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[要旨集] ポスター発表: 群集生態
- P2-086: 復興! 群集統計力学(シンポジウム講演「北の一様,南の多様:大規模多種力学系の理論から」詳細版) (時田)
- P2-087: ナラ集団枯損被害による森林の変化が甲虫群集に与える影響 (江崎, 小谷, 後藤, 大橋, 野平, 井上)
- P2-088: 全種保全を考慮した食物網からの最大持続収穫高 (松田 裕之 , エイブラムス)
- P2-089: 被食者の捕食回避行動が食物連鎖の安定性に及ぼす影響 (難波, 四方)
- P2-090: ハムシ科種多様性の森林タイプ及び森林施業による違い (大澤)
- P2-091: ネムノキマメゾウムシの成長過程における死亡要因:寄主、捕食者、競争者からの効果 (坂田, 嶋田, 石原)
- P2-092: 長野県上伊那地方水田地域におけるトンボ群集構造及び季節変化と立地環境との関係 (九鬼, 大窪)
- P2-093: サンゴ礁池内の濁度環境と生物群集(サンゴ・海藻・魚)の関係:石垣島宮良湾の場合 (高田, 渋野, 藤岡, 大葉, 鈴木, 長尾, 鳥取, 阿部, 橋本)
- P2-094: 季節ごとに変化する資源利用の個体間変異:安定同位体を用いた餌資源の解明 (上杉, 村上, 南川)
- P2-095: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集 (16)野鳥類の生態と種類・個体数の年次変動 (桜谷, 城本)
- P2-096: イバン族が利用する様々な林における小型哺乳類相(林床) (中川, 中静, 箕口, 高橋, 濱本)
- P2-097: ヤクタネゴヨウ自生地の群集構造と立地 (永松, 小南, 齊藤, 佐藤)
- P2-098: 石垣島宮良湾と石西礁湖内シモビシにおけるサンゴ礁生物群集組成(サンゴ・海藻・魚)比較 (渋野, 大葉, 高田, 藤岡, 下池, 木村, 鈴木, 長尾, 鳥取, 岩瀬, 阿部, 橋本)
- P2-099: 岩礁潮間帯生物群集における生産性・多様性関係の空間スケール依存性 (伊藤, 仲岡, 野田, 山本, 堀)
- P2-100: 長期的な海洋環境変化と魚食性海鳥3種の食性 (綿貫, 出口, 新妻, 中多)
- P2-101: 南アルプスにおけるチョウ類群集の季節変動 (中村, 有本)
- P2-102: 海藻・海草と小型甲殻類粉砕者(Shredder)_-_食物網上の関係 (宇田川, 坂西, 伊藤)
- P2-103: 岩礁潮間帯における食物網構造の時空間変異 (山本, 仲岡, 野田, 堀)
- P2-104: 農地における栽培管理が大型土壌動物の群集構造に与える影響 (伊澤, 藤田, 藤山)
- P2-105: 北海道の平地湿性林に生育する優占種に見られるJanzen-Conell仮説に適合する更新 (大坂, 紺野)
- P2-106: 屋久島スギ・照葉樹混交林の20年間の動態 (木村)
- P2-107: 樹木ー潜葉虫_--_寄生蜂群集の空間構造(1) (村上, 平尾, 松田, 久保)
- P2-108c: クロヒカゲの翅に残された鳥の嘴の痕の季節的増減 (井出)
- P2-109c: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集(17)ヤママユガ科ガ類の生態:特にバイオマスの季節的変化と被食 (城本, 桜谷)
- P2-110c: 岩手山麓春子谷地湿原の訪花昆虫相の特徴 (鈴木, 千葉, 長谷川)
- P2-111c: 複数の動物プランクトンの存在下で植物プランクトンは共存するか? (西野, 河田)
- P2-112c: 河川の物理・化学特性が水生生物の群集構造に与える影響 (三浦, 村上, 久原)
- P2-113c: コウモリ類の種ごとの環境利用-音声による種判別を用いて- (福井, 揚妻, David A.)
- P2-114c: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集(18)チョウ類成虫の環境利用 (東條, 武内, 桜谷)
- P2-115c: キノコ食昆虫群集における資源分割 -出現時期と餌の種類を資源軸として- (山下, 肘井)
- P2-116c: 熱帯林におけるアリと植物、アリと同翅亜目類の栄養共生系に与える人為的攪乱の影響 (田中, 山根, 市岡)
- P2-117c: 海草藻場における一次消費者の多様性が生態系機能に与える効果 (山田, 仲岡)
- P2-118c: 群集行列を用いた岩礁潮間帯ベントス群集動態の解析 (辻野, 仲岡, 野田, 山本, 堀)
- P2-119c: 岩礁潮間帯グレイザー群集における種多様性の緯度勾配:マルチスケールパターンとその形成機構 (萩野)
- P2-120c: 岩礁潮間帯の固着生物群集構造の地理的変異:相対優占度パターンとその決定要因 (白賀, 野田, 仲岡, 山本, 堀)
- P2-121c: 岩礁潮間帯生物群集における生物多様性‐生態系機能関係の解析 (相澤, 仲岡, 野田, 山本, 堀)
- P2-122c: 岩礁性タイドプールにおける魚類群集パターンと種の共存 (新垣, 渡慶次)
- P2-123c: 外生菌根菌における宿主特異性の系統進化-オニイグチ属菌の分子系統解析を用いて- (佐藤, 湯本)
- P2-124c: 東南アジアにおけるアリ-植物-カイガラムシ3者共進化系の分子系統解析 (上田, 市野, 稲森, 佐藤, 市岡, 村瀬, Quek, Gullan)
- P2-125c: 希釈平板法による土壌微生物相把握の意義 (橘, 福永, 仁王, 太田)
- P2-126c: 熱帯外洋域におけるプランクトン食物網の構造とその地域・時間変動 (市野川, 高橋)
- P2-127c: 渓流の落葉リター分解と底生動物種の多様性:食物改変効果の検討 (奥田, 加賀谷)
- P2-128c: 樹木‐潜葉性昆虫‐寄生蜂群集の空間構造 (2) (平尾, 村上)
P2-086: 復興! 群集統計力学(シンポジウム講演「北の一様,南の多様:大規模多種力学系の理論から」詳細版)
シンポジウム講演では、主に野外・実験研究者向けに、種の豊富さのパターンの理論を紹介し、対応する実証研究の可能性について議論したい。一方、本ポスター講演においては、理論・モデル研究者向けのテクニカルな内容も紹介する。具体的には、大規模な多種生態系のモデルを、複雑な種間相互作用(ランダム行列)の性質によってクラス分けすることにより、野外でしばしば観察される、さまざまな種の豊富さのパターンが理論的に導かれることを示す。シンポジウムにおいては、主に対称な(共生、競争)ランダム相互作用をもつレプリケータ方程式系と、対応する非対称(補食、共生、競争)ランダム相互作用行列をもつ多種ロトカ・ボルテラ方程式系に対する、統計力学的解析の結果と、その生態学的な意味に重点を置くが、ここでは、E. Kernerが半世紀前に論じた、反対称相互作用(補食)をもつロトカ・ボルテラ方程式に対する「群集統計力学」を、より広いクラスの生態学モデルへと拡張する試みについても紹介する。(群集統計力学については、簡単なレビューを「数理科学2004年7月号」に書いたのでご参照ください。)
P2-087: ナラ集団枯損被害による森林の変化が甲虫群集に与える影響
ナラ集団枯損被害は、ミズナラ大径木に目立ち、林内の約半数のミズナラが枯死するため、被害が発生した林分では著しく森林環境が変化し、昆虫群集が変化していくと考えられる。2001_から_2003年まで被害の履歴の異なる3林分(2001年に未被害林、被害発生林、被害終息林)において、2種類のトラップ(マレーズトラップ、サンケイ製吊り下げトラップ)を設置し、林内の植生の変化に伴う5グループ(キクイムシ、カミキリムシ、ゾウムシ、ハムシ、コメツキムシ)の甲虫群集の調査を行った。その結果、被害発生1年後に甲虫類の種数が増加し、その後、減少する傾向が見られた。この原因として枯死木発生による甲虫類の利用資源の増加およびギャップの発生による林縁効果による影響が考えられた。
P2-088: 全種保全を考慮した食物網からの最大持続収穫高
多種の被食者・捕食者系を考え、各魚種への努力量を独立に調節できると仮定した(漁業費用は無視した)。各種への漁獲努力量を,そのときの全漁獲高Yを多魚種MSYということにする。ランダムなパラメータ値をもつ仮想生態系を1000例選び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種MSYを求めた.また、全種を存続させるという制約の下でのMSYを求めた.そのため,
dNi/dt = (ri + ΣaijNj -qiEi) Ni
という多種の被食者・捕食者系を考える(i=1,...,6の6種系).ただしNi,ri,qi, Eiはそれぞれ種iの生物体量,内的自然増加率,漁獲効率,漁獲努力であり, aijは種間関係の係数である.混獲せずに、漁獲努力Eiを自由に調節できると仮定する。平衡状態Ni*において、多魚種から得られる全漁獲高はpiを魚価としてY = ΣpiqiNi*と表される(漁業費用は無視した)。これを最大にする各種への漁獲努力量Eiを考え,そのときの全漁獲高Yを多魚種MSYということにする。6種系においてランダムにパラメータの値をもつ仮想生態系を1000例選び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種MSYを求めた.その結果,
1) 多魚種MSYにおいては,しばしば3種以上が絶滅し,全種が存続した例はわずかであった.
2) 最上位捕食者を存続しつつ禁漁にする解は得られなかった.
3) 大半は1種または2種だけを利用する解でった.
今度は,6種すべてが存続するという制約の下での多魚種MSYを求めた.
1) 多栄養段階を利用する解の頻度が増えた
2) 最上位捕食者を禁漁のまま保全する解が低い頻度ながら得られた.
3) MSYは制約なしの場合に比べて半分以下になることもあった.
したがって,MSY理論と生物多様性保全は,単一種理論で考えているほどには両立せず,漁業のおいては,多様性を保全することに常に注意すべきである.
