができなかったオオサワガニの1例を除き全てメスで、体サイズも40mm以上と全ての個体が成体と考えられた。このことから、堅果の貯食行動は高栄養の餌を必要とする産卵前のメスに特有の行動である可能性が高い。巣穴内の堅果は、底の一部を残して種皮ごと食べられるか、縦方向に割られ中身のみが食べられるかで、同様の採餌痕は室内実験でも確認された。食べ終わった種皮は、巣穴の入り口近くに多く貯められており、各巣穴で63_から_168個の堅果が確認された。また、これらの中には未食の堅果が1_から_22個含まれており、一部に発芽が見られたことから、サワガニ類が、種子が定着しにくい谷の上部斜面への種子分散を行っている可能性が示唆された。


12:30-14:30

P2-011: pioneerは一人で十分? ーインゲンゾウムシの幼虫にみる2つの戦略ー

*大塚 康徳1, 徳永 幸彦1
1筑波大学・生命共存

インゲンゾウムシの幼虫の豆への侵入率は幼虫が1頭しか存在しないときよりも複数頭存在している場合の方が高い侵入率を示す。これには幼虫が豆に侵入する際の方法が2通り存在することが深く関わっている。2通りの方法とは「自ら豆に穴を開けて豆に侵入する方法」と「他の幼虫によってすでに開けられた穴を利用して豆に侵入する方法」である。自ら穴を開けて豆に侵入した幼虫をpioneer、すでに開いていた穴を利用して豆に侵入した幼虫をfollowerと呼ぶ。
pioneerとfollowerをわける大きな要因は豆の表皮にあり、豆の表皮が存在しない状態の侵入率は豆の表皮が存在する場合の侵入率を大きく上回る。そこでpioneerとfollowerをより厳密に次のように定義した。pioneerとは豆の表皮を食い破って豆に侵入した個体であり、followerとは表皮を食い破らずに豆に侵入した個体である。
過去の研究や著者の実験から幼虫はすでに開いている穴を好んで利用しており、pioneerとして豆に侵入できる幼虫も好んでfollowerとして豆に侵入していた。しかし、少なくとも1頭はpioneerにならなければどの個体も豆に侵入することができない上に、1個の豆という限られた資源に多数個体が侵入すれば当然資源が枯渇し個体数の減少につながる。よってインゲンゾウムシの幼虫の豆への侵入行動は、他の幼虫の存在に依存した戦略行動といえる。
今回の研究では資源量は無視して問題を単純化し、豆への侵入に限定して幼虫が複数等存在するときの幼虫の最適戦略、つまり最適なpioneerの比率について実験を行った。また、pioneerとして豆に侵入できる幼虫も好んでfollowerとして豆に侵入していたこと、そして少なくとも1頭がpioneerにならなければ全個体が豆に侵入できずに死んでしまうということからインゲンゾウムシの豆への侵入行動をn人のチキンゲームとしてとらえモデルを作成した。


12:30-14:30

P2-012: オガサワラオオコウモリの冬季集団ねぐらでの社会構造

*杉田 典正1, 藤井 章2, 稲葉 慎3, 上田 恵介4
1立教大学大学院理学研究科, 2東京大学総合研究博物館, 3小笠原自然文化研究所, 4立教大学理学部

 ほとんどのオオコウモリ属は、日中、休息地(ねぐら)を樹上に形成する。オーストラリアなどでは、ねぐらに利用される林は伝統的に何十年も使用され続けるが、繁殖サイクルや食物となる植物のフェノロジーによってねぐら林を移動させることもある。オオコウモリ属には、ねぐらを中心にして高い社会性があるといわれているが、詳しい研究例はほとんどない。
 オガサワラオオコウモリPteropus pselaphonは少なくとも30年の間、父島のある決まった森に集団ねぐらを形成してきた。この集団ねぐらは冬季のみ形成され、それ以外の季節は分散し、季節的にねぐらを移動させるという、他のオオコウモリ属では知られていない行動が報告されている。そこで演者らはオガサワラオオコウモリの集団ねぐらの形成理由を解明することを目的に、2003年6月中旬から2004年5月上旬まで、冬季集団ねぐらおよび集団化前のねぐらにおいて、行動観察をおこなった。今回、そのデータに基づき、オガサワラオオコウモリの社会構造の核心部分である冬季集団ねぐら内における社会関係について報告する。
 観察の結果、冬季集団ねぐらの群れ(グループ)に、毎回利用される特定の樹木が数本あり、それぞれの樹木で休息している個体群は性別や成長段階によって3つに分けられた(サブグループ)。(1)多数のメスと少数のオス成獣を含むサブグループと(2)オス成獣がほとんどのサブグループ、(3)オス亜成獣とメスが含まれるサブグループであった。交尾は、(1)のサブグループ内のメスとオス成獣間で起きた。一方、観察例は少ないが、集団化前のねぐらは単独または授乳中の親子の個体であり、交尾は観察されなかった。
冬季集団ねぐらにおける社会関係と、季節的なねぐらの利用様式の変化などから考察すると、冬季のねぐらの集団化は繁殖行動を目的としたものであることが強く示唆された。


12:30-14:30

P2-013: シジュウカラでは、どんなオスが父性を失い、どんなオスが婚外父性を得ていたか?

