2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
  時間順 | 内容一覧


2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
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[要旨集] ポスター発表: その他

8 月 28 日 (土)
  • P3-137: レジャー活動と自然再生が釧路湿原の水鳥の生息環境に与える影響 (浦)
  • P3-138: オオジシギの渡りに関する報告 (浦, 葉山, 東)
  • P3-139: 長枝と短枝の組み合わせは効率のよい受光体制をつくるか? (竹中)
  • P3-140: 丹波山地八丁平における過去1万年間の植生変遷と火の影響 (佐々木, 高原)
  • P3-141: 倒木上に成立したヒノキ実生の菌根形成状況:菌根菌は木に登るか? (溝口, 壁谷)
  • P3-142: 人と動物の動きは両者の遭遇頻度にどう影響するか_-_古典的問題の解とライントランセクト法への示唆 (平川)
  • P3-143: べき乗変換・対数変換と重回帰・分散分析 (粕谷)
  • P3-144: 河川域に生育するニレ科樹木の比較生態学的研究 (比嘉, 石川, 三宅)
  • P3-145: フィリピンにおけるマングローブの滞水時間と塩分濃度の分布について (豊田, 宮崎, 加藤, 遠宮, ペドロ)
  • P3-146: 高密度航空レーザースキャナによる森林の野生生物生息地環境の計測 (今西, 橋本, 萩原, 森本, 北田)
  • P3-147: 代謝カップリングによる細胞内共生の進化モデル:寄生か相利共生か? (福井, 嶋田)
  • P3-148: 消雪時期が異なるキタダケソウの生育場所について (名取)
  • P3-149: 都市草本植物相における大陸-島モデルの適用可能性 (牧野, 村上, 今西, 森本)
  • P3-150: 熱帯雨林の生態的機能を考慮した開発事業の便益評価:エコロジカルサービスGISの概要 (千葉, 田頭, 奥田, 沼田, 吉田, 西村)
  • P3-151: ネパール、カトマンズ盆地南部における中期更新世頃の植生史 (大井, 酒井, 田端)
  • P3-152: Complex life cycleを有する競争種の共存 (舞木, 西村)
  • P3-153: 適応的フレームワーク(ダイナスキーム)によるモデルの表現と解釈 (大場, 平野, 高橋)
  • P3-154: 安定同位体を用いたエゾヒグマの食性解析 (成田, 間野, 高柳)
  • P3-155: 森林域と非森林域における表層堆積物中の花粉スペクトル (守田)
  • P3-156: 温暖化が及ぼすカジカ大卵型個体群の増大と崩壊のプロセス (東, 五十嵐)
  • P3-157: 広島市デルタ地区の街区公園の植生構造 (河野, 長嶋, 中越)
  • P3-158: 有限サイズが群集の示すパワー則に与える影響について (佐藤)
  • P3-159: 環境省全国水生生物調査のインターネット調査登録システムについて (宮下)
  • P3-160: マウス内在性A型レトロウィルスの配列は動物界に散在する (岡田, 岩村)
  • P3-161: 植物_-_土壌系から見た里山林の再生 (小林, 松浦, 東, 高橋)
  • P3-162: 早池峰山小田越周辺における約5000年間の植生変遷 (池田)
  • P3-163: コマルハナバチの採餌個体と食物資源の空間分布の動態調査 (川口, 星野, Munidasa, 小久保, 鈴木, 徳永)
  • P3-164c: 地理的プロファイルを用いたマルハナバチのコロニー位置推定法 (鈴木, 川口, 徳永)
  • P3-165c: オルガネラDNA変異に基づいたイヌブナ(Fagus japonica)の系統地理学的構造 (山中, 戸丸)
  • P3-166c: 八甲田山のブナ帯から亜高山帯における湿原および林内表層堆積物の花粉組成と周辺植生の関係 (中村)
  • P3-167c: NOAAデータによる熱帯乾燥季節林の落葉フェノロジーの推定 (伊藤, 神崎, Khorn , Det, Pith , Lim , Pol )
  • P3-168c: 紅葉時期の地上高分解能リモートセンシング画像による林冠樹種多様度の推定 (橋本, 田端, 今西, 森本)
  • P3-169c: 微化石からみた北大雨龍研究林泥川湿原におけるアカエゾマツ林の成立過程 (河野, 野村, 佐々木, 高原, 柴田, 植村, 北川, 吉岡)
  • P3-170c: 空間解析を用いたコバノミツバツツジの樹形の定量的評価 (吉村, 石井)
  • P3-171c: 完新世海進期における北海道東部厚岸周辺の塩性湿地植物群落の分布変遷 (那須, 澤井)
  • P3-172c: 捕食リスクに応じた誘導防御形態の発現 (水田, 西村)
  • P3-173c: 落水後の水田に形成される小水域に生息する水生昆虫 (西城)
  • P3-174c: 和歌山県田辺市におけるヒドロキシルラジカル発生水の長期暴露が梅木の光合成能及び成長に及ぼす影響 (尹, 田上, 玉井, 中根)
  • P3-175c: 青森県における河川魚類の20年間の変遷とその要因について (佐藤, 佐原, 東)
  • P3-176c: 移入種ソウシチョウ集団の遺伝的構造 (天野, 江口, 角, 雷, 舘田)
  • P3-177c: SEMを用いた花粉分析からみる後氷期の落葉広葉樹林の組成 −コナラ亜属花粉のSEMによる識別と化石花粉への適用− (牧野, 高原)
  • P3-178c: SEMを用いた花粉分析からみる後氷期における落葉広葉樹林の組成 -琵琶湖東岸部における後氷期初期の火事とカシワの出現- (林, 牧野, 井上, 高原)
  • P3-179c: The performance of GPS-3300 considering application in the habitat of northern Mt. Fuji, central Japan (Zhaowen,Mikio,Ai,Masahiko,Takehiro,Seiki)
  • P3-180c: キスゲとハマカンゾウにおける雑種形成の非対称性 (安元, 矢原)
  • P3-181c: ハビタットタイプによるビワヒガイの形態変異について (小宮, 堀)

12:30-14:30

P3-137: レジャー活動と自然再生が釧路湿原の水鳥の生息環境に与える影響

*浦 巧1
1北海道中標津高等学校

釧路湿原およびその周辺ではタンチョウ(Grus japonensis)をはじめとする鳥類が、少なくとも97種繁殖していると考えられ、1000頭のエゾシカ、キタキツネ、エゾリス、エゾシマリス、エゾユキウサギ、エゾモモンガなど多くの鳥獣類が生息している。現在、釧路湿原ではレジャー活動として、釣り、釣舟による釣り、カヌー、ラフティングボート、ウインドサーフィン、歩くスキー、スノーモービル、山菜採り、写真愛好家による撮影、狩猟、四輪駆動車・モトクロスバイク等の乗り入れなどが、釧路湿原東縁部に位置する釧路川、塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖およびキラコタン岬、宮島岬などを中心として釧路湿原全域に広がっており、湿原内のラムサール条約登録湿地、特別保護区、天然記念物指定地域内でも頻繁におこなわれている。
 このようなレジャー活動は釧路湿原内での水鳥の営巣・渡り・越冬に大きな影響を与えている。春から夏にかけての繁殖期には、マガモ(Anas platyrhynchos)やヨシガモ(Anas falcate)など、水鳥の雄の動態に影響を与え、営巣地の移動・放棄および破壊をもたらすこともある。また、春と秋の渡りでは、オオハクチョウ(Cygnus cygnus)やヒシクイ(Anser fabalis)など多くの水鳥を飛び立たたせ、渡りの中継地としての機能を著しく低下させている。冬期においては国立公園内から多くの水鳥を移動させ、国立公園外で越冬する水鳥の個体数の増加が著しい状態にある。この傾向は、冬季のラフティングツアーおよび釣り人の増加により、まずます加速されつつある。
 また、釧路川蛇行再生事業に関しては、代替地を作らずに復元工事をすることで、旧河道で繁殖している水鳥を含めた独自の生態系を破壊する可能性とともに、カヌーポートの設置等、新たな観光開発がなされるのではないかと危惧されるところである。
 一方、釧路川右岸築堤にヤチハンノキの広がりを防ぐ実験のため人工的に形成された沼では、わずか2年で多くの水鳥が繁殖するようになり、自然再生の可能性を示唆するものとして注目されたが、実験終了により現在は存在していない。


12:30-14:30

P3-138: オオジシギの渡りに関する報告

*浦 達也1, 葉山 政治2, 東 正剛1
1北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2日本野鳥の会

2001年7月13日から8月19日、2003年7月4日から9月11日に北海道苫小牧勇払の弁天沼において、日本野鳥の会における勇払プロジェクトの一環でオオジシギの標識調査を行ったのでそこから分かったことについて報告する。弁天沼は鳥類における道内でも有力な渡りの中継地として考えられている。捕獲はカスミ網により、雨の日以外はなるべく標識調査を行った。まず渡りのピークについてであるが、調査期間内において2001年は8月18日頃、2003年は8月19日頃が最も捕獲個体数が多かった。短期間でオオジシギの標識調査を行うならお盆の頃が最も効率がよい。以前演者らはオオジシギについて幼鳥、成鳥とも雌で嘴が長いということを示した。シギ類などの水禽は嘴峰長が体サイズの指標として用いられ、オオジシギの嘴峰長の雌雄差は雌で体サイズが大きいということを表していると考えられる。しかし地中に嘴を差し込み採餌する鳥の嘴峰長に注目して考えると、この雌雄差は採餌場所において嘴を差し込む深度によって雌雄で餌の競合を避ける、逆に嘴峰長が雌雄で同じ場合は時期の差によって餌の競合を避けるという戦略も考えられる、との議論がある。そこで捕獲個体について性別を確かめ、性比に時期毎(1ヶ月を10日毎に分けた)で差があるか検討したが、2001年、2003年とも渡りの性比で時期による差がなかった。また日別にみても日によって捕獲個体が雄のみ、雌のみということもなかった。このことから嘴峰長によって雌雄で採餌の競合を避けるという考えを棄却できない。次に、通過個体らの体サイズが日や時期を追うごとに増加するなどの変化があるか調べたが、2001年、2003年ともで雌雄どちらも変化がなかった。このことからオオジシギはある一定の体重や体サイズで弁天沼を通過しているものと考えられる。今後はボディーコンディション分析や本州の中継地などで同様のことを調べると通過個体の体サイズ等についてさらに詳しく分かるだろう。


12:30-14:30

P3-139: 長枝と短枝の組み合わせは効率のよい受光体制をつくるか?

