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[要旨集] ポスター発表: 保全・管理
- P3-042: 小笠原における更新困難な固有樹種の植栽試験 (安部)
- P3-043: ()
- P3-044: 移入カワマスと在来アメマスとの交雑現象 (北野, 大舘, 小泉)
- P3-045: 北海道石狩平野に残存する高層湿原の保全に向けた水文環境特性に関する研究 (高田, 高橋, 井上, 宮木)
- P3-046: 砂礫質河原の生態系を脅かすシナダレスズメガヤと個体群動態モデルを活用した対策 (村中, 鷲谷)
- P3-047: ブナ天然更新施業試験地における更新成績と遺伝構造 (北村, 島谷, 杉田, 金指)
- P3-048: カメルーン熱帯雨林における狩猟 (安岡)
- P3-049: 仲が良い鳥,仲が悪い鳥 (福井, 安田, 神山, 金井)
- P3-050: カメラトラップ法の最小調査努力量をもとめる (安田)
- P3-051: スギ造林が森林の蛾類群集に及ぼす影響 (大河内)
- P3-052: 河川掘削によるタコノアシ群落の成立とその遺伝的多様性 (増田, 河田)
- P3-053: ケナフの他感作用に関する研究_-_フジバカマの発生及び成長に与える影響 (岩崎, 服部)
- P3-054: 長野県中南部における絶滅危惧フクジュソウ属2種の繁殖生態及びRAPD法による遺伝的解析 (山本, 大窪, 南, 小仁所)
- P3-055: 絶滅危惧種クロミサンザシの道央地方での生育状況と繁殖特性 (八坂)
- P3-056: 改修河川で見られたタンチョウの採餌環境における生物群集の構造ー冬季の音別川・阿寒川水系を例にしてー (斎藤, 古賀, 小林, 平田)
- P3-057: 吉野川流域における針葉樹人工林と広葉樹自然林の土壌孔隙率・最大容水量の比較 (金行, 中根)
- P3-058: シマアオジ激減!(草原性鳥類のモニタリングと鳥相変化) (玉田, 富沢, 梅木, 高田)
- P3-059: 植物分布データに基づく絶滅確率を用いた最適な保護区の設定 (渡辺, 渡辺, 丹羽, 高田)
- P3-060: 森林性動物を用いた二次林再生過程の評価方法の検討 (渡辺, 渡辺, 堀, 黒沢, 田畑)
- P3-061: 房総丘陵の絶滅危惧ヒメコマツ集団における極端な自殖 (佐瀬, 綿野, 朝川, 尾崎, 谷, 池田, 鈴木)
- P3-062: 希少種ベニバナヤマシャクヤクの個体群動態と盗掘による影響の予測 (丹羽, 渡辺, 渡辺)
- P3-063: 都市生態系の再生における屋上緑化の意義と可能性 (中根, 中坪, 実岡)
- P3-064: カラマツ人工林における広葉樹稚樹の分布と生育阻害要因の分析 _-_釧路湿原周辺における自然林再生手法の検討_-_ (孫田, 渡辺, 渡辺, 鈴木, 田畑)
- P3-065: タチスミレ群落における火入れの効果 (小幡)
- P3-066: 兵庫県南部の孤立社寺林における植生と光環境の林縁効果 (岩崎, 石井)
- P3-067: シカを捕るだけでは森は蘇らない (日野, 古澤, 伊東, 高畑, 上田, 伊藤)
- P3-068: 小笠原諸島媒島におけるタケ・ササ類の拡大 (丸岡, 市河, 滝口, 鋤柄, 大島)
- P3-069: 生息確認地点だけによったメダカ生息適地推定_---_茨城県南部1960-70年代の例 (高村)
- P3-070: 八ヶ岳、大門川の源流に設置された治山堰堤周囲の植物群落について (平塚, 大野)
- P3-071: 北海道芭露川河口におけるアッケシソウ生育地の環境調査と保全手法の検討 (内山, 内藤, 中村, 八幡, 菊池)
- P3-072: 絶滅危惧植物タコノアシの発芽と実生生長に及ぼす水田除草剤の影響 (池田, 羅)
- P3-073: 人為影響下の湿原におけるトンボ成虫長期モニタリングとその評価_-_釧路湿原,温根内地区を事例に_-_ (生方, 迫田)
- P3-074: 成虫による湖沼トンボ群集のモニタリングはどこまで使えるか‐釧路湿原達古武沼を事例に‐ (倉内, 生方)
- P3-075: 淡水緑藻マリモの日本国内における生育現況と絶滅危惧評価 (若菜, 佐野, 新井, 羽生田, 副島, 植田, 横浜)
- P3-076: 北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係(1) _-_空間利用からみた種間関係_-_ (池田, 阿部, 立澤)
- P3-077: 湿原再生事業地における適地抽出の試み (白川, 森)
- P3-078: 絶滅危惧植物キヨシソウの生態に関する調査結果 (渡辺)
- P3-079: 北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係(2) ーエゾタヌキの生息数推定とアライグマ対策への提言ー (阿部, 池田, 立澤, 浅川, 的場)
- P3-080: 3次メッシュ(1kmメッシュ)を用いた小地域のフロラ調査 (松田)
- P3-081: Endangered Plant Species in Philippine satoyama Landscape (Buot,Inocencio)
- P3-082: 印旛沼水系における外来植物ナガエツルノゲイトウAlternanthera philoxeroides Mart. Griseb.の分布と生育地特性 (杉山, 倉本)
- P3-083: コウノトリの採餌環境としての豊岡盆地の評価 (内藤, 大迫, 池田)
- P3-084: マイクロサテライト遺伝マーカーを用いた絶滅危惧種ユビソヤナギの遺伝構造の解析 (菊地, 鈴木, 金指, 吉丸, 坂)
- P3-085: ヌートリアの分布拡大過程 (鈴木, 坂田, 三橋, 横山, 岸本)
- P3-086: 多摩川におけるカワラバッタの保全に関する研究 (野村, 倉本)
- P3-087: 野生鳥類の大量死リスク評価につながる病原体データベースの基本コンセプトについて (長, 高田, 金子)
- P3-088: 山梨県長坂町におけるオオムラサキの分布・密度と生息環境 (小林, 北原)
- P3-089: 水生植物の生育地としてのため池の分布 (渡邉, 井鷺, 下田, 亀山, 亀山)
- P3-090: 関東地方におけるモツゴの遺伝情報と保全 (斉藤, 倉本)
- P3-091: 小規模な農業用ため池に見られるレッドリスト沈水性植物の生育環境 (嶺田, 石田, 飯嶋)
- P3-092: 放射性同位体ならびに水文観測に基づく釧路湿原達古武湖の土砂堆積履歴の推定 (安, 水垣, 中村)
- P3-093: エゾシカの分布拡大要因:地球温暖化と個体群圧 (鈴木, 梶)
- P3-094: 水田-用水路間におけるメダカの移動頻度の日変化および時期的変化に与える環境要因 (樋口, 倉本)
- P3-095: 土地利用に基づくニホンザル生息域拡大のGISモデルとその検証 (岩崎, スプレイグ)
- P3-096: 多摩川永田地区における河道修復後の植生変化 (畠瀬, 長岡, 一澤, 阿部)
- P3-097: 異なったヨシ原の管理手法が鳥類の繁殖にあたえる影響 (永田)
- P3-098: カタクリの潜在生育地の推定 _-_地域の生態系保全へのGISの活用_-_ (増澤, 小泉, 三橋, 井本, 北川, 辻村, 逸見, 松林, 吉田)
- P3-099: 絶滅危惧植物アキノハハコグサの保全の試み (米村, 渡辺, 小田, 中田, 大賀)
- P3-100: 周辺環境の食物利用可能性がニホンザルの環境選択に与える影響 (山田)
- P3-101: 京阪奈丘陵の里山植生が受けた人為による改変の履歴 (佐久間)
- P3-102: 小笠原諸島における外来樹種アカギの管理と森林植生の変化 (山下, 阿部, 伊藤, 田内, 田中)
- P3-103: 北海道におけるタンチョウの繁殖成功要因:湿原環境と農耕地環境での繁殖成績と特徴 (大石, 関島, 正富)
- P3-104: 導流提における自生種を用いた植生復元に関する研究ー植生復元の概要ー (藤山, 菅野, 清水)
- P3-105: 北海道西別川におけるバイカモ個体群の生育と河床土砂動態 (菊池, 山内)
- P3-106: カラマツ林伐採地への堅果分散に果たす野ネズミの役割 (高橋, 鷲谷)
- P3-107c: ヒヌマイトトンボ保全のために創成したヨシ群落の動態と侵入した蜻蛉目昆虫 (松浦, 渡辺)
- P3-108c: 北海道胆振地方におけるセイヨウオオマルハナバチおよび在来マルハナバチ類各種の資源利用と活動季節パターン (中島, 松村, 横山, 鷲谷)
- P3-109c: 小笠原諸島陸産貝類への脅威,ニューギニアヤリガタリクウズムシは貝類以外に何を食べているか? (大林, 大河内, 佐藤, 小野)
- P3-110c: 航空機を用いたアザラシ類の生息数推定法の検討 (水野, 和田, 服部, 大泰司)
- P3-111c: 琵琶湖周辺の水田利用魚類の現状 (金尾, 前畑, 沢田)
- P3-112c: トンボ池型ビオトープに導入された外来種(アメリカザリガニ、金魚)の影響と保全教育 (後藤, 鷲谷)
- P3-113c: 襟裳岬海岸造林地のクロマツとカシワに定着する外生菌根菌の比較 (成瀬, 橋本)
- P3-114c: 北海道日高地方で発見されたセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris L.)の自然巣における高い増殖能力 (松村, 中島, 横山, 鷲谷)
- P3-115c: 植物群落の地理的分布に基づいた保護地域の配置 (亀井, 中越)
- P3-116c: サクラソウ属Cortusoides節3種における比較保全生態遺伝学の試み (大谷, 上野, 寺内, 西廣, 津村, 鷲谷)
- P3-117c: 森林断片化によるShorea leprosulaの遺伝的多様性に与える影響 (福江, Lee S.L. , K.K.S.NG , Norwati M , 津村)
- P3-118c: 河川の区間スケール特性による魚類の生息場所選択性の違い (石田, 竹門, 池淵)
- P3-119c: 福井県重要里地里山選定調査事業について -行政における里地里山調査の取り組み- (平山, 水谷, 西垣, 多田, 松村)
- P3-120c: トンボ成虫の種多様性のパターンを決める種ごとの環境選好性 (角谷, 須田, 鷲谷)
- P3-121c: 小笠原における遷移中期の在来樹種の発芽・定着に対する外来樹種ギンネムの影響 (畑, 可知)
- P3-122c: 外来樹木トウネズミモチの河川への侵入 (橋本, 服部, 石田, 赤松, 田村)
- P3-123c: 林冠と林床の撹乱が稚樹の定着と種組成に与える影響 (神保, 佐野)
- P3-124c: 静岡県内主要河川の河原植生における外来種の侵入程度 (鈴木, 川合, 足立, 足立, 山下, 澤田)
- P3-125c: ニホンジカの食性に及ぼす環境要因‐兵庫県の場合‐ (横山, 鈴木, 後藤, 木下, 坂田)
- P3-126c: ()
- P3-127c: 貯水ダム下流域における底生動物群集の流程変化様式 (波多野, 竹門, 池淵)
- P3-128c: 人工衛星を用いたモウコガゼルの移動経路の解明と生息地評価 (伊藤, 三浦, Lhagvasuren, Enkhbileg, 恒川, 高槻, 姜)
- P3-129c: 護岸工事が河道内生物に与えた影響 -水生昆虫類を指標とした評価- (木村, 福永, 平林)
- P3-130c: 都道府県別レッドリスト情報から見た日本産食虫目およびネズミ科動物の保護の現状 (横畑)
- P3-131c: 裸地における当年実生の生存とその形態的特徴_-_根_-_ (菅野, 藤山, 清水)
- P3-132c: 水生植物帯が持つRefugiaとしての機能:貧酸素環境からの予測 (山中, 神松, 遊磨)
- P3-133c: ()
- P3-134c: 流域特性に基づく塩生湿地植物の分布域推定 (小倉, 山田, 三橋, 鎌田)
- P3-135c: カラマツ剥皮被害を起こすのは誰か (船越)
- P3-136c: 野生ニホンザルによる農地利用の変化-電気柵設置事業の成果と課題 (鈴木)
P3-042: 小笠原における更新困難な固有樹種の植栽試験
小笠原諸島は貴重な生態系を有していながら,移入種との相互作用により撹乱を受けている固有樹種が多い.例えば,オガサワラグワやシマホルトノキは小笠原の森林を構成する主要樹種であったが,オガサワラグワは移入種シマグワとの交雑により,シマホルトノキは移入種であるネズミ類に種子を食害され,いずれも更新が大きく妨げられている.しかしながら,シマグワもネズミ類も個体数が非常に多く,直ちに根絶することが困難であるため,根本的な問題解決ができない.このため,補足的な手段として人工的に更新させる手法の確立が望まれている.本研究では,この2種の固有樹種を植栽により人工的に更新させる方法を試みた.
人工増殖に際しては土壌等にまぎれて陸産貝類やその他の移入種が持ち込まれるリスクを回避するため,播種・育苗から植栽まで全て小笠原諸島父島で行った.種子採取について,オガサワラグワは父島では親個体の分布が散在しており,シマグワと交雑していない種子を得ることが困難であることから,唯一オガサワラグワの群落が残存している弟島で交雑していない種子を採取して父島で育苗を行った.シマホルトノキの種子は父島で採取したものを用いた.種子採取は2000年に行い,育苗・植栽を2001年以降に行った.
父島での育苗及び植栽後の経過と問題点を報告する.
P3-043:
(NA)
P3-044: 移入カワマスと在来アメマスとの交雑現象
北海道では近年、外国産マス類の急速な分布拡大が進行しており、それらが在来種へ及ぼす影響が危惧されている。北米原産のカワマス(=ブルックトラウトSalvelinus fontinalis)もその一種であり、外国産マス類のなかでも特に同属のイワナ類との交雑可能性がきわめて高い魚種とされる。北海道空知川上流域でも、すでにカワマスの定着が知られていたが、その定着範囲や他種との交雑可能性については明らかではない。そこでこの研究では、空知川上流域を対象にカワマスならびに在来イワナ類の生息状況を調査し、種間交雑の実態を明らかにする目的で調査を行った。2004年6月に実施した捕獲調査によって、空知川支流の布礼別川、布部川、西達布川の22の調査地点において8魚種、1雑種(交雑疑惑個体)を確認することができた。サケ科魚類としては、流域全体に在来イワナ類であるアメマス(Salvelinus leucomaenis)とオショロコマ(Salvelinus malma)が生息したが、全22地点のうち12地点(55%)でニジマスかカワマスのいずれかの外国産マス類が侵入していた。雑種は外見上ではアメマスとカワマスとの中間型であり、カワマス・アメマス混成域の2つの調査地点で計12個体が確認された。雑種のDNA解析を3つのマイクロサテライト遺伝子座(SFO-12、SSA-197、MST-85)について実施したところ、中間型12個体のうち8個体はアメマスとカワマスとのF1雑種、残りが戻し交配由来の雑種であることがわかった。さらに、mtDNAの情報から母親判別をすると、F1のすべてがアメマス型であった。以上より交雑が非対称性におきていること、これが在来アメマスの再生産を妨げるプロセスとして働きうることが示唆された。
P3-045: 北海道石狩平野に残存する高層湿原の保全に向けた水文環境特性に関する研究
月ケ湖湿原(6.8ha,月形町)及び上美唄湿原(5.6ha,美唄市)は、かつて大規模に存在した石狩泥炭地の名残を留めるほとんど唯一の高層湿原であるが、周辺は農用地に囲まれ周縁部には排水路が敷設され、乾燥化の進行によるササの侵入とミズゴケ植生の衰退が進行し、農地との共存を目指した高層湿原植生の保全と復元が望まれている。そのための具体的方策の検討に寄与することを目的として、2002年秋から2003年秋にわたり、地下水位・融雪量・微気象などの水文気象観測、土壌調査及び植物調査を行い、地下水位変動や蒸発散の特性を明らかにし、雪の果たす地下水涵養の役割、排水路への流出実態、さらに湿原の年間水収支を明らかにした。
その結果、排水路が地下水位低下に大きな影響を及ぼしていること、また蒸発散量に関して、ササの侵入が著しい上美唄湿原の方がより長い期間にわたって高く推移し、年間総量も多いことが明らかとなった。
これらをもとに1年間の水収支を月別に推定した結果、年間を通して流出損失が大きく約4分の3を占めていたこと、雪は量的には多いものの融雪期にそのほとんどが流出し、現況では春期から夏期の涵養源としての役割は低いことが明らかとなった。
さらに、月ケ湖湿原を対象に排水路が敷設される開拓以前の水位を推定した結果、地下水位は年間を通じて地表面下20cm以下には低下しないことが示され、かつては年間を通じて高層湿原を維持するのに十分な水位が存在していたことをうかがわせた。また融雪水の地下水涵養機能を評価した結果、現在は湿原植物の生育に寄与していないのに対し、過去においては約1カ月長い6月初頭まで融雪水が20cm以浅に保持され、融雪水は湿原植物の生育に重要な役割を果たしていたことが推定される結果となった。
P3-046: 砂礫質河原の生態系を脅かすシナダレスズメガヤと個体群動態モデルを活用した対策
外来牧草シナダレスズメガヤは主に河川上流部の中山間地域において,治山・砂防工事における法面保護用の緑化植物として種子吹き付け等の工法により用いられてきた.現在では,そこで生産されたと推測される種子が流出し,全国各地の河川敷に侵入,定着している.代表的な急流河川である鬼怒川には,中流域にカワラノギクなどの砂礫質河原に固有な動植物が生育・生息している.しかし,1990年代半ば以降,シナダレスズメガヤの侵入が著しく,1990年度から実施されている河川水辺の国勢調査では,2002年度新たにシナダレスズメガヤ群落として認識されるまでになった.シナダレスズメガヤの繁茂は河原固有植物の複合的な絶滅要因の絡み合いの中で最も主要な要因の1つとなっており,適切な抑制対策を施すことが緊急に必要である.本研究では,村中・鷲谷(2003)で構築したシナダレスズメガヤの個体群動態を記述するシミュレーションモデルを活用し,河原固有植物が生育可能な外来種を抑制する対策を施した.
2002年3-4月に,シナダレスズメガヤが優占した河原を機械的に除去し,礫質の河原を回復させ,カワラノギクの種子を導入する河原固有植物個体群の再生の試みが開始された.2002年と2003年を累計して700,000を越える種子を生産されることができるなど,河原および河原固有植物個体群再生の予備的試験として成果を収めた(導入種子は10,000).既存のデータをパラメータとしてモデルシミュレーションを用いて検討したところ,シナダレスズメガヤが種子を生産する前に除去した場合は6_-_7年に1回,生産する直後に除去した場合では5_-_6年に1回基盤整備を実施するとカワラノギクの生育可能な河原を持続することができることが示された.このシミュレーション結果を含めた保全生態学的研究成果をもとに,行政・地域住民・研究機関の協働で2002年から実施されている「鬼怒川自然再生検討会」において,河原の健全な生態系を回復させるため,シナダレスズメガヤの抑制を提案した.2004年5月下旬以降には,シナダレスズメガヤの機械的抑制が広範に渡って実施される予定である.
P3-047: ブナ天然更新施業試験地における更新成績と遺伝構造
岩手県黒沢尻ブナ総合試験地では、1940年代後半から天然更新に関するさまざまな施業試験が実施されている。その中で1948年に皆伐母樹保残作業が行われた林分(プロット48)と1970年に母樹保残および実生が発生した1974年以降に下刈りが行われた林分(プロット70)でのブナの更新実態の調査および13のアイソザイム遺伝子座について遺伝構造の解析を行った。プロット48の保残母樹は6本/haでほぼ皆伐に近く、プロット70では13本/haであった。定着した高木性稚樹は、プロット48ではブナが80%以上を占め更新が成功しているのに対し、プロット70ではホウ、ウワミズザクラ、コシアブラが優占しブナの更新成績はよくない。更新稚樹は、プロット70では保残母樹の周りに強く集中していたのに対し、プロット48では母樹の根元付近は少なく樹冠縁付近に多く分布し、さらに母樹と母樹の間にも定着していた。これらの分布形態はプロット70では正規分布、プロット48では対数正規分布モデルで大雑把には説明できる。また,アイソザイム遺伝子頻度も、特定の対立遺伝子を持つ母樹の周辺でそれらの遺伝子頻度が高くなる傾向が見られた.しかし同時に、保残木周辺に定着した稚樹の中に他の母樹由来のものがかなりの程度含まれている事実も明らかになった。そこで稚樹の分布パターンにアイソザイム遺伝子の分布を重ね、周辺の母樹から推定した飛散花粉の遺伝子頻度を用いて非定常点過程モデルを構築すると、一般にブナの種子散布範囲といわれる30m程度の種子散布パラメータでは現データへの当てはまりが非常に悪かった.即ち,保残母樹的な仮説だけでは遺伝子も含めた稚幼樹の空間分布様式は説明できない。つまり、保残木は種子源としての機能を問わず、ネズミ等による長距離散布を含むブナ稚樹に定着サイトを提供することによって次世代更新に貢献する機能を併せ持つ可能性が示唆された。
P3-048: カメルーン熱帯雨林における狩猟
「森の民」としても知られる「ピグミー」系の人々は,アフリカ中央部のコンゴ盆地一帯に広がる熱帯雨林に暮らしている.これまでさまざまな研究において,「ピグミー」の諸集団が近隣農耕民とのあいだに密接な関係を築いて生活していることが報告されているが,それと同時に「ピグミー」は熱帯雨林の先住民であり,農耕民が焼畑農耕とともに進入してくる以前には森の中で独立して遊動的な狩猟採集生活を営んでいたとされてきた.
ところが,1980年代半ばから「ピグミー」をはじめとする世界各地に現存する狩猟採集社会に関する研究に対して,盛んに議論がしかけられたのである.それは研究者が無批判的に想定してきた「狩猟採集民」の真正性を批判したものであった.すなわち現代の狩猟採集社会は,同時代のマクロシステムにおける権力関係のなかで圧迫され,周辺化された結果として形成されたものであって,その意味で現代の産物であるというのである.
