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[要旨集] ポスター発表: 動物植物相互作用
- P3-001: シカとササは樹木実生にどのように影響するか? (伊東, 日野, 高畑, 古澤, 上田)
- P3-002: シカとササが表層土壌の物理性と水分動態におよぼす影響 (古澤, 荒木, 日野, 伊東, 上田, 高畑)
- P3-003: 三者系における「植物の会話仮説」の数理モデルを用いた理論的考察 (小林)
- P3-004: ボクトウガ類の幼虫が樹液資源と樹液に集まる昆虫群集に及ぼす影響 (吉本, 西田)
- P3-005: 花色変化の有効性:人工花序を用いたポリネーション効率の検証 (工藤, 平林, 井田, 石井)
- P3-006: サトイモ科Homaromena propinquaの送粉システムにおける花香変動と送粉者への誘引効果 (熊野, 山岡)
- P3-007: 送粉共生系を指標とした草原生態系の評価とモニタリング (中野, 鷲谷)
- P3-008: 冬に山から里に下りるヒヨドリの事情 (山口)
- P3-009: ニホンジカの採食に対するイラクサの応答並びに刺毛形質の地域変異 (加藤, 石田, 佐藤)
- P3-010: 照葉樹林において鳥による種子散布の鍵種となるヒサカキの結実・散布特性 (小南, 真鍋)
- P3-011: 滋賀県湖東地域における果実と鳥の関係:平野と山地の比較を中心にして (浜田, 近, 野間)
- P3-012: 中型哺乳類の散布に依存するオオウラジロノキの種子発芽 (林田, 音喜多)
- P3-013: 秋田駒ケ岳における落葉広葉樹林の展葉フェノロジーとイヌワシの繁殖との関係 (阿部, 竹内, 松木, 石井, 梨本)
- P3-014: 住宅地域空地における開花植物と送粉昆虫の関係 (清水, 浦山, 堀)
- P3-015: 鳥散布種子を集める:森林内での疑似果実の効果 (八木橋, 安田)
- P3-016: 穿孔性が及ぼす間接効果とその強度の違い (内海, 大串)
- P3-017: トビイロシワアリが巣に運び込むコニシキソウ種子は食料ではない? (大西, 西森, 鈴木, 片山, 寺西)
- P3-018: タイの熱帯季節林における果食性動物と果実形態との関係 (鈴木, 北村, 近, 野間, 湯本, Poonswad, Suckasam)
- P3-019: アカネズミのタンニン代謝においてタンナーゼ産生腸内細菌が果たす役割 (島田, 齊藤, 大澤, 佐々木)
- P3-020: カシワ・ミズナラ・種間雑種での潜葉性昆虫相と外食性被食率の比較 (石田, 服部, 木村)
- P3-021: 移入種アオモジの分布域における種子散布 (中村)
- P3-022: ムネアブラムシ族の種分化 (遠坂)
- P3-023c: 極端な表現型の共進化 ‐平衡から軍拡競争への地理クライン‐ (東樹, 曽田)
- P3-024c: 堅果類の生産量の年次変動が金華山島のニホンザルの行動圏利用に及ぼす影響 (辻, 高槻)
- P3-025c: ギフチョウが利用しやすいコシノカンアオイの分布様式 (畑田, 松本)
- P3-026c: 植物はアブラムシの甘露をコントロールできるか (David, 大串 隆之)
- P3-027c: オオバギボウシの花粉媒介における密度依存性とそのメカニズム (国武, 宮下, 樋口)
- P3-028c: ツキノワグマの樹上における採食に関する研究 (辻田, 高柳)
- P3-029c: アミ-付着藻類-海草の間接効果 (長谷川, 向井)
- P3-030c: コナラ属稚樹の個葉特性に及ぼす食害と土壌養分の影響 (水町, 秋山, 徳地, 大澤)
- P3-031c: ツチカメムシによるカスミザクラ種子の吸汁とその後の腐敗プロセス (中村, 林田, 窪野)
- P3-032c: 河畔樹木の窒素安定同位体比と水質からみた遡上サケによる栄養添加の検証 (長坂, 長坂)
- P3-033c: インドネシア産オオタニワタリに堆積するリター中の土壌群集構造 (平田, Erniwati , 甲山, 東)
- P3-034c: 特定の植物に依存する腐食性昆虫ー腺毛に付着した昆虫を摂食するカスミカメムシー (杉浦)
- P3-035c: 地球温暖化が琵琶湖生態系に与えた影響:過去100年の動植物プランクトンからの検証 (槻木(加), 石田, 小田, 占部)
- P3-036c: ()
- P3-037c: 河川付着藻類マットにおよぼす,グレイジングインパクトの評価 (片野, 大石)
- P3-038c: 高密度のヤクシカは照葉樹林の構造を変化させていないのか? -屋久島西部地域10年間の推移- (日野, 揚妻)
- P3-039c: カンアオイ属4種の送粉様式 (藤田, 藤山)
- P3-040c: 開放花・閉鎖花を同時につけるホトケノザ種子の表面成分とアリによる種子散布行動 (寺西, 藤原, 白神, 北條, 山岡, 鈴木, 湯本)
- P3-041c: ツクバネウツギの結実率にクマバチの盗蜜は影響を及ぼすのか? (増井, 香川, 遠藤)
P3-001: シカとササは樹木実生にどのように影響するか?
奈良県大台ヶ原において野外実験をおこない、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサの3つの要因が、樹木実生の生存に対してどのような影響を及ぼしているのかを評価した。1996年に、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサのそれぞれの除去/対照の組み合わせによる8とおりの処理区を設定し、その中に発生してきた、ウラジロモミ(1997年、2002年に発生)、アオダモ(1998年、2002年)、ブナ(1999年)の5つのコホートについて、マーキングして生存状況を追跡した。この結果を元に、それぞれのコホートの実生の生存時間について各処理の間で差があるかどうかをログランク検定により検定した。
その結果、(1)すべてのコホートに共通して、シカ除去処理区におけるミヤコザサが生存時間に対して負の影響を及ぼしていることがわかった。また、(2)2002年のウラジロモミを除くコホートでは、ササ除去区において、シカが負の影響を及ぼしていた。一方、(3)アオダモ(1998年、2002年)およびウラジロモミ(2002年)の3つのコホートに対しては、シカの影響は、ササ残存区においては正の効果をもたらしていた。
シカ除去処理をおこない、ミヤコザサを残存させた処理区では、ミヤコザサが急速に回復して林床を覆うようになった。(1)の効果は、このためであると考えられる。大台ヶ原のニホンジカは、ミヤコザサを主要な食料としており、ミヤコザサを減少させる要因である。(2)のように、ニホンジカは直接的には実生に対して負の効果をもたらすことがあるが、(3)のように、ミヤコザサを減少させることにより間接的に正の効果を及ぼすこともあることがわかった。
ネズミ類除去処理については、顕著な効果は認められなかった。
P3-002: シカとササが表層土壌の物理性と水分動態におよぼす影響
ニホンジカが高密度で生息する大台ヶ原の針広混交林において1997年5月にシカの排除の有無と毎年のササ刈りの有無を組み合わせた4つの処理区を設置し、シカとササが土壌の物理性と水分状態に与える影響を検討した。1997年5月と処理開始4.5年後の2001年10月に表層土壌(0-5cm)の孔隙解析を行うとともに、2001年6月-10月に表層土壌(6cm深さ)の水分状態を測定した。また、1997年5月-2003年10月の毎年春と秋にリター層を含めた地表面の土壌硬度を山中式硬度計で測定した。
土壌6cm深のマトリック・ポテンシャルは4つの処理区のうちシカ排除・非ササ刈り区において最も低くなる傾向が認められた。これは、この区のササの地上部現存量の増加にともないササによる水分吸収が増加したためと考えられた。処理開始4.5年後の2001年10月の孔隙組成を初期値(1997年5月)と比較すると、対照区では孔隙組成の変化は認められなかったのに対し、シカを排除した2つの区では初期値に比べて粗孔隙(0から-49.8kPaに相当)の増加と細孔隙(-49.8kPa以下)の減少が認められた。シカの踏圧の排除やササの増加が粗孔隙を増加させたと考えられた。対照的に非シカ排除・ササ刈り区では粗孔隙の減少と細孔隙の増加が認められた。この区ではササの地上部現存量が最も小さく、ササによる雨滴衝撃を弱める効果が減少したために粗孔隙が潰れて細孔隙が増加したと考えられた。シカ排除・非ササ刈り区における地表面の土壌硬度は、2000年9月以降にはおよそ8mm前後で、他の3区の値(10mm-14mm)より小さくなった。地表面の土壌硬度の低下にはリター層の物理性が影響していると考えられた。
P3-003: 三者系における「植物の会話仮説」の数理モデルを用いた理論的考察
植物は、植食性節足動物に食害を受けると、しばしばSOSシグナルと呼ばれる揮発性物質を放出する。このSOSシグナルは、植食者の天敵を誘引し、天敵は植食者を退治する。つまり、SOSシグナルを介して、植物と天敵の間に互恵的関係が成り立っている。近年の研究から、未加害の植物がこのSOSシグナルにさらされると、自身もまたシグナル物質を放出するようになることが明らかになった。シグナル物質の生産に何らかのコストがかかるとすれば、このような形質の適応的意義はそれほど明らかではない。著者は、このようないわゆる「立ち聞き」の適応的意義について考察し、三つの仮説を立て、数理モデル化した。そのうち、第一の仮説「被食前駆除仮説」については、既に発表済みである。今回は、第二、第三の仮説について考察する。
第二の仮説「被食前防御仮説」によれば、「立ち聞き」による二次的なシグナルは、前もって天敵を呼び寄せておくことにより、将来の食害の危険を軽減するための戦略である。著者は、ゲーム理論的なモデルを構築して、このような機能をもったシグナルが進化的に安定になる条件を調べた。
一方、第三の仮説「血縁選択仮説」によれば、「立ち聞き」による二次シグナルは、近隣の血縁個体を助けることにより自身の包括適応度を上げるための戦略である。もし隣り合った個体が同時にシグナルを出すことによりシグナルの天敵誘引能を向上することができ、かつ隣り合った個体同士が互いに遺伝的に近縁ならば、このような戦略が進化しうるだろう。各格子がパッチになっているような格子状モデルを用いてこのような「立ち聞き」戦略が有利になる条件を調べた。