*竹中 明夫1
1国立環境研究所

林床に生育しているホオノキの若齢個体では,主軸から分枝した一次側枝の伸長が年とともに鈍って短枝化するとともに,一次側枝から分枝する二次側枝は発生当初から短枝的で毎年わずかずつしか伸びない.よく伸びる長枝とあまり茎が伸びない短枝とをあわせ持つという現象はおおくの樹種で観察される.その意義としては,長枝だけを作るよりも,空間獲得のための長枝とその場での光獲得を優先する短枝とを組み合わせることで,より少ない支持器官で効率よく光を受ける樹冠ができるという仮説が考えられている.この仮説を検証するため,ホオノキの成長のシミュレーションモデルを作成して仮想実験をおこなった.
ホオノキの成長をそのままなぞる基本モデルに加えて,一次側枝の先端が短枝化せずに伸長を続けるモデル(E1モデル),一次側枝も二次側枝も伸長を続けるモデル(E1+2モデル)を作成した.短枝化が起こらないモデルでは,当然ながら,現実にあわせた基本モデルよりも葉面積,枝の総長,総重量ともに大きかった.個体全体の枝の量と葉の量との関係を各モデルについて調べたところ,同じ量の枝が支持する葉の量は短枝が分化しないモデルのほうが多かった.また,葉同志の相互被陰の程度にはモデル間でほとんど差がなかった.これらの結果は,短枝化した枝を持つことで効率のよい受光体制ができるという当初の仮説とは相反する.
枝が短枝化しないモデルでは,成長に必要な有機物を供給するために葉が高い生産性を持つことが必要であった.つまり,枝が短枝化しないと個体全体としての受光効率(バイオマス当たりの受光量)は高まるが,そのような形作りを支えるには十分な生産性が必要となる.枝の短枝化は,全部の枝を伸ばし続けるほどの光合成生産が行えない場合に対応した,節約型の成長パターンだと言えそうである.


12:30-14:30

P3-140: 丹波山地八丁平における過去1万年間の植生変遷と火の影響

*佐々木 尚子1, 高原 光2
1京大院・農, 2京都府大院・農

 火による撹乱は,10 - 100年という短い時間スケールでも,1000年という長期的なスケールでみても,植生に影響を与える重要な要因である。このような視点から,我々は近畿地方を中心に,火と植生の長期的な歴史を明らかにしようとしている。今回は,丹波山地東部の八丁平における過去およそ1万年間の植生変遷と火の影響について検討した。
 八丁平(標高810 m)は京都市北端に位置する盆地で,標高約900 mの尾根に囲まれ,中心には面積約5 haの湿原が形成されている。現在の植生は,クリ,ミズナラが優占する落葉広葉樹林で,スギ,ヒノキ,モミ,アカマツなどの針葉樹が点在し,林床はチマキザサに被われている。高原・竹岡(1986)が八丁平中央部でおこなった花粉分析の結果と対比し,周辺斜面の植生をより局地的に復元するため,湿原北部の縁辺部で堆積物を採取した。
 花粉および炭化片分析の結果,U-Oki火山灰の降灰(9300 yr BP)後からK-Ah火山灰降灰(6300 yr BP)までの3000年間には,多量の炭化片およびイネ科花粉がヨモギ属花粉をともなって検出され,火事による疎林化が示唆された。高木花粉では,コナラ亜属をはじめ,クマシデ属やブナが高い出現率を示した。6300年前から1500年前までの間は,スギ,ヒノキ科などの温帯針葉樹,およびコナラ亜属やブナの花粉が優占した。火事は4000年前以降,減少した。約1500年前からアカマツおよびクリ,クマシデ属,カバノキ属の花粉が増加し,人間活動の影響により二次林化が進んだものと推察された。特にクリ花粉の増加は著しく,これらは現在あるクリ林の発達を反映していると考えられる。
 完新世初期には,琵琶湖沿岸域や丹波山地西部でも火事が多発していたことが確認されており,以上の結果は,氷期終了後の温暖化,また縄文時代以降の人間活動との関連で重要である。広域に共通する現象であるのか,さらに検証していきたい。


12:30-14:30

P3-141: 倒木上に成立したヒノキ実生の菌根形成状況:菌根菌は木に登るか?

*溝口 岳男1, 壁谷 大介1
1森林総合研究所木曽試験地

倒木は、トウヒなどの一部の外生菌根形成針葉樹においては重要な更新サイトになっている。一方、一般的には露出鉱質土壌が更新立地と考えられることが多いヒノキだが、木曽周辺では多数の実生が倒木上に発生、発達しているのを見ることができる。倒木は光の確保、病原菌の忌避、安定した水分環境などの点で実生成立に有利な特性を持つ反面、栄養の供給という点では劣っていると考えられる。そうした栄養面でのデメリットを実生が菌根化することで補うメカニズムが存在するかどうかを確かめるために、長野県三岳村のヒノキ造林地(国有林)内の倒木上に自然発生したヒノキ実生の菌根形成状況を調査した。
倒木の斜面位置、樹種、腐朽度、コケによる被覆の有無、土壌・リターの堆積の有無、母樹の根の定着の有無などのパラメータを調査した上で、倒木上に発生している複数本の実生を採取し、その根をアルカリ処理後コットンブルーで染色して根の菌根化率を測定した。また、リファレンスとして、倒木周辺の土壌上に成立している実生も同様に採取し、根の菌根化率を調べた。
その結果、倒木の種類や状況とは関係なく、全ての実生の根にアーバスキュラー菌根の形成が確認された。また、その形成状況は土壌上に発生している実生となんら変わらなかった。腐朽度の低い倒木のわずかな更新空間においてさえ実生が菌根化していたことは驚きであり、今後は実生に菌根菌プロパギュールをもたらすベクターを解明する必要がある。


12:30-14:30

P3-142: 人と動物の動きは両者の遭遇頻度にどう影響するか_-_古典的問題の解とライントランセクト法への示唆

*平川 浩文1
1森林総合研究所・北海道支所

ライントランセクト法において動物の動きは二つの点で問題になる。一つは、観察者との遭遇頻度への影響、もう一つは、発見距離や角度などへの影響である。前者については、すでに1950年代に鳥類学者ら(Yapp 1956, Skellam 1958, Royama 1960)が問題とし解決を試みたが、現在まで明確な結果は得られていない。
 あるシンポジウムで、林道を通過する野生生物の自動撮影調査について発表した時、私の示した動物撮影頻度は低すぎるとの指摘を受けた。林道を車で走るともっと高い頻度で野生生物に出会うというのである。このことから次の問題が提起された。確かに、(自動撮影装置のように)林道脇に静止している観察者も、林道上を動いている観察者も動物に出会うが、どのような要因がその頻度を決めるのか、その頻度は互いにどう関係するのか。
 理論解析の結果、静止している観察者と動きの速い観察者の遭遇頻度は、林道上の動物活動のまったく異なった側面で決まることがわかった。前者は移動距離、後者は滞在時間である。これは、前者が動物の交通量(フロー)を、後者は密度(ストック)を見ていることを意味する。ここで「動きの速い観察者」とは、対象動物のいずれより速い速度で動く者と定義される。林道上の動物の平均速度がわかれば、二つの頻度は換算可能である。
 このことは、ライントランセクト法で動物密度を推定するためには、観察者は対象動物のいずれより速い速度で動く必要があることを意味する。この結果はまた、密度調査の新手法(「ライン交差法」と呼ぶ)の理論的基礎を与えた。(動物生息地に配置された)線分上の単位距離・単位時間あたりの動物交差数を、動物の動きの一次元成分の平均速度で割ると、密度が推定できる。動物の密度推定のためには、動きの速い観察者によるライントランセクト法か、静止している観察者によるライン交差法かを選ぶ必要がある。


12:30-14:30

P3-143: べき乗変換・対数変換と重回帰・分散分析

*粕谷 英一1
1九州大学理学部生物学教室

 変数そのものでなくその適当な関数を使ってデータを解析をすることはこれまで広く行われてきた。変数変換の中でも、角度変換(アークサイン平方根変換)などとならんでよく使われてきたのがべき乗変換や対数変換である。べき乗変換の例としては平方根変換などがあり、対数変換もべき乗変換の系列の中に位置付けられてきた。変数変換により、もとのデータの平均値を変換したものと変換後の平均値が異なる、交互作用項が実質的に変化する、変数単独の効果(例、偏回帰係数)が他の変数に依存する、などの不都合で不適切な影響が人為的に生じる。変数変換を用いた過去のデータ解析のかなりの部分は、重要な結論が導かれたのであれば見直す必要がある。変数変換という操作の持つ問題点を認識することは、変数間の決定論的な関係を分析に際して明確にすることの重要性や誤差構造の重要性を浮かび上がらせ、生態学におけるデータ解析の質の大幅な向上に役立つ。_


