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[要旨集] ポスター発表: 植物群落
- P2-129: ユビソヤナギ林の分布と群集構造 (鈴木, 菊地, 金指, 坂)
- P2-130: 伊豆大島における遷移系列からみた植生の多様性 (伊川, 中村)
- P2-131: 異なる林冠動態下にあるパッチ間での樹木群集の構造と直径ー樹高アロメトリー (真鍋, 島谷, 河原崎, 相川, 山本)
- P2-132: 照葉樹林で樹木はどう死んでいるか_--_龍良長期モニタリングデータより_--_ (河原崎, 島谷, 真鍋, 山本)
- P2-133: 東日本太平洋側におけるブナ及びブナ林の分布_-_八溝山地と阿武隈山地について_-_ (原, 平吹, 富田, 内山)
- P2-134: 暖温帯針広混交林におけるギャップ動態が生産量に及ぼす効果 (久保田)
- P2-135: 富士山亜高山帯針葉樹林における道路開設30年後の林分構造と動態 (長池, 新井, 高野瀬, 阿部)
- P2-136: 四国山地塩塚高原における半自然草地植生の成立要因および季節変化と植物相 (河野, 石川, 三宅)
- P2-137: 部分的伐採を受けた針広混交林の回復過程 (吉田, 野口)
- P2-138: 立地条件の異なる場所に形成された二次遷移初期過程の植物群落 (飯島, 佐合, 大賀)
- P2-139: 再造林放棄地における植生回復 (長島, 吉田, 保坂)
- P2-140: 熱帯マングローブ林における潮汐傾度に沿った撹乱体制と更新パターンの変化 (今井, 中村)
- P2-141: 鳥取砂丘の安定化に伴う海浜植生の群落構造の変化 (笹木, 森本)
- P2-142: 尾瀬ヶ原湿原におけるシカ食害の発生傾向と回復 (谷本, 伊藤, 水野)
- P2-143: 栗駒山におけるオオシラビソ小林分の齢構成 (若松, 菊池)
- P2-144: アカマツ林伐採跡地における地表処理と更新樹種の関係 (西畑, 佐野)
- P2-145: 横須賀市における帰化植物に関する植物社会学的解析 (鈴木)
- P2-146: 達古武沼水草の群落構造 (渡辺, 野坂, 若菜, 辻, 高村, 中川, 五十嵐, 三上, 石川, 上野, 角野)
- P2-147: 暖温帯照葉樹二次林における主要構成種5種の株構造解析 (伊藤 哲 , 井藤, 光田)
- P2-148: アマゾン天然林における樹木の更新と下層の光環境 (飯田, 九島, 八木橋, 田内, 中村, 斉藤, Higuchi)
- P2-149: 本州中部鬼怒沼周辺における亜高山性針葉樹林の更新 (丹羽, 上條, 津山, 高柳, 小川)
- P2-150: 山地湿原の花粉分析からみたテフラ降下後の植生変遷 (米林)
- P2-151: 富山県宇波川上流部の植生 (山下)
- P2-152: 大型植物による環境形成作用が植物種共存機構に与える影響 (嶋村, 百瀬)
- P2-153: 北関東における広葉樹二次林の構造と動態 (西上, 石橋)
- P2-154: 厚岸湖畔における塩湿地植物群落の分布の年変動 (神田, 内山)
- P2-155: 北海道大学構内K39遺跡から出土した炭化材の樹種構成 (渡辺, 佐野)
- P2-156c: 上高地の氾濫原における林床植物の立地と樹木実生の定着 (川西, 石川, 大野)
- P2-157c: 奥日光戦場ヶ原湿原における植物群落の変化 (伊藤, 谷本)
- P2-158c: 北海道網走湖畔湿生林の38年間の動態 (藤村, 冨士田)
- P2-159c: ()
- P2-160c: 芦生モンドリ谷天然林16haの林相 (岡田, 呉, 清水, 安藤)
- P2-161c: 択伐施業下の針広混交林における林床植物種の分布パターン (野口, 吉田)
- P2-162c: 富士山の火山荒原に生育する植物に対するアーバスキュラー菌根の役割 (賀川, 藤吉, 中坪, 増沢)
- P2-163c: 里山地域における植物の種数、面積、群落多様性の関係 _-_関東の丘陵地における事例_-_ (根本, 星野, 鈴木)
- P2-164c: Cubic Module Modelを用いた森林構造シミュレーション (長谷川, 城田, 甲山)
- P2-165c: 特異的な植物群落 ゴマギ-ハンノキ群集の分布状況と立地特性 (郡)
- P2-166c: 森林における雑草の発生と人為的撹乱および土壌の性質との関係 -芦生研究林を例として- (小西, 伊藤)
- P2-167c: 沖縄島北部の石灰岩地におけるイタジイ林-下層における主要種4種の分布と立地との関係 (工藤, 新里)
- P2-168c: 鳥散布型植物の種子散布と定着に及ぼす林縁の効果 (佐藤, 紙谷)
- P2-169c: 富士山亜高山帯林の発達過程 (田中, 斉藤, 山村, 中野)
P2-129: ユビソヤナギ林の分布と群集構造
ユビソヤナギは、北関東から東北地方にかけて隔離的に分布するわが国固有のヤナギ科植物で、河川により形成される特異な環境(砂礫地)に成育し、河川の自然攪乱体制の下で、更新と個体群の維持を図っている。しかし、近年の砂防事業の進行(砂防ダムの構築、護岸工による流路の固定)により、ユビソヤナギの生育地や更新サイトが著しく減少し、集団の縮小・孤立・分断化が進んでいる(絶滅危惧種Ib類)。そうした中、ユビソヤナギの保全を図る上で、ユビソヤナギの生態分布やその群集構造、生態的諸特性などについて、情報の集積が強く求められている。
本研究では、これまでユビソヤナギの分布が報告されている湯檜曽川、成瀬川、江合川水系軍沢、和賀川の4地区、22林分で毎木調査を実施し、ユビソヤナギを含む河畔林の群集構造を解析した。また、これまでに分布の報告のあった周辺河川および分布の空白地帯おいてユビソヤナギの分布調査を実施した。
各調査林分において、胸高断面積合計をベースとした種ごとの断面積比をパラメーターにクラスター分析を行った結果、ユビソヤナギを含む林分の群集構造は、大きく4群に類型化された。すなわち、オオバヤナギが優占するタイプ、ユビソヤナギが優占するタイプ、シロヤナギが優占するタイプおよびオノエヤナギが優占するタイプである。この内、シロヤナギの優占するタイプは、シロヤナギが福島県以北に分布することから、植物地理的な群集組成とみなせる。一方、ユビソヤナギは、オノエヤナギ、オオバヤナギなどと同所的に分布するが、寿命が異なることから時間的な棲み分けを行う。
本報告では、2003年8月、福島県只見川水系伊南川において新たに発見されたユビソヤナギの自生地についても言及する。
P2-130: 伊豆大島における遷移系列からみた植生の多様性
伊豆大島の気候的極相林はオオシマカンスゲ-スダジイ群集となるが、噴火の影響を受けている現存植生とは異なる遷移段階の植生がみられる。本研究では植物社会学的方法(Braun-Blanquet 1964)を用いて植生調査を行い(1)伊豆大島に存在する植生単位を抽出する。(2)一次遷移、二次遷移の系列ごとに植生単位を整理し、両遷移系列を明らかにする。(3)両遷移系列の関係について明らかすることを目的とした。一次遷移には、ハチジョウイタドリ_-_シマタヌキラン群集→ニオイウツギ_-_オオバヤシャブシ群集→オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集→オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集という遷移系列がしられている。二次遷移では、その成立要因として人為的影響があげられた。また、火山による攪乱が比較的弱い立地では、火山による二次遷移が見られた。それらは、火山灰の影響をうけ、林床にダメージを受けているが、種や個体サイズの違いによって生存に違いが見られた。また、低木以上の種も、火山灰や高熱により被害を受けるが、胴吹きなどによって再生する個体が見られる。その結果、火山の影響を受けた二次遷移の系列が成立し、植生単位として、ハチジョウイボタ_-_オオバエゴノキ群落、ツルマサキ_-_オオシマザクラ群落、オオバエゴノキ_-_スダジイ群落が判定された。これらの群落は、オオシマザクラ_-_オオバエゴノキ群集との共通種が出現しているものの、その標徴種を欠いていた。この群落はニオイウツギ-オオバヤシャブシ群集に対応し、オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集へ遷移していくと考えられる。オオバエゴノキ-スダジイ群落は高い優占度でスダジイが混交するものの、オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集の種は出現していない。この群落はオオシマザクラ-オオバエゴノキ群集に対応し、オオシマカンスゲ-スダジイ群集へ遷移していく。
P2-131: 異なる林冠動態下にあるパッチ間での樹木群集の構造と直径ー樹高アロメトリー
極相林は撹乱後の経過時間の異なるパッチの集合体であることは周知の事実であるが、どのような撹乱履歴を持ったパッチがどの程度存在しており、それらパッチがどのような構造にあるのかはほとんど知られていない。我々は、極相林がどのような構造的特徴を持ったパッチのモザイクであるのかを把握するため、長崎県対馬市の龍良照葉樹林に設置された4haの調査区で調査を行っている。