P2-089: 被食者の捕食回避行動が食物連鎖の安定性に及ぼす影響
捕食者は餌を食うことによって,被食者個体群に直接の影響を及ぼすだけではなく,被食者の捕食回避行動を誘発することによって,捕食者と被食者の遭遇率を下げたり,被食者の摂餌率や繁殖率を下げたりするなど,捕食者と被食者の相互作用や被食者と資源との相互作用に間接的な影響を及ぼす。本研究では,このような間接効果が捕食者_-_被食者_-_資源からなる3栄養段階の食物連鎖の安定性に及ぼす影響を,数理モデルを使って調べる。
資源はロジスティック成長し,被食者と資源,捕食者と資源の相互作用は,HollingのII型の機能の反応を示すと仮定する。そして,被食者の捕食回避行動により,捕食者密度が高まるほど被食者の摂餌率と捕食者の被食者との遭遇率が低下すると仮定する。
このモデルは,捕食回避行動がなくても,カオスなどの複雑な挙動を示すので,捕食者の餌処理時間を無視できる場合を考える。被食者の資源処理時間が大きければ,捕食者の死亡率が中程度のとき,安定と不安定の2つの共存平衡状態が存在し,初期状態に依存して捕食者が絶滅する。ここで,捕食回避行動による被食者の摂餌率の減少は,共存平衡状態を存在しやすくする安定化の効果をもつが,捕食者の被食者との遭遇率の減少は,共存平衡状態を存続しにくくする不安定効果をもつ。さらに,被食者との遭遇率の減少を引き起こす捕食者1個体あたりの効果が大きくなれば,共存平衡状態が不安定化しリミットサイクルが現れる。捕食回避行動の及ぼす2つの間接効果の大きさの兼ね合いで,安定と不安定の2つのリミットサイクルが出現することもある。この場合も,捕食者の被食者との遭遇率が減る効果は不安定化要因であるが,予備的な研究の結果では,捕食者の餌処理時間が無視できない場合には異なる結論が得られている。
P2-090: ハムシ科種多様性の森林タイプ及び森林施業による違い
ハムシ科の種多様性をカラマツ人工林、広葉樹2次林、原生林にて調査し、比較した。また、カラマツ人工林では施業別に、壮齢林、間伐林(2年半以内に間伐した林)および長伐期施業林(高齢林)に分けて調査を行った。ハムシ科種数はカラマツ人工林で、2次林や原生林より多く捕獲された。カラマツ人工林内では、長伐期施業林で、壮齢林や間伐林より多くの種が捕獲された。また、カラマツ林のハムシ種構成は、2次林や原生林での種構成と異なっていた。ハラマダラヒメハムシ、ハネナシトビハムシ、およびオオルリヒメハムシはカラマツ人工林に偏って捕獲された。一方、ヨモギトビハムシは2次林で、ヒロアシタマノミハムシは原生林で多く捕獲された。ハネナシトビハムシとヒロアシタマノミハムシについて、寄主植物との関係を調査したところ、寄主植物の多い林分で個体数も多く捕獲されていた。森林タイプや森林施業がハムシに直接与える影響と植生の変化を通してハムシに与える影響が考えられた。
P2-091: ネムノキマメゾウムシの成長過程における死亡要因:寄主、捕食者、競争者からの効果
植食者の個体群を直接制御する主要な要因として、ボトムアップとしての寄主植物からの効果と、トップダウンとしての捕食者からの効果がある。HSS仮説ではトップダウンの効果の相対的な重要性が強調されていたが、植物はさまざまな防御機構を発達させており、必ずしもトップダウンの方がボトムアップよりも重要であるとは言えない。特に、特定の植物の花や芽、種子などの季節的に限られた資源だけを利用するスペシャリストの植食者が寄主植物のフェノロジーから受ける制約は強いと考えられる。また、同じ資源を利用する競争者の存在は、植物や捕食者と同様に植食者の個体群動態に大きな影響を及ぼす。
本研究では、和歌山県の紀ノ川河川敷2カ所(九度山、三谷)においてネムノキマメゾウムシに対する寄主植物、捕食者、競争者からの効果を野外で調べた。ネムノキマメゾウムシは、ネムノキの成熟途中のさや上に産卵し、その幼虫は1粒の種子のみを利用して成虫になるスペシャリストの種子捕食性昆虫である。ネムノキマメゾウムシの捕食者には卵寄生蜂と幼虫寄生蜂が、また競争者としては種子食者であるカメムシが考えられる。植物側からの制限要因を明らかにするためにネムノキのフェノロジーとネムノキマメゾウムシの産卵消長を調べた。また、さやに産みつけられた卵の孵化、卵寄生、孵化幼虫の種子への侵入、幼虫寄生、カメムシによる吸汁痕、成虫の羽化の有無などについて記録し、各成長ステージにおける死亡要因を特定した。その結果、ほとんどの卵は場所や年に関わらず成虫にまで成長することが出来なかった。また、各成長ステージにおける死亡要因としての捕食者、競争者からの効果の割合は、場所や年、季節によって大きく異なるが、寄主からの効果は遅い時期ほど高まる傾向が見られた。
P2-092: 長野県上伊那地方水田地域におけるトンボ群集構造及び季節変化と立地環境との関係
本研究は長野県上伊那地方をケーススタデイとして,立地環境の異なる水田地域におけるトンボ群集の構造と季節変化,また立地環境との関係性について明らかにすることを目的とした.調査地域は中山間地(未整備2、整備済1)と市街化地(未整備1、整備済1)の計5ヶ所を選定した.晴天日の午前と午後にルートセンサスを行い,半径5m以内に出現したトンボ目の種名・雌雄・個体数・出現環境・出現位置・行動を記録した.6月上旬から11月上旬まで月に2_から_3回,1調査地につき28回,計140回実施した.土地利用調査は2003年11月に行われた.
総出現種は23種,総出現個体数23,150個体で,その分類群構成はイトトンボ科2種,アオイトトンボ科3種,カワトンボ科2種,オニヤンマ科1種,ヤンマ科2種,エゾトンボ科1種,トンボ科12種であった.出現種数及び総個体数は中山間地未整備で多く,市街地整備済みで少なかった.これは池や川,湿地等の多様な水辺環境が存在し、周辺にねぐら等になる林が多いためと考えられた.
成虫の成熟段階別の個体数季節変動から各種の移動について考察した.出現種は移動性大(aウスバキトンボ,bアキアカネ)と移動性中(Aノシメトンボ等,Bナツアカネ,Cシオカラトンボ等),移動性小(オオアオイトトンボ等)の3グループに分けられ,さらに小分類された.
出現種の個体数データを用いてTWINSPAN解析を行った結果,調査地域は中山間地と市街地の2グループに分類され,トンボ群集は7グループに分類された.
成熟成虫の出現場所と行動の割合から、各種の水田地域の利用の仕方について考察した.種ごとに特定の環境に集中して出現する傾向がみられ,環境を選択して利用していると考えられた.
各調査地域では水辺や森林等の立地条件の違いに対応した種群が出現した.また水田地域に生息するトンボの種ごとの特性に応じた季節変動と行動が確認された.
P2-093: サンゴ礁池内の濁度環境と生物群集(サンゴ・海藻・魚)の関係:石垣島宮良湾の場合
サンゴ礁保全地域をモニタリングする際に、物理環境の変化にともなう生態系の変化が予測可能であれば理想的である。しかし、高い生物多様性を誇るサンゴ礁域では、種類ごとには低密度・パッチ状分布を示すために、物理環境と生物分布の詳細な関係を把握することが困難であった。そこで本研究では、各種の分布ではなく群集の組成に着目した。石垣島宮良湾92地点で得られた、サンゴ類127種、海藻海草類161種、魚類173種の在不在データ(全461種)を多変量解析した。まず、地点間の類似度指数を計算し、2次元配置とクラスター解析を行った。5つの群集(干潟岸側・干潟沖側と水路・礁池岸側・礁池沖側・礁縁礁斜面部)が類別され、岸から沖への帯状分布が認められた。地点間の類似度指数と環境変数(水深、岩盤被度、砂被度、泥被覆、SPSS、濁度)をもとに環境傾度を解析(db-RDA)すると、5つの群集はまとまって配置され、底質・濁度・水深といった環境傾度が強く認識された。また、類別された群集の指標種(IndVal)を抽出したところ、干潟岸側・干潟沖側と水路の2つの群集ではサンゴ類の指標種がなく、礁池岸群集でも指標として抽出されるサンゴ類は少数である。これは岸側に広く拡がる砂泥地を抱え、陸域の影響の強い宮良湾でのサンゴ群集分布の特徴といえる。一方、礁縁礁斜面と礁池沖側では多数の指標種が抽出されており、より環境傾度の低い地域では複数に分離されるべき群集が、狭い宮良湾内で混在してしまった可能性もある。このように、生物群集の多変量解析によって、サンゴ礁域の群集組成の特徴と物理環境との関連性を明らかにでき、物理環境をモニタリングする際に、注目すべき環境要素を選択することが可能となった。さらに研究を進めれば、対象面積・環境傾度の強さ・底質や濁度環境のレベル等に応じたモニタリング法を提案可能だと考えられる。
P2-094: 季節ごとに変化する資源利用の個体間変異:安定同位体を用いた餌資源の解明
異なる種の共存機構を解明することは生態学の主要なテーマの一つである。その際、多くの場合、資源利用についての種内変異は無視されてきた。しかし、安定同位体分析を用いた研究などによって、同種でも、個体ごとに資源利用方法がかなり異なることが明らかになってきた。これらの個体間変異は、種内競争の結果もたらされると考えられる。このような変異が生じるのは、競争関係の優劣により資源分割がおこるため、あるいは、ある一定の資源に対して特殊化することによって採餌効率をあげることができるためと考えられる。これまでの研究は競争圧が一定な系で行われてきたが、自然界では競争圧は資源量に伴って季節的に大きく変化する。
そこで本研究では季節変化に伴う資源利用可能量の変化を利用して、資源利用の個体間変異が季節的にどのように変化するのかを、北大苫小牧研究林に生息する小鳥6種を用いて検証する。鳥の個体ごとの餌資源利用様式を、炭素・窒素安定同位体比により推定し、以下の結果が得られた。1)資源利用の種間変異は、冬から春にかけて小さく、夏から秋にかけて大きい。2)種内変異は逆に冬から春にかけて大きく、夏から秋にかけて小さい。このことから、競争の激しい季節にはそれぞれの鳥は異なる資源に特殊化するため資源分割が起きるが、資源量が豊富な季節にはほとんどの個体が同様に採餌するため分割がおきにくいことが示唆された。しかし、競争の激しい季節でも種間の資源利用のオーバーラップは大きく、種間での資源分割の証拠は得られない。
P2-095: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集 (16)野鳥類の生態と種類・個体数の年次変動