このような狩猟採集社会に関する批判的検討の潮流のなかで,Headland[1987]やBaileyら[1989]は,熱帯雨林での狩猟採集生活の可能性そのものに疑問を呈した.熱帯雨林には多様な生物が生息しており生命の宝庫ともいわれるが,実は人間が手に入れられる食物は少なく,とくにカロリー源が不足するのではないか.したがって,農作物を利用せずに狩猟採集の産物のみに依存した生活はきわめて困難であり,「ピグミー」など熱帯雨林の狩猟採集民とされている人々は,焼畑農耕をおこなう人々との共生関係なくして熱帯雨林地域に進入することはできなかったのではないか,というわけである.
この指摘は生態学的な観点によるものであるが,「ピグミー」らの社会的および文化的な側面に関しても重大な意味をもっている.つまり,農耕民との共生関係ないし農作物を入手することが「ピグミー」の生存上の必要性に起因し,それなしには熱帯雨林のなでは生きることさえ不可能であるならば,彼らの社会的ないし文化的な種々の特徴を「森の民」あるいは狩猟採集民的な性格を示すものとして解釈してきたこれまでの研究成果は再検討を迫られることになるのである.
本発表では,熱帯雨林とそこに住む人々に関するこのような問題をふまえながら,「ピグミー」と総称される人々のひとつであるバカをとりあげ,彼らが定住集落から数十kmも離れた地域でおこなわれる長期狩猟採集行を分析して,熱帯雨林における狩猟採集生活の可能性を検証する.このモロンゴ(molongo)とよばれる長期狩猟採集行の事例は,人間生活にとって熱帯雨林がもつ潜在力,とりわけそこにおける狩猟採集生活の可能性に関する議論に新たな展開を促すものとなる.
P3-049: 仲が良い鳥,仲が悪い鳥
バードウォッチャーは,ある種の鳥種が観察されると同じ場所でよく観察される他の種がいることを経験的に知っている.そのような同所的に観察される鳥種の組み合わせについての情報は図鑑などにものせられているが,実際に鳥類の出現パターンについての報告はなく,環境との関係も不明なことが多い.日本野鳥の会では会員などの参加による「鳥の生息環境モニタリング調査」を行っており、森林・草原地域については1994年と1999年に調査を実施している。1994年と1999年の繁殖期についての全国129の調査地点,72種の鳥類のモニタリングデータについて,鳥類の出現地点の類似度を算出し,同所的に観察される頻度の高い鳥種の組み合わせを検出した.また逆に,同所的には観察される頻度の低い鳥種の組み合わせも検出された.本発表では,その組み合わせについて報告し,さらに調査地点間の類似度についても算出し,環境との関係に考察を加える.
P3-050: カメラトラップ法の最小調査努力量をもとめる
赤外線センサーを利用したカメラトラップ法は,ある地域の哺乳類の多様性や個体数を調べる際の簡便で優れた調査手法であり,近年多用されているが,日本の山野で適用する場合の標準手法は未だ確立されていない.本研究では,野生哺乳類のモニタリング調査の標準手法を確立するために考慮が必要な諸条件(調査の時期や期間,使用するカメラの台数等)と解析法について,筑波山での事例をもとに検討した.2000-2003年の3年間に,茨城県筑波山山麓の森林内の固定した5つの観察地点において,生落花生を餌として年4回のべ200カメラ日の調査を行い,中大型哺乳類9種の写真を412枚得た.「ある地域の対象種をある確率で撮影するために必要な調査努力量」と定義される“最小調査努力量”という概念を提唱し,何台のカメラをどのくらいの期間仕掛ければ,対象地域の哺乳類の多様性を調べ上げることができるかをブーツストラップ法を用いて解析した.タヌキ,イノシシ,ウサギ,ハクビシン,アナグマといった主要な5種を対象とした場合,94%の確率で,最小調査努力量は40カメラ日と推定された.得られた結果を総合すると,日本の落葉広葉樹林においては,5台のカメラで4日間,すなわち20カメラ日の調査を晩春から晩夏に2回反復することが推奨される.以上の結論は,一つの調査地における事例から得られたものであり,日本全国に適用可能な標準手法を確立するためには,同様の調査を多地点で行うことが必要である.また,既存のデータを同一の方法で解析することも有益であるため,既にカメラトラップで調査を行っている方々には,本研究の解析方法を開示するとともに,解析結果の共有化を呼び掛けたい.本報告の詳細はMammal Study 29(1)に掲載予定である
P3-051: スギ造林が森林の蛾類群集に及ぼす影響
食植性昆虫である蛾類は、天然林を針葉樹一斉造林に変えることの影響を強く受けると予想される。これまでにも様々なタイプの森林の蛾類相を比較する研究があるが、スギ林、広葉樹林のクロノシーケンスに沿って多くの林分を比較した例は少ない。そこで、茨城県北部の阿武隈山地において、伐採直後から176年性(森林管理所書類による)に至る各樹齢の森林を10林分と、新植地から73年までのスギ林8林分を調査し、蛾類相を比較した。蛾類は天候、気象、月齢などの条件で、灯火に集まる個体数が著しく異なる。そこで、広葉樹とスギ林はそれぞれ同じ晩にライトトラップを一斉に掛け、蛾を採集した。スギ林は2001年8月に2回、広葉樹林は2002年8月に2回調査した。ライトトラップには無人で蛾をあまり痛めないよう考案した装置(http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/kanko/385-2.html)を用いた。8月は蛾の種類数が最も多くなる時であり、調査には都合がよい。広葉樹林、スギ林のいずれの場合も伐採直後には草原性の蛾が見られ、伐採地が山地草原性の種の生息場所となっていた。伐採後、広葉樹林では樹齢とともに種類数が増加したが、スギ林では樹冠が閉鎖するとともに減少し、下層植生が回復する樹齢(27年生以後)に再び増加に転じた。この傾向を蛾と同じ鱗翅類であり、同じ食植性の蝶と比較すると、明らかに異なっている。蝶は森林の生長と共には種類数が増加せず、より草原性の環境に適した種を多く含むグループ、蛾はより森林性の種を多く含むグループと考えられた。
P3-052: 河川掘削によるタコノアシ群落の成立とその遺伝的多様性
国土交通省は揖斐川、木曽川、長良川の木曽三川の洪水被害防止のため様々な施策を試みている。その三川のうち揖斐川は大垣付近において流速が遅くなり、河床に土砂が堆積しやすく、毎年洪水の被害が深刻化している地域である。そこで、2000年から2006年にかけてこの洪水流域の掘削を行い、河川流量の増大を計画し施工している。この稼働掘削域において、絶滅危惧II類として記載されているタコノアシ群落が各掘削域で毎年形成されていることが報告されている.タコノアシは埋蔵種子集団を形成し、河川の底泥をビオトープに用い足りすることによって、群落復元が可能であることが示唆されてきている。しかし、これらの埋蔵種子由来の群落がどのような遺伝的組成を持つかについて検討した例はあまり無い。そこで,これらのタコノアシ群落がどのような遺伝的多様性を持つかについて,アロザイムを用いて4年間にわたるタコノアシ群落の再生年度との関係を調査した。酵素種は10酵素、17遺伝子座が確認された。すべての集団(2000年、2001年上部、2001年河床部、2002年上部、2003年河床部、自然個体群)について、30個体から40個体についての調査を行った。その結果,これらの個体群は非常に近接して成立したにもかかわらず、遺伝的距離が大きいことが示された。また、掘削年度が同じであっても、増水時に形成された河床から離れた位置に形成された個体群と、河床に形成された個体群では、多型遺伝子座の比率がことなる傾向が認められた。また、どの個体群にも多型遺伝子座が非常に高い比率で認められ、近交係数が0に近い値を示していた。また、遺伝的多様性を示す、Aの値、Pの値についてもかなり高い値を示した。このことから埋蔵種子集団におけるヘテロ接合体頻度が高く、また、遺伝的にも多様性に富んでいることが示された。
P3-053: ケナフの他感作用に関する研究_-_フジバカマの発生及び成長に与える影響
他感作用とは「微生物をも含む植物界において,ある種の植物が自ら生産排出する物質を介して,同種または他種の植物に何らかの影響を与える現象」と定義されている。他感作用に関する研究はこれまで,作物や雑草の生育に関するものや実際に影響している物質の解明など,農学や農芸化学の分野で多く見られるが、生態学的な見地からの研究はまだ少ない。生物多様性や生態系の保全が問われる昨今,栽培植物や外来種の自生植物への影響といった視点からの他感作用の研究も必要不可欠であると思われる。しかし、他感作用は特異的な反応であるため,実際にどの植物に対しどのような作用を示すのかを知るためには,対象とする植物を用いて1つ1つ検証していく必要がある。そこで本研究では,CO2吸収能力の高さなどから「環境にやさしい植物」として環境教育の教材とされるほか,非木材パルプとして注目を浴びており,わが国において近年急速に栽培されるようになった植物であるケナフをとりあげ、同じ生活圏に生息する種で全国版のレッドデータブックにおいて絶滅寸前とされているフジバカマに対する他感作用の検証を試みた。 実験はシャーレによる発芽試験と、土壌への混播試験を行い、その発芽率、生残の追跡調査、現存量の比較等を行い、ケナフがフジバカマの発生と成長に与える影響を調べた。その結果、ケナフはフジバカマの発芽に対してはほとんど影響を与えないが、発芽後の成長に大きく影響を及ぼすことがわかった。ケナフは、単播の場合でもフジバカマとの混播の場合でもその生残や現存量に変化は見られないが、フジバカマはケナフと混播をすることにより、フジバカマ単播の場合よりも生残、現存量ともに激減することがわかった。最終的にはケナフと混播することにより、フジバカマの生残数は0になった。このことから、ケナフはフジバカマに対し、他感作用物質を有し、その成長及び生残に対して負の影響を与えることが示唆された。
P3-054: 長野県中南部における絶滅危惧フクジュソウ属2種の繁殖生態及びRAPD法による遺伝的解析
長野県中南部には環境省の絶滅危惧_II_類に指定されるフクジュソウ属2種(フクジュソウ、ミチノクフクジュソウ)が分布する.本研究では保全生態学的立場から両種の繁殖生態及び遺伝的情報について把握することを目的とした.集団規模に応じてフクジュソウは4地域,ミチノクフクジュソウは5地域を調査対象とし,2003年3月下旬_から_4月下旬に1×1_m2_枠を設け訪花昆虫の種類,個体数,訪花時間を測定した.また人工他家受粉,人工自家受粉,除雄,ネット,無処理の計5処理区を設け成熟果実数,未成熟果実数,果序長を計測した.
訪花昆虫種数,訪花頻度はフクジュソウでは17種・8.06個体/花/回,ミチノクフクジュソウでは61種・3.62個体/花/回であった.フクジュソウではニホンミツバチとヨツモンホソヒラタアブを,ミチノクフクジュソウではセイヨウミツバチ,ビロードツリアブ,カグヤマメヒメハナバチ,ミヤマツヤコハナバチ,ヤヨイヒメハナバチを主要ポリネーターと考えた.フクジュソウは9.0~24.0℃,ミチノクフクジュソウは12.0_から_30.0℃で訪花を確認し,21.0℃以上で訪花頻度が低いのは前者では花期終了,後者は他種との競争のためと考えられた.両種ともに訪花頻度の増減と太陽高度との関連性が示唆された.両種のネット処理区の結実率は無処理区に比べ有意に低くポリネーターの貢献度の高いことが示唆された.また両種の人工自家及びネット区結実率は約10_から_30%で自家和合性を有することが示された.結実率と訪花頻度及び集団規模との関連性はなかった.
両種は完全な他家受粉型でないことが示されたが,遺伝的多様性維持にはポリネーターの関与が貢献すると考えられた.両種の訪花昆虫相は目単位ではハチ目:ハエ目=7:2.5でほぼ等しいが花期の違いにより種レベルで大きな違いがみられ,多様なポリネーターの訪花により受粉効率が高められていると考えられた.
P3-055: 絶滅危惧種クロミサンザシの道央地方での生育状況と繁殖特性
絶滅のおそれのある樹木クロミサンザシの生育状況と繁殖特性を明らかにするため、道央地方空知管内の防風林において調査を行った。生育状況調査は,予めクロミサンザシがあるとわかっていたヤチダモ林の周囲約7km内のヤチダモ,シラカンバ,ヨーロッパトウヒなどの防風林25林分を対象にした。その結果25林分中4林分でクロミサンザシが確認できた。上層木の樹種別にみると、ヤチダモを主体とする防風林にのみで確認され,天然林だけでなく人工林にも分布していた。ヤチダモ林だけに限定してみると,クロミサンザシが出現した林分は,しなかった林分よりもササの被度が低かった。繁殖特性調査は,様々な環境条件下での結実量,更新状況,種子分散について調べた。上記の林分で,樹冠下,ギャップ,林縁など光環境の異なる場所で,結実量を調べた結果,より光条件のよいと考えられる場所で,結実量が多い傾向があった。また,胸高直径5cm未満の稚樹の7割は樹冠下に位置していた。種子分散の調査は,調査林分の周辺に,クロミサンザシの種子の供給源と考えられる林分が1カ所しかなく,母樹林がほぼ限られているシラカンバ人工林で行った。母樹林からの距離とクロミサンザシの稚樹密度との関係について調べた結果,稚樹の密度は母樹林からの距離が離れるに従い、低下する傾向があった。これらのことから,道央地方空知管内の防風林において,クロミサンザシの保全対策を考える場合,防風林の維持管理や配置に配慮することが重要であることが示唆された。
P3-056: 改修河川で見られたタンチョウの採餌環境における生物群集の構造ー冬季の音別川・阿寒川水系を例にしてー
調査は1999年12月-2000年3月、釧路管内音別町の音別川・霧裡川、及び阿寒町の阿寒川・舌辛川において、タンチョウの採餌行動観察を行い、河川内の摂餌場を特定した。摂餌地点の現存量などを明らかにするため底生生物の定量採集(40cm×40cm方形区枠を3カ所設置)を、魚類相を明らかにするため手網(目合い1mm)による定性採集を行った。
採集した底生生物は可能な限り種レベルまで同定したが、属もしくは科レベルまでしか同定していないものもある。採餌地点の環境を明らかにするため、川底の底質、水温、水深、流速、河畔林の状態、川幅、河川の形状、高水敷・低水敷及び堤内の様子などを記録した。
定量採集調査で個体数頻度が高かった分類群として、ヒメヒラタカゲロウ属sp.、ウルマーシマトビケラ、ユスリカ亜科、エリユスリカ亜科、オナシカワゲラ属sp.、コカクツツトビケラ属sp、ミドリカワゲラ科spp.、ミズムシ(半翅目)、ウスバヒメガガンボ亜科、クロカワゲラ属sp.などがあった。また、これらの分類群はいくつかのパターンに分けることが出来た。1.ヒメヒラタカゲロウ属sp.、ウルマーシマトビケラ、ユスリカ亜科群集2.オナシカワゲラ属、ユスリカ亜科群集3.クロカワゲラ属sp.、エリユスリカ亜科群集4.コカクツツトビケラ属sp.、エリユスリカ亜科群集5.ミズムシ群集6.ウスバヒメガガンボ亜科群集など
さらに、これら採集した底生生物から各採餌地点の水生生物群集組成の特徴を明らかにし、それら群集組成と採餌環境(物理環境)との関係について座標付け(ordination)による解析を行った。これらを元に越冬期におけるタンチョウがどのような自然環境を餌場に利用するのかということを考察していきたい。これらの結果の解釈ついてご示唆いただけると幸いである。
P3-057: 吉野川流域における針葉樹人工林と広葉樹自然林の土壌孔隙率・最大容水量の比較
森林土壌は、土壌孔隙により降雨を一時貯留する機能を持っている。この貯留能力は下層土壌では、土壌母材や地質による影響を受けるが、表層土壌では、森林の管理、保全の仕方の違いや植生の影響を受ける。そこで表層土壌に着目し、吉野川流域における、自然立地条件を同一にした同一斜面に隣接する植生の異なる針葉樹人工林と広葉樹自然林での表層土壌の土壌孔隙率と最大容水量を測定し、植生の違いによる土壌のもつ保水力を比較し、「緑のダム」計画を評価することを試みた。
調査地は、吉野川流域の12地点である。調査方法は吉野川流域の12調査地それぞれにおいて、隣接する人工林プロット内の2ヶ所と自然林プロット内の2ヶ所を選定し、掘削によって土壌断面を作成し、表層から深さ50cmまで、断面に沿って土壌を採取した。土壌採取には、非撹乱試料採取のための100ml(直径5cm 高さ5cm)ステンレス円筒サンプラーを用いた。各個所で表層土壌0_から_5cmを3サンプルと、深さ5_から_10cm、15_から_20cm、での2層で2サンプルずつの計7サンプルを採取した。採取した試料は、土壌の三相構造(気相・固相・液相)を調べる土壌三相計を用いて、土壌孔隙率(porosity)を求めた。また最大容水量(Maximum Water Holding Capacity)の測定も行った。
その結果、土壌孔隙率・最大容水量ともに、深さ(0_から_15cm)において、人工林より自然林のほうが高く、これは広葉樹の落葉・落枝やそれに伴う土壌動物の活動による影響と考えられる。また強間伐人工林も自然林と変わらない土壌孔隙率・最大容水量を有していた。
本研究の結果から、吉野川流域の人工林において、強間伐等の管理を適切に行った場合には、表層の15_cm_深において一雨ごとに2915万トンの保水容量の増加が見込まれることになり、これは、1本の間伐に付き70.1リットルの保水量の増加に相応する。
以上のことから、流域全体を考えた森林において、孔隙率に富んだ表層土壌を有し、またそれが保護され維持される森林施行が行われるならば、大容量の貯水機能を備えた「緑のダム」が、コンクリートダムのみに頼らないダムに匹敵するものと考えられる。
P3-058: シマアオジ激減!(草原性鳥類のモニタリングと鳥相変化)
全国的に一部の夏鳥の減少が危惧されているが、北海道ではシマアオジをはじめとする草原性鳥類の減少が目立つ。そこで北海道の湿原や草原において鳥相の変化を調べた。北海道では1974_から_1985年の繁殖期(5_から_7月)に、ラインセンサス法によって10地域27ルートの湿原や草原で鳥類調査が行われている。これらの結果をもとに各ルートにおいて、2002年と2003年の5_から_7月に同様のラインセンサスをのべ5回実施し、約20年間の鳥相変化を明らかにした。過去もしくは今回の調査で6ルート以上で確認された種について個体数の増減を調べた結果、とくに減少が著しかった鳥類は、シマアオジとマキノセンニュウで、このほかヒバリ、ビンズイ、コムクドリについても減少していた。増加していた種は、トビ、ヒヨドリ、ウグイス、センダイムシクイであった。
シマアオジは、過去の調査では23ルートで確認されていたが、今回の調査で確認できたのは5ルートのみで、消滅したルートは18ルート(78%)であった。マキノセンニュウは、過去と今回の調査で18ルートで確認されているが、今回の調査では7ルート(39%)で消滅、8ルート(44%)で減少しており、全体の83%の地域で消滅または減少していた。
ウグイスは、過去と今回の調査で確認された13ルートのうち12ルート(92%)で増加または新たに出現していた。センダイムシクイは、過去と今回の調査で確認された13ルートのうち10ルート(77%)で増加または新たに出現していた。ウグイスはササの繁茂する場所を好む種であり、センダイムシクイはハンノキ林やヤナギ林などにも多く生息する種である。ウグイスとセンダイムシクイの増加は、地域的に湿原の乾燥化によるササの侵入、ハンノキ林やヤナギ林の発達などとも関係している可能性がある。
P3-059: 植物分布データに基づく絶滅確率を用いた最適な保護区の設定
希少な動植物の保全方法を選択する上で、近年は各生物の絶滅確率を評価指標として用いた手法がとられ始めている。数値を用いた予測評価により判断基準が明確になるメリットがあるが、希少な生物の分布・生態に関する情報が少ないとモデルの構築が難しい。北海道においても個々の希少種の生態に関する情報の集積は不十分であるが、広域における分布情報(10kmメッシュレベルの生育の有無の情報)については、以前より精力的な情報集積が行なわれてきており、それに基づいた保護行政の実施を目指している。ここでは、特に希少な植物種の分布データと植生データをGISにより解析し、北海道全体という広域での絶滅確率を用いた評価モデルを作成した。
希少な植物の多くは、高山帯・湿原・海浜といった特有の環境に依存して分布しており、それらの環境はパッチ状に北海道内にちらばっている。このような環境について、パッチごとにその属性(面積・標高・地質など)を整理してデータベース化し、各パッチごとに分布する植物を集約してデータセットとした。パッチごとに絶滅確率を設定し、植物ごとに北海道内での絶滅確率を分布パッチの絶滅確率の積和として求め、その総和、すなわち「絶滅種数の期待値」を現状の指標とした。パッチの中で希少種が生育するにも関わらず保護区が設定されていないもの「保護ギャップ」(保護政策の隙間にあるエリア)として抽出し、その分布や属性の傾向を整理した。また、それらに保護区を設定した場合、北海道全体での絶滅種数の期待値がどの程度低下するかを求め、設定する優先順位を決定した。
発表では、絶滅確率の算出方法をパッチごとに一定の場合、パッチ面積・パッチ間距離に依存する場合、パッチの開発確率に依存する場合などに変化させた場合の結果を紹介する。また、広域の分布データを用いて作成する指標が持つ可能性について論じる。
P3-060: 森林性動物を用いた二次林再生過程の評価方法の検討
現在、釧路湿原では環境省を中心に自然再生事業が行なわれており、人為的な負の影響を取り除くことによって、自然が自力で回復するような方法が模索されている。この方法の検討のためには、自然の再生の過程を客観的に予測評価することが求められる。その方法の一つとして特定の生物の個体数を用いて評価することが挙げられるが、生態系は複雑で多変量からなり地域によって特性が大きく変わるため、個々の環境の特徴をとらえた指標をつくることが重要である。
釧路湿原・達古武地域沼の森林は、かつては落葉広葉樹林が成立していたと考えられている。明治時代から多数回の伐採を受けており、現在は若い広葉樹二次林や人工林がほとんどである。また、ササ草地や裸地化したまま、森林が回復していない場所も少なくない。こうした若い二次林やササ草地・裸地を、過去の森林に近づけて、森林を取り囲む生態系を復元することが自然再生の課題となっている。
ササ草地・若齢二次林から比較的発達した林分まで、林齢が連続的になるように、複数林分に調査区を設定して林分構造を調査した。各調査区で指標となる可能性のある森林の依存性の強い動物(森林性動物)として鳥類・野ネズミ類・歩行性甲虫について、定量的な調査を行なった。これら3つの動物は、移動能力や森林内での生息環境や必要な空間スケールが異なるため、再生過程にある森林での生息状況が異なるパターンを示すことが予想される。調査区のデータを時系列化して、森林再生過程(森林の発達段階)における種組成・森林性の個体が占める割合・生息密度などの変化を明らかにし、それぞれの指標としての特徴と有効性について検討する。
P3-061: 房総丘陵の絶滅危惧ヒメコマツ集団における極端な自殖
房総丘陵におけるヒメコマツ(Pinus parviflora var. parviflora)個体群は暖温帯域の低標高域(400m以下)に成立している貴重な個体群だが、近年急激に減少している。現在生存しているのは80個体に満たず、分布の断片化も進み、離れた小さなパッチ状に生育している(尾崎ら 2001)。