当調査地では、Canopy height profile method により1966年・1983年・1993年・1998年の林冠状態が復元されており、1966年当時からギャップ(林冠高≦15m)であり続けている場所(ギャップパッチ)や1966年以降も閉鎖状態にある場所(閉鎖パッチ)を検出することが可能である。これら林冠動態の異なる場所を含むベルトトランセクトを設置し、そこに生育している樹高1.3m以上の全樹幹の高さ(H)と胸高直径(DBH)を測定した。
その結果、閉鎖パッチでは幹密度が低く階層構造の分化がすすんでいたのに対し、ギャップパッチでは小サイズ幹の密度が高く階層構造の分化程度が低いことが判った。また主要樹種のH-DBHアロメトリー関係を解析したところ、優占種のイスノキは林冠状態とアロメトリーは無関係であり、ヤブツバキはギャップパッチで肥大成長を優先させ、クロキやネズミモチは樹高成長を優先させていた。
以上のように、ギャップパッチと閉鎖パッチではパッチ内群集の構造に明らかな相違がみられた。さらに、樹形のアロメトリー関係を扱った研究では種間や同種内の成長段階によって相違がみられることが多数報告されているが、今回新たに、林冠の閉鎖状態に応じて成長パターンを変化させている種が存在すること、その変化パターンは種によって異なっていることが明らかになり、これらのことがパッチ内構造に関与しているものと思われた。
P2-132: 照葉樹林で樹木はどう死んでいるか_--_龍良長期モニタリングデータより_--_
森林の樹木の死亡パターンは各樹種の生態的特性および生育微環境を反映していると考えられ,このパターンをとらえることは,個体群および群集構造の維持機構を把握する端緒となる。天然林を構成する樹木は生物の中でも最も長命な種であり,特に,環境ストレス等に脆弱な実生や稚樹の段階を生き抜いた成木(胸高直径DBH5 cm以上の幹)について,死亡のパターンを明らかにするためには長期モニタリングが必要である。
長崎県対馬,龍良照葉樹天然林では1990年に4haの調査区が設置され,以来,12年間に4回,各樹木の生死状態・DBH・林冠状態(閉鎖,ギャップ,および中間)を調査している。12年間のデータから主要樹種がサイズや林冠状態に依存して死亡するか否かの抽出を試みた。サイズ依存の死亡は,小個体では環境ストレス等に脆弱で死亡率が高く,大個体になるにつれて寿命を全うした死亡が増加することを仮定し,小個体と大個体で死亡率が高くなる二山分布のモデル式をつくり,モデル式への当てはまりの良さから,死亡パターンを明らかにした。また,このモデル式をすべての個体に適用した場合と林冠状態ごとに適用した場合で当てはまりの良さを比較し,林冠状態が死亡率におよぼす影響を調べた。
以下,結果の一部である。1. 最優占樹種のイスノキはサイズ依存のある死亡率を示し,DBH 30 cm以下の小個体で死亡率が高かった。さらに,死亡は林冠状態にも依存し,閉鎖林冠下で小個体の死亡率が高かった。2. ツバキは林冠状態によってサイズ依存の死亡パターンが大きく異なった。閉鎖林冠下ではほぼ一定の死亡率を示したが,ギャップではDBH15 cm前後の個体の死亡率が高く,中間ではそれ以上のサイズの死亡率が高かった。3. カクレミノとサカキは林冠状態と死亡率は独立であった。小個体で死亡率が高いだけでなく,DBH25 cm以上で死亡率が増加した。
P2-133: 東日本太平洋側におけるブナ及びブナ林の分布_-_八溝山地と阿武隈山地について_-_
北関東_から_東北にかけての太平洋側の地域では、気候的極相林としてのブナ林の発達する領域は、元々、日本海側の地域と比べて水平的にも垂直的にも狭いと考えられ、また古くからの開発によって、すでに大半が失われてしまっているのが現状である。一方、これらの地域では、近年、従来の学説によって予想されるよりも低海抜の地に、ブナの混じる小林分が点々と分布することが報告されているが、これら低海抜地のブナ林については、1)ブナは種としては普通種であること、2)二次林であることも多く原生林としての希少性が認められない、などの理由で十分な保護が図られず、また、分布情報さえ十分には把握されていないのが現状である。しかし、分布限界付近に点在するこれらの群落こそ、植物群落の分布や歴史を考える上で最も重要で、歴史の生き証人ともいうべき群落である可能性がある。また気候変化によって、真っ先に影響を受けて存続が危ぶまれるのも、このような群落である。特にブナの場合は、日本の森林帯の主要樹種であり、分布下限付近の群落の変化は植生帯全体の変化に大きく影響する。これらのことを背景とし、上記の地域のブナ及びブナ林の分布について、文献や標本調査、聞き込みによってデータベースを作成し、群落の状態を現地調査によって明らかにする研究を行っている。今回は現地調査を終えた八溝山地と阿武隈山地について報告する。これまでに1)ブナはWI=85を越えてWI=105付近まで分布する地域があり、また分布下限のWIは地域ごとにかなり異なる、2)ブナの分布下限はスダジイまたはカシ類の分布と重複、または接する場合が多い、3)ブナは高海抜地では“ブナ優占林”を形成するが、低海抜域ではシデ類やイヌブナ、モミ、カシ類などに混交して、主に尾根や上部斜面にパッチ状に出現する、などが明らかとなった。
P2-134: 暖温帯針広混交林におけるギャップ動態が生産量に及ぼす効果
霧島山系大浪池周辺の森林群集は、冷温帯と暖温帯の移行帯(ecotone)に位置しているため、常緑針葉樹・落葉広葉樹・常緑広葉樹といった機能型の異なる林木種が共存している。したがって林分の長期モニタリングによって、今後の気候変動に伴う森林動態の応答を検出するには、ユニークな地域である。筆者は1998年から極相林に1haのプロットを設置し、4年間にわたり林木個体レベルの生長動態と地上部生産量を継続調査している。
本論では、森林動態の重要なメカニズムであるギャップ撹乱が、暖温帯林の生産量に及ぼす効果を明らかにした。また他の冷温帯林や北方林との動態比較に基づき、異なる機能型を有する林木種から構成される多様な群集の自然撹乱に対するresilienceの高さを考察した。
林分構成種は41種だった。常緑針葉樹4種、落葉広葉樹23種、常緑広葉樹14種それぞれが、異なる階層や空間に分布することで空間的異質性が維持されていた。林分の地上部現存量は316.7ton/haで、その生産量は6.9ton/ha,yrだった。幹の生長量は生産量の45.5%を占めていた。さらに機能型別に見ると、下層で優占する常緑広葉樹が生産量に大きく貢献していた。
林冠種である針葉樹と落葉広葉樹の死亡率はリクルート率を上回っており、個体群の定常性は保たれていなかった。一方下層種である常緑広葉樹はギャップ依存の更新で個体群がほぼ維持されていた。したがって林分の生産量は、林分における針葉樹、落葉広葉樹、常緑広葉樹の混交状態によって変動することが予想された。また下層常緑広葉樹の個体レベルでの生長動態は、ギャップ形成によって加速されることが示された。したがって、林冠層における針葉樹と落葉広葉樹の枯死に伴う生産量の減少は、下層常緑樹のギャップ依存的生長動態によって一時的・部分的に補償されることが示唆された。エコトーン特有の林分構成種における機能型の多様性(特に下層に常緑広葉樹が混交すること)が、ギャップ撹乱に対する林分生産量のresilienceを高めていると考えられた。
P2-135: 富士山亜高山帯針葉樹林における道路開設30年後の林分構造と動態
道路開設後30年が経過した亜高山帯針葉樹林において、道路開設が林分構造と最近の更新に及ぼす影響を明らかにするために調査を行った。調査地は富士山北斜面であり、標高2100m地点に50m×140m(0、7ha)の調査区を1999年に設置した。調査区は道際(0m)から森林内部(140m)にかけて垂直方向に設置した。調査区を10m×10mのコドラートに分割し、コドラートごとに樹高2m以上の生立木および枯立木すべてを対象にして毎木調査を行った。毎木調査は2001、2003年にも行い、新規加入個体、死亡個体も記録した。
毎木調査の結果、生立木の胸高断面積合計ではコメツガとオオシラビソ、立木密度ではコメツガ、オオシラビソとシラビソが優占していた。全樹種の立木密度はこの4年間で減少していたが、それはハクサンシャクナゲの減少によるところが大きく、針葉樹3種の変化は小さかった。しかしながら、針葉樹3種の胸高断面積合計は減少していた。枯死木の平均胸高直径は、コメツガの9.5cm、シラビソの5.1cmに対し、オオシラビソは17.0cmであった。
また、ニホンジカによると思われる生立木への剥皮は、調査区面積あたり1999年12本、2001年21本、2003年81本と増加していた。しかしながら、剥皮による死亡個体は1999→2001年4本、2001→2003年7本と、現在までのところは少なかった。
P2-136: 四国山地塩塚高原における半自然草地植生の成立要因および季節変化と植物相
