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[要旨集] ポスター発表: 個体群生態
- P2-036: ミズナラの萌芽再生実生のデモグラフィー (壁谷)
- P2-037: アオダモの萌芽発生に対する光環境及び地上部除去の効果 (滝谷, 渡辺, 大野, 梅木)
- P2-038: 横風の中での風散布体の落下速度変化 (市河, 斉藤, 杉本)
- P2-039: 北上川河口底泥地のヨシ群落でのイトメの個体群動態とヨシに対する窒素栄養源としての可能性 (今野, 立石, 佐藤, 溝田, 松政, 牧)
- P2-040: 野火後の荒廃泥炭低湿地に侵入したMelaleuca cajuputiの6年間の個体群動態 (富田, 平吹, 鈴木, 阿部)
- P2-041: 山林火災跡地のVA菌根菌胞子の形態観察と18S rDNA解析 (三宅, 堀越, 木下, 井鷺)
- P2-042: 釧路湿原周辺におけるハンノキ集団のアイソザイム分析 (近藤, 北村, 入江)
- P2-043: ミクラザサの開花・未開花個体群におけるマイクロサテライト・マーカーによるクローンおよび遺伝構造の比較検討 (小林)
- P2-044: 伊豆諸島に分布するオオシマザクラにみられた遺伝的多様性の地理的勾配と限られた遺伝子流動 (岩田, 加藤, 向井, 津村)
- P2-045: 異なる発達段階のヒメモチ個体群における遺伝構造の比較 (鳥丸, 戸丸)
- P2-046: SNPsとマイクロサテライトの比較 (磯田, 渡邉, 平尾)
- P2-047: 東京湾におけるアマモの遺伝的集団構造と遺伝子流動 (出店, 仲岡, 田中, 庄司, 石井)
- P2-048: 岩礁潮間帯ベントス個体群に対する幼生加入量の影響 (丸山, 仲岡, 野田, 山本, 堀)
- P2-049: カニの右利き左利き:ハサミの左右非相称性が採餌とケンカに及ぼす影響 (繁宮)
- P2-050: スギ人工林における樹上性トビムシの時空間分布!)体サイズ分布にもとづく解析!) (吉田, 肘井)
- P2-051: 外来昆虫ブタクサハムシのメタ個体群モデル (山中, 田中)
- P2-052: ヒョウモンモドキのメタ個体群動態 (中村)
- P2-053: 絶滅のおそれのあるチョウ類・ヒョウモンモドキメタ個体群の遺伝構造(予報) (宮崎)
- P2-054: オガサワラオオコウモリの日中休息地の季節変化と保全学的重要性 (稲葉, 杉田, 上田, 鈴木)
- P2-055: ニホンジカ伊豆地域個体群の生息数推定 (大場)
- P2-056: マイクロサテライトマーカーを用いた信州のツキノワグマの遺伝的多様性推定 (木戸, 泉山, 林, 伊藤)
- P2-057: Morphological and Genetic Variations of Populations of Suaeda maritima according to environmental gradients on the Southwestern coast of Korea (Lee Jeom-Sook, Myung Hyun-Ho, Lee Jung-Yun, Ihm Byung-sun)
- P2-058c: ケヤキ開葉時期の産地間変異 (矢野, 山田, 生方)
- P2-059c: 亜熱帯照葉樹林における光環境と個体サイズの変化が樹冠形に与える影響 (林, 榎木)
- P2-060c: 力学的特性と樹木形態解析による日本の高木性樹種の生態特性 (目黒, 牧口, 上條, 中村)
- P2-061c: カラマツ実生の成長特性のマイクロハビタット・標高間比較 (赤坂, 露崎)
- P2-062c: ミズメ実生の地上部と地下部における競争が個体の特性におよぼす影響 (宮本, 谷口)
- P2-063c: コケの高さの異なる倒木におけるエゾマツ実生の生残と成長 (飯島, 渋谷, 斎藤, 高橋)
- P2-064c: 原生的スギ・落葉広葉樹林に優占的な落葉性低木3種の空間分布パターンとそれに関わる環境要因 (森下, 嵜元)
- P2-065c: ジャワ島・ハリムン山におけるツル性ヤシ科植物ロタンの成長と個体群動態 (渡辺, 鈴木)
- P2-066c: カムチャツカ半島におけるBetula platyphyllaとLarix cajanderiの更新様式 (飯村, 本間, 奥田, ベトローバ, ビャトキナ, 原, 隅田)
- P2-067c: シロイヌナズナ個体群における葉の枯死が自己間引き過程に及ぼす影響の実験的検討 (大久保, 鈴木, 可知)
- P2-068c: ハイビャクシン(Juniperus chinensis var.procumbens)集団内における遺伝的変異に関する研究 (平尾, 渡邉, 長野, 戸田)
- P2-069c: 伊豆諸島に分布するオオシマザクラの自家不和合性遺伝子座における遺伝的多様性の評価 (加藤, 岩田, 津村, 向井)
- P2-070c: マイクロサテライトマーカーを用いたシデコブシの送粉パターンの解析 (鈴木, 石田, 上野, 津村, 戸丸)
- P2-071c: コナラ交雑家系における連鎖地図の作成と開葉と成長量に関するQTLの探索 (鶴田, 加藤, 向井)
- P2-072c: 同所性ヤドカリにおける浮遊幼生着底の時空間パターンと貝殻資源利用可能性の影響 (大場, 五嶋)
- P2-073c: 捕食圧の変化による魚類の体サイズの変化;生態的プロセスと進化的プロセス (仲沢, 山村)
- P2-074c: メタ個体群内の分散:シオダマリミジンコにおける移出率、分散成功率、パッチ配分率の決定機構 (高橋, 野田)
- P2-075c: ナミハンミョウ幼虫期の成長と死亡に影響する密度依存的な作用 (竹内, 堀)
- P2-076c: リーフマイナー野外個体群における潜孔パターンと寄生の関係 (綾部)
- P2-077c: 正の頻度依存捕食と学習がもたらす振動:マメゾウムシ2種と寄生蜂の3者系 (石井, 嶋田)
- P2-078c: 個体の多様性が寄主ー寄生者系の共存に与える影響 (中道, 徳永)
- P2-079c: 里山におけるニホンアカガエルとヤマアカガエル個体群の絶滅リスク評価 (中村, 若林, 長谷川)
- P2-080c: ニホンアカガエルの個体群動態と圃場整備、耕作放棄、復田の関係 -南関東における事例- (若林, 中村, 長谷川)
- P2-081c: ニホンアカガエル幼生の卵隗間でみられた生存率の差:マイクロサテライトマ ーカーを用いて (松島, 石橋, 横山, 河田)
- P2-082c: 中山間地域におけるツチガエルの出現状況及び移動パターン (倉品, 荒川, 水越)
- P2-083c: 鷺のソナタ ー空から綴る3年間の物語ー (遠山, 徳永)
- P2-084c: ツキノワグマの体毛から食歴を読み取る -炭素・窒素安定同位体を用いて (水上, 泉山, 後藤, 林, 楊)
- P2-085c: 山梨県御坂山地におけるツキノワグマの重回帰分析を用いた環境利用の解析 (奥村, 羽澄, Angeli, 瀧井, 藤井)
P2-036: ミズナラの萌芽再生実生のデモグラフィー
撹乱は、植物の生活史を通して植物個体の生存を左右する重要な要素である。とりわけ個体サイズの小さい実生・稚樹期においては、小規模な撹乱であっても生存が脅かされることが多い。その一方で、多くの植物種においては撹乱により地上部が損傷を受けた際に萌芽再生によって撹乱の被害を回避することが知られている。またいくつかの樹種においては、萌芽再生した実生(seedling sprout)は実生バンクの重要な構成要素の一つとなっている。このため seedling sprout の動態に関する情報は、森林動態を理解するうえで重要となる。そこで本研究では、2つのミズナラ林(サイトA、サイトB)に生育する1999年発生のミズナラ実生を2000 -2001年の2年間追跡することで、実生が被る死亡・損傷要因(ハザード)の種類および各ハザードに対する萌芽再生率・再生個体の生存率を定量化した。
その結果、調査期間を通して、両サイトとも5割以上の個体が何らかのハザードに遭遇していた。サイトAで観察されたハザードのほとんどが立枯れであったのに対し、サイトBにおいては立枯れに加えてネズミなどの小動物による食害が顕著であった。ハザードの発生は生育期間初期に顕著だったが、再生に結びついたハザードの多くは休眠期に生じており、立枯れ個体の 2割、食害個体の4割で萌芽再生が観察された。再生個体の生存率は健全個体よりも低くなるものの、5割以上の個体が1年を超えて生存することが確認された。その結果、同一コホート内の生存個体に占める再生個体の割合が時間と共に増加し、ミズナラにおいてもseedling sprout が実生バンクの維持に貢献していることが示唆された。
P2-037: アオダモの萌芽発生に対する光環境及び地上部除去の効果
攪乱によって植物体の地上部が除去された場合,植物は根株や倒伏した枝などから萌芽枝を発生させ,植物個体の再生を行う.萌芽による個体の再生は,実生による個体の発生に比較して,幼個体の伸長成長が早い,種子の豊凶に左右されずに更新を可能にする,などという点で有利である.
アオダモ(Fraxinus lanuginosa)は,北海道から九州にかけて分布する落葉広葉樹である.アオダモ成木は,森林において散在している場合が多が,北海道胆振地域においてアオダモの優占する萌芽二次林が見らる.アオダモの更新特性を把握することは,減少傾向にあるアオダモ資源を保続する上で重要である.
萌芽更新の成否は,林内の光環境や地上部の有無などの要因が考えられる.そこで本報告では,北海道南西部に生育するアオダモ萌芽林において,光環境を調節した萌芽試験結果について説明する.
閉鎖樹冠下において,6.8%の確率でアオダモ個体からの萌芽枝の発生が見られた.また胸高直径12cm以上のアオダモ以外の個体を全て伐採した疎開樹冠下の場合,34.7%の確率で萌芽枝の発生があった.さらに閉鎖樹冠下,疎開樹冠下でアオダモ個体の地上部を除去した場合,それぞれ伐根から53.2%,63.0%の確率で萌芽枝の発生が見られた.上層木の疎開および幹の伐採は,萌芽枝発生に対してそれぞれ統計的に有意な効果があった.
アオダモの萌芽発生は,林内の光環境と地上部の有無に影響を受けていることが示唆された.