*河野 かつら1, 山口 典之2, 矢原 徹一1
1九大・理・生物, 2立教大・動物生態

一夫一妻鳥類において、メスが夫以外のオスと交尾している、という観察事例が蓄積されてきている。シジュウカラParus majorにおいて、オスのいくつかの形質に注目し、オスが自身の父性を失う、また婚外父性を獲得するのにどのようなパターンがみられるのかについて調査した。1999年と2000年に福岡市油山にて捕獲されたシジュウカラの家族を対象に、親子判定を行った。[調査1]どのようなオスが父性を失っていたか?巣内の婚外ヒナ率と、社会的な父親のいくつかの形質および社会的ペア間の血縁度の関係を調べた。体サイズ、装飾形質、個体あたりの近交係数と巣内の婚外ヒナ率に有意な関係がみられた。体や装飾の小さいオスほど父性を失っていたので、自身の父性の保持にはオス間闘争の影響が大きいのかもしれない。[調査2]どんなオスが婚外父性を得ていたか?婚外ヒナごとに育ての父(メスにとっては社会的な夫)の形質と遺伝子の父(メスにとっては婚外交尾相手)を対として、両者の形質を比較した。装飾形質の大きいオスが婚外父性の獲得によく成功していた。また、メスは自分の社会的な夫よりも血縁の遠いオスとの間に婚外ヒナをもうけていた。


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P2-014: 制約された形質相関:サンショウウオの卵サイズと表現型可塑性

*道前 洋史1, 西村 欣也2, 若原 正己1
1北海道大学大学院理学研究科, 2北海道大学大学院水産学研究科

エゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)幼生のBroad-headed morph(頭でっかち)は特定の環境下で誘導され、また抑制されることが知られている表現型可塑性の一つである。その誘導要因は、同種や他種オタマジャクシの密度であり、抑制要因は周囲個体との血縁関係(血縁者との遭遇頻度)である。これらの要因は、自然条件下の生息地(池)間で大きく異なっており、生息地の幼生密度や血縁環境は、究極的にもその頭でっかちの発現に影響を与えている。すなわち、頭でっかちの発現に集団間の変異が存在する。高密度で血縁者との遭遇頻度が低い集団では、頭でっかちがより高頻度に発現し、低密度で血縁者との遭遇頻度が高い集団では、より低く発現した。
一般に卵サイズは幼生の生存、さらには適応度にも影響を与える形質である。そのため、卵サイズは幼生の生息環境の違いで変異を示すかもしれない。例えば、幼生密度が高く適当な餌が無い環境であれば、卵サイズは大きくなると期待される。また、社会環境も卵サイズに影響を与えることも報告されている。そうであれば、頭でっかち発現の地域間の変異と一致する可能性がある。また、この卵サイズと頭でっかち(表現型可塑性)の2形質は進化的に相関してきたことも予想される。本研究では、エゾサンショウウオの卵サイズと、その幼生の表現型可塑性である頭でっかちの発生率を、選択圧の異なる4つの生息地間で比較した。さらに、卵サイズと頭でっかちの形質相関も4つの生息地間で比較した。結果、生息地間で卵サイズと頭でっかちの発生率は大きく異なった。また、この2形質は相関していたが、集団間でその関係は変化しなかった。これは、制約された関係を示唆している。


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P2-015c: シロアリと卵擬態菌核菌の共生

*松浦 健二1,2
1ハーバード大学・進化生物, 2岡山大学・院・自然科学研究科

擬態は幅広い分類群に見られる戦術であり、「だます側」と「見破る側」の軍拡競争の好例として、進化生態学の分野では盛んに研究されてきた。高等動植物による巧みな擬態の例は無数に知られているが、菌類による擬態をご存知だろうか。ここで、世界初の「シロアリの卵に擬態するカビ」について発表する。シロアリのワーカーは、女王の産んだ卵を運んで山積みにし、世話をする習性がある。このようにしてできる卵塊の中に、シロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が見られる。この球体のリボソームRNA遺伝子を分析した結果、Athelia属の新種の糸状菌がつくる菌核であることが判明した。菌核とは菌糸が柔組織状に固く結合したもので、このかたちで休眠状態を保つことができる。卵塊中に菌核が存在する現象は、ヤマトシロアリ属のシロアリにきわめて普遍的にみられる。日本のReticulitermes speratusと同様に、米国東部に広く分布するR. flavipesおよび米国東南部に生息するR. virginicusも、卵塊中にAthelia属菌の菌核を保有することが判明した。シロアリは卵の形状とサイズ、および卵認識物質によって卵を認識する。この菌核菌はシロアリの卵の短径と同じサイズの菌核をつくり、さらに化学擬態することによって、シロアリに運搬、保護させている。シロアリは抗菌活性のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、様々な微生物の侵入から巣を守っている。卵に擬態することによって巣内に入り込んだ菌核菌は、一部が巣内で繁殖し、新たに形成された菌核はさらに卵塊中に運ばれる。卵塊中の卵よりも菌核の数の方が多いこともしばしばある。シロアリのコロニーが他の場所に移動する際や、分裂増殖する際には、菌核菌もそれに乗じて移動分散することができる。日本および米国におけるシロアリと卵擬態菌核菌の相互作用について議論する。


12:30-14:30

P2-016c: 単独性ハナバチは先に採餌された花を見分けられる?

*横井 智之1, 藤崎 憲治1
1京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室

ハナバチ類では効率的な採餌を行うための方法の一つとして、既に訪花して報酬を得た花に自らの匂いをマーキングし、同個体または同種他個体が報酬のなくなった花に再訪花するのを避けることが知られている。特にセイヨウミツバチ、マルハナバチ、ハリナシバチなどの社会性ハナバチ類では野外実験や人工花などを使って研究されており(Goulson et al.,1998)、前脚の分泌線からの分泌物をマーキングに利用しているとされる。匂いのマーキングには忌避効果の他に誘引の効果を持つものもあるとされている。一方、単独性ハナバチではこのようなマーキング行動についてはほとんど知られていない(Gilbert et al.,2003)。
 今回の実験では単独性ハナバチ類でも社会性ハナバチ類と同様、訪花した際の匂いのマーキング行動が存在するか否かを確認するために、4種の単独性ハナバチを対象として既に訪花された花に対して次に訪花する個体がどのような行動をとるのかについて検証した。方法は先に訪花された花を3分以内に同個体もしくは同種他個体のハナバチに提示した場合、その個体がとる行動を接近のみ・着地のみ・採餌の3パターンに分類し、その頻度を比較した。その結果、アカガネコハナバチ、ミツクリヒゲナガハナバチでは忌避効果を持つ匂いのマーキングの存在が示唆された。一方アシブトムカシハナバチやウツギヒメハナバチでは視覚により花の報酬の有無を確認していると思われた。


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P2-017c: 琵琶湖固有種であるハゼ科魚類イサザの雄が複数雌との配偶を拒否する理由