火入れや刈り取りといった人為的影響のもとに成立した半自然草地は、その歴史性に加え、生物多様性、風土性、景観性、レクリエーション性などにおいても高く評価され、環境面での価値が増大している。本研究では、現在火入れによって維持されている塩塚高原(愛媛・徳島県境、海抜1043,4m)において、ススキ型の半自然草地植生の多様性とその季節変化を明らかにすることを目的とした。春季から秋季にかけて優占種の異なる代表的な群落32地点において、毎月一回の植生調査を行った。さらに植物相の調査を行い、草原生植物、特に絶滅危惧種について生育場所を把握した上で、その生育環境の解析を試みた。
各継続調査スタンドを、火入れ、刈り取り、火入れと刈り取りの3種類の影響を受ける場所に分けた結果、刈り取りのみのスタンドで火入れのみのスタンドより一年を通して種数、多様度指数共に高い値を示し、刈り取りは火入れよりも植物の種多様性を維持するためには効果的であることが示唆された。植物相の調査より、塩塚高原全域で108科299属509種、草原域のみで74科199属306種の生育が確認され、このうち塩塚高原全域では40種、草原域のみでは35種が、愛媛・徳島・高知県および環境庁のいずれかのRDB掲載種であった。
また、草原域に見られた草原生植物のいくつかは、それぞれ特徴的な分布を示していた。例えば、火入れの影響の強い場所にはススキ、トダシバをはじめフシグロやヤナギタンポポ、オオナンバンギセルなどの種が多く見られ、刈り取りの影響の強い場所ではオカトラノオやノコンギクをはじめカンサイタンポポやニガナ、ハバヤマボクチ、モリアザミなどが多く生育していた。このように、それぞれの種の生育場所について、管理様式の違いや、傾斜角度・方位、群落高の違いなど、さまざまな要因が関係していることが示唆された。
P2-137: 部分的伐採を受けた針広混交林の回復過程
択伐のような部分的伐採(非皆伐)に関する過去の研究の多くは、林分の蓄積回復に焦点を当ててきた。蓄積の回復過程は一般にばらつきが大きく、望んだような回復が示されない例も多数存在する。一方、生物多様性の保全を意識した森林管理手法として部分的伐採は重要な位置を占めるが、立木以外の構造や種組成・種多様性に対する伐採の影響評価は少ない。この報告では林冠構成種の種多様度に注目しながら、伐採後およそ15年間の林分の動態・回復過程を記載し、その不均質性に影響する要因を明らかにすることを目的とした。【調査地と方法】 北海道大学中川研究林に設置されている長期観察プロット(面積は0.25_-_0.50ha)合計51箇所のデータを解析に用いた。これらの林分は1969_-_1985年に一回の伐採が行われ、その直前から胸高直径6cm以上の立木について5_-_8年間隔で毎木調査が行なわれてきた。ここでは伐採後約15年(14-16年)間のデータを、針葉樹・耐陰性広葉樹・非耐陰性広葉樹の種群に分け、各プロットごとに集計した。【結果と考察】 伐採直後の胸高断面積(BA:m2)に対する15年後の値は、70-145%のばらつきがあった(平均110%)。枯死率(/m2/year)・新規加入率(/m2/year)は、ともに針葉樹よりも広葉樹で高い傾向があった。成長率(/m2/year)は密度効果(BAの負の相関、伐採BAの正の相関)を示したが、新規加入率に対してはその効果は明らかではなく、むしろ種多様度が正の相関を持っていた。この傾向はいずれの種群でも有意であった。種多様度は、期間を通しての回復率(成長+新規加入_-_枯死:/m2/year)に対しても、針葉樹および耐陰性広葉樹の場合に正の相関を示していた。部分的伐採後の回復速度はさまざまな要因に影響されると考えられるが、初期の種多様度の高さは蓄積の回復傾向を維持するひとつの要因であることが示された。
P2-138: 立地条件の異なる場所に形成された二次遷移初期過程の植物群落
東京湾沿岸の埋立地(千葉市美浜区)に裸地化した調査地を設け、二次遷移初期過程の植物群落について、出現種の移り変わりを調べた。裸地化から3年間で、47種が出現し、優占種はスズメガヤ(Th)、メヒシバ(Th)、アキメヒシバ(Th)→オオアレチノギク(Th(w))→チガヤ(H)と移り変わった。この調査結果と比較するために、休耕畑(千葉県袖ヶ浦市、以下A)と都市部の緑地(東京都目黒区自然教育園内、以下B)で同様の調査を行った。裸地化から3年間で、Aでは44種が出現し、優占種はホナガイヌビユ(Th)、メヒシバ→メマツヨイグサ(Th(w))、ヒメムカシヨモギ(Th(w))→メマツヨイグサ、ヒメムカシヨモギ、セイタカアワダチソウ(Ch)と移り変わった。Bでは64種が出現したが、裸地化1年目はほとんど出現せず、優占種は2年目がメヒシバ、3年目がメヒシバ、コブナグサ(Th)、ヒメムカシヨモギであった。Aでは埋立地と同様に裸地化から3年間で優占種が夏型一年生草本植物から冬型一年生草本植物を経て多年生草本植物に移り変わる様子が見られた。しかし、Bでは裸地化から3年目まで、優占種は夏型一年生草本植物のメヒシバであった。
これらの結果から、遷移の起こる場所が埋立地や農耕地のように開かれたところでは優占種は短期間に明確に移り変わるが、都市部の緑地のように隔離されているようなところでは、優占種の変遷には時間がかかり、明確な変遷は見られないことが明らかになった。
P2-139: 再造林放棄地における植生回復
わが国の林業を取り巻く情勢が厳しさを増す中,皆伐後に再造林が成されない再造林放棄地が増加している.これらの放棄地の増加は,植生が回復しない場合,水土保全機能の低下やそれに伴う土砂流出災害の危険性があるとして,危惧されている.筆者らはこれまで,大分県北西部において放棄地の植生回復状況と立地条件(標高・傾斜・放棄年数)との関係を調査してきた.その結果,(1)回復している植生の主要樹種が放棄年数と標高によって異なること,(2)回復初期には,先駆性樹種が優占するパターンとシロダモが優占するパターンがあることが見出された. その一方,より一般的な植生回復パターンを見出すには,調査プロット数の増加や周辺植生・過去の植生との関係を把握する必要性が示唆された.
そこで本研究では,立地条件に加え,放棄地の植生回復状況と周辺植生,過去の植生との関係を明らかにすることを目的としている.調査対象地は,これまでの大分県北西部17箇所の放棄地に加え,南部に分布する放棄地20箇所の計37箇所とした.各放棄地において4m×4mの方形区を2プロットずつ設置し,出現種・植被率を記載した.またDBH1cm以上の樹種については毎木調査も行なった.各放棄地の立地条件は,放棄地分布図と標高・傾斜・植生の各地図とを重ね合わせることで得た.過去の植生については,米軍によって撮影された空中写真を用いて人工林,広葉樹林,他の土地利用(水田など)の判読を試みた.本発表では,クラスター分析によって各プロットの植生を分類し,各植生分類群と立地条件,周辺植生,過去の植生との関係を統計解析によって把握した結果を報告する.
P2-140: 熱帯マングローブ林における潮汐傾度に沿った撹乱体制と更新パターンの変化
熱帯・亜熱帯の潮間帯にみられるマングローブ植生には,潮汐傾度に沿って樹種組成群が漸次変化していく成帯構造zonationがみられる.帯状に分布する植生間では種組成と群落構造に違いがあり,植生帯間では異なる更新パターンをとることが予想される.攪乱は森林の組成や構造,更新を決定する重要な要素であることが知られているが, これまで植生帯間で攪乱体制の比較を行った研究は行われていない.本研究は,熱帯マングローブ林の攪乱体制と更新パターンが潮汐傾度に沿ってどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした.タイ,ラノン県のマングローブ林には,海側からマヤプシキ(S.alba;以下Sa)とウラジロヒルギダマシ(A.alba;Aa)の混交林→フタバナヒルギ(R.apiculata;Ra)林→Raとオヒルギ(B.gymnorrhiza;Bg)の混交林が配分している.この3群落中に約0.5haの調査区を2箇所ずつ設置した.調査区内において0.5m以上の全個体の毎木調査と樹冠面積の測定,ギャップセンサスを行った.Sa-Aa林区では幹密度が低く,Sa,Aa両種ともに樹幹面積が大きいため,単木的な枯死や根返りでも大きなサイズのギャップが形成される.両種の耐陰性は低く,ギャップ下には稚樹パッチが形成されるが林冠下には稚樹はほとんどなかった.一方,Ra林区とRa-Bg林区は,両林区とも幹密度が高く,ギャップ下だけでなく閉鎖林冠下にも多くの稚樹が確認された.これは,ひとつには次世代種のRa,Bgの稚樹の耐陰性が高いことがある.またギャップはRa,Bgの大径木の風倒による根返りが多いが,樹幹面積が小さいためにギャップサイズも小さい.さらにギャップの形態が樹形に沿った縦に細長い形であるために,隣接木や下層の稚樹が比較的早くギャップを埋める可能性が高くなる.以上のように,SaやAaなど耐陰性の低い樹種の優占林ではサイズの大きいギャップが,一方RaやBgなど比較的耐陰性が高く稚樹バンクを形成する樹種の優占林では小ギャップが形成される傾向が見られ,各植生帯の優占種の更新特性と攪乱体制の間に相応的な更新パターンがみられた.