12:30-14:30

P3-144: 河川域に生育するニレ科樹木の比較生態学的研究

*比嘉 基紀1, 石川 愼吾1, 三宅 尚1
1高知大学・院・理

 徳島県吉野川や高知県物部川では、1980年代以降河床の複断面化が進行し、洪水による破壊作用の弱い安定した立地が増加した。この高燥な砂礫堆でアキニレの侵入・定着および群落の拡大が確認されている。アキニレは、西日本の河川域においてムクノキ,エノキとともに樹林を形成するが、砂礫堆上でムクノキ,エノキの侵入・定着はみられない。そこで本研究では、アキニレのみが分布拡大する原因を明らかにすることを目的に、3種の侵入・定着に関わる生態学的特性の解明を試みた。
 発芽実験を異なる保存条件と保存期間で処理した種子を用い段階温度法によって行った。その結果、アキニレとムクノキの種子は特別な休眠性を持たず乾燥保存後の発芽が可能であった。エノキは2種に比べて発芽率が低く、乾燥保存で休眠が誘導され、低温湿潤保存と野外土中保存で休眠が解除された。
 アキニレ実生の成長実験を、異なる土壌粒径(粗砂・細砂),光条件(相対光量子密度100%・30%・5%),水分条件(雨水のみ・地下水位-11cm・-1cm)で行った。その結果、同一の水分条件下では土壌粒径,光条件の違いによる実生伸長量の差は認められなかった。同一の光条件下では、乾燥するほど良好な成長を示し、雨水のみで最大であった。側枝数は乾燥するにつれて増加し、生存率は粗砂よりも細砂で高く、乾燥するにつれて低下した。
 以上の結果よりアキニレとムクノキの種子は、高燥な砂礫堆上での発芽が可能であるが、エノキは草本群落下などの湿潤な場所へ散布されない限り発芽しないと推測された。アキニレ実生は、乾燥条件下での生存率が低いものの、生残した個体の成長は良好で、砂礫堆のような高燥な立地で多数の側枝を伸長させて確実に定着すると考えられた。高燥な砂礫堆でムクノキの侵入があまり見られないのは、実生の成長に関わる環境要求性が関係すると推察された。


12:30-14:30

P3-145: フィリピンにおけるマングローブの滞水時間と塩分濃度の分布について

*豊田 貴樹1,2, 宮崎 宣光2, 加藤 和久2, 遠宮 広喜3, ペドロ オリガバラガス4
1東京農工大学, 2海外林業コンサルタンツ教会, 3日本林業技術協会, 4ケソンエコシステム研究開発センター

本研究は,フィリピンの3地域において,塩分濃度と滞水状況に着目し,マングローブの分布域を,Duke(1992)が示した潮間帯の高・中・低の3潮位帯と河川の上・中・下の3流域の9つの立地環境パターンに区分し,そこに出現したマングローブ樹種の生育環境への適応について把握することを目的とした。これらの適応性を明らかにすることで、養殖放棄池におけるマングローブ再生技術の確立を目指す。
調査は,1998年6月_から_8月にかけて,フィリピンのルソン島アパリ地域,中部地域,太平洋側のラモン地域およびパラワン島のウルガン地域で計51プロットを設置した。
調査結果、1つのパターンにのみ出現したのは7樹種で, Barringtonia racemosa(Br)とCeriops decandra(Cd)は高潮位帯_-_中流域, Thespesia populnea(Tp)は高潮位帯_-_上流域,Aegiceras floridum(Af)とOsbornia octodonta(Oo)は中潮位帯_-_下流域,Sonneratia caseolaris(Sc)は低潮位帯_-_上流域,Avicennia alba(Ava)は低潮位帯_-_下流域に出現した。複数のパターンにまたがって出現したのは17樹種で,潮間帯に特徴を持つ樹種としてAegiceras corniculatum(Ac),Excoecaria agallocha(Ea),Heritiera littoralis(Hl),河川の位置に特徴を持つ樹種としてCeriops tagal(Ct),Sonneratia alba(Sa),Scyphiphora hydrophyllacea(Sh),潮間帯と河川の位置の双方に特徴を持つ樹種としてAvicennia lanata(Al),Avicennia marina(Am),Bruguiera cylindrica(Bc),Bruguiera gymnorrhiza(Bg),Bruguiera parviflora(Bp),Bruguiera sexangula(Bs)Lumnitzera littorea(Ll),Rhizophora apiculata(Ra),Rhizophora mucronata(Rm),Xylocarpus granatum(Xg),特徴を持たず広範に分布する樹種としてAvicennia officinalis(Ao)がそれぞれ挙げられた。
滞水時間と塩分濃度に対し適応範囲が比較的広い樹種は,Al,Ao,Xg,Ac,Bs,Ct,Hl,Shが,反対に適応範囲が比較的狭い樹種としては, Am,Bc,Bg,Bp,Ll,Ra,Rm等が挙げられた。


12:30-14:30

P3-146: 高密度航空レーザースキャナによる森林の野生生物生息地環境の計測

*今西 純一1, 橋本 啓史2, 萩原 篤2, 森本 幸裕1, 北田 勝紀3
1京都大学大学院地球環境学堂, 2京都大学大学院農学研究科, 3中日本航空株式会社

 高密度航空レーザースキャナデータ(LSデータ)は、数十cm四方に1点という高い密度で上空から取得される3次元ポイント位置情報である。近年、LSデータから森林に関する有用な情報を抽出するための解析手法の開発が積極的に進められている。本研究は、高密度LSデータから林分の葉面積指数(LAI)を推定することを試みた。
 対象地は、京都市左京区の下鴨神社糺の森(面積約9 ha)である。常緑広葉樹と落葉広葉樹の混在するこの社寺林において、落葉期にヘリコプターから高密度LSデータを取得した。また、グラウンドトゥルースとして、曇天の日に魚眼レンズにより半球画像を116箇所で撮影し、Gap Light Analyzer v2.0によりLAIの推定を行った。LSデータは、Terra Scan(TerraSolid社)の地表ポイント分類ツールにより、地表あるいは植生で反射したポイントに分類した。さらに、樹冠上部から下に向かって到達するパルス数が指数関数的に減少して行く様子を、指数関数をあてはめることにより定量化した。
 LAIはLSデータから得られる次の変数から推定することとした。1)vf:植生ポイント数/総ポイント数、2)fof:(ファーストパルス数+オンリーパルス数)/総ポイント数、3)lf:反射強度>85のポイント数/(ファーストパルス数+オンリーパルス数)、4)c1:ファーストパルスにあてはめた指数関数の係数、5)c2:セカンドパルスにあてはめた指数関数の係数。
 半球画像より推定したLAIを従属変数とする単直線回帰で最も推定力が高かった変数はc2(切片なし)で、次いでvf(切片あり)であった。線形モデルによる重回帰のうち、推定力が高く、式の意味を解釈できたものは、c1c2c1vfの組み合わせであった。しかし、単直線回帰との推定力の差は小さかった。


12:30-14:30

P3-147: 代謝カップリングによる細胞内共生の進化モデル:寄生か相利共生か?

*福井 眞1, 嶋田 正和1
1東京大学大学院 広域システム

細胞内共生説によると、真核生物のオルガネラであるミトコンドリアや葉緑体は、その祖先である紅食細菌やシアノバクテリアが宿主細胞に共生したことにより、原核生物から真核生物への進化や植物細胞の出現がもたらされたとされている。これにより生物進化史において飛躍的な革新がおこった。多細胞生物を例にとると、アブラムシにはブフネラが内部共生をして相利関係を築いている一方で二次感染細菌PASSが寄生している。その他、さまざまな生物種の細胞内にボルバキアが感染していることが知られている。細胞内共生は生物にとって普遍的な戦略の一つであるといえる。
細胞内共生の進化を解明する理論的な研究において、進化ゲームによるモデルが提唱されている(Roughgarden 1975, Yamamura 1993, Matsuda and Shimada 1993)。しかしこれは宿主と寄生者の集団を想定し、寄生者は宿主に垂直感染するとした場合、進化の帰結として共生関係を示すNash解が進化的に安定であることを述べているに過ぎない。本当に共生関係に至るかは、個体同士が相互作用する進化ダイナミクスを調べ、それが成立する条件を明らかにする必要性がある。さらに、共生関係に至ったとしても、これだけでは相利共生を結ぶという結論までは得られない。
本研究では各個体の内部でそれぞれが維持している代謝に注目する。生物は外界から食物を取り込み、代謝によってこれらを分解する。この過程で化学エネルギーや生体材料取り出し、取り出されたエネルギーと材料で生体物質を合成することで自己を維持、さらに次世代の生産をしている。この一連の過程はウィルスを除いたすべての生物に普遍的なシステムであると考えられる。細胞内に他個体が侵入した際に化学エネルギーや生体材料を共有する個体ベースモデルを構築し、両者の相互作用を通して寄生や相利共生関係が結ばれる過程を解析する。


12:30-14:30

P3-148: 消雪時期が異なるキタダケソウの生育場所について

*名取 俊樹1
1国立環境研究所 生物圏環境研究領域

キタダケソウは北岳(山梨県)の南東斜面のみに生育する遺存種・絶滅危惧種であり、その生育地も生育地保護区に指定されている。生育地保護区は景観により大きく、無被植地、ハイマツ生育地、風衝草原、高茎草原とに分けられる。そのなかで、キタダケソウは風衝草原のみに生育している。風衝草原は主に尾根近くに成立するものの、わずかであるが、春遅くまで残る雪渓付近にも成立している。尾根近くの消雪時期については以前の生態学会で報告した。本報告では、春遅くまで残る雪渓付近に成立する風衝草原の消雪時期、さらに、消雪日での日平均気温及び相対的積雪深について報告する。
方法 消雪日を推定するため、高茎草原、風衝草原に温度計を2002年秋_から_2003年春の間設置した。また、気温を測るために北岳山荘脇の百葉箱内にも設置した。消雪日からおおよその積雪深を推定するため、気温日数法(degree-day method)を応用することとし、そのために必要なパラメータである融雪が始まる日平均気温と気温日融雪率を、北岳に比較的近く長期間のデータが蓄積されている富士山頂の気象データから求めた。
結果及び考察 風衝草原で得られた消雪日は4/20_から_6/6であり、高茎草原では5/16_から_6/27であり、概して、風衝草原の方が早かった。しかし、雪渓付近に成立している風衝草原で得られた値は、高茎草原で得られた値と重なっていた。また、消雪日での日平均気温は、風衝草原では-2.7_から_5.0℃であり、高茎草原では1.7_から_7.8℃であり、概して、風衝草原の方が低くかった。また、雪渓付近に成立している風衝草原で得られた値は高茎草原で得られた値と重なっていた。これらの結果、同じ風衝草原であっても、雪渓付近に成立している風衝草原では雪環境や温度環境が高茎草原と似ていることが分かった。


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P3-149: 都市草本植物相における大陸-島モデルの適用可能性