奈良市郊外の里山林を有する大学キャンパスにおいて、1995年からルートセンサス法等により野鳥類の調査を行っており、これまでに96種の野鳥が記録された。ここでは、この9年間の調査結果をもとに種数や個体数の変化を中心に報告する。調査の結果、年間を通じて記録された野鳥の種数は各年とも50種前後で、大きな変化傾向は認められなかった。ワシタカ類は9種記録されており、個体数はオオタカがやや増加傾向を示しているが、夏鳥のサシバやハチクマはこの数年間ほとんど記録されていない。一方、他の夏鳥オオルリ、ホトトギス、ツバメ等は年次変動が比較的大きいものの減少傾向は認められなかった。しかし、冬鳥のツグミやジョウビタキ等は減少傾向が認められた。留鳥であるコゲラ、シジュウカラ、ホオジロ、スズメ等は変化傾向は認められず、ほぼ安定した個体数が記録された。ヒヨドリは春と秋にキャンパス上空を通過する群れが観察され、ここ数年個体数が増加する傾向が認められた。以上のように、留鳥でキャンパス内で繁殖していると思われる野鳥類では、個体数に大きな変化傾向は認められず、渡りをするタカ類や冬鳥では減少傾向が認められた。これは、キャンパスの生息環境に大きな変化はなく、留鳥の繁殖・生息も比較的安定していると考えられる反面、夏鳥や冬鳥では移動先の環境変化の影響が推察される。
P2-096: イバン族が利用する様々な林における小型哺乳類相(林床)
熱帯林は急速に消失・変貌しており、それにともなった生物多様性の減少は重要な地球環境問題のひとつである。本研究では人間活動による森林景観の変化が、散布後の種子・実生の主な食害者である小型哺乳類と種子食害強度に与える影響の評価を目的としている。
2003年8月、共同研究者と共に焼畑休閑林(1年後、5-6年後、20年後、30年以上)、孤立林、ゴム園、及び原生林(国立公園内)に、10×100mのプロットを合計33カ所設定した。そのうち21カ所のプロットで、記号放逐法(連続5晩)による小型哺乳類相調査と持ち去り実験による種子食害圧調査を実施した。持ち去り実験の材料にはジャックフルーツ(Artocarpus heterophyllus, クワ科)の種子を用い、残存種子数とその状態を5日間毎日確認した。
調査期間中、4科を含む合計20種(78個体)の小型哺乳類が捕獲された。最も出現頻度の高かった動物(17個体)は、オオツパイ(Tupaia tana)とチャイロスンダトゲネズミ(Maxomys rajah)であり、前者はゴム園で、後者は原生林に多く生息する傾向が見られた。出現種数は焼畑休閑林(5-6年後)で最も高く、ついで孤立林、原生林の順であった。一方で出現個体数は原生林が最も高く、2番目に焼畑休閑林(5-6年後)、3番目はゴム園となった。種子食害率(持ち去り+食害)は同じく原生林で最も高く、2番目に焼畑休閑林(5-6年後)で、3番目は孤立林であった。
まだ1度の調査結果であるが、原生林や孤立林のみならず焼畑休閑林(5-6年後)やゴム園で小型哺乳類の活動が活発であることが分かった。この原因としては、焼畑休閑林(5-6年後)にイチジクなどの結実木が多いことや、旧ゴム園には年間を通してゴムの実が存在していることが関係していると考えられる。また一斉開花時に小型哺乳類相や種子食害圧が各森林でどのように変化するのかも興味深い。さらに今回の発表では林床の小型哺乳類のみを対象としたが、今後は樹上性の哺乳類も対象に加え、種子と種子食動物の相互作用を網羅的に捉えたいと考えている。
P2-097: ヤクタネゴヨウ自生地の群集構造と立地
ヤクタネゴヨウは屋久島と種子島にのみ自生する五葉松で絶滅危惧IB類に分類されている。比較的数が残っている屋久島では標高300-800m付近の急峻な尾根に、他の様々な照葉樹と混交して生育している。ヤクタネゴヨウの更新にはこうした照葉樹が影響を与えていると考えられるため、ヤクタネゴヨウと混交樹種との関係を検討した。あわせてヤクタネゴヨウの更新立地について検討し、保全対策に資することを目的とした。
最大の自生地である屋久島西部林道沿いに調査地を設定した。調査地内の任意の場所に多数の100m2程度の方形区を設置し、毎木調査(樹高1.3m以上)と稚樹調査(1.3m未満)を行なった。
樹高1.3m以上の種組成データについて多変量解析(序列化)を行い、ヤクタネゴヨウの出現と林分種組成の変化のパターンについて検討した。ヤクタネゴヨウの稚樹が含まれる林分ではウバメガシ、シャリンバイが目立った。しかし全体としてみると試験地の林分種組成はヤクタネゴヨウの分布よりも、尾根ごとの類似性が強いように思われた。尾根を軸にした種組成の変化パターンが生じた要因については今後の検討が必要である。
方形区内に限らず試験地全体にわたってヤクタネゴヨウの更新稚樹は少なかった。このため、ヤクタネゴヨウが定着できる条件を検討するためヤクタネゴヨウを含む各樹種の個体分布とその微細立地の関係について解析を行った。各個体の分布位置を岩上、土壌上、他個体の根上、に分類した。主要19種の個体分布はa.岩上へ分布が偏る種群、b.岩以外の立地に分布が偏る種群、c.岩との相関が見られない種群に分類できた。このうちヤクタネゴヨウはa.岩上に分布が偏った。ヤクタネゴヨウは照葉樹との競争を避け、それらが生育しにくい岩上の立地に適応することで個体群を維持してきたことが考えられた。
P2-098: 石垣島宮良湾と石西礁湖内シモビシにおけるサンゴ礁生物群集組成(サンゴ・海藻・魚)比較
サンゴ礁生物多様性保全地域選定に必要な科学的資料を得ることを目的とし、沖縄県八重山諸島の環境の異なる2タイプのサンゴ礁(宮良湾のサンゴ礁と石西礁湖内のシモビシ)において主な生物群集とそれらの生息環境を調査、比較した。2002年9月に石垣島宮良湾に3本、2003年9月にシモビシに1本、岸から沖およびリーフを横断するように南北方向に調査線を設定した。それぞれの調査線に沿って180m間隔で6_から_10点の調査定点を設置し、各定点で岸と平行に10mのラインを引き両側2mに出現した造礁サンゴ、魚類、海藻について種類、被度、個体数を記録した。また、ラインに沿って0.5m間隔で基質を調査するとともに、ライン周辺部で堆積物(SPSS解析用)を採集した。
宮良湾では、造礁サンゴの被度と種数は沖合の礁縁部で高く、礁原部から礁池内に向かって減少したが、湾西側の礁池中ほどではAcropora、Montiporaの大規模群集がみられた。海藻類では紅藻が最も出現種数が多かった。分布様式から、湾の岸側の砂泥底を中心に分布する種群、沖側の礁原、礁斜面を中心に分布する種群、湾西側の礁池内の枝状サンゴ域を中心に分布する種群、湾東側の浅い岩盤域を中心に分布する種群に大別された。魚類では各ラインとも礁地沖側から礁原部にかけて個体数、出現種数が増加したが、湾西側の礁地内の枝状サンゴ域で最も出現種数が多く、その枝状サンゴの間に海藻が繁茂している地点で出現個体数が最大であった。
シモビシでは、底質がレキで浅い枝状サンゴ群集域で魚類、藻類とも個体数、種数、被度が高かった。
生物群集組成をもとに類別を行った結果、シモビシは宮良湾の礁池沖側グループに類別された。
P2-099: 岩礁潮間帯生物群集における生産性・多様性関係の空間スケール依存性
近年、生物群集の種多様性に影響を与える要因として、生産性の変異が様々な生態系で注目されている。生産性と多様性の関係は空間スケールによって異なり、関係のパターンは生態系や対象生物群により大きく変異する。しかしその要因や形成機構については不明な点が多い。その解明のためには同一システムで空間スケールを階層的に設定して調査する方法が有効である。
そこで講演者らは、岩礁潮間帯生物群集を対象に、3つの異なる空間スケール(日本列島太平洋岸の6地域間・各地域内の5海岸間・各海岸内の5岩礁間)で比較し、生産性と種多様性の関係の空間スケール依存性を検討する研究を継続中である。本発表では、(1)海域の生産性の一般的な指標であり、植食性固着動物の摂餌量の指標となるクロロフィルa量、(2)海域の生産性の間接的指標であり、海藻類の生産性を制御する栄養塩濃度を測定し、固着動物および海藻の種多様性との関連性を分析した結果について紹介する。得られた結果を空間スケール間、および・生物群間・季節間で比較することにより、その関係のパターンと決定要因について考察する。
生産性・多様性関係は、既出の研究に従い、(1)単純増加、(2)単純減少、(3)山型、(4)谷型、(5)無相関の5パターンに分類した。2003春から夏にかけては、岩礁レベルでは栄養塩・海藻間に道南で単純増加型の関係が見られ、三陸と房総で山型の関係が見られた。海岸レベルでは栄養塩・海藻間に三陸で山型の関係が見られた。地域レベルでは相関はなく、両者の差は見られなかった。また季節間の変異は全般に小さく規則性は見られなかった。
上記の結果は限られた季節間の比較に基づいており、今後より長期的なデータの蓄積により、1年間通しての解析を行なうことが必要だと思われる。また、海藻や固着動物の成長量など、より直接的な生産性の指標を利用した場合との比較も検討する予定である。
P2-100: 長期的な海洋環境変化と魚食性海鳥3種の食性
繁殖中の海鳥の餌構成はある範囲内の魚資源の変化の影響を受けるだろう。一方で、魚資源に対して漁業圧と同程度のインパクトを与える例も知られている。餌構成に対する魚資源の変化の影響は採食方法の異なる海鳥種間で異なるだろうし、結果として魚資源へのインパクトも変わってくると期待される。1984年から2003年まで対馬暖流の北端近辺に位置する天売島において、ウミネコ (表面採食者)、ウトウ(表中層潜水採食者)、およびウミウ(底層採食者)の餌をモニターし、その捕食量を推定した。ウミネコとウトウは1984年から1987年には、マイワシ を食っていたが、1992年以降、カタクチイワシ に餌を替えた。これは1980年代後半におこったマイワシ資源の崩壊と一致する。それ以降は、餌中のカタクチイワシの比率の年変化は、これら3種の間で同じ傾向を示した。カタクチイワシ資源量(水産庁平成13年度資源評価報告)が大きいと海鳥の餌中のカタクチイワシの比率が高く、また、表面海水温が高く対馬暖流流量が大きいとウトウの餌中のカタクチイワシの比率が高かった。カタクチイワシ資源量とその対馬暖流による北への輸送が海鳥の餌構成に影響しているらしい。島周辺のイカナゴ0才の年間漁獲量とウトウの餌中のそれとは正の相関があったが、ウミネコでは相関は認められなかった。ウミウはカタクチイワシもイカナゴもその資源量が多分小さかったであろう年には底魚を食っていた。このように、採食行動における制約によって、海鳥種間で餌の利用可能性の年変化に対する反応は異なっていた。海鳥の種毎に海洋環境の変化からの影響の受け方は異なるので,海洋環境の 指標とするためには採餌方法の異なる海鳥をモニターする必要がある。浮魚資源の変動が高次捕食者の餌を変化させることによって、代替え餌への捕食率の上昇をひきおこす可能性が示唆された。
P2-101: 南アルプスにおけるチョウ類群集の季節変動
2001年7月から2003年9月の春季から秋季にかけて,天竜川支流三峰川の林道上と源流部(長野県上伊那郡長谷村),2002年7・8月に北岳(山梨県南アルプス市),2003年7・8月には仙丈ケ岳(長谷村)においてトランセクト調査と定点観測を行い,温度・照度・風速の変動と併せてチョウ類の日周活動を記録した.北岳と仙丈ケ岳では,調査ルート上に見られる花の量から「開花指数」を算出し,山岳域のチョウ類と花の対応関係を調べた.