そこで、本研究ではこの個体群の保全を目的として、マイクロサテライトマーカーを使った個体群の分子生態学的調査を行った。
解析に用いたマイクロサテライト遺伝子座は4遺伝子座で、解析した全集団での遺伝子座ごとの平均アリル数は22.5、平均ヘテロザイゴーシティーは0.84となった。
まず、房総丘陵集団(全個体)と他地域の比較的健全な個体群7集団との遺伝子多様度の比較と、房総丘陵のパッチ間の遺伝的分化の度合い(FST)の解析を行った。その結果、全8集団での遺伝子多様度は0.840-0.918、房総丘陵集団は0.854であり、遺伝的多様性は失われていなかった。また、それぞれの集団間のFSTは0.051に過ぎず、房総丘陵のパッチ間でのFSTも0.046で、著しい遺伝的分化は見られなかった。よって、房総丘陵集団での個体群の激減や分布の断片化は過去20-30年の短い期間に起こったものと考えられる。
次に、現在房総丘陵に残っている集団内で(特に、離れたパッチ間で)花粉による遺伝子流動が行われているかを調べた。2002、2003年に房総丘陵の母樹から採取した種子のうち、72個の種子の遺伝子型を調べて、花粉親となる個体を決定した結果、これらの種子の内90%以上が自殖に由来していた。また、採取した種子をみると、中身の充実した種子が少なく、充実種子率は17%と低い値をとった。すなわち、自殖による近交弱勢で充実種子の割合が減り、残った種子も自殖由来のものであったということになる。
以上より、この個体群はごく近年に起こった個体群の減少により、pollen limitationが起こり、結果として自殖化が進み、不稔の種子が増加してしまっている事がわかる。
P3-062: 希少種ベニバナヤマシャクヤクの個体群動態と盗掘による影響の予測
絶滅が懸念される希少な動物の保全を考える上では、個体群レベルでどのような構造を持ち、どのように推移しているのかを把握する必要がある。なぜなら、それらが絶滅の監視になるとともに、それがその植物の生活史や環境・他の生物との関わりを反映しているからである。
本発表では、落葉樹林の林床や林縁に生育する多年草でRDBに指定されているベニバナヤマシャクヤクPaeonia obovataの個体群を材料に取り上げる。北海道大雪山国立公園東部で確認した個体群において個体識別を行ない、6年間にわたって個体サイズの変化と繁殖状況を追跡した。本種は葉数に基づいてサイズ階を区別することができるため、葉数を基準に推移行列モデルを作成して個体群の推移を予測した。その際に、6年間の推移率・死亡率・繁殖率の変動から行列の各要素の変動を与えて推移をシミュレーションし、100年後の絶滅確率を求めた。
また本種は、生育地の減少とともに高い盗掘圧が脅威となって個体数が減少している。この影響を評価するために、モデル上で開花個体の除去あるいは大サイズ個体の全除去を行なって、個体群が盗掘前の水準に戻るまでの年数を求めた。
以上の結果から、予測される本種の生活史特性と、盗掘の与える影響について述べる。
P3-063: 都市生態系の再生における屋上緑化の意義と可能性
本来の自然生態系(日本では森林生態系)が保持していた水循環のメカニズムは、コンクリートとアスファルトが卓越した都市生態系においては大きく歪められ、降水の大部分(90%以上)は土壌表面に浸透することなしに、下水溝から河川・海洋に流出し、都市域での再循環は極限定されている。そのため、年間を通しての大気の乾燥化と特に夏期におけるヒートアイランドといった現象が顕著となる。この都市生態系の治水機能の喪失は、集中豪雨の際の地下洪水を発生させ、潜熱(気化)の極端な減少によるヒートアイランドは冷房などのエネルギー(電力など)の消費を促進し、更なるヒートアイランドを生み出す。 このような都市環境の改善に向けて、最近国土交通省は都市域を中心にビルデングの屋上緑化を促進する法整備を進めている。しかし、従来の屋上緑化では、「緑化」や「屋上温度の低減」が中心で、その維持に灌水を前提としており、降水の再循環などは考慮されていない。そこで、軽量、安価で保水力に優れた竹炭に注目し、これを大量に使用することによって、森林に優るとも劣らない水循環を再生させ、合わせて都市の乾燥化やヒートアイランドをも大きく低減させる「屋上緑化」システムの構築を試みた。具体的には、土壌と1/1(同重量)、1/2、1/4、0kgの竹炭及び土壌の立体構造の創出のために発泡スチロールを土壌容積の30、20、10、0%を混合した16処理区を設置し、タイ国ピサヌロークの国軍司令部屋上で2004年2月_から_3月に実証実験を初期灌水後、無灌水で行った。その結果、竹炭と発泡スチロールの使用量が多いほど、土壌湿度は高く維持され、土壌表面や土壌深5cmの日中温度は無使用区と比較して10_から_20℃低減した。また、熱収支では、竹炭と発泡スチロール使用区は有効放射量の大部分は潜熱(水蒸気)で大気に還元され、顕熱や土壌への熱移動は僅かであった。使用した竹炭は1ha当り300tonで、併せて熱帯雨林に相当する温暖化ガスであるCO2の固定を実現した。
P3-064: カラマツ人工林における広葉樹稚樹の分布と生育阻害要因の分析 _-_釧路湿原周辺における自然林再生手法の検討_-_
北海道東部の釧路湿原周辺のカラマツ人工林では、これまでの除間伐と林内放牧などの影響によって、広葉樹稚樹の密度が低くなっている。このような林分において、カラマツ人工林から自然林への転換を考える場合には、人為的要因以外に広葉樹の更新を規定している要因を明らかにすることが効率的な自然林再生手法を探るために必要である。そこで、母樹林との距離・林床開空率・林冠開空率・エゾシカ被食圧などから稚樹の更新に影響を与えている生育阻害要因の特定を試みた。
調査対象は釧路湿原東部にある達古武沼北岸に位置するカラマツ人工林である。面積は約120haで、造林後32年_から_40年が経過している林分である。稜線には残置防風林帯として広葉樹林が残されており、種子の供給源となる繁殖個体も分布している。
調査区は、稜線上の広葉樹林(母樹林)から斜面方向直角に数本の測線を伸長し、それぞれの測線上に稜線からの距離が異なるように設定した。調査測線は7本、調査区は30箇所である。調査区の大きさは5m×5mで、調査区内に出現する稚樹については種名と被食の程度を記録後、樹高・前年の伸長量を測定し、植生については出現種を記録、被度(%)・植生高を測定したほか、林床・林冠の全天写真を撮影し開空率を算出した。このほか、母樹林からの距離が異なるようにシードトラップを設置して、飛来種子をカウントし、持ち帰った表土の撒き出しによる埋土種子発芽試験を行なった。
母樹林から離れるほど、種子の捕捉量が急激に減少する逆J字曲線を描く、稚樹密度も同様の傾向が見られるなど、種子供給が広葉樹稚樹定着の要因であることが予測されたが、林床開空率・林冠開空率はほぼ均一で、かつ稚樹数も少なく、光条件と稚樹定着・成長の関係は十分検証できなかった。
得られた結果から、カラマツ人工林の自然再生手法について議論する。
P3-065: タチスミレ群落における火入れの効果
タチスミレは,湿地に生える多年草で,5月から6月にかけて開放花,その後晩秋まで閉鎖花をつけて種子を生産する。その間ヨシやオギの間で延々と茎を伸ばし続け,草丈はしばしば1mを超えるという風変わりなスミレである。タチスミレは朝鮮,中国東北部,アムール地方に分布するが,日本では関東地方の利根川水系と九州の限られた場所での記録があるのみである。その生育地は,開発ばかりでなく,かつては人為的な攪乱があったところが放棄されて遷移が進行し,生育の状況はかなり悪化している。国のレッドデータブックでは,絶滅危惧IB類(EN)に指定されている。
現在,茨城県でのタチスミレの生育は,利根川の支流である小貝川と菅生沼で確認されている。今回報告する菅生沼のタチスミレ群落は,オギの優占する群落で,1998年まで付近の住民による草刈りが行われていた。その後放棄され,オギのリターが積もるようになってタチスミレは衰退した。
筆者はタチスミレ群落の復元を試み,2003年と2004年の1月に群落の火入れを実施した。火入れの効果をみるために,16×8mの枠を設置し,2003年と2004年の4月末に,タチスミレの当年生実生を除く全ての個体について位置と株の直径を測定した。結果は2003年4月の147個体/128m2から,7,171個体/128m2へと密度が約50倍増加した。
さらに,火入れによるタチスミレの発芽促進の要因を明らかにするために,近傍のタチスミレの生育しないオギ群落に,2004年1月,タチスミレの種子を播種した。処理区は(a)播種後火入れ,(b)火入れ後播種,(c)火入れせず播種リター除去,(d)火入れせず播種リター戻し,とした。結果は,(d)を除く全ての処理区でタチスミレの発芽をみた。火入れは発芽にとって必須条件ではなく,リターを取り除くことが重要であることが分かった。
P3-066: 兵庫県南部の孤立社寺林における植生と光環境の林縁効果
森林が環境保全機能を保持するためには、安定した林内環境が多く必要である。しかし森林の断片化、小面積化に伴い林縁部の占める割合が増加する。本研究では、孤立社寺林において林縁効果の及ぶ距離を光環境の変化から明らかにし、林内環境を十分に保全するために必要な森林面積を試算した。調査は神戸市西区太山寺の照葉樹林及び二次林と西宮市西宮神社の社寺林で行った。林縁から林内へ長さ40mのトランセクトを設置し1m間隔で毎月、全天写真を撮影した。またトランセクトから左右20m幅のプロットにおいて毎木調査を行った。
太山寺照葉樹林では、毎木調査及び光環境の測定結果から林縁と林内で明確な違いが見られた。二次林では、毎木調査の結果からは照葉樹林のような林内環境は見られなかったが、全天写真の解析からは林縁から林内に向かって光環境が安定する変化が見られた。林縁効果の及ぶ距離は、照葉樹林で27_から_31m、二次林で19_から_23mという結果が得られた。林冠高との相対値でみると二次林の方が照葉樹林より林縁効果が長く及んだ。しかし、照葉樹林では林縁から林外へ10mほどササが茂り、この外部から森林への移行帯を考慮すると、約40m林縁効果が及ぶと考えられる。よって林内環境の保全には、照葉樹林においては約40m、二次林においては約20m、周囲に緩衝帯を設ける必要がある。西宮神社では林縁部が壁で覆われているため、林縁から林内にかけて一様に暗く、光環境における林縁効果は見られなかった。上層の林分構造は太山寺照葉樹林と類似していたが、中下層は太山寺二次林と類似していた。また、ササやシュロが林内にまで深く侵入し、植生における都市化の影響が見られた。市街地において自然性の高い森林を保全するには、保全面積の確保と同時に、侵入植物の除去や後継樹の育成など人為的介入が必要と考えられる。
P3-067: シカを捕るだけでは森は蘇らない
大台ヶ原は,西日本で最大級の原生的な自然林であるが,近年,更新の阻害や立ち枯れによって,森林の衰退が著しく,その存続が危ぶまれている。私たちは,大台が原を構成する3つの主要群落のうちの一つ,ブナーウラジロモミーミヤコザサ群落において,ニホンジカ,野ネズミ,ミヤコザサ,鳥などの複合的な実験処理区を設け,森林下層部の植物群落,無脊椎動物群集,土壌などの構造と性質の年変化や季節変化についての定量的なモニタリング調査を,1997年から行ってきている。また,ニホンジカの密度の違いによる植生と鳥群集の比較調査を行っている。ニホンジカの個体数とミヤコザサの地上部現存量は,現在,需給の釣り合いによって,平衡状態にあると考えられた。ところが,ニホンジカの除去区では,ミヤコザサの地上部現存量はその生産力の高さによって,わずか5年間で最大値まで回復した。ニホンジカによって食べられなかったミヤコザサはリターとして,ニホンジカによって食べられたミヤコザサは死体や糞尿として土壌にかえり,それが養分として,再びミヤコザサに吸収される。このニホンジカ_---_ミヤコザサ_---_土壌の各要素間の窒素循環の動態についてシステムダイナミクス・モデルを作成した。さらに,このモデルを拡張させて,ニホンジカ個体数増加と,それにともなうミヤコザサ現存量の減少や枯死木の増加が,樹木実生,鳥類,地表節足動物,土壌動物の個体数や多様性に及ぼす影響を組みこんだ。シカ密度あるいはミヤコザサ現存量の影響は,生物群によってさまざまに異なっており,すべての生物群にとって好ましいニホンジカ密度やミヤコザサ現存量は存在しなかった。樹木の枯死の減少と天然更新の増加によって森林の再生が最も促進される管理手法を検討した結果,シカの個体数駆除と同時に,その主要な餌であるミヤコザサの現存量を減らす必要があることが分かった。
P3-068: 小笠原諸島媒島におけるタケ・ササ類の拡大
小笠原諸島媒島では,過去に導入されたノヤギが異常繁殖し,森林の急速な衰退や裸地の拡大,土壌流出が生じるなど,生態系の破壊が進行した.このため,ノヤギの排除が行われ,1999年に完全排除が達成された.今後の生態系修復を進める上で,植生の回復過程における外来植物の動向を監視することが重要な課題となる。媒島には外来種であるヤダケとホテイチクが生育し,主に媒島最大の残存林である屏風山に群落を形成している.当残存林は媒島の植生回復にとっての種子供給源である.今後,タケ・ササ群落が拡大することにより,稚樹の生育が阻害され,残存林が衰退すれば,島全体の植生回復に影響を及ぼす可能性がある.そこで,ヤダケとホテイチクの生育状況と群落の拡大過程を明らかにし,タケ・ササ群落の拡大が在来植生に与える影響について調べた.
過去(1978年,1991年,2003年)に撮影された空中写真からタケ・ササ群落の分布の変化を調べた.1991年まではタケ・ササ群落の分布はあまり変化していなかった.しかし,1991年から2003年にかけては,これらの群落は大きく拡大しており,1999年のノヤギ排除後に急速に拡大し始めたと考えられる.在来植生への影響を明らかにするために,タケ・ササ群落と森林群落や草本群落との境界部の植生構造を調べた.ヤダケとホテイチクは密生した群落を形成しており,それらの下層では隣接する草本群落や森林群落と比べて出現種数や被度が明らかに低かった.また,森林群落林床ではノヤギ排除後に林冠構成種や媒島で個体数の少ない種の稚樹がみられるが,タケ・ササ群落の林床には全く出現しなかった.ヤダケとホテイチクはノヤギ排除後に急速に拡大しており,これらに覆われた場所では,在来植物の生育や更新が阻害されていると考えられる.
(本調査は東京都小笠原支庁委託小笠原国立公園植生回復調査の一環として行った.)
P3-069: 生息確認地点だけによったメダカ生息適地推定_---_茨城県南部1960-70年代の例
メダカは、かって浅い池沼や水田とその周辺の止水域を中心に広く生息していた。しかし、近年は水田地帯の乾田化・給排水路整備に伴い生息地が減少している。このようなメダカ分布の減少は共存する生物種の分布減少をも伴っていると考えられるが、メダカ生息適地の変化を推定することによって同時に、他の生物種の生息適地の変化をも推定することができると考えられる。
そこで、メダカの分布確認地点を和田ら(1974)の報告より参照し、土地利用分布は国立環境研で作成したものを採用して、両者の関係からメダカ生息適地の推定を1960-70年代の茨城県南部について行なった。具体的には、上記データをラスタ形式として整理した上で、環境条件の全体的分布の上でメダカ生息確認地点の環境条件分布をできる限り局限するかたちでBiomapperソフトウェア(Hertzel, 2002)を用いて生息適地を推定した。
結果として、好適度の高い区画は水田地帯に多くなり、また市街地の存在が好適度に対して比較的良い方向に働いた。推定結果を、交差検定及び独立した生息確認地点データとの比較で検定したところ、どちらの検定でも好適度は生息確認地点と無関係であるとは言えず、この結果は信頼度が高いものと考えられた。
P3-070: 八ヶ岳、大門川の源流に設置された治山堰堤周囲の植物群落について
日本の山岳地帯には、土砂災害防止を目的として河川源流沿いに治山堰堤が多数設置されている。これらが設置されたことにより、自然状態では存在しえなかった立地環境が作り出されている。本調査地の水系においては、コンクリート製のクローズドタイプの治山堰堤と、鉄骨製のオープンタイプの治山堰堤が設置されており、この違いによって植物にとって異なる環境が創出されると考えられる。そこで、2種類の堰堤について、周囲の植生の違いとそれをもたらす要因について研究を行った。
本調査地は八ヶ岳の主峰、赤岳の南東を流れる大門川の源流域であり、標高は1700mから1900mであった。流水は春季の雪解け水による氾濫と、夏季の集中豪雨時のみ確認された。
大門川において、植物にとっての環境が変わったと考えられる堰堤周囲の立地に調査区を設けた。河道に直交するようにラインを引き、ライントランセクト法によって5m2の調査区を設置し、植生調査、毎木調査、河道からの距離および比高の計測、有機物を含む砂礫堆積物の深さの計測を行った。また、設置されてから25年以上経過したクローズドタイプの堰堤とオープンタイプの堰堤周囲に10m×50mほどの調査区を設置し、実生を含む毎木調査、地形測量に基づく地形分類を行った。
堰堤周辺の立地は高位安定立地、低位氾濫源、河道の3種類の地形に分類された。高位安定立地にはオノエヤナギ、ヤハズハンノキなどが生育しており、コメツガの実生の出現が顕著であった。低位氾濫源は増水時において流水の影響を受ける立地であり、オオバヤナギ、ズミなどが生育していた。河道はイタドリなどの先駆性草本種がわずかに存在するだけであった。
クローズドタイプの堰堤とオープンタイプの堰堤を比較すると、後者においてオオバヤナギが優占して生育している傾向が見られた。オープンタイプの堰堤では河道が網状になりやすく、氾濫源を創出することが出来るためと考えられた。
P3-071: 北海道芭露川河口におけるアッケシソウ生育地の環境調査と保全手法の検討
北海道のサロマ湖に流入する芭露川の河口には塩湿地が分布しており、アッケシソウ(Salicornia europaea)が生育している。芭露川では洪水対策として河川改修が計画されているが、現在までの河川改修計画では河道線形の設計検討等により本種の生育地への直接改変が回避されている。しかし、本種は潮汐や地下水位等の影響を受けた特殊な環境に生育しているため、今後改修工事を進めていく中で本種の生育に対して予測不能な影響を及ぼす可能性もあり、あらかじめ本種の保全対策を検討しておくことが重要な課題となっている。そこで、本調査では芭露川河口における本種の生育状況及び生育環境等の現況を調査し、本種の保全対策を検討した。
現地調査の結果、本種の生育密度には場所による粗密が見られた。密生地は平坦地で、疎生地は凸凹地であり、本種の生育には地表面の微地形が関与している可能性が示唆された。土壌分析の結果、密生地の土壌は疎生地に比べ交換性陽イオンの濃度が高く、汽水由来の塩類が多く集積していることが明らかとなった。地下水位観測及び土壌水分観測の結果、生育地の地下水位はスゲ類やヨシ等が優占する塩湿地の地下水位よりも高く、土壌水分も過湿な状態が長期間続いていた。
これらの調査結果より、今後の河川改修時における本種保全上考慮すべき点として、平坦地や凸凹地等の微地形に変化を持たせておく必要があること、大潮時に湖水が流入し土壌に塩類が集積する必要があること、過度な淡水流入を生じさせない必要があること、現在の地下水位の挙動を変化させず高水位状態を維持していく必要があることなどが考えられた。
P3-072: 絶滅危惧植物タコノアシの発芽と実生生長に及ぼす水田除草剤の影響
タコノアシ(Penthorum chinense Pursh)は,かつて日本の泥湿地・河川敷に広く分布したユキノシタ科の多年草である。しかし,近年,自生地の開発などに伴って個体数が減少しており,レッドデータブック(環境庁 2000)で絶滅危惧II類に位置づけられた。この植物の分布は水田地帯と重なっており,その発芽期も水田除草剤の施用期と一致するため,実生の定着が水田除草剤の影響を受ける可能性がある。そこで,主要水稲用除草剤(ベンスルフロンメチル,メフェナセット,シメトリン,ベンチオカーブ)がタコノアシの種子発芽と実生生長に及ぼす影響を室内暴露試験によって検討した。
グロースチャンバー(14時間明期25℃,暗期15℃)で発芽試験を行い,除草剤処理20日後の発芽率・幼根長を測定した。また,三葉期実生を用いて同様な環境条件での暴露試験を行い,除草剤処理10日目から10日間の回復処理(除草剤無処理)を施し,回復処理中の湿重増加を実生生長として算出した。
全ての除草剤は本種の幼根伸長と三葉期実生の生長を顕著に抑制したが,種子発芽についてはベンスルフロンメチルのみが阻害した。シメトリン以外の除草剤では,三葉期の実生生長より幼根伸長の方が低い濃度域で阻害を受けた。試験した除草剤の中で,ベンスルフロンメチルは幼根伸長と実生生長に対して最も強い毒性を示し,シメトリンは85 µg/L以上の濃度で発芽したばかりの実生全てを枯死させた。幼根伸長の50%阻害濃度(シメトリンでは発芽種子の半数致死濃度)は,ベンスルフロンメチルで0.58 µg/L,メフェナセットで120 µg/L, ベンチオカーブで350 µg/L,シメトリンで28 µg/Lであるとそれぞれ推定された。これまでに報告されたこれら除草剤の河川水中最高濃度と比較した結果,ベンスルフロンメチルとシメトリンの水田からの流出は水田地帯の一部でタコノアシの実生の定着を阻害するレベルであることが示唆された。
P3-073: 人為影響下の湿原におけるトンボ成虫長期モニタリングとその評価_-_釧路湿原,温根内地区を事例に_-_
湿原は長期的に見ると植生の遷移が進行し,湖沼に近い湿原から湿地林へと姿を変えて行き,動物群集もそれに伴って変遷していく.近年は河川改修や土地改良工事,水質汚濁,温暖化等の人為的な影響によっても環境変化に拍車がかかっている.このような湿原の環境変化,特に淡水域の環境変化の一端をトンボ目の成虫の個体数を指標としてモニタリングすることが可能であると思われる.ここで注意しなくてはいけないのは,モニタリングは研究のための行為ではなく,社会的要請のもとで行なわれるものであり,当然,費やした費用(労力)に対して得られた効果(情報の正確さ・有用性)との比率を最大にすることが求められるという点である.さて,トンボ目は昆虫綱の中でも大型で,色彩や形態による種や性の識別が容易で,好天の日中に水辺で活動するという,モニタリングにはうってつけの特徴を持つ.しかしながら,種や性によって活動時間帯や気象条件への反応が異なっていたり,目撃による種までの同定の難易度に大きな差があったり,確認のための捕獲の難易度にも違いがある.これらはモニタリングの精度にマイナスの影響を与える.また,定期モニタリングの日数間隔,モニタリング場所のサイズと個数の選定,一日の中での時間帯なども,その実用性に大きな影響を与える.とりわけ,モニタリングの日数間隔とモニタリング場所の面積と個数の選択は,労力と密接に関係し,同時に精度とも密接に関連する.実際のモニタリングは労力と精度との妥協点が最適化されたものであることが望ましい.以上の観点から,1999年から2002年まで生方が北海道釧路湿原の温根内地区で毎年実施したトンボ成虫モニタリングの結果を,2003年に同じ地区で迫田が集中的に行なった調査結果をバックグラウンドとして対比させることにより,このようなモニタリングのシステムを,精度の面と経済効率の面の両面から評価する.