本発表では、これらの数理モデルの結果を報告し、仮説間の関係についても議論する。
P3-004: ボクトウガ類の幼虫が樹液資源と樹液に集まる昆虫群集に及ぼす影響
広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科Cossidaeの幼虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではないかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。
2002年には全パッチ(滲出部位)の約61%で、2003年には約36%で、幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れが見られた。また、2002年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種によってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあるパッチの方で顕著に多くなっていた。
以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになった。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対する依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないかと予想された。
P3-005: 花色変化の有効性:人工花序を用いたポリネーション効率の検証
ポリネーターの訪花頻度と各訪問時の連続訪花数は、植物の送粉成功に大きく影響する。開花数の増大はポリネーターの誘引を高めるが、連続訪花数を増加させてしまうかも知れない。植物の開花戦略として、ポリネーション機能(花粉の送受粉)がなくなった花弁をすぐに落とす(type-1) 、報酬(蜜分泌)をなくして保持する(type-2) 、報酬を維持して保持する(type-3)、そして報酬をなくし、かつその情報をポリネーターに告知する(報酬のない花の色を変える: type-4)などの方法が考えられる。このうち、花色変化は、遠方からの誘引能力を維持しつつ、訪れたポリネーターを効率的に訪花させる巧妙なメカニズムと考えられ、多くの植物で報告されている。しかし、その相対的な効果については十分な検証がなされていない。我々は人工花序を用いた実験により、花色変化の効果について検証を試みた。
実験1)単一花序の場合:花序への訪花頻度はtype-1で低く、花序内連続訪花数はtype-3で大きかった。機能を終えた花への訪花数はtype-4で小さかった。
実験2)複数花序の場合:ポリネーターの訪花頻度はtype間で大差なかった。個体内連続訪花数はtype-2と3で大きく、type-1と4で小さかった。
花色変化がポリネーターへ及ぼす相対的効果は、ディスプレイサイズ(個体あたりの開花数)により変化した。ディスプレイサイズが小さい場合、機能を終えた花の維持は、個体へのポリネーター誘引に寄与した。花色変化は連続訪花数に影響しなかったが、機能を終えた花への訪花を防ぐ効果があった。一方で大きなディスプレイサイズを持つ場合、機能を終えた花の維持はポリネーターの誘引には寄与せず、訪問あたりの連続訪花数の増加をもたらした。しかし、花色変化することにより連続訪花数は減少し、送粉効率を高めるように作用していた。
P3-006: サトイモ科Homaromena propinquaの送粉システムにおける花香変動と送粉者への誘引効果
東マレーシアボルネオ島に自生するサトイモ科Homaromena propinquaは雌性先熟で午前中に特徴的な匂いを放出し送粉者であるヨツバコガネ(Parastasia bimaculata Guerin) とハムシ(Dercetina sp.)を誘引する。一般に甲虫送粉のサトイモ科植物では雌性期に肉穂花序の先端が一時的に発熱し、同時に多くの送粉者が雌性期の花序を訪花すると報告されているが、このような訪花行動を形成する要因として送粉者を誘引する花香の質的、量的変動が影響しているのではないかと推測できる。そこで本研究ではH.propinquaとその甲虫送粉者2種を用い、送粉者の訪花行動と花香変動の関連性を調べた。
調査の結果、2種の送粉者とも肉穂花序が発熱している時間帯の7:00から8:30に多く訪花しているものの、雌性期、雄性期1日目、雄性期2日目の平均訪花数を見ると、ヨツバコガネは雌性期の花序に多く訪花しその後減少していくのに対し、ハムシはどの性ステージの花序にも同様に訪花していた。またGCおよびGC-MSによる花香分析の結果、全花香量は雌性期、雄性期1日目の7:00-8:00の間に最も増加する傾向が見られた。さらに花香の主要3成分に関して試薬を用い送粉者の誘引実験を行ったところ、ヨツバコガネは2-Butanol+1,2-Dimethoxybenzene 5:1の混合溶液に、ハムシは1,2-Dimethoxybenzeneに誘引された。この2成分の量変化を性ステージごとに見てみると、2-Butanol量は雌性期から雄性期にかけて段階的に減少していたのに対し、1,2-Dimethoxybenzeneは有意な量変化は見られなかった。この結果は各性ステージにおける送粉者の平均訪花数と一致していたことから、誘引成分の量変動が送粉者の訪花行動に影響を与えている可能性が示唆された。
P3-007: 送粉共生系を指標とした草原生態系の評価とモニタリング
前大会の発表において私たちは、送粉共生系における虫媒花植物と送粉者との関係を群集レベルで評価するための指数(送粉有効性指数)と評価手法を提案した。今回はその手法のモニタリングへの具体的適用例として、2ヶ所の草原管理地で収集した植物の開花と昆虫の訪花に関するデータを解析した結果について発表する。
北海道日高地方の二次的草原では、優占するミヤコザサに対する草刈り強度の異なる隣接する3つのエリア(草刈り強度:強・中・弱)を比較することで、草原生態系の管理手法の評価を試みた。その結果、草刈り強度が強い草原では数種の外来種が優占することによって送粉共生系が単調になり、また強度が弱い草原ではミヤコザサが優占することによって系が貧弱となることが明らかとなった。強度が中程度の草原で最も虫媒花の植物の多様性が高まり、開花期を通して豊かな送粉共生系が認められた。
もう一方の長野県軽井沢町のカラマツ林伐採跡地に成立した草原では、木本の伐採によって管理する谷地を3年間にわたってモニタリングし、管理手法の提案を試みた。その結果、春期のマルハナバチ媒花の減少とそれに伴うマルハナバチ類の訪花の消失が認められたため、マルハナバチ媒花を増やす試みが必要であること、また、外来種に有効な送粉が配分されることを防ぐために、外来種に対する徹底した抜き取り管理が必要であることなどが示唆された。
P3-008: 冬に山から里に下りるヒヨドリの事情
冬になると関東以西ではヒヨドリの個体数が増えるが、それは山から里へという中距離(南北30km)の移動のみでは説明できないことを第50回生態学会大会で報告した。今回はヒヨドリの個体数とヒヨドリの主要な食物である液果の量の関係を調査したので報告する。
筑波山頂から農林研究団地までの南北30kmの間に8ヶ所の調査地を設け、2001年10月から2002年4月までの期間、月2回の頻度で調査した。ヒヨドリの個体数はラインセンサス法により調査した。液果数は4ヶ所(筑波大学、研究団地、谷田川、桜川)は調査地内全ての液果の総数を数え、残りの4ヶ所(薬王院、薬・登山道、女・登山道、男体山研究路)は、高木相は調査範囲内、低木相はラインの両側5mの範囲を調査し、そこから総数を推定した。
調査地8ヶ所を比較すると、山の調査地では中腹から山頂にかけては他の調査地と比べて液果数が少なかった。またヒヨドリ個体数も少なく10月前半をピークに12月後半にかけて減少していった。液果がほとんどなくなった1月から3月にかけては少数のヒヨドリがいるのみであった。一方、里の調査地である筑波大学、研究団地の2ヶ所は植栽木が多いため、他の調査地よりはるかに多くの液果量であり、11月前半より12月後半にかけて著しいピークを持つという特徴がみられた。ヒヨドリ個体数も10月後半から12月後半まで高い状態を維持していた。里の調査地でも谷田川では液果はムクノキ、エノキが多く、10月前半から12月後半にかけて急激に減少した。ヒヨドリ個体数も同様のパターンを示した。
このようにヒヨドリの個体数は液果の量と非常に密接に関係しており、冬の早い時期に液果が消失する山では秋に渡ってきたヒヨドリはそのまま越冬できず、液果の減少に伴い液果が残っている里へと移動していくことが考えられた。
P3-009: ニホンジカの採食に対するイラクサの応答並びに刺毛形質の地域変異
演者らはイラクサの刺毛形質についてこれまで研究し、奈良公園の個体群は他地域の個体群よりも刺毛密度が高く、刺毛数も多いことを明らかにした。今回は、シカの被食をコントロールする野外実験と栽培実験を行った。1)野外実験:2003年2月_から_9月まで、奈良公園内に調査区を設けた。調査区内に金網柵を4個設置し、各金網柵ごとに対照区を1つ設定した。金網柵と対照区にはイラクサ4_から_5個体含むようにした。実験終了後、葉の外部形質、草丈、地上部と地下部の乾重を測定した。この実験により、葉面積は金網柵と比べて対照区の方が小さく、刺毛数も対照区の方が少なかった。一方、刺毛密度は上部葉・中間葉は下部葉よりも高くなる傾向がみられたが、金網柵と対照区の差は有意ではなかった。以上の結果は刺毛密度についてはシカの採食の影響が小さいことを示している。また、草丈は対照区は金網柵に比べて小さく、地下部及び地上部の乾重は、金網柵と比べ両者とも少なかった。2)栽培実験:奈良公園とシカが生息していない桜井市穴師の種子を用いて、ガラス室内で2003年5月_から_11月まで栽培を行った。これから、奈良公園の方が桜井市穴師よりも、刺毛数は多く、刺毛密度は高いことが明らかになった。また、葉の位置によってもこれらの形質に違いが認められた。葉の下面の刺毛長も奈良公園の方が長かった。この結果から、この2地域の刺毛形質の違いは遺伝的に固定されていると推定される。以上の野外実験と栽培実験により、シカによる採食が、自然選択を通してイラクサの刺毛数と刺毛密度を増加させていると推定される。一方、シカの採食は短期的には刺毛数を減少させるが、刺毛密度に及ぼす影響は比較的小さいといえる。