*牧野 亜友美1, 村上 健太郎2, 今西 純一3, 森本 幸裕3
1京都大・農, 2きしわだ自然資料館, 3京都大・地球環境

都市における孤立した生物の生息場所は海洋島に例えられ、MacArthur & Wilson(1967)の島の生物地理学が適用されることが多い。京都市内においても、木本植物、シダ植物にこの理論が適用され、種数と面積・孤立度との関係が明らかにされている。しかし、種数に影響を及ぼす要因は生物分類群によって異なることが知られている。本研究では、京都市内において種子植物草本(以下、草本植物)の種数に影響を及ぼす要因について検討した。
京都市内の15箇所の孤立緑地において、2003年5月から2004年4月の間に各緑地5回ずつ、全域を歩き、出現種を記録した。各緑地の環境要因として面積、山までの距離、孤立緑地までの最短距離、比高、形状指数SF、撹乱強度、周囲の緑被率を取り上げ、それぞれについて種数との偏相関係数を計算した。また緑地内を、自然のまま放置された林、鑑賞を目的として植栽・管理された林、広場、水辺の4つの異質な環境に区分した。敷地内にそれらの環境が3つ以上ある緑地と2つ以下の緑地の2グループに分け、それぞれの種数-面積関係の傾きと切片を比較するため共分散分析を行った。
種数と緑地面積の対数との偏相関係数は有意で、強い正の相関があった(rp =0.84、p<0.01)。しかし、他の要因と有意な相関はなかった(p>0.05)。緑地内の環境の数によって区分した、2グループの種数-面積関係の傾きには、有意な差がないが(p>0.05)、切片には有意な差があり(p<0.01)、同じ緑地面積でも、異質な環境が多い緑地のほうが、種数は多くなった。これらのことから、草本植物では、緑地面積や緑地内の環境の多様性が種数に大きな影響を及ぼしていると考えられた。


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P3-150: 熱帯雨林の生態的機能を考慮した開発事業の便益評価:エコロジカルサービスGISの概要

千葉 将敏1, * 田頭 直樹1, 奥田 敏統2, 沼田 真也2, 吉田 圭一郎2, 西村 千2
1株式会社 建設技術研究所, 2独立行政法人 国立環境研究所

森林は、生物多様性保全、地球環境保全、水源涵養、物質生産、文化・リクリエーション的機能などの様々な公益機能を有するが、近年、乱開発やその他の要因によりそれら公益機能の正常な維持が課題となっている。
本研究では、森林での乱開発を防止するためには開発事業評価において森林の公益機能の適正な評価が必須であると考え、森林の公益機能を評価項目とした新しい開発事業評価手法の提案及び支援ツールの構築を目的とした。なお、本研究では、地球規模での環境保全を考える上で大きな問題である熱帯雨林の保全に注目し、その中でも特に問題となっているマレーシアの熱帯雨林におけるオイルパーム・プランテーションの開発事業に着目した評価手法およびツールの開発を行った。
検討した開発事業評価手法は、開発事業による経済効果と熱帯雨林の消失による環境の損失を便益評価手法により分析するものである。特徴としては次のとおりである。
1.開発事業による経済効果は、開発事業の実施に係る経費(各種建設費等)と開発事業による経済効果(プランテーション運営による利益)から把握する。
2.熱帯雨林の消失による環境の損失は、熱帯雨林の有する公益機能を与えられた環境特性から推定する数値モデルを構築し、公益機能の評価を貨幣価値として把握する。なお、公益機能は、生態的な機能(エコロジカルサービス)とした。
3.開発事業を実施した場合と、実施しない場合(熱帯雨林として保全)の異なるケース毎に評価し、その結果を比較分析することで事業評価を行う。
開発事業評価支援ツール(エコロジカルサービスGIS)は、検討した開発事業評価を、PC上で簡単な操作で実践できるシステムである。特徴は、わかり易いグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を通して、各種設定、入力、処理が行え、評価結果を地図や図表で表示できることである。
今後の課題は、熱帯雨林の公益機能モデルの高度化ならびに支援ツールの改良である。


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P3-151: ネパール、カトマンズ盆地南部における中期更新世頃の植生史

*大井 信夫1, 酒井 哲弥2, 田端 英雄3
1ONP研究所, 2島根大地球資源環境学料, 3岐阜県立森林文化アカデミー

ネパール、カトマンズ盆地南部Bungamatiには中期更新世頃の厚い湖成層が存在する。湖成層は珪藻に富み、ヒシの果実、クンショウモ属が多産する層準もある。また、微小炭を多く含む場合が多い。植生変遷と時代をあきらかにするために、この湖成層の花粉分折を行なった。花粉群には大きく4つのタイプがみられる。AbiesPicea花粉が多い寒冷気侯を示咳する花粉群と、ArtemisiaとChenopodiaceae/Amaranthaceae花粉が多産する乾燥気候を示す花粉群、Alnus花粉が多い湿地を示す花粉群、そして温暖気候を示す多くの花粉型が産出する花粉群である。寒冷、温暖気候を示す花粉群は何回か優占期が見られ、中期更新世頃の環境変動を示していると考えられる。温暖気候を示す花粉群に現在のカトマンズ盆地で優占するCastanopsis-Schima群落を示す花粉群はない。最終氷期以前である上部ではCastanopsis/Lithocarpus花粉が優占するがSchima花粉はほとんど産出しない。これは現在のSchima wallichianaは人間活動の影響で多いと考えられることから現在に近い気候条件だったみなすことができる。それより下位ではMallotus/MacarangaEngelhartiaが目立ち、下部ではGrewia、Malpighiaceaeなども少量だが連続して産出する。このような花粉群はこれまで記載されていない。したがって、詳細な時代の決定は今後の地質調査とカトマンズ盆地内の他地点での花粉分析との対比などを待たなければならない。とくに温暖期の花粉群は時代ごとに異なる特徴をもち、火山灰などの鍵層が少ない地層の対比に有効であるとともにネパールの植生の成立過程を考える上でも重要な資料となるだろう。


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P3-152: Complex life cycleを有する競争種の共存

*舞木 昭彦1, 西村 欣也1
1北海道大学大学院水産科学研究科

生活史ステージの構成が、個体群動態に対し重要な意味を持つことは、多くの理論的研究から理解されている。しかしながら、種間競争系に生活史ステージを組み入れた個体群動態モデルでは、共存安定性の解析が困難なため、そのような研究例は希である。本研究では、2つの生活史ステージを設けた極めて単純な2種間競争力学モデルを解析し共存安定条件を調べた。<BR>生物の多くは、発生途上において餌や生息環境を変えるComplex life cycleを有する。本研究ではこのような生活史特性を備えた近縁種間競争を想定し、以下の仮定を設けた。1)生活史ステージは幼体、成体ステージから成る。2)ステージ内において種内・種間競争が起こり得るが、ステージ間において競争は生じない。<BR>2種の共存は2種の競争関係と、成熟率、繁殖率、成体の死亡率から成る個体の活力を反映するパラメータセットの2つの兼ね合いで決まる。個体の活力が高いことは、種が存続するために必要であるが、競争関係次第ではそのことが系を不安定化させる。つまり、競争関係によっては種が存続し易い条件が、かえって2種の共存を危ぶむ可能性があり、非常に繊細な条件の下種の共存が保たれる。言い換えれば、共存状態は、生活史形質の変化に敏感に反応しその些細な変化によって、容易に崩れる可能性があることを示唆する。


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P3-153: 適応的フレームワーク(ダイナスキーム)によるモデルの表現と解釈

*大場 真1, 平野 高司1, 高橋 英紀2
1北海道大学大学院 農学研究科, 2北海道大学大学院 地球環境科学研究科

 シミュレーションモデルは複雑系の把握に欠かせない研究ツールである。しかしモデルを異なったグループ間で利用したり,多数のモデルから目的にかなったモデルを導出する際の方法論・システムが確立されていない。論者らはこの困難を解決する試みとして,微気象評価用の葉モデルを作成した際,工学で現在通常に使われるコンポーネントフレームワークを適用した。このモデルにおける抽象化と部品化はある程度の成果をもたらしたが,様々なモデルを柔軟に組み合わせ運用することは困難であった。問題はモデルの実装という工学的な問題だけでなく,細分化された学問分野における「孤立したモデル」の散在という問題も含んでいるからである。
 論者らは,適応的なフレームワーク(ダイナスキーム)という,複数のモデルにおけるそれらの接合・競合・改良の場の概念的枠組みを提案する。また現在,この実装系(ラグーン)を開発中である。これは固定的な視点からモデルを捉えるのではなく,利用者の視点に応じたモデルの多様な解釈を支援する。また,ラグーン内のモデルは,遺伝的プログラミングなどの技術を利用して変化することが可能で,かつ複数のモデルが試行錯誤的に結びつくことで,現象の記述・予測に適した新しいモデルを生成が可能となることを目指している。この枠組みは,不確定性の大きい生物や環境に関するモデリングに多くの利点があると考えている。


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P3-154: 安定同位体を用いたエゾヒグマの食性解析

*成田 亮1, 間野 勉2, 高柳 敦1
1京都大学大学院農学研究科, 2北海道環境科学研究センター

  エゾシカの増加に伴うヒグマの食性の変化を検証することと、ヒグマの個体間での動物やトウモロコシなどへの依存度の違いを調べることを目的として、安定同位体を用いての食性解析を始めた。エゾシカが多い道東と、エゾシカの少ない道南の双方の地域で2003年7-10月に捕獲されたヒグマについて、合計36個体の肝臓の炭素と窒素の安定同位体比を計測した。
  まず、道南と比較して、道東の試料では窒素の同位体比が高い傾向が見られ、これらの地域間で栄養段階に違いがある可能性が示唆された。この要因として、道東地域ではヒグマがより多くのエゾシカを利用していることが考えられる。しかし、このことを検証するためには、今後シカやその他の餌の同位体比を調べ、ヒグマの窒素同位体比に寄与する要因について検討する必要がある。
  次に、道南と比較して、道東の試料では同位体比に個体間で大きなバラツキが見られた。どちらの地域でもトウモロコシ被害が報告されているので、炭素同位体比が高い個体はトウモロコシを利用した個体である可能性がある。また、炭素同位体比と窒素同位体比が共に高い個体は動物性の餌(特に海洋性の動物)を多く利用した個体である可能性がある。分析数が少ないため、地域間のバラツキの違いが、地域間の採餌環境の違いによるのか、分析数の違いによるのかについては現段階では判断出来ない。今後個体間での食性の違いを吟味するには、分析数を増やすとともに、各個体の捕獲場所や季節に関する情報と併せて解析してゆく必要がある。