トランセクト調査の結果,三峰川の林道で合計8科36種570個体(1kmあたり26.03個体),源流部で7科29種336個体(8.24),北岳の山地帯で5科18種75個体(4.05),亜高山帯で6科15種164個体(18.43),高山帯で6科14種96個体(5.55),仙丈ケ岳の亜高山帯で6科16種203個体(13.72),高山帯で3科11種246個体(9.18)のチョウ類を確認した.標高が上がるにつれて種数が減少するとともに上位優占種の占める割合が高まり,またHI指数,ER,グループ別RI指数法などで解析した結果,種多様性が低くなる傾向がうかがえた.開花指数について見ると,北岳ではチョウ類の確認個体数/kmと,仙丈ケ岳では高山帯で確認種数との間に有意な正の相関が認められ,山岳域のチョウ類は餌資源である花の豊富な場所に多く集まることが示唆された.定点観測では,5地点の観測地でチョウ類の飛翔活動と照度との間に有意な正の相関が認められた.また高山帯と亜高山帯の定点観測の結果,午前10時過ぎには雲やガスが発生し,午後になると日射がほとんど遮られ,チョウ類の活動が急激に抑えられることが判明した.以上の調査・解析結果を踏まえた上で,山岳域のチョウ類群集の定量調査手法と,チョウ類群集を用いた環境評価手法について検討を行った.
P2-102: 海藻・海草と小型甲殻類粉砕者(Shredder)_-_食物網上の関係
藻場が形成される水深数mの海岸域では,海産大形植物(海藻・海草)の基礎生産が生物生産の中心である.海藻をウニなど植食動物が摂食(捕食?)する生食連鎖系は強調され,藻場は植食動物の餌源であるとされる.一方,MANN(2000)は,海藻生物生産のうち生食連鎖系に流れるのはの10%で,残り90%は腐食連鎖系へ流れると述べている.藻場はデトリタス源でもある.海岸域に滞留する寄り藻は枯死・脱落大型植物葉体からなり,デトリタスとして腐食連鎖系へ流れる.陸上の落葉・落枝分解過程では小型節足動物が摂食によって粉砕者として寄与しており,ワラジムシ類はその代表といえる.海岸域にもワラジムシ類は高密度に棲息している.彼らは海岸域で陸上生態系と同様にはたらきいているのか?
海岸域における海産大形植物とワラジムシ類との食物網上の関係を明らかにするため,北海道東部釧路市の藻場域で主要な大型植物と海産ワラジムシ類との炭素・窒素安定同位体比を分析した.調査地藻場にはコンブ類(海藻,ナガコンブが主)・スガモ(海草)が多く,藻場内と隣接ポケットビーチに寄り藻が滞留する.藻場内にオホーツクヘラムシ Idotea ochotensis,隣接ポケットビーチ陸側にハマダンゴムシ Tylos granuliferus が高密度に棲息する.これらはともにcm級の大型種で,実験・観察から海藻類を摂食・粉砕可能なことがしられている.安定同位体比はナガコンブ・スガモでδ13Cが-15.0‰・-15.6‰,δ15Nが10.2‰・10.3‰であり,オホーツクヘラムシ・ハマダンゴムシでδ13Cが-14.0‰・-15.7‰,δ15Nが10.0‰・10.6‰であった.大型海産植物とワラジムシ類との安定同位体比の類似から,ワラジムシ類は藻場の大型海産植物に食物の多くを依存すると考えられる.
P2-103: 岩礁潮間帯における食物網構造の時空間変異
食物網は群集構造を考える上で最も重要な特性であり、その構造に関して様々な理論研究が行われてきた。その結果、食物網構造には普遍的なパターンがあることや群集の安定性にも影響を与えること等が見いだされたが、近年では、同定の精度等、理論研究のもとになった記載データの不完全さが指摘されている。また、異地性流入、すなわち異なる系からの物質や餌生物、捕食者の流入が無視できない影響を与えること、食物網の時間的変化が群集内の様々な相互作用を生み出すこと等が明らかとなり、注目を集めている。
演者らは、北海道から鹿児島までの6地域×5海岸の岩礁潮間帯生物群集において調査を行ない、各栄養段階に属する種数や現存量とその比率、栄養段階の数等を比較するとともに、その変異がどの空間スケールで生じるのかを解析した。その結果、栄養段階の数に地域間、海岸間での変異は少ないこと、懸濁物食者の多様性は低緯度地域ほど高く、高緯度ほどグレイザーの占める割合が大きいことが明らかになった(第50回大会で発表)。
しかし、この食物網を構成する種には1年生のものも多く、特に生産者である藻類の季節消長は高緯度地域ほど激しい。そこで、年3回の調査結果をもとに、岩礁潮間帯における食物網構造の季節変動、及びその緯度勾配について解析を行った。また、その緯度勾配をもたらす要因を明らかにするため、波あたりや水温等の環境ストレスや海域の生産性についても調査を行った。発表では、これらの要因や構成種の生活史と食物網構造の季節変動との関連についても考察する。
P2-104: 農地における栽培管理が大型土壌動物の群集構造に与える影響
森林などの土壌生態系において土壌動物は重要な機能を担っているが、農地ではあまり重視されていない。演者らは農地で土壌動物の機能を重視した栽培管理法について検討している。
試験圃場は長野県波田町に位置し、1998年より無農薬で有機質肥料による栽培が行われていた。2002年は耕起の有無と肥料の質の違い(化学肥料と有機質肥料)による試験設計で、03年はそれに緑肥作物の有無を加えた試験設計(L8)で無農薬栽培を行なった。なお、緑肥作物は適宜刈り倒し、条間部分に被覆した。調査は各区画内の条間部分と通路部分に分けて調査枠を設置し大型土壌動物を採集した。採集した主な動物群は科まで、他は綱まで分類した後、密度、バイオマス、多様度(H')を求めた。
処理区の違いでは耕起の有無、緑肥作物の有無の差が大きく表れた。不耕起区の密度、バイオマスは順に279個体/m2、10g/m2となったが、これは亜高山域地帯のササ草原の平均密度が368個体/m2、平均バイオマスが6g/m2(藤山ら1981)であるのに匹敵する多さであった。また、耕起区は不耕起区と比較し、密度、バイオマス、多様度がそれぞれ平均で約1/15、1/26、1/2と少なくなった。さらに、種構成については耕起区ではわずかに唇脚網、コガネムシ科の幼虫が得られ、不耕起区ではそれらに加えてゴミムシ、コメツキムシ、ハネカクシ、クモなど多様な分類群が得られた。緑肥作物を導入しなかった区では導入区と比較し密度、バイオマス、多様度がそれぞれ平均で約1/3、1/5.5、1/3と少なくなった。今回の調査結果では、不耕起・有機質肥料・緑肥導入区で密度、バイオマス、多様度がそれぞれ373個体/m2、14g/m2、1.2と大きく、土壌動物が豊富であった。これらの管理法と作物の生産量との関係を含めて考察する。
P2-105: 北海道の平地湿性林に生育する優占種に見られるJanzen-Conell仮説に適合する更新
要旨:種間関係が更新に寄与しているかについて、湿性林の優占種で検討した。その結果Janzen-Conell仮説が検討した優占5種の内3種で成り立つことが分かった。
調査方法:それぞれの種の林冠ごとに、その下に存在する生幼木と枯死幼木の分布を種別に調べた。
結果:林冠下に同種の幼木が少なかった種が優占種5種のうちヤチダモ・ハルニレ・イタヤカエデの3種あった。同種林冠下に幼木が多かったのは萌芽を多く出すハンノキであった残るキタコブシは分布に偏りが少なかった。林冠下に同種の幼木が少なかったヤチダモとハルニレでは同種林冠下で枯死木が多かった。イタヤカエデでは同種林冠下で自種幼木が少なすぎて検討できなかった。優占5種の林冠下では同種以外の幼木の侵入が見られ、その構成は林冠木種ごとに異なった。これらのことからJanze仮説が本調査地で成り立つことが強く示唆された。
P2-106: 屋久島スギ・照葉樹混交林の20年間の動態
方向性を持ち、ゆっくりとした変化をする森林群集では、長期的なモニタリング調査が重要である。過去の伐採の影響で群集構造に変化が想定される屋久島では、このような長期的な観察でその変化を把握することが可能となる。本報告では標高1200m地点に1983年に設定した1haの方形区での複数回の測定をもとにした群集動態の解析をおこなった。調査地はスギとヤマグルマの優占度が高く、これにモミ、イスノキ、シキミ、アカガシ、ウラジロガシなどを混交する森林である。この調査地において1984年、1993年、2003年に毎木調査実施した。