P3-010: 照葉樹林において鳥による種子散布の鍵種となるヒサカキの結実・散布特性
ヒサカキは照葉樹林に広くみられる樹種であり,その果実が多様な鳥種に採食・散布されることから,その散布特性が多くの鳥散布性植物の散布時期・量に影響する可能性がある。ヒサカキが成熟果をつける時期は初秋から冬にかけてであり,鳥に採食・散布される時期も長期にわたる。この季節性は,散布者側の密度や選好性,植物側の果実特性や個体差によって生じると想定される。
本研究では,ヒサカキ果実の消失速度と様々な特性(幹高,株高,果実位置,林縁からの距離,成熟速度)との関係を解析し,消失速度の個体差をもたらす要因を明らかにすることを目的とした。
調査を行なった熊本市立田山の二次林では,10月以降にヒヨドリやツグミ類などの果実食鳥が増加し,ヒサカキ果実は10月_から_11月に急速に消失した。この消失速度には個体差がみられ,速い個体では10月中にほとんどの果実が消失したが,遅い個体では11月下旬でも90_%_以上の果実が残存していた。このような消失速度の違いと最も強く関係したのは果実が成熟する速度であった。また,果実がついている高さや林縁からの距離も関係することが示唆された。
今回の結果からは,消失速度の個体差をもたらす要因としては散布者側よりも植物側のほうに強い要因があること,特に成熟速度に影響する要因が最も大きな影響をもつことを示した。ヒサカキの果実は成熟してもすぐには落下しないが,果実食鳥が多い場合には本研究の例のように急速に消費される。成熟速度にみられる大きな個体差は,果実食鳥による需要が大きい場合でも種子散布の期間を長くするように作用すると考えられる。
P3-011: 滋賀県湖東地域における果実と鳥の関係:平野と山地の比較を中心にして
滋賀県湖東地域における山地から平野までの林で鳥散布型植物の果実フェノロジーと果実食鳥類の個体数の季節変動について明らかにすることを目的として調査を行った。滋賀県彦根市の平野の犬上川下流域(標高90m)、佐和山(120-200m)、多賀町霊仙山ふもとの山地の今畑(350-600m)を調査地とした。各調査地で2km×50mの調査区を設け、2003年5月から調査を行った。果実については約1週間間隔で結実個体の果実数を計測し、範囲内の果実量を推定した。また、種ごとに熟した果実の形態を測定した。鳥類については約1_から_2週間間隔でロードサイドセンサス法を用いて出現種数および出現個体数を記録した。その結果、平野と山地の両方で秋から冬にかけて鳥散布型植物の果実量は増加したが、山地では平野よりも約1ヶ月はやく果実量の増加がみられた。減少の時期も山地のほうが平野よりもはやかった。果実食鳥類の個体数変動はこのような平野と山地との間でみられる果実量の変化と対応していた。果実食鳥類は秋以降に冬鳥として渡ってくるものが多く、各調査地でその個体数が増加した。特にヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis)は留鳥の個体もいたが、秋以降に渡ってくる個体が多かった。また、ムクドリ(Sturnus cineraceus)は平野でのみ季節を通して確認され、その個体数は多かった。秋以降に熟した果実は平野よりも山地ではやく減少した。群集の果実サイズおよび果実色については平野と山地で差はなかった。本調査地では、ヒヨドリは山地と平野の両方で、ムクドリは平野でのみ重要な果実食鳥類である。ヒヨドリをはじめとする秋以降に渡ってくる果実食鳥類は、まず果実量の増加する時期がはやい山地で増加する。そして平野でも果実量の増加する頃に果実食鳥類は最も多くなる。このように果実の熟期は秋以降山地から平野へと進み、果実食鳥類は果実フェノロジーと対応するように個体数の増減を示した。しかしヒヨドリのように山地でも平野でもみられる種もいれば、ムクドリのように開けた環境を好み平野内のみでみられる種もいるなど、種によって果実の採食環境は異なっていた。
P3-012: 中型哺乳類の散布に依存するオオウラジロノキの種子発芽
オオウラジロノキはリンゴ属の落葉高木で、球形の果実は径約2cmと大きく果肉も硬いため、ヒヨドリなどの果実食の鳥によって種子が散布されているとは考えにくく、母樹下に果実が自然落下した後に哺乳動物に食べられて種子が散布されていると予測される。また、落下した果実は容易に自然分解できないと考えられることから、被食散布された場合と果実のままで自然落下した場合では種子の発芽に大きな違いがあることも予測される。そこで、オオウラジロノキにおける動物散布の意義を明らかにすることを目的として、種子散布者の特定調査と発芽実験を行った。
2001年と2002年にオオウラジロノキ母樹下に落下した果実は両年ともに翌年の春までにはすべて消失した。その間に赤外線センサー付カメラで撮影された動物は9種で、テン、ハクビシン、タヌキ、キツネの中型哺乳動物4種が散布者であると推察される。恒温恒湿器の発芽実験では、被食散布された種子を想定して人為的に果肉を除去した種子の50_%_が発芽したが、果実のままではまったく発芽が見られず、果実中の種子はすべて死亡していた。苗畑の発芽実験では、種子の多くが播種した翌春に発芽したが、果実では翌春には発芽せず、翌々春に1個体発芽しただけであった。母樹樹冠下に落下した果実は、翌春の発芽時期になっても果肉の大部分が残っていて、その後10月までには果肉はほぼ分解したが、果実中に含まれている種子はすべて死亡していた。
以上のことから、オオウラジロノキの種子は落下した果実のままでは発芽できずにほとんど死亡してしまい、果実が中型哺乳動物に食べられて種子散布されることで、種子の発芽が可能になると推察される。
P3-013: 秋田駒ケ岳における落葉広葉樹林の展葉フェノロジーとイヌワシの繁殖との関係
演者らは、秋田駒ケ岳周辺のイヌワシペアについて、食物連鎖の観点から研究を進めてきた。これまでの研究によって、当地域のイヌワシの主要な餌動物がノウサギであることが明らかにされた。イヌワシによるノウサギの捕食は林木の展葉に影響を受けるため(白木ら 2001)、行動圏内を広く占める落葉広葉樹林の展葉は、イヌワシとノウサギの捕食被食関係を通じて、地域の食物連鎖関係に何らかの影響を及ぼしているものと推察される。そこで本研究では、イヌワシ行動圏における落葉広葉樹林の林冠の展葉状況を全天写真により定量化し、積算温度によってモデル化することによりイヌワシの繁殖との関係を解析した。
繁殖期の行動圏における主要な落葉樹高木林はブナ林、ミズナラ林、コナラ林であるが、ミズナラ、コナラの開葉は同じ標高のブナよりもかなり遅れていた。そこで、ブナ林とミズナラ・コナラ林とで別々に展葉モデルを作成した。5℃以上の積算温度を変数とした場合、それぞれの展葉はロジスティック式によってモデル化できることが分かった(r2≧0.9)。そこで、このモデル式をGISのDEMデータとリンクさせることによって、繁殖期の行動圏全体における落葉広葉樹林の展葉状況(全展葉率)を、3月から8月までの日ごとに計算した。
2003年において、ヒナの孵化から巣立ちまでの期間を育雛期間とし、温度と全展葉率を説明要因としたロジスティック回帰を行なった結果、育雛スケジュールはこの2つの要因で説明できることが示唆された。これらの関係が他年度にも同様に当てはまると仮定し、2002年度の育雛適期(全展葉率と気温から繁殖に適していると考えられる日数)を計算したところ、2003年よりも大幅に低下していることが明らかとなった。2002年は巣に運ばれた餌量が少なく、イヌワシの繁殖が失敗しており(竹内ら 2003)、春先に温度が急激に上昇し展葉が一気に進んだことが餌搬入量の減少につながったことが伺えた。
以上の結果より、落葉広葉樹林の展葉は上位捕食者の餌捕獲効率を通じて、食物連鎖関係に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
P3-014: 住宅地域空地における開花植物と送粉昆虫の関係
都市及び都市近郊域には空地、放棄畑、放棄水田が存在し、季節ごとに多様な植物の開花が見られる。それらの場所での開花植物は訪花昆虫の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究はそのような場所での開花フェノロジーと送粉昆虫の関係を調査し、都市近郊域の空地に生育する開花植物の訪花昆虫に対する役割を考察した。
調査地は水戸市の約20年前までは住宅地であった場所を更地にし、その後毎年秋に刈り取り、持ち出しを行っている約2,000m2の代償植生である。2003年4月から12月に、約1週間に1回、晴天日の午前中の約3時間に、イネ科植物を除く開花植物の種名と訪花昆虫の調査を行った。調査は毎回2-3人で行い、調査地内を巡回し、昆虫を採集した。
調査期間中に21科51種の植物が開花した。開花植物数は春に多く、季節が進むに従って減少した。採集された訪花昆虫はハチ目(43%)、ハエ目(27%)、コウチュウ目(13%)、カメムシ目(10%)、チョウ目(7%)の5目であった。ハチ目の約70%はハナバチ類であった。季節を通して開花している在来植物と帰化植物の種数の割合はほぼ一定であったが、帰化植物への訪花昆虫が著しく多かった。訪花昆虫の多い植物は、分類群(目)によりやや異なったが、4月はセイヨウタンポポ、5月はハルジオン、シロツメクサ、セイヨウタンポポ、6月はシロツメクサ、セイヨウタンポポ、7月はオカトラノオ、ヒメジョン、8月はヒメジョン、ヤブカラシ9月はヤブカラシ、10月と11月はセイタカアワダチソウであり、季節を通して帰化植物が訪花昆虫の餌源に重要な役割を果たした。特に、早春から初夏(セイヨウタンポポ、シロツメクサ、ハルジオン)と秋(セイタカアワダチソウ)は帰化植物のみが昆虫の餌源であった。なお、オカトラノオは周辺地域には見られず、住宅地当時に植栽されたものと考えられる。
P3-015: 鳥散布種子を集める:森林内での疑似果実の効果