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P3-155: 森林域と非森林域における表層堆積物中の花粉スペクトル

*守田 益宗1
1岡山理科大学

最終氷期最盛期の北海道中から北部の植生については,ツンドラあるいは森林ツンドラの存否が古くから論議されている。その解明には,森林が未発達な地域における花粉化石群の特徴を明らかにしておくことが不可欠である。北海道内陸の山地にあって針葉樹林でかこまれた上川浮島湿原の10地点,根室半島基部に有りアカエゾマツ林に囲まれた落石湿原の29地点,根室半島から約3km離れた森林植被のないユルリ島の湿原の20地点から得られたミズゴケのmoss polster中の現生花粉スペクトルと周囲の植生との比較からそれぞれの花粉の散布源を推定した。その結果,ユルリ島では島外から飛来した花粉は平均34.8%であったが,このうち平均9割を高木花粉が占めた。高木花粉のうち道南部以遠からの飛来花粉は平均2割を占め,その大部分はPinus subgen. DiploxylonCryptomeriaであった。落石湿原でも道南部以遠からの飛来花粉の割合は,ユルリ島と同様の傾向を示すが,浮島湿原では多くても高木花粉の3%程度である。高木花粉の占める割合の平均は,ユルリ島が31.3%,落石湿原が41.6%,浮島湿原が77.8%でり,周囲の森林規模が大きいほど高率であった。浮島湿原ではBetulaが高木花粉の平均68.5%を占め,山地帯以下に大規模に拡がる二次林からの飛来花粉が極めて多いことが推定される。


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P3-156: 温暖化が及ぼすカジカ大卵型個体群の増大と崩壊のプロセス

*東 信行1, 五十嵐 勇気1
1弘前大・農学生命科学

河川生息場の温暖化は地球温暖化とともに,河川改修による平坦化や河畔林の伐採,取水による減水など,様々な要因によって引き起こされている.このような河川水温の上昇は,その条件によっては河道内の生物生産を高める一方,冷水性魚類などにとっては流程生息可能面積が縮小されることが想定される.本研究では,定住性の高い冷水性魚類であるカジカ大卵型(Cottus pollux)を対象に,生息場の物理・化学的環境と季節的な成長速度,生息密度を調べ,特に水温の上昇がカジカの成長,生息密度,流程分布等にどのような影響を与えているかについて注目した.底質・水深・流速などのマイクロハビタットに関する選好性を補正し検討した結果,生息場の水温が高いほど成長速度,生息密度は上昇の傾向が認められた.しかしながら,個体群の消失は突然顕在化し,成長速度が最も高くなる地点が高水温側の分布限界付近となった.多くの魚種で,飼育下一定環境では,成長に関する最適温度が存在し,温度がそれ以上上昇した場合には,緩やかに成長速度が減少することが知られている.しかしながら,野外の水温が変動する環境では,夏期の最高水温が分布を規定し,平均的水温が成長の特性を規定することが示唆される結果となった.
青森県小河川の底生魚類個体群はこの20年間で,南方由来種,北方由来種ともに生息密度の増加傾向が認められており(佐藤ら 本大会),水温上昇が冷水性魚類の生産性においても正の影響を与えていることを示唆する現象が認められている.しかしながら本研究の結果からは,冷水性魚類の場合,過度の水温上昇,特に夏期の最高水温の上昇が,突然の個体群消失を引き起こす可能性も示唆される結果となった.


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P3-157: 広島市デルタ地区の街区公園の植生構造

*河野 万里子1, 長嶋 啓子1, 中越 信和1
1広島大・院・国際協力

 近年身近に緑を求める声が高まっている。都市公園の中でも街区公園は数が多く、身近な緑を構成する重要な緑地である。このため街区公園の目標設置個数を定めている地方自治体は多いものの、一方でどのような公園を設置すればよいか質的な配慮はほとんどの場合において成されていない。本研究では公園の質、ひいては都市の生物生息地としてのポテンシャルを左右する重要な構成物である植生構造について類型化し、その質的評価を行なうことを目的とした。
 広島市で最も都市化の進んだデルタ地区内の街区公園214個において、植物樹種や階層毎被度等の現地調査を行い、広島市公園台帳(2002年度)から公園設置年度、面積等を調査した。階層毎の被度でクラスター分析(平方ユークリッド距離、Ward法)を行なったところ、高木層被度の高い公園(グループ1、52公園)と草本層被度の高い公園(グループ3、33公園)、その中間の公園(グループ2、129公園)に分類できた。これらのグループ間で、面積に差はなく、グループ1は他よりも樹木種数が多い傾向が見られた。またグループ1の設置年度は比較的古く、グループ3は比較的最近設置された公園であった。この近年の公園構造の変化に伴う樹木種数変化は、常緑樹・落葉樹、自生種・外来種の全てで起こっており、とくに外来種の減少が特徴的であった。


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P3-158: 有限サイズが群集の示すパワー則に与える影響について

*佐藤 一憲1
1静岡大学

姓の分布についてのランク-サイズ関係やサイズ-頻度関係がパワー則に従うことが経験的に知られているが,姓のダイナミクス(同じ姓をもつ人口の時間的変化)によって生じる姓に関する様々な現象に対して,特に近年,数理生態学的に解析する方法(確率モデル)がよく研究されている(佐藤・瀬野, 2003).このような確率モデルのひとつとして,Reed & Hughes (2003, 2003)は,様々な学問分野で共通して見られるパワー則が生じる様々な現象のメカニズムの可能性をひとつのモデルとして考案した.たとえば,生態学的な現象としては,姓や属が“誕生してからの年齢”を考慮に入れて,各々の姓あるいは属の中に含まれている人口や種数のダイナミクスが分枝過程や出生死滅過程にしたがう場合について,ランク-サイズ関係やサイズ-頻度関係が漸近的にどのような挙動を示すのかということについての解析をおこなっている.ここでは,そのようなモデルに対して,密度効果に起因する集団サイズの有限性を導入することにより,上記の現象を含む生態学的ないくつかの現象で認められているパワー則がうまく説明できるのか,また,ベキの値にはどのような影響を与えるのか,などの問題について考察する.


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P3-159: 環境省全国水生生物調査のインターネット調査登録システムについて

*宮下 衛1
1国立環境研究所

カゲロウやトビケラ、サワガニなどの水の中に生息する水生生物の分布を調べて、その水域の水質を判定する、環境省が行う「全国水生生物調査」は、今年からインターネットを利用した調査支援システム「水生生物調査支援情報システム」を用いて、参加登録、調査結果の入力・閲覧できるようになりました。1984年から始まった「全国水生生物調査」は、平成12年度から、国土交通省とともに指標種の種類、調査方法などを統一して実施され、2002年度は約92,000人、約2,500団体が参加して調査が行われています。また、本システムの本格運用を機会に、調査の手引きとして、指標種30種の水中写真を主体とした解説および水生生物の各地の生生物の分布調査結果(指標種30種以外を含む)を示した「水生生物調査の基礎知識」を公開しました。


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P3-160: マウス内在性A型レトロウィルスの配列は動物界に散在する

*岡田 あゆみ1, 岩村 幸雄1
1茨城県立医療大学

背景と目的
近年、ヒト、マウス以外にも各種動物のゲノム情報が得られるようになってきた。それに伴い、生物のゲノムには意味不明な塩基配列が多く含まれることが明らかになってきている。その一つがレトロトランスポゾンと呼ばれるレトロウィルス塩基配列に類似した配列である。レトロトランスポゾン型配列は、両端に繰り返し配列を持ち、ゲノム内で移動・複製してきたと考えられている。
レトロトランスポゾンの中でもIAP(Intracisternal A-particle)と呼ばれる配列は、baculovirusには一般的に見られる一ユニットが数kbp程度の配列である。逆転写酵素をコードしLTR(long terminal redundancy)を持つことがIAPの特徴である。この配列はウィルス以外には、ネズミ類に一般的であることが確認されている(J. Virol. 1982)。
最近までネズミ類以外の動物種にはIAP配列はないと考えられていたが、近年の研究結果から、IAPがより広い範囲の動物種でも見られる可能性が示唆されている。そこで本研究では、IAP(or IAP-like)配列をさまざまなカテゴリーの動物種についてPCR法で検索し、どの動物種でIAPが見られるのかを確認するとともに、系統関係と比較することを目的に研究を行った。
方法と結果
報告されているマウスIAP配列を元にデザインしたプライマーで、ヒト、ウシ、マウス、アフリカツメガエルの培養細胞系列、フィラリア(袋形動物)、マンソン住血吸虫(扁形動物)、貝類などのIAP配列の断片(約170bp)を増幅した。ほとんどのサンプルではPCR productが検出された。
今後はその配列を確認し、配列の比較検討を行う予定である。