プロット全体で1984年時点の胸高周囲(GBH)50cm以上の幹を対象としてみると、20年間の枯死は幹数で27.5%、BAに換算すると16.5%となった。BAの減少に大きく貢献したのはスギで、幹数、BAともに12%近く減少した。また、その多くは1993年調査実施直前の台風13号による枯死であった。林冠構成種で顕著に枯死したのはヤマグルマとモミで、ヤマグルマでは幹数で47%もの大幅な減少(61本から32本)があり、BAは約20%減少した。モミは全てGBH2mを越える個体が9本あったが、このうち3本が枯死し、個体数、BAともに33_%_減少した。
大径木の枯死により、当初8_%_程度だったギャップ面積は倍以上に拡大したが、林冠構成種の稚樹の更新はあまり顕著ではなく、倒木上など樹高1_から_2mのスギが若干更新している程度であった。
屋久島の森林は江戸時代に伐採を受けたことが知られており、プロット内にも40以上の大径の切株が残されている。幹数の減少の顕著だったヤマグルマはこれらの切株上などに生育しており、このほかの樹種の多くもおもに伐採後に定着したものと考えられる。これらの個体の枯死が1993年の台風による撹乱を契機に促進され、ヤマグルマやモミの減少とともに現在少ない林冠構成樹種の稚樹の定着が進み、今後は、より定常的な更新状態に推移するものと考えられる。
P2-107: 樹木ー潜葉虫_--_寄生蜂群集の空間構造(1)
自然環境はパッチ状あるいはモザイク状の空間構造を示す。このような生息場所を探索する場合、種により分散能力やパッチ探索能力、その方法に違いがあると、各パッチでの各種生物の存否が種に特有の異質性を示す。このような異質性は各パッチ上での生物間相互作用を改変し、群集構造に影響をあたえると予想される。例えば、固着性の寄主と寄生者を考えると、寄生者の分布様式はその探索範囲のスケールに依存し、より広い範囲を探索する場合、認識される寄主パッチのサイズも大きくなる。寄主密度に対する寄生者の反応も様々であると予想される。寄主が集中することで寄生者の探索効率が向上し寄生率が上昇し、パッチごとの寄主密度と寄生率が正の相関を示す可能性がある一方、重複寄生をさけるために、寄主が集中していても寄生者が頻繁に移動する場合、寄主密度と寄生率は負の相関を示すと予想される。
本研究では、樹木ー潜葉性鱗翅目幼虫(リーフマイナー)ー寄生蜂の三者系において、樹木により決定されるリーフマイナーの空間分布が、寄生蜂の分布様式(寄生率)にあたえる影響を解析する。調査区内の全樹木個体についてリーフマイナー個体数を推定し、飼育することにより、樹木個体ごとに寄生率を算出する。この寄生率をもっとも良く説明するリーフマイナー密度の空間スケールを、「対象とする樹木個体におけるリーフマイナー密度のみ」と「周辺の樹木個体からの近傍効果(0_から_10m)の影響を考慮した場合」から選択し、決定する。
P2-108c: クロヒカゲの翅に残された鳥の嘴の痕の季節的増減
鳥は蝶の成虫の重要な捕食者と考えられている。しかし、捕食の場面を観察できることはまれなので、実際どの程度の捕食圧が蝶にかかっているのかは明らかではない。鳥が蝶を捕獲しようとして失敗した時に、蝶の翅に鳥の嘴の痕(ビークマーク)が残ることがあるが、その頻度は鳥の捕食圧の推定に利用できると考えられる。そこで、ジャノメチョウ亜科の蝶のクロヒカゲの翅に残されたビークマークを三年間にわたって京都市北部の山地で調査し、鳥がどれくらいクロヒカゲの成虫を襲っているか推定した。本種の成虫は5-6月の初夏世代、7-8月の盛夏世代、9-10月の秋世代と、一年に三世代が出現する。樹液を餌としており、暗い所を好むので通常は林内に分布するが、気温が低い時期には比較的明るい場所に出てくることも多い。翅に嘴の痕が残っていた個体の割合は初夏と盛夏には数%から十数%だったが、毎年秋になると増加し50%に達することもあった。蝶の成虫は捕獲しにくく、見た目の大きさの割に食べる所が少ないので、鳥にとって良い食料ではないと思われる。そのため、鱗翅目幼虫などのもっと好ましい餌が少なくなった秋によく襲われたと考えられた。また、秋になって気温が下がり、蝶の動きが緩慢になったことが襲われやすさに影響した可能性もある。雄と雌を比べるとわずかずつではあるが雌の方が一貫してビークマークのついた個体の割合が多かった。雌は卵を抱えている分腹部が重いためゆっくりとしか飛べないので、雄よりも襲われやすかったのかもしれない。
P2-109c: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集(17)ヤママユガ科ガ類の生態:特にバイオマスの季節的変化と被食
奈良市郊外の近畿大学奈良キャンパスの矢田丘陵においては、コナラ、クヌギを中心とする里山環境にあり、これら広葉樹を餌植物とするヤママユガ科ガ類(Saturniidae)が7種生息している。これらヤママユガ科ガ類はすべて大型であり、1個体のバイオマス(生体重)量としては高く、食物連鎖ないしエネルギーの流れにおいて大きな役割を担っていると考えられる。本研究では、キャンパス内の里山環境におけるヤママユガ科ガ類のバイオマスの季節的変化・特性を調べ、次の段階へエネルギーの移動として被食についても調査解析を行った。
今回、室内飼育・摂食実験によりオナガミズアオ、ヤママユにおいてそれぞれに糞重と生体重間に正の相関が見られた。また、キャンパス内の二次林において2002年から2003年にかけて落下糞の回収を行った結果5月と7月に落下糞重のピークが見られた。ヤママユガ科ガ類に対する被食を調べるため、2003年9月に当キャンパスの外灯に飛来して捕食されたと考えられるヤママユの翅の回収を行った。その結果、最低125匹のヤママユ成虫の被食(主としてカラス類に)が推定され、約84%が雄の翅と推定された。
これらの結果より当キャンパス内においてヤママユガ科ガ類を中心としたエネルギーの流れがある程度把握できた。今後の里山管理の上で、広葉樹という餌資源をめぐるヤママユガ科ガ類を含めた生物多様性を保全するような管理、活用が必要であると考えられる。
P2-110c: 岩手山麓春子谷地湿原の訪花昆虫相の特徴
湿地性植物は、一般に森林性植物とは異なり、送粉を大・中型のハナバチに依存せず、訪花性双翅目昆虫との共生関係を独自に発達させていると考えられているが、湿地における訪花昆虫相の研究は世界的にもきわめて少なく、その全容はほとんど分かっていない。
我々は、2003年4月から9月および2004年4月から8月に、岩手県滝沢村の岩手山麓標高450mにある約20haの湿原「春子谷地」と、その上流の河畔林および隣接する牧野において、主要な虫媒性植物約40種を選び、各種の花上で訪花昆虫を採集・同定した。この結果から、湿原・河畔林・牧野の3つのハビタットにおける訪花昆虫相の特徴をそれぞれ抽出した。
湿原で採集した昆虫個体数の50%以上は双翅目で、そのうちの70%以上をハナアブ科が占めていた。分類群別構成比を、Kato & Miura (1996)やUshimaru et al. (submitted) が福井県や京都府の湿地で行った調査の結果と比較したところ、それぞれの湿地は植生・ミズゴケの有無・面積など多くの点で違いがあるが、双翅目昆虫、特にハナアブ科の優占という点で共通していることが分かった。また、森林の訪花昆虫相にはあまり出現しないナガハナアブ族が特徴的に多い点、膜翅目では小型のハナバチの個体数が多い点で、Kato & Miura (1996)との共通性が見られた。さらに春子谷地では、ハナアブ科の種多様性が非常に高いことが分かった。
また2004年には湿原・周縁林・牧野にそれぞれマレーゼトラップを設置し、捕獲された昆虫を訪花性と非訪花性に分け、それぞれの季節的な個体数変動を調べた。これらの結果を、虫媒性植物の開花期と関連づけて考察する。
P2-111c: 複数の動物プランクトンの存在下で植物プランクトンは共存するか?