P3-074: 成虫による湖沼トンボ群集のモニタリングはどこまで使えるか‐釧路湿原達古武沼を事例に‐
トンボ類は淡水環境の変動の良い指標になり得る。しかし、直径1kmを超えるような大型湖沼においてトンボ群集のモニタリング手法はまだ確立されていない。そこで、定量的なデータが最も効率的に得られる成熟成虫によるモニタリングが、淡水環境の変動を十分反映しうるかどうかを検討するために、釧路湿原達古武沼において集中的な調査を実施した。
トンボの成熟成虫は別の淡水生息地から飛来してくる可能性があり、ある生息地でその種が確認されたからといってそこに確実に生息しているとはいえない。一方、幼虫・羽化殻・テネラル成虫は、ある生息地で採集されればそこに生息していることの確実な証拠となるが、調査効率が悪くモニタリングにあまり適さない。今回の調査で得られた幼虫・羽化殻・テネラル成虫の調査結果をバックグラウンドとして用い、成熟成虫によるモニタリングの性能を評価する。
成熟成虫によるモニタリングのもう1つの検討事項は、調査地点の空間配置、定期調査の回数及び調査時間帯の設定である。モニタリングが経済的であるためには、労力を最小限にしつつ、最大の効果が得られなければならない。調査地点の選定で重要なのは、湖沼全体のトンボ群集を反映しているかどうかである。トンボの群集は空間的な広がりを持ち、環境の異質性に影響され、不均一な分布を示していると考えられる。この異質性を評価することが可能になるようにするために、沼の広い範囲にわたって8ヶ所の調査地点を設けた。また、今回は成熟成虫によるモニタリングの回数を週2回のペースで行い、季節的な活動のほぼ全体を把握した。このデータを評価することによりモニタリングに最小限必要な回数を検討する。
P3-075: 淡水緑藻マリモの日本国内における生育現況と絶滅危惧評価
淡水緑藻の一種マリモは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧I類に指定される絶滅危惧種で,日本では十数湖沼に分布しているといわれている。しかし,生育実態はその多くで明らかではなかったため,過去にマリモの生育が知られていた国内の湖沼のすべてで潜水調査を行い,生育状況と生育環境の現状を2000年に取りまとめた(第47回日本生態学会大会講演要旨集,p.241)。その中で,絶滅危惧リスクを評価する基準や方法について検討したが,新規に生育が確認された阿寒パンケ湖(北海道),西湖(山梨県),琵琶湖(滋賀県)ではマリモの生育に関する文献資料がなく,また調査も1度しか行うことができなかったため,個体群や生育環境の変化を過去のそれと比較しないまま評価せざるを得なかった。一方で2000年以降,阿寒ペンケ湖(北海道)ならびに小川原湖(青森県)でも新たにマリモの生育が確認されたことから,今回は,過去の生育状況に関する記録のないチミケップ湖を加えた6湖沼で複数回の調査を実施して,個体群や生育環境の継時的な変化を絶滅危惧リスクの評価に反映させるとともに,より客観的な評価ができるよう評価基準についても見直しを行った。その結果,マリモの生育面積や生育量が著しく減少している達古武沼(北海道)および左京沼・市柳沼・田面木沼(青森県)の危急度は極めて高いことが改めて示された。また、1970年代はじめから人工マリモの原料として浮遊性のマリモが採取されているシラルトロ湖(北海道)では,1990年代半ばに47-70tの現存量(湿重量)があったと推定された。同湖における年間採取量は2-2.5tで,これはこの推定現存量の3-5%に相当する。補償深度の推算結果から判断して,現在のシラルトロ湖における資源量の回復はほとんど期待できず,同湖においては採取圧が危急度を上昇させる主要因になっている実態が明らかになった。
P3-076: 北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係(1) _-_空間利用からみた種間関係_-_
日本各地でアライグマの侵入による生態系への影響が危惧されており、アライグマの侵入が進行している北海道においては、ニホンザリガニやエゾサンショウウオといった在来希少種の捕食やアオサギの営巣放棄などの影響が確認されてきた。しかし、在来中型哺乳類との競合関係については、在来種目撃の減少などといった状況証拠は寄せられてはいるものの、具体的な影響評価は課題として残されてきた。そこで、本研究では、札幌市近郊の野幌森林公園においてラジオテレメトリー法を用いた行動解析を行い、在来種エゾタヌキと外来種アライグマの種間関係の解明を試みた。
野幌森林公園には1990年代半ばよりアライグマが侵入し、現在は北海道の試験的駆除が継続されているが、アライグマ駆除作業が進むにつれて在来種エゾタヌキの生息数が回復を示すデータが得られている。本研究では、同所的に生息するアライグマとエゾタヌキの両種に電波発信機を装着し、位置関係を追跡することから両者の環境利用及び行動圏の配置について分析を行った。2003年春に捕獲したアライグマ9頭(♂1/♀8)及びエゾタヌキ5頭(♂1/♀4)に首輪式小型電波発信機を装着し、基本的に毎日日中の休息場所の記録、および6月・7月には各月4回、行動圏の重複するアライグマとエゾタヌキについて1時間ごとの位置を24時間連続で記録した。途中、疥癬症の蔓延のために死亡するタヌキ個体もあり、調査個体数が減少する事態に見舞われたが、得られたデータからは、本来タヌキが好んで利用していたと考えられる人家周辺領域はアライグマによって占有され、タヌキは森林内部を利用している傾向が示された。また、調査地周辺農家などの聞き込み調査においては、この地域にタヌキが生息していることすら認知していない農民も多く、このことからも人家周辺地域はアライグマによって占有されていることが裏付けられた。
P3-077: 湿原再生事業地における適地抽出の試み
自然再生推進法が2003年1月に施行され,2003年3月から,すでに全国で11の事業が進行している.広島県でも2003年度から広島県山県郡芸北町八幡の大規模草地の跡地において,自然再生事業が進められている.本地域では,牧場閉鎖後に大規模運動公園として再開発される計画が立てられ,用地内には道路の建設や芝張りなどの整備が行われたが,一部は現在まで放置されている.広島県山県郡芸北町八幡の自然再生事業地は,土嶽地区の2.04haの範囲である.大規模草地造成前の土嶽地区は河川の氾濫原で,草地が拡がる中に樹高の低いハンノキなどの広葉樹林が成立していた.また,谷の出口付近から河川に沿って湿地が成立していた.その後,大規模草地の造成に伴い,土地の平坦化や牧草の播種が行われるとともに,蛇行河川は三面コンクリート張りに改修され,暗渠や明渠の建設により湿地の乾燥化が進行した.その後草地が放置された結果,現在ではハルガヤとノイバラからなる群落が拡がり,カンボク,カラコギカエデ,ズミなどによる低木のパッチがスプロール状に成立している.
湿原の成立において,地下水位の動態は最も大きな環境要因として働く.このため,対象地の地下水位動態を把握することは,湿原の復元において非常に重要である.その一方で,湧水のある斜面地においては,地下水位は降雨によって非線的に大きく変動する.したがって,地下水位の動態には連続的な観測が必要になるが,広い範囲にわたって地下水位の動態を観測することは現実的に困難である.そこで本研究では,調査対象区内に設置した32の観測井のうち,6地点では自記録計によって連続的に水位を観測した.残りの26地点では約10日ごとに観測者によって計測した値をもとに,同時刻に計測された自記録の井戸の値から地下水位を推定した.この結果をもとに,事業対象地におけるゾーニング計画を試みた.
P3-078: 絶滅危惧植物キヨシソウの生態に関する調査結果
キヨシソウSaxifraga bracteata D Don.は、海岸の湿った崖などに生育するユキノシタ科の多年草であり、千島列島、樺太、カムチャッカ、ベーリング海沿岸およびアラスカに分布するほか、国内では根室半島に分布が限られている。
本種はレッドデータブックの絶滅危惧_I_A類に指定されており、港湾開発等が主な減少原因とされているが、これまで、本種の生態および分布に関する調査は極めて少ない。
2001年5月より、根室半島における本種の分布状況調査を実施し、これまでに5カ所の生育地を確認した。「根室市の植物分布」1987年の調査結果によると、根室半島で少なくとも10カ所の生育が確認されており、約15年の間に生育箇所数で半分以下に減少したこととなる。
また2001年5月より2002年6月にかけて、生育地において個体群の動態並びに繁殖生態に関する観察を実施した。結果は、中間的なものであるが、個体群の動態に関してはRAMAS EcoLabを用いた解析、繁殖生態に関しては訪花昆虫相、種子の発芽傾向、無性生殖に関する観察記録を示すと共に、危機的な状況にある本種の保全に関して述べる。
P3-079: 北海道野幌森林公園における外来アライグマと在来エゾタヌキの関係(2) ーエゾタヌキの生息数推定とアライグマ対策への提言ー
野生化したアライグマによる在来生物相への影響や農業被害が深刻化するなか、北海道では1999年よりアライグマの完全排除をめざした捕獲駆除事業(以下、事業捕獲とする)を進めている。この事業において、緊急対策地域に指定された野幌森林公園では、7月から9月の連続する2ヶ月間で合計2,100罠・日の罠が毎年設置されてきた。しかし一方で、こうした捕獲事業が在来生物相に及ぼす影響や駆除の効果などの検討は、まだほとんど手つかずの状況にある。そこで、近年アライグマの捕獲罠に混獲される回数が急速に増加している野幌森林公園のエゾタヌキの生息数推定と事業実施期間中の生息状況の変化についての分析を試みた。
方法は、2003年7月から8月の事業において混獲されたすべてのエゾタヌキに対して、麻酔処置後マイクロチップを導入し、個体識別を行うことによって事業期間中の再捕獲率を算出した。また、この結果をもとに野幌森林公園で行われた過去5年分の事業捕獲記録の再検討を行い、エゾタヌキの生息数の年次変化を推定した。その結果、2003年度の野幌森林公園で生息を確認できたエゾタヌキは25頭、1頭あたりの再捕獲回数は8回であった。また、この再捕獲率をもとに1999年度から2002年度のエゾタヌキの生息数を推定すると、それぞれ3、8、43、19頭となった。このエゾタヌキの推定生息数の年次変化は、同公園内におけるアライグマの捕獲頭数の増減と対照的に推移しており、両種が競合している可能性が示唆された。
この結果は、事業捕獲で得られる混獲のデータを活用することで、エゾタヌキとアライグマの種間関係を明らかにできる可能性を示した。また、ここで明らかになったエゾタヌキの高い再捕獲率は、混獲がアライグマ捕獲の効率を低下させたり、エゾタヌキ自身への強い負荷となるなど、新たな問題が存在することも示した。
P3-080: 3次メッシュ(1kmメッシュ)を用いた小地域のフロラ調査
一定面積内のフロラの概要と特色を効率的に把握しデータベース化する方法を検討するため,調査地域を3次地域区画(1kmメッシュ)に分割して調査し,各メッシュ資料の集積から小地域フロラの全容の解明を試みた.メッシュ内における調査方法,地形・調査時間・立地と出現種類数の関係について報告する.
調査地の秋田県笹森丘陵西部を213の1kmメッシュに分割した.既存の地形分類図をもとに各メッシュの地形を低地・段丘地,丘陵地,山地とこれらの組み合わせで7つに判別した.既存の植生図と地形図から20種類の立地を抽出し,調査ではメッシュ内に見られるできるだけ多くの立地を踏査し,野生状態で生育する維管束植物の全種類を順次野帳に記録した.同一調査日では1種類の記録は出現頻度に関わらず1回とした.地形や調査時間と出現種類数の関係を知るため,一部のメッシュについて8時間調査し,2時間ごとの出現種類数を記録した.その結果,どの地形区分においても開始から4時間までに80%以上,6時間では90%以上の種類が出現した.ただし低地・段丘地では開始から4時間で90%近くの種類が出現するのに対し,他の地形からなるメッシュでは,調査時間の増加に伴って種類数が漸増する傾向がある.また出現種類数はメッシュ内の立地や地形の多様性と関連していた.
今回の調査から,事前の地形区分と立地の抽出は調査の効率化に重要であること,低地・丘陵地の多い本調査地域における1kmメッシュ内のフロラは1回目4時間の調査を行い,2,3回目に季節とルートを変えて各2時間以上の追加調査を行うことで概要が把握でき,地形によってはより短い調査時間で可能であることが示唆された.調査には,種の識別能力・踏査ルート・天候も関係した.今後,調査メッシュ数と出現種類数の関係を明らかにし,フロラ調査の効率化を検討したい.
P3-081: Endangered Plant Species in Philippine satoyama Landscape
The satoyama landscape in the hilippines is undergoing intensive human activities due to a combined influence of modernization and upland poverty. Because of this, many species of plants are becoming endangered or potentially endangered. Field works in the satoyama on Mount Mayon National Park in Bicol Peninsula, Albay and in the forest landscapes of Quezon province, both in southern Luzon, Philippines, reveal a number of plant species (mostly ornamentals)frequently harvested by people from the wild. These include Grammatophyllum orchids, Nepenthes spp., Hoya spp., Lycopodium spp., and dwarf plants from the higher altitudes sold as bonsai to domestic tourists. Managed harvesting or domestication is recommended.
P3-082: 印旛沼水系における外来植物ナガエツルノゲイトウAlternanthera philoxeroides Mart. Griseb.の分布と生育地特性
ナガエツルノゲイトウAlternanthera philoxeroides Mart. Griseb. は,南アメリカ大陸の熱帯_から_亜熱帯地域原産の,ヒユ科ツルノゲイトウ属の多年生草本植物である.日本国内に移入し,最近,本州西部_から_琉球で広がりはじめている.本種の日本における生態的特性としては,開花はするが結実しないこと,ほぼ全て切れ藻により分散すること,茎のみの状態で越冬することが挙げられる.
本研究は,印旛沼水系内で,本種の今後の分布拡大を抑止する,植生管理方法のための知見を得ることを目的とし,本種の印旛沼水系における分布と生育地特性を調べた.今回行った2003年の分布調査の結果と,1994年と2001年に行われた調査の結果を比較したところ,2001年から2003年の間に,非常に早い速度で分布を広げていることが確認された.分布調査の結果,印旛沼水系における本種の生育密度の最も高い場所は,鹿島川の河口域であったため,本種の生育地特性に関する調査は,この場所を対象に行い,出現種の被度と高さ,水深,土粒子の粒径組成などを調べた.その結果,ナガエツルノゲイトウの乗算優占度は,水深との間で有意な正の相関関係が認められ(y=34.1x+1671, r=0.49, p<0.01),また,優占種の乗算優占度との間でも弱い負の相関関係(y=1.9x+9982, r=-0.30, p<0.01)が認められた.さらに,土壌の粒径組成を基にクラスター分析を行った結果,調査地の土壌のタイプは粒径0.075_mm_未満の細粒分が卓越する泥質土壌,0.25_mm_未満の細砂が卓越する砂質土壌,そして両者の中間である砂泥質土壌の,3タイプに分類された.ナガエツルノゲイトウの出現率と乗算優占度は,これら3タイプの間で砂質土壌が有意に低かった(p<0.05).
以上のことから,ナガエツルノゲイトウは,印旛沼水系では,植被が少なく,水深が深く,細粒分が卓越した泥質土壌に多く生育していることが推察された.本種の拡大を防ぐための植生管理としては,沿岸の抽水植物帯の保全を行って抽水植物による植被を増やすことが有効であると考えられる.
P3-083: コウノトリの採餌環境としての豊岡盆地の評価
兵庫県北部に位置する豊岡盆地は,日本におけるコウノトリの最後の生息地であり,2005年度の試験放鳥を目指して野生復帰の取り組みが進められている.コウノトリを再導入し,野生個体群の定着を図るためには,採餌場所と営巣場所を始めとする生息条件の整備が必要であるが,特に採餌場所と充分な餌生物を確保することは放鳥個体を定着させるために重要である.そこで本研究では,コウノトリの採餌環境の視点から豊岡盆地一帯の評価を行った.
2001年6月から9月にかけて主要部で現地踏査を行い,空中写真の判読とあわせて盆地底部の土地利用図を作成した.さらに,2003年10月から翌年3月にかけて耕作地およびそれに隣接する区域の用排水路を踏査し地図化すると同時に,それぞれの水路の断面形状,水面幅,水深などを調査した.これらをあわせて地理情報システムに入力して採餌環境解析のベースマップとした.
次に,コウノトリが主に水辺環境で淡水魚などの水生動物を採食することから,まず重要な採餌環境として,水田,水路および河川の水深が浅い場所を抽出した.これらのうち,水田は市街地を除いた全域に広がり盆地底部で卓越する土地利用形態であった.水路に関しては,当地域では圃場整備が進みコンクリート張りの深い水路が多く,物理的に降りて採餌可能と思われる水路を,幅が2mより広いまたは深さが50cm未満と仮定した場合,水路延長比で35.1%,水面面積比で41.5%が採餌に不適と計算された.このような水路は盆地の中心部に多かった.また,河川の浅場は下流側に少ないこと,水辺以外の採餌環境として利用する牧草地が円山川本流沿いなどに分布することが明らかになった.
これらの結果に,2001年に行った調査などによる餌生物量のデータを用いて,盆地一帯における利用可能な餌生物の密度分布や季節変動を推定し,現在の環境で生存可能な個体数の予測を試みる.