鳥散布種子の散布距離推定や遺伝解析による親木の推定などを行う際に,鳥類によって散布された種子を回収する必要がある。しかし,通常の種子トラップでは鳥散布種子の回収率は低く,多数のサンプルを集めるには効率が悪い。本研究では,道路法面で効果が報告されている,疑似果実を用いた鳥散布種子の回収率の向上法が,森林内でも有効であるのかを検討した。
茨城県北部の広葉樹天然林(小川植物群落保護林)の林床において,疑似果実付き止まり木と種子トラップをセットにしたものと,通常の種子トラップのみのものを1対にして設置し,疑似果実による鳥類の誘因効果を検証した。トラップは2003年5月上旬に,谷筋に40 m間隔で5個1列と尾根に5個1列を設置し,9月に谷を挟んだ反対側の尾根に5個1列を増設した.疑似果実には赤と黒の色付きガラスビーズを用い,トラップの内容物は2から4週毎に回収した。
秋期や冬期には疑似果実付きトラップの方が,通常の種子トラップよりも回収された種子が多く,疑似果実の誘因効果が認められた。秋期にはおもにミズキなどの液果が,冬期にはツタウルシなどの乾果が多かった。夏期には誘因効果が見られなかった。これは,調査地の2003年の夏期の結実量自体が非常に少なかったことや,夏期には昆虫などのえさ資源が豊富で鳥類による果実の利用が少ないことなどが原因として考えられるが,明らかでない。
効果が認められたため,疑似果実付きトラップを広葉樹天然林の周辺にある,針葉樹人工林内に帯状に残された広葉樹保残帯に10個設置し,分断化した森林で鳥散布による種子の種構成や量が,連続した広葉樹天然林と異なるのかについてを予備的に検討した。保残帯では,秋期になっても種子の回収が少なく,ほとんどが冬期に回収された。また,ミズキなどの高木類の割合が少なく,ヤドリギ,ツルウメモドキ,ヤマブドウ,アケビなどが回収された。
P3-016: 穿孔性が及ぼす間接効果とその強度の違い
We investigated the indirect effects of the stem-boring insect Endoclyta excrescens on two insect herbivores on three willow species, Salix gilgiana, S. eriocarpa, and S. serissaefolia.
When the branches were damaged by the stem-boring insect, the willows were stimulated to vigorously produce lateral shoots. This enhanced lateral shoot growth was also found after physical damage by artificial boring. Newly-emerged lateral shoots were longer and upper leaves had a higher water and nitrogen content.
Larvae and adults of the leaf beetle Plagiodera versicolora were significantly more abundant on lateral shoots than on current-year shoots. Similarly the density of the aphid Chaitophorus saliniger was significantly higher on lateral shoots than on current-year shoots. Although densities of the two insect species on current-year shoots did not differ among willow species, we found significant differences in densities on lateral shoots among willow species.
The stem-boring insect positively affected the aphids and the leaf beetles by producing new food resources as a result of the resprouting responses of the three willow species. However the intensity of the positive effects caused by the stem-boring insect was different among the three willow species because of different regrowth responses to boring damage.
P3-017: トビイロシワアリが巣に運び込むコニシキソウ種子は食料ではない?
アリによる種子散布の研究では、種子にエライオソームをつける典型的なアリ散布植物を扱ったものが多く、エライオソームをつけない種子をアリが運搬する収穫アリ型種子散布についてはあまり研究されていない。植物が食害等の損失を伴う収穫アリ型種子散布では、巣内への種子搬入、巣外への種子搬出、種子の食害率などの散布者の行動特性が特に重要になってくると思われるが、これらの行動に注目した研究はほとんど行われてきていない。本研究では、トビイロシワアリによるコニシキソウ種子の運搬行動を調査し、トビイロシワアリにとってのコニシキソウ種子の運搬行動の意義を考察した。
収穫アリ型種子散布では一般に、アリに運搬された種子の大部分は食害され、無傷で発芽が可能な種子はほとんど残らない。しかし、トビイロシワアリはコニシキソウの種子を巣内に搬入したが、搬入した種子の約半数を再び巣外に搬出した。巣内に残っていた種子は食害されておらず、巣外に搬出された種子の食害率も低かった(約10_%_)。飢餓状態のトビイロシワアリならば種子を食害するかもしれないので、絶食が種子の運命におよぼす影響を調べてみたが、飢餓状態でもほとんど種子を食害しなかった。さらに、コニシキソウ種子と典型的な食料としていたアワの種子に対するトビイロシワアリの行動を比較した。その結果、巣内に搬入されたアワの種子は巣外に搬出されることはなく、幼虫がいる場所の近辺に置かれる傾向が見られ、ほぼすべてが食害されていた。それに対してコニシキソウの種子では、搬入された種子の約半数が巣外へ再び搬出され、巣内に残った種子が置かれる場所に特定の傾向はなく、食害率も低かった。
これらの実験結果より、トビイロシワアリはコニシキソウ種子を運搬するが、食料とみなしていない可能性が示唆され、結果的にトビイロシワアリは他の収穫アリ型種子散布より効率良くコニシキソウ種子を散布していると考えられた。
P3-018: タイの熱帯季節林における果食性動物と果実形態との関係
果実の色や大きさは、果食性動物の餌の好みを決めるためや、果食性動物社会を構成する上で重要な要因である。タイ・カオヤイ国立公園の熱帯季節林では、主にこれまで直接観察による樹上での昼行性の果食性動物の果実利用パターンが調査されてきた。しかし、林床での動物による果実消費は、種子捕食・種子散布の面で森林更新に重要な役割を果たすと考えられているが、特に夜間で、不明のままだった。そこで、林床における果食性動物の果実利用の特徴を明らかにするために様々な樹種の果実を対象に自動撮影を行い、果食性動物と果実の形態との関係について解析した。
調査は2000年7月から2002年6月にかけて、29科69種の果実を対象に写真撮影を行った。調査では、母樹から集めた果実を同じ母樹下の林床に置いてカメラを設置した。1回の撮影期間は少なくとも5日間だった。
撮影された哺乳類30種、鳥類17種、爬虫類1種のうち、哺乳類16種、鳥類8種が57種の果実を利用した。1種の果実を利用した動物種は1から9種の範囲だった。動物によって利用された果実の種数は1種から33種まで様々であった。アカスンダトゲネズミやブタオザルが最も一般的な果実利用者であり、特定の果実との間の密接な関係は見られなかった。地上性の小型齧歯類間やホエジカとサンバーといったように系統発生的に近いグループは似通った果実を好むことが示された。しかし小型のマライシロハラネズミのみは果実サイズの小さなイチジク属3種やトウダイグサ科Macaranga giganteaの果実を選択的に利用している傾向が示唆された。また林床で採食するセキショクヤケイやシマハッカンのような鳥類は果肉部の柔らかいイチジクやグミ科Elaeagnus latifoliaを主に利用した。一方、果実の色は、地上性の果食性動物の果実選択の上では、あまり重要ではないと考えられた。
P3-019: アカネズミのタンニン代謝においてタンナーゼ産生腸内細菌が果たす役割
ミズナラなどの一部の堅果には,タンニンが乾重比にして10%近くの高濃度で含まれている.タンニンは,植物体に広く含まれる植食者に対する防御物質であり,消化管への損傷や消化阻害作用を引き起こすことが知られている.演者らは,ミズナラ堅果を供餌したアカネズミApodemus speciosusが,著しく体重を減らし,高い死亡率を示すことを既に報告している.その一方で,アカネズミは秋季には堅果を集中的に利用することが知られているため,野外ではタンニンを無害化する何らかのメカニズムを有しているものと予測される.
コアラなどの一部の哺乳類の腸内には,加水分解型タンニンを特異的に分解するタンナーゼ産生細菌が存在し,タンニンを代謝する上で重要な働きを持つことが報告されている. そこで,演者らは,アカネズミ消化管内にタンナーゼ産生細菌が存在するかどうか,存在するとしたらどの程度の効果を持つのかを検討した.
タンニン酸処理を施したブレインハートインフュージョン培地にアカネズミ糞便の懸濁液を塗布し,タンナーゼ産生細菌の分離を行った.その結果,2タイプのタンナーゼ産生細菌が検出され,一方は連鎖球菌の一種Streptococcus gallolyticus,他方は乳酸菌の一種Lactobacillus sp.と同定された.野外で捕獲されたアカネズミが両者を保有する割合は,それぞれ62.5%,100%であった.