共存可能な植物プランクトンの種数は、必須栄養塩(資源)の数と等しいとしたTilman(1982)の研究に対して、植物プランクトンの組み合わせによっては、植物プランクトン個体群の振動によって共存が促進されるという予測を、Huisman and Weissing(1999)が行っている。それによると、たとえば制限要因が3つである条件においても、ある特定の栄養塩要求性をもつ植物プランクトン同士が、ある特定の環境では、3種以上共存できるということが予測されている。これは、4種類の資源であっても、5種類の資源であっても可能であった。さらに、栄養塩要求性における特定のトレードオフの仮定によって、共存可能な植物プランクトンの種数が変化することが予測された(Huisman et al. 2001)。
しかし、植物プランクトンの共存には動物プランクトンの存在が強く影響することが予測されている。なぜなら、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンが、植物プランクトンが利用しやすい形で栄養塩を排出するためである。動物プランクトンの排出する栄養塩は、自身の栄養塩要求性とエサである植物プランクトンの栄養状態によっても大きく変化する。そのため、動物プランクトンと植物プランクトンの相互作用は栄養塩を介して複雑な挙動を示すと考えられる。そこで、本研究では、植物プランクトンの共存条件に対する動物プランクトンの影響について調べた。
P2-112c: 河川の物理・化学特性が水生生物の群集構造に与える影響
水生昆虫を中心とした河川生物群集と環境要因との関係を検討する。北海道胆振西部では、多数の小河川が太平洋に流れ込んでいるが、これらの河川間には明瞭な環境傾度が見られる。大まかな河川特性として、西方は支笏湖由来の湧水河川で底質は火山降下軽石、東方は典型的な山地渓流河川で巨礫が多い。また、調査区域中部の北側に活火山(樽前山)があり、河川は凝結した火砕流の上を流れ、河川水質にも影響を与えている。本研究では狭地域でかつ環境要因の異なる河川での水生生物群集構造を解析することにより、河川生物群集に影響する環境要因の抽出することを目的とする。
調査は2003年8月、北海道苫小牧市及び白老町の15河川で行なった。サンプリングサイトは各河川上流・中流部の計30である。水生昆虫は各サイトの平瀬においてサーバーネットを用い2サンプルづつ採集した。環境の化学要因として河川水の水温・電気伝導度・溶存酸素・PH・無機イオンなどを、物理要因として流量・底質・川幅・攪乱頻度などを測定した。
目視した通り、河川の化学・物理環境には西から東にかけて傾度が見出された。それと連動して河川生物の種構成・種ごとの個体数にも傾度があることが確認された。たとえば、トゲマダラカゲロウ属の仲間は東方の渓流河川に多く、そこでは流量・水温の年較差・底質の礫が大きかった。また、ヤマトビケラ属は東方で多く次いで西方に多かったが、中部ではほとんど見られなかった。これは、中部の地域の河川水は無機イオンを多く含有していること、あるいは礫が脆く携巣が定着できないことが影響していると予測される。このような群集構造には、様々な物理環境、化学環境が影響し、河川間に見られる群集構造の差異の多くの部分がこれらの要因で説明可能である。しかし、要因ごとの相対的な影響の大きさ、あるいは要因間の交絡の状態は種により様々であり、一概に、ある要因と各種の個体数との直接的関係を考察することはできない。
P2-113c: コウモリ類の種ごとの環境利用-音声による種判別を用いて-
日本の森林性コウモリ類は同所的に多くの種が共存しており、その多くは生息環境の改変により絶滅の危機にさらされているとされる。これら森林性コウモリ類の保全策の構築のためにはそれぞれの種の採餌・ねぐら環境利用に関する研究が不可欠である。しかし、日本ではコウモリ類の環境利用特性が未解明なために、具体的な保全案が導き出せていない。その理由として、コウモリ類は小型で飛翔をし,夜行性であることから直接観察が非常に困難であること,実際に捕獲をしないと種同定が困難であることが挙げられる。近年,海外では音声による種判別法の構築が盛んになっており、それに伴い音声調査(acoustic survey)による環境利用の研究がはじまっている。こうした音声による種判別が可能になれば,それぞれの種について環境利用特性の研究を進展させることができる。そこで本研究では,超音波自動録音装置および、発表者らが構築した「音声による種判別法」を用いることによって、森林内におけるコウモリ類の種ごとの環境利用を明らかにすることを目的とした。
調査は北海道大学苫小牧研究林内で夏と秋におこなった。異なる森林タイプおよび,河川の近くと遠くにおいて自動録音装置を設置した.録音された音声をソナグラム化したのちに各種パラメータを測定し,発表者らが構築した判別式を用いて種判別をおこなった。
7種のコウモリ類の音声が合計3010回録音され,十分な録音回数のあった4種について解析をおこなった。その結果,モモジロコウモリは河川に近い環境,ヒメホオヒゲコウモリは河川から離れた環境で採餌頻度が高かったが、森林のタイプによる違いは見られなかった。また、ヒナコウモリ、ヤマコウモリに関しては二次林での採餌頻度が高く,夏よりも秋の方が採餌頻度が高かった。これら、種による採餌環境の違いについてこれまでの研究と比較し、考察をおこなう。
P2-114c: 郊外に移転した大学キャンパスにおける生物群集(18)チョウ類成虫の環境利用
近畿大学奈良キャンパスは奈良市郊外の矢田丘陵にあり、二次林及び造成による裸地や草地、調整池等からなり環境は比較的多様である。本研究ではこれらの環境をチョウがどのように利用しているかを調べ、今後の保全対策やビオトープ化に生かすことを目的とした。調査は、2003年3月から12月までの間、キャンパス内2か所で行った。草地である調整池堤防はルートセンサス法で、里山林内では定点調査を行った。
調整池堤防では、任意調査を含め8科48種のチョウ類成虫が確認された。種数、個体数とも6月と9月にピークがみられ、二次林ないしは人里的環境を好むチョウ類が優占していた。また本調査地周辺にはヒヨドリバナ、オカトラノオをはじめとする多くの里山植物が生育しており、これらに訪花するチョウ類も多く確認された。一方、里山林内の調査では、7科48種のチョウ類成虫が確認された。個体数、種数とも7月にピークがみられ、原生林ないしは二次林的環境を好むチョウ類が優占していた。また、本調査地での黒色系アゲハ(クロアゲハ・カラスアゲハ・モンキアゲハ・ミヤマカラスアゲハ)の個体数の割合は約70%で、これらのチョウ類のチョウ道としての利用も確認された。さらに、絶滅危惧種オオムラサキ成虫のなわばり行動も観察された。
以上のように、調整池堤防の草地と里山林内では、かなり異なる環境利用が確認され、今後こうした多様な環境を配置した保全が必要であると考えられた。
P2-115c: キノコ食昆虫群集における資源分割 -出現時期と餌の種類を資源軸として-
ハラタケ目の子実体(以下,キノコ)には,双翅目と鞘翅目を中心として,多様な昆虫がみられる。このような多種が共存する機構として,競争者の集中分布による説明がなされてきたが,このほかにも複数の機構が考えられ,そのうちの一つに資源分割がある。餌資源による資源分割に対しては否定的な見解もあるが,これまでに行われてきた研究例は少なく,議論の余地が残されている。そこで本研究では,キノコ食性ショウジョウバエ群集を対象として,昆虫の出現時期と餌の種類による資源分割の有無を調査した。
調査は,愛知県北東部にあるアカマツ林において,1999年7月1日から2001年12月5日まで約2週間に一度の間隔で行った。3ヶ所の方形プロット(10 m × 10 m)内に発生したキノコの一部を持ち帰り,キノコの属と発達段階,湿重を記録した。その後,キノコの内部に生息していた幼虫を実験室において羽化させ,ショウジョウバエ成虫を種まで同定した。
キノコは,調査期間中に13科26属3335本発生した。このうち,11属のキノコから9種842個体のショウジョウバエ科昆虫が採集され,Hirtodrosophila alboralis,H. sexvittata,Drosophila unispina,D. bizonataの4種が個体数の上で優占していた。2000年,2001年はこのうちのいずれか1種が優占していたのに対し,1999年は,H. alboralis,H. sexvittata,D. unispinaの3種が優占していた。これら3種はいずれも7月から9月に出現した。このデータについてPiankaのニッチ重複度を算出し,その平均値をランダム群集と比較したところ,有意差は認められなかった。本報告では,調査期間を通しての資源利用様式にもとづいて資源を定義し,そのうえで1999年のデータについて餌資源による資源分割の有無について検討する。
P2-116c: 熱帯林におけるアリと植物、アリと同翅亜目類の栄養共生系に与える人為的攪乱の影響
熱帯域の原生林では、アリ類と植物、アリ類と同翅亜目類の栄養共生系が多様な発達を遂げている。近年、伐採や耕地化などの人為的攪乱によってそのようなアリと他の生物種との相利共生系の発達の基盤となった熱帯域の原生林は急速に減少し分断され、二次林や草地の面積が急増している。そこでは生物の多様性が失われるだけでなく多様な生物間相互作用が大きな変化を遂げている可能性が高い。しかしこれまで生物間相互作用に対する人為的攪乱の影響を定量的に調べた研究は少ない。
そこで、マレーシアボルネオ島サラワク州にあるランビルヒルズ国立公園内の原生林、公園の周りに散在する孤立した小面積の原生林、焼畑にするために伐採の入った年代が異なる二次林、そして粗放的なゴムプランテーションにおいて、森林伐採をはじめとする人為的攪乱がアリ類と植物、アリ類と同翅亜目類の栄養共生系に与える影響を評価した。花外蜜によるアリ類と植物の栄養共生系、オオバギ属のアリ植物とアリ類の共生系、同翅亜目類とアリ類の栄養共生系、植物や同翅亜目類と密接な関係にあるツムギアリの優占度あるいは出現頻度を各調査地で測定し、それらの値を比較することで影響を評価した。出現頻度は各森林の一定面積内の樹高2m以下の株のうちそれぞれの出現が確認できた株数の割合とした。
その結果、それぞれの出現頻度が攪乱の強い森林で高くなることが明らかになった。一方で花外蜜に誘引されたアリ類やオオバギ属アリ植物の種数は、攪乱林で低くなることが明らかになった。また、攪乱の強い環境に優先的に生息するツムギアリの出現頻度が攪乱林でより多く出現した。これらのことから、人為的攪乱によって森林内部まで太陽光が届くことにより花外蜜を生産する植物や甘露をだす同翅亜目類の個体数が林床で多くなる一方、アリ類の種多様性が低くなり数種類のアリのみが植物や同翅亜目類と優占的に栄養共生的な関係を結んでいることが示された。
P2-117c: 海草藻場における一次消費者の多様性が生態系機能に与える効果
生物多様性と生態系機能の関係の一般的解明が生態学の主要課題として認識されている。従来の研究では種多様性を前者の指標とし、生物量、生産量、物質循環への効果、環境ストレスへの耐性、外来種の侵入のしやすさ等を後者の指標とした様々な実験・解析が行われてきた。その結果、多くの場合、種多様性と生態系機能の間には有意な正の相関がある事が示されている。この原因として、種多様性が高い群集ほど生態系への貢献度がより高い種が含まれること (サンプリング効果)、各種が生態系へ相補的に貢献すること(相補的効果)などが指摘されている。