P3-084: マイクロサテライト遺伝マーカーを用いた絶滅危惧種ユビソヤナギの遺伝構造の解析
ユビソヤナギ(Salix hukaoana)は群馬県湯桧曽川流域および東北地方の数河川でしか自生が確認されていない希少種で、近年の河川改修等の影響により生育地の縮小・分断化がすすんでおり絶滅が心配される。本研究ではユビソヤナギについて開発したマイクロサテライト遺伝マーカーを用い、生育地の分断化が集団間の遺伝子流動や遺伝的多様性の維持に与える影響を明らかにすることを目的としている。湯桧曽川流域に点在するユビソヤナギ34集団間の遺伝的距離は地理的距離と強く相関し、流域内で明確な空間的遺伝構造が見られた。また、集団内の遺伝的多様性は下流で増加する傾向を得、ユビソヤナギの遺伝子流動は流域内で制限されており、風散布時の風向等の影響により下流に向かう方向性がある可能性が示唆された。この傾向は同所的に生育する普通種オノエヤナギでも共通してみられた。本学会では、生育地の分断化の程度の異なる東北地方の他の河川(福島県伊南川、岩手県和賀川)でおこなった同様の解析の結果を加え、生育地の分断化がユビソヤナギの遺伝子流動にもたらす影響について検討する。
P3-085: ヌートリアの分布拡大過程
ヌートリア(Myocastor coypus)は、西日本を中心に生息している南米原産の移入動物である。兵庫県では、20世紀初頭から毛皮用として飼育されていたヌートリアが放逐され野生化し、現在では県内全域に分布している。農業被害や水生昆虫への被害が報告されており、また治水への影響も懸念されるなど、保全上多くの課題を抱えている。
そこで演者らは、兵庫県内の農業者および狩猟者を対象にアンケートを実施し、ヌートリアの分布および被害の拡大過程を検討した。アンケートの結果、各地域におけるヌートリアの生息の有無および目撃頻度の増減、農業被害とその増減、分布開始時期について、2000件以上の回答が寄せられた。これらの情報をGIS上で自然環境情報と照合し、各種の環境条件や土地利用状況によって分布拡大速度がどのように影響を受けたかを、多変量解析により分析した。
1920年代には、ヌートリアの分布は、移入源とみられる数箇所の地域に隔離分布していた。1970年代までは緩やかに増加し、1980年代後半から急激に増加した。分布域は1970年代までは移入源とみられる地域の周辺に徐々に拡大し、1980年代後半から急激に全県に広がった。この結果は、80年代以降の河川環境の改善と、個体数密度の増加による繁殖効率の改善を示唆している。また、中山間地域では都市部に比べ、分布が早期に拡大していたことから、水路やため池など人為的な生息地の密度が分布制限要因として重要であることが示唆された。農業被害や堤防等への被害報告は限られていたが、高密度地域では比較的多く生じていた。これらの結果から、河川整備計画の改善により、ヌートリアの被害は今後急速に増加すると予測された。
P3-086: 多摩川におけるカワラバッタの保全に関する研究
カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は、砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種の分布域、個体群の規模、産卵地選好性を明らかにし、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。
多摩川の砂礫質河原を踏査した分布調査により、河口から47-57kmの範囲で個体群を確認した。また、標識再捕獲法による個体数推定では一つの個体群の平均が371±174(95%信頼区間)個体で、調査を行った場所の全体(6箇所)としては2,296±978個体と推定された。砂礫質河原面積と個体数で回帰分析を行ったところ、正の相関関係(r2=0.85)が認められた。本種の個体数には砂礫質河原面積が影響していることが示唆された。
産卵地選好性の研究では飼育箱に本種を20匹放し、6つの異なる環境を設定して行った。環境条件は砂礫構成を1.透かし礫層、2.礫間にマトリックスがあるパターン、3.表層細粒土層があるパターンとし、下層の粒度分布を粗砂、細砂の2つを設定した。卵鞘は合計で23個産卵され、全体で最も多く産卵された環境は、透かし礫層で粗砂の環境であり、全体の43.5%を占めた。さらに、砂礫構成だけでみてみると透かし礫層が最も多く69.6%を占め、下層粒度だけでは粗砂のほうが多く69.6%を占めた。このことから、地面と礫または礫と礫の間に多くの空間が構成され、植生がほとんどない下層の礫径が大きい環境を好むことが推察された。
P3-087: 野生鳥類の大量死リスク評価につながる病原体データベースの基本コンセプトについて
鳥類を含めた野生動物の生息地管理を考える上で、病原体情報の重要性が高まりつつあり、例えば人間活動による生息地の限定化・分断化により感染性の病気発生(そして大量死)が懸念されている。しかしながら、野生動物の病気に関する研究自体が限定的・散発的であるため、状況把握及び対策検討のための体系的な情報収集・管理の手段がなかったのが現状であった。
これに対応すべく、今回、環境省環境技術等推進費(公募型研究予算)により「野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構築」を開始することとなった。この計画の基本構想は、広域サンプリング(体系的な識別記号の付加・それによる管理)_-_>病原体タイプの同定_-_>情報管理・蓄積(データベース基幹部分)_-_>情報解析(GISを適用した空間解析)_-_>情報公開及び活用(XML等を想定)といった情報の流れを管理するデータ処理システムの試作・評価を、2003年から3カ年間で行い、基本的コンセプト(設計図)を提示するというものである。現在、北海道全域から収集されたサンプル(死亡個体等)を対象にして、北海道大学大学院獣医学研究科あるいは酪農学園大学獣医学部の感染症等の専門家(共同研究者)により、マレック病・寄生虫等の病原体分析を進めているところである。さらに病気発生機構を包括的に推察するために、ガンカモ類の主要生息環境である湖沼データについてデータベース化を進めている。これらの生息環境情報(例えば、越冬環境の分断化指数等)と病原体の発生様式について、関連性を把握する予定である。
本発表では、「ウィルスの遺伝子レベルの情報から、地球レベルの環境情報まで扱えるデータ処理システム」の基本コンセプトを紹介するとともに、病原体情報の解析方法について述べる。
P3-088: 山梨県長坂町におけるオオムラサキの分布・密度と生息環境
山梨県長坂町におけるオオムラサキの分布・密度と生息環境
山梨県環境科学研究所 小林隆人
国蝶オオムラサキの保全に必要な資料を得るため、本種の生息密度が高い地域の一つとされる山梨県長坂町大深沢川で、森林および幼虫の寄主植物の分布、ならびに越冬幼虫の密度を調べた。土地利用形態として、谷壁斜面・中洲・河岸段丘に渓畔林、谷壁斜面上部の緩斜面に広葉樹二次林ないしは有用針葉樹林、河岸段丘に水田ないしは休耕地、谷壁斜面と緩斜面の間に幹線道路が見られた。幼虫の寄主植物としてエノキとエゾエノキが認められ、樹高2m以上の木は、中洲、河岸段丘、谷壁斜面の下端の急斜地など、河川による自然攪乱との関連が予想される場所、もしくは緩斜面の広葉樹二次林、有用針葉樹林の林内、もしくは水田と人工林との間でかつて草地として利用されていた場所など皆伐や草刈といった人為的な攪乱との関連が予想される場所であった。林内の個体は亜高木もしくは低木であったのに対し、中洲、河岸段丘、谷壁斜面陰伐地では直径30-100センチのやや大型の個体だった。自然攪乱由来と思われる、中洲、河岸段丘、谷壁斜面の山腹崩壊地に立地する樹高2m以上の寄主植物を対象に越冬幼虫の密度を調べたところ、越冬幼虫は全ての調査木から見つかった。エゾエノキでの幼虫の密度(平均71.0)は、エノキ(45.5)よりも有意に多かった。また、木のサイズ、樹形、木の立地(中洲、河岸段丘、谷壁斜面の山腹崩壊地)によって幼虫密度は有意に異なることも判った。これらの環境データと幼虫の密度との関係について数量化1類を用いた解析も行った。
P3-089: 水生植物の生育地としてのため池の分布
ため池は人為的に造成されたものであるが,水生植物にとっては、景観の中に点在する生育場所である.東広島市のため池台帳には2,348個のため池が掲載され,水生植物の貴重な生育地となっている.本研究は,水生植物の生育地としてのため池の分布構造を明らかにした.1999年から2002年にかけて,東広島市の1,478個のため池を対象に水生植物相と周辺環境の調査を行った.その結果,807個のため池で、絶滅危惧種を含む浮遊・沈水・浮葉植物を約40種確認した.TWINSPANによって,種組成からため池をAからDまでの4つのタイプに分類し,4つのタイプと無植生のため池について周辺環境および立地環境の比較を行った.さらに,K関数を用いて分布構造および分布相関の検討を行った.タイプAに属するため池は,ヒシの出現頻度が非常に高く,半径約500mの集中班をもつ分布をし,タイプBを除く他の2タイプと同所的に分布していた.タイプBに属するため池は,園芸品種や外来種の出現頻度が高く,平地の農耕地や居住地に近い場所に存在し,半径500mの集中班を示した.タイプCのため池は出現種数が多く,本調査で確認された水生植物のほとんどがこのタイプに出現した.このタイプのため池は偏りのある分布をし,タイプBのため池とは独立に分布していた.タイプDのため池は、比較的貧栄養な水域に生育するフトヒルムシロやジュンサイの出現頻度が高く,周囲を山林に囲まれた起伏量が比較的大きな場所に位置する傾向があった.タイプBと排他的分布を示し,無植生のため池と独立分布していた.かつてはタイプCやDのようなため池が多数存在し,様々な水生植物が広く分布していたと考えられる.生育幅の広いヒシが生育するため池が集中班を持ち,タイプCやDと同所的分布をしていたことから,ヒシの生育するため池の周囲500mに位置するため池を積極的に保全する必要がある.
P3-090: 関東地方におけるモツゴの遺伝情報と保全
淡水魚とりわけ純淡水魚は、淡水域が連続している場合のみ交流が可能なため、種内の地域集団間で明瞭な遺伝的分化が見られることが多い。しかし多くの淡水魚類で、遺伝的多様性の実体は明らかにされておらず、メタ個体群を超えた移入も多く行われている。そこで本研究では、アロザイム分析を用いて関東地方南部におけるモツゴPseudorasbora parvaの遺伝的な情報を明らかにし、保全単位を考えるための基礎資料とした。
モツゴは、今でも比較的普通に見られる純淡水魚であるが、千葉県のレッドデータブックに記載されているなど、生息数の減少が示唆されている。しかし、自然分布していない東北地方や北海道に定着し、また、近縁種のシナイモツゴP. pumila pumilaとの置き換わりも確認されるなど、国内移入種として認識されている。
アロザイム分析には、東京都、千葉県、神奈川県の合計11地点で採取した試料を用いた。採取した試料は、分析まで冷凍で保存し、眼、肝臓、筋肉の各組織を取り出し、電気泳動の試料とした。電気泳動はデンプンゲルを用いて行い、泳動後、5酵素1非酵素タンパク質について染色を行った。染色の結果、14遺伝子座が推定され、このうち8遺伝子座で多型が認められた。推定された遺伝子頻度をもとに、遺伝的距離を求めたところ、最も大きな遺伝距離は0.0193となり、逆に最も遺伝的距離が小さかったものは0.0005となった。
同一の水系内では、調査した個体群間でメタ個体群を形成していることが示唆された。しかし、他の水系から完全に隔離されている小さい個体群では、遺伝的浮動の影響と見られる遺伝子の偏りが確認され、その結果、他の個体群との遺伝的距離が大きくなったと推察された。また、地理的距離と遺伝的距離とが合致せず、一部には移入された個体群が存在する可能性も示唆された。
P3-091: 小規模な農業用ため池に見られるレッドリスト沈水性植物の生育環境
小規模な農業用のため池には、絶滅が危惧される種も含めてさまざまな水生植物が生育し、利水や管理行為に依存した植生が成立していると考えられる。特に生活史の多くを水中で過ごす沈水性植物は、管理行為がもたらす周期的な水位変動や池干しなどによる水質の改善、また堰堤や周辺植生の管理による光環境の維持などに生育環境が大きく影響を受けることが予想される。本研究では、有数のため池県である香川県において、レッドリストに掲載される沈水植物のトチカガミ科のマルミスブタ(Blyxa aubertii)およびミズオオバコ(Ottelia japonica)が生育するため池の環境特性を明らかにすることを目的とした。マルミスブタおよびミズオオバコは、5月から6月にかけて発芽し、8月中旬から開花期を迎え、マルミスブタは10月下旬、ミズオオバコは11月中旬まで開花・結実が認められた。調査ため池の水質は、いずれもpHが低く落ち葉等の堆積による有機物に富んだ腐食栄養型を示し、特に夏期のDO、CODが高くなり集水域から落枝等の生物分解性に劣る腐食物質の流入が多いことが示唆された。沈水性植物群落付近のため池の水位および光量子密度を連続観測したところ、夏期の水位変動幅は灌漑や降雨のため1m以上と大きくなった。また、ミズオオバコが発生するため池と、隣接し管理放棄された未発生池との光環境を比較してみたところ、未発生池では提体に灌木が侵入しているため、20_から_65%の光強度にとどまった。近年、社会経済情勢の変化による農業活動の衰退により、山間部を中心に小規模ため池の利用廃止や管理放棄が進んでいるが、農業用ため池に対する維持管理活動の喪失は、攪乱に弱い植物にとっては好適な環境をもたらす反面、周期的な攪乱環境下に依存して成立していた水生植物相の生息条件の悪化や消失を招く可能性が指摘される。
P3-092: 放射性同位体ならびに水文観測に基づく釧路湿原達古武湖の土砂堆積履歴の推定
釧路湿原達古武湖は多様な生物種が生息しているが、流域開発による土砂流入、湖の浅化、水質の悪化などにより湖沼環境の劣化が指摘されている。本研究の目的は、流域の土地利用開発が湖への土砂の流入・堆積に与える影響を時系列的に解明することである。
現在的な流域から湖への浮遊土砂流入実態を把握するため、2河川の達古武湖流出入口において流量、浮遊土砂濃度の水文観測を行った。また長期的な土砂流入実態を把握するため、湖内8地点において湖底堆積物のコアサンプルを採取し、火山灰編年法とセシウム-137分析により過去300年間の堆積速度を推定した。
達古武湖に流入する浮遊土砂は、平水時には達古武川から、降雨時には釧路川の逆流によっても供給されていることがわかった。観測期間(2003年8-10月)における湖への土砂流入量は146.4tで、そのうち釧路川逆流によるものが56%を占めていた。また、流入土砂の75%が微細土砂(粒径0.1mm以下)であった。
湖底堆積物には2層の明瞭な火山灰層が認められ、上部は樽前山-a(1739年)、下部は駒ケ岳-c2(1694年)であった。また、1963年の堆積土層を示すセシウム-137濃度のピーク層は火山灰層の上部に認められた。これらより1694-1739年、1739-1963年および1963-2003年の年平均堆積速度を推定すると、それぞれ12.4、29.7および23.9 mg・cm-2・y-1となった。1963年以前にもっとも土砂流入が多く、自然災害や土地利用開発による土砂流出の影響が示唆された。1963年以降は1739年以前に比べて約2倍の堆積速度であり、自然状態と比較して浅化していることが明らかになった。ちなみに現在の土砂堆積速度から湖の陸地化する時間を試算すると、水深が浅く堆積速度の大きい地点では約580年、湖がなくなるのは1760年後と推定された。
P3-093: エゾシカの分布拡大要因:地球温暖化と個体群圧
北海道では、エゾシカの分布調査を1978年以来、7_から_8年置きに実施してきた。1978年における生息適地モデルを作成した結果、積雪深とササのタイプが生息分布の制限要因であることが明らかになった(Kaji 2000)。しかし、2002年における分布図は、従来の生息適地モデルで不適とされた地域にエゾシカが分布域を拡大していることを示していた。この原因を探るためには、外部要因と内部要因をパラメータに組み込んだエゾシカの生息適地モデルを作成し、時系列での制限要因の変化を明らかにする必要がある。そこで本研究では、エゾシカの生息適地モデルを4時期(1978年・1984年・1991年・2002年)において作成することにより、生息分布を制限している外部・内部要因とその時期のよる変化、また長期的な気象の変化を明らかにし、近年におけるエゾシカの急速な分布拡大要因を考察することを目的とした。
エゾシカの生息分布を示すデータは、4時期の自然環境基礎調査を用いた。全道規模におけるエゾシカの生息分布を制限している制限要因として、シカの生理・生態、全道域の環境などを考慮して11個の変量を選択・作成し、生息適地モデルの作成にはGLMを用いた。さらに、この期間における気象の長期的な変動を把握するために、地域気象観測データ・地上観測所データ・気象庁発行の気象年報からデータを作成した。
各時期のモデルから、積雪に関する変量の影響する程度は近年になるほど小さくなる一方、前回の分布からの最短距離の影響する程度は近年になるほど大きくなることが示唆された。また、気象の長期的な変動を見てみると、1980年代以降では多雪時の積雪深は減少した。気温については、1990年代に平年値よりも1度以上高い傾向を示した。これらのことから、積雪に関する変量の近年の生息適地モデルにおける影響度の低下は、多雪年の減少や気温の温暖化によって環境が変化したためと考えられる。その一方で、前回の分布からの最短距離は近年の生息適地モデルになるにつれて影響が強くなる傾向を示しており、個体群圧の増も生息分布に強く影響するようになったと考えられた。
P3-094: 水田-用水路間におけるメダカの移動頻度の日変化および時期的変化に与える環境要因
水田地帯に生息する絶滅危惧種メダカ Oryzias latipesは水田-用水路間を移動することが知られているが、水田-用水路間におけるメダカの移動頻度の日変化および時期的変化、さらに水田-用水路の移動に影響を及ぼしている環境要因について、現地調査から検討した研究はない。そこで本発表では、それらを明らかにし、水田地帯に生息するメダカを保全する際の基礎的知見を得ることを試みた。調査は、神奈川県西部の小田原市桑原地区に位置する水田地帯とし、最も多くのメダカの生息が確認されている水田の取水口を調査対象とした。この取水口は開渠で、水田と用水路の水位差がほとんどなく、メダカが移動していることが著者らによって確認されている。調査は、目視でメダカが確認できる日の出から日の入の間に行った。毎時00分から15分の15分間に、用水路から水田に移動したメダカと、水田から用水路に移動したメダカの個体数を目視によって計数した。環境要因として、取水口付近の気温および照度、取水口の流速、水田および用水路の水温を調査した。取水口付近の気温および照度、水田および用水路の水温はデータロガーを用いて、連続的に測定し、記録した。取水口の流速は電磁流速計を用いて測定し、記録した。この調査を2004年6月中旬から断続的に行い、考察を行う予定である。移動頻度の日変化のみを予備的に調査した2003年8月下旬の結果より、メダカの移動が最も多かったのは18時00分から15分の間で、用水路から水田、水田から用水路共に約90個体、計数された。次いで、5時00分から15分の間で用水路から水田が約50個体、水田から用水路が約80個体であった。一方、最も移動が少なかったのは、6時00分から15分の間でそれぞれ2個体、3個体であった。この予備的調査より日の出および日の入に水田-用水路間におけるメダカの移動が盛んになることが示唆された。
P3-095: 土地利用に基づくニホンザル生息域拡大のGISモデルとその検証
野生生物の保護、管理に当たっては、対象となる野生生物の個体数の評価とともに、生息域の空間構造についての評価が必要である。特に、人間活動の影響下において維持、管理されてきた里地里山を生息域とする野生生物については、これらの二次的自然の変質に伴う生息域の変化を定量的に評価する手法の開発が求められている。本発表では、森林棲哺乳動物であるニホンザルの生息地選択性に注目し、土地利用に基づく生物生息域変動の定量的評価手法を開発するとともに、その検証を行った。
分析は1970年代以降、ニホンザルの生息域の拡大が進んでいる房総半島中西部の千葉県鋸南町周辺を対象とした。データは、既存文献に基づき対象地域における1972、1986、1999年にニホンザルの生息が確認された地点を用いた。まず、土地利用毎に移動コストを設定した。ここでは生息に適したと考えられる広葉樹林地を基準とし、針葉樹や住宅地などの生息に適しない土地利用に高い値を設定した。この移動コストを用いて1972年に生息確認地点と各地点間の加重コスト距離を算出した。次に、1986年における生息の確認の有無を目的変数、1972年に生息が確認された地点からの単純距離及び加重コスト距離を説明変数として、ロジスティック回帰分析を行った。なお、「1986年に生息の確認出来ない地点」は、既存調査で1986年に生息が確認されなかった地点及び、1999年には生息が確認されたが1986年には生息が確認されなかった地点とした。
その結果、単純距離と加重コスト距離を説明変数とする場合で、ともに有意な関係が認められたが、加重コスト距離を説明変数とした場合においてp値が小さく、回帰係数が大きくなった。以上より、本研究で開発したGISモデルは生息域の変動評価に有効であるといえる。しかし、より精度の高い評価を行うためには、継続的な生態データの収集必要があるといえる。
P3-096: 多摩川永田地区における河道修復後の植生変化
多摩川永田地区では20年ほど前には多く見られたマルバヤハズソウ_-_カワラノギク群集に代表される河原特有の植物群落が大きく減少している。この原因としては、河床に堆積する礫の減少、河川の流量の安定化、河道の固定化などが、植生を変化させたことが指摘されている。
このような背景の下、国土交通省京浜河川事務所は河川生態学術研究会と協力し、永田地区において河道修復事業を行った。河道修復事業では繁茂していたハリエンジュ林の伐採・除去、砂が厚く堆積していた高水敷の掘削による低水敷の拡幅、礫河原の造成などが行われ、河原の植物群落の生育に適した立地の造成が試みられた。人工的な河原の造成事例は少なく、目標とした河原の植生が回復するか不確実である。そこで、筆者らは植生の回復状況を確認するため、植生調査や植生図化などによるモニタリングを河道修復事業実施直前の2000年秋から続けている。
河道修復区域では、事業実施直前の2000年秋にはハリエンジュ林や多年生草本群落(オギ群集、ツルヨシ群集など)が優占していた。高水敷を掘削した場所では工事終了半年後の2002年秋には礫河原の一・ニ年生草本群落であるアキノエノコログサ_-_コセンダングサ群集が定着した。現在はカワラヨモギなどの礫河原の種が侵入しつつある。掘削区域のうち出水時に礫が堆積した場所には当初、オオイヌタデやヒメムカシヨモギなどがまばらに生えるだけであったが、2004年春にはアキノエノコログサ_-_コセンダングサ群集が成立した。高水敷を掘削しなかった場所では、ハリエンジュを伐採した場所を中心にオオブタクサ群落の成立が見られたが、2003年から2004年にかけて徐々にクズ群落やキクイモ群落に変化した。
以上の結果より、礫河原の植生を回復するためにはハリエンジュ林を除去するだけではなく、高水敷の掘削が効果的であることが伺われる。単にハリエンジュ林を伐採するのみではかえって外来種の定着を促進する可能性があることが示唆された。
P3-097: 異なったヨシ原の管理手法が鳥類の繁殖にあたえる影響
ヨシ原は、本来、河川の氾濫など不定期な攪乱により維持されていたが、治水のための水量調節の結果、撹乱が減少し植生遷移が進行して、ヨシ原に適応した生物が減少している。このため、ヨシ原を維持していくためには、遷移を撹乱する野焼きや刈り取りによってヨシ原を維持していく必要がある。このようなヨシ原に対する人為的な攪乱が野生生物にあたえる影響を明らかにして、ヨシ原の生物多様性を維持するのに最適な管理手法を検討するために、希少種であるオオセッカの生息地である利根川下流域で刈り取り実験を行なった。野焼きに関しては清掃に関する法律で制限されているため、毎年、野焼きが行なわれている場所で調査を行った。