P2-038: 横風の中での風散布体の落下速度変化
風散布植物の飛距離推定モデルのパラメーターを得る目的で、散布体の落下特性を調べた。飛距離の推定は、原理的には落下高、風速、落下速度から求められる。この中で落下速度は通常無風状態で測定された値が使われているが、適用の仕方によっては飛距離を過小評価する危険がある。そこで、現実に近い横風条件において、定常状態に達するまでの、落下初期の速度変化を調べた。
計測は神奈川大学工学部の風胴を利用しておこなった。風胴の大きさは高さ0.9m、幅1.2m、奥行き9mで、風の出口付近の3mを利用した。風速は秒速4.9m、3.8m、2.7m、2m、1m、0mの6段階に設定し、天井部分に開いた3cm四方の穴から種子を落下させた。測定に用いた植物は2003年11月中旬に長野県で採取したウリハダカエデ、ウリカエデ、ユリノキの散布体である。計測は同年12月初旬に、各種50検体ずつマーキングしておこなった。2台のビデオカメラを風に対して90度方向と180度方向に設置して撮影し、画像から初期落下の速度変化を計測した。また、飛距離と着地までの時間は手動でも計測した。アスペクト比や回転面荷重、空気密度、動粘性係数などの値を得るために、気温、湿度、気圧を測定し、散布体の各検体の面積、重さ、翼張を測定した。
この計測の結果、落下初期段階において散布体が落ちる時間は、風があるときが風のない時に比べて1割から2割遅くなることが明らかになった。横風を受けた散布体が無風状態に比べて落下直後の早い時点から回転を始めるためであった。この現象は、種子が飛距離を得るために大きく貢献する。森林内の風速断面は、地表から高い位置ほど強くなる。樹冠の高い位置から散布体の回転が始まり、定常状態に達するまでの時間が短いほど、より強い風の吹いている森林上部で飛距離を稼げるためである。[本研究において、神奈川大学工学部建築学科の大熊武司教授と下村祥一助手に風胴利用の便宜を図っていただいた。]
P2-039: 北上川河口底泥地のヨシ群落でのイトメの個体群動態とヨシに対する窒素栄養源としての可能性
北上川河口域には、10km2にのぼるヨシ群落が広がっている。ヨシ群落は、多様な生物学的機能に加えて、地域産業における資材供給の場としても機能している。これまでの研究では、北上川河口底泥地のヨシ地上部は年間に25g/m2の窒素を吸収するが、秋季には地上部より20g/m2が引き戻され、残り5g/m2は人為的な管理などによって系外に流出することが示された。本研究では、流出した窒素を補填するヨシの窒素源として、群落内に優占的に生息している多毛類イトメ組織の窒素に着目し、同地点でのイトメの個体群動態を調査した。
03年3月から04年2月におけるイトメの月平均個体数± SDは1177± 364個/m2であること、11月採取の1個体あたりの乾物重± SDは36.5± 17.5mgであり、その窒素含量は9.6%であったことから、底泥のイトメ由来の窒素現存量は4.1g/m2であると推定された。単位時間内でのイトメ個体の減少の総数と1個体当たりの乾物重及び窒素含量より、1年間のイトメの死滅による窒素放出量は4.2g/m2と推定された。この量は、ヨシ群落が年間に吸収する窒素のうち、系外に流出した窒素量(5g/m2)とほぼ一致した。一方、ヨシ群落内の窒素動態を明らかにするため、ヨシ植物体及びイトメ組織の窒素安定同位体比(δ15N)を測定した。各試料のδ15Nは、ヨシ地下茎は9.6‰、イトメ組織では10.4± 1.3‰であった。この結果から、ヨシ茎内のδ15Nはイトメ組織のδ15Nとほぼ一致しており、ヨシの窒素源がイトメ組織由来の窒素である可能性が示唆された。
以上の結果から、本調査地のヨシは、その成長と維持に必要な窒素栄養の一部を、底泥中に優占的に生息するイトメ組織起源の窒素に依存している可能性が示された。
P2-040: 野火後の荒廃泥炭低湿地に侵入したMelaleuca cajuputiの6年間の個体群動態
タイ南部のナラチワ県では、1970年代以降の大規模な開発事業によって広大な面積の熱帯泥炭低湿地林が伐採・排水され、農地利用のために開墾された。しかし、開墾後の泥炭層の風化・消失や、基底の海成粘土の露出に伴う酸性硫酸塩土壌の出現により、開墾地の多くが放棄されたのみならず、生態系の劣化が進んでいる。しばしば発生する野火も、植生回復を遅らせる要因の一つとなっている。
Melaleuca cajuputiはこのような荒廃地において旺盛に成長し、泥炭湿地を起源とする様々なタイプの二次植生で優占する高木性の樹木である。また、本種は熱帯ポドソル上にも生育しており、様々な立地に侵入するのに適した生活史戦略を持つとされる。荒廃した泥炭地において森林生態系の回復を促すためにも、本種の生態学的知見を蓄積することが重要である。本研究では、野火直後の荒廃泥炭低湿地に侵入した本種の個体群動態を明らかにすることを目的とした。
野火から約3ヶ月経過した荒廃地に10m×1mおよび5m×1mの調査区を設置し、調査区内の微細地形を測量した。次に、すべての樹木個体の出現位置をプロットしたうえで、種名、樹高、出現の由来(種子 vs. 萌芽)を記録した。以降、乾季と雨季を考慮しながら6年間で合計8回のセンサスを行った。開花・結実の有無についても記録した。
地表には顕著な微起伏が確認され、ほぼ全てのM. cajuputiが野火からおよそ1年以内に種子によって侵入していた。新規に加入した個体数は、1997年の693個体/15m2から1998年2月の154個体/15m2、1998年8月の14個体/15m2と、時間とともに大きく減少していた。講演では、加入時期や微起伏と個体の生存や成長との関係、および種内競争の実態を時空間的に解析した結果を報告し、M. cajuputiの個体群動態のメカニズムと生活史戦略について考察する。
P2-041: 山林火災跡地のVA菌根菌胞子の形態観察と18S rDNA解析
山林火災は森林の公益的機能を大きく損なうと同時に,土壌の理化学性,土壌中の生物群集の組成や活性に大きな影響を与える.山林火災後の植生と高等菌類相の変遷に関する調査では,火災後4年で草本植物から木本植物が優勢になり,菌類相では,火災直後に焼け跡菌とよばれる菌類グループが発生し,その後,主に樹木に共生する外生菌根性の菌類が出現することが示されている.
外生菌根菌と同様に植物と共生するVesicular-Arbuscular菌根菌(以下VA菌根菌)は,約8割の陸上植物種の根にVA菌根を形成し,その存在範囲は広い.また乾燥,潅水,病害などのストレスに対する宿主の抵抗性を増加させることから,深刻に攪乱された自然生態系の回復においてVA菌根菌の重要性が認識されてきた.
広島県芸南地方の山林火災後の経過年数や人為的植栽の有無が,VA菌根菌に与える影響について調査した結果,各調査サイトで優占して出現する胞子タイプに違いがあることが示された(衣笠,2002, 2003).しかし,この調査による胞子のタイプ分けは,その形態特徴を観察したもので,各タイプに含まれる菌の系統に関しては不明瞭であった.
そこで本研究では,上述した調査を継続し,火災後の経過年数や人為的植栽の有無が異なる山林火災跡地で,それぞれに特徴的な VA菌根菌の胞子について,形態観察からタイプ組成を調べ,さらに各形態タイプの遺伝的な系統を明らかにすることを目的として18S rDNA解析を行った.
形態観察の結果,木本植物が多い火災後24年自然再生地で,他の調査サイトに比べて胞子のう果を形成するタイプが多く存在した.また,18S rDNAでそれらの胞子のう果を解析したところ,遺伝的に多様なことが分かった.
P2-042: 釧路湿原周辺におけるハンノキ集団のアイソザイム分析
近年釧路湿原においてハンノキの分布拡大が指摘されている。湿原の乾燥化等が原因と考えられ、環境要因の変動に関する多くの調査研究が進められている。しかし、ハンノキ林の成立過程における遺伝的動態に関する調査研究事例はない。殊に、遺伝的組成を把握し湿原内へ種子を散布している供給源を明らかにすることは発生源対策にもつながり、湿地林を抑制するための基礎的な情報であると考えられる。そこで本研究では湿原内へのハンノキの種子供給源を特定するため、まず湿原へ流入する複数河川流域のハンノキ集団の遺伝的変異性を明らかにし、集団間の遺伝的組成を比較することを目的とした。
研究対象地は釧路湿原へ流入する7つの河川(釧路川、仁々志別川、幌呂川、雪裡川、久著呂川、ヌマオロ川、オソベツ川)流域および流路変更前に湿原に流入していた阿寒川流域のハンノキ林とし、上流、中流、下流域からそれぞれ調査地を選定した。また、比較のため別寒辺牛湿原、霧多布湿原周辺からも調査地を選定した。計43調査地点のそれぞれ10個体から葉組織を採取し、アイソザイム分析を行った。
分析に用いた12酵素15遺伝子座のうち、すべての遺伝子座で多型が確認された。集団全体のもつ遺伝的多様性はHt=0.569と高い値を示した。また、各集団の平均へテロ接合度は、下流の集団ほど低くなる傾向が見られ、1920年頃に行われた流路変更の影響が示唆された。一方、集団の分化を把握するために、F-統計量を算出したところ、Fst=0.440と非常に高い結果が得られた。実際に同一河川、本支流間あるいは地域的な類似性は観察されなかった。このことから、ハンノキは河川氾濫源の限定された立地条件に小集団で成立しており、初期の成立過程において個体が偶然的に定着することによる創始者効果の影響が集団の遺伝組成に反映されやすく、そのために集団間のバラツキが大きくなっているものと考えられた。
P2-043: ミクラザサの開花・未開花個体群におけるマイクロサテライト・マーカーによるクローンおよび遺伝構造の比較検討
タケ類における一斉開花・枯死は数十年に1度の稀な現象として古くより知られているが、その遺伝的様相は全く解明されていない。本研究では、1997年3月に伊豆諸島・御蔵島で起こったミクラザサの一斉開花・枯死、個体群の回復過程について、実生個体群、未開花株、再生稈より合計438点、八丈島・三原山における未開花個体群より85点、総計523点の葉試料を採集し、全DNAを抽出・精製しSSR法によってクローン構造と遺伝構造を比較検討した。
イネにおいて、コーネル大学グループによって決定・公開された94個のマイクロサテライト領域に関するプライマー対のうち、25対を選び、また、生物資源研RGPによって作成された5対、合計30対のプライマー対を使用し、ミクラザサのSSR領域の多型バンドの検出を試みた。その結果、それぞれ第8、第9および第11染色体の長腕に座乗する3か所のSSR領域が有効であることが判った。
第8、第9および第11染色体に座乗し、固有の挙動を示す遺伝子をそれぞれ仮にA、BおよびCとする。これらはすべて御蔵島の個体群に限って検出された。Aは1未開花株、3つの再生稈クローンおよび実生2個体に、Bは8再生稈クローンと実生6個体に、Cは4再生稈クローンと8実生個体に見られた。また、Cの欠失変異体が1再生稈クローンと1実生に見られた。A・B両者を持つ場合は2再生稈と1実生に、B・C両者は4再生稈と5実生に見られた。
御蔵島のミクラザサの分布中心付近に存在した数本の稈よりなる未開花株が遺伝的に異なる2クローンから成ること、20メートル以上隔たった再生稈が同一クローンに属する反面、1株のように接近した数本の再生稈が複数のクローンより成ることなどが判った。八丈島・三原山の個体群が御蔵島に比べ多型性に乏しく、遺伝的には御蔵島より派生した個体群である可能性を示唆した。
P2-044: 伊豆諸島に分布するオオシマザクラにみられた遺伝的多様性の地理的勾配と限られた遺伝子流動
三宅島の治山緑化のための基礎的な知見を得るために,遷移初期に生育する植物種の遺伝的な特性を明らかにすることを目的として,伊豆諸島に分布するオオシマザクラについてAFLPおよび葉緑体DNA多型に基づく遺伝構造解析を行った.伊豆半島,大島,新島,神津島,三宅島,御蔵島,八丈島の7集団からオオシマザクラをそれぞれ30-50個体採取した.葉緑体DNA13領域について多型性のスクリーニングを行った結果,6領域で種内多型が見られた.そのうち多型性の高い3領域について全個体の塩基配列を解読した結果,各集団3から6ハプロタイプ,全集団で8ハプロタイプが検出された.遺伝的多様性は,伊豆半島で最も高く,本土からの距離に従って多様性が減少する明瞭な地理的勾配があることが分かった.また,高頻度に検出され,最も起源的であると予測されたハプロタイプAが,南端の八丈島集団では全く検出されなかった.集団間分化については,変異の19.33%が集団間に存在し,八丈島集団は他の集団から有意に分化していた.AFLP解析についても,遺伝的多様性は伊豆半島で最も高く,葉緑体DNAと同様の地理的勾配が見られた.変異の15.12%は集団間に存在し,遺伝的分化は全ての島間で有意であった.主座標分析の結果,7集団は大きく<八丈島><三宅島,御蔵島><その他>の3グループに分かれることが示された.このように伊豆諸島に分布するオオシマザクラでは,核DNAおよび葉緑体DNAのいずれにおいても,集団内遺伝的多様性が本州から離れた島ほど小さくなる傾向が見られた.オオシマザクラは虫媒花で,種子は鳥によって散布されるため,島間の遺伝子流動は専ら鳥による種子散布に依存していると思われる.多様性の明瞭な地理的勾配は,鳥による種子の持ち込み頻度が低く,遺伝子流動が制限されていることを示し,この制限が島間に大きな遺伝的分化を生じていると考えられる.オオシマザクラを三宅島の緑化に用いる場合,その種子源については慎重に判断を行わなければならない.