また,ミズナラ堅果を用いて堅果供餌実験を行い,アカネズミの体重変化,摂食量,消化率,及び糞便中のタンナーゼ産生細菌のコロニー数を計測した.その結果,体重変化,摂食量,消化率は,乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌と正の相関を示し,この細菌がタンニンの代謝において重要な働きを有している可能性が示唆された.
さらに,アカネズミのタンニン摂取量,食物の体内滞留時間,タンナーゼ産生細菌のタンナーゼ活性等の情報から,タンナーゼ産生細菌がタンニンの代謝にどの程度貢献しているのかを考察する.
P3-020: カシワ・ミズナラ・種間雑種での潜葉性昆虫相と外食性被食率の比較
雑種形成は多くの植物で観察されているが、同所的に生育する2種間で雑種形成がおきても、親種は独立した形態・生態を保持していることが多い。これは、交配が選択的か、雑種個体の生存率が低いか、その両方の理由によるものと考えられる。これまでのさまざまな植物雑種に関する研究において、雑種個体は植食性昆虫によって甚大な被害を受け、生存率が低くなることが、観察されている。
北海道石狩浜に広がる、カシワ・ミズナラ混成林では、これまでの葉形質・DNA多型・種特異的潜葉性昆虫相による多変量解析から、96個体中5個体(5.2%)が雑種個体であることが明らかになっている。親樹種は海岸沿いと内陸で偏りのある分布を示すものの、重なる部分は大きく、交配が無作為に起こっているすれば、5.2%という雑種個体の割合は低すぎると考えられる。そこで、本研究では、雑種個体の適応度を明らかにするため、植食性昆虫による負荷を、雑種個体と親樹種間で比較した。食植生昆虫による負荷としては、潜葉性昆虫のホソガ科キンモンホソガ属7種・Tischeria属2種・Stigmella属・Caloptilia属、モグリチビガ科未同定種、ハバチ科未同定2種の各密度と、キンモンホソガ属幼虫の初期死亡率、外食性の被食率を用いた。その結果、雑種個体上の潜葉性昆虫の密度は、カシワとミズナラの中間であるか、またはどちらかの親樹種に近い値であり、潜葉性昆虫に抵抗的だったり、感受性が高かった例は見られなかった。また、キンモンホソガ属幼虫の初期死亡率は親樹種・雑種個体間で差がなく、外食性昆虫による食害の程度も親樹種の中間であった。これらのことから、本調査地では、植食性昆虫は雑種個体の生存率を低下させる要因にはなっていないと結論された。
P3-021: 移入種アオモジの分布域における種子散布
アオモジは九州以南に分布の中心を持つクスノキ科ハマビワ属の雌雄異株の落葉樹である。かつて切り花生産などの目的で近畿地方に導入され、周辺に逸出した国内移入種である。現在でも分布が拡大している地域があり、拡大には鳥類の種子散布の影響が大きい。そこでアオモジ分布域での散布種子量の測定を行った。
種子散布量の測定はアオモジ個体密度の小さな京都市ではシードトラップを設置して、アオモジ個体密度の大きな大阪府泉佐野市および奈良県平群町では鳥糞およびペリットの採取を、橋上および舗装された林道上で2002年と2003年に行った。
シードトラップによる散布密度測定では、8月下旬から9月上旬にかけて母樹直下の大型シードトラップ(17m2)で計測されたが、40mまでに設置された小型シードトラップ(0.16m2)では、ほとんど種子が計測できず、種子散布密度の測定が困難なことが明らかとなった。
橋上および路面上での測定では、8月上旬から10月上旬までと比較的長い期間、アオモジ種子の散布が確認された。大阪府および奈良県の両調査地の鳥糞から確認された樹種は、アオモジの他に、アカメガシワ、エノキ、クマノミズキ、ヨウシュヤマゴボウであった。1個の鳥糞に含まれる種子数の最大個数は、アオモジで32個、アカメガシワで85個、クマノミズキで37個、ヨウシュヤマゴボウで53個であった。林外である橋上や林道上に存在した鳥糞は大型で多くの種子を含み、カラスなどの大型鳥類によって散布されたと考えられた。
これらの結果からアオモジの分布拡大における大型鳥類の影響、種子サイズと鳥糞に含まれる種子数の関係、アオモジが地域の植生に与える影響についての考察を行う。
P3-022: ムネアブラムシ族の種分化
ムネアブラムシ族(Nipponaphidini)はマンサク科(Hamamelidaceae)のイスノキ(Distylium racemosum)にゴールを作り、日本では10種以上が属する。越冬世代が幹母でゴール形成者となり、その子供はゴールから出て二次寄主であるブナ科(Fagaceae)の木本に寄主転換する。ある時期になると有翅型が現れ、一次寄主であるイスノキに戻る。この族は年5世代を持つが、この有翅型だけが雌雄を産み、有性生殖し、他の世代は単為生殖で雌だけを産む。両性世代は雌雄ともに無翅で、移動能力が低く、両性世代は自分が産み落とされたイスノキで交配し、雌は卵を産む。これが越冬世代となる。ふつう1本のイスノキに複数種のムネアブラムシ族が生息する。このようにムネアブラムシ族は同所的に種分化してきたと考えられる。どのようにして多くの種が同所的に分化してきたのかということを、交尾前隔離について両性世代の出現時期と繁殖様式に着目して考察する。
まず、同所的であっても両性世代の出現時期が大きくずれれば交配する可能性はなくなる。アブラムシは展葉や出穂、落葉など師管液の栄養状態が良い時期に有翅型を出現させる。ムネアブラムシ族もこの傾向が当てはまり、二次寄主に常緑樹を使う種の多くは春先の展葉期に産性虫が出現する。その一方で落葉樹であるコナラ、ミズナラを利用するヤノイスアブラムシ(Neothoracaphis yanonis)では秋の落葉期に産性虫が出現する。この場合は同所的であっても生殖隔離が起きる。次に、同所的同時期的に産性虫を出す種の繁殖様式を調べたところLMC種であることがわかった。LMC種は近縁の任意交配種に比べ産性虫の個体数が少ないだけでなく、子供は1箇所にかたまって成長し、雌雄ともほぼ同時に羽化し、雄の寿命も短いことがわかった。このような場合、他繁殖集団の個体と交配する機会が減少し、種分化を促進すると考えられる。
P3-023c: 極端な表現型の共進化 ‐平衡から軍拡競争への地理クライン‐
長さ30cmのランの距とそれと同じ長さのスズメガの口吻のように、極端な表現型が共進化過程を通して形成されることがある。ランナウェイや軍拡競争と呼ばれるこのプロセスは多くの理論および実証研究の対象となってきたが、そもそもなぜ「並」の表現型から極端な形質への共進化が開始されるのかという点については全く解明されていない。そこで、本研究ではヤブツバキ(ツバキ科)とその種特異的な種子食害昆虫であるツバキシギゾウムシ(ゾウムシ科)の相互作用系を対象として、地球規模の物理的環境の変化が軍拡競争の引き金となったことを示す。ヤブツバキは木質の堅い果皮を持ち、ツバキシギゾウムシによる種子食害を避けるが、調査を行った地域(滋賀_から_屋久島)の北半分ではゾウムシ口吻に比べてツバキの果皮が薄すぎるため、果皮の厚さに選択勾配が検出されなかった。ただ、このツバキの防衛形質に関しては表現型の可塑性によると思われるクライン(南ほど果皮が厚い)が存在し、年平均気温が17℃に達する地域で果皮の厚さがゾウムシ口吻長に接近し(果皮/口吻≒1)、厚い果皮への選択勾配が生じるようになった。その結果、気温が17℃より高い地域では、選択勾配が検出されなかった北の個体群に比べて極端に果皮が厚く巨大なツバキ果実が観察され、対抗進化を引き起こしていると考えられるゾウムシの口吻長についても体長の2倍に達している集団が存在していた。中立的な遺伝マーカーによる解析から、ツバキ・ゾウムシ共に「並」の個体群と極端な個体群とのあいだに遺伝的なギャップは認められず、最終氷期以降の温暖化と共に拡散した分布域内で、表現型における共進化的平衡から軍拡競争までの地理クラインが存在していることが解明された。以上から、1.相互作用する生物の形質がお互いの適応度に大きな影響を及ぼしていても共進化が起こるとは限らず、2.非生物的環境の変化が急速な軍拡競争の引き金となり得る、ことが示唆された。
P3-024c: 堅果類の生産量の年次変動が金華山島のニホンザルの行動圏利用に及ぼす影響
秋から冬にかけての食物環境は結実の量的・質的な違いによって年次的に変化する。本研究はこのような変化がニホンザルの行動圏利用にどのように影響するかを明らかにする。
季節を秋(10-11月)、冬(12-1月)、早春(2-3月)の3期に分け、2000年の秋から2004年の早春にかけて、宮城県金華山島のA群を対象に計11回の調査を行った。秋の主用食物4種(ブナ、ケヤキ、シデ、カヤ)の結実量を種子トラップ(n=40)で評価し、これと植生調査および先行研究のデータより調査地内のエネルギー・タンパク質の生産量を試算した。行動圏利用については各調査中に1週間程度の行動観察を行い、スキャニング法で行動割合(採食、移動、休息、社会行動)を求め、また行動圏地図から移動距離および移動速度を求めた。これらの各項目について季節ごとに回帰分析を行い、エネルギー・タンパク質生産量と行動圏利用の関係を評価した。
果実のエネルギー・タンパク質の生産量は2000年度が最大で、2003年度、2002年度、2001年度と続いた。サルの食性は多く結実した樹種および生産量に対応した:秋には落下果実を、冬から早春にかけては落下果実が残っていればこれを採食し続け、残っていなければ冬芽・樹皮・草本類を採食した。生産量が高い年は、冬に採食時間が長くなり、移動時間が短くなり、移動速度が速くなる傾向があった(回帰分析:P<0.05)。
行動圏利用は冬には食物量に応じて年次的に変化したが秋と早春には殆ど変化しなかった。これは、冬はもっとも寒いのでエネルギー配分が食物環境に応じて敏感に調整されたためと考えられる。いっぽう秋は食物が豊富に存在するため、また早春は移動コストがベネフィットを上回るためにどの年も同じような行動圏利用をしたと考えられる。