利根川河川敷に設置したヨシ刈り実験区と野焼きの行なわれている霞ケ浦妙岐ノ鼻において、ヨシ刈りやヨシ焼きが、ヨシの成長、スウィープサンプルによる昆虫量、繁殖鳥類の定着状況を定量的に比較した。ヨシ刈りやヨシ焼きによってヨシの生産量が増加する傾向はみられなかったが、下層植生のスゲ等の現存量は刈り取り、ヨシ焼きによって有意に減少していた。一方、無脊椎動物の生息個体数および目(分類群)数は、ヨシ焼きや刈り取りによって増加が認められた。しかし、オオヨシキリ、オオセッカ、コジュリンなどの草原性鳥類は刈り取り区には定着せず、ヨシ焼き区においても植生が十分に伸長するまでは定着してこなかった。これは、ヨシ焼きや刈り取りにともなう下層植生の減少により巣をかける場所がなくなったためと推定された。ヨシ焼きやヨシ刈りは、周辺に十分な逃げ場所があれば、無脊椎動物群集に対して影響を与えないが、鳥類群集には影響があることが明らかになった。
P3-098: カタクリの潜在生育地の推定 _-_地域の生態系保全へのGISの活用_-_
野生生物の潜在的な生育生息地の評価とは、各生物の分布情報と物理環境条件を用いて、生息に適した条件を抽出することである。抽出に用いる環境条件は、地形や標高、植生、気象条件など生物の分布に大きな影響を及ぼすことが推測される要因である。野生生物の中には、人為的な土地改変によって本来の生育生息場所の多くが消失した種もあり、現状の分布調査を行なうだけでは生態系の評価や保全計画を立案することが困難な場合がある。そのため、地域の生態系や生物多様性を象徴する野生生物の潜在的な生育生息地を推定し、地図化(ポテンシャルハビタットマップの作成)することにより、事業の実施による効果の客観化、定量化が可能となり、例えば、環境アセスメントのスコーピング段階から生物の保全上配慮すべき地域を抽出したり、自然公園事業や自然再生事業における適地選定などに活用することができる。
今回は、関東山地南部に分布するカタクリを題材にポテンシャルハビタットマップの作成を行った。カタクリは里山の代表的な春植物であり、氷期の遺存種ともいえるが、関東地方南部では生育地が激減し、それらの生育環境の保全管理が重要な課題となっている。
およそ20年前のカタクリ分布地点に関する詳細データ(故鈴木由告氏調査)をもとに収集したカタクリの分布地点情報や、地形図、、DEM、植生図などをGISに入力し、それらの情報をもとにカタクリの生育環境条件(斜面方位、傾斜、微地形、植生など)を整理解析を行った。その結果、カタクリの分布は北向き斜面、緩傾斜地、沖積錐、林床管理の行き届いた落葉広葉樹二次林といった条件の整った場所に偏在することが分かった。それらの生育環境条件から導き出される閾地をもとに、GISによる広域的なカタクリのポテンシャルハビタットマップを作成し、その利活用方法について検討した。
P3-099: 絶滅危惧植物アキノハハコグサの保全の試み
アキノハハコグサ(Gnaphalium hypoleucum DC.)は、やや乾いた山地に生えるキク科一年生草本であり、環境省レッドデータブックでは絶滅危惧IB類(EN)に指定されている。関東では、シイ・カシ帯の痩せた草地、裸地に生える先駆植物で、特に関東ロームを削ったところに生えることが多いとされている。今回茨城県水戸市での調整池造成工事における盛土法面にて、アキノハハコグサ1株の生育が確認された。茨城県での本種の生育状況は現状不明であり、また環境アセスメント等の事前調査でも確認されておらず、風散布または埋土種子からの発芽によるものと考えられた。生育地にはシナダレスズメガヤやセイタカアワダチソウ、ミツバツチグリ、コウゾなどが生育していた。
保全に際して、本種が種子による世代更新を行う一回繁殖型植物である、種子散布型は風散布である、実生の定着適地は裸地的な環境であるなどの特性を考慮して、種子を結実させ、それを採集し、法面裸地等の適地と思われる場所への播種または苗を育成し移植することとした。1株から確実に種子を採集するために、種子の飛散を防ぐように植物体を囲い、その中で種子が成熟した後、種子の採集を行った。12月に採集した種子は、採集直後の明暗12時間30/20℃の交代温度条件下で発芽が見られた。また1年間乾燥状態での4℃保存後も高い発芽率を示した。4月に播種して得られた苗を現地に移植したものは年内に開花・結実したが、6月に現地に直播きしたものは開花せず、一部はロゼットのまま越年し、翌年に成長した。本種は種子散布直後に発芽し、翌年成長し、開花・結実するか、翌春に発芽し、その年に開花・結実する生活史を持つものと考えられる。今後は、現地での同種の生育状況を引き続きモニタリングするとともに、近隣の植物園と連携して地域での保全対策を検討する予定である。
P3-100: 周辺環境の食物利用可能性がニホンザルの環境選択に与える影響
多くの動物種で、食物の利用可能性や可能量がその生息地利用や行動圏の大きさに影響を与えることが知られている。そこ で、人為的環境を利用するニホンザルに着目し、サルの環境選択が人為的な環境を含む生息地内の食物利用可能性の変動に よってどのように影響を受けているのかを検討した。調査は、2003年1月から11月までのあいだ、三重県と奈良県の県境に生息し、農作物被害を起こしているニホンザル一群を対象に行なった。
その結果、通年食物利用可能性が高い農地ではサルの選択指数も通年高く、いっぽう食物利用可能性の変動が大きいコナ ラ林は食物利用可能性の高い月にとくに選択されていた。このことから、対象群の採食地としては農地とコナラ林が重要で あると考えられ、それぞれの利用可能性に応じてこれらを使い分けていることがわかった。ただし、農地、コナラ林両方で の食物利用可能性が高かった11月に利用されていたのはほとんど農地とその周辺だけであり、 11月になると増加する農地の果樹の利用可能性がコナラ林における利用可能性にかかわらずサルの土地利用に影響を与えている可能性も示唆された。ま た、とくに12月から2月にかけては食物利用可能性の高低に関わらず集中的に利用する集落とまったく利用しなかった集落がみられた。
これらから、年間を通じて農地に依存している群れにおいても依然森林の食物利用可能性に影響を受けていることが明ら かになった。しかし、土地利用に影響を与える要因として食物利用可能性とともに、その他の要因も影響を与えていること が示唆された。
P3-101: 京阪奈丘陵の里山植生が受けた人為による改変の履歴
演者らは、京阪奈丘陵を現在みられる植生と、民俗学的調査記録との対比を試みている。この地域は市町村史の整備も進み、その民俗学的記録は明治から昭和期における各地の生業について、特に水田農耕の様子をよく記録している。これまでに、対象地域の市町村史、京都府農林百年史、山城民俗資料館館報ほか関連出版物と現地での聞き取りを中心に記録の総合をめざして解析中である。
・採草の権利の重要性はこの地域では堆肥(多くの地域でホートロと呼ぶ)と関連づけて各地で読みとれる。
・クヌギの植林も一般的であったようだ。畑で苗を育て、植林したという記述、販売面でクヌギが優位であったという記述などは多くみられる。戦後でも、山ぎわの畑を放棄する際にクヌギを植えた、という証言が得られた。京阪奈丘陵の里山の植生構造を解析する上で、クヌギの地位は関東地方、あるいは他地域のものとは違うのかもしれない。
・一方、山仕事の記録は少ないが、各地で木の切り方(主に伐採位置の高さ)が異なっていることを示している。
里山経営が周辺住民にとり自家消費よりも現金収入の生産体系に組み入れられており、よりよい収入のために積極的な樹種選択あるいは果樹や竹・茶・畑などとの転換が行われていたことがわかる。一方で、これらの植林や積極的経営は林全域には及んでいない。これらの観点は現在観察しうる里山植生のなりたちや多様な生物を維持していた里山像の解明に重要な視点となるだろう。
P3-102: 小笠原諸島における外来樹種アカギの管理と森林植生の変化
アカギが小笠原に導入されてから約100年余りの間に、鳥散布によって湿性高木林に侵入し分布範囲を拡大し、在来樹種に置き換わり林冠を優占している。林内もギャップも、アカギの後継稚樹は多数みられるものの、在来樹種の稚樹はほとんどなく、その存続が危惧されている。そこで、アカギの効率的な駆除対策を確立することを目的とし、湿性高木林で5年間蓄積したデータから、アカギの生活史を推移行列モデルによって構成し、各生活史段階の個体群維持への依存性の強さを評価した。さらに、実際にアカギの上層木を駆除した区(伐採、薬剤注入、まき枯らし)において、処理後のアカギと在来樹種の更新状態を調べ、駆除法の違いとその効果について検討した。
母島桑の木山試験地におけるアカギの各生活史段階の個体群変動へ及ぼす影響力(弾力性)は、非開花木>雌木>雄木の順で高く、駆除計画にはこれらのステージ(胸高直径5cm以上の個体)を対象とすることが有効であると考えられた。一方、アカギ上層木を駆除した区では、処理をしないコントロールに比べて、多くの下層木の更新が確認された。実生発生数は伐採区で最も多く、そのほとんどがパイオニアであるウラジロエノキで、外来樹種ではアカギ、シマグワの発生がみられた。薬剤処理区では、ウラジロエノキをはじめ多くの在来樹種の発生が確認されたが、アカギやキバンジロウなどの外来樹種の繁茂も著しかった。まき枯らし区では、新規加入した稚樹のほとんどがアカギで、ウラジロエノキなどのパイオニア樹種は確認されなかった。以上の結果から、アカギ上層木の駆除について、伐採や薬剤処理をした区では大幅に光環境が改善され、ウラジロエノキを中心とした在来のパイオニア種の天然更新が可能であるが、まき枯らし区では、在来樹種の更新は困難である一方で、アカギ自身の更新は促進される可能性が示唆された。
P3-103: 北海道におけるタンチョウの繁殖成功要因:湿原環境と農耕地環境での繁殖成績と特徴
ツルは,開けた環境である湿地や草地に生息する.特に,タンチョウは形態的特徴や生息分布域から湿地への依存性が強い種とされてきた.しかし最近,日本の北海道東部に分布するタンチョウにおいて,従来の繁殖環境とは異なった牧草地や畑がひろがる農耕地環境で繁殖が確認されるようになった.その原因として,湿原面積の減少とタンチョウの個体数増加を背景とした密度効果による分散が指摘されている.本研究では,新しい環境である農耕地での繁殖成績を評価し,またタンチョウの繁殖成績に効いている要因を明らかにする.始めに,1970年代以降の営巣地周辺環境の推移を明らかにし,農耕地環境への進出状況を確認した.次いで,湿原環境と農耕地環境における育雛期を通した繁殖成績の比較をおこなった(1999-2001年).その後,繁殖成績に関与する要因(変数:植生,降水量,繁殖経験)をロジスティック回帰モデルで明らかにした.
営巣地周辺の環境は90年代にかけて農地,建造物,道路といった人工地割合が増加する傾向を示し,特に新規の繁殖地ではより顕著な増加がみられた.湿原環境と農耕地環境の繁殖成績には育雛期を通じて差がみられず,両環境とも育雛初期に成績が下がり,その後50%程度で推移する同様の傾向を示した.この結果に基づき,繁殖成績に対するロジスティック解析は,育雛初期と抱卵から巣立ちまでを通した育雛全期に分けておこなった.ロジスティックモデルに選択された変数のうち有意となった変数は年によって異なっていた.また,湿原面積の大きさは常に重要な要因となっていなかったことから,湿原面積の狭い農耕地でも育雛が可能な環境であることが示唆された.さらに,湿原環境では育雛初期に降水量が多かった年は,水域面積が大きい繁殖地で育雛に失敗する傾向がみられた.農耕地環境は,繁殖の妨げとなる人との接触が多い一方で,排水事業が施工されて洪水が起きにくい環境でもあり,湿原環境とは異なるメリットをもつと考えられた.
P3-104: 導流提における自生種を用いた植生復元に関する研究ー植生復元の概要ー
2000年に長野県白馬村平川地区崩れ沢(標高900m)に周囲の景観に配慮しテトラポットを母材に川砂で表面を覆った導流提が作られた。この地域は準絶滅危惧種のアズミキシタバの数少ない生息地と知られており、この構築物が問題となった。又、このことに加え中部山岳国立公園に隣接する自然度の高い地域であるので、この虫の食草のイワシモツケを復元に配慮しつつ、自然植生を利用した植生復元が実施されることになった。この構造物は、砂山であるため乾燥が激しく、又急傾斜なので種子を散布するだけでは植生復元はできないと思われた。そこで、この地域の周辺の植物相を調査し、植生復元に利用できそうな有力種を選び出し、種子を取って栽培し、育った苗を移植する植生復元を、実行中である。その概要を述べる。
植物相調査で184種が記録された。その中で量的に多く入手が容易、周囲の景観と調和する、などの条件を満たす有望種30種あまりを選び、種子を採取した。ハウス内でこれらの発芽実験を行った。秋の採種でも、かなりの種は年内に発芽した。他の種は越冬後に発芽した。また一部は発芽率が悪く、これまで増殖には使えていない。1,2度、幼苗を植え替えた後移植試験をした。2002年秋と2003年の初夏に試験を行ったが、急斜面であること、砂と礫の斜面なので移植作業は大変困難であった。地面に穴を掘り直径12-14cmの分解ポットを埋めこむ形で、2002年10月に2240個体、2003年6月から7月初めに約4000個体を移植した。前者の越冬率は、最も低いヤマナデシコでも56%だった。これはこの地が、多雪で幼植物が雪下で保温されるためと考えられる。移植種の一部は、夏に30%台以下の低い生存率を示した。なお、栽培下を経てきた移植個体は成長速度は野生種より非常に速く、一部の種はすでに次世代も定着している。又、移植により侵入種の定着も促進されている。植生復元は比較的順調と言えるだろう。
P3-105: 北海道西別川におけるバイカモ個体群の生育と河床土砂動態
バイカモ(Ranunculus nipponicus var. submersus)は全国各地でその生育地を減少させつつあり、北海道RDBでも希少種となっている。一般に生育地の水質悪化が減少の原因とされてきたが、河川流水中に生育するバイカモにとっては、河川工事や取水等に伴う水・土砂移動特性の変化がもたらす生育基盤の変化や喪失も減少の要因になっていると考えられる。そこで本研究では、バイカモ個体群の生育と、生育基盤である河床の土砂移動現象との関係を探ることを目的とした。
北海道東部の西別川上流域(区間長約20km)にバイカモが繁茂する区間Aと、その下流でバイカモ現存量の少ない区間B・Cの計3調査区間を設け、2002年7_から_11月にバイカモと河床の堆積土砂や掃流土砂に関する調査を行った。
区間Aのバイカモ個体群周辺では、その存在によって水流が弱まりやすいため、河床付近を移動する掃流土砂がパッチ下側に滞留してマウンドが形成される。土砂の堆積によってシュートが埋もれると、埋没部分から不定根が発生し、側根も分枝するため、植物体はより強く河床に固定される。埋もれた茎は各節からシュートと根系を伸ばしながら成長するが、この伸長シュートが砂礫に埋もれて河床に固定されることを繰り返しながら個体群サイズを拡大していくと推察された。
一方、区間B・Cでは掃流土砂が滞留するような環境は限定的であり、マウンドが発達しにくいため、流水中のシュートは土砂に埋もれず、河床に固定されない。この場合、個体群サイズは一時的に拡大しても、撹乱(出水)等によって流失しやすいと考えられる。
今後、河川生態系の管理・保全を考えていく際には、生物そのものだけではなく、生育場の水や土砂の流れ等の動的な河川環境と、それに依存あるいは適応して生育する生物を合わせて保全していくことが必須であると考えられた。
P3-106: カラマツ林伐採地への堅果分散に果たす野ネズミの役割
植生が破壊された場所や再植林が行われない伐採地に広葉樹林を再生することは、生物多様性の保全上、重要である。野ネズミは広葉樹林の林冠に優占するナラ属の主な種子散布者であり、近年、野ネズミによる種子分散を積極的に利用した広葉樹林の再生手法が求められている。本研究では、カラマツ林伐採地への堅果分散に果たす野ネズミの役割を明らかにするために、コナラ堅果の分散実験を行った。
調査は長野県軽井沢町のカラマツ林伐採地と落葉広葉樹林にまたがる1.8haの調査区で行った。2003年晩秋、伐採地と広葉樹林の境界に18個のゲージを設置し、各ゲージに磁石を埋め込んだ堅果を100個ずつ置いた(計1800個)。翌春に金属探知機を用いて散布後の堅果を探索し、位置、マイクロハビタットの種類(裸地、草地、低木、高木、伐採倒木、切株、オーバーハング状の崩壊地)、食害の有無を記録した。
ゲージに置いた堅果の92.0%(1656/1800)が散布された。そのうち、散布先を特定できた堅果は88.8%(1470/1656)であった。これら堅果の99.4%(1461/1470)は食害を受けたのに対し、散布後、食害を受けなかった堅果は0.6%に過ぎなかった。運び込まれた堅果数は広葉樹林より伐採地で有意に多かった。一方、散布距離は伐採地と広葉樹林で有意な差は認められなかった。伐採地への散布距離は平均7.9m、最大45.1mであった。また、伐採地において、各マイクロハビタットに運び込まれた堅果の比率を被度から求めた期待値と比較したところ、有意な差が認められ、堅果は伐採倒木、切株、オーバーハング状の崩壊地を含む低木の下に散布されやすいことが示された。
以上の結果から、野ネズミは広葉樹林より伐採地に多くの堅果を散布すること、またカラマツ林を伐採した際の伐採倒木や切株が、伐採地への野ネズミによる堅果分散を促進する働きをもつことが示唆された。
P3-107c: ヒヌマイトトンボ保全のために創成したヨシ群落の動態と侵入した蜻蛉目昆虫
レッドデータブックにおいて絶滅危惧I類に指定されているヒヌマイトトンボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、1つのヨシ群落内で一生を完結する特異な生活史をもっている。本種の生息地が1999年に三重県宮川河口域の下水道浄化センター建設予定地に隣接する500m2に満たないヨシ群落で発見された。開発によって、本種個体群の存続は難しいと予測されたので、ヨシ群落を保護すると共に、隣接する放棄水田にヨシ群落を創成する保全事業が開始された。生息地では、幼虫時代を過ごすヨシ群落内の水位は安定していたが、塩分濃度は年間を通して0.8‰から18‰の間で変動している。成虫時代の生息環境であるヨシ群落の根元(水面上約20cm)は、ヨシが密生しているので、かなり暗い。そこで、創成地におけるヨシの生長過程と群落の根元の相対照度、塩分濃度を継続的に調査し、生息地と比較した。創成地で芽生えたヨシの密度に有意な差はなかったが、細く背が低かったため、群落根元付近の相対照度は高くなっていた。春から秋まで、創成地のヨシ群落には数種の蜻蛉目成虫が飛来した。淡水と海水を混合した汽水を供給した創成地の塩分濃度は、生息地の変化とほぼ同様に管理したが、吐出口から遠い場所ほど塩分濃度は低くなった。秋に幼虫の採集を行なったところ、本来のヨシ群落からは、ヒヌマイトトンボの幼虫しか採集されなかった。一方、創成地ではごく少数のヒヌマイトトンボと、多数のアオモンイトトンボの幼虫が採集された。アオモンイトトンボは幼時代と成虫時代のそれぞれでヒヌマイトトンボの捕食者となるので、1つのヨシ群落の中に2種が生息するとヒヌマイトトンボは駆逐されてしまう可能性が高い。これらの結果から、創成したヨシ群落をヒヌマイトトンボの生息環境とするための管理方法を提言する。
P3-108c: 北海道胆振地方におけるセイヨウオオマルハナバチおよび在来マルハナバチ類各種の資源利用と活動季節パターン
野生化したセイヨウオオマルハナバチが在来マルハナバチ類に与える影響を評価するために、(1)採餌環境 (2)活動季節パターン (3)利用する植物の種類を比較した。調査は勇払郡鵡川町・厚真町において、2003年_から_2004年にかけて実施した。2003年は7月下旬_から_10月に約7.5km2の調査地を踏査し、目撃個体数、訪花植物、周囲の環境類型などを記録した。その結果、調査地でもっとも多く目撃されたのはセイヨウオオマルハナバチであった(63.8%)。在来マルハナバチ類は、採餌場所(河川敷や耕作地を含む開けた環境あるいは樹林環境)や利用植物(花冠の浅い花あるいは深い花)の選好性、および活動季節パターン(7月下旬_から_8月あるいは8月下旬に活動のピーク)が異なっていた。それに対してセイヨウオオマルハナバチは、エゾオオマルハナバチと採餌環境、活動季節パターン、利用植物が類似しており、ニセハイイロマルハナバチと採餌環境、利用植物が類似していた。エゾトラマルハナバチとはいずれも異なる傾向がみられた。2004年は2003年と同様の調査だけでなく、より定量的な調査を行うために河川敷、耕作地、防風林縁、樹林を含む3つのルートセンサス調査を加えた。樹林環境ではエゾコマルハナバチ、エゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチ、シュレンクマルハナバチの女王が確認されたが、河川敷や耕作地では70%がセイヨウオオマルハナバチの女王であった。
P3-109c: 小笠原諸島陸産貝類への脅威,ニューギニアヤリガタリクウズムシは貝類以外に何を食べているか?
ニューギニア原産の陸棲プラナリア,ニューギニアヤリガタリクウズムシ(Platydemus manokwari: 以下,P. m. と記す)は,1990年代に小笠原諸島・父島に侵入したとされる。もともと小笠原に分布している固有陸産貝類や,1930年代に小笠原に持ち込まれたアフリカマイマイなどの外来種は,父島では1980年代以降激減したが,P. m. はその要因の1つであると推測されている。このことは,現時点で,P. m. が未侵入の母島では固有種・外来種とも以前とそれほど変わらない密度で生存していることからも支持される。1998年から2004年にかけて父島内のP. m. の分布を調査した結果,本種は過去に陸産貝類が分布したが現在は分布しない地域でも非常に高密度で分布することがわかった。従来の調査で陸産貝類の捕食しか報告のない本種が,なぜ貝類のいない地域でも高密度で分布するのか?そこで主に飼育条件下で本種の食性を調査した結果,本種は生きた陸産貝類以外のものも食べることがわかった。従って,いったん本種が侵入した父島では,今後陸産貝類が生存することは極めて困難であろうと推測される。
P3-110c: 航空機を用いたアザラシ類の生息数推定法の検討
氷上繁殖型アザラシ類の生息数推定においては、航空機による繁殖海域の目視調査(厳冬期の洋上飛行)が一般的である。しかし、近年、安全上の問題により従来の小型航空機を使用できなくなり、機種変更が調査に与える影響を吟味する必要が出てきた。一方で、国内のアザラシ類調査は、将来にわたって経験者の確保が難しい状況のために、人員変更による調査精度の低下が懸念されている。そこで、本研究では、生息数調査において、使用機体が異なった場合の影響および、経験の有無による観察者間の差異を評価した。
2001年3月に北海道オホーツク海沖合において、航空機c208(上翼、単発エンジン、定員10名)を用いて、調査経験者2名と非経験者2名、合計4名による同時観察を行った。ライントランセクトを設定し、平均高度155mで左右の横距離50~650mの海氷上を探索した。これらの結果を前年度{c206(上翼、単発エンジン、定員6名)、平均高度129m、左右の横距離65~550m; Miuzno et al. 2002}と比較した。
経験者と非経験者との発見群数に有意な差はなかったが、非経験者では種を同定できない不明群の割合が高く、とくに至近距離で高かった。特有の探索方法に対する慣れが関与していると考えられた。機体による影響を調べるために、全発見群に対する種不明群の割合を比較したところc208では30%であり、前年(c206、20%)よりも高かった。c208は性能上、高度と速度が大きいために、より広い視野範囲を短時間で探索する必要があったためと推察された。観察者変更による影響を少なくするためには、経験者と同乗しての精度比較が、推定値補正のために有効な対策であろう。また、調査精度向上のためには、高度や速度を低く保つことのできる小型の機体を選考するのが望ましい。
P3-111c: 琵琶湖周辺の水田利用魚類の現状
2002年4月から2003年7月28日にわたって,琵琶湖東岸に位置する滋賀県彦根市の水田地帯に出現する魚類について長期的調査を行なった.調査は排水路におけるモンドリの定期調査および,水田内,排水路においてタモ網によるすくい捕り調査,目視による見回り調査を行なった.調査の結果,河川や琵琶湖から排水路に遡上した魚類は,9科22種・亜種,延べ12,480個体であった.そのうち,5月から7月の灌漑期には,多くの魚種が出現する傾向がみられた.水田地帯に出現した魚類は,出現時期や発育段階により(a)産卵場所,仔稚魚の育成場所として利用するもの,(b)稚魚期から成魚期の生活場所として利用するものに類型化された.しかし,これらの全ての魚種は排水路のみで確認され,水田内では魚類は全く確認することができなかった.これは圃場整備により,排水桝の改良や水田と水路の高低差が生じた事に起因するものと考えられた.また,確認された魚類のうちコイ,フナ類,ナマズ,ドジョウ,メダカの4科5種・亜種は,排水路内で繁殖が確認された.しかし,これらの魚類はドジョウを除いて稚魚の降下個体数が非常に少なく,排水路ではほとんど再生産が行なわれていないことが明らかになった.