*高橋 大輔1, 麻田 葉月2, 武山 智博2, 高畑 美寿樹2, 加藤 励2, 安房田 智司2, 幸田 正典2
1京都大学大学院理学研究科動物生態学研究室, 2大阪市立大学理学研究科動物社会学研究室

琵琶湖の固有種であるハゼ科魚類イサザは,多くのハゼ科魚類と同様に,雄が石の下に造巣し,卵がふ化するまでの間保護を行う。本種の雄は1匹の雌と番うと,その雌の卵がふ化するまでの間,他雌が産卵しようとしても攻撃的に排除することが知られている。繁殖期における野外調査の結果から,産卵直後の卵群よりも,ふ化直前の卵群の方が卵数が少ないことがわかった。保護卵を食べていた保護雄はほとんどいなかったことから,保護の進行に伴う卵群サイズの低下は,雄の卵食が原因ではないと思われた。20%の巣において,水生菌に感染した卵群が見つかった。そのうちのいくつかは,マット状の水生菌に覆われていた。水生菌感染は卵発生が進んだ卵群で主に見られた。水生菌に感染した卵群における卵の生存率は著しく低かったことから,保護後期での卵群サイズの減少は,水生菌感染によるものと思われた。健康な卵群に比べて,水生菌に感染された卵群の方が卵数が多かったことは,大きな卵群ほど水生菌に感染する危険性が高いことを示唆する。以上の結果から,イサザの雄が複数雌との産卵を拒否することは,卵群サイズの増加に伴う水生菌感染の危険を避けるためであると思われた。最後に,イサザにおいて繁殖成功を最大にする最適卵群サイズが存在する可能性について考察する。


12:30-14:30

P2-018c: 繁殖アマゴにおける体側模様の二型性と文脈依存メス擬態

*鹿野 雄一1, 清水 義孝2
1三重大学 生物資源, 2三国谷調査会

繁殖アマゴにおける動的なメス擬態戦略について報告する。成熟メスは産卵が近づくにつれて、側線から下が真っ黒に色づく。一方、成熟オスは側線に沿って一本の黒い縞模様が入る。ただし、劣位オスの一部(約60%)は側線から下が真っ黒に色づき、メスに非常によく似た体側模様を呈する。この擬態により、擬態しない劣位オスよりも高い確率でスニーキングに成功していた。このような社会的地位と体側模様の関係は動的なものであり、はじめは劣位でメス擬態していた個体が優先オスになると、本来のオスの体側模様になることが確認された。その逆のパターンも見られた。以上のことについて定量的に評価する。


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P2-019c: ハサミムシ類の系統関係と交尾行動にみられる左右性

*上村 佳孝1
1立正大学・地球環境科学部

 直翅系昆虫の一群であるハサミムシ類(Suborder: Forficulina)の雄の交尾器形態は多様であり,交尾器形態の進化の探求に格好の機会を提供している.virgaと呼ばれる挿入器が2本のグループ(ムナボソ,ドウボソ,マルムネ,オオハサミムシの各科)と1本のグループ(クロ,テブクロ,クギヌキハサミムシ各科)があり,従来,形態形質に基づく分岐解析から,前者から後者が派生した(=2本のうちの一方が失われて1本になった)と考えられてきた.しかし,分岐解析において,「挿入器が2本ある状態が祖先的である」と仮定されているため,交尾器の進化に関する議論は循環論に陥っており,各研究者による系統仮説も多くの点で一致をみていなかった.
 本研究では,このような状況を解決するため,7科16種のハサミムシ類についてミトコンドリア16S,核28SのrRNA遺伝子の部分塩基配列による分子系統解析をおこなった.両遺伝子から推定された内群関係はよく一致し,結合データの解析および最尤法による有根系統樹は以下の諸点を明らかにした.1.挿入器を2本を持つ状態が祖先的であり,1本しか持たないグループ(3科)はそこから派生した単系統群である.2. 挿入器を1本しか持たないグループの姉妹群はオオハサミムシ科である.
 また,「なぜあるグループは1本の挿入器を失ったのか?」という疑問に対しては,これまで明確な仮説が与えられてこなかった.今回,2本の挿入器を持つ各グループのハサミムシ類について,交尾器の形態,挿入器の使用,交尾行動を検討したところ,オオハサミムシにおいて,他のグループでは観察されていない一方の挿入器(右)に偏った使用が観察された.これらの観察結果を得られた系統樹の上で議論し,ハサミムシ類における挿入器の退化過程について仮説を提示したい.


12:30-14:30

P2-020c: アライグマとタヌキの資源利用特性の比較

*岡部 史恵1, 揚妻 直樹2
1北大 農学研究科, 2北大 北方生物圏フィールド科学センター

日本には様々な移入動物が生息しており、在来種に与える影響が懸念されている。ここでとりあげるアライグマ(Plocyon lotor)も日本に移入された動物であり、ニッチが近いとされるタヌキ(Nyctereutes procynoides)と競争が生じ、これを排除してしまう危険性が指摘されている。この2種間の競合の程度や排除の可能性を検証するには、それぞれの資源利用特性を明らかにしておく必要がある。そこで、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター苫小牧研究林において、同所的に生息するアライグマとタヌキの資源利用特性を明らかにし、両種の関係について検討した。調査地に約800mの間隔で8列5行のグリットを設け、その40ヶ所の交点に調査プロットを設定した。2003年6月から11月にかけて、各プロットに赤外線反応式の自動カメラを設置し、その撮影率から両種の土地利用頻度を求めた。また、各プロットに20m×20mのコドラードを設け、ミクロスケールの環境要因として、昆虫類・果実・水場・森林構造などを調べた。さらに、プロットの中心から400m以内に含まれる林相をマクロスケールの環境要因とした。
両種の土地利用頻度と環境要因の関係から、アライグマとタヌキの環境選択性は全般的に似てはいるものの、広葉樹林・針葉樹林・下層植生構造などに対する選好性に違いがみられた。また,タヌキはアライグマに比べて昼間の活動性が高いこともわかった。アライグマとタヌキでは選好・忌避する環境要因や活動時間帯が異なっていたことから、本調査地では両種間の競争はある程度回避されていると考えられる。しかし、自然界における動物の種間関係は固定的なものではなく、人為的な攪乱などによって変動しうるものである。従って、両種の関係については、人間活動の影響も考慮しながら、慎重に検討していかなくてはならない。