P2-141: 鳥取砂丘の安定化に伴う海浜植生の群落構造の変化
鳥取砂丘では、防風林として植栽されたクロマツやニセアカシアが汀線に向かって砂丘内に侵入する現象が見られ、裸地面が減少し、安定化が進行している。本報告では、海浜植生を持続的に管理することを目的に、砂丘の安定化が、群落構造へ与えた影響について明らかにした。
鳥取砂丘の千代川河口付近の汀線から約500mに位置する砂丘列において、1986年に84箇所のコドラート(2.5m×2.5m)を設置した。各コドラートについて、ブラン_-_ブランケットの植物社会学的手法により、コドラート内に生育する植物種とその被度を測定するとともに、基点から各コドラートの標高を水準測量により1986年11月15日に測量した。これより16年が経過した2002年に、同地点について1986年に調査したのと同様な手法で、植生調査と測量を実施した。また、これらの調査結果をTWINSPAN法による分類、DCA法による序列化により比較した。
調査対象地域の植生は、1986年においては、コウボウムギ群落、ケカモノハシ群落、メマツヨイグサ群落の3タイプに分類されたが、2002年においては、これまでに見られた草本群落に加えて、アキグミ群落、クロマツ群落などの木本が優占する群落タイプも見られるようになった。また、種数は、1986年においては、15種であったのに対し、2002年においては、41種と増加がみられた。なかでもこれまで調査対象地域に見られなかった外来種のコバンソウ、マンテマ、ハナヌカススキなどの草本、ニセアカシアなどの木本の侵入が顕著であった。
このまま、砂丘の安定化が続くと海浜植生の優占する群落タイプが減少するとともに、樹林化が進行し、遷移が進行すると予想される。海浜植生を持続的に維持していくためには、調査対象地域周辺を攪乱することで裸地化を図り、砂丘を再流動化させることが必要と考えられる。
P2-142: 尾瀬ヶ原湿原におけるシカ食害の発生傾向と回復
1990年代より奥日光を中心とした山岳地帯おいて、シカの食圧などが亜高山性針葉樹林と戦場ヶ原のような湿性草原で顕在化し、本来の群落維持が困難な状態となっていた。このような傾向は1994年頃より尾瀬沼、尾瀬ヶ原周辺の湿原群落にも現れ、湿原崩壊が憂慮される状態となっていた。この報告では、1994年から2004年まで10年間、尾瀬沼、尾瀬ヶ原におけるシカ食害の発生傾向をもとに、湿原植物のシカ被害回避と植生回復の基礎資料とするため、それぞれ被害の推移を観察してきた結果についてまとめた。尾瀬沼等で発生したシカ食害の発生は、ミツガシワ群落において顕著であった。その被害は1)融雪直後の湿原撹乱によるミツガシワの根茎の食害、2)池塘あるいは流路内に生育するミツガシワの地上部が、シカの喫食可能範囲まで食害を受ける。の二つに区分できた。河川の氾濫原に生育するエゾリンドウ、アザミ類の食害、周辺林内におけるコマユミなどの小低木、ウワバミソウなどの林床植生の被害なども一部の場所において年々顕著になってきている。ミズガシワ以外の食害は、ミズガシワが生育している湿原の周辺において頻繁に発生しており、春先のミズガシワの食害と関連が深いことがうかがわれた。ミツガシワ群落が優占する場所は、湿原内に貫入した河川が、湿原に取り囲まれた場所、池塘あるいは河川の縁などで見られ、ミツガシワの草丈、混生する群落構成種は、それぞれの場所で異なっていた。ミツガシワ群落が撹乱された跡地の植生回復は、ヤチスゲ、ハリミズゴケ、サギスゲ、ミツガシワなど比較的残存している種が生育してくる場所やクロイヌノヒゲ、ハクサンスゲが優占種となり、景観が大きく変わるものなどさまざまであった。また、これらの植生回復は、撹乱後の水位の変化、すなわち掘り上げで乾燥するあるいは掘り下げられ凹地となり、沈水する地形となる場所などとの対応が認められた。
P2-143: 栗駒山におけるオオシラビソ小林分の齢構成
栗駒山におけるオオシラビソ林の分布は、西稜線の一角にある秣岳の非常に狭い範囲に限られている。付近の花粉分析ではAbies花粉が検出されておらず、林分形成当初から現在のような小林分であるとされている。このオオシラビソ林の存在は、最終氷期以降に東北地方の山岳でおこったオオシラビソ林の分布拡大のメカニズムを明らかにする上では見逃すことのできない存在である。今回、この小林分内の齢構成の検討をおこなったので報告する。
オオシラビソ林の林床は、表層物質が厚く堆積し、チシマザサが卓越するササ型林床と、岩塊が表層に剥き出しになり、コケがその上を覆っているコケ型林床の2タイプが存在した。どの林分内も、齢構成は実生の数が多く高齢木になるにつれて個体数が減少する逆J字型の構造であった。また,連続的な齢構成を示し、250年を超える個体も広い範囲で確認された。
どの地点の齢構成でも、100年と200年前後にモードが存在し、他の世代よりも個体数が多くなっていた。年輪幅の計測によると、100年と200年前後の年輪幅が極端に狭くなっている個体が多かった。
以上のように、樹齢250年を超える高齢木が存在しており、連続的な齢構成を示していることから、少なくとも250年前にはオオシラビソ林が成立し、現在まで維持されてきたと判断される。齢構成が逆J字型であることから、後継個体も連続しており、今後もこれらのオオシラビソ林分は維持されていくことが期待される。
100年、200年前後の年齢を示す個体数が多いという事実は、その時期にオオシラビソの定着が特に進んだことを示唆するが、コケ型林床の林内においてもその傾向がみられることから、ササ枯れによる定着の増加によるものではないと考えられる。定着個体数の増加時期における、年輪幅の狭まりとの因果関係が注目される。
P2-144: アカマツ林伐採跡地における地表処理と更新樹種の関係
本研究ではアカマツ林伐採跡地において地表処理の違いによる侵入 樹種の組成について調べ、地表処理と更新樹種の関係を明らかにすることを目的とする。
アカマツ林の伐採跡地は1997年に伐採されたところで2002 年に3種類の地表処理が施された。それぞれの処理区 (掻起区、刈払区、放置区)に20 m×20 mのプロットを4つ設置した。また残存するアカマツ天然林に、対照区として同じ大きさのプロットを4つ設置した。DBH 1 cm以上の個体を上層として樹種同定を行い、DBHと樹高を測定した。下層の個体は被度を調べ、出現した樹種を同定し本数を数えた。光環境を調べるため、全天空写真を撮影し開空率を求めた。種子供給を調べるため、それぞれのプロットの中心に設置したシードトラップで落下種子を採集し、種を同定した。
放置区では対照区とほぼ同数の樹種が出現したが、多様性・均等度ともに放置区のほうが高かった。すなわち、アカマツの密度が高いが、アカマツ以外の樹種も多かった。中でも優占度が比較的高く、成長の良いコナラが存在するため、アカマツ-コナラ林に発達していくと考えられる。刈払区ではアカマツが多く見られた。しかし、コナラ、リョウブなどの萌芽能力の高く、樹高成長の良い樹種が多くあり、萌芽能力の低いアカマツには不利となる。このことから萌芽能力が高く、成長の良い高木種であるコナラが優位である。したがって、刈払区ではコナラが林冠で優占し、アカマツは光条件の良い開空地にわずかに更新し、アカマツが混生するコナラ林が成立すると考えられる。掻起区ではアカマツ以外の高木種はほとんど出現せず、アカマツ以外の樹種にとっては侵入しにくい環境であるため、今後はアカマツ林が成立すると考えられる。
P2-145: 横須賀市における帰化植物に関する植物社会学的解析
外来種の侵入防除と帰化植物の分布拡大防止、駆除は緊急の課題である。日本においても、帰化植物の問題は地球環境問題と並行して、しばしば新聞やテレビなどで報道され、その対策が市民活動の課題の一つとしてとりあげられることがある。しかし、実際の対策を策定する前に、取り組まなければならないことは、現在の帰化植物についての正しい知識との生育状況についての充分な把握である。特定の種だけでなく、全ての帰化種について、野外における在来種との種間関係や分布状況、生態などを総合的に把握することによって、それらの結果から、帰化植物の防除について具体的な処方箋を策定することが期待される。
日本における帰化植物の生育状況を把握することを目的として、神奈川県横須賀市を例に植物社会学的な解析を行った。1998年から2001年にかけて、横須賀市全域から植物社会学的に区分された50群集49群落について総合常在度表に集計し、帰化植物の出現動向を調べた。その結果、全植生単位の出現総数612種に対して、64種の帰化植物が確認された。それらの帰化植物は、本来の潜在自然植生である常緑広葉樹林をはじめとする森林植生にはほとんど生育していないが、人為的な撹乱の激しい市街地の路傍や造成地、あるいは耕作地の二次的な草本群落では多くの種が侵入していた。また、それぞれの群落タイプによって出現する帰化植物の種組成が異なっていた。帰化率では、耕作地、造成地、用水路、路上など常に持続的な人為的撹乱を受けている立地で高い値を示している。このように、帰化植物は無秩序に侵入しているのではなく、散布された地域の植生環境と種の立地特性に対応している傾向がみられる。これらの結果から、帰化植物の駆除対策は、対象となる帰化植物の種特性と侵入環境を把握した上で行われる必要があり、潜在自然植生を中心とする森林植生の形成を生態系修復の軸として、景観整備を行うことが望まれる。
P2-146: 達古武沼水草の群落構造
北海道東部に位置する釧路湿原達古武沼では1975年から数回行われている植生調査によると、水生植物の種数が減少する傾向にあることが報告されている。その理由として、水質の変化や土砂流入に伴う底質の改変などが指摘されているが不明な点が多い。また、湖沼の生態系における水生植物の役割は大きいにもかかわらず、水生植物についての調査は植生調査以外なされておらず、その群落構造や生育環境との関わりについて不明な点が多い。そこで、本研究では達古武沼に生育する水草群落の種多様性と現存量の関係や種多様性と生育環境との関係について解析することを目的とし、2003年7月23-24日に調査を行った。