P2-045: 異なる発達段階のヒメモチ個体群における遺伝構造の比較
遺伝構造とは対立遺伝子の空間分布の偏りとして定義される。この遺伝変異の空間分布は、その種の遺伝子流動パターンによって形成される。一般的に植物における遺伝子流動は花粉と種子を媒体とする。花粉と種子の散布量、飛散距離は異なるため、この二者の流動様式を区別できれば遺伝構造の形成過程をより良く理解できることが期待される。種子散布のみが新しいサイトに遺伝子を伝達できる。従って、花粉と種子による遺伝子流動を区別可能である1つの状況としてfounding eventsから間もない個体群を取り扱うことが挙げられる。
受粉の成功によって形成される子孫個体群の遺伝的組成は、既存の繁殖個体の遺伝構造に影響を受ける。交配パターンと花粉・種子の散布パターン、既存個体の枯死パターンによって遺伝構造は時系列的に変化していく。遺伝構造の時系列的変化の過程を記述する1つの方法として、異なる発達段階にある個体群の遺伝構造を比較することが挙げられる。
本研究は、大山ブナ林の林床に生育し、クローンを形成する常緑低木種ヒメモチを用いて異なる発達段階にある個体群の遺伝構造を比較することを目的とした。野外調査は2003年と2004年に実施した。二次林の林床と老齢林の未成熟土壌上にそれぞれ30×30mのプロットを設定し、プロット内のヒメモチのラメートについて位置、樹幹長、性を記録し、遺伝解析用に葉を採取した。遺伝解析では、葉からDNAを抽出し、SSRプライマーを用いて各ラメートの遺伝子型を決定した。さらに、得られた遺伝子型からジェネットを識別した。今回の発表では二次林と未成熟土壌上の個体群の遺伝構造を明らかにした上で、老齢林の成熟土壌上において観察されるより発達した個体群のパッチ構造の形成過程を議論する。
P2-046: SNPsとマイクロサテライトの比較
マイクロサテライトは近年急速にマーカー開発が進み、さまざまな樹種において親子解析や集団遺伝学的解析が可能となったことで、生態学研究における最も重要なツールの一つとなった。一方で、高い多型性と引き換えに解析上の問題も多く指摘されるようになり、目的によってはより正確性の高いマーカーが求められる。今回、スギの核遺伝子の塩基配列情報からSNPs(Single Nucleotide Polymorphisms)マーカーを開発し、その特性についてマイクロサテライトと比較した。
スギの核DNAにコードされる6種類の遺伝子(Lcyb, Chi1, GapC, Pat, Acl5, Ferr)の塩基配列情報から、10ヶ所の多型サイト(Acl5とFerrは1サイト,他は2サイトずつ)を選び、SnaPShot Multiplex Kit (Applied Biosystems) を用いたプライマー伸長法で一塩基多型を検出した。その結果、Acl5以外の9サイトの多型を検出することに成功した。
384個体のスギについてSNPs解析を行い、既報の4種類のマイクロサテライトマーカーによる解析の結果と比較した。SNPsでは基本的に1サイトにつき2種類の塩基が検出される。よって、各サイトの対立遺伝子数は2となり、ヘテロ接合体率は0.261-0.486(平均0.375)とマイクロサテライトの0.814-0.948(平均0.894)と比較してはるかに低い値となった。一方Fisの値を比較すると、マイクロサテライトでは3マーカーで0.1を超える値を示し、内2マーカーでハーディーワインベルグ(HW)平衡からの有意なずれが検出されたのに対し、SNPsマーカーではHW平衡からの有意なずれは認められなかった。この結果とSNPsでは基本的にヌル遺伝子がないことから考えると、マイクロサテライトではヌル遺伝子の影響を大きく受けていると考えられる。
このようにSNPsマーカーは、遺伝子座あたりの情報量は少ないものの情報の質が高く、集団解析などにおいてはマイクロサテライトよりも有用である可能性がある。今後、検出サイト数を増やし遺伝子座あたりの情報量を増やすとともに遺伝子座数も増やすことにより、SNPsマーカーがより盛んに利用されるようになると期待される。
P2-047: 東京湾におけるアマモの遺伝的集団構造と遺伝子流動
アマモZostera marinaは北半球の温帯性海草の優占種として世界に広く分布する。アマモ場は多くの生物に生息場所を提供するとともに、栄養塩のリサイクルなどの機能を果たし、沿岸生態系において重要な役割を担っている。近年、人為的な環境改変に伴うアマモ場面積の著しい減少に対して、人為的移植造成によるアマモ場の修復の試みが行われるようになっている。しかし、無秩序な移植は遺伝子汚染の問題を引き起こすおそれがある。そこで、東京湾におけるアマモの遺伝的集団構造や集団間の遺伝子流動について明らかにするため、マイクロサテライト多型マーカーを用いてアマモの集団内・集団間の遺伝的多様性について解析した。
東京湾内外の各アマモ場内に50m×50mの調査区を設定し、ジェネットの重複サンプリングを回避するため、シュート間を1m以上の距離を保って調査区全体からランダムに採集した。アマモにおける既存の12のマイクロサテライトプライマーのうち、東京湾集団に適用可能な6プライマーを選択し、各集団についてDNA解析を行った。
その結果、東京湾集団は相模湾天神島の集団とは遺伝的に大きな差異が認められた。東京湾内の集団においても内湾の集団は遺伝的に非常に類似しており、一方、外湾の集団は内湾グループから遺伝的にやや離れていることがわかった。遺伝的距離と地理的距離は全体的には相関関係が見られるが、一部相関のない集団も見られた。今後、より詳細な遺伝子交流のパターンとメカニズムについて、流れ藻による集団間の個体の移出入を考慮した解析も含めて検討する予定である。
P2-048: 岩礁潮間帯ベントス個体群に対する幼生加入量の影響
生物群集、特に海洋ベントス群集の動態を理解するにあたり、従来は競争や捕食等の加入後プロセスが重視されてきた。しかし幼生分散等加入前プロセスの変動が、ベントス個体群の大きさやその変動パターンに影響を与えることが近年明らかになってきた。加入前プロセスは加入後プロセスよりも広い空間スケールで作用するので、両プロセスの相対的重要性を理解するには、空間スケールを階層的に組み合わせたアプローチが有効である。本研究では全国で見られるフジツボ類を用い、同一システムで空間スケールを階層的に設定した調査デザインにより、幼生加入量と成体被度の関連性とその形成機構の解明を目的とした解析を行っている。
日本の太平洋岸の6地域を対象に、各地域に5つの調査海岸を選定し、さらに各海岸内の5つの垂直な岩礁に合計150の調査点を設定した。各調査点でフジツボ類の種数と被度、その捕食者である巻貝類等の移動性生物の種数と個体数を測定した。また各調査点で付着している生物を定期的にはがして新規加入個体数を測定するための調査区も同様に設置し、写真撮影によって加入個体数の測定を行った。
2003年夏_から_秋の調査結果では、フジツボ成体被度および加入量とも、地域間、地域内の海岸間で有意な変異が見られたが、分散成分には差が見られなかった。また加入量と成体被度の相関については、従来の研究では加入量の少ない場所は加入量と成体被度に相関が見られ、多い場所では無相関になることが一般的とされているが、今回得たデータではそのような結果は検出できず、また両者の関連性は地域や潮位により異なっていた。その理由として、海岸間、地域間の環境要因の変異が加入量と成体密度の関係に影響を与えている可能性が考えられる。今後、データをより長期に収集すると共に、緯度、潮位、波圧、地形、捕食者等の環境要因のデータも含めた解析を行い、この点を明らかにしたい。
P2-049: カニの右利き左利き:ハサミの左右非相称性が採餌とケンカに及ぼす影響
カニ類では、ハサミ脚の大きさや形態が左右で異なる現象が頻繁に見られる。ハサミ脚の左右性は、シオマネキ類やカラッパ類で特に顕著であるが、このような形態的非相称性は、左右のハサミの機能分化と関係しており、特殊化した側のハサミ脚は、シオマネキ類では配偶者獲得のため、カラッパ類では巻貝捕食のためというように、各種の特徴的な行動や生態と密接に関連している。
左右性が見られるカニ類の多くの種では、個体群中に右利きの個体と左利きの個体の両者が共存する。左右性の発現は、遺伝的に決定されていると考えられることから、鏡像関係にある二者が、自然選択によって個体群中に維持されていることになる。
この研究では、サワガニにおける左右性多型が、どのようなメカニズムによって維持されているのかを解明することを目的とする。サワガニはオスでのみ片側のハサミ脚が大型化し、右利き個体が7_から_8割を占める。まず、オスの大型化したハサミが、採餌においてどのように使われるかを調べるために、実験室における採餌行動を観察した。次に、10余りの個体群において、どちらの体側の付属肢が失われているかを調べ、オスの左右性が付属肢欠失にあたえる影響を明らかにした。最後に、各個体群の左右比が、附属肢欠失個体率や性比などの個体群特性のどれと相関を示すのかを調べた。これらの調査から得られた結果を総合して、多型維持メカニズムについて議論する。
P2-050: スギ人工林における樹上性トビムシの時空間分布!)体サイズ分布にもとづく解析!)