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P3-161: 植物_-_土壌系から見た里山林の再生

*小林 達明1, 松浦 光明1, 東 季実子1, 高橋 輝昌1
1千葉大学園芸学部

萌芽更新伐採施業・下刈り管理が試験的に行われている狭山丘陵の二次林において、広範囲に植生・土壌調査を行い、下層植物のハビタット評価を行った。TWINSPANによって分類したところ、7つの下層植生型に分類できた。まず管理条件によって放置区・下刈り区と上層木伐採区に分類された。それぞれのカテゴリーはさらに谷頭凹地かその他の微地形かによって分類された。谷頭凹地ではアズマネザサの被度が高く、その伐採区では、ベニバナボロギク、ダンドボロギクといった外来種が目立った。アズマネザサの現存量と土壌・地形要因の関係について調べたところ、土壌pHが高く、斜面下部の平坦な地形でよく繁茂していた。また上層がアカマツの場合、ササ群落の発達は抑制される傾向にあった。
狭山丘陵は従来、里山管理のもとで、A層の発達が抑制された褐色森林土によって主に覆われていたと考えられる。その条件下でヤマツツジ・チゴユリ・コアジアイ・トウギボウシ・キッコウハグマ・ヤマユリ・ササバギンランなどに特徴づけられる林床植生が発達していた。里山管理停止後、上層の樹木が成長し、下層への到達光量が低下している。また谷頭凹地を中心に、土壌pHの上昇が進んでおり、それらの区域を中心にアズマネザサ群落の発達が進行している。近年、アカマツの立ち枯れが急速に進行し、その傾向に拍車をかけているようである。
下刈りや更新伐採は下層植物種数の増加をもたらした。しかし黒ボク土が発達した立地では、ササや外来植物の繁茂が促された。里山の植生を維持するには、光条件の管理とともに、林床・土壌条件の管理が重要と考えられる。また狭山丘陵では、アカマツとアズマネザサが生態系のキースピシーズとなっており、前者は褐色森林土とその植生の維持を、後者は黒ボク土とその植生への変化を促していると考えられる。


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P3-162: 早池峰山小田越周辺における約5000年間の植生変遷

*池田 重人1
1森林総合研究所

北上山地における亜高山帯針葉樹林の変遷過程を明らかにするために、早池峰山小田越で採取した土壌試料の花粉分析をおこなった。奥羽山脈については、守田らの花粉分析の研究などによって、約1000年前以降アオモリトドマツが急速に拡大してきたことが明らかになっているが、北上山地における古生態学の研究は限られたものしかなく、情報がきわめて少ない。このため、北上山地で唯一の発達した亜高山帯針葉樹林がみられる早池峰山で調査をおこなった。小田越は早池峰山と薬師岳の間の鞍部で、標高は約1240mである。周辺はアオモリトドマツとコメツガからなる亜高山帯針葉樹林が広がっており、小田越はほぼその中央に位置しいる。小田越付近のアオモリトドマツが優占する森林において、平坦な地点を選んで土壌断面を掘り柱状の試料を採取した。試料は実験室で1-2cmごとに切り、花粉分析をおこなった。土壌断面を観察した結果、表層から約30cmまでが腐植に富む黒色のA層で、深さ約12cmのところにAD915年に噴出した十和田aテフラが1cm前後の厚さで挟まれていた。また、A層の下部には約5500年前に噴出した十和田中掫テフラ層が約8cmの厚さでみられ、これら2つのテフラ層を時間の指標として用いた。さらに下部は暗褐色粘土質の層となり、花崗岩礫に富んだ腐植をほとんど含まないBC層、C層に続いていた。A層の土壌試料について花粉分析をおこなった結果、表層を除いてモミ属、ツガ属の出現率は小さく、小田越周辺で現在見られるような亜高山帯針葉樹林が成立したのは1000年間以降であると推察した。ツガ属は最表層でも出現率が小さかったため、コメツガが優勢な森林付近の調査が今後必要と考えられた。


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P3-163: コマルハナバチの採餌個体と食物資源の空間分布の動態調査

*川口 利奈1, 星野 弥弥2, Munidasa Dulee1, 小久保 望3, 鈴木 ゆかり1, 徳永 幸彦4
1筑波大学 生命環境科学研究科, 2筑波大学 環境科学研究科, 3筑波大学 生物学類, 4筑波大学 生命共存

茨城県笠間市、および筑波山神社周辺の野外調査地において、コマルハナバチの採餌個体の空間分布とその食物資源の空間分布、およびこれらの動態について調査を行った。
餌場の評価方法としては、移動平均法(Nakamura and Toquenaga 2002)で採用されているような、採餌個体にとっての花資源量の単純な空間分布ではなく、実際に採餌個体が採餌したかどうかという事実、あるいは花の蜜量や採餌個体のハンドリングタイムといった、花資源の質の空間分布に着目した。
2004年の4月から6月にかけて、笠間市でのべ1150個体以上、および筑波山神社周辺でのべ150個体以上のコマルハナバチの採餌個体(女王およびワーカー)の空間分布と、採餌場所となる花資源の空間分布および質の評価を行った。また、調査の過程で、笠間市では3つ、筑波山神社周辺では6つ、コマルハナバチのコロニーが発見された。
本発表では、採餌個体および花資源の分布動態をもとに、地理的プロファイリングを応用したアルゴリズムによって、コマルハナバチのコロニー設営候補地を推定し、実際に発見されたコロニーの位置と比較検討を行う。


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P3-164c: 地理的プロファイルを用いたマルハナバチのコロニー位置推定法

*鈴木 ゆかり1, 川口 利奈1, 徳永 ゆきひこ1
1筑波大学生命環境科学研究科生命共存科学専攻

マルハナバチのコロニーの位置の推定をする方法論を確立することを目指している。マルハナバチは保全生態学、行動生態学や個体群生態学など広い分野で、非常に興味深い研究対象である。保全のため、また研究のために、マルハナバチの野外のコロニーの発見は必要不可欠である。しかし、マルハナバチの野外のコロニーの発見は困難で長時間を要する。
著者が所属する研究室では、かつて「移動平均法」によりマルハナバチのコロニーの位置を推定した。コロニーの候補地点で、その地点からマルハナバチの採餌範囲内の花の量(被度)の平均をとり、平均が高い地点がコロニーの存在確率が高いと考えた。しかし前回の推定の枠組みでは、コロニーの候補地点の評価値が花の量であり、花の量は調査者が主観的に決定したため、正確性・再現性に乏しい推定にならざるをえなかった。また、移動平均法では、マルハナバチの採餌範囲は花の量にかかわらず、どの地点でも一定と仮定しなくてはならなかった。そのため、採餌範囲の設定によって結果が大きく変わってしまった。
そこで、今回は餌場の評価を花の量ではなく、花の質(真のエネルギー摂取効率)によって客観的に評価し、正確性・再現性の高い推定法を目指す。また、今回の枠組みでは、採餌範囲が花の質によって決定される。この考え方は、地理犯罪学の行動パターン分析を参考にしている。
発表では、このモデルのプロトタイプを使って、餌場の分布と花の質をもとに、マルハナバチのコロニーの位置を推定する。


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P3-165c: オルガネラDNA変異に基づいたイヌブナ(Fagus japonica)の系統地理学的構造

*山中 香1, 戸丸 信弘1
1名古屋大学大学院

イヌブナ(Fagus japonica)はブナ属に属する日本固有種で、主に太平洋側に分布する。同属のブナは主に日本海側に分布し、これら2種の分布変遷は花粉分析により推定されている。
ブナではアロザイムや、ミトコンドリアDNA、葉緑体DNAを遺伝マーカーとして解析が行われ、分布域全体の遺伝的構造が明らかになっており、その結果は分布変遷と関連があると推測された。一方、イヌブナでは現段階で遺伝マーカーにオルガネラDNA(ミトコンドリアDNA及び葉緑体DNA)を用い、分布域全体の集団を対象とした研究は行われていない。そこで、本研究では、イヌブナ分布域全体の22集団を対象に、オルガネラDNAを用いて遺伝的解析を行った。
 ミトコンドリアDNAをマーカーとしてRFLP法を用いて解析したところ、22集団に13種類のハプロタイプが見られた。これらのハプロタイプは、有意にその分布地域が偏っており、ほとんどの集団では1種類のハプロタイプで固定していて、集団内に変異が見られたのはわずかに2集団のみであった。これらのハプロタイプの構造は、最終氷期以降の分布変遷に由来すると考えられ、ブナと同様の系統地理学構造が存在することが示された。


12:30-14:30

P3-166c: 八甲田山のブナ帯から亜高山帯における湿原および林内表層堆積物の花粉組成と周辺植生の関係

*中村 琢磨1
1京都府大院・農

 花粉分析法において,より正確な植生復元を行うには,花粉組成と植生の関係を明らかにしておくことが重要である。特に,日本のような山岳地域では,亜高山帯域において,低標高地から飛来する花粉によって花粉組成が影響を受け,誤った推定結果を示す傾向にあることが指摘されている(Takahara et al., 2000)。
 そこで本研究では,上記の問題を解決し,堆積盆の大きさによる花粉組成の違いも含めて検討するため,八甲田山のブナ帯上部から亜高山帯において,大きさの異なる湿原や閉鎖した林内において表層堆積物を採取し,さらに,試料採取地点の周辺で植生調査を行った。植生と花粉組成の関係を検討する際には,特に,八甲田山の代表的な植生帯(ハイマツ群落,オオシラビソ林,ブナ林)に由来する花粉粒数の比に着目して解析した。ここでは,後述のようにPinus, Abies, Fagus花粉の比を用いた。結果は以下の通りである。
 林内表層試料では,ハイマツ群落でPinus花粉が40-50%,オオシラビソ林では低率ながらAbies花粉が5-14%,また,ブナ林ではFagus花粉が60%以上検出され,各林分の森林型に特徴的な花粉組成が認められた。一方,湿原表層試料では,亜高山帯とブナ帯における花粉組成は類似し,両者の花粉組成の違いを特徴づけるのは,Abies花粉出現率だけであった。
 各試料採取地点の周辺植生については,Abies/Fagus比を用いると,ブナ林とオオシラビソ林を判別できたが,ハイマツ群落とオオシラビソ林は判別できなかった。しかしPinus/Abies比を用いることで,ハイマツ群落とオオシラビソ林を判別することができた。以上のように,八甲田山において,表層堆積物中の花粉のうちAbies/Fagus, Pinus/Abies比を用いることで,周辺植生をハイマツ群落,オオシラビソ林,ブナ林に判別することができた。


12:30-14:30

P3-167c: NOAAデータによる熱帯乾燥季節林の落葉フェノロジーの推定

*伊藤 江利子1, 神崎 護2, Khorn Saret3, Det Seila3, Pith Phearak3, Lim Sopheap3, Pol Sopheavuth3
1森林総研, 2京都大学農学研究科, 3カンボジア森林野生生物研究局