しかし、これらの研究のほとんどは生産者の種多様性のみを対象にしたものであり、より高次の栄養段階については研究例が少なく、その一般性は解明できていない。また、同じシステムであっても、生物多様性・生態系機能関係が環境勾配に伴い変化することも予想される。これらの研究課題の解明は人間活動によって生じる環境劣化に伴う生物多様性および生態系機能の変容をより正確に予測すると共に、それに対する有効な保全策を考える上でも非常に重要である。
熱帯から亜寒帯域の沿岸に形成される海草藻場生態系は生物相が多様な生態系として知られる。主要な一次消費者は小型甲殻類や巻貝類などのメソグレーザーであり、海草上の付着藻類を摂餌することにより海草の生育に影響を与える事が知られる。これまで、海草藻場を含む海洋生態系の群集研究では、ひとつの栄養段階に属する消費者各種が有す生態系機能は同等と仮定され単一の機能群として扱う場合が多かった。しかし、海草の生育の変異がメソグレイザー間の機能的な差によって生じている可能性が近年指摘されている。メソグレーザーの生態系機能の種間変異やその相互作用に着目する研究は今後重要になると考えられる。
本講演では種多様性と生態系機能の関係を扱った研究の中で特に消費者を対象とした研究例を紹介し、一次消費者の多様性が生態系機能に与える効果について総括と展望を行う。また、海草藻場をモデルとして演者らが進行中の研究について、その目的、方法、期待される成果について紹介する。
P2-118c: 群集行列を用いた岩礁潮間帯ベントス群集動態の解析
生物群集の時間的変動(遷移過程)の決定プロセスおよび、その動態に影響する要因の作用メカニズムに関する一般法則を理解することは、群集生態学の主要課題である。講演者らは調査地を階層的に配置した野外実験系を用いて、スケール横断研究から生物群集の一般理論を解明するプロジェクトを進行中である。ここでは日本の太平洋岸において、生物群集を異なるスケール(6つの地域間、各地域内の5海岸間、各海岸内の5プロット間)で比較し、その空間スケール依存性の解析を行っている。
岩礁潮間帯ベントス群集では、競争や捕食などの局所的な種間相互作用が群集動態に強く影響していることが知られている。本研究では特に固着空間を巡る種間の競争に着目し、種間競争の大きさと方向性およびその結果として生ずる遷移のプロセスを理解するため、置換の観測頻度から群集行列を作成し、空間スケールに伴う変異を解析した。
群集の野外調査では各調査プロットに50cm×50cmの永久コドラートを設定し、5cm×5cm間隔の格子点を占有している種(海藻および固着動物)を、年三回(春・夏・秋)記録した。出現した種を形態と機能により石灰藻類・被覆型海藻・直立型海藻・固着動物の4つのグループに区分し、これに裸地を加えた5グループ間で置換の生じる頻度を求めた。また群集の調査と同時に生息地の物理的環境の測定を行った。
本講演では行列の各要素が示す機能群間の競争能力と置換の方向性、および遷移パターンの空間変異について解析した結果を報告する。また環境の諸条件との関連性を見ることにより、変異がもたらされる原因について考察を行う。
P2-119c: 岩礁潮間帯グレイザー群集における種多様性の緯度勾配:マルチスケールパターンとその形成機構
緯度の増加に伴い地域レベルの種数が減少することは群集生態学における一般則である。しかし、(1)種数の緯度勾配を生んでいる原因(2)空間スケールが地域以下での種数の緯度勾配のパターン(3)海洋での種数の緯度勾配のパターン、などの幾つかの疑問点が残されている。そこで、本研究では太平洋岸における岩礁潮間帯のグレーザー群集を対象に地域レベルと局所レベル(海岸と海岸内のひとつの岩礁)の群集の種数には緯度勾配があるのか? および、それぞれの空間レベルにおける種数の緯度勾配に影響をおよぼす要因はなにか? を推定することを目的とした。2003年の夏に北緯31_から_43度までの6地域において、調査地を地域、海岸、トランセクト(海岸内のひとつの岩礁)を入れ子状に配置し、各レベルの種数を求めた。また、地域レベルの種数の緯度勾配に影響をおよぼす要因を推定するために、出現種の地理的分布範囲、北方種と南方種の分類樹中の出現様式、地域レベルの植物の種数とグレーザーの種数の間の相関を調べた。局所レベル(海岸とトランセクト)の種数に影響をおよぼす要因を推定するために、群集の飽和度、地域間のニッチの重複度の違い、トランセクトレベルでの植物の種数とグレーザーの種数の間の相関を調べた。その結果、地域レベルでは高緯度ほど低下するという緯度勾配があった。この多様性の緯度勾配の維持形成には、大半の種にとって南の環境が好適であること、南方から北方への地理障壁の存在が寄与している可能性が、また北方種と南方種の系統類縁関係から、それらの由来は比較的古い時代の地理的障壁の重要性が推察された。一方、局所群集の種数にも地域レベルと同様の緯度勾配があった。これは、単純に地域レベルの多様性が反映されたものであることが示唆された。しかし、なぜ地域多様性の大小だけが局所群集の多様性を決めることになるのかは不明であった。
P2-120c: 岩礁潮間帯の固着生物群集構造の地理的変異:相対優占度パターンとその決定要因
群集内の各種の相対優占度は環境特性(各種資源の量と分布)と種の生態的特性(競争能力、分散能力、基本ニッチ幅)によって決定されていると考えられるが、これらの諸要因の相対的重要性は空間スケールによっても変化すると考えられる。これまでの相対優占度の決定機構についての研究は主に環境の均質な小空間スケール(局所群集)によって行われたものが多く、異質な環境を含む大空間スケールの群集(地域群集)のものは少ない。地域群集では種多様性に緯度勾配があることが一般的に知られており、このことは、緯度に伴い相対優占度のパターンとその決定機構が変化する可能性を示唆している。
岩礁潮間帯では潮位と波圧がそれぞれ垂直・水平方向に顕著な環境勾配を作り出し、生物の分布に強い影響を及ぼしていることが知られている。そして、小空間スケールでの相対優占度決定には捕食や競争が重要な役割をはたしていると考えられている。
そこで、岩礁潮間帯固着性生物群集の優占種(地域レベルでの被度5%以上の種)を対象とし、太平洋沿岸6つ地域(道東・道南・三陸・房総・南紀・大隈)で、潮位と波圧に対応したニッチ特性と資源占有率(競争能力の尺度)、および分散能力が相対優占度の決定に対する貢献度を明らかにし、地域群集間でのプロセスの違いを比較した。その結果、6つの地域とも相対優占度は、競争能力や分散能力ではなく、基本ニッチ幅によって説明された。これは基本ニッチ幅が広い種ほど分布域が広く個体数も多いというマクロ生態学の一般論と類似している。また、緯度による相対優占度決定プロセスの違いは見られなかった。このことと、低緯度ほど、稀少種数が増加するということを併せて考えると、低緯度地域の種数の増加が希少種によって生じていて、普通種(優占種)に働く影響は緯度によって異ならないことを示唆しているのかもしれない。
P2-121c: 岩礁潮間帯生物群集における生物多様性‐生態系機能関係の解析
近年、地球規模での生物多様性の減少が問題となっている。生物多様性を保全する理由のひとつとして、生物多様性と生態系機能に正の相関があることが指摘されている。このことは最近の群集生態学における大きなテーマのひとつであり、草原や微生物群集を対象に研究が進んでいる。しかし両者の関係が野外生物群集一般に適用できるかどうかは不明である。特に環境要因の変異や空間スケールの差異が与える影響については十分に検討されていない。そこで本研究では岩礁潮間帯生物群集を対象に、複数の空間スケールを階層的に配置した研究デザインによりその関係性を解析した。
日本の太平洋側の6つの地域(道東、道南、三陸、房総、南紀、大隅)において、地域内に5海岸、さらにその海岸内に5測点を選定した。各測点で岩礁潮間帯のほぼ垂直な岩盤上で平均潮位の上下それぞれにコドラート(50cm×50cm)を設置し、各コドラート内の100の格子点を占有する種の変遷と潮位ごとでの全出現種を記録した。計300コドラートの2003年春から2004年春への1年間のデータの推移を基に解析を行った。本実験での生物多様性とは、種多様性を意味し、_丸1_Simpsonの多様度指数、_丸2_全出現種数の2つを空間スケールごとに求めた。また生態系機能の指標としては、_丸1_現存量(2004年の被度)_丸2_安定性(2003-2004年の被度の変化_丸3_抵抗性(2003年は生物だった点が2004年に裸地にならない割合_丸4_回復性(2003年は裸地であった点が2004年に生物になる割合)を求めた。これらについて空間スケールごとに相関解析を行った。また、環境要因をとりいれた多変量解析を行い、環境要因と種多様性が生態系機能に与える相対的重要性を検討した。
P2-122c: 岩礁性タイドプールにおける魚類群集パターンと種の共存
Patterns of space use and the individual-based behaviour of microhabitat selection were investigated in three intertidal gobiid fishes, Bathygobius fuscus, Chaenogobius annularis and C. gulosus, from western Kyushu. While the three species tended to occupy slightly different types of tidepools, their patterns of distribution largely overlapped in the field. Laboratory experiments involving choice of shelter (i.e. underneath a stone plate) and four different substrate types were conducted to examine size- and time-related variation in habitat selection. The results showed varied patterns depending on species, time and size, suggesting that the mechanisms of coexistence are also varied. The medium-scale artificial tidepool experiment was carried out under semi-natural conditions to examine the influence of species interaction on habitat use. Patterns of tidepool occupation were different between conspecific and heterospecific combinations. These varied patterns of habitat selection and use must ultimately bear upon mitigating intra/interspecific interactions in tidepool environments.