森林の樹冠層には、本来、土壌生活者である、腐食・菌食性のトビムシ目が多数生息しており、樹冠層と土壌層を頻繁に移動していることが知られている。とくにスギなどの針葉樹では、これらの動物群は両層において優占しており、その動態を明らかにすることは、樹冠層と土壌層の節足動物群集の構造と機能、および樹上環境への適応過程を明らかにするうえで重要である。
ムラサキトビムシ科(Hypogastruridae)の一種である、キノボリヒラタトビムシ(Xenylla brevispina Kinoshita)は、アカマツ林では、春期に土壌層で産卵・孵化をおこない、夏期に樹冠層で成長し、冬期に土壌層で越冬するという、樹冠層_-_土壌層間の季節的移動を伴う年一化の生活史を持つことが報告されている(Itoh 1991)。また、ある種のトビムシでは、小型(幼若)個体よりも大型(成熟)個体の方が、移動分散距離は長いことが示されている(Johnson and Wellington 1983)。これらのことから、もしキノボリヒラタトビムシが土壌層で産卵・孵化をおこない、個体群が土壌層から樹冠層へと供給されているとすれば、(1) 樹冠層下部から上部にいくにつれて個体数密度は減少し、(2) 樹冠層上部では移動能力の高い、大型個体の割合が高くなることが予想される。
そこで本研究では、スギ人工林の樹冠層に生息するキノボリヒラタトビムシの時間的・空間的な分布を調査し、それらの体サイズにもとづいて解析することによって、上記の二点を検証した。
P2-051: 外来昆虫ブタクサハムシのメタ個体群モデル
ブタクサハムシは1990年代後半に定着が確認された、北米原産の外来昆虫である。本種は主にブタクサ、オオブタクサなどを食害し、旺盛な増殖力で寄主群落を食い尽くしてしまうことが報告されている。また、ブタクサ群落は、空き地や造成地など遷移の初期段階で侵入するものの、他の植物との競争に負けたり、除草により消滅してしまうことが多い。このような不安定な環境下で、ブタクサハムシ個体群レベルがどのように維持されているか調べるため、野外でのブタクサ群落とブタクサハムシの調査、およびシミュレーションモデルによる解析を行った。
モデルは、2次元空間に飛び石状の生息地パッチ(ブタクサ群落とブタクサハムシを含む)を配置した空間構造を持つ。各パッチ内には、ブタクサ-サブモデルとハムシ-サブモデルが存在し、ブタクサ-サブモデルは、毎年同じ季節性を示すように調整された単純な構造を持ち、ハムシ-サブモデルは、齢構成を仮定して1日1time stepで成長を続ける構造を持つ。幼虫・成虫はパッチ内のブタクサを食害し、ブタクサの現存量はブタクサハムシの死亡率に影響する。成熟した成虫のみが生息地パッチ間を移動しうる。
野外の調査は、2002年から2003年の6月、7・8月、9月の3回行った。地図搭載型のGPSデータロガーを使って、ブタクサ群落の空間的な位置と大きさを特定し、項目にカテゴライズされた、群落内ブタクサ密度、ブタクサ草丈、ブタクサハムシ幼虫数、ブタクサハムシ成虫数、などを記録した。
野外の調査データを元に、ブタクサ群落の発生頻度を計算し、シミュレーションを行った。野外のブタクサハムシ発生データと比較しながら、シミュレーションを繰り返してモデルを調整し、それぞれ必要なパラメタを決定した。本発表では、空間構造が個体群の安定性に与える影響や、越冬期の死亡率などのパラメタについて考察する予定である。
P2-052: ヒョウモンモドキのメタ個体群動態
ヒョウモンモドキ(Melitaea scotosia)は、環境省レッドリストで絶滅危惧_I_類に指定、現在では広島県でのみ確認されており、中でも中部の世羅台地および賀茂台地に生息地が多い。世羅・賀茂台地には、地下水の涵養する小規模な貧栄養湿地が点在し、こうした天然の湿地や休耕田で湿地化した場所を生息地となり、幼虫はキセルアザミを食す。世羅・賀茂台地には、キセルアザミの生育するヒョウモンモドキの生息適地がパッチ状に点在しているが、必ずしもすべての生息適地に本種の生息が見られるわけではない。世羅・賀茂台地で本種の生息適地(パッチ)におけるヒョウモンモドキの生息状況を調査した結果、生息パッチ、非生息パッチが存在することが明らかになり、メタ個体群構造をもつことが示唆された。
本研究は、各パッチの生息状況を経年的にモニタリングすることによって、本種のメタ個体群動態について明らかにすることを目的とした。
世羅・賀茂台地周辺において225個のパッチが見いだされ、そのうち、休耕田が133ヶ所、天然の湿地が78ヶ所であった。2001年_から_2003年の3年間、すべてのパッチにおいて、幼虫の巣の数を調査した。
占有パッチは2001年は81、2002年は58、2003年は61であり、全体のおよそ30%であった。また、占有パッチの数の変化が見られ、局所個体群の再定着や絶滅が見られた。
これらのことから、本種は局所個体群の絶滅や再定着を繰り返しながら長期的に生息しているというメタ個体群構造をが推測され、生息環境の変化が見られない場合であっても局所個体群の変動が大きいことが明らかとなった。
これらのことから、ヒョウモンモドキの急激な衰退はパッチの減少によるメタ個体群構造の崩壊によることが起因していることが推察された。
1980年代以降、世羅・賀茂台地においても、天然の湿地の開発による喪失、休耕田での植生遷移の進行等によって、パッチの数の減少や質の低下が見られる。そのため、本種の長期的な保全が緊急な課題であり、本研究成果の保全への利用についても提案したい。
P2-053: 絶滅のおそれのあるチョウ類・ヒョウモンモドキメタ個体群の遺伝構造(予報)
ヒョウモンモドキ(Melitaea scotosia)は、環境省レッドリストで絶滅危惧_I_類に指定されており、本州各地で絶滅、現在では広島県でのみ確認されており、中でも中部の世羅台地および賀茂台地に生息地が多い。世羅・賀茂台地には、地下水の涵養する小規模な貧栄養湿地が点在し、ヒョウモンモドキはこうした天然の湿地や休耕田で湿地化した場所を生息地とし、幼虫はキセルアザミを食す。ヒョウモンモドキは、こうした点在する天然の湿地や湿地由来の休耕田を生息地としており、生息地間を移動しながら個体群を維持していることが明らかになっている。各々の生息地での局所的な絶滅が確認されている一方、新たな移住による定着も見られ、典型的なメタ個体群構造を有していると考えられる。
本研究では、世羅・賀茂台地のヒョウモンモドキメタ個体群を対象に、AFLP遺伝マーカーを用いてメタ個体群内の遺伝的多様性と局所個体群間の遺伝的関係性を明らかにすることを目的とした。
2002年に生息の確認されたすべての局所個体群において、個体数の多い幼虫期にすべての幼虫巣から3_から_5個体のサンプリングを行い、AFLP分析を行った。総幼虫巣数は157、サンプリングした総個体数は525であった。今回は、局所個体群が集中して分布する地域に絞ってその一部を報告する。
ヒョウモンモドキの生息地は、天然の湿地の開発や休耕田の遷移などにより、近年急速に減少している。これに伴い、ヒョウモンモドキ局所個体群の生息適地が失われ、メタ個体群の維持にも影響が出ていると考えられる。本種に関しては、地域の保全団体が積極的な保全活動を行っており、将来的には、生息適地への再導入も検討している。生物の移動に関しては、遺伝的かく乱を伴うため、原則行うべきではないが、絶滅のおそれが極めて高い種に関しては、十分な検討を経た上での保全のための再導入計画も必要である。経年サンプリングを行っているので、今後はこの成果を生かし、局所個体群の遺伝構造の変化から、間接的に局所個体群間の遺伝子交流を明らかにし、本種の保全への活用を試みたい。
P2-054: オガサワラオオコウモリの日中休息地の季節変化と保全学的重要性
オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphonは小笠原諸島唯一の固有哺乳類であるが,近年は農業食害問題,無秩序な観光利用など生息を脅かす問題がある.また現状では日中休息地域(ねぐら)の隣接部が開発されるなど生息環境は悪化してきているが,保全策は立てられておらず,また本種の生態学的知見も少ない.そこで著者らは本種のねぐら形成行動に着目し,1999年から2000年,2002から2004年に延べ約80個体に電波発信機を装着して個体毎のねぐら形成地域を特定し,季節変化や形成環境などを調べた.なお,ねぐらは洞窟や樹洞などは利用せず,森林の樹木枝にぶら下がるのが本種を含むオオコウモリ属の特徴である.
過去の知見により,本種は冬期に集団化するねぐらを形成することが示唆されていたが,本研究により冬期ねぐらにはほぼ1箇所にほとんどの個体が集合し,また冬期以外は父島全域に分散し,単独から少数でねぐらを形成することが明らかとなった.ねぐら形成した場所に特定の傾向は見られず,冬期以外の分散化したねぐらは林縁部から林内まで非常に多様な環境,また冬期ねぐらを含めても利用樹木も多くの種類を利用しており選好性などは見いだせなかった.
オオコウモリ属はねぐらが集団化することは知られているが,本種のように季節的に集合離散するパターンはこれまで報告されていない.そこで冬期ねぐらの集団化の意味を検討するために,これまでの捕獲個体組成を季節的に比較すると,幼獣の出現率が夏季に多く,成長度などから逆算した交尾期間が冬期集団ねぐらの形成期間と一致しており,ねぐらの集団化は繁殖行動のひとつであると示唆された.ただし幼獣は少数ながら他季節でも出現しており,検討すべき課題は残された.
P2-055: ニホンジカ伊豆地域個体群の生息数推定
ニホンジカ伊豆地域個体群について,生息密度調査と分布調査を実施し,生息数を推定した。
生息密度調査は糞粒法により行った。調査地には,1m2の調査プロットを一定の間隔で120個設定し,12月にプロット内のニホンジカの糞をすべて除去した。また調査地には,糞消失率算出のために新しい糞を50個置いた。60日以上経過した2月に,調査プロット内に新たに加わった糞と消失率算出用の糞を数えた。調査は2001_から_2003年度に78箇所で行った。調査結果と高槻ら(1981)の求めたニホンジカの平均排糞粒数をもとに,Taylor and Williams(1956)の式から生息密度を算出した。
分布調査は,2003年5月に郵便アンケートにより行った。標準地域メッシュシステムの第3次地域区画を調査単位とし,分布,被害等について,農家,林家,ゴルフ場,森林組合,市町村,鳥獣保護員,猟友会に質問した。国有林については,伊豆森林管理署に問い合わせた。情報の得られなかった一部の区画については,現地で補完調査を実施した。分布情報の得られた区画内の森林面積をニホンジカの分布面積とした。
平均生息密度は13.3頭/km2であった。広葉樹林の平均生息密度(20.0頭/km2)は,針葉樹人工林の平均生息密度(7.0頭/km2)よりも高かった。また鳥獣保護区の平均生息密度は25.0頭/km2であった。
分布面積は767km2と推定された。
伊豆地域を5つのユニットに分け,それぞれの平均生息密度に分布面積を掛け生息数を求めた。この地域個体群の生息数は,約1.1±0.8万頭と推定された。
ニホンジカ伊豆地域個体群については,今回の結果を基に2004年度から特定鳥獣保護管理計画の実施を予定している。
P2-056: マイクロサテライトマーカーを用いた信州のツキノワグマの遺伝的多様性推定
現在、信州のツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)は、狩猟や有害駆除、生息地の分断や環境の悪化などの原因により、その個体数は減少傾向にあると言われている。特に、美ヶ原・八ヶ岳地域のように周囲が人為的に分断され、孤立化していると考えられる個体群は、個体数減少や遺伝的多様性の喪失が危惧されている。しかし、これまで行われてきた生態調査では、個体数や行動圏の推定は可能であったが、遺伝的多様性などに関する情報は得ることができなかった。そこで本研究では、マイクロサテライトDNAマーカーを用いて、現在の長野県におけるツキノワグマ個体群の遺伝的構造を明らかにすることを目的とした。
2001年から2003年に長野県内で捕獲、有害駆除されたツキノワグマの血液、筋肉、毛から抽出したDNAを用いてマイクロサテライト解析の手法を検討し、6座について解析を行った。長野県のツキノワグマを生息地ごとに7つの地域個体群に分け、各個体群間の遺伝的多様性について比較した。その結果、個体数減少が推定される個体群では遺伝的多様性が低いという予想と異なり、地域個体群間で遺伝子座における対立遺伝子数やヘテロ接合体頻度に大きな差は無く、遺伝的に孤立化していると考えられる集団は見られなかった。しかし目撃情報などによると、地域によってはクマの個体数減少は明らかである。また、クマの捕獲数も少なく、これまでに解析に用いた個体数では不十分であるため、さらに解析を続け考察していく必要がある。また、今後mtDNAの塩基配列をもとに各地域の個体の系統を調べ、地理的に独立した系統が存在することが明らかとなった場合には、それぞれの系統の保護管理の必要性を提起したい。
P2-057: Morphological and Genetic Variations of Populations of Suaeda maritima according to environmental gradients on the Southwestern coast of Korea
This research, which was conducted from August to November 2003, sought to find out the morphological variations of Suaeda maritima according to the altitude of their habitats at southwestern coast of Korea, by surveying the environmental factors affecting the characteristics of vegetative organs and the biomass and morphological variations of vegetative organs. Their habitats were divided into a low area, a mid-level area and a high area. The results showed that there was a statistically significant relationship between the environmental factors and the biomass of Suaeda maritima according to their habitat's altitude. In particular, the higher the altitude of the habitat was, the less were the soil's water content, total nitrogen content, available phosphate, organic matter, density and biomass. For the morphological variation width, the length of the aerial stem in the low area was measured at 17.98賊0.46 mm, and in the high area, was shorter by 0.70 times. Likewise, the length of the main roots in the low area was measured at 8.06賊0.21 mm, and in the high area, was longer by 1.58 times. The length of the leaves in the middle of the dwarf stems that branched out three times from the aerial stems in the low area was measured at 7.83賊0.12 mm, and in the high area, was shorter by 0.83 times. The width of the leaves in the low area was measured at 1.88賊0.01 mm, and in the high area, was longer by 1.16 times. Genetic variations did not appear in accordance with the sand dune's altitude, but within the population.
P2-058c: ケヤキ開葉時期の産地間変異
樹木の開葉時期の種内変異についてはブナをはじめとしていくつかの樹種で報告されており、開葉時期は遺伝的な支配が強く産地間で変異が見られることが多く報告されている。現在、林木育種センターでは各地から収集したケヤキの開葉時期の変異の調査を行っており、これまでにもケヤキの開葉時期の変異についての結果の報告を行っている(山田ほか2002)。しかしながらこの報告の試験地は反復がとられてなく、同一クローンを1ヶ所に集中して植栽していたため微地形などの違いの影響を受けている可能性も考えられた。そこで今回の研究では同一クローンが2反復にわたり分けて植栽されている試験地でのケヤキの開葉時期のクローン間および産地間での変異について調査を行った。試験地は茨城県西部の七会村に設置した。クローン数は77で、産地は静岡県千頭、神奈川県平塚、長野県臼田、千葉県君津、群馬県高崎および草津、福島県棚倉、郡山および白河の9ヶ所である。1反復1クローンにつき各3個体を対象に開葉時期を個体ごとに調査した。開葉時期に反復間では有意差は認められなかったが、クローン間で有意差が認められた(p<0.001)。対象形質の遺伝的支配の強さの指標である反復率は0.76と高い値を示した。また産地間でも有意差が認められ、棚倉が最も開葉が早く、以下草津、白河、平塚、郡山、高崎、千頭、臼田、君津の順であった。山田らで報告された異なる試験地での結果と比較すると、共通する産地の個体については開葉の順位は比較的一定であったが、中には開葉の順位が大きく変動したものも見られた。
参考文献:山田浩雄ほか(2002)ケヤキ生息域外保存個体における開葉時期の産地間変異.第113回日本林学会大会学術講演集:662.