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P2-021c: ヨツモンマメゾウムシの地理的系統内で生じた競争様式と生活史形質の変異

*真野 浩行1, 徳永 幸彦1
1筑波大学・生命共存

 分断化された資源を利用する生物個体群では、それぞれの資源をめぐる個体間の局所的な競争が、個体群全体の動態や生活史形質の進化に対して重要な役割を果たす。ヨツモンマメゾウムシは、豆を資源として利用し、貯穀害虫として知られている生物である。幼虫期間中に豆の内部で生活するため、個々の豆で局所的な競争が生じる。局所的な幼虫間の競争結果は、Nicholsonの競争様式の分類に基づいて、勝ち抜き型と共倒れ型競争に分類される。ヨツモンマメゾウムシの幼虫は、豆内の種内競争において、地理的系統間で異なる競争様式を示すことが知られている。また、これらの競争様式は、線形の遺伝様式によって決定していることが報告されている。
  今回、C-valueを指標にして、ヨツモンマメゾウムシのニュージーランド系統から、人為的選択や飼育環境の違いにより作成された集団ごとに、幼虫が異なる競争様式を示すことを報告する。勝ち抜き型競争を示すC-valueの高い系統、共倒れ型競争を示すC-valueの低い系統という2極化を示した地理的系統間の変異と比較すると、ニュージーランド系統内では、C-valueの極端に高い値、低い値を示す集団だけでなく、中間の値を示す集団が存在した。また、発育日数や体サイズ、産卵数においても異なる集団間で変異が確認された。ヨツモンマメゾウムシの地理的系統の調査では、C-valueと、成虫の体サイズとの正の相関が示されており、競争様式と、生活史形質との関係が注目された。そこで、異なるC-valueの値を示すニュージーランド系統由来の集団を用いて、C-valueと、羽化日数や体サイズ、産卵数などの生活史形質との関係を実験的に調査を行った。この結果に基づいて、ヨツモンマメゾウムシにおける幼虫の競争様式と生活史形質の関係を議論する。


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P2-022c: 個体間関係はエゾシカ (Cervus nippon yesoensis) のオスの空間利用に影響を与えるか?

*島 絵里子1, 齊藤 隆1, 高橋 裕史2, 梶 光一3
1北海道大学フィールド科学センター, 2北海道大学大学院獣医学研究科, 3北海道環境科学研究センター

2個体の個体間関係は社会構造の基本である。これまで直接観察が困難な大型哺乳類では、VHFテレメによる追跡を行い、ホームレンジの空間配置から個体間関係を推定してきた。しかし例えば、2個体のホームレンジが重複していても時間軸では忌避することもあり、時空間的な分析が必要である。本研究では、GPSテレメによりシカ3頭を同時に追跡して、時空間的な個体間関係を分析し、動物の社会構造の研究におけるGPSテレメの可能性と制限について検討した。
調査は北海道南西部に位置する洞爺湖中島のエゾシカ閉鎖個体群を対象に行った。2003年3月に成獣のオスジカ3頭を捕獲し追跡を開始した。全個体ともに、GPSテレメは3時間おきに1日8点を測位し、1年間追跡できるように設定した。しかし、6月以降GPS測位成功率が急激に低下したため、全個体とも測位成功率が5割以上を保った3月から5月のデータを分析に用いた。各個体のホームレンジとコアエリアは95%, 50%固定カーネル法を用いて推定し、ホームレンジサイズ、ホームレンジの安定度の変化を分析した。また、時空間軸での個体間関係を分析した。
オスジカは安定した空間利用を示さず、ホームレンジの配置とサイズは期間ごとに変化した。空間的には、オスのホームレンジは他のオスと重複し、重複率も期間ごとに変化させており、排他的な個体間関係は認められなかった。また、オスジカはホームレンジが重複している場所を他のオスの存在とは無関係に利用しており、時間軸においても忌避する個体間関係は認められなかった。
以上の結果にもとづいて、オスジカ同士の個体間関係が空間利用に与える影響と、動物の社会構造の分析におけるGPSテレメの有用性について論議する。


12:30-14:30

P2-023c: 真似るべきか、真似ざるべきか

*上原 隆司1, 横溝 裕行1, 巌佐 庸1
1九州大学・理・生物

 グッピーのmate-choiceでは、元々はAという雄を好んでいた雌も、他の雌がBという雄を選択した様子を見せてやると、好みの逆転が起こりAよりもBを好むようになることがある。雌は周りで他の雌がmate-choiceを行っていない状況では自分自身で雄を見比べて選択を行わなくてはならないが、他の雌の選択を観察したときには、「その雌の選択した雄が、その雌にとっては良い雄である」という情報も使って選択を行うことができる。雌が他の雌の選択を真似して自分が元々好まなかった雄を選ぶ行動はmate-choice copying と呼ばれる。Mate-choice copyingは選択の対象となる複数の雄の間の見た目に差がないほど観察されやすく、また若い雌ほどcopyをしやすいことが観察されている。
 本研究では数理モデルを用いて、どのような条件で雌はより良い雄を選ぶためにcopyをするべきなのかを解析した。雄の質が正規分布に従っており、雌は雄の体の見た目や求愛行動などから雄の質を判断すると考える。しかし、雌は雄の見かけから実際の雄の質をそのまま受け取るのではなく、実際の質に正規分布に従うノイズが入った見かけの質を受け取るとする。雌は経験によってどのような雄が良い雄かを知ることができ、齢を重ねた雌ほどノイズの分散が小さくなると考える。雌は2匹いる雄のうち、より質の期待値の高い雄を選択するとした。
 まず1匹の独立な選択を行った雌を観察した場合には、自分から見た2匹の見かけの質の差が小さいほど、また若くて雄を見る目のない雌ほどcopy をした方がより良い雄と交配でき、有利であるという結果が得られた。この結果はこれまでの実験・観察の結果に一致する。それから複数の雌の選択を観察した場合について考え、1匹の雌の独立な選択を観察した場合との違いを考察する。