調査は、沼内25地点において1m x 1mのコドラート内の水草の坪刈りと、水質や底質・光量など、水草の生育環境測定を行った。採集した水草は種毎に分別し、沈水植物については地上部・地下部に、浮葉植物については水上部・水中部・地下部に分け乾燥重量を測定した。
沼内の水質環境について主成分分析をした結果、第一主成分(寄与率52.9%)ではChl.a、TN、SS、k(光の消衰係数)、TPなどが高い値を示した。この第一主成分と水草の多様度指数との間には有意差はみられなかったものの負の関係を持つ傾向が見られた。一方、第一主成分と水草全体の現存量との間には有意に正の関係があった。達古武沼において優占種であるヒシの現存量と水草全体の現存量の間には有意な正の関係があったが、多様度指数との関係はなかった。しかし、ヒシの現存量と環境の第一主成分との間に有意な正の関係があることから、ヒシを達古武沼の環境変化にたいする指標種として利用できるのではないかと考えられる。
P2-147: 暖温帯照葉樹二次林における主要構成種5種の株構造解析
照葉樹林における微地形に関連した樹木の共存機構に関する情報は少ない。我々は、これまでの研究で宮崎大学田野演習林の暖温帯照葉樹壮齢二次林に設置された1haプロットの森林構造および微地形を調査し、樹木個体の分布の特徴から、微地形に着目した樹木集団のギルド構造を明らかにしてきた。今後は、その形成プロセスを解明するために、個体群のダイナミクスから、それぞれの樹種の立地選択性の要因を解析する必要がある。その際、二次林特有の萌芽株の構造と幹の淘汰および幹置換による個体維持は、個体群の動態に大きく影響すると予想される。
本研究では、二次林の特徴である萌芽株に着目した林分構造および動態の解析を行った。主要構成種5種の個体群動態を、個体レベルおよび幹レベルで解析することにより、萌芽株の構造が個体群動態に及ぼす影響を検討した。各樹種の生残率や直径成長の微地形に対する依存性はあまり顕著に現れなかった。また、いずれの樹種でも生残率が初期のサイズに強く依存しており、直径成長も各個体の被圧状態によってほぼ規定されていた。このことは、調査期間の6年間に大きな撹乱イベントが発生していないためであると考えられる。また、樹木の成長や生残が微地形などの立地的要因よりも既に形成された林分構造によって規定されると推察される。しかし、個体ベースの動態と比較すると、幹ベースの動態が種ごとの更新の特徴および微地形に対する依存性を反映していた。
以上の結果から、壮齢照葉樹二次林がより成熟した林分構造に発達する段階において、株構造の形成および幹の淘汰が個体群全体の動態を規定する重要な要素であり、樹木種の共存機構にも影響を与えると考えられた。
P2-148: アマゾン天然林における樹木の更新と下層の光環境
演者らはアマゾンの天然林において樹木の更新に適した光環境、および林内において更新に適した光環境の割合を明らかにするために、アマゾン河中流の都市マナウスの北方約90kmに位置するアマゾン国立研究所の試験林内に設置した2本のベルトトランセクト(20m X 2500m)において51個の小方形枠(1m X 4m)を光環境が様々に異なるように設け、下層(地上1m)の光環境と稚樹(樹高1m以下)の生長および生残との関係を明らかにした。また、同試験林内に設置した18ha(300m X 600m)の固定試験地において林冠ギャップ(5m X 5m枠毎に中心での樹高が10m以下)の調査を行うとともに、3つの林冠区分(林分全体、閉鎖林冠、林冠ギャップ)について下層の光環境の調査を行った。
ベルトトランセクトにおいて、稚樹全体で見ると相対光合成有効光量子束密度(rPPFD)と枠毎の平均の稚樹の相対成長速度(RGR)との間には有意な正の相関が認められ、rPPFDがおよそ5%以上で成長が良くなる傾向があった。一方,各枠におけるrPPFDと枠毎の全稚樹の年生存率との間には有意な関係は認められなかった。これらは、稚樹全体として見れば天然林においてシードリングバンクの形成は可能であるが、稚樹の成長のためには光環境の良好な林冠ギャップが必要であることを示唆している。
18ha試験地においてギャップの占める面積は6.0%であった。平均のrPPFDは林分全体,閉鎖林冠,林冠ギャップでそれぞれ2.0±1.0%,2.0±0.9%,3.8±2.8%であり、ギャップのrPPFDは他の林冠区分の値よりも有意に大きかった。rPPFDが5%以上であれば稚樹の更新に適しているとすれば、その割合は林分全体、閉鎖林冠、林冠ギャップではそれぞれ0.7%、0.2%、22.0%であり、更新適地としての林冠ギャップの重要性が示された。
P2-149: 本州中部鬼怒沼周辺における亜高山性針葉樹林の更新
本研究では本州中部奥鬼怒地域・鬼怒沼周辺の亜高山性針葉樹林において、その更新様式を明らかにすることを目的とした。まず、調査地内の樹木を林冠木・林冠下幼木・ギャップメーカー・ギャップ下幼木の4つの更新カテゴリーに分けた。林冠木・林冠下幼木についてはPCQ法を用い、種名・胸高直径等を計測した。この方法から得られた相対密度・相対優占度・相対頻度を積算し積算優占度PWIV値を求め、優占度の指針とした。ギャップに関しては、PCQ法で利用したラインを中心とした20×200m²の範囲を調査区とし、その内部に中心が含まれるギャップを対象としてギャップの長径・短径を計測し、楕円近似によって面積を求めた。更にギャップ形成の原因となった枯死木と、ギャップ内で生育していた全幼木の樹種・胸高直径を計測した。
林冠木の積算優占度PWIV値はオオシラビソ・コメツガ・トウヒの順に、林冠下幼木ではオオシラビソのみが高い値を示した。全更新カテゴリーで各樹種を比較するために、100m²当たりの相対密度を用いた。オオシラビソは全カテゴリーで相対密度が高かった。コメツガ・トウヒは林冠木・ギャップメーカーで高い値を示し、林冠下幼木・ギャップ下幼木には殆んど見られなかった。ダケカンバはギャップ下幼木において最も高かった。
これらのことから、本地域における優占種であるオオシラビソは、ギャップ形成前から林内で生育している前生稚樹によるギャップ更新を行っていると考えられる。ダケカンバは林内幼木が少なく、ギャップ下幼木が多いことからギャップ形成後に発生した後生稚樹によるギャップ更新を行っていると考えられる。コメツガ・トウヒは幼木自体が少なく、台風などの大規模な撹乱を必要としていると考えられる。
P2-150: 山地湿原の花粉分析からみたテフラ降下後の植生変遷
青森県八甲田山地の矢櫃谷地湿原において,テフラ降下直後の堆積物を厚さ2mmごとに切り出し,時間分解能の高い湿原植生回復過程の復元を試みた.分析に用いた泥炭は,上下の放射性炭素年代から,約12年で2mm堆積すると推定され,8試料の分析で約100年間の植生変遷を示すと考えられた.
非高木花粉・胞子では,約100年の間に少なくとも3つの花粉帯が区分された.テフラ降下直後に回復した湿原は,カヤツリグサ科やイネ科が優勢で,ミズバショウ属を伴っていたと考えられる.その後,カヤツリグサ科が減少し,ツツジ科やタンポポ亜科,キンコウカ属が増加した.オウレン属/カラマツソウ属はやや遅れて増加した.最後に,カヤツリグサ科が再び増加し,セリ科やショウジョウバカマ属も増加した.また,ミズゴケ属胞子も出現するようになった.一方,ツツジ科,オウレン属/カラマツソウ属,タンポポ亜科,キンコウカ属は減少した.
花粉組成から復元された具体的な湿原植生やその変遷は,現状では必ずしも明確ではないが,このような詳細な分析をすることにより,テフラ降下後の湿原植生の回復が10年程度の時間間隔で復元しうることが明らかとなった.
一方,高木花粉では,テフラ降下直後に多かったスギ属花粉が上に向かって減少し,カバノキ属やハンノキ属花粉が増加する傾向があったが,顕著な変化は見られなかった.これは,森林植生へのこの手法の適用は,かかる労力に対して得られる利益が少ないことを示している.
P2-151: 富山県宇波川上流部の植生
富山県氷見市北西部の標高およそ200mに位置する宇波川上流域の植生は、尾根部がアカマツ二次林、斜面上部はコナラ二次林であるが、渓谷部はサワグルミ_-_ジュウモンジシダ群集あるいはケヤキ_-_チャボガヤ群集の構成種からなる林分である。渓谷部の下部谷壁斜面は急峻で高木層が発達せず、露岩に渓谷特有の草本が個体群パッチを形成している。また、1次谷の合流部に発達する堆積面には、原産地の九州北部で絶滅したとされているオオユリワサビが開花期には草本層で優占している。この他にもミヤマタゴボウ、ナニワズなど県版レッドデータリストに揚げられている植物の生育が多数確認されている。これは調査地域が県の西端に位置することから、おもに西日本に分布する種が生育すること、あるいは調査地域の渓谷が急峻であり、冷温帯に分布の中心がある種類が遺存していることが考えられる。
今回はオオユリワサビの生育地の植生を中心に発表する。オオユリワサビは3月下旬から4月上旬に開花し、結実後の6月には地上部は枯れるとされている。オオユリワサビの開花期には他の草本種は出芽しているものが少なく、ほぼ一面オオユリワサビが覆っていた。それに対して休眠期の草本植生はクサソテツ、オオハナウド、キツリフネなどが繁茂し、開花期とは大きく異なっていた。
P2-152: 大型植物による環境形成作用が植物種共存機構に与える影響
植物種間の相互作用には共存促進的なものがあり、この作用は植物間の種共存機構に対して重要な役割を果たしている。例えば、砂漠などの乾燥地では、乾燥・強い日射というストレスが存在する。ある種の植物の樹冠下は被陰されることで日射ストレスが弱まり乾燥状態が緩和され、落葉・落枝の投入が土壌条件を改変し、他種の更新ニッチを創出する。共存促進的な相互作用に関する研究はこれまで極地方、乾燥地、冷温帯の湿地など外的環境ストレスの強い系で行われてきた。環境ストレスが局所的に弱められた場所が、環境の多様性を創出するからである。これらの系では環境ストレスが強い為に植物種の多様性が低く大型植物の発達が制限されている。従って、多様性の高い系において共存促進的な相互作用がどのように働くか、また他の主要な種共存を説明する仮説とどのように関係しているかといった事は未知であった。