P2-059c: 亜熱帯照葉樹林における光環境と個体サイズの変化が樹冠形に与える影響
森林の構造は不均一な光環境を形成し、樹木はおかれた光環境に応じて光獲得様式を変化させながら成長する。樹冠の形状は樹木の光獲得様式と密接に関係していることが知られている。本研究では、光環境、樹高、個体密度が樹冠形に及ぼす影響について検討した。
調査は沖縄島北部に位置する琉球大学与那フィールドの天然性常緑広葉樹林内で行った。地形の違いによる影響を避けるため、尾根に沿って幅4mのベルトトランセクトを設置し、10種を対象に相対樹冠深度と相対樹冠面積(以後CD/H、CA/Hと示す)を測定した。光環境の指標として、2mおきに、地上高2、4、6mの位置で全天写真を撮影し、開空率を算出した。樹高は0.5-2m、2-4m、4-6mに区分して比較した。個体密度は各樹高階の個体数とした。区分した樹高階ごとに開空率、個体密度を独立変数、CD/H、CA/Hを従属変数としてパス解析を行い、因果関係を調べた。
個体サイズが小さい時は、光環境が樹冠形に大きな影響を与えるが、個体サイズが大きくなると、個体密度による樹冠形への影響が大きくなる傾向が見られた。これは、サイズが小さい時は、隣接個体による影響よりも、上方の構造による光環境の影響が大きく、サイズが大きくなると、獲得できる光資源量は増加するが、隣接個体との距離が短くなるためと考えられる。シロミミズ、コバンモチの2種は、樹高階0.5-2mでは開空率によるCA/Hへのマイナス効果、樹高階4-6mでは個体密度によるCA/Hへのマイナス効果が見られた。これら2種は、サイズの小さい内は、暗い光環境では少ない光資源を有効に獲得するために樹冠を水平方向に拡大する一方、サイズが大きくなって、個体密度が増加すると、隣接個体の影響により、樹冠の横方向への拡張が抑制されると考えられた。
P2-060c: 力学的特性と樹木形態解析による日本の高木性樹種の生態特性
日本における潜在自然植生の多くはヤブツバキクラス域の常緑広葉樹林とブナクラス域の夏緑広葉樹林で占められる。その林冠を形成する主な構成種群はブナ科をはじめとした高木性樹種に属している。それらの樹種の生育地は異なり、立地に生育するには各樹種の生理的特性とともに力学的な特性が寄与していると考えられる。また、樹木形態も生長過程における戦略として重要であり、形態は力学的因子に依存することが予想される。したがって、高木性樹種の力学的特性とその形態を調べることにした。
用いた樹種はつくば市に生育していたブナ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、アカガシ、アラカシ、イチイガシ、ウバメガシ、シラカシ、ウラジロガシ、タブノキ、スダジイ、ケヤキ、エノキの14種である。強度試験には静的3点曲げ試験を行い、破壊強度、ひずみ、ひずみエネルギー、比重、含水率を調べた。樹木形態の測定にはホートン則を用い、分岐数、枝長さ、枝太さを測定した。
どの樹種、部位においても破壊応力、含水率、比重はほぼ一定の値を示した。ブナ科樹種では常緑樹の方が夏緑樹よりも破壊応力が低い傾向を示し、樹木形態は夏緑樹よりも常緑樹の方が多く枝分岐する傾向を示した。ブナとミズナラはクヌギ、コナラよりたわむ傾向を示し、雪圧に対する適応的特性を有していた。アラカシは調査樹種の中でもっとも破壊応力が高い値を示し、この力学的特性を利用することで、より細長い形態形成を可能とし、常緑樹のブナ科樹種としては陽樹的な性格を裏付ける結果を示していた。一方、クスノキ科のタブノキは最も低い破壊強度を示した。カシ類は高い強度によって高次の枝も細長い形態をとるのに対し、コナラなどブナ科落葉樹は高次の枝への力学的負荷を軽減させるため、高次枝の長さを短くしていることが明らかになった。
樹種によらず比重が大きいほど破壊応力が高くなり、また強度が高い枝ほどたわみにくい傾向にあることが示され、強度の低い枝はより多くたわむことで外力を吸収していることが示唆された。
P2-061c: カラマツ実生の成長特性のマイクロハビタット・標高間比較
火山における実生の生物学的侵入パターンが異なるマイクロハビタットにより標高傾度によりどのように変化するのか、また実生のパフォーマンスは攪乱地への侵入にとって有利となるかを明らかにするため、渡島駒ケ岳において急速に分布を拡大している北海道非在来種カラマツと、最も優占する在来種のダケカンバに対して播種実験および天然更新実生の分布の調査を行った。発芽、生存、資源分配、分岐パターン、および天然更新実生の分布パターンを3標高帯×3マイクロハビタット(裸地=BA、ミネヤナギパッチ=SP、カラマツ樹冠下=UL)で比較した。
対象2種ともに発芽率はLUがBA、SPよりも高かったが、標高間で差は見られなかった。生存率は標高間およびマイクロハビタット間で差は見られなかった。カラマツはダケカンバよりも高い生存率を示した。カラマツは全ての標高において、SPでの天然更新実生の密度が高く、ミネヤナギがシードトラップの役割を果たすことが示唆された。ダケカンバ実生は殆どみられなかった。カラマツは地上部重/地下部重比、高さ/直径比、分岐頻度で示される実生のパフォーマンスを標高・マイクロハビタットで変化させたが、葉重/個体重比は一定であった。BAにおいてカラマツは、地上部の高さ生長が抑制され、分岐の多い形態を示し、より地下部へ多く資源分配していた。この形態は風が強く、貧土壌栄養の環境に適応していると考えられた。カラマツ実生がSPでより細長くなったことから、被陰されたハビタットでは光獲得がより重要であることが示唆された。一方ダケカンバは、殆どパフォーマンスの変化が見られなかった。
これらから環境が厳しく、変動が激しい環境では、優れた実生パフォーマンスによって侵入種は在来種よりも全てのマイクロハビタットで高い生存と成長率を示すことができることが明らかになった。樹木限界やさらに高標高の植物群集は生物学的侵入による改変を受けやすいと考えられる。
P2-062c: ミズメ実生の地上部と地下部における競争が個体の特性におよぼす影響
森林に生育する樹木実生はその成長過程において光、水分、栄養塩などの資源をめぐる他個体との競争にさらされる。地上部や地下部における他個体との競争を人工的に制限し、それによって実生個体の成長が促進または抑制される度合いをしらべることにより、その競争が実生個体に及ぼす影響の大きさを評価することができる。
同種個体間の競争が個体の成長に及ぼす影響を明らかにするため、異なる光条件(寒冷遮)および個体どうしを地上部(金網)・地下部(塩ビ板)で仕切る処理を施し、個体間の相互作用を制限する処理を施した苗畑試験地で、光要求性が高く旺盛な初期成長を示すミズメの実生苗の成長を追跡した。
地際直径の相対成長速度および地上部と地下部の乾燥重量はいずれも明条件で大きくなった。特に地上部の乾燥重量の平均値は、地下部を仕切った処理区で大きくなった。直径成長では年によって傾向が異なり、一貫性に乏しかったものの、地下部単独もしくは光、地上部および地下部の仕切りの各要因間で交互作用がみとめられた。一方、葉の窒素含有率は暗条件で大きくなった。
以上の結果から、ミズメ実生個体の成長の主要因は光条件であるが、地上部や地下部における個体間の相互作用も評価すべき要因のひとつであることが示唆された。
P2-063c: コケの高さの異なる倒木におけるエゾマツ実生の生残と成長
エゾマツ(Picea jezoensis)は更新立地を倒木に依存しているが、倒木の腐朽状態によってエゾマツの更新密度には差が見られる。本研究では、倒木上でのエゾマツの更新密度に影響する要因のうち、倒木上に発生するコケ群落高の影響が大きいと考え、コケがない倒木(FLB)、コケが低い(1-20mm)倒木(FLS)、コケが高い(> 20mm)倒木(FLT)を対象に、コケの高さが、発芽、エゾマツ実生の生残と成長に与える影響を検討した。調査地は北海道中央部の針葉樹林である。林内でコケの高さ別に倒木を10本ずつ選定して各倒木上にエゾマツを播種し、発芽率と実生の生残率、形態ならびに根の分布、器官量配分を、当年生実生と1年生実生について調査した。発芽率はFLTで有意に小さく、生残率は倒木間で差が見られなかった。倒木を表層からコケまたは樹皮層、腐植層、材部に分類し、実生の根の分布について検討したところ、主根はコケの高さや実生の生残・枯死に関わらず、大部分が腐植層や材部に分布していた。当年生実生の個体重はFLT上で最も小さかった。FLT上の実生は他の倒木上の実生より幹は長く、幹への器官量配分は多かったことから、高いコケによる被陰に対し、形態と器官量配分による順応を行っていたと考えられた。1年生実生の個体重はFLB上の実生が小さかった。FLB上の1年生実生はFLS上の実生と比べて根長が有意に短く、T/Rが高かったことから、FLBでは1年生時の根の伸長が制限され、個体の成長が抑制されたと考えられた。以上から、エゾマツの発芽、実生の生残と成長には、FLSのようなコケはあるが高くない倒木が適していると考えられた。
P2-064c: 原生的スギ・落葉広葉樹林に優占的な落葉性低木3種の空間分布パターンとそれに関わる環境要因
京都府北部にある冷温帯林の下層に優占的で地上部形態の異なる低木3種(クロモジ、タンナサワフタギ、ツリガネツツジ)を対象に、斜面地形上での空間分布構造(水平分布、種内・種間分布相関)と関与要因を解析した。
L関数による分布解析から、3種(地上幹長>50cm)はいずれも0-20mの距離スケールで集中分布を示した。またL関数による種間の分布相関解析から、クロモジとタンナサワフタギは有意な正の相関を示した。一方、幹長をもとにした各サイズ階(50-150、150-250、250-350、350- cm)の分布は、中間サイズ階でランダム分布を示す種もあったものの、3種は概して最大・最小の各サイズ階では有意な集中分布を示した。またサイズ階間の種内分布相関解析では、タンナサワフタギが殆どのサイズ階間でほぼ独立的な関係を示し、ツリガネツツジは各サイズ階間で有意な正の相関関係を示した。クロモジは隣接サイズ階間で正の相関を示す一方で、小サイズ階と大サイズ階の間では独立的な関係を示した。次に、環境要因としてrPPFD、斜面傾斜角、土壌含水率を取り上げ、単位面積当たりに存在する株数、株当たり地上幹数、主幹の長さと傾斜角を目的変数とする重回帰分析を行った。単位面積当たりに存在する株数は3種ともに斜面傾斜角に有意な負の影響を受けていた。また株当たりの平均地上幹数は、クロモジとタンナサワフタギが斜面傾斜角から有意な正の影響を受けていたが、著しい多幹型のツリガネツツジは何ら有意な影響を受けていなかった。主幹長は、クロモジがrPPFDに正の、タンナサワフタギが斜面傾斜角に負の、それぞれ有意な影響を受けていた。主幹の傾斜角は3種ともに斜面傾斜角に有意な正の影響を受けていた。
講演では以上の結果をもとに、低木種が萌芽性という特徴を有していること、調査地が日本海側の多雪地帯にあることなどを踏まえ考察する。
P2-065c: ジャワ島・ハリムン山におけるツル性ヤシ科植物ロタンの成長と個体群動態
ツル性ヤシ科植物のロタン(ラタン)は東南アジアの熱帯雨林を特徴付ける重要な要素であり、多種が同所的に存在する。ロタンは長い鞭状のフラジェルム(不稔化した花序)またはシルス(伸長した葉軸)に付いた刺を周囲に引っ掛けてよじ登る。また、ロタンの茎は籐製品の材料として利用され、商業的価値の高い森林産物でもある。しかし、その生態については未解明の部分が多い。本研究は、インドネシア・ハリムン山国立公園に優占するロタン、Calamus heteroideus と C. javensis に着目し、同属の2種がどのように共存しているのかを明らかにするために、成長パタンとシュート動態を調べた。2002年3月、山地林内に設置した2つの調査区(40×40m、標高1100m)内の全シュート(茎長≧20cm、合計約1700本)に番号札を付け、茎の高さ・長さ、フラジェルムと花序の有無などを記録した。2003年と2004年の同月に、シュートの枯死と新規加入、茎の伸長量などを記録した。その結果、C. heteroideus は花序生産率が高く、茎長約0.5mで成熟し、最大茎高は約3mだった。一方 C. javensis はフラジェルム生産率が高く、茎長1m以上で成熟し最大茎高は約13mを記録した。C. heteroideus は無性繁殖率(多茎率)が約20%、全シュート数の約10%以上で毎年花序を確認できたのに対し、 C. javensis はそれぞれ約40%と1%程度であった。平均年伸長量はC. heteroideus が約9±11(SD)cm/yr、 C. javensis が14±25cm/yrで、最大値では後者が前者の約3倍大きく265cm/yrを記録した。シュートの枯死率は C. javensis がC. heteroideus と比べてやや高い値を示した。これらのような成長特性差が利用階層の違いをもたらし、2種の共存を可能にしていると考えられる。