P3-025c: ギフチョウが利用しやすいコシノカンアオイの分布様式
ギフチョウ(Luehdorfia japonica)は雑木林や若いスギの造林地など里山環境に生育するチョウである。年一回しか繁殖せず、成虫は春にしか見られないので、「春の女神」ともよばれている。近年では宅地開発による生育地の減少や、食草となるカンアオイ類の局所的絶滅などの影響により個体数が減少しており、環境省レッドリストでは絶滅危惧種_II_類に指定されている。
ギフチョウの個体群を保全するためには、幼虫の食草であるカンアオイ類の保全が不可欠である。カンアオイ類は林床に生育する多年草で、本研究の調査地である新潟県松之山町では、コシノカンアオイがブナ林や雑木林、若い杉林の林床などに分布している。しかし、どんな場所でもギフチョウの卵塊が見られるわけではない。また、ギフチョウが産卵場所として好む場所が、幼虫の生存にとっても好ましい場所であるとは限らない。ギフチョウ個体群の保全を考えるには、異なるカンアオイ類の生育地で、ギフチョウの産卵率や幼虫の生存率を調べ、ギフチョウにとって利用しやすいカンアオイ類の分布様式を明らかにする必要がある。そこで、本研究ではまず、カンアオイ類の密度の違いによってギフチョウの産卵率・幼虫の生存率がどのように違うかを明らかにすることを目的とした。
調査は新潟県松之山町のバードピア須山で行った。コシノカンアオイの高密度区と低密度区に調査区を二区ずつ設定した。それぞれの植生は、高密度区はブナ林と若いスギ林、低密度区はいずれもブナ林であった。各調査区で、コシノカンアオイの株数、新葉数を記録し、すべての葉の大きさをはかることで、幼虫のエサの量を見積もった。また、産卵期と幼虫期に照度計を用いて各調査区の相対照度を測定した。産卵から幼虫が蛹になるまで、3日に1度の頻度で調査区を見回り、ギフチョウの産卵の有無を調べ、その後の幼虫の生存率を追った。
ギフチョウの産卵率は、高密度区で有意に高かった。また、高密度区ではより明るい若いスギ林のほうが産卵率が高かった。幼虫の生存率は現在調査中である。
P3-026c: 植物はアブラムシの甘露をコントロールできるか
Recent research has revealed that plants bearing extrafloral nectaries can espond to herbivory by increasing the output or quality of extrafloral nectar or growing new extrafloral nectaries, often only on the part of the plant affected by herbivory (Heil et al. 2000, 2001; Ness 2003; Mondor and Addicott 2003). It is also known that phloem-feeding homopterans can be beneficial to their host plants if herbivory pressure is high and the homopterans are tended by ants that remove other herbivores. However, it remains unknown whether plants can manipulate the homopterans’ honeydew output in response to damage by other herbivores so as to become more attractive to ants. In other words, can some plants use the aphids’ honeydew output as an inducible defense in the same way as other plants use extrafloral nectaries? To address this question, we performed laboratory experiments using the ant-attended aphid Chaitophorus saliniger and larvae of the moth Clostera anastomosis on the willow Salix gilgiana. Both insects are commonly found together on S. gilgiana in Shiga Prefecture. We investigated changes in honeydew composition and excretion rate by C. saliniger depending on the presence or absence of herbivory by caterpillars or artificial damage.
P3-027c: オオバギボウシの花粉媒介における密度依存性とそのメカニズム
植物の種子生産において、花粉媒介過程でのアリー型密度依存性は過去多くの研究で示されてきた。しかしそれが生じるメカニズムを明らかにした研究はほとんど無い。その理由として花粉媒介のプロセスには様々な要因が関わっていることがあげられる。本研究ではマルハナバチ媒介植物である、ギボウシ属オオバギボウシを材料に、その花粉媒介の過程において 1.パッチスケールでの密度効果を生じさせるプロセス2.そのプロセスに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。
パッチスケールの密度効果を生じさせるプロセスとして、まずパッチサイズの縮小とともに、量的な花粉不足の程度が大きくなることが示された。さらに量的な花粉不足はポリネータ_-_の訪花頻度で説明できたが、訪花頻度がパッチサイズによって異なることは、ポリネータ_-_の機能的な反応(パッチ内の訪花数の増加)によるものではなく、集合反応によって引き起こされていることが示された。
以上のプロセスに影響を与える要因として、パッチを包含する個体群スケールによって、パッチスケールの密度依存性のプロセスが影響をうけていることが示された。個体群スケールの要因として、パッチスケールの密度効果に影響している要因としては、個体群スケールのポリネータ_-_の個体数の違いであると考えられる。
P3-028c: ツキノワグマの樹上における採食に関する研究
ツキノワグマの木登りがうまいという特性は、3次元的に資源が分布する森林において資源の確保を助けるものだと考えられる。樹上での採食後にはクマ棚という痕跡を残すことがあり、特にクマにとって重要な採食時期である秋に、堅果類をつける樹種に多く観察される。クマ棚は、その出現状況などについては調べられているものの、ツキノワグマの採食行動として研究されたことはない。
本研究では、堅果類を主な対象とし、ツキノワグマの樹上での採食様式について調べ、その資源の確保へ果たす役割について理解を深めることを目的とした。クマ棚を通して、採食木の分布や、樹上での採食時期と果実の成熟・落下に伴う各堅果類の樹上・地上資源量の時間的変化との対応について調査を行った。
調査地において堅果をつける樹種はクリ、ミズナラ、コナラ、ブナの順に多く、クマ棚はこのうちブナを除く3種に観察された。クマ棚は3種のうちクリに最も多く観察された。採食は近接した同樹種複数個体に行われることが多く、空間的に集中していた。採食時期については、ミズナラでは果実が成熟し地上よりも樹上に資源が多くあると考えられる時期に樹上での採食が観察された。一方、クリ・コナラでは、その時期に加え、その後果実の落下が進み地上により多くの資源があると考えられる時期にも樹上での採食が観察された。特に、3種の中で最も果実の成熟が遅かったクリでは、クマ棚は遅い時期により多く観察された。全体的なクマ棚の出現頻度は時期が後になるほど高くなった。
冬が近づくにつれクマの利用可能な資源量は減少していくと考えられる。冬が近づくにつれてクマ棚が多く観察されたことは、利用可能な資源量の減少に伴い樹上資源の重要性が増したことを反映したものと考えられた。以上より、樹上での採食は、冬が近づくほど資源の量的な確保について補完的役割を担うようになると考えられた。
P3-029c: アミ-付着藻類-海草の間接効果
海草藻場では、海草に加えてその葉を基質とする付着藻類も重要な基礎生産者であり、その高い生産性は宿主である海草のそれに匹敵することもある。また、海草藻場では一次消費者は難分解性物質を含む海草ではなく付着藻類を餌資源とするものが多く、付着藻類が海草藻場の食物網上のきわめて重要なコンポーネントとなっている。しかし、葉上の付着藻類が高密度になると海草は被陰されることになりこれが海草の生産速度の低下や枯死を引き起こした例も報告されている。また付着藻類食のグレーザーが付着藻類を除去し海草の光環境を向上させることで海草の生産速度が高く維持される間接効果についても注目されてきた。
北海道東部の汽水湖である厚岸湖には、広大なアマモ場(Zostera marina bed)が形成され、そこに、珪藻を主とする付着藻類、そしてグレーザーとしてアミ類(Neomysis mirabilisなど)が見られる。本調査でも上記のプロセスについてバイオマスの変動や生産、摂食速度から検討を行った。各生物のバイオマスは季節的に大きく変動し、アマモは4月から7月にかけて急速に成長し9月以降減少した。付着藻類は基質の増加にもかかわらず4月から7月にかけて密度、バイオマスともに低く推移したが8月に急増し、アミ類もこの時期に急増した。摂食実験や光合成実験による推定から、4-7月のアミ摂食量は、アミ密度が低いにもかかわらず付着藻類の生産量の最大50%程度にあたり、本調査地ではこの時期にアミ類のグレージングが付着藻類増加を抑制(遅延)する一因となり、海草に好適な光環境の維持され高い生産速度が実現されているものと考えられ、アミ-付着藻類-海草という間接効果の成立が示された。