熱帯泥炭湿地林では、強酸性の水が冠水し、泥炭中の養分が乏しいストレスが強い系である。一方で、上述したような他のストレスが強い系と比較して植物種の多様性が高く、大型植物も見られる。従って、泥炭湿地林は植物の共存促進的な相互作用の影響が強く、種多様性も高い系と考えられる。そこで共存促進的な相互作用の役割を明らかにするためにインドネシア、スマトラ島、リアウ州にある熱帯泥炭湿地林において調査を行った。
その結果、泥炭湿地林における植物種の共存機構を泥炭の起原である有機物の動態から解明した。ここでは大型植物個体の動態が林内の不均一性を作り出し、多種の共存に貢献していることが分かった。最後に、共存促進的な相互作用が多く検出されている他の系と泥炭湿地林を比較して、多種共存機構に対して植物間の相互作用が担う役割について考察した。
P2-153: 北関東における広葉樹二次林の構造と動態
近年,放置された里山林などの広葉樹二次林に対して関心が高まっており、今後様々な管理がされていくものと考えられる。広葉樹二次林を管理する際に、対象林分の林分構造や動態の把握はもっとも基本的なことであり、重要である。そこで本研究では広葉樹二次林の林分構造と林分成長との関係を分析し、動態について検討を行った。
本研究で用いた資料は、栃木県田沼町にある東京農工大学農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センター・フィールドミュージアム唐沢山(以下FM唐沢山とする)の広葉樹二次林から収集した。1997年から1998年に20m×20mのプロットを13カ所設置し、胸高(樹高1.2m)以上の樹高をもつ林木の胸高直径、樹高、樹種を毎木調査した。2003年に再計測を行った。
これまでに、本調査地における広葉樹二次林の構造について、直径分布は逆J字型を示していること、胸高直径10cm以上の林木を上層木、10cm未満の林木を下層木として扱うことが適切であることがわかっている。さらに、樹種構成から、FM唐沢山の広葉樹二次林は落葉広葉樹が上層を優占しており、北向き斜面の林分では落葉広葉樹主体の林相が今後も続くこと、それ以外の斜面の林分では常緑広葉樹林へと推移していく可能性があることが推察されている。二回の毎木調査の結果を用いて立木本数、BA合計の増減について検討を行ったところ、上層木の落葉樹のBA合計はいずれのプロットでも増加していたが、本数の増減はプロットによって異なっていた。上層木の常緑樹は、本数、BA合計ともに増加していた。上層木のBA合計と下層木の成長との関係を検討したところ、下層木の落葉樹は上層木のBA合計の大きいプロットの方が成長が悪いが,枯損に対しては上層木との関係はみられないこと,下層木の常緑樹の成長や枯損は上層木のBA合計との関係はみられないこと,落葉樹よりも常緑樹の方が枯損率が低いことなどがわかった。以上のことから、約5年間の広葉樹二次林の動態について、落葉樹が上層を優占しているという構造は変わらないが、枯損しにくい常緑樹が徐々に成長してきていることが明らかとなった。
P2-154: 厚岸湖畔における塩湿地植物群落の分布の年変動
アッケシソウはアカザ科の一年草で海岸の塩湿地や内陸の塩湖に生育する。アッケシソウは我が国では北海道の厚岸湖で発見されたことから、その名がつけられた。厚岸湖では牡蠣島に主に分布しており「厚岸湖牡蠣島植物群落」として国の天然記念物にもなっていた。しかしながら、近年、牡蠣島は地盤沈下が著しく、アッケシソウ群落は全く姿を消してしまい、1994年には国の天然記念物指定も取り消された。しかし、我々の調査でアッケシソウは厚岸湖の湖岸に広く分布しており、特に厚岸湖の東北部の湖岸では大きな群落が存在していることが分かった。アッケシソウは単独、または他の塩湿地の植物と群落を形成しており、チシマドジョウツナギ、オオシバナ、ヒメウシオスゲなどと群落を形成する場合が多く,ウミミドリ、エゾツルキンバイ、ウシオツメクサを混在する場合も見られた。アッケシソウは一年草であるので、アッケシソウ群落の位置や被度が年によって変動するかどうかを確かめるために、厚岸湖東北部で永久コドラートおよび永久帯状区を設定しアッケシソウ群落の年変動を2001年から3年間調べた。この調査で、アッケシソウ群落は年により群落の分布が大きく変動することが分かった。特に2003年には被度が著しく低下した。調査地での植物全体の被度はむしろ2003年は高く、単にこの年の植物の生育が悪いのでアッケシソウの生育も悪かったということでは説明できないことが分かった。
P2-155: 北海道大学構内K39遺跡から出土した炭化材の樹種構成
北海道大学の構内は文化庁によりK39遺跡およびK435遺跡として遺跡認定を受けており、これまでに縄文時代晩期、続縄文時代、擦文時代などの遺物・遺構が数多く出土している。2001年、北大文系総合研究棟の建設に先立って行われた発掘調査により、約2000年前の続縄文時代の集落遺跡が発見された。この集落遺跡から竪穴住居址10棟が出土したが、うち1棟には炭化材が数多く含まれていた。筆者らは北大埋蔵文化財調査室からの依頼を受けて、これら炭化材およそ240点の樹種同定を行った。
サンプルとして炭化材から小片を切り出し、木部の基本三断面(木口・まさ目・板目)の走査電子顕微鏡観察を行った。一部のサンプルは材組織の保存状態が悪く、樹種同定が無理であったが、多くのサンプルでは識別拠点となる特徴を確認することができた。
識別可能であったサンプルの樹種同定を行った結果、ほとんどが広葉樹であり、単子葉類が数点含まれていた。しかしながら針葉樹は認められなかった。樹種の内訳としては、トネリコ属、ニレ属、ヤナギ属、ハコヤナギ属、ハンノキ属などの、河畔林の主要構成種が多く同定された。その他にはハリギリ属やクルミ属が同定された。また、同定に用いたサンプルには髄を含む、いわゆる「心持ち材」が多くみられた。
K39遺跡内からは約2000年前の埋没河川が確認されている。今回調査した住居址に暮らしていた人々は、身近な河畔林から小径の扱いやすい樹木を伐採して、住居建設に用いたのではないかと考えられる。
また、今回の観察で、200点を超えるサンプル中に針葉樹が認められなかったが、この理由については、今後花粉分析の結果なども含めて検討する必要があるだろう。
P2-156c: 上高地の氾濫原における林床植物の立地と樹木実生の定着
氾濫原では,河川の氾濫によって高頻度で土砂の流入が起こり,それによって河畔林は部分的に破壊され,一方で様々な生育立地が形成される.こうした河川の氾濫と関連した森林動態を明らかにするために,上高地の河畔林における堆積物および土砂の流入履歴を明らかにし,林床植物の立地と樹木の定着サイトを検討した.
本調査地では礫の堆積した地域と砂が堆積した地域が明瞭な境をもって分布しており,それぞれの堆積地を侵食して小流路が発達していた.礫堆積地,砂堆積地ともに流路に面した部分では,毎年氾濫の影響があると推察された.一方,それよりも氾濫原内に位置する礫地では10年以上,砂地では約5年間は氾濫の影響がないと推察された.
林床植物をその分布傾向から類別すると,オオヨモギ,シラネセンキュウ,クサボタン,ノコンギク,コウゾリナ,ススキなどの礫堆積地に主に分布する種群,オオバコウモリ,カラマツソウ,サラシナショウマ,アズマヤマアザミ,オニシモツケなどの砂堆積地に分布する種群と,ヤマキツネノボタン,キツリフネ,オオバタネツケバナといった小流路に分布する種群となった.砂堆積地に分布する種群は植被率が90%以上の密な林床植生を構成しているのに対し,礫堆積地および小流路に分布する種群は植被率が30%以下の林床植生を形成していた.
樹木の実生は,砂堆積地にはほとんどみられず,もっぱら礫堆積地に分布していたことから,密な林床植生が発達すると樹木の定着は難しく,林床植生の植比率が低い礫堆積地では定着しやすいと考えられた.流路に面した毎年氾濫がある礫堆積地では主にヤナギ科やハルニレの実生が定着するのに対し,河畔林内にあって堆積後10年を経過した礫堆積地ではサワグルミが定着していた.
P2-157c: 奥日光戦場ヶ原湿原における植物群落の変化
栃木県奥日光地域では90年代からシカ個体群が増加し,それに伴い戦場ヶ原湿原においてもシカの食害・踏害による湿原植生の衰退が観察された.これらを危惧した環境省が中心となって,2001年冬に戦場ヶ原湿原周辺においてシカ防護柵を設置された.そこでシカによる湿原への侵入が湿原植物群落におよぼす影響を明らかにすることを目的とし,シカ防護柵設置前(2000年)と設置後3年間の植生の変化を,固定調査区をもちいて調査した.シカ防護柵設置前にはシカの踏圧による窪んだ裸地があった.しかし,設置1年後からこの様な裸地うち,平坦地では水はけの悪い湿潤な場所に出現するイヌノハナヒゲ,凸地では乾燥に比較的耐性のあるモウセンゴケなどの侵入し,これらの種が単純な群落を形成していた.これらの種が群落構成種の1種として出現することはあっても,大きな群落を形成することは,シカによる踏みつけの少ないシカ道以外の場所においてほとんど認められなかった.草本層の被度が低く,コケ層にヒメミズゴケやクシノハミズゴケがカーペット状または大きな凸地を形成する場所がいくつか認められた.しかし,これらの場所においても,シカ防護柵設置前には蹄などでミズゴケを直径4-10cm掘り起こしていた.柵設置1年後には,掘り起こされた周辺のミズゴケが乾燥してわずかではあるが窪地が広がっている様子,ミズゴケ以外の種が侵入している様子が観察された.シカ個体群は踏みつけによって,湿原植生に非常に大きな影響をもたらしたと推察された.戦場ヶ原湿原を保全するための応急的処置としてシカ防護柵は有効であるが,もっと長い時間的スケールで保全を考えた場合,シカの密度調整や餌場となる植生を付近に緩衝帯として配置するなど,湿原を活動場所として利用しにくい植生管理が必要であることを提案した.