P2-066c: カムチャツカ半島におけるBetula platyphyllaとLarix cajanderiの更新様式
カムチャツカ半島中央低地帯の針広混交林ではシラカンバ(Betula platyphylla)とカラマツ(Larix cajanderi)が優占する。カラマツが種子更新を行うのに対し、シラカンバは種子だけでなく、萌芽更新を行うことが知られている。本研究では、特にシラカンバについて注目し、林床の条件が実生の定着過程に及ぼす影響について考察する。また、萌芽と実生のサイズの差異と更新との関連についても考察をする。
カムチャツカ半島アナブガイ付近、火事後推定40年後の森林に2000年7月、調査プロット(50m×50m)を設置し、毎木調査を行った。DBH<2cmを実生と定義し、DBH≧2cm 以上の個体を成木とした。2003年7_から_8月に実生の種名・樹高・マイクロハビタット・の位置について調査をした。また、シラカンバにおいては萌芽幹の数・母樹の位置についても調査を行った。倒木の位置についても記録した。
成木の胸高断面積合計はシラカンバが17.32_m2_ha-1、カラマツが2.56_m2_ha-1であった。調査の結果、プロット内のカラマツ実生は66本出現した。うち63本が倒木上でなく、地表面から生育していた。シラカンバもカラマツも実生の樹高頻度分布は二山型を示した。カラマツ実生の樹高<50cmとそれ以上の実生の平均樹高はそれぞれ5.2cm、211.9cmだった。シラカンバの実生は171本、萌芽幹数は334本、萌芽幹の母樹数は98本で、シラカンバの萌芽幹数の方が実生数よりも多かった。実生の126本が倒木上に出現し、うち92本はコケ上に出現した。このように、実生は主に倒木上のコケが被覆する所に多く出現した。シラカンバ実生の樹高<50cmとそれ以上の個体平均樹高はそれぞれ4.3cm、191.4cm、萌芽ではそれぞれ27.6cm、101.3cmだった。このように、平均樹高は萌芽の方が高い傾向にあった。
実生が発芽した場所が必ずしも生育に好適とは限らない。特にシラカンバが地表面から発芽した場合、リターや地表植生の被覆のため、その後の生育が困難な可能性がある。このことからシラカンバの萌芽特性はシラカンバの更新に有利に働くと考えられる。
P2-067c: シロイヌナズナ個体群における葉の枯死が自己間引き過程に及ぼす影響の実験的検討
高密度個体群で生じる密度依存的な植物個体の枯死は自己間引きと呼ばれる。これは隣接個体に被陰された個体が同化量不足により枯死するという受動的な過程であると考えられている。しかし本研究では、競争過程で見られる個体下部の葉の枯死に注目し、自己間引きの至近要因に関する新たな仮説の提唱と検証を試みる。
葉の枯死には葉齢に依存するものの他に、より効率的な資源利用を可能とする適応的なものもある。そこで競争下の下部の葉の枯死は、より上部へ新葉の展開を図る自発的な過程であり、その過程で被圧下の個体は物質経済が破綻し、枯死すると考えた。
初期密度の異なるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)個体群を明期高温・暗期低温(自然条件:条件1)、明期低温・暗期高温(葉の枯死が起こりにくい条件:条件2)で栽培し、葉の枯死が自己間引き過程に及ぼす影響を実験的に検討した。単独に生育するシロイヌナズナでは、条件1下では開花直前にロゼット葉の枯死が見られるが、条件2下ではロゼット葉の枯死がほとんど見られないことが知られている。
予備実験では、条件2の高密度個体群における個体の葉の枯死は、条件1下に比べ生じにくかった。また刈り取り時の生残個体密度を独立変数に、地上部の平均個体乾重量を従属変数にとり、両者の間に回帰される直線(自己間引き直線)を条件間で比較した結果は、条件1でy = 2.044-0.706x, R2 = 0.978 条件2でy = 1.492-0.535x, R2 = 0.930であり、傾き・切片共に有為な差が認められた。これは光・温度条件の組み合わせによりもたらされる成長速度や形態、また葉の枯死の生じ方の違いが、自己間引き過程に影響したことを示唆している。
P2-068c: ハイビャクシン(Juniperus chinensis var.procumbens)集団内における遺伝的変異に関する研究
ハイビャクシンは、ヒノキ科ネズミサシ属の一つであり、4倍体である。本種は、長崎県壱岐・対馬などの島嶼に隔離的に分布し、極端に矮性化した形態を呈す。本研究では、ハイビャクシン集団の遺伝的分化および種分化の過程を解明するため、集団内の遺伝的構造の解明を試みた。
本種は匍匐性を呈し、錯綜して広がっているため、個体の特定が困難である。そこで、一定の距離を置いてランダムに個体を採取し、採取した個体についてRAPD分析によるクローン判定を行った。その結果、少なくとも採取した123個体のうち62個体はそれぞれ遺伝的に異なった。次に、本種はこれまでの研究から種内に核型変異が報告されている。しかし、集団内における核型変異の実態については知見が得られていない。そこで集団内での変異を明らかにするため、RAPD分析によって同定された62個体について核小体観察を行った。その結果、53個体は核小体数4つを保有する個体で最も頻度が高く、核小体数が3つと2つを示すタイプは合計9個体存在した。核小体は45s rRNA遺伝子による発現と密接に関係する。従って、NOR染色体および核小体と45s rRNA遺伝子領域は数が一致することが予想できる。しかし、FISH分析を行った結果、すべての個体で45s rRNA遺伝子領域は4領域であることが明らかとなった。核小体数とFISHによるシグナル数が一致したのはNOR染色体が4本認められた個体のみであり、NOR染色体の数的変異を示した個体では核小体数とシグナル数が不一致であった。この結果はハイビャクシンが異質倍数体である可能性を示唆している。一方で、ハイビャクシンの起源は未解明である。そこで、葉緑体DNA塩基配列の情報に基づいてネズミサシ属の系統関係を明らかにし、ハイビャクシンと近縁種との関係について推定した。
P2-069c: 伊豆諸島に分布するオオシマザクラの自家不和合性遺伝子座における遺伝的多様性の評価
自家不和合性(Self-incompatibility)は自家受精を防ぐ性質でS遺伝子座上の対立遺伝子(S対立遺伝子)によって制御されている。集団中のS対立遺伝子の数が減少すると、同じS対立遺伝子を保持する個体同士の交配が増え、種子の稔性は低下する。このため、遺伝子流動が制限される島嶼集団では1個体のみでも繁殖可能な自家和合性の植物種が多いことが指摘されている。しかしながら、本研究の供試種であるオオシマザクラ(Prunus lannesiana var. speciosa)は自家不和合性であるにも関わらず、伊豆諸島を主な分布域としている。本種がS遺伝子座の遺伝的変異をどの程度、有しているかは興味深いことである。
伊豆半島および、伊豆諸島の大島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島の7箇所に分布するオオシマザクラをサンプリングの対象とした。オオシマザクラを含むバラ科の自家不和合性にはS-RNaseが関与し、S-RNaseの多型分析により個体のS遺伝子型は推定できる。そこで、分析個体のDNAを抽出し、S-RNaseのcDNA断片をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行い、S-RNaseの制限酵素断片長多型(RFLP)を検出した。検出したRFLPに基づいて、各個体のS遺伝子型を決定した。種レベルで保持されるS対立遺伝子は63個で、各島の集団については伊豆半島で62個、大島で46個、新島で47個、神津島で46個、三宅島で34個、御蔵島で40個、八丈島で26個であった。各島におけるS対立遺伝子の数は本州から離れた島ほど少なく、明瞭な地理的勾配が認められた。オオシマザクラの島間の遺伝子流動は鳥による種子散布に依存していると思われ、本州から離れた島ほど種子が持ち込まれる頻度は減少するだろう。このため、遺伝子流動は制限され、各島に保持されるS対立遺伝子の数として反映されたと思われる。
P2-070c: マイクロサテライトマーカーを用いたシデコブシの送粉パターンの解析
シデコブシはモクレン科の落葉小高木で、東海3県の丘陵地や台地・段丘地帯の湿地にのみ分布する固有種である。複数幹からなる株を形成し、雌雄同株、雌性先熟の花を咲かせる。花粉は虫媒、種子は鳥散布であると言われている。近年では宅地の造成やゴルフ場開発などのために生育地が減少し、2000年に当時の環境庁から発行されたレッドデータブックにおいて絶滅危惧II類に指定されている。集団の消失や分断化は遺伝子流動の妨げとなる。シデコブシを保全するためにはシデコブシの送粉パターンを把握し、遺伝子流動を定量化することが重要である。本研究ではシデコブシの送粉パターンを、マイクロサテライトマーカーを用いて父性解析を行うことによって明らかにすることを目的とした。
調査地は愛知県瀬戸市海上の森屋戸川上流域とその周辺流域に存在するシデコブシ集団である。解析に用いたマイクロサテライトマーカーは演者らによって、シデコブシにおいて既に開発されている。屋戸川集団においては全個体を、屋戸川周辺の集団においては2002-2004年の開花調査によって開花が確認された繁殖個体を対象に、葉サンプルの採取を行った。種子は2001年に屋戸川集団から採取し、発芽した実生を解析に用いた。
父性解析の結果、シデコブシの送粉パターンは距離に大きく依存し、近距離の個体間の交配頻度が高いことが明らかとなった。しかし、その一方で、尾根で隔離された流域間の遺伝子流動も存在することが明らかとなった。
P2-071c: コナラ交雑家系における連鎖地図の作成と開葉と成長量に関するQTLの探索
1. はじめに
近年、分子遺伝マーカーの開発が進み、樹木においても連鎖地図の作成が可能となったのに加え、全ゲノム領域をカバーする連鎖地図の発展にともない、量的形質遺伝子座(QTL)の位置と効果を決定する研究が進められている。このQTL解析を用いた手法は、樹木において環境に対する適応を遺伝的に解析するにあたり有効な手段である。本研究では、コナラ属における遺伝と適応に関する情報を蓄積するため、コナラ(Quercus serrata)における連鎖地図の作成と、開葉と成長量に関するQTLの同定を目的とした。
2. 材料と方法
2000年に加藤が行った交配によって得られたコナラの家系を実験に用いた。2002年、2003年の春に実生64個体の開葉日、茎の成長量のデータを測定した。AFLPおよびRAPD法による多型分析を行い、期待分離比の得られたマーカーを用いて連鎖解析を行った。作成された地図をもとに、ANOVAと区間マッピングによるQTLの探索を行った。連鎖地図の作成とQTL解析には、Mapl (Ukai et al. 1995)を用いた。
3. 結果と考察
Pseudo-testcross法を用いた分析により、母親の連鎖地図(18個のマーカーが座乗する7つの連鎖群)と花粉親の連鎖地図(32個のマーカーが座乗する12の連鎖群)の二つの連鎖地図が作成された。今回、インタークロスタイプのマーカーを用いていないため、二つの連鎖群を対応付けることはできなかった。
作成された連鎖地図は、QTLのおおまかな概算に用いた。ANOVAから得られたQTLの候補と、区間マッピングによるLODスコアより、2002年開葉に関する1つのQTLの候補が見つかった。
これらのデータに2004に測定した開葉データを加え、3年間にわたる比較、考察を行う。
P2-072c: 同所性ヤドカリにおける浮遊幼生着底の時空間パターンと貝殻資源利用可能性の影響