森林の生産性に直接関わる森林の季節性は生態学的に重要な特性である。アジアモンスーン気候帯に属するインドシナ半島南部には乾季・雨季が存在し、植物の生育は顕著な季節変化を示す水分条件によって強く制限される。このような地域の森林の季節性は温度が制限要因となる温帯とは異なる可能性がある。本研究では、カンボジアの熱帯季節林地帯を対象として、衛星リモートセンシング技術を用いて,正規化植生指数(NDVI)の季節変化パターンから、熱帯季節林の落葉フェノロジーを推定した。
現地植生情報として、カンボジア森林野生生物研究所が作成した植生図を利用し、解析対象林分を決定した。解析対象としたのは、カンボジア国コンポントム州の常緑林・落葉林、クラティエ州の落葉林、モンドルキリー州の落葉林・山地常緑林である。
衛星リモートセンシングデータとしてMAFFIN-SIDaBから配布されたNOAA AVHRRによる雲取り処理を施したNDVIデータを利用した。NDVIデータはJSTで提供されたソフトウェア「高頻度観測衛星データ処理プログラムLMF3(植生指数・並列版) (http://act.jst.go.jp/FrameProductsCategory.html)を使ってLMF-KF処理を行い、雲の影響を除去したものを用いた。データの観測頻度は約10日に1回、データの解像度は約1.1kmである。
NDVIは12月下旬から1月上旬の約10日間のあいだに急減し、広範囲で一斉に落葉が起こることが示された。その後もNDVIの減少は続き、NDVIが最小となる時期は1月下旬もしくは2月下旬であることが多かった。NDVIが最小となる時期と森林の常落性のあいだには関係は認められず、地域的な差異であることが示唆された。最小時のNDVIは落葉林で年間最大値の50-62%、常緑林で70-80%まで減少した。


12:30-14:30

P3-168c: 紅葉時期の地上高分解能リモートセンシング画像による林冠樹種多様度の推定

*橋本 啓史1, 田端 敬三2, 今西 純一3, 森本 幸裕3
1京都大学大学院農学研究科, 2大阪府立大学大学院農学生命科学研究科, 3京都大学大学院地球環境学堂

森林性鳥類などの野生動物の種多様性は,生息地の植物の種多様性にも影響を受ける。本研究では,地上分解能2.4m のマルチバンドのクイックバード衛星画像からメッシュ内(例えば30 m 四方)の林冠木の種数と種ごとの本数を推定し,局所的な林冠樹種多様度を推定する方法を検討した。広葉樹を種のレベルで区分するために,葉の色の差が最も大きくなる紅葉時期の画像で試した。具体的な手順は,以下の通りである。林冠木の本数は平滑化フィルタ処理後の正規化差分植生指数(NDVI)画像から局所最大値フィルタ法によって樹頂部を抽出する。樹頂部から半径3.6 m 内のピクセルにおける4バンド(バンド和による正規化後の R, G, B, NIR)の DN 値の平均値または最大値または中央値を用いて樹種分類の可能性を探った。画像全体の樹木を対象にクラスター分析を行った場合は,紅葉の進み具合などが異なるために同じ樹種が同一クラスターになかなか集束しない。しかし,メッシュごとに樹種間の非類似度を見ると,同一メッシュ内の同一樹種の非類似度は比較的小さい。したがって,メッシュ内の種を区分するのに最適な各メッシュで共通の非類似度を設定できれば,狭いメッシュ内で,樹種名まで判らなくても,種数が推定できる可能性がある。メッシュ内の種ごとの本数が推定できれば,局所的な種多様度や均等度も計算でき,野生動物の生息環境評価に利用できる。広葉樹の大径木では局所最大値フィルタ処理による樹頂部抽出の前に平滑化処理を行わないとひとつの樹冠から複数の樹頂部が検出されてしまう問題があるが,逆に平滑化によって抽出される樹冠が非常に少なくなる問題も大きい。このことは,1本の誤区分によって大きく多様度が変わってしまう問題も引き起こす。樹種区分のための新たな指数の追加に加え,樹冠抽出法や適当な分析メッシュ・サイズの再検討が必要である。


12:30-14:30

P3-169c: 微化石からみた北大雨龍研究林泥川湿原におけるアカエゾマツ林の成立過程

*河野 樹一郎1, 野村 敏江1, 佐々木 尚子2, 高原 光1, 柴田 英昭3, 植村 滋3, 北川 浩之4, 吉岡 崇仁5
1京都府大院・農, 2京大院・農, 3北大フィールド科学センター, 4名大院・環境, 5総合地球環境学研究所

北海道大学雨龍研究林内には、トドマツ、エゾマツ、ミズナラ、ハルニレなどから構成される針広混交林が広がっている。その中で、泥川流域の湿原上にはアカエゾマツの優占する針葉樹林と、ヤチダモ、ハルニレなどからなる落葉広葉樹林が、林床にササを伴いモザイク状に成立している。現在、これら泥川湿原上に成立する森林群落がどのような過程を経て成立してきたのかを明らかにするため、堆積物中の微化石を用いた古生態学的な手法による研究を進めている。今回はその中で、湿原上に成立しているアカエゾマツ林の形成過程について検討した結果を報告する。
アカエゾマツ林内の2地点において、それぞれ約2.5mの泥炭堆積物を採取した。これらを用いて植物珪酸体分析、花粉分析、および放射性同位元素(210Pb)による年代測定を行った。分析の結果、植物珪酸体および化石花粉の組成から、I(深度250から220cm)、II(深度220から110cm)、III(深度110から20cm)、IV(深度20から0cm)の4つの層準を認めることができた。I:多量のイネ科およびカヤツリグサ科花粉とともに、トウヒ属、カバノキ属花粉が高率で出現した。II:トウヒ属花粉が出現しなくなり、カバノキ属花粉も減少した。一方で、コナラ亜属やトネリコ属花粉とヨシ属の植物珪酸体が増加し、この時期のヨシ原の拡大が示唆された。III:トネリコ属花粉およびヨシ属の植物珪酸体が減少するのと入れ替わり、ササに由来する植物珪酸体が増加することから、この時期にヨシ原からササ原への変化が推測された。IV:ササの植物珪酸体が多量に出現し続け、その途中でトウヒ属花粉およびマツ科の植物珪酸体が出現し始めた。このことから調査地では、ササ群落へアカエゾマツが侵入したものと考えられた。放射性同位元素(210Pb)に基づく年代測定によると、この侵入年代は、少なくとも今より100年から150年前であった。
現在、放射性炭素を用いた堆積物全体の年代測定を進めており、今後、泥川湿原上の植生変遷についてさらに詳細に解明することができる。


12:30-14:30

P3-170c: 空間解析を用いたコバノミツバツツジの樹形の定量的評価

*吉村 謙一1, 石井 弘明1
1神戸大学 自然科学研究科

 樹木個体は、光環境に順化した樹形をとることが知られている。本研究では関西地方に広く生育するコバノミツバツツジ(Rhododendron reticulatum)を用いて、当年枝の立体位置を測定することにより樹形を定量的に解析し、樹形が光環境や個体サイズ、立地条件によってどのように規定されるのか評価した。
 試験地内から光環境やサイズの異なる個体を10個体選抜して、個体の地際を原点とし、地際から東の方向をX軸、北の方向をY軸、鉛直方向をZ軸とした三次元直交座標でそれぞれの個体について当年枝の位置を全て測定した。各個体の当年枝の位置を平面回帰し、各当年枝のZ座標と回帰平面の間のMSE(平均残差平方和)を計算した。ここでMSEが小さな個体は単層的、MSEが大きな個体は複層的であるといえる。また、樹幹の下部には樹冠部を形成しない細い1次枝が存在していたため、これに由来する当年枝を除外したときのMSEも計算した。
 コバノミツバツツジは光環境に応じて明るい環境では複層的、暗い環境では単層的な樹形を取ることが分かった。また、光環境が明るくサイズの大きな個体では樹幹の下部に存在する細い1次枝由来の当年枝の割合が高かった。個体成長に伴い樹冠下部の1次枝が残存すると複層的な樹形になり、これらが枯れ上がると単層的な樹形になると考えられる。
 当年枝の位置の平面分布について空間解析を用いて評価したところ、当年枝どうしクラスターをつくっていることが明らかになった。また、特に複層的な樹形の個体においては集中分布が顕著であり、当年枝どうしが相互庇陰していると考えられる。また、当年枝は樹冠内の開空度が高く散乱光の多い方向に多く分布していた。しかし、斜面の傾斜が大きい場所に生育する個体では当年枝の分布は開空度よりも斜面の方向に規定されていた。


12:30-14:30

P3-171c: 完新世海進期における北海道東部厚岸周辺の塩性湿地植物群落の分布変遷

*那須 浩郎1, 澤井 祐紀2
1国際日本文化研究センター, 2産業技術総合研究所 活断層研究センター

北海道東部厚岸湖の湖岸には、アッケシソウに代表される塩性湿地植物群落が分布している。これまでの研究から、厚岸地域では過去約3,000年の間に少なくとも4度の地震性相対的海水準変動があったことが明らかにされており、同地域の塩性湿地植物群落はその変動の影響を大きく受けて今日に至っていることが推定される。本研究では、厚岸地域の湿原地下堆積物の層序を調べると同時に、堆積物中に含まれる植物遺体(珪藻、葉、果実、種子など)を分析し、そこから完新世における塩性湿地植物群落の変遷過程を復元した。
大別川上流域では、約2000年前まではコアマモを主とする干潟環境が拡大していたが、約1200年前からの相対的海水準の低下による急激な海岸線の移動によって、ヒメウシオスゲが主体の塩性湿地環境へと変化した。その後、比較的緩やかな相対的海水準の上昇があり、一時的にシバナ、ウミミドリからなる塩性湿地の先駆群落に変化する。しかしながら、約600年前になると再び相対的海水準は低下し、ヨシ_-_エゾウキヤガラの湿地に移行した。その後に起きた相対的海水準上昇により、ヨシ_-_エゾウキヤガラ湿地はヒメウシオスゲ主体の塩性湿地に変化するが、約250年前(西暦1750年)の火山灰降下と急激な陸化の影響で現在分布するハンノキ湿地林が形成された。以上のような大別川上流域の環境変遷に対してチライカリベツ川中流域では、約600年前まで干潟環境が継続しており、その後はヒメウシオスゲやアッケシソウからなる塩性湿地環境が成立した。その後、大別川上流域と同様に、約250年前の火山灰降下と急激な陸化の影響によって、塩性湿地からアカエゾマツ林への急激な変化が起きた。
以上のように、海域に近い大別川上流域では相対的海水準変動に対する植生の応答は敏感だったが、より内陸側にあるチライカリベツ川中流域の植生は比較的大規模な相対的海水準変化のみに影響を受けていた。これは、チライカリベツ川中流域が、比較的早い段階で大別川上流域より相対的に高くなっていたために海水準変動に対する影響の違いとして現れたものと考えられた。