P2-158c: 北海道網走湖畔湿生林の38年間の動態
わが国では低地に成立していた湿生林は、早くから水田に置き換えられ、原生的な林分は殆ど残されておらず、湿生林の生態に関して不明な点が多い。そのようななか北海道網走湖畔の湿生林は、北海道の平地に唯一残された樹高20mを超す巨樹からなる原生的な湿生林である。館脇ら(1968)によって1966年時点の林分状況が記録されている。そこで演者らは館脇ら(1968)と同一の調査区において毎木調査を実施した。ここに38年間の林分動態を報告する。
結果は概要以下のとおり。樹高5m以上の樹木の種組成は、1966年よりも2004年は多くの種から成立しており、ハシドイ、ツリバナ、キタコブシ、エゾノウワミズザクラなどが新たに加わった。1966年時点では調査区(1ha)内に182本の樹木がみられたが、2004年には274本に増加していた。増分の約80%はヤチダモによって占められていた。1966年、2004年とも5m以上の全階層においてハンノキとヤチダモの優占度が高く、その他の樹種は散見されるに過ぎなかった。林冠を形成する高木層のハンノキとヤチダモの本数比には1966年と2004年とで大きな変化は見られなかった。亜高木層以下の階層では本数比にしてヤチダモが占める割合が増加していた。
これらのことから38年間の動態として、ハンノキの新規加入個体は少く、ヤチダモが増加傾向にあることが確認された。
P2-159c:
(NA)
P2-160c: 芦生モンドリ谷天然林16haの林相
天然林は、地形・土壌・林冠ギャップの形成と植生回復などの諸要因によって、様々な小林分がモザイク上に配列される。大面積調査による植生パターンおよびモザイク構造の把握は、森林の動態や種多様性の解明の糸口になると考えられる。本研究では、京都府美山町の京都大学芦生研究林モンドリ谷集水域に設置されている大面積調査区(25m×25mのプロット256個 計16ha)を用いて、林相区分を試み、あわせて林相の地形依存性についての解析を試みた。
調査区内のDBH≧5cmの樹木を対象に毎木調査をおこない、プロット単位に高木層と亜高木層に分けて林相区分をおこなった。リョウブやマルバマンサクなど、主な亜高木種にDBH≧15cmとなる個体がほとんどみられなかったため、DBH15cmを高木層と亜高木層の区分点とした。地形は調査区設定時の各プロットの測量データをもとに、傾斜角と斜面の凹凸度を算出した。
高木層は全体で44種5882個体が記録された。主要構成種の胸高断面積合計の相対値はスギ62.8%、ブナ15.3%、ミズナラ6.3%、ミズメ4.7%であった。スギの相対優占度が大きいプロットほど胸高断面積合計値が大きくなる傾向がみられた。相対優占度をもとにクラスター解析をおこなった結果、すべてのプロットは1-3種の優占種からなる7タイプの林相に分類された。スギは6タイプ、ブナは5タイプ、ミズナラ、ミズメ、トチノキはそれぞれ1タイプの林相で優占種と判定された。地形との関連を調べた結果、スギのみが優占種と判定された2タイプの林相は凸地形に、残りの5タイプは凹地形に分布した。トチノキが優占する林相では傾斜角が緩い傾向がみられたが、それ以外の林相で傾斜角に差はみられなかった。
以上より、スギは尾根部を中心にほぼ全域で、ブナ、ミズナラ、ミズメは凹斜面で、トチノキは沢部で優占することが示唆された。発表では同様の手法を用いて、亜高木層(5cm≦DBH<15cm)の解析結果についても言及する。
P2-161c: 択伐施業下の針広混交林における林床植物種の分布パターン
北海道の針広混交林ではササが優占する林床植生が多くみられる。一般に、ササの増加が林床植物の種多様性の低下をもたらすことは広く報告されている。しかしササ種の違いが及ぼす影響については知られていない。そこで本研究では、林床に2種のササ(チシマザサ・クマイザサ)が出現する北海道北部の針広混交林において、局所的な上層木・地表の攪乱履歴、地形などの環境要因が林床植生の種組成と種多様度に及ぼす影響を調べ、林床植生パターンの形成に果たすササの役割について考察した。
1975年から10年間隔で択伐が行われている調査地(6.7ha)内に181ヶ所の調査地点を規則的に設置し、5m2(半径1.26m)の円内に出現した維管束植物の種名と被度、地表攪乱の履歴(攪乱なし・補植地・集材路跡)を記録した。過去30年間の毎木調査と樹木位置のデータから、地点周囲の上層木のアバンダンス(胸高断面積合計)と攪乱履歴を求めた。また、数値地形図から傾斜と斜面形状、仮想日射量の値を算出した。
DCAによる解析の結果、第1軸は傾斜と、第2軸は斜面形状の値と、もっとも強い相関を示した。第1軸に沿って、緩傾斜地にはクマイザサが、より傾斜の急な地点にはチシマザサが優占する植生が多く分布し、さらに急峻な地点ではササを含まない植生が出現する傾向がみられた。種多様度(種数・H’)は、クマイザサが優占する地点よりチシマザサが優占する地点で有意に高かった。一方、上層木の攪乱履歴は種多様度・DCA軸と有意な相関を示さなかった。地表攪乱を受けた地点(補植地・集材路跡)では、攪乱を受けていない林床と比べ種組成には有意な違いがなかったが、種多様度は有意に高かった。
林床植生パターンの形成には、地形要因、特に傾斜がもっとも重要な要因となっていた。種多様度は、各ササ種のアバンダンスより、優占するササ種の違いに伴って大きく変化していると考えられた。
P2-162c: 富士山の火山荒原に生育する植物に対するアーバスキュラー菌根の役割
一次遷移初期の場所では、土壌の窒素やリンなどの栄養塩が先駆性植物の定着または生育を制限していることが知られている。植物の栄養塩吸収に効果を与えるアーバスキュラー菌根は、一次遷移初期の貧栄養な場所に定着する植物に大きな影響を与えている可能性が考えられる。そこで本研究では、富士山の火山荒原に生育する草本植物に対するアーバスキュラー菌根の役割を明らかにするために、アーバスキュラー菌根形成の有無による効果をポット栽培実験により明らかにした。
宿主植物は、遷移初期に定着するタデ科のイタドリ(Polygonum cuspidatum)、イネ科のカリヤスモドキ(Miscanthus oligostachyus)、キク科のノコンギク(Aster ageratoides var. caespitosum)、マメ科のイワオウギ(Hedysarum vicioides)の4種を用いた。各宿主植物に対してアーバスキュラー菌根菌の有無(0と400 spore/pot)と栄養塩の異なる土壌(9と44 mgN/pot)の計4処理区で比較検討を行った。
イタドリ、カリヤスモドキおよびノコンギクの乾燥重量は、アーバスキュラー菌根菌の有無により変化は見られなかった。しかしながら、それら3種のアーバスキュラー菌根菌の感染率は、先駆性植物のイタドリが極めて低く(0-0.2%)、逆にその他2種の感染率の平均は25-36%と高く、3種間で感染率に差が見られた。一方、マメ科のイワオウギの乾燥重量は、アーバスキュラー菌根菌の感染により有意な増加が確認された。イワオウギは、土壌の栄養塩が増加するとアーバスキュラー菌根菌の感染率が急激に増加し、それと共に乾燥重量も増加した。以上の結果より、遷移初期に生育する4種の草本植物に対するアーバスキュラー菌根の効果は、種間により異なることが示唆された。
P2-163c: 里山地域における植物の種数、面積、群落多様性の関係 _-_関東の丘陵地における事例_-_
里山・里地と呼ばれる二次的自然の卓越する丘陵地は、植物の種多様性が高く、様々な植物群落が近接して存在している。丘陵地の小集水域を対象に、植物の種数、面積と群落多様性の関係を把握することを目的とした。
調査は多摩丘陵に位置する東京都町田市において、面積0.7_から_11.7haの13の小集水域で行った。各小集水域ごとにフロラ調査を行い、種数を算出した。植生調査の結果得られた植生調査資料(386資料)を用いて表操作により群落を識別し、出現種の常在度階級値を用いたDCA法により群落を序列化した。また、群落内の種数_-_面積関係の回帰式を求めた。現地調査と空中写真より現存植生図(1:2500)を作成し群落の面積を測定した。調査地の群落の多様性を表す指標として、群落数、IVD(植生多様指数;伊藤 1979)、DCA展開図上の群落間の平均ユークリッド距離(AED)、群落面積を基にした多様度指数(H’)、各群落の推定出現種数の最大値を各小集水域について算出し、これらの群落の多様性を表す指標と小集水域に出現する植物種数、及び小集水域面積間の相関関係を求めた。
調査地全域で、672種、45の植物群落が認められた。植物種数は植物群落数、IVD、AEDといった群落の数や組成の差を表す指標と有意な高い正の相関関係があった。過去の研究において種数を説明する際によく用いられてきた変数である“面積”は、群落数、IVDとは有意な相関関係があったが、種数とは有意な相関関係はなかった。群落数、IVDなどの指標が立地の多様性および&beta多様性を指標すると考えると、立地の多様性および&beta多様性が高く保たれると種の多様性が高く維持されると考えられた。植物群落の多様性が高く保たれる要因の1つとしては、農的利用に伴う管理の影響が考えられた。
P2-164c: Cubic Module Modelを用いた森林構造シミュレーション
森林生態系では多種の樹木が複雑な構造をつくりだしている。森林の構造において特徴的な点の一つとして、垂直方向の階層性が発達している点が挙げられる。階層構造は、多種共存機構の要因の一つであることが森林構造仮説(Kohyama 1993)として提唱されるなど、興味深い問題の一つである。本発表では、発表者らが開発した樹木モデルの一つであるCubic Module Modelを用いて森林の階層構造に関するシミュレーションを行った。
Cubic Module Modelは立方体をモジュール(繰り返し単位)とする仮想植物を用いたモデルシミュレーションである。仮想植物は葉キューブと枝キューブの2種類のキューブによって構成される。これらのキューブのうち、葉キューブのみが光合成を行なう。仮想植物は新たな葉キューブを生産することで成長するが、葉キューブは一定時間経過後に枝キューブに変化する。仮想植物は上方からの光を用いて光合成を行ない、この総量から呼吸量を減じた剰余の光合成産物を、新たなキューブの生産および繁殖に投資する。繁殖の際に親は子に対しキューブ生産の順序と位置の情報を伝達し、子は完全にこれに従ってキューブを生産し成長する。伝達の際に一定の確率で情報に誤りが生じる。