生物の中には発達段階のある時期に生活型を劇的に変化させるものが存在する。浮遊幼生期を持つ多くの海洋底生生物においては浮遊生活から底生生活へ移行する着底がその時期にあたり、着底期は彼らにとって環境ストレスや捕食などの影響を強く受ける時期である。したがって海洋底生生物の幼生は着底時の生存率を高めるため、しばしば捕食や環境ストレスを緩和するような特殊な生息地を利用する。このような生息地(隠れ家)の分布及び利用可能性は浮遊幼生の着底パターンや、種の個体群構造に影響を与えると考えられる。
ヤドカリは貝殻に寄居する特異な進化を遂げた甲殻類であり、後期幼生は空き貝殻に入り、脱皮・変態して稚ヤドカリとなる。よって貝殻の資源量や分布は、ヤドカリ浮遊幼生の着底量や着底パターンに大きな影響を与える可能性がある。
本研究は、ヤドカリの着底パターンが貝殻の分布や資源量に影響を受けているかどうか検証することを目的とした。北海道南部の平磯潮間帯に生息するホンヤドカリ属5種を対象に、1)種の分布様式、2)幼生の着底パターン、3)貝殻資源量パターンを調査するとともに、貝殻の入ったメッシュバッグを海岸に設置する実験を行った。調査および野外実験は海岸線に平行に設定した4つのトランセクトラインを単位とした。
その結果、ライン間での幼生の着底パターンは種の分布様式と傾向が類似していたが、貝殻の分布とは一致しなかった。また貝殻を海岸に一様に設置した場合の着底パターンと傾向が類似していた。よって貝殻資源の分布は着底パターンに影響を与えていないと考えられた。一方同一ライン内でみると、貝殻資源が多いほど着底量は多く、ライン内では着底パターンに貝殻資源量が影響している可能性が示唆された。また、着底パターンは種の分布域同様種間で変異が大きく、種間変異を生み出す要因を今後の調査で明らかにする必要がある。
P2-073c: 捕食圧の変化による魚類の体サイズの変化;生態的プロセスと進化的プロセス
近年、piscivores(食魚性魚類)の淡水生態系への移入とその生態学的な影響が世界中で懸念されている。その中で、piscivoresの移入や増加にともなって、その餌魚の体サイズや成長率が増加することが多くの研究で報告されている。このメカニズムについては、主に二つのプロセスで説明されている。それは、餌魚の個体群サイズが縮小して種内競争が緩和されること(生態的プロセス)と、侵入したpiscivoresによるサイズ依存的な選択(進化的プロセス)である。本研究では、両方のプロセスを組み込んだ数理モデルを構築して、餌魚の個体群に対する二つのプロセスの相対的効果を評価した。このモデルでは、サイズ依存的な捕食と、その進化的トレードオフとして早成長による体の脆弱性を仮定した。その結果、以下のことが予測された。(1)どちらのプロセスでも捕食圧が増加すると体サイズは常に増加するが、捕食圧の増加が大きいほど進化的プロセスによる相対的効果は大きくなる。(2)一般的に、成長率の進化がある場合の個体群サイズは生態的プロセスだけの場合よりも小さいが、非常に強い捕食圧下では逆転して進化的プロセスの方が餌魚は生残する。(3)総じて、餌魚のバイオマスは捕食圧が低いとほとんど差はないが、強い捕食圧下では進化的プロセスの方で大きくなる。さらに、(4)捕食圧の増加が急激だと、成長率の進化が間に合わないために餌魚は絶滅しやすくなる可能性も示唆された。その上で本研究では、琵琶湖におけるオオクチバスの増殖と在来のハゼ科魚類イサザのバイオマス、体サイズの長期データを用いて、このモデルの妥当性を検証した。
P2-074c: メタ個体群内の分散:シオダマリミジンコにおける移出率、分散成功率、パッチ配分率の決定機構
一般にメタ個体群の長期存続には、局所個体群の成立する生息場所パッチ間の個体の移動が重要である。ある特定の生息場所パッチから他のパッチへの個体の移動は、パッチからの移出率、移出個体の分散成功率、分散成功個体のパッチ配分率の3要素に分離することができる。それらは生活史ステージ、性別、生物の特性や生息場所パッチの特性によって能動的あるいは受動的過程を通して決定されるだろう。しかしこれらの詳細な研究はほとんどない。
シオダマリミジンコ(Tigriopus japonicus)は岩礁海岸の飛沫帯のタイドプール内に生息する小型甲殻類で、そのメタ個体群の広がりは1つの岩礁海岸のタイドプール群であると知られている。本種の局所個体群間の移動は降雨や波浪による水の交換によって生じ、能動的、受動的なプロセスが関与していると考えられる。そこで本種の、1)移出率、分散成功率。2)生活史ステージ、性別が移出率、分散成功率へ与える能動的な影響。3)移出率、分散成功率、パッチ配分率へ影響する要因、を明らかにすることを目的とした。
シオダマリミジンコの生体と死体を染色し放流し、1日の分散期間後に再捕することで移出率、分散成功率、配分率を測定し、それらに影響を与える要因について調査した。その結果、局所個体群からの移出率は20%程度、移出個体の分散成功率は5%程度だった。生体は死体に比べ移出率は低く、分散成功率は高かった。生体では成長につれ移出率は低下した。移出率、分散成功率ともに雄に比べ雌で高かった。移出率にはタイドプールの高さ、分散成功率には海水とタイドプールの水温差、パッチ配分率にはパッチ間距離が影響を与えていた。本研究から、分散手段である水の流れに対して小さな移動能力しか持たないと思われる生物でも、様々な生物的反応によって非生物の粒子とは異なる複雑な分散をしていることが示唆された。
P2-075c: ナミハンミョウ幼虫期の成長と死亡に影響する密度依存的な作用
ナミハンミョウの幼虫は、裸地に縦孔の巣をつくる待ち伏せ型の捕食者である。幼虫の巣孔が集中していれば、食物を得る機会が減少すると考えられ、近傍個体の分布状態が、個体の生存、成長に影響することが予測される。巣孔の位置は、成虫になるまでほぼ変わらないため、各個体の経験する密度を精密に求めることができる。幼虫の直接的な死亡要因としては、飢餓、脱皮の失敗等が挙げられる。私たちは、幼虫の成長や死亡が、どのような要因によって左右されるかを調べた。
調査プロットを6カ所設け、その中の幼虫を全て個体識別し、約2日に一度その齢や生存、死亡を記録した。また、幼虫巣孔の詳細な分布地図を作製した。幼虫の生死に大きく影響しうる要因として、幼虫密度、餌密度、生息場所の質が考えられた。幼虫密度としては、各個体の実際に経験する混み合いの程度を求めるために、各調査日の個々の巣孔を中心とする半径5cm内に巣を構える他個体を齢別に数え、近傍他個体密度として計算した。これらの要因が、どの程度幼虫の成長と死亡に影響しているのかを評価するために、ロジスティック回帰分析を用いた。影響を及ぼす要因は、齢期ごとに異なる可能性があるので分け、回帰分析において、個体ごとに次の齢段階に進めたか、進めなかったか(三齢は羽化したか否か)を基準とした。
その結果、幼虫の成長と死亡を左右する要因は、一齢期では、幼虫密度、餌密度、生息場所、二齢期では、幼虫密度と生息場所、三齢期では、幼虫密度と生息場所であった。また、オッズ比から、一齢から三齢を通じて、幼虫密度が最も影響を及ぼしており、同齢以上の幼虫密度が大きく影響することも明らかになった。一方、齢期が進むごとに幼虫密度は低くなるので、幼虫期の密度は、個体群の調節機構として働いていることが示唆された。本研究では、幼虫が実際に経験する密度を個体の周囲の他個体数として測定することで、その効果を検出できた。
P2-076c: リーフマイナー野外個体群における潜孔パターンと寄生の関係
植食性昆虫が活動時に出す様々なもの(匂い、振動など)は、天敵昆虫の採餌においてcueとして利用されうる。葉に残る食べ痕も同様で、天敵昆虫に対し、植食性昆虫の居場所を知らせる視覚的なcueとして利用される。潜葉虫は、葉に食べ痕を残す昆虫の1つであり、幼虫期に葉の内部(葉肉部分)を摂食し成長するため、幼虫が食べ進んでいった様がそのまま葉に白い筋として残ってしまう。この白い筋(食べ痕)のことをマインと呼び、このマインが視覚的に目立つため、潜葉虫は天敵寄生蜂に見つかりやすく、高い寄生圧に苦しんでいる。しかしながら、マインはうねったりと複雑なパターンをしており、マインの複雑さが寄生蜂(マインを辿って潜葉虫を探す)に対して防衛戦略として成り立っているのではないかという仮説がある。実際に、複雑なマインには蜂の探索時間を増加させるという効果があることが既に明らかになっている。そこで、今回はキク科のヨメナを寄主植物とするOphiomyia maura野外個体群について、マインパターンと寄生率の関係を調査した。調査は、2週間ごとにマインつきの葉を60枚程度サンプリングし、マインの複雑度と潜葉虫の生死、死亡している場合はその原因を記録した。idiobiontタイプの寄生蜂による寄生のみを「寄生」として記録した。また、マインの複雑さの変異性の要因には、マイン長の違い(長いと複雑化する)と個体間の違いとがある。前者を幼虫寄生蜂による寄生、後者を蛹寄生蜂による寄生と、区別して調査することによって、寄生率に対するマインパターンの効果をより詳細に解析したので発表する。
P2-077c: 正の頻度依存捕食と学習がもたらす振動:マメゾウムシ2種と寄生蜂の3者系
2種のマメゾウムシ(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)と、その共通の捕食者である寄生蜂1種(ゾウムシコガネコバチ)を用いた3種の累代実験系において、3種の共存が長く持続した繰り返しでは、2種マメゾウムシの個体数が4週間周期で交互に増加するような「優占種交替の振動」がみられた。このような振動は、寄生蜂が2種のマメゾウムシに対して正の頻度依存の捕食を行う場合などに見られると考えられる。
そこで、ゾウムシコガネコバチの寄主に対する産卵選好性が、羽化後の産卵経験によってどのような影響を受けるかを調べた。羽化後、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに一定期間産卵させた寄生蜂は、それぞれ産卵を経験した寄主に対して産卵選好性を高めるようになり、産卵による強い羽化後学習の効果が検出された。このことから、ゾウムシコガネコバチは、産卵による寄主学習により個体数の多い寄主へ産卵選好性をシフトし、正の頻度依存捕食を行うと考えられる。
さらに、累代実験系において実際に頻度依存の捕食が行われているかを確かめるために、「優占種交替の振動」が観察される累代個体群から1週間ごとに寄生蜂を取り出し、その選好性の経時的な変化を調べた。その結果、寄主の個体数が振動している累代個体群では、寄生蜂の寄主選好性も振動しており、2種マメゾウムシの存在比と、寄生蜂の選好性には有意な相関があることが分かった。
これらの結果から、寄生蜂とマメゾウムシの3者系において、寄生蜂の正の頻度依存捕食が「優占種交替の振動」を生み出し、3者系の共存を促進している可能性がある。このような、個体の学習による可塑的な行動の変化が、個体群の動態や、その結果として群集構造に与える影響などについて考察する。
P2-078c: 個体の多様性が寄主ー寄生者系の共存に与える影響
生態学においては、多種多様な生き物がどのようにして共存しているのか、そのメカニズムを解明することが1つの大きな目的である。その中でも、「被食者_---_捕食者関係」「寄主_---_寄生者関係」については、古くからその研究が行われて来た。「寄主_---_寄生者関係」は20世紀の初頭から、天敵を用いた害虫の防御という目的で、理論的、実験的に幅広く研究が行われて来た。理論的な研究では、不安定であることが分かっているNicholson-Bailey modelを、安定化させることで、その共存の要因を探るという手法が広くとられてきた。しかしこれらのモデルでは、世代毎に寄主、寄生者の繁殖結果を同時に計算するため、個体は全く同じように成長することが仮定されている。つまり、個体間でのばらつきは捨象されてしまっていた。
今回、この「寄主_---_寄生者系」において、個体間のばらつきを組み込んだ「ChopStickModel(CSM)」というモデルを作成した。これは一日を単位として、その時その時の状況に応じて個体毎にその繁殖の計算を行うモデルである。よって、個体間の成長のばらつきとそれによる繁殖の非同調性を考慮することができる。このモデルを用いてNicholson-Bailey modelとの比較を行い、個体間の成長速度のわずかな差が、共存の要因となり得ることを示した。