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P2-024c: 腸内共生細菌伝播時におけるマルカメムシの行動

*細川 貴弘1, 菊池 義智2, 深津 武馬1
1産総研・生物機能工学, 2茨大・院・理

 カメムシ類の多くの種では中腸盲嚢内に共生細菌が存在し、宿主カメムシはこの細菌なしには正常な成長、繁殖ができない。共生細菌は一般的に母子間伝播され、母カメムシが産卵時に自分の持つ共生細菌の一部を卵のそばに排出し、孵化幼虫がこれを摂取する。共生細菌が産卵から孵化までの間カメムシの体外に放置されるという点で、この伝播様式は比較的確実性の低いものと考えられる。
 マルカメムシでは、母親が共生細菌を複数の「カプセル」に封入して卵塊のそばに産みつけ、孵化幼虫がカプセルに口吻を刺して細菌を摂取する。カプセルには厚い外皮が見られ、その内部には共生細菌だけでなく多量の分泌物様物質も存在するため、母親にとってカプセル生産は物質的なコストとなっていると思われる。本講演では、母親のカプセル生産への投資量について調査、実験をおこない、その適応的意義について考察する。
 野外で採集した卵塊におけるカプセル1つあたりの卵数は3.6±0.7個(平均±標準偏差、範囲2-5.5個)であった。次に、1つのカプセルから何匹の幼虫が細菌を摂取できるのかについて明らかにするために実験をおこなった。10匹の幼虫にカプセル1つを与え、その後ダイズ株上で飼育したところ、正常に成長できた個体は6.1±1.3匹(範囲4-8匹)であった。すなわちカプセル1つには幼虫約6匹分の共生細菌が含まれていることになる。この結果は、野外における母親はほとんどの場合で子が必要とする数よりも多めにカプセルを産んでいることを示している。産卵から孵化までの期間は約7日であり、この間にカプセルあるいはカプセル内の細菌が失われる可能性がある。母親はこれに備え、子に確実に共生細菌を伝えるためにカプセルを多めに産んでいるのかもしれない。


12:30-14:30

P2-025c: 採食地におけるマガンの時空間分布変化とその決定要因

*天野 達也1, 牛山 克己2, 藤田 剛1, 樋口 広芳1
1東京大学・生物多様性科学研究室, 2美唄市

食物資源に対する動物の分布決定プロセスを明らかにすることは、その動物個体群と生息環境との関係を理解するために重要である。最適採食理論によれば、個体は最も採食効率の高いパッチを選択して利用することが予測される。しかしながら、外観から資源量推定が困難な食物を利用する動物が、どのような採食パッチ選択を行うかはあまり知られていない。そこで本研究では、外観からの資源量推定が困難だと考えられる、藁に混じった落ち籾を主要な食物とするマガン(Anser albifrons)において、個体分布が変化する食物資源の時空間分布によって決定されているのかを明らかにすることとした。
マガンの渡り中継地として知られる北海道の宮島沼で、道路に囲まれた550×550m区画の大スケール及び個々の田という小スケールの採食パッチに関して、食物資源分布と採食群分布の関係を明らかにした。大スケールでの食物資源分布の変化については、6つのサンプル区画における採食個体数と食物減少量の関係から、全ての区画における食物密度の日による変化を推定した。小スケールでの食物資源分布の変化は、3つのサンプル区画から均等に20の田を選び、実際に落ち籾密度を計測した。
大スケールにおいては、秋の滞在中期、後期及び春の滞在中期、後期において、新しく採食群が利用したパッチの平均食物密度は、ランダムに選び出したパッチの平均食物密度と変わらないか、むしろ低いことが示された。小スケールのパッチ選択においても同様の結果が得られた。以上の結果より、外観から資源量の推定が困難な食物を利用するマガンは、食物密度の高いパッチを選択的には利用していないことが示唆された。このような条件の環境下において、マガンがどのような採食パッチ選択/放棄の戦略をとっているのか、過去の研究結果も含めて議論する。


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P2-026c: エゾクロテンの行動圏と生息地利用

*三好 和貴1, 東 正剛1
1北大・地球環境

エゾクロテン (Martes Zibellina brachyura) は、ロシアのタイガ地帯、朝鮮半島北部、中国の一部地域に分布するクロテンの亜種とされる。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて本亜種は、DD(データ不足)にランクされており、現在まで生態学的な研究はほとんど行われてこなかった。本研究では、エゾクロテンの保護管理を視野に入れた生息環境の評価を主な目的として、行動圏サイズの推定と、植生スケール・ミクロスケール、2つの空間スケールにおける生息地の環境利用の解明及び考察を試みた。
調査期間は2000年から2003年、北海道北部において野外調査を行った。行動圏サイズの推定と植生スケールでの環境利用の分析は、テレメトリー法を用いた。また、ミクロスケールにおける環境利用の分析では、ラジオトラッキングとスノートラッキングによって判明できた生息地内の利用場所と利用可能場所において環境調査を行い、どの環境要因がクロテンの行動に影響を及ぼしているかを解析した。
テレメトリー調査の結果、行動圏を固持していないと思われる個体が両性において確認されたため、行動圏面積は得られたポイント数と最外郭面積との間の関係が漸近的と見なされる個体においてのみ算出を行った。その結果、行動圏面積は0.5 - 1.78km2とばらつきが見られ、雄間においてはいくつか重複が確認された。生息地利用においては、植生スケールでの環境選好性は明確ではなかったのだが、ミクロスケールの分析において、樹冠植被率の高い環境や大径木の存在する環境、倒木などの枯損木が多い環境への選好性が明らかとなった。また積雪期の休息時の利用場所として積雪下での倒木と地面との隙間や樹木の根にできた空間の利用が頻繁に観察された。以上のことからエゾクロテンは老齢林に特徴的な森林環境を好む傾向が窺える。


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P2-027c: コオロギの歌の配偶者選択における役割 - 鍵となるパラメーターの特定