光合成能が単一の仮想植物によるシミュレーションを行ったところ、森林群落には一つの林冠層のみが形成され、階層性が発達しないことが示された。この傾向は、純光合成能が変化しても見られた。二種類の光合成能をもつ仮想植物によるシミュレーションを行ったが、光合成能の違いのみではこれら二種は共存し得なかった。これらの結果をもとに、森林の階層構造について議論を行う。
P2-165c: 特異的な植物群落 ゴマギ-ハンノキ群集の分布状況と立地特性
関東平野の河畔林を特徴づけるゴマギ_-_ハンノキ群集は、ムクノキ_-_エノキ群団に属すると言われ、草本層にチョウジソウやフジバカマ、ノウルシといった氾濫原特有の植物種が生育するとともに、ミドリシジミやオオムラサキなどの希少な生き物も生息する、貴重な植物群落である。しかし、このような河畔林の成立する立地は、もともと水田等に開発されやすく、現在では、主な定着場所と考えられる河川敷についてもその殆どがゴルフ場やグラウンド等に改変されているなど、その分布はますます限られたものとなっている。このような、生物の生息基盤である希少な植物群落の保全や再生を検討する際、どのような視点による対策が必要か、どのように情報を整理すればよいかについて、主に利根川水系をモデルとして検証を行った。
まず、新たな群落の成立する可能性のある「潜在立地」を抽出するために、環境省の自然環境保全基礎調査・植生調査の報告書等からムクノキ_-_エノキ群団に随伴する全ての植生タイプの凡例をリストアップし、大まかな空間分布図を作成した。次に、既存の現存群落の生育環境について現地調査及び文献をもとに類型区分を行い、地質図等既存電子データを用いて河川後背低地など、最も成立条件に適したエリアをオーバーレイ表示した。一方、著しく分断化した植物群落からは鳥散布等による健全な種子の到達が制限されることから、「潜在立地」としての新たな定着サイトは、現在の供給源から半径1kmのバッファの範囲内に限定されると仮定し、該当するエリアを抽出した。さらに、たとえ洪水散布等により種子が供給されたとしても、定着先の河川敷が大きく改変されていては新たに定着できないことから、DEMから発生させたコンタ_-_用いて洪水の到達する範囲を空間的に抽出し、「潜在立地」と組み合わせることにより河畔林の「再生候補地」とした。最後に、実際に現場調査を行うことにより群落の分布予測パラメータを検証し、予測の一致した場所については新たな種子供給源として機能するかについても診断した。
P2-166c: 森林における雑草の発生と人為的撹乱および土壌の性質との関係 -芦生研究林を例として-
近年のレクリエーション的な森林利用の増加に伴い、森林における自然植生の破壊が懸念されている。他方、撹乱依存性草本である雑草は人為的な諸行為により形成された開放地に発生し、かつ人為的撹乱のない場にはほとんど侵入しないため、森林の破壊程度の極めて有効な指標になり得ると考えられる。雑草の侵入の成功には、繁殖体の侵入と侵入地での定着が必要であり、撹乱と環境(とくに土壌環境)両方に影響されると推察される。本研究では撹乱の程度や種類の異なる場面について、発生雑草種、土壌の植物生長調節活性(生物検定)および化学性を調査し、雑草・土壌・撹乱の相互関係について整理し考察を行うことで、雑草を利用した森林の利用度診断の基礎資料を得ることを目的とした。
調査地点は京都大学芦生研究林(京都府北桑田郡美山町)内の車道(路肩・のり面)、林内、林内歩道および空き地計37点である。各調査地点の発生草本種を2003年6月および10月に調査し、土壌の化学性はpH、EC、総N、総C、NO3-を測定した。土壌の生物検定は、検定植物としてレタス、メヒシバ、スズメノカタビラ、コハコベ、オオバコ、シロツメクサ、セイヨウタンポポを用い、これらの種子を、各地点の土壌を詰めたポットに播種し1ヶ月間育成後堀上げ、乾物重を測定した。
各実験の結果、雑草種数は過去や現在の撹乱が多い場所で多く観察され、また、観察雑草種数と土壌の生物検定結果には正の相関がみられた。しかし検定結果は、場面別で有意な差はなく、撹乱程度は同じでも土壌の性質は地点で大きく異なっており、森林の樹種や土層による影響が考えられた。すなわち、通行などの利用の程度による森林の変化は観察雑草種数や土壌の生物検定からおおまかに予測することができるが、各地点ごとで、正確かつ早急に、森林の変化を読み取るには樹種や土層などの影響も要素に含めた、より多角的な解析が必要であると思われた。
P2-167c: 沖縄島北部の石灰岩地におけるイタジイ林-下層における主要種4種の分布と立地との関係
琉球列島では非石灰岩地にはボチョウジーイタジイ群団、石灰岩地にはナガミボチョウジーリュウキュウガキ群団が成立している。群団の組成には土壌要因が関わるとされる。また構造の違いにはイタジイ優占林分の成立の有無が影響を与えると考えられる。本研究では下層における上層木種の実生と下層木種の分布と、pHとの関係について解析を行い、組成と土壌との関係について考察する。またイタジイの生育段階ごとのpHからの影響を解析することでイタジイ優占林分の成立要因について検討する。沖縄島北部の石灰岩地においてイタジイ優占林分の成立している常緑広葉樹林に20m×80mの調査区を設置した。林内にはそれぞれの群団の標徴種がともに存在し、異なる植生がパッチ状に分布する。調査地のpHは4.3_から_7.7と大きく異なる。ナガミボチョウジ、リュウキュウガキ、ボチョウジ、イタジイの2m未満の個体を対象に樹長、根元直径、位置の測定を行った。下層木種であるナガミボチョウジの個体数はpHと正の、ボチョウジは負の相関があった。両種はpHによりすみわけていると考えられた。上層木種であるリュウキュウガキ、イタジイはpHとの相関が見られなかった。イタジイのサイズごとの分布と、pHの影響を見るために、樹長により3階級に分け、階級ごとの生育地のpH頻度分布と調査地のpH頻度分布との比較を行った(U検定)。小さな樹長階級はpHの低い立地に多く生育していたのに対し、大きな階級ではpHの影響が見られなかった。上層でのイタジイの分布を見ると10m未満の個体ではpHの影響が見られなかったが、10m以上の個体は低pH地に多く生育していた。イタジイ実生は、母樹の多く生育する低pH地で多く発生するが、その後の生育段階ではpHの影響は明らかではない。pHはサイズの大きなイタジイの生長に影響を与えることで、イタジイ優占林分の成立に関わっていると思われる。
P2-168c: 鳥散布型植物の種子散布と定着に及ぼす林縁の効果
はじめに
林縁は植物群落の発達に様々な効果をもたらすと考えられている。本研究は、混交する広葉樹の発達程度が異なるクロマツ人工林の林縁と林内それぞれにおいて、鳥類により散布される種子と林床植生を比較することによって、植生の遷移に及ぼす林縁の効果を明らかにする。
調査方法
調査は新潟県巻町の砂丘上に植栽された約80年生の海岸クロマツ林2林分で行った。広葉樹が亜高木層に達していない林分を未発達林、亜高木層に達している林分を発達林と定義し、それぞれの林縁と林内に調査区を設けた。これら4調査区それぞれにシードトラップを20個設置し、約2週間に一度捕捉された種子を回収し、種ごとに個数を数えた。また、シードトラップを含む5×5mの枠に出現した樹高2m以上の木本植物と、その中に設置した1×1mの枠に出現した高さ1m未満の植物名を記録した。なお、種子回収日において林分内で結実が確認された種以外の種子は、調査林外から散布されたものと定義した。
結果と考察
シードトラップに捕捉された鳥散布種子は林内より林縁で多く、未発達林より発達林で多かった。一方、出現した植物の種数には調査区による違いはなかった。しかし、種構成や出現頻度は異なっており、林分内で出現しなかった植物の種子は林縁でより多く散布されていた。以上の結果から、鳥類により散布された種子は、林縁に混交する広葉樹の影響を受けていることが明らかになった。したがって林縁に広葉樹が混交する林分は鳥散布植物の種子、特に林分内に結実していない種の種子を誘引していることが明らかになった。
P2-169c: 富士山亜高山帯林の発達過程
富士山北斜面の亜高山帯上部は一次遷移の過程にあり、森林限界付近は山頂方向に突き出した半島状の植生が見られる。これらは基質の安定性の違いや撹乱の影響の結果であると考えられる。北斜面の亜高山帯・高山帯の基質は主にスコリアであり、基質の移動が比較的大きく、森林の発達を妨げる要因の一つと考えられる。もう一つの主な要因として雪崩による森林の破壊が考えられる。富士山北斜面の亜高山帯では雪崩が多く、雪崩道上の森林は破壊され、裸地が形成されている。しかしながら、基質の安定性は植生の発達に伴って高まると考えられる。また、雪崩による撹乱は温暖化に伴う積雪量の減少によってその頻度と強度が減少する可能性が考えられる。これらを考慮したとき、亜高山帯林は発達していくと考えられる。我々は半島状植生を横断して裸地に達したトランセクトを設置し、当年生実生を除くトランセクト内に出現した全木本種の位置、樹高、胸高直径(地際径)、樹齢を測定した。本研究は半島状植生の拡大状況を把握し、そのメカニズムを推定することを目的とした。
カラマツ(Larix kaempferi)の成木は半島状植生の両側の林縁部で優占し、ダケカンバ(Betula ermanii)の成木は半島状植生の中心部で優占した。カラマツの稚樹・実生は半島状植生の両側の裸地で樹齢50年未満の個体が多く出現したが、林床にはあまり出現しなかった。ダケカンバの稚樹・実生は樹齢20年未満の個体が出現し、東側の裸地では多く出現したが、西側の裸地では稀であった。裸地において、この2種の平均成長速度(胸高直径/樹齢、樹高/樹齢)はダケカンバのほうが高かった。これらのことより、半島状植生は拡大している可能性があることがわかった。また、カラマツがダケカンバより先駆的な樹種であり、森林の拡大に伴って林縁部を形成していくことが示唆された。ダケカンバはカラマツの保護下で急速に成長し、森林の発達を助長する可能性が考えられる。