次にこの個体間のばらつきについて、実際の生物での値を求めた。寄主としてヨツモンマメゾウムシのiQ系統、寄生者としてコマユバチの一種を用いて実験を行った。その結果をもとにした成長速度にばらつきが、寄主_---_寄生者系の共存に与える影響について、CSMを用いて求めた。
P2-079c: 里山におけるニホンアカガエルとヤマアカガエル個体群の絶滅リスク評価
ニホンアカガエルとヤマアカガエルは、冬季に水田で繁殖するため、圃場整備による乾田化の影響を受けやすく、地域によっては個体群の急激な衰退が起きている。本研究では、房総半島中央部に同所的に生息する2種を対象に、繁殖集団の個体群統計学的特性を明らかにすると共に、個体群存続可能性分析を行って、それぞれの集団の絶滅リスクを評価した。
1)個体群統計学的解析:繁殖集団を対象として、標識再捕獲法による個体数推定と卵塊数の計測によって、雌雄それぞれの個体数を推定した。さらに切り取った指骨による年齢査定を行い、繁殖集団の年齢構成、繁殖開始年齢、成熟後の繁殖参加回数を明らかにした。
2)齢構成モデル:卵、幼生、上陸個体毎に推定した個体数の推移より、産卵から1年間の生存率を推定した。成体の年間生存率は、繁殖集団中で複数回繁殖を行っている個体の占める割合から推定した。齢階級ごとの繁殖率は、1年目の生存率と各齢階級の平均一腹卵数からを求めた。これらの値をレスリー行列に表現し、齢構成モデルによる個体群のシミュレーションモデルを構築した。
3)絶滅リスク評価:構築したモデルから個体群存続可能性分析を行い、一定期間後の絶滅リスクを評価した。また絶滅を回避するためには繁殖率と生存率でどの程度の値が必要となるか推測した。
P2-080c: ニホンアカガエルの個体群動態と圃場整備、耕作放棄、復田の関係 -南関東における事例-
ニホンアカガエルは水田を主な生息場所とし、本州、四国、九州等、全国的に広く分布する一般的なアカガエルであるが、近年、圃場整備や耕作放棄といった生息環境の変化に伴い、多くの地域個体群が急速に衰退していることが指摘されている。本研究では南関東の地域個体群 40 個体群以上を対象として 1980 年代後半から卵塊数の追跡調査を行い、各個体群の動態を把握するとともに、圃場整備及び耕作放棄がニホンアカガエル個体群に及ぼす影響を明らかにした。また、地域個体群の保全・復元を行う上で、頻繁に行われるであろう生息環境の改善を一部の谷津田において行い、生息地の復元(復田)に対する個体群の反応を観察した。
調査した個体群の動態は、以下の3つのパターンに大きく分かれた。1)比較的安定して高い水準で卵塊数を維持している高密度安定型 2)高い水準であったが、ほぼ絶滅状態にまで減少した激減型 3)2と同様に減少を始めたがある段階で安定し、場合によってはその後回復する低密度安定型。各パターンの割合は、高密度安定型が 14.6 %、低密度安定型が 24.4 %、激減型が 61 %であった。激減型の個体群の生息地では圃場整備及び耕作放棄が進行していた。調査個体群中、圃場整備の記録が残されている個体群の動態は、圃場整備後に衰退を示した。耕作放棄については、長田(1978)により詳細な記録がなされている。また、周囲に生息個体が存在する地域において休耕田の復田に伴い生息環境が改善された場合、数シーズン後の繁殖期から急激な卵塊数の増加が認められた。
以上のことから、ニホンアカガエル個体群は衰退の傾向にあり、その原因として圃場整備、耕作放棄が大きく関わっている。また周辺環境に残存個体が存在する地域においては、繁殖に適した場所を提供することで、比較的早期に個体数の回復が起こると結論した。
P2-081c: ニホンアカガエル幼生の卵隗間でみられた生存率の差:マイクロサテライトマ ーカーを用いて
多くの両棲類で、幼生の生存や成長には、卵数や幼生の密度、池の環境や餌条件、幼生間の血縁度、競争者・捕食者の存在などの様々な要因が関わっていることが報告されている。しかし、それらの殆どは実験条件下で行われ、実際にどの親から生まれた子が多く生き残ったか、といった親の繁殖成功に結びつけた研究は少ない。幼生の個体数が多く個体識別が難しいため、子の生存率を測定するのは容易ではないからである。
そこで本研究では、ニホンアカガエルRana japonicaの野外集団で遺伝マーカーを用いて卵塊あたりの生存率の推定を行った。ニホンアカガエルは、早春に浅い水域に500-3000個の卵を含む卵塊を産む。1つの池に複数の卵塊が産卵されていることがよくある。メスは1シーズンあたり1卵塊しか産卵しないので、産卵池の中には血縁や孵化時期の異なる多数の幼生が共存することになる。遺伝マーカーとしてマイクロサテライトDNAを用いて、孵化から変態まで生存した個体がどの卵塊から生まれたのかを特定した。そして卵塊あたりの幼生の成長・生存を調べ、産卵したメスの繁殖成功を推定した。
変態まで生存した幼生の数は、生まれた卵塊によって大きく異なり、産卵シーズンの早い時期に産卵された卵塊で多くなる傾向が見られた。これは早い時期に産卵するとメスの繁殖成功が高くなるというこれまでの結果を支持している。また幼生期間の長さや変態した時のサイズにも違いが見られた。これらの結果を考察する。
P2-082c: 中山間地域におけるツチガエルの出現状況及び移動パターン
ツチガエル(Rana rugosa)の生息環境を把握する目的で、新潟県南東部に位置する十日町市当間(あてま)高原リゾート敷地内で水辺のあるヨシ原やその周辺林(標高約350m)等環境区分の異なる合計6方形区を設定し、2002年から2003年に調査を行なった。調査地内に合計260個の落下型トラップを5m間隔に埋設し、ツチガエルの標識再捕獲調査を実施した。ツチガエルの個体識別にはマイクロチップ(トローバン社製、11mm長)を使用した。
調査期間中捕獲したツチガエルは延べ4,299個体であった。成体の出現環境はヨシ原A 方形区(以下「方形区」省略)54.3%が最も多く、ヨシ原B 18.8%、スギ林C 20.9%、スギ林D 2.7%であった。 一方、ツチガエル幼体等の出現環境はヨシ原A 40%、ヨシ原B 28.2%、スギ林C 20.7%、スギ林D 7.2%となり、成体よりもスギ林D に出現している傾向を示した。両者ともスギ林C 内では、林内を流れる沢沿いや隣接する池沿いを中心に多く出現した。一方、ウリハダカエデ、リョウブなどが優占している低木林E、Fではほとんど出現しなかった。
標識した個体は988個体であり、再捕獲率(再捕獲個体数/全標識個体数)は38.4%、1個体あたりの平均捕獲回数は1.7回であった。3回以上捕獲された181個体を対象に、出現傾向を1)定着型:同一方形区内にのみ出現、2)移動型:複数方形区に出現、と分類した場合、その比率は54.1%、45.9%であった。定着型個体はヨシ原A、スギ林C でそれぞれ多く出現した。一方、移動型個体の中ではヨシ原A-スギ林C間での移動・往復が最も多く、繁殖期間の6月下旬、7月下旬に集中していた。
このような結果から、ツチガエルは水辺の豊富なヨシ原を主要な生息場所としているものの、ヨシ原とヨシ原の近くにあるスギ林を移動していること、スギ林の中でも沢を中心に移動していることが明らかにされた。
P2-083c: 鷺のソナタ ー空から綴る3年間の物語ー
本研究で対象としたサギ類は、毎年繁殖期になると林や竹薮にコロニーと呼ばれる集団繁殖地を形成する。調査地域である茨城県及びその近県には2002年から2004年の3年間に13から16カ所のコロニーが確認され、また1コロニーにつき5から6種のサギ類(ダイサギ、チュウサギ、コサギ、アマサギ、ゴイサギ、アオサギ)が共存していた。本研究はこれらのコロニーの分布や総個体数、種構成などに与える要因の解明を目的とする。
調査は2002年から2004年までの3年間、毎年繁殖期のピークとなる5月下旬から7月上旬にかけて各コロニーにおける種別個体数の推定により行った。推定方法は小型ラジコンによる低高度の空中写真撮影、また地上からの種構成調査を組み合わせることで行った(遠山&徳永 2002年度日本動物行動学会)。
コロニーの形成に影響する要因としては、営巣場所、採餌場所、捕食、歴史性など様々考えられる。今回は特に各コロニーの歴史性や周辺の採餌場面積に注目し、それらがコロニーの存続、総個体数、種構成などにどのような影響を与えるのか解析を行う。
P2-084c: ツキノワグマの体毛から食歴を読み取る -炭素・窒素安定同位体を用いて
長野県の山岳域と人里周辺に生息するツキノワグマ(Ursus thibetanus)の体毛についてそれぞれの炭素・窒素安定同位体解析を行い、ツキノワグマの食歴およびツキノワグマによる被害との関連性について検討した。
従来の体毛を用いた安定同位体による食性の解析法は、体毛の根元付近から毛先までをひとつの試料として用いるため、体毛の成長期間の食性が平均化されてしまい、餌が不足する夏に頻発する農作物および残飯被害を検出することは困難であった。そこで、体毛は成長する際、食性の変化を連続的に記録しているのではないかと考え、体毛の安定同位体組成の時系列変化に注目した食性変動の解析法(以後、GSA:Growth Section Analysisとする)を考案し、食歴の推定を試みた。
北アルプスで学術捕獲されたツキノワグマについてGSAによる解析を行ったところ、毛根から毛先まで山の植物(C3植物)に近い低いδ15N値,δ13C値を示し、体毛の成長期間を通じて、山の植物を中心に食べて生息していたことがわかった。一方、里山近くでトウモロコシ(C4植物)の食害を理由に有害駆除された個体について同様の解析を行った結果、春に相当する毛先付近の体毛は低いδ15N値,δ13C値を示し、山の植物を中心に食べていたが、根元付近になると急激にδ13C値が高くなり、夏にはかなりトウモロコシに依存するようになったと推定できた。また残飯被害を出した個体では、冬眠明けの春にはC3植物に近い値をもち、山の植物を中心に食べていたが、次第に残飯の指標として用いた日本人の毛髪の値へ向かってδ15N値,δ13C値共に高くなり、残飯へ依存していく過程を読み取ることができた。
個体ごとにGSAを用いて詳細に食歴を推定することにより、被害との関連性を明らかにすることができることがわかった。
P2-085c: 山梨県御坂山地におけるツキノワグマの重回帰分析を用いた環境利用の解析
国外において、野生動物と生息環境の関係をモデル化し、評価する手法は近年多く開発されている。HSI(Habitat Suitability Index)もその一つであり、その適用種数は年々増加している。モデルを使用する人にとっては、単純で意味のあるモデルが最も望ましいが、モデル化を行うには、対象種に関する多くの情報が必要となり、そのような情報の収集が不可欠である。
本研究で対象にしたツキノワグマについては、生態などの情報が乏しく、現段階でHSIのようなモデルを作成することはできない。そこで、本研究では野生動物と生息環境との関係について、重回帰分析を行ったので報告する。すでに2002年に富山で行われた日本哺乳類学会の場で、1つの解析スケールを用いた分析結果について報告したが、今回はさらに解析を進め、独立変数ごとに複数のメッシュサイズを検討し、最適な変数をAIC(Akaike’s Information Criterion)により選択し、重回帰式を作成した。
解析ではツキノワグマの位置情報を従属変数とし、独立変数としてツキノワグマの利用を考慮して分けた植生タイプ、鉄道、道路、林道などの環境に関する情報を用いた。独立変数はそれぞれの持つ要素により影響の及ぼす範囲が異なると考えられることから、メッシュサイズは100m、250m、500m、1kmの4種類とした。ツキノワグマの位置情報は、1999年4月から2001年12月の活動期において、オス12頭、メス7頭の計19頭に電波発信器を装着し、ラジオテレメトリー調査により取得した2,424点である。環境に関する情報は、既存情報をもとに作成し、植生には環境省の自然環境情報GISを、鉄道・道路は国土交通省の国土数値情報ダウンロードサービスを、林道は各県の林務関係部署が作成した紙地図の管内図をパソコンでデジタル化して使用した。