*角 恵理1
1東京大学大学院 総合文化研究科

 コオロギの歌は種特異的であり、種認識において重要な役割を果たすと考えられる。日本列島に分布する3種のエンマコオロギ属コオロギ(エゾエンマコオロギ、エンマコオロギ、タイワンエンマコオロギ)のメスに対してプレイバック実験を行い、配偶者選択において鍵となる歌のパラメーターを調べた。
 第一に、3種のメスに対して、3種のオスの歌を再生してきかせた。その結果、分布の重ならない2種間ではお互いの歌を選択しあう割合が高かったが、分布の重複する2種間ではそのような誤判別はまれであった。すなわち、分布の重複する2種の間では、自種の歌を正確に判別しており、交配前隔離に歌が有効に機能していることが示された。
 第二に、そのような判別は歌のどのパラメーターの違いに基づくものかを明らかにするために、コンピューターで合成した歌を再生しメスの反応を調べた。その結果、歌のパルスペリオドに関しては3種の平均値の歌をプレイバックした場合には、自種の平均値の歌を選択する傾向が認められた。一方、優位周波数については、そのような傾向は認められなかった。チャープ繰り返し率、パルス数については、3種のメスに共通して、チャープ繰り返し率が高くなるほど、パルス数が多くなるほど、選択するメスの割合が高くなった。
 以上の結果から、コオロギの歌は同所的に分布する近縁他種から自種を正確に判別するのに有効であること。その際の自種の認識には、歌のパルスペリオドが重要であることが示された。また、メスは、自種の歌がとりうる値の範囲を超えて、チャープ繰り返し率が高く、パルス数が多い歌を選択すること、すなわち超正常刺激に対する好みが示された。


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P2-028c: 雌が単婚制のキアゲハにおける有核精子と無核精子の動態

*小林 泰平1, 渡辺 守1
1筑波大学・環境科学

鱗翅目昆虫の精子には有核精子と無核精子の2型があり、無核精子は雌が多回交尾を行なう種における精子間競争で重要な役割があるとされてきた。アゲハ類では雌が多回交尾制の種が多く、例えばナミアゲハの雌は生涯に約3回の交尾を行なう。しかし、キアゲハではほとんどの雌が生涯に1回しか交尾を行なわず、単婚的であることが示唆されてきた。したがって、単婚的なキアゲハでは、交尾時に雄が雌へ注入する精子数や投資量、雌の注入物質の利用状況、雌体内における精子の移動状況などに違いがある可能性が高い。そこで、幼虫から飼育し羽化させたキアゲハの処女雌と童貞雄をハンドペアリングによって交尾させ、交尾直後から7日目までの雌を適宜解剖し、交尾嚢内と受精嚢内の有核精子数と無核精子数、精包重量と付属腺物質重量の経時的変化を調べた。注入された精包は約7.6mgで、その精包には約100本の有核精子束と、約18万本の無核精子が含まれていた。精包は交尾後6日経ってから半分以下の重量に減少した。有核精子は交尾後3時間目から、無核精子は交尾直後から受精嚢へ移動を開始した。多回交尾制の他種に比べ精包の崩壊速度が遅いことは、キアゲハの雌が2回目の交尾を受け入れるとしても、初回交尾との間隔が長くなり、結果的に雌の生涯交尾頻度が低くなることを示唆している。またキアゲハの童貞雄が初回交尾で注入する有核精子束数は、多回交尾制のナミアゲハの約3倍であることが分かった。したがって、キアゲハとナミアゲハの雌が生涯に受け取る有核精子数はあまり違いがないといえる。交尾させた雄を2日後に再び未交尾雌と交尾させたところ、注入した精包の重量は初回交尾の約35%、付属腺物質は約25%だった。精包中の有核精子束数と無核精子数は、初回交尾と2回目交尾で有意な違いは認められなかった。これらの結果をもとにキアゲハの雌の単婚制を考察した。


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P2-029c: ヨツモンマメゾウムシにおける産卵行動と均等産卵分布の実現:ニューラルネットモデルによる意思決定の解析

*瀬戸山 雅人1, 嶋田 正和1
1東京大学広域システム

昆虫において、一見すると人間の脳のように高度な情報処理能力がなければ実現できないような精錬された行動を示すものがいる。発表者は、その行動の裏にある「昆虫でも実現できるようなシンプルな情報処理によるシンプルな行動決定のルール」の観点から、ヨツモンマメゾウムシの産卵時にみられる均等産卵分布について、どのような行動決定のルールがこの分布をもたらしているのかを研究してきた。
雌のヨツモンマメゾウムシは、すでに卵を多く産みつけられた豆に対して産卵を避け、卵のついていない豆を選んで産卵することにより、豆当りの卵数が均等になる。その結果、豆内での幼虫の種内競争が均等に軽減される。本研究では、卵の均等分布をもたらすこの行動がどのような知覚情報をどう用いて実現されているかを、ニューラルネットワークモデルを利用して解析した。具体的には、単純なフィードフォーワード型のニューラルネットワークモデルを用意して、これに実際のヨツモンマメゾウムシの行動パターンを教師信号として誤差逆伝播法を用いて学習をさせた。このときヨツモンマメゾウムシが意思決定に用いている情報として、現在いる豆の卵数、1つ前の豆の卵数、2つ前の豆の卵数、蔵卵数、前回の産卵からの経過時間、他の雌との遭遇回数を使用した。ニューラルネットが教師信号を十分に学習したのを確認した後は、モデルの汎化性のテストを行った。汎化性のテストは、学習済みのニューラルネットを搭載した仮想のヨツモンマメゾウムシを豆を配置した仮想環境に置き、その環境で均等産卵が達成できるかで評価した。汎化性のテストの結果としてモデルが産卵行動の特徴を実現できていることが確認されたら、ニューラルネットの中で各情報がどのように重み付けされているかを解析した。