P2-123c: 外生菌根菌における宿主特異性の系統進化-オニイグチ属菌の分子系統解析を用いて-
外生菌根はブナ科・マツ科・フタバガキ科など温帯_から_熱帯域において優占する樹種が形成する菌根であり、外生菌根菌における宿主特異性を明らかにすることは菌と樹木との相互作用および森林の動態を理解する上で重要である。しかし、これまで外生菌根菌における宿主特異性についての研究は極めて限られており、そのほとんどが宿主としてマツ・ユーカリなどごく一部の樹種のみを対象としたものだった。また、菌類では隠蔽種が多数存在するとされており、これまでの研究は隠蔽種をほとんど考慮していないことから、多種混同による宿主特異性の過小評価をしていた可能性が高い。
本研究では、研究材料に、属全体でブナ科・マツ科といった幅広い宿主範囲を持ち、温帯_から_熱帯域に広く分布するオニイグチ属菌を選んだ。隠蔽種の存在による宿主特異性の過小評価を検証するため、形態観察・シークエンスによる隠蔽種の解析を行った。外生菌根における宿主特異性の系統進化を明らかにするため、28SrRNA領域のシークエンスによる分子系統解析、ハビタット調査による宿主特異性の評価を行った。この結果、オニイグチ属には隠蔽種が存在し、これまで総じて宿主特異性が低いとされてきたオニイグチ属菌において、宿主特異性の高い種群と低い種群が存在することがわかった。また、オニイグチ属の分子系統樹において、宿主特異性の高い種群は明確な単系統性であることが明らかになった。これは、高い宿主特異性を獲得する進化が不可逆的であることを示唆する結果である。これに加え、宿主特異性の高い種群は低い種群に比べ、地域集団ごとに明確なクレードを形成する傾向があることがわかった。このことは、宿主特異性の高い種群は、宿主の分布パターンなどによって菌が分散の制限を受けていることを示唆している。これらの結果は、外生菌根菌の宿主特異性について新しい知見である。
P2-124c: 東南アジアにおけるアリ-植物-カイガラムシ3者共進化系の分子系統解析
東南アジア熱帯雨林に生育するアリ植物マカランガ属(Macaranga)約300種のうち29種は空洞の幹を持っており,その空洞の中には,ほとんどの場合,シリアゲアリ属(Crematogaster)とカタカイガラムシ属(Coccus)が居住している.カイガラムシは植物の師管液を吸汁し,甘露をアリに与える.さらに,植物は栄養体を分泌してアリに与える.その見返りとして,アリは植物を植食者から防衛する.このような共生関係を3者は結んでいる.
これまでの研究から,共生アリは,植物に対して高い種特異性を示し,ここ約1200万年の間,共多様化してきたことが明らかになった(Quek et al. 2004).この高い種特異性は,アリの種特異的な防衛システム,女王アリによる種特異的な寄主選択,アリと植物間の生活史上の相互適応,植物の特異化した幹構造などを含む共適応によって促進されたものである.
今回,ミトコンドリアDNA を用いた解析から,共生カイガラムシの植物・アリに対する種特異性が低いこと,および,カイガラムシとアリの種分化・多様化の年代がほぼ一致することが明らかになった.一方,カイガラムシの核DNA 系統樹を予備的に作成したところ,mtDNA系統樹と一致しなかったことから,過去に種間交雑(浸透交雑)が起こった可能性が示唆された.
講演では,(1)カイガラムシの核DNA系統樹とミトコンドリアDNA 系統樹の比較,および,(2)カイガラムシのミトコンドリア系統樹(+核DNA系統樹),アリのmtDNA系統樹,植物の分子+形態系統樹,3者の系統樹比較を行うことにより3者間共進化の歴史について明らかにする.
P2-125c: 希釈平板法による土壌微生物相把握の意義
土壌微生物数を測定するために一般に用いられる希釈平板法では,用いた培地に含まれる栄養分が利用可能な種に限られるため,土壌の性質を表すのに限度があるといわれる。だが,希釈平板法によって測定される菌群は,担子菌類など難分解性の有機物を利用する菌群と比較して,生態系に含まれる比較的分解が容易な物質に速やかに反応するために,環境の一定の性質を反映するという特徴がある。このため,これらの菌数を用いた比率で土壌特性の一面を把握できることがかねてより報告されている。
これまで,筆者らは土壌微生物の動態が緑化法面における生態系回復の指標として活用できる可能性を検討してきた。その結果,希釈平板法による細菌数,放線菌数,糸状菌数から算出した細菌数/糸状菌数(以下,B/F),放線菌数/糸状菌数(以下,A/F),細菌数/放線菌数(以下,B/A)は,緑化後の年数経過とともに指数関数的な低下傾向を示した。また,各菌数比率では,土壌理化学性との間においても菌数単独の結果に比べ,強い相関が認められ,特にB/Fは土壌化学性,A/Fは土壌物理性を表す指標としての有効性が確認された。このように,希釈平板法により得られる各菌数比率は,総合的な土壌特性を反映している。また,希釈平板法は,他の微生物実験法に比べて実験操作が比較的簡易で実験費用も安いなど実用性が高く,緑化分野や土壌肥料分野などの現場サイドでの利用は有効といえる。
近年,土壌微生物学の分野では,種や遺伝子レベルでの多様性解析が盛んである。しかし,現在の最新技術を用いても未だに土壌中のすべての微生物を網羅し得ないという限界があることを認識し,希釈平板法などの旧来の技術についても適用限界を考慮しながら有用性を検討していく必要がある。
P2-126c: 熱帯外洋域におけるプランクトン食物網の構造とその地域・時間変動
熱帯の外洋生態系は、大きく2つのタイプに分けられる。赤道湧昇によって鉛直混合されやすく表層の栄養塩濃度が比較的高い海域(中央・東部太平洋の赤道)と、一年を通じて鉛直混合がほとんどない海域(亜熱帯域や西部太平洋の赤道)である。鉛直混合による深層からの栄養塩の供給のおかげで、前者は後者に比べて一次生産性が高く、一次生産者も比較的大型のものが多いことがわかっている。海域間での物理・化学環境と一次生産構造の違いは、捕食者プランクトンの群集組成の違いを通して、食物網構造や生態系機能に影響している可能性がある。
本研究は、太平洋中央部(東経175度)の赤道上と北緯24度で得られた有光層プランクトン群集の生物量組成を比較し、さらに、それぞれの海域での食物網の構造と機能の違いを定量的に推定することを目的とした。用いたプランクトンデータは、NEDOによって実施された「北太平洋の炭素循環メカニズムの調査研究」が1990-1995年に5回づつ行った生物調査の結果である。食物網構造は、プランクトン捕食者のサイズ依存的な捕食を仮定して推定した。
対象海域の赤道域では、北緯24度の亜熱帯域に比べて、水温が平均2、3度高く、栄養塩躍層が浅く、一次生産速度が亜熱帯旋回域の約2倍となっていた。一方、植物・動物プランクトン、バクテリアのそれぞれの全生物量や分類群別の生物量では、両海域間で明らかな違いが見られなかった。それでも、亜熱帯域は赤道域に比べて原核緑藻類の相対量が若干大きかったため、推定した平均食物連鎖長 (植物プランクトンからかいあし類まで) は、亜熱帯旋回域が赤道域より約0.3 長くなっていた。一次生産速度と食物網構造が異なるにもかかわらず両海域で捕食者の生物量に明らかな違いが見られなかったことは、時間変動や海域間の水温差に伴う必要代謝量の違いによって説明できる可能性がある。
P2-127c: 渓流の落葉リター分解と底生動物種の多様性:食物改変効果の検討
山地渓流において落葉リターの分解は重要な生態系プロセスであり、落葉食底生動物(シュレッダー)はその分解に大きな役割を果たしている。オオカクツツトビケラ(以下オオカク)とサトウカクツツトビケラ(以下サトウ)は、しばしば渓流で同所的に出現するシュレッダーである。第50回大会では、これら2種を混合で飼育した場合の落葉リターの破砕速度は、単独で飼育した場合から予測されるよりも大きくなることを報告した。この結果は、一方の種の摂食活動により他方の種にとっての食物条件が改善される「食物改変効果」によるものと考えられた。ただし食物改変効果の前提となる2種間の食物ニッチの相違は明らかにされていない。また、この実験では種数の増加が同種に遭遇する確率を低下させ、種内干渉が緩和されることで分解が促進される「種内干渉緩和効果」を区別できていなかった。本研究は、飼育実験により先の実験に種内干渉緩和効果が存在していた可能性を検討するとともに、オオカクとサトウの食物ニッチの相違を明らかにすることを目的とする。
実験はいずれも東大秩父演習林内に設置した人工流路で行なった。サトウの近縁種で生態的に類似したフトヒゲカクツツトビケラを用い、飼育槽の個体密度を変えた飼育実験を行なった。その結果、先の実験に種内競争緩和効果が含まれていた可能性は小さいと判断された。オオカクとサトウの食物ニッチの相違を明らかにするために、樹種や微生物コンディショニングの程度の異なる落葉リターを食物として各種単独で飼育を行い、摂食速度、成長速度、生残率を評価した。その結果、2種間の摂食速度の差は葉の硬さによって有意に異なり、柔らかい葉ほど摂食速度はオオカクの方が大であった。落葉リター分解におけるこれら2種間で見られた食物改変効果は、サトウの摂食活動が葉を柔らかくすることで、オオカクの摂食による分解を促進したものと推察される。
P2-128c: 樹木‐潜葉性昆虫‐寄生蜂群集の空間構造 (2)
野外でみられる多くの生息場所は不連続であり、パッチ状に構造化されている。分散能力や探索能力の異なる生物はこのような生息場所の空間構造に対して種ごとに異なる反応を示すと考えられる。そのとき、生息場所パッチのサイズやトポロジーの違いが生物間相互作用を規定するため、群集構造は生息場所の空間構造から影響を受けていることが予想される。特に森林では樹木がパッチ状の生息場所となるため、樹木を生息場所とする生物群集は樹木の配置に基づいて構造化されている。しかし、樹木‐植食者‐捕食寄生者の3種系を考えるとき、寄主の分布様式が単純に捕食寄生者の分布様式を決定していない可能性がある。そのような現象が観察される場合、捕食寄生者の分散能力と探索能力の違いが反映されていると推測される。
本研究では、野外の樹木‐潜葉性昆虫 (リーフマイナー)‐寄生蜂群集において、潜葉性昆虫個体群の空間分布が、寄生蜂の空間分布に及ぼす影響を検討した。調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。30m四方の調査プロットを5つ設定し、樹木8種の位置を計測した。また、すべての樹木個体から潜葉性昆虫と寄生蜂を定量的にサンプリングし、潜葉性昆虫を飼育することによって樹木パッチあたりの寄生率を調べた。そこで得られたデータから、点過程分析により樹木と潜葉性昆虫、寄生蜂の分布様式を比較する。潜葉性昆虫の分布様式と寄生蜂の分布様式の関係を明らかにするとともに、その背後にあるメカニズムについて推測する。さらに、寄生蜂が空間構造に対して種特異的な反応を示す空間スケールについて考察する。