P3-030c: コナラ属稚樹の個葉特性に及ぼす食害と土壌養分の影響
植物が食害を受けると、葉中に防御物質が生成される、葉の強度が増す、など防御的な反応を示すことが知られている。葉質や強度といった個葉特性は土壌養分や光、水分などの生育環境にも大きく左右される。土壌の養分条件を良くすると、植物組織中の窒素濃度は増加するが、この窒素濃度の増加は、植食者の分布の変化、成長率・繁殖率の増加を招き、食害の程度を増加させる可能性がある。つまり、土壌の養分条件は、葉の形質に直接影響を与えると同時に、植物を介して植食者の側にも間接的に影響を与えると考えられる。本研究で対象とするコナラ属の稚樹は、生育環境によって年に数回の枝の伸長が見られるので、食害や土壌養分が稚樹に与える影響を短期間のうちに評価できると考えられる。夏以降に伸長する2次以降シュートは、春に伸長した1次シュートの置かれた状況に応じてシュートの長さや数が変化することが知られており、個葉レベルでも何らかの変化が見られるはずである。そこで本研究では、コナラ属稚樹の個葉特性に注目し、昆虫の食害に対してどのような反応を示すのか、その反応は土壌の養分条件によってどのように変化するのかを明らかにする事を目的とした。本研究では、食害の有・無と土壌養分の多・少の各2段階、計4処理を設定したモデル生態系をビニルハウス内に作り、鉢植えにしたコナラの稚樹を用いて実験を行った。実験の結果、土壌の養分条件が良いと被食率は高くなった。また、食害を受けた個体の葉面積当たりの葉重(LMA)と縮合タンニン含有量は高くなった。この傾向は、シュートの次数を問わず見られ、食害による誘導防御反応と考えられた。特に、1次シュートの葉では、LMAと縮合タンニンの増加は土壌の養分が少ない方で顕著に見られる傾向があった。これらのことから、コナラ属個葉で見られた食害に対する防御反応は、土壌の養分条件やシュートの次数で異なることが示唆された。
P3-031c: ツチカメムシによるカスミザクラ種子の吸汁とその後の腐敗プロセス
被食散布樹種であるカスミザクラ(Prunus verecunda)の種子の散布後の死亡要因として、野ネズミによる捕食はよく知られているが、これまでの調査からツチカメムシ(Macroscytus japonensis)の吸汁によっても種子が腐敗・死亡することが明らかになった。そこで本研究では、人為的に死亡要因を排除した播種実験と糸状菌の接種実験を行うことで、カスミザクラ種子がツチカメムシに吸汁されてから腐敗・死亡にいたるプロセスを明らかにし、散布後のカスミザクラ種子の死亡要因におけるツチカメムシ吸汁の位置づけを試みた。
ツチカメムシの吸汁によってどのくらいの種子が死亡するのかを確かめるために、野ネズミを排除した10mmメッシュ区とツチカメムシも排除した2mmメッシュ区を設け、7月上旬にカスミザクラの果実と種子を播種した。同年の8月上旬と9月上旬にそれぞれの区画から果実と種子の半分ずつを取り出し、発芽活性と昆虫類による吸汁があるかどうかを調べた。その結果10mmメッシュ区では、9月になると発芽活性率と吸汁率は減少し、腐敗率は2倍以上増加していた。2mmメッシュ区では、9月になっても高い割合で種子が生存していた。
実験室でツチカメムシにカスミザクラ種子を与え飼育した結果、その吸汁痕は林内のものと同様であることから、林内での吸汁はツチカメムシによるものであると考えられる。
カスミザクラ種子の腐敗とツチカメムシの吸汁との関係を調べるため、ツチカメムシに吸汁させた種子と吸汁させていない種子に糸状菌の接種実験を行った。その結果、吸汁させた種子では腐敗が認められたが、吸汁させていない種子ではほとんど腐敗が認められなかった。
以上のことから、林床に散布されたカスミザクラの種子は、野ネズミ類の捕食をまぬがれてもツチカメムシに吸汁され、吸汁後に糸状菌が侵入することで腐敗することが推察される。
P3-032c: 河畔樹木の窒素安定同位体比と水質からみた遡上サケによる栄養添加の検証
近年,自然再生への関心の高まりとともに陸域と水域の物質循環を考慮した生態系復元の重要性が指摘され始め,北米では遡河性のサケ類が森林域にもたらす海由来の栄養塩の影響が検証されつつある。そこで,北海道の河川において遡上したサケの死体由来の栄養塩が河畔林に及ぼす影響およびその経路を確認するため,1)サケ遡上量,消失状況の把握,2)河川水,砂礫堆間隙地下水の水質分析,3)河畔に生育するヤナギの窒素安定同位体分析を行った。
調査はシロザケの遡上が比較的豊富な北海道南部の遊楽部川上流(非遡上区間)から中流(遡上区間)で行った。2003年秋から冬に遡上上限から下流2kmの区間において,サケ死体の尾数,性別,重量,消失率をほぼ10日おきに調査した。また,サケ遡上時期をはさんで夏から翌年春まで20日おきに河川水を採水するとともに,河畔の砂礫堆地下30_-_50cmに打ち込んだ採水管からも地下水を採取し,NO3等主要なイオン濃度を測定した。一方,遡上,非遡上区間の水際や段丘上に生育するヤナギの葉を地形別に採取し,乾燥粉末試料とした後,窒素安定同位体比(δ15N)を測定した。
サケ死体は12月の最多時に遡上上限付近350m区間で391尾(窒素量換算で約50kg)が確認されたが, 1月上旬にはほとんど見られなくなった。河川水,地下水のNO3-N濃度は,サケ遡上がない上流区ではそれぞれ0.06_-_0.18,0_-_0.07mg/lと常に地下水の方が低かったが,サケ高密度区間では冬期間に地下水の濃度が0.32_-_0.38mg/lと河川水(0.2_-_0.26mg/l)を上回った。一方,ヤナギのδ15N値は上流区では-3_-_-1‰であったが,サケ区間では0_-_3‰と高く,とくに水際のヤナギの値が高かった。これらから,サケ区間のヤナギは河川・地下水経由で高δ15N値をもつ窒素を吸収している可能性が高い。
P3-033c: インドネシア産オオタニワタリに堆積するリター中の土壌群集構造
オオタニワタリは熱帯雨林林冠において非常に多く発見される普通種の着生植物である。最近の研究より、このオオタニワタリは林冠における無脊椎動物の重要な生息地であり、そのバイオマスはシダ以外の林冠部でみられる無脊椎動物のバイオマスとほぼ等しい可能性があることが示唆されている。これらの動物類はオオタニワタリに堆積した落葉を分解して「土壌」をつくる。オオタニワタリはこれらの土壌から成長に必要な無機塩類を獲得するという特殊な栄養獲得方法を採用していることから、これらの無脊椎動物群集構造を調べることはオオタニワタリのリター分解メカニズムの解明だけでなく、林冠域のエネルギー循環や物質移動の解明にもつながると考えられる。しかしながら、これらの無脊椎動物がオオタニワタリからどのように移出入しているかはいまだ明らかになっていない。そこで落葉の分解に寄与する土壌動物群集の構造とオオタニワタリのサイズ、高さ、季節の関係を解析した。
調査はインドネシアのジャワ島西部にあるハリムン山国立公園の標高900_から_1100mの地点で行った。サイズ、高さ、季節別にオオタニワタリ上部に堆積した落葉を計150サンプル採集し、実験室に持ちかえって無脊椎動物類のソーティングを行ったところ、計28目の土壌動物が採集された。特に膜翅目、双翅目が雨期・乾期ともに大きな割合を占めており、リター分解に大きな影響を与えていると考えられる。
P3-034c: 特定の植物に依存する腐食性昆虫ー腺毛に付着した昆虫を摂食するカスミカメムシー
これまで、腐食性昆虫が、特定の植物にのみ見られ、いかに植物に依存しているかに注目した研究はほとんど行われてこなかった。演者は、植物上で、節足動物遺体を摂食するカスミカメムシの生態について、野外観察および飼育実験によって明らかにした。
モチツツジカスミカメOrthotylus gotoi(カメムシ目カスミカメムシ科)はモチツツジRhododendron macrosepalum(ツツジ科)でのみ見られることが知られている。京都市近郊における3年間の調査によって、年1化の生活史をもつことがわかった。幼虫は4月下旬から6上旬にかけて、成虫は6月上旬から8月上旬まで見られ、卵はモチツツジの当年枝に産め込まれていた。
モチツツジの葉や茎、萼片には腺毛が密に生え、春から夏にかけて、たくさんの多様な節足動物が脚や翅がとられて死んでしまう。しかしながら、カスミカメムシは腺毛に脚をとられることなく、植物上を走り回ることができる。カスミカメムシが、腺毛に付着して死んだ節足動物に、口吻を差し込んで吸汁しているのがしばしば観察された。野外調査によって、カスミカメムシの幼虫、成虫とも、多様な節足動物の遺体を食物として利用していることがわかった。カスミカメムシの動物遺体食の相対的な重要性を確かめるために、モチツツジの枝葉(シュート)、他のツツジの枝葉、および昆虫遺体の有無を、それぞれ組み合わせた6処理の室内飼育実験を行った。結果、カスミカメムシ幼虫の発育および成虫の生存には、昆虫遺体食が必須であることがわかった。また、昆虫遺体に加えて、モチツツジの枝葉を与える方が、成虫の羽化率および生存日数が増加する傾向が見られた。
以上のような、モチツツジカスミカメムシにおける動物遺体食の相対的な重要性は、モチツツジ上に腺毛によって多くの節足動物が付着していることと深く関係している。
P3-035c: 地球温暖化が琵琶湖生態系に与えた影響:過去100年の動植物プランクトンからの検証