12:30-14:30

P2-030c: 寄生バチMelittobiaの極端な雌偏向性比:長い羽化期間と雄間闘争の関係

*安部 淳1, 上村 佳孝2, 嶋田 正和1
1東大・広域システム・生物, 2立正大・地球環境科学

 ヒメコバチ科のMelittobiaは、同じ寄主からの羽化個体どうしで交尾を行うため、性比は局所的配偶競争(LMC)モデルに従うと予想される。しかし、Hamilton (1967) のモデルでは、寄生する母蜂数が増えるに従い雌偏向性比から1:1性比に近づくと予想されるのに対し、M. australicaの実際の性比は依然として極端な雌偏向(雄率約2%)のままである。これまでに、雄成虫は兄弟どうしであっても殺し合いの闘争を行い、遅れて羽化する雄は殺されやすいことを明らかにしてきた。このため、母蜂は既に羽化している雄がたくさんいるような状況で、後から羽化する雄をあまり産まないと予想される。(Abe et al. 2003a, 2003b)。
 2頭の母蜂が1つの寄主に産卵する状況において、両者の子供の性比をマイクロサテライトを遺伝マーカーに用いてそれぞれ測定した結果、両者の息子は集中することなく比較的長い期間をかけて、少数ずつ羽化してくることがわかった。母蜂は共に、雄間闘争を避けるように時間間隔をあけて雄を少数ずつ産んでいると示唆される。では、本当に極端な雌偏向性比が適応的なのか?今回は、動的ゲーム理論を用いて進化的に安定な性比を求めた結果について報告する。2頭の母蜂が同一寄主に産卵する状況を考える。既に羽化していると期待される自分と相手の息子数によって、新たに産卵されて羽化する雄の生存率が決る。さらに、雄を産んで生き残った場合はその雄が生存している限りは交尾を続けるので、その雄の残す将来の繁殖成功についても考慮し、生涯を通して最適に振る舞えるような雌雄の産み方を予測する。Melittobiaのおかれている長い羽化期間と雄間闘争がある状況において、どのようなスケジュールが適応的なのかを考察する。


12:30-14:30

P2-031c: 海藻穿孔性甲殻類コンブノネクイムシではなぜ複数腹の幼体が1夫1妻の親と同居するのか?

*青木 優和1, 山口 あんな2
1筑波大学下田臨海実験センター, 2国立国会図書館

 コンブノネクイムシは、褐藻類の茎部に穿孔造巣し、寄主である海藻を生息場所および餌資源として利用する端脚目の海産小型甲殻類である。静岡県下田市大浦湾において本種が寄主とするワカメの藻体は 12月から 3 月までは生長するが、生長停止後は崩壊し始め、5 月までには消失する。寄生率はワカメの生長期である 1 月から 3 月にかけて増大し 90% 以上に達し、坑道状の巣内では、一夫一妻のペアが最大 3 腹分の幼体と同居する。体長組成解析と野外飼育実験により、初令幼体が新規加入サイズに成長するまでに約 1 ヶ月、加入後ペア形成して繁殖開始するまで約 2 週間、成熟メスは約 1 ヶ月間に脱皮成長を繰り返しながら最大 3 回産仔、寿命は約 2 ヶ月半であることが分かった。親と同居する幼体のサイズは体長 1.0-4.5 mm のものであり、このうち体長 2.0 mm 以上のものは新規加入個体としての造巣が可能なサイズであり、親との共存巣から取り出したこのサイズクラスの幼体は単独で造巣可能なことも確認された。加入初期のコンブノネクイムシでは、巣の容積増加率がワカメの茎部容積増加率に追いつかないため、ワカメ茎部の利用率は低下するが、2 月中旬に入ると上昇に転じた。1 巣当たりの個体数は巣容積の増加に対して成体がほぼ一定であるのに対して、幼体は次第に増加する。しかし、親が 1 腹分の仔のみと同居の場合には成体のみの場合と資源消費率に差がなく、0.5cm3 を越える巣の拡張には、2 腹以上の幼体との共存が必要であった。幼体にとって早期の移動分散は捕食や流失といったリスクを伴う。したがって、幼体はできるだけ長くワカメに留まり、分散後すぐに繁殖するのがよい。コンブノネクイムシは 2 腹以上の幼体の親との同居によって、短期的に増大するワカメ資源を集中的かつ効率的に利用していると考えられる。


12:30-14:30

P2-032c: 雌の複数回交尾の進化:アズキゾウムシを用いた物質的な利益の検証

*桜井 玄1, 粕谷 英一1
1九州大学 生物学科

 多くの動物で雌は複数の雄と交尾をする (多回交尾)。しかし、メスにとって、交尾には時間的及びエネルギー的コストだけでなく、雄による傷害及び病気への感染などのコストを伴う。また、雌が持つ卵数が、雄が持つ精子数に比べて極めて少ないことを考えれば、雌は一回の交尾で自分の卵を受精させるのに十分な量の精子を得られることが多い。よって、他の何らかの要因がなければ、メスは複数の雄と交尾をすることによってコストを被るはずである。では、なぜ雌は多回交尾をするのか?
 雌が多回交尾をする要因のひとつとして、特に昆虫では、「栄養的な寄与」が大きな要因であると考えられている。つまり、雄は交尾の際に、雌に対して精液などを通して何らかの栄養物質を送っているというものである。交尾中に精包を雌に渡す昆虫以外でも、栄養的な寄与によって雌の卵数が増加することが多くの研究で示唆されている。
 しかし、それら精包を渡す以外の昆虫における研究では、多回交尾をする種で、一回だけ交尾をさせた雌と多回交尾をさせた雌の産卵数などを比較しているが、その実験デザインでは、多回交尾による卵数の増加が栄養のせいなのか、それとも受け取る精子数の増加のせいなのかを実は区別できていないなど、検討できない問題がある。
 アズキゾウムシには雌が一回しか交尾をしない系統と多回交尾をする系統が存在する。本研究では、多回交尾系統の雄を一回または二回交尾させた雌の産卵数と一回交尾の雄を一回または二回交尾させた雌の産卵数を比較するという新しい実験デザインを用いることで、この問題に取り組んだ。