一方で,魚が遡上できない水田内に5-15個体のニゴロブナ親魚を放流したところ,繁殖した数万個体の稚魚が中干し時に降下した.このことからも水田はフナ類などを中心とした魚類にとっての繁殖場所,仔稚魚の生育場所として機能することが明らかになった.したがって,琵琶湖-水田間の連続性を保ち,水田のもつ「魚類のゆりかご」としての機能を復元することは,現在激減している琵琶湖とその周辺の在来種の保全と復元に貢献できると考えられる.
P3-112c: トンボ池型ビオトープに導入された外来種(アメリカザリガニ、金魚)の影響と保全教育
外来種問題は、生物多様性を脅かす重要な要因である。その問題の解決のためには、科学的な調査研究、駆除等の対策とともに、その問題を市民へ普及・啓蒙する必要性があると考えられる。しかし、外来種問題に対する市民の認識はあまり高くはなく、効果的な教育プログラムの開発が急務である。
本研究では、トンボ池型ビオトープを活用して、外来種の問題を学習するための教育プログラムを作成することを目的に、外来種(アメリカザリガニ)や捕食者(金魚)が管理者の意図に反して意図的非意図的に導入された少数のトンボ池型ビオトープにおいて、水生昆虫群集や植生に与える影響について調査を行った。
調査の結果、アメリカザリガニが導入された場合、水生昆虫の種数、個体数ともに減少すること、ビオトープ内の植物のうち浮葉植物が見られなくなることが明らかになった。アメリカザリガニは雑食性で、水草や水生昆虫を捕食することが知られており、この影響によるものと考えられる。また、金魚が導入された場合には、植物には影響はないが、水生昆虫の種数、個体数ともに減少することが明らかになった。
霞ヶ浦周辺では、ビオトープを活用した教育プログラムが展開されているため、ビオトープに生息する水生昆虫や浮葉植物特にアサザは、子どもたちの関心が高い生き物である。外来種の影響によりこれらの種が見られなくなることを授業プログラムとして伝えることにより、子どもたちに外来種問題に対する高い関心を引き出すことが可能になると考えられる。これらの結果を元に授業プログラムの開発を行った。
P3-113c: 襟裳岬海岸造林地のクロマツとカシワに定着する外生菌根菌の比較
外生菌根菌は、森林を構成する多くの木本植物の根に外生菌根という組織を形成し、共生関係を持っている。一般にこの外生菌根菌は、攪乱跡地での植生の定着に重要であるといわれており、また、宿主特異性を持つことが知られている。北海道襟裳岬では、伐採などにより一度植生が失われ、その後、本来の植生ではないクロマツを中心とした植林が行われた。この襟裳岬において、宿主特異性を持つ外生菌根菌が、クロマツにどのような菌根共生を行っているのかは興味深い。そこで本研究では、襟裳岬のクロマツがどのような菌根共生を行っているのかを明らかにするため、植林後約50年が経過したクロマツ林と、その近くのほぼ同齢の自然定着したカシワ林において、その根系に定着している外生菌根菌の形成率とタイプを顕微鏡を用いて比較した。また、植栽前のクロマツ苗木の外生菌根タイプも同様に調べ、50年生クロマツ林と比較した。その結果、外生菌根菌の形成率は、クロマツ林では59.8-79.0%、カシワ林では46.3-79.6%となり、両林間において差は見られなかった。出現した外生菌根の総タイプ数は、クロマツ林では12タイプ、カシワ林では19タイプが確認された。また、クロマツとカシワのそれぞれの林で、40%以上の出現率を示す優占菌根菌種が各々存在するようだった。クロマツ林には、カシワ林と共通する菌根タイプが2タイプ、クロマツ苗木と共通する菌根タイプが1タイプ確認されたが、それらは50年生クロマツの根において10%以下しか出現せず、優占種ではなかった。以上から、植林から約50年が経過した現在、クロマツ林には独自の特異的な菌根共生が成立していると考えられた。
P3-114c: 北海道日高地方で発見されたセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris L.)の自然巣における高い増殖能力
北海道日高地方では、温室トマトの授粉用に導入されたセイヨウオオマルハナバチ(以下、セイヨウ)の定着が、1996年に確認された。その後、定着状況のモニタリングが継続されている。毎春に花上で捕獲される女王バチの個体数は、年々増加傾向にあり、ここ2、3年で急増した。セイヨウは本来の分布域において、営巣場所や花資源をめぐるハナバチ間の競争に強い種である。そのため、在来マルハナバチ類(以下、在来種)を衰退させ、これらに受粉を依存していた植物の種子繁殖を阻害することが懸念される。
本研究では、営巣場所をめぐる在来種との競合の可能性と、日高地方における個体数の急増の背景を明らかにすることを目的とし、セイヨウと在来種の営巣場所および繁殖成功(新女王バチ生産の有無と数)を比較した。勇払郡鵡川町・厚真町と沙流郡門別町のほぼ7.75km2の範囲にある水田や畑地、河川敷等において、2003年6月から9月の間にマルハナバチ類の巣を探索し,セイヨウの自然巣8つを含む27の巣を発見した。セイヨウの巣は、農耕地の地中にあるネズミ類の廃巣に作られており、営巣場所の競合は、同様の場所に営巣していたエゾオオマルハナバチ、エゾトラマルハナバチとの間でおこる可能性が高いことが明らかとなった。新女王バチの生産に至った巣の比率には、セイヨウと在来種間で有意差はなかったが、生産に至った巣あたりの新女王バチ数は、在来種の4.4倍の平均110頭であった。セイヨウは、この地域の野外において、在来種と比較して増殖率が高く、飼育下での値に匹敵するほどの高い繁殖成功をおさめていることが明らかとなった。この増殖能力の高さは、当該地域においてセイヨウの個体数が急増している一因であると考えられる。
P3-115c: 植物群落の地理的分布に基づいた保護地域の配置
保護地域の目的は生物多様性すべてを持続させることだが,実際には様々な問題が指摘されている。中でも大きな問題は,保護地域が経済的に価値の低い地域などに集中し,保全されるべき地域・対象を網羅していないことである。限られた保全資源を有効に活用するには,保護地域の効率的な選択が求められる。近年,すべての対象を網羅するために必要とされる,最もコストの小さい地域の組み合わせを選ぶアルゴリズムが検討されているが,対象ごとの地理的な分布はほとんど考慮されていない。これらのアルゴリズムは分布域の周辺を優先して選択するとの指摘があるが,理想は分布域に対して均等に保護地域を配置することと考えられる。一方で,分布域という新たな制約を加えることで必要なコストが増えるという指摘もある。以上を踏まえ本研究では,植物群落の地理的分布を考慮した保護地域の選択アルゴリズムについて検討することを目的とした。対象は植物群落レッドデータブックで危険性・重要性が特に高い植物群落1,589件とした。ただし,この内93件は位置情報がないため,実際の分析対象は1496件であった。これらは優占種をもとにした群落タイプ801個のいずれか1つ以上に該当する。土地利用変化を伴う行為に許可を必要とする保護地域内にある植物群落は778群落(52%),保護地域の比率が50%未満の群落タイプは221タイプ(28%)であった。保護地域の選択は,以下の手順で行った。まず,群落タイプごとに立地配分モデルを適用し,モデルの有効性を検討した。群落の主な構成種と注目すべき種を最大数カバーさせる配置との関係もあわせて検討した。次にすべての群落タイプをまとめて,従来のset-covering problemから,すべての群落タイプの一定割合以上を保全するために必要な最も少ない群落数を決定した上で,立地配分モデルによって,保護地域の配置を決定した。
P3-116c: サクラソウ属Cortusoides節3種における比較保全生態遺伝学の試み
人間活動の影響などによる個体群の分断孤立化は,さまざまな決定論的・確率論的な要因を通じて種の将来に重大な影響を及ぼす。他殖性の虫媒植物においては,残されたパッチにおける訪花昆虫との相互作用の変質やジェネットの孤立化による受粉の失敗などのため,生活史の完遂が困難になる場合がある。しかし,クローン成長可能な種ではその影響が分かりにくいことも多く,その保全にあたっては綿密な調査が必要となる。
サクラソウ属(Primula L.)植物の多くは異型花柱性で地下茎によるクローン成長が可能な多年生草本である。日本にも14種類が分布するが,ほとんどの種で個体群の分断孤立化及び個体数の減少が進んでいる。特に,カッコソウ(P. kisoana Miq. var. kisoana)ではスギの植林による生育適地の消失と過剰な園芸採集のために残存するジェネットが数十のオーダーまで減少し,種子繁殖も満足にできない状態に陥っている.また,同属では最も知名度が高く,各地で生物多様性保全の象徴として注目されるサクラソウ(P. sieboldii E. Morren)も,カッコソウほどではないにしろ個体群の分断孤立化が進行している。
ところが,これら2種にごく近縁で同じCortusoides節に分類されるオオサクラソウ(P. jesoana Miq. )は,遺伝子流動の観点からみて分断孤立化があまり進んでいないと思われる稀有な例である.特に北海道東部での生育密度は非常に高く,沢沿いの明るい場所を中心に広く連続的に分布している。日本のサクラソウ属植物,ひいては類似の生態をもつ他殖性の虫媒植物の保全を考える際には,本種を一種の"ベースライン"として位置付けていくことが有効である可能性がある。そこで本研究では,個体群の現状が対照的なこれら3種類のサクラソウ植物を対象に,系統関係を踏まえた上で,個体群内の遺伝的構造をさまざまなスケールで比較した結果を報告したい。
P3-117c: 森林断片化によるShorea leprosulaの遺伝的多様性に与える影響
さまざまな生物の住処である森林生態系は、人間活動の影響によって森林の断片化や孤立化が進んでいるためにその機能が損なわれようとしている。クアラルンプール市に隣接したAmpang森林保護区はかつて水源保護林として利用されてきたが、都市化に伴い森林の開発のため断片化が進んでいる。しかし都市に近接しているにもかかわらず現在でも立派な森林を形成している。この森林を形成する上で林冠を構成する主要な種の一つである熱帯樹種のフタバガキ科(Dipterocarpaceous)のShorea leprosulaは材木としても有用な種である。この種は東南アジア広範に分布する樹種であり造林の対象種としても重要視されている。。フタバガキ科樹木の多くは他殖性であることから、近親交配により近交弱勢が起こることが報告されている。S.leprosulaも他殖性植物であるため、近親交配が増加すると、近交弱勢によって次世代以降への交配に悪影響が出る可能性がある。
森林が断片化された状態が遺伝的多様性への影響を持つのかということをAmpang 森林保護区を調査地とし、S.leprosulaを対象にマイクロサテライトマーカーを用いて解析を行った。この森林の林縁部(住宅地に近接したところ)、中心部で、それぞれ個体密度が等しいと定義した上で、断片化される前に成長した母樹、断片化後に交配が行われ成長をはじめた実生を各20〜30個体採取しDNAを抽出した。すでにこの種で開発されていた9座のマイクロサテライトマーカーによって解析を行い、ヘテロ接合度、対立遺伝子頻度、近交係数などを算出し、母樹と実生、林縁部と中心部で遺伝的多様性の差異を求め、断片化の影響があるかどうかの検討を行った。
P3-118c: 河川の区間スケール特性による魚類の生息場所選択性の違い
河川に魚類の生息場所を維持管理する視点からは,土砂の侵食-堆積過程と対応させた生息場所の評価が必要である.本研究では,取水堰堤の上流域の土砂堆積量が異なる区間で環境特性と魚類の生息場所選択性を調査し比較分析した.堰堤の直上流の堆積卓越区間(平均勾配100分の1),背水が増水時にのみ波及する移行区間(勾配100分の12),背水の影響がない侵食卓越区間(勾配100分の13)の3区間内に瀬と淵4セット計12地点を設け,地形,流速,水深,底質,開空度,水温,水質を測定した.2003年10月に全地点の瀬と淵ごとに,1cmSL以上の魚類を対象に全個体の採集を試み魚種別に計数と体長測定を行った.
分散分析の結果,カワムツはどの区間でも淵に多かったが,瀬間比較では侵食区で少なかった.カワヨシノボリは,堆積区と移行区では淵より瀬に多く侵食区では差がなかった.また,瀬間の比較では,侵食区(0.12/m2)より堆積区(0.41/m2)と移行区(0.38/m2)に多かった.カマツカは淵では堆積区に多く,瀬では堆積区にのみ生息していた.CCAの結果,瀬の調査地点は,流速と底質粗度が大きい侵食区とそうでない移行区・堆積区に分けられた.カワムツの生息密度は流速,底質粒径と負の相関が見られたので,流速が大きく底質が粗い侵食区の瀬は生息に不適だったと考えられた.カワヨシノボリの生息密度は底質粒径と正の相関を,流速とは負の相関を示したことから,侵食区の瀬では流速が大きすぎるため不適だったと考えられた.カマツカの生息密度は流速,底質粒径と負の相関を,水深と正の相関を示したことから,流れがゆるく水深の大きい堆積区の瀬には生息できたと考えられた.また,淵の調査地点は,流速が小さく水深の大きな堆積区とそうでない移行区・侵食区に分けられた.カマツカの生息密度は水深と正の相関が,流速と負の相関が見られたため,堆積区の淵に多く生息していたと考えられる.さらに,カワヨシノボリが各区間の淵で少なかったのは,好ましい底質粒径が少ないためと考えられた.
P3-119c: 福井県重要里地里山選定調査事業について -行政における里地里山調査の取り組み-
里地里山は、農林業など人が自然に手を加えることによって維持されてきた環境である。しかし、農業の近代化や産業構造の変化にともなって、里地里山の自然環境は大きく変化し、現在ではそこに依存するメダカやゲンゴロウなどの種が、絶滅の危機に瀕するまでに至った。生物多様性国家戦略のなかでも指摘されているとおり、我が国における生物多様性を維持していく上で、このような野生生物が生息・生育する里地里山を保全していくことは重要な課題である。
福井県では、希少種が集中する里地里山(重要里地里山)を保全・活用していくことを環境基本計画の中に位置づけており、対象箇所の選定および保全・活用対策に部局連携で取り組んでいる。このうち福井県自然保護センターは、重要里地里山の候補地を選定することを目的として、県内の里地里山地域における希少野生生物の生息・生育状況に関する調査を行ったので、そのプロセスと結果の概要について報告する。なお、本調査事業は環境省の自然環境保全基礎調査(平成15年度都道府県委託調査)により実施したものである。
調査は、文献調査と現地調査によって行った。まず、既存の希少野生生物の分布情報を整理し、専門家や関係部局と協議しながら、現地調査を実施する28地域を抽出し、その後、現地調査により希少野生生物の生息・生育確認を行った。なお、調査対象種としては、里地里山をおもな生息・生育地とする野生生物(動植物)のうち、県RDB種および指標種342種を指定した。2003年6月1日から2004年1月20日までの調査期間内に、66名の調査員が調査を行った結果、のべ2453件の報告が得られた。希少種の分布情報など、扱いに注意を要する情報が多いという制約の中で、いかに重要里地里山の重要性を県民に訴えかけ、実際の保全に結びつけるかが今後の課題である。
P3-120c: トンボ成虫の種多様性のパターンを決める種ごとの環境選好性
トンボ成虫は、小さな止水域においても複数種の生息が可能であり、開放系のハビタットにおける種多様性の形成・維持機構の研究材料に適している。新たに創出された水域における種多様性の形成に大きく寄与する「移入の過程」には、それぞれの種の環境選好性が大きく影響すると考えられる。
本研究では、トンボ成虫の環境選好性の基準を明らかにし、池ごとの種多様性パターンを構成種の環境選好性から説明することを目的として、新たに作られた69ヶ所の小水域において定期的なトンボ成虫のセンサス調査を実施した。トンボ成虫の環境選好性はスケールの異なる基準をもつ可能性があることから、面積や植生といった池の環境要因に合わせて、池の周囲の土地利用状況を把握し、池の周囲半径2km以内の樹林地、草地、水田、開放水域の面積を求めた。
調査の結果、トンボ成虫の種数は池の面積と有意な正の相関を示した。しかし、種数と植被率の間には明瞭な相関は認められなかった。環境要因と種ごとの出現確率の関係を多変量ロジスティック回帰によって解析した結果、池の面積に対する選好性のパターンは単純であり、多くの種が面積に対して正の選好性を持っていると考えられた(15種中11種)。一方、植生依存のパターンは単純ではなく、植被率に正の選好性を示すもの、負の選好性を示すもの、および中程度の植被率で出現確率が高くなるものがそれぞれ存在した。本研究において、種数の面積依存パターンが明瞭な線形関係だったのに対して、植被率への種数の依存パターンが不明瞭だったのはこのように植生に対する選好性が種によって異なっていたためであると考えられた。
さらに、池の周囲の樹林、草地、水田といった土地利用に関する要因が、いくつかの種の出現に対して有意な効果をもっていたことから、周囲の環境が池の群集パターンに影響を及ぼす可能性が示唆された。
P3-121c: 小笠原における遷移中期の在来樹種の発芽・定着に対する外来樹種ギンネムの影響
海洋島である小笠原諸島では、多くの外来樹種の侵入による在来植生への影響が、これらの保全上大きな問題となっている。ギンネムLeucaena leucocephala de Wit (Lam.) は、耕作地跡のような攪乱地に侵入する。小笠原諸島では、遷移初期には在来種であるウラジロエノキTrema orientalisやアコウザンショウFagra boninsimaeが本来優占するが、遷移初期におけるギンネムの侵入は、これらの在来種から始まる植生遷移とは異なる遷移を引き起こすことが報告されている。これはギンネムが直接的もしくは間接的にその後の遷移のステージで出現する在来種の定着を妨げている可能性を示唆する。このような可能性を検証するために、小笠原諸島父島の二次遷移初期ステージでギンネムとウラジロエノキがそれぞれ優占する群落において、遷移中期に出現する在来種ヒメツバキSchima mertensianaの実生の移植実験および種子の発芽実験を行ない、ヒメツバキの実生の定着に与える遷移初期種の影響を比較した。
ギンネムの林床に移植されたヒメツバキの実生の成長速度は、ウラジロエノキの林床に移植されたヒメツバキの実生の成長速度より有意に低かった。また、ギンネム、ウラジロエノキそれぞれの林床において林床植生を除去した区画とそうでない区画の間では成長速度に有意な差は見られなかった。
ギンネムの林床に播種したヒメツバキの発芽率は、ウラジロエノキの林床に播種したヒメツバキの発芽率より有意に低かった。また、ギンネム、ウラジロエノキそれぞれの林床において林床植生を除去した区画とそうでない区画の間で発芽率に有意な差は見られなかった。
本研究の結果は、ギンネムがヒメツバキの種子の発芽と実生の成長の両方に負の影響を与えることを示す。
P3-122c: 外来樹木トウネズミモチの河川への侵入
トウネズミモチは緑化によく用いられる外来樹木で,近年,植栽地より逸出し野外で急増している.本種は生育と繁殖力が旺盛で国内の生態系への悪影響が危惧されている(吉永・亀山,2001).本研究では,猪名川(兵庫県)の河川敷に逸出したトウネズミモチの個体群について,河川敷での分布位置や個体サイズ(樹高,胸高直径),一株あたりの萌芽幹数,結実状況,近隣のトウネズミモチ植栽地との位置関係を調査し,その河川敷での定着状況と種子供給源について検討した.
結果,河川敷で94個体が確認された.平均樹高は3.1m,平均胸高直径は3.5cm,平均萌芽数は5.3本であった.また,根おこしされた株の多くは萌芽幹や不定根を伸長させていた.このように生育状況が良好であり,不定根や萌芽の発生などの水辺環境に適応した樹木の特徴(崎尾2002)がみられたことから,トウネズミモチは河川環境に適応していると考えられた.近隣の植栽地には大量のトウネズミモチが植えられており,調査地の個体の多くは植栽地からの最短距離で180mから270mの間の,鳥による種子散布が可能な距離(Fukui,1995)に分布が集中していたことから,この植栽地が調査地の個体の主な種子供給源と考えられた.また河川敷に44の結実個体がみられたことから,河川敷の個体には植栽群だけでなく河川敷の他の個体に由来する個体も含まれると考えられた.