湖沼生態系への温暖化の影響は、その重要性にも関わらず、長期モニタリングデータの不足などから解明が遅れ、未だに生物・生態系レベルの実証的データは僅かな研究例に限られている。そこで本研究は、琵琶湖の過去100年にわたる動植物プランクトンの変動と人間活動や温暖化との関係を具体的に明らかにすることを目的に、湖底堆積物コアを用いた解析を行った。その結果、琵琶湖では1960年と1980年に動植物プランクトン全般に大きな変化が生じ、特に1980年頃、琵琶湖固有種で冬季の代表的な植物プランクトンAulacoseira nipponicaが急激に減少し、逆に、近年優占するFragilaria crotonensisが1980年以降、徐々に増加していることが判明した。これら植物プランクトンの増加・減少要因として考えられうる環境要因と長期プランクトン現存量との時系列データセットを用いて解析を行った結果、A. nipponicaの現存量が12月-4月までの水温上昇と高い負の相関関係にあり、この種の減少による栄養塩変化がF. crotonensisの増大を促進させたことが示唆された。一方、動物プランクトンのDaphniaがほぼ同じ時期の1980年以降、休眠卵を産卵しない生活史に変化していることも明らかとなっている。すなわち80年頃からの冬季温暖化が食物網を介して動植物プランクトンの動態を大きく変動させる駆動要因になった可能性が高い。このことは、温暖化による環境変動によって動植物プランクトンの生物間相互作用が大きく変化し、琵琶湖生態系機能を変化させたことを示唆している。
P3-036c:
(NA)
P3-037c: 河川付着藻類マットにおよぼす,グレイジングインパクトの評価
野外河川の付着藻類マットは,ほぼ常時,多様な藻類食者(grazer)による摂食圧のもとにある。これまで,付着藻類マットの垂直方向インパクト強度(深度)は,グレイザーの口器形態のみで決定されるとされてきた。しかし,近年の研究により,このインパクト強度は口器形態だけでは説明できないことが明らかにされてきた。
そこで,多様なグレイザー種それぞれの付着藻類マットへのインパクト強度を比較し,正確に評価することを目的として本研究を行った。比較のために,口器形態・体サイズ・移動速度・行動様式の4種類のファクターを用い,グレイザー水生昆虫を分類した。この各グループの代表種(Epeorus latifolium, Glossosoma sp., Micrasema quadriloba, and more) に,野外密度に準じた囲い込み操作実験によって,厚さの異なる付着藻類マットを摂食させた。実験終了後,付着藻類マットは,SEMによる観察を行い,また,各グレイザーののインパクト深度を比較・評価した。また,垂直方向のみでなく水平方向のインパクト強度についても評価を試みた。
P3-038c: 高密度のヤクシカは照葉樹林の構造を変化させていないのか? -屋久島西部地域10年間の推移-
【はじめに】 調査地である屋久島西部地域は原生度の高い照葉樹林が大面積に残されており、世界遺産にも登録されている。屋久島にはニホンジカの一亜種であるヤクシカが全域に分布し、特に調査地では43-70頭/km2の高密度で生息している。これまでシカが高密度に生息する地域では森林植生が破壊されることが数多く報告されている。そこで、長期観察によりヤクシカが森林構造に与える影響を評価することにした。
【方法】 成木:1990-92年に調査地において50m×5mのプロットを98個設置し、DBH≧5cmの個体について毎木調査を行った。その際の個体標識を基に2002-03年に生残、新規加入、DBH、樹皮採食・角研ぎ痕の有無を調査した。
若木:2003年にプロットを8個選び、DBH<5cm且つ地上高≧40cmの個体に対し毎木調査を行った。調査項目は地上40cmでの太さ、最低生葉高、樹皮採食・角研ぎ痕の有無と生葉の採食痕の有無とした
【結果・考察】成木:DBH分布型は二回の調査共に逆J字型を示し、調査時期で有意差はなかった。シカによる剥皮率は4.7%であり、密度が同程度の他地域に比べて小さかった。枯死個体で全周がシカにより剥皮されている個体はなかった。また、シカの不嗜好種あるいは嗜好種の大幅な増減はなかった。
若木:生葉はシカの採食可能高にも十分存在し、採食圧のため採食可能範囲の植物量が大幅に減少してなかった。角研ぎ・樹皮剥ぎされた個体は16.6%と成木よりも高かった。一般にニホンジカの生息密度が高いと森林構造は、小径木の消失が起こりそのDBH分布が大径木に偏る。しかし、本調査地では成木と若木を含めたDBH分布はDBH<5cmでの個体数が圧倒的に多く、逆J字型分布を示した。
以上の結果から、シカ密度が同程度の他地域と比べ、調査地ではヤクシカの森林構造への影響が極めて小さいことが示唆された。
P3-039c: カンアオイ属4種の送粉様式
ウマノスズクサ科(Aristlochiaceae)のカンアオイ属(Asarum)の送粉様式の解明するために、ミヤマアオイA. fauriei var.nakaii・ヒメカンアオイA. takaoi・ウスバサイシンA. sieboldii・フタバアオイA. caulescenseの4種に関して研究を進めている。まず、訪花者がどのような動物であるのかを野外観察で調べた。調査したカンアオイ4種では、いずれもトビムシ・ヤスデなどの土壌動物の訪花が記録された。次に訪花者が送粉に関与する可能性を検討するために、蕾のうちに袋掛けをして動物が訪花できない条件と、対照区との比較を行った。ミヤマアオイ・ヒメカンアオイの2種は対照区では結実したが、袋掛けをすると殆ど結実しなかった。これに対し、ウスバサイシン、フタバアオイの2種は袋を掛けた区でも高い結果率を示した。このことは、ミヤマアオイ・ヒメカンアオイは送粉を訪花者に依存し、ウスバサイシン・フタバアオイはself pollinationを行っている可能性が高い。さらに、ミヤマアオイ・ウスバサイシン・フタバアオイの3種に関して、花を中に入れたトラップを設置し、花が訪花者を匂いによって誘引しているのか否かを調査した。花を中に入れない対照区との比較から、ミヤマアオイはトビムシ・アリ・双翅目を誘引し、ウスバサイシン・フタバアオイは動物を誘引しないことが示唆された。ヒメカンアオイではトラップ実験を行っていないが、訪花者の訪花頻度のデータから、花が訪花者のトビムシを誘引している観察データを得ている。これらの袋掛け実験とトラップ実験から、ミヤマアオイ・ヒメカンアオイは動物を匂いで誘引する送粉繁殖様式をとり、ウスバサイシン・フタバアオイは、self pollinationをしており、動物を誘引していないと考えられた。
P3-040c: 開放花・閉鎖花を同時につけるホトケノザ種子の表面成分とアリによる種子散布行動
ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられ、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着するのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられている。
開放花由来種子は閉鎖花由来種子より種子重・エライオソーム重・エライオソーム/種子(_%_)が有意に大きく、トビイロシワアリによる持ち去り速度が大きいことが明らかとなった。エライオソームを取り除いたホトケノザの種子は、エライオソームが付いたままの種子よりトビイロシワアリに持ち去られる割合・速度が低かった。また、エライオソームを接触させたろ紙片はほとんど巣に持ち去られたが、エライオソーム以外の種子表面を接触させたろ紙片はほとんど持ち去られなかった。
このようなアリの行動の違いがなぜ生じるのかを検討するため、アリの反応に関わる物質・アリの資源となる物質に着目して種子表面の化学的特性を調べた。その結果、遊離脂肪酸(オレイン酸、リノール酸など)、糖(フルクトース、グルコース)、アミノ酸(アラニン、ロイシンなど)が含まれていることが分かった。
これらのことから、ホトケノザは種子表面、特にエライオソームに含まれる化学物質の量・質を繁殖様式によって変えることで、アリによる持ち去り速度をコントロールしている可能性があることが示唆された。
P3-041c: ツクバネウツギの結実率にクマバチの盗蜜は影響を及ぼすのか?
九州から本州にかけて分布するキムネクマバチは、地域によっては訪花性ハナバチ群集全体の約2割の個体数を占めており、とくに木本植物にとっては重要な訪花者となっている。しかし、クマバチ類は花粉を運ばず、蜜だけを吸い取る盗蜜行動をすることでもよく知られている。この盗蜜行動が同じ花を訪れる他の昆虫の訪花頻度やその植物の結実率にどのような影響を及ぼしているかについてはほとんど調べられていない。そこでキムネクマバチによって高頻度で盗蜜を受けるツクバネウツギの花を用いて、盗蜜行動が他の昆虫の訪花頻度を低下させているかどうか、さらに結実率を低下させているかどうかを明らかにするため、野外実験を行った。実験では、ツクバネウツギの開花期(4_-_5月)に、花のついた枝を単位として1)盗蜜防止区、2)袋がけ区の2つの操作区と、何も操作しない3)対照区の3つの処理区を設け、盗蜜防止区と対照区でクマバチと他の訪花性昆虫の訪花頻度を観察した。また、ツクバネウツギの結実期に各処理区の総花数、結実率を調べた。その結果、クマバチの訪花頻度は盗蜜防止区と対照区の間であまり変わらなかったものの、他の訪花性昆虫は有意に高頻度で盗蜜防止区を訪れた。一方、2003年度のツクバネウツギの結実率は盗蜜防止区が平均22.0(SD16.5)%、袋がけ区が10.5(7.8)%、対照区が33.8(21.9)%となり、むしろクマバチの盗蜜が可能だった対照区で高い結実率を示したが、統計的には有意ではなかった。したがって、クマバチの盗蜜行動が他の昆虫の訪花頻度を低下させている可能性はあるが、ツクバネウツギの結実率を低下させているという証拠は得られなかった。なぜこのような結果が生じたのかについて考察する。