12:30-14:30

P2-033c: アカネズミApodemus speciosusの雌におけるテリトリー性とその防衛行動

*坂本 信介1
1都立大・理・生物

雌間テリトリーを持つ小型哺乳類では、そのテリトリー性が、空間分布、個体数変動、分散行動などのメカニズムを理解する上で、極めて重要な要因であると考えられる。小型哺乳類の雌間テリトリーの防衛において、最も重要な役割を果たしているのは、テリトリーオーナーによるマーキング(Viitala & Hoffmeyer 1985)と攻撃行動(Ims 1987; Koskela et al. 1997 )であると考えられている。アカネズミ属Apodemus は、森林性ネズミ類の中では、古くから多くの生態学的研究に用いられてきた。しかし、雌のテリトリー性については、繁殖期における排他的行動圏から推測されてはいるものの、他の証拠は報告されていない。日本固有種のアカネズミにおいても、実験室内でのマーキング行動の検出の試みはあったものの、攻撃行動については調べられていない。また野外で調べられたことはない。
これらの背景を踏まえ、アカネズミの雌がテリトリー性を持ち、テリトリー防衛行動を行なっているかについて調べるために、長期的かつ高頻度のmark and recaptureのデータから繁殖雌の侵入・定着パターンの検出および野外における闘争実験を行なった。
繁殖雌の侵入・定着パターンから、定着に成功した雌の行動圏は、侵入後、早い段階から定住雌の行動圏と明確な境界を持つようになること。一方、定着に失敗した雌の行動圏は、定住雌と行動圏が重なったまま消失することなどが明らかになった。
 野外における闘争実験の結果から、繁殖雌は侵入雌に対し攻撃行動を行い、その頻度がテリトリー内において高く、テリトリー外では低いことなどが明らかになった。
今回の報告では、これらを踏まえて、アカネズミの雌におけるテリトリー性とその防衛における攻撃行動の重要性について論じたい。


12:30-14:30

P2-034c: 矚??矚??蕁??矚??矚??繹??絲??茵??

*井上 牧子1, 遠藤 知二1
1神戸女学院大学人間科学

 京都府京丹後市の箱石海岸では、今までの野外調査から8種のツチバチ類が生息し、それらの生息密度もきわめて高いこと、またいくつかの海浜植物ではツチバチ類が重要なポリネーターとなっていることなどが明らかになった。このように、ツチバチ類が海岸砂丘域において多様で高密度に生息できる要因のひとつは、それらのホストであるコガネムシ幼虫の多様性や生息密度の高さにあると考えられる。しかし、ツチバチ類成虫の地中での生態はほとんどわかっておらず、ホスト利用や寄生行動に関しても、ごく断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、同海岸でも特に個体数の多い、オオモンツチバチ、キオビツチバチ、ヒメハラナガツチバチの3種について、飼育個体を用いた寄生実験と寄生行動の観察を行った。実験にはシロスジコガネ、サクラコガネ属、ハナムグリ類の幼虫を用い、飼育容器にツチバチ類とコガネムシ幼虫を1個体ずつ入れ、1日後に寄生の成否を確認した。その結果、オオモンツチバチはシロスジコガネ(寄生成功率38%)に、キオビツチバチはハナムグリ類(50%)に、ヒメハラナガツチバチはサクラコガネ属の2種(ヒメサクラコガネ22%、アオドウガネ71%)とシロスジコガネ(5%)に寄生し、これら3種のツチバチ類ではホスト種が異なる傾向がみられた。各種ツチバチ類とそれらが実験下で利用したホスト種は、実際に同海岸における生息場所の分布が大きく重複しており、それぞれのコガネムシ幼虫が野外でも主要なホストとなっていると考えられる。また、利用したホストサイズについてみると、オオモンツチバチとヒメハラナガツチバチではホストサイズの幅が広く(オオモンツチバチ0.48g-2.92g、ヒメハラナガツチバチ0.36g-2.21g)、これはツチバチ類成虫の体サイズの性差と関連していると考えられる。さらに各種の攻撃行動の観察結果をもとに、攻撃行動の特徴や種間の相違についても報告する。


12:30-14:30

P2-035c: ホストの個性を活かす-性質が異なる寄主に対するアオムシコマユバチによる行動操作様式の比較-

*田中 晋吾1, 大崎 直太1
1京都大学農学研究科昆虫生態学研究室

 寄生性昆虫の中には、寄主体内で化学物質を分泌し、寄主の行動を変化させるものがいる。この寄主操作として知られる現象は、寄生者の生存を向上させるように機能するが、寄生者が変化させることができる寄主行動の範囲には当然限界があり、寄主本来の性質を大きく外れることはないものと考えられる。そのため、寄主を操作することで適応度が高まるならば、積極的な操作が好まれるだろうし、操作しても効果が望めないのであれば、積極的に操作せず他の要素を優先するだろう。寄主操作には高度な特異性が要求されると考えられるが、同じ寄生者が寄主の性質に合わせてどこまで特異性を発揮できるのか興味深い。
 多寄生性寄生蜂アオムシコマユバチは、自らの繭塊を二次寄生蜂から守るために、寄主幼虫オオモンシロチョウの行動を操作することが知られている。本種寄生蜂は終齢の寄主幼虫から脱出するとその場で繭塊を形成するが、寄主幼虫はすぐには死なずにその場に留まり、繭塊に近づくものに対して威嚇をする。本種寄生蜂の利用する寄主はオオモンシロを含めてわずか4種ほどだが、その性質はきわめて対照的である。警告色をした群集性のオオモンシロとエゾシロチョウは行動も比較的活発だが、保護色で単独性のモンシロチョウとエゾスジグロシロチョウはおとなしい。このような寄主幼虫の性質の違いは、二次寄生蜂からアオムシコマユの繭を防衛する効果に影響を与えるかもしれない。
 寄主操作の効果が寄主の性質を反映したものであれば、前2者では寄主操作の効果は高いものと思われるが、後2者では寄主操作の効果はあまり期待できないだろう。本研究では以上の予測を検証した上で、操作することで得られる利益が少ないと思われるモンシロやエゾスジグロを利用することのメリットを、主に産卵数などの他の寄主利用に冠する要素との兼ね合いによって説明する。