P3-123c: 林冠と林床の撹乱が稚樹の定着と種組成に与える影響
近年、燃料革命などにより管理が放棄される二次林が多くなった。過去に大きな人為的撹乱を受けた森林は、林分構造が単純になることが多い。このような林分構造を変えるために、伐採による人工ギャップ形成などの撹乱を与えることは有効な手段である。本研究では過去に人為的撹乱を受けた落葉性広葉樹二次林で、伐採と林床の撹乱が稚樹の定着と種組成にどう影響を与えるのかを明らかにする。
調査地は鳥取大学農学部附属蒜山演習林である。ここは過去に軍馬の放牧が行われていて、現在はコナラが優占する二次林である。調査地に、上木の伐採とササの刈り取り、ササの刈り取り、上木の伐採、無処理の4種類のプロットを設置した。樹高 1.5 m 以上を上木とし、樹種を同定し、DBHと樹高を測定した。コアサンプルと円板を採取し樹齢を計測した。地表から 0.3 m と 2.0 m で全天空写真を撮り、開空率を求めた。当年生稚樹の樹種を同定し、ササの本数と高さを測定した。
本林分では、上層をコナラとクヌギが優占し、中層と下層には上層とは異なった樹種が出現したが、本数は少なかった。また、林床にはチマキザサが繁茂していた。樹齢分布より、優占種であるコナラとクヌギは新しく更新していなかった。コナラとクヌギは、過去の大きな撹乱で一斉に定着したが、その後、撹乱を受けなかったために単純な林分構造になったと考えられる。
4種のプロットのうち、種数が一番少なかったのは無処理のもので、上木の伐採とササの刈り取りは定着できる種数を増加させた。上木を伐採したプロットは、伐採していないプロットより2.0 m の開空率が高く、ササの量も多かった。ササの量の増加は林床の光環境を低下させていた。
上木とササは稚樹の定着に影響を与えており、これらの除去は樹木の更新に有効であった。しかし、上木の伐採による光環境の好転はササの成長も促進するため、ササの量を制御する森林管理が必要である。
P3-124c: 静岡県内主要河川の河原植生における外来種の侵入程度
近年、日本各地で外来種の侵入問題が顕在化してきた。我々は外来種の侵入が確認された河原の植生構造を把握し、急流な東海型河川の河原植生に関するデータベースの作成を目的として、一昨年度より静岡県内の主要河川において植生調査を行っている。特に、侵入種として問題視されているシナダレスズメガヤEragrostis curvulaの優占地に注目し、本種の分布拡大が県内の河原植生にどのような影響を及ぼしているのかを検討している。
河原の植生調査は、静岡県西部の天竜川、中部の安倍川、東部の富士川の3河川の下流域で2002年から2003年の春と秋に行った。また、安倍川と富士川については中流域にも調査地を設けた。調査方法は河流に対して垂直にコドラート(1×1m)を並べるライントランセクト法を用い,コドラート内の種数、個体数及び植被度を調査した。
調査の結果、3河川とも1年生草本が最も多く、次いで多年草が多かった。今回の調査地では、外来種が出現種数の過半数を占めるコドラートが多く、帰化率は天竜川の調査地で10%、安倍川と富士川ではともに30%以上で、外来種の侵入程度が極めて高いことが明らかとなった。 特にシナダレスズメガヤについては、河岸近くで大きな集団を形成しているところが中・下流域で広く確認された。各河川の生育地において本種の形態を測定したところ、平均で草丈138cm、株周り55cmと大型化した個体が多く、河原植生に及ぼす影響が大きいものと推察された。
今後、河川植生の保全活動のためにも、生育している個々の種を継続して詳細に調査していくことが必要である。特に帰化率の高かった河原では外来種の優占化,それに伴う種多様性の低下が懸念されるため、在来種と外来種双方からの研究アプローチが不可欠であろう。
P3-125c: ニホンジカの食性に及ぼす環境要因‐兵庫県の場合‐
兵庫県におけるニホンジカは、北は落葉広葉樹林帯から南は淡路島の照葉樹林帯まで広い範囲に生息している。現在、本州部では阪神地域を除いた3/4の地域に分布が拡大し、淡路島では、諭鶴羽山系に孤立して高密度に生息している。分布する地域では、農林業被害が顕在化しており、被害を与えるシカの食性、生息状況や利用する環境などの情報に基づいた地域ごとの適切な管理が必要となっている。
本研究では、兵庫県に生息するニホンジカの食性を多角的に把握し、食性に与える生息環境の要因を明らかにすることを目的として行った。
食性は、有害捕獲、狩猟により捕獲されたニホンジカ247個体の胃内容物を用いて、採食物の容量比、出現種子、一般栄養組成を分析することにより把握した。また県内3カ所において食痕調査を実施し、採食植物種のリストアップを行った。さらに主要な採食物に関しては、一般栄養組成を分析した。これらのシカの食性の特徴と森林植生、農地面積、シカの生息密度との関係を解析した。
ニホンジカが採食した植物カテゴリーは、季節的に大きく変動するが、生息する森林植生に大きく影響を受けていた。しかし、同一の森林植生においても、林縁部付近で捕獲された個体では、グラミノイドや農作物などの利用度が高かった。摂取栄養価の指標である胃内容物の粗タンパク質やカルシウム、リンは、高密度が長期間続いている但馬地域、淡路島諭鶴羽山系で低い傾向を示し、高密度化による採食物の質の低下が示唆される結果となった。これらの結果から、ニホンジカの食性は森林環境により地域変異が認められるが、林縁部に放棄された農作物などの影響を大きく受けていることが明らかとなった。人為的な食物資源の利用により高密度化とそれに伴う採食植物の栄養的な質が低下なども示唆された。
P3-126c:
(NA)
P3-127c: 貯水ダム下流域における底生動物群集の流程変化様式
河床に堆積する土質や土砂量は、河川生態系の基盤となる地形や生息場所条件を決めるため、生物群集の組成や生物体量の要因として重要である。貯水ダム下流域では、土砂供給が減少し攪乱の規模と頻度が人為制御される結果、底質の粗粒化及び固化が生じ、底生動物の種多様性の減少が報告されている。本研究は、貯水ダム下流域と貯水ダムのない対照流域とで比較調査することによって,底質の粗粒化及び固化と底生動物群集との対応関係を明らかにすることを目的としている。奈良県紀ノ川水系の大迫ダム(1973年竣工)下流と貯水ダムのない高見川とで現地調査を行い、貯水ダムが底質環境と底生動物群集に与える影響について分析した。
その結果、ダム直下では河床材が粗粒化するとともに、底質表面に繁茂した糸状藻類がシルト等の粗細粒成分を捕捉することによって付着層が厚いマット状に発達していた。そのため、糸状藻類に依存するヒメトビケラ属の一種が高密度に生息し、ヒラタカゲロウ科やフタバコカゲロウ属などの滑行型の底生動物が減少あるいは消失していた。さらに、ダム直下では、河床内部が泥質化し、瀬においても掘潜型であるモンカゲロウの生息が認められた。底生動物群に対する貯水ダムの影響については、これまでは湖水の一次生産に起因する水質悪化の影響を中心に議論されてきた。本研究でも、中腐水性の指標種であるミズムシ、アカマダラカゲロウ、コガタシマトビケラ、サトコガタシマトビケラなどが高密度で生息していた事実は、この影響ルートを示唆している。しかし、滑行型などの底生動物については,付着層のマット化を通じた影響も重要であると考えられる。この影響ルートは、斜面や支川からの土砂供給によって改善される可能性があるため、流程に沿った変化様式について解析した。その結果,付着層の量と滑行型の生息数に負の相関が,また土砂供給可能な流域面積と全タクサ数との間には正の相関が見いだされた。
P3-128c: 人工衛星を用いたモウコガゼルの移動経路の解明と生息地評価
モンゴルの草原を中心に生息し、長距離移動をおこなう中型ウシ科のモウコガゼル(Procapra gutturosa)の保全が緊急の課題となっている。長距離移動動物の保全対策には、各季節の行動圏および移動経路と移動要因の解明が必要であるが、これまでその移動経路は断片的にしか明らかになっていない。そこで、モウコガゼルに衛星追跡用の電波送信機を装着し、移動経路を追跡するとともに、人工衛星画像から得られ、植物量と相関がある正規化植生指数(NDVI)を用いて、ガゼルの夏と冬の生息地間で植物量の季節的な逆転現象が見られるかを検証した。
2002年の10月にモンゴル南部のオムノゴビ県とドルノゴビ県で成獣メスを各2頭捕獲し送信機を装着した。カーネル法により求めた冬(12月から2月)と夏(6月から8月)各個体の50%コアエリアを、それぞれ冬、夏の行動圏とし、各地域での年間を通しての95%コアエリアを年間行動圏として、各行動圏内のNDVI値の季節変化を比較した。
その結果、モウコガゼルの年間を通した移動経路を初めて追跡でき、最大直線距離が約300 km、累積移動距離は1000 kmを越える個体もあった。オムノゴビでは年間行動圏のNDVI平均値と比較すると夏の行動圏のNDVI値は夏高く、冬低かった。一方、冬の行動圏では夏は平均値よりも低く冬は高くなり、この地域間の相対的なNDVI値の逆転はガゼルの季節移動をよく説明した。ドルノゴビでは夏の行動圏のNDVI値が年間行動圏の平均値と比較して夏高く冬低いという点はオムノゴビと同様であったが、常に夏の行動圏よりも冬の行動圏でNDVI値が高かった。NDVIはガゼルの生息地評価指標として有効であり、ガゼルは年間行動圏内における地域間の相対的植物量の季節変化に対応して移動することが示唆されたが、地域差をもたらす要因解明とNDVI以外のデータの必要性も示された。
P3-129c: 護岸工事が河道内生物に与えた影響 -水生昆虫類を指標とした評価-
【はじめに】2001年10月から2002年3月にかけて千曲川中流域の河道内で大規模な護岸工事が行われ、生物群集に大きな影響を与えた。河川撹乱の影響を調べるとき、水生昆虫類の幼虫を利用することが多い。しかし出水時にはサンプルが容易に得られないこと、また瀬淵により個体数や生息する種類相が異なるなどの問題点が指摘されている。さらに、幼虫では種の同定が困難であるため、ユスリカ類やガガンボ類などは科(family)のレベルでまとめられていることが多い。本研究では、護岸工事が行われる前の2001年と、工事が完了した2002年の同時期に注目し、水生昆虫類成虫の捕獲数や種類組成を調査し、従来の幼虫を用いた評価法との比較を行った。また調査頻度の違いが結果に及ぼす影響についても検討した。
【調査方法】調査は2001年、2002年とも4月19日から7月10日までの83日間行った。千曲川河川敷にライトトラップ(6Wブラックライト一本付設)を1器設置し、夕方から翌朝までライトを点灯し、水生昆虫類の成虫を毎日採集し、種まで分類した。
【結果と考察】工事の前後で比較すると、工事完了は捕獲数が増加、種数が減少、群集の多様度、ならびに均衡度はともに低下した。また、同定段階の違いにより、評価の程度が異なり、工事前後の差も異なることがわかった。また、調査期間の設定により、得られる結果は大きく異なった。調査期間を一般に予想される1日、1週間、1ヶ月、および全調査期間(83日)で設定し、各項目の調査期間別の最大値、最小値、および中央値を算出し、差を調べた。調査期間が短いほどバラツキが大きくなり、工事前後の比較においてもその差が顕著に見られず、結果が逆転してしまうこともあった。本研究においては、約60日間以上の調査で差がほぼ無くなることがわかり、全調査期間を用いた本研究の結果は妥当であると推測された。
P3-130c: 都道府県別レッドリスト情報から見た日本産食虫目およびネズミ科動物の保護の現状
食虫目、齧歯目などの小型哺乳類は、大型種と較べて保護・保全の現場で関心が持たれることが少ないが、実際には種や地域個体群のレベルで絶滅のおそれが増大しているものが多く、積極的な対応が迫られている。そこで、食虫目およびネズミ科動物の保護に関する現状を具体的に把握する目的で、主に都道府県別のレッドリストに基づき、地域ごとの情報を収集、整理した。
2004年6月現在、47都道府県中42で哺乳類を含む野生生物のレッドリストが公開されており、東京都では区部、北部、南部、西部、伊豆諸島の5区域に分けてリストが作られている。食虫目は国内に外来種であるハリネズミの1種(恐らくマンシュウハリネズミ)および最近染色体の数カ所の差異によりサドモグラからの独立性が認識されるようになったエチゴモグラを含む21種が生息しており、様々な資料からそれらの生息情報が得られたのべ268種・都道府県(東京都は5として算出、以下同じ)で情報不足、未決定を除くと83件(31.0_%_、ほぼ「3種に1種」)の指定があった。齧歯目ネズミ科は国内に外来種のマスクラットおよび住家性の4種を含めて20種が生息しており、それらの生息情報が得られたのべ219種・都道府県(住家性の種を除く)で情報不足、現状不明、未決定を除くと53件(24.2_%_、ほぼ「4種に1種」)の指定があった。このように、食虫目やネズミ科のレッドリストの指定率は他の生物と比較して低くはない。指定上の問題点として、保護上重要な種が未決定となっている(沖縄県のセンカクモグラ、セスジネズミ)、重要と考えられる種が指定されていない(静岡県のアズミトガリネズミ)、現在あまり支持されない分類群が用いられている場合が多い(シロウマトガリネズミ、コモグラ、カゲネズミなど)、外来種が上位にランクされている(長崎県のジャコウネズミがCR)といった点が挙げられる。
P3-131c: 裸地における当年実生の生存とその形態的特徴_-_根_-_
はじめに;導流堤は景観に配慮して、テトラポットを積み上げ、その上に川砂(砂、礫、石)を盛り造成された。このため乾燥しやすく、特に夏期時には著しく乾燥する。したがって、この乾燥が植物の定着に大きく関わり、本導流堤における植生復元のための重要な条件と考えられる。そこで、本導流堤での各種の当年実生の定着における乾燥の影響を野外及び室内で調べ、種間の形態比較から乾燥に対して機能的と考えられる形態について考察した。方法;導流堤での当年実生の消長を調査し(_丸1_)、比較的出現個体数が多かった当年実生12種の3形態形質を調べた(_丸2_)。また、調査地周辺に生育する種のうち35種(_丸2_も含む)を、室内で3段階の水分条件下で栽培し、6形態を調べた(_丸3_)。調べた形態形質はT/R比(_丸2__丸3_)、根長(_丸3_)、側根重量/主根重量(_丸2__丸3_)、側根長/主根長(_丸3_)、SRL(_丸3_)、一次根数(_丸2__丸3_)である。結果&考察;_丸1_比較的湿潤な時期(5_から_7月)は各種とも生存率が高く、高温乾燥の時期(8_から_9月)には生存率が低下した種が多かった。このことから、乾燥が当年実生の生存に強く影響していると思われる。_丸2_各種の生存率と各形態形質(T/R比、側根重量/主根重量、一次根数)との間に相関はなかった。_丸3_最も湿潤な水分条件で栽培した場合、各種の生存率と各形態形質との間に相関はなかったが、少ない水分条件では、各種の生存率と根長、側根長/主根長との間に正の相関があった(T/R比、側根重量/主根重量、SRL、一次根数は相関なし)。根長が長い種ほど、また主根長に対して側根長が長い種ほど、生存率が高い傾向があり、これらは水分獲得を有利にする形態であると考えられた。また、生存率とT/R比、側根重量/主根重量との間に相関がなく、根長、側根長/主根長との間には相関があったことから、乾燥に対して、本地域の当年実生では資源配分(重量比)よりも、水分獲得に有利な形態を獲得していることが重要なのかもしれない。
P3-132c: 水生植物帯が持つRefugiaとしての機能:貧酸素環境からの予測
琵琶湖沿岸のヨシ群落は、在来魚類の多くが産卵場・仔稚魚期の生育場として利用している。群落内は植生の無い所に比べて餌生物が多い、水温が高い、などの特徴があるが、溶存酸素が非常に低くなることも知られている。近年、オオクチバスやブルーギルの定着・増殖が問題となっているが、これら2種は溶存酸素豊富な砂礫帯で仔稚魚期を過ごすことから、ヨシ群落内で生活する在来魚に比べて貧酸素耐性が低い事が予測された。本研究ではヨシ群落が在来魚の隠れ家(レフュージア)として機能する可能性を、在来魚と外来魚の貧酸素耐性に注目して検討した。
琵琶湖南湖・山ノ下湾内のヨシ群落内に設置したトランセクトに沿って、溶存酸素を2003年5月から10月まで調査した。その結果、春から夏にかけて急激な溶存酸素の低下がみられた。また、溶存酸素は岸際で顕著に低く、沖側で高いという特徴的な勾配をもって分布している事が明らかとなった。在来魚と外来魚の貧酸素耐性を比較するために、ニゴロブナ仔稚魚(在来固有種)と、オオクチバス当歳魚(外来種)について貧酸素耐性の基準となるCritical oxygen point (Pc)の測定を行った。ニゴロブナ稚魚では貧酸素耐性がオオクチバスよりも高かった。このPcのデータをヨシ群落内の溶存酸素分布に当てはめ、貧酸素耐性からみた潜在的レフュージアの断面積、岸からの位置、奥行き(ニゴロブナだけが利用できる溶存酸素濃度域の奥行き)を算出した。ニゴロブナは春先にヨシ群落内で孵化したのち秋頃までそこで生育するが、その期間中はこの潜在的レフュージアが継続して存在していた。その奥行きはオオクチバスが獲物を襲う時の距離とされる0.5mよりも大きく、実際にオオクチバスからのレフュージアとして機能するであろうと考えられた。また、ヨシ群落奥部は無酸素に近い状態が長く続き、ニゴロブナでも利用不可能な部分があることも明らかになった。
以上の知見を元に、現在行われているヨシ群落の保全・新規造成を介した在来魚保護について考察する。
P3-133c:
(NA)
P3-134c: 流域特性に基づく塩生湿地植物の分布域推定
集約的な土地利用が成される河口域は,ハビタットの改変が最も大きい場所の一つとなっていて,ハマサジやハママツナ等の汽水域に生育する植物は絶滅の危機に瀕している.
本研究では,これら塩性湿地植物を生育させることが可能な流域であるかどうかを,流域を特徴付けるいくつかのパラメータを用いて推定する.具体的には,対象とするハマサジ,ハママツナが生育するためには,粒径2_から_50mm程度の礫で覆われる砂州が河口付近に形成されることが必要であり,そのような礫砂州が形成されるかどうかは,山地域での土砂生産量と,土砂堆積領域の広さから推定可能である,という仮説に基づき検討した.
まず,四国の45ダム流域について,流域指標値とダム堆砂量との対応関係を把握し,山地域での土砂生産量を推定するための回帰式を得た.最終的に有効となった流域指標は土砂侵食の指標値(SPI: Stream Power Index)と流域内の火山岩分布面積であり,重回帰式の決定係数は0.91であった.徳島県・香川県の30流域について,汽水域における礫砂州の有無を現地調査で確認した上で,上記回帰式から求めた山地域土砂生産量と沖積平野面積を用いてロジスティック回帰を行ったところ,97%の精度で礫砂州の有無を予測することができた.
上述の30河川において,ハマサジ,ハママツナの生育の有無もあわせて調査したところ,3.5km以上の長い汽水域範囲を持つ河川か,大潮の際に1.7m以上の大きな潮位差を持つ河川の汽水域に礫砂州がある場合に限って生育が認められた.
モデルの精度については,高知県・愛媛県の21流域について同様の予測を行っており,今後それら流域の現地踏査を行い、その結果を用いて検証してゆく予定である.
P3-135c: カラマツ剥皮被害を起こすのは誰か
中部山岳地帯、北アルプスの東斜面のある地域では、夏季に野生ニホンザルによるカラマツ造林木剥皮被害が発生する。被害発生地域に生息する野生ニホンザル2群を対象に、1999年3月後半から2000年3月まで、15分間隔のスキャニング法を用いて直接観察を行い、採食種と採食部位を記録した。2群の記録数は、7817(浅川群)と1621(黒沢群)であった。観察は半月単位で行い、浅川群では、19半月に関して各半月ごとに平均391 (範囲42-730) の記録を取った。記録数の多い浅川群の結果を記す。
5月後半から8月前半までの各半月における形成層・樹皮の採食割合の平均値は、アカマツ4.9%、広葉樹1.3%、カラマツ1.0%、ヒノキ0.3%であった。カラマツとアカマツでは採食様式が異なった。カラマツでは剥いだ樹皮は採食せず、顔を横にして幹にかじりついていた。一方、アカマツでは、剥いた樹皮の裏側につく甘皮を指で剥がして採食した。採食効率はアカマツの方がよいと考えられ、そのために、アカマツが多く選択されたの可能性がある。
性齢別の採食記録数は、オトナオス (5歳以上) 617、オトナメス(5歳以上) 2247、コドモ (1歳から4歳) 3202、はっきり分類できないもの1751であった。5月後半から8月前半までの各半月における木本形成層採食割合の平均値は、オトナオス19.9%、オトナメス3.2%、コドモ 8.3%であり、オトナオスで高かった。種ごとに分析すると、オスで多かったのは、アカマツだけであり、カラマツでは有意差が見られなかった。カラマツの採食様式では、自ら剥かなくても、既に剥かれた箇所を採食することが可能であるためと考えられた。クリの種子の採食割合はコドモで有意に少なかったことも考え合わせると、樹皮や形成層など採食に技術を要する食物は、体の大きな個体で有利となり、選択性が高くなると考えられた。
P3-136c: 野生ニホンザルによる農地利用の変化-電気柵設置事業の成果と課題
本発表では、演者がこれまで関わってきた青森県下北半島の猿害問題を事例に、被害を起こしている群れ(以下'加害群'とする)の農地利用状況、および現地での主要な対策法である電気柵設置事業の効果を生態学的に評価し、現状の問題点と今後の課題について指摘する。
調査地である青森県下北郡佐井村では1991年ころから野生ニホンザル群による農業被害問題が発生し、1994年から県あるいは国の補助事業として電気柵の設置を開始した。電気柵は被害が頻発する農地に優先的に設置され、設置域は徐々に拡大された。本研究では主に1999_から_2001年に加害群を追跡して、GISを用いた土地利用分析と直接観察(スキャンニング)による行動分析を行った。その結果、群れの農地利用には季節的な変化があること、農地依存が年々増していることが明らかになった。また1999年と2001年に現地の主要な対策法である電気柵の効果について検討したところ、両年とも電気柵で囲われた農地においては選択率が低く(約20%)、その効果が認められた。
しかし一方で、観察期間の1999年から2001年の間に、群れは行動域を南北に拡大させ、周辺の集落で被害を発生させるようになるという新たな問題点が明らかになった。また行動域の拡大ばかりでなく、この2年間に農地での滞在時間が約1.4倍に増加し、サルの人馴れの程度も進行した。さらに、電気柵が設置してある農地においても電気柵内に侵入する個体が現れはじめた。その侵入経路は電気柵に隣接している樹木や小屋づたいから,あるいはネットと地面の隙間からである。次々と農地に電気柵を設置する一方で、群れの行動域が広がった点、群れの農地依存度の増加と電気柵管理の不徹底により被害防止効果が失われた点は、被害防除における広域・総合的さらには順応的な対策の必要性を示している。