12:30-14:30

P3-172c: 捕食リスクに応じた誘導防御形態の発現

*水田 勇気1, 西村 欣也1
1北海道大学大学院水産科学研究科

生物が捕食の危険から身を守るためにもつ防御形質は、形態的なものから行動的なものまで非常に多様であるが、その発現の程度はどのように決まっているのだろうか? 一般に防御形質は、その発現の程度を増すほど捕食に対して効果的であると考えられる。しかし、防御の程度を増すことで他の形質に利用可能な資源が減少するといったように、防御形質の発現にトレードオフの関係があるならば、発現による利益と損失との兼ね合いにより、発現の程度は生物がさらされている捕食危険性に応じたものになると考えられる。これより、環境中の捕食危険性が異なれば、防御の程度も異なることが予測される。
本研究では、エゾアカガエル(Rana pirica)幼生が持つ誘導防御形態について、上記の仮説を検証した。エゾアカガエル幼生は、丸のみ型捕食者であるエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)幼生に対して特異的に頭部を著しく膨満させる誘導防御形態(Bulgy morph)を示し、これによりサンショウウオ幼生からの被食を低減する。一方、サンショウウオ幼生も同種やエゾアカガエル幼生が高密度で存在する環境では、口器サイズを拡大させる誘導捕食形態(Broad-headed morph)を示す。この形態になることで、より大きなサイズの餌を利用可能になると考えられている。本研究では、捕食危険性の要因としてサンショウウオ幼生の大きさと、これらの個体数、さらにサンショウウオ幼生の表現型を取り上げ、それぞれの要因の処理下でエゾアカガエル幼生を一定期間飼育し防御形態の誘導反応を調べた。実験の結果、誘導される防御形態の程度は、捕食危険性の増加に応じて増加することが示された。このようにエゾアカガエル幼生は、危険回避にかけるコストを危険に見合った防御形質の発現によって調節していると考えられる。


12:30-14:30

P3-173c: 落水後の水田に形成される小水域に生息する水生昆虫

*西城 洋1
1大阪市立自然史博物館・外来研究員

稲刈りを終え,排水管理をしなくなった水田では,降雨や滲みだし水により,しばしば水溜まりや溝状の小水域が形成される.特に水はけの悪い水田では,これらの小水域が水田一面に広がったり,数ヵ月間にわたり存続したりすることがある.これらの水域には多くの水生昆虫が生息している.農閑期の水田の水管理は,乾田を目指したり,湛水田を目指したりと様々であるが,水はけの悪い水田(あるいは,水保ちの良い水田)に自然にできる水溜まりは,水生昆虫の生存に,どのような役割を果たしているだろうか.本講演では,落水期以降の水田に形成される小水域に生息する水生昆虫に注目し,溜め池の水生昆虫との比較などを交え,水生昆虫の生活史におけるこれら小水域の役割について考察する.


12:30-14:30

P3-174c: 和歌山県田辺市におけるヒドロキシルラジカル発生水の長期暴露が梅木の光合成能及び成長に及ぼす影響

*尹 朝煕1, 田上 公一郎1, 玉井 浩司1, 中根 周歩1
1広島大学大学院 生物圏科学研究科

2000年4月から2002年12月までの約3年間にわたって、ウメ(Prunus mume)の4年生苗木の光合成能と成長に対するOHラジカル発生水の影響を調べた。ウメの生育障害と枯死が発生した和歌山県田辺市に設置された実験ハウスで、過酸化水素(H2O2)の濃度を30μM(1倍区)に調整したOHラジカル発生水(HOOH+Fe(_III_)+Oxalate溶液;pH4.4)及び脱イオン水(対照区)を、毎年4月から11まで、1週間に3回の割合でウメの葉面に散布した。それと共に野外区(無処理区)を設置し、処理区との比較を行った。
 1倍区の最大光合成速度(Amax)と気孔コンダクタンス(gs)は暴露開始2_から_3ヶ月後に対照区に比べて有意に減少し始めて11月には最大の差が見られた。 野外区においては、実験ハウスの処理区を下回る傾向が見られた。こうした減少傾向は3年間にわたって繰り返し見られた。3年間の地上部(枝、幹)固体乾重量の変化は2000年4月の段階ではどの区でも1,600_から_1,700g/本で開始したが、対照区で14,987g/本、1倍区で11,167g/本、野外区で8,005g/本となった。最終サンプリング時(2002年12月)で、1倍区における地上部(枝、幹)の成長量比(Growth Rate)及び相対成長速度(Relative Growth Rate)は対照区に比べて、3年間でそれぞれ34%及び16%減少した。また、野外区においても、対照区に比べてそれぞれ57%及び31%減少した。一方、地下部の成長については、1倍区と野外区における地上部(枝、幹)の成長量比及び相対成長速度が対照区に比べて減少したが、有意な差は見られなかった。以上の結果より、1倍区の程度のストレスであっても、長期間に掛けてその影響は蓄積され、ウメの生長が光合成能の低下と伴って有意に減少することが明らかになった。


12:30-14:30

P3-175c: 青森県における河川魚類の20年間の変遷とその要因について

*佐藤 孝司1, 佐原 雄二1, 東 信行1
1弘前大学農学生命科学部

近年までの河川環境変化は河川改修や水質負荷などの人為的な物理的・化学的撹乱を受け,河川魚類にも負のインパクトを与えてきた.しかしながら,現在では近自然型川作り等の河川環境に配慮した河川管理が行われつつある.加えて温暖化等の気候変化も明らかとなっており,これらの環境変化が生物の分布や生息密度に影響を及ぼしているという例が報告されてきている.そこで本研究では,過去約20年間の青森県の小河川を取り巻く環境の変化が魚類の生息状況にどのような変化をもたらしたのかについて,1980_-_84年に行われた調査と全く同様な日程・採捕努力での調査を2002年,2004年に行い比較を行った.本研究では,タモ網採集によって魚類相の把握が可能な小河川の河口付近が主たる調査対象となっており,調査地点数は39箇所である.
2002年に採集された魚類標本は7目11科25属35種1393個体,1980年代は7目11科24属36種713個体であった.河川全体では出現種数に有意な変化は無く,一方,個体数,湿重量がともに増加しているということが明らかになった(Wilcoxon signed rank test).魚種ごとではアメマス,スナヤツメ,カンキョウカジカ,ミミズハゼ,ヨシノボリ類やヌマチチブで増加傾向が認められ,また南方由来の魚種の増加に伴う北方由来の魚種の減少は認められなかった.比較的近年に行われた砂防工事,河川改修,港湾開発等の人為的撹乱の認められる一部河川では魚類相の貧弱化や個体数の減少が確認されたが,全体的な個体数や湿重量の増加に関しては,その要因として温暖化,水質,物理構造等の変化に注目し考察する.発表では,さらに2004年の調査結果を加え議論する予定である.


12:30-14:30

P3-176c: 移入種ソウシチョウ集団の遺伝的構造

*天野 一葉1, 江口 和洋2, 角 友之3, 雷 富民4, 舘田 英典*2
1WWFジャパン・自然保護室, 2九大院・理・生物, 3森林総合研究所, 4中国科学院・動物研

ソウシチョウ (Leiothrix lutea)は、1600年代より中国から日本へ輸入されてきたが、近年、日本の落葉広葉樹林等の自然林で個体数を増加させている。しかし、日本の集団の由来が中国なのかどうかははっきりしていない。そこで、日本の9つの野生集団と中国の飼育個体を中国集団として比較した。ソウシチョウ189個体のミトコンドリアDNAコントロール領域661塩基より、31ハプロタイプが見つかった。中国集団と比較して、日本の集団では遺伝的多様度piと、ヌクレオチド多型thetawが減少していた。SnnテストとKSTテストにより、複数の日本の集団間で有意な遺伝的分化が検出されたが、中国集団と日本集団の間では、筑波山の集団を除いて有意な遺伝的分化は検出されなかった。ハプロタイプの分布とAMOVAより、日本の集団の遺伝的変異の多くは中国集団の変異に含まれることが示された。Tajima’s D統計量より、過去の中国集団の拡大が示唆され、日本の集団にも同様の傾向が示唆された。Nested cladistic analysisにより、いくつかの日本の集団において連続的な生息域の拡大と距離による隔離による遺伝的流動の制限が示唆された。これらより以下が示唆された;1)日本の集団は中国から移入された個体に起源する、2)移入後、日本の集団の遺伝的多様性は減少傾向にある、3)複数の移入イベント及び(又は)ボトルネック効果により、いくつかの日本の集団は互いに分化している、4)いくつかの日本の集団は生息域の拡大と局所的な遺伝子流動の存在を示す。


12:30-14:30

P3-177c: SEMを用いた花粉分析からみる後氷期の落葉広葉樹林の組成 −コナラ亜属花粉のSEMによる識別と化石花粉への適用−

*牧野 真人1, 高原 光2
1北海道立林産試験場, 2京都府立大学大学院 農学研究科

 コナラ属コナラ亜属(Quercus subgenus Lepidobalanus)は北海道から沖縄にかけて分布し、ミズナラなどが冷温帯、コナラやクヌギなどが暖温帯の二次林の優占種となり、日本の植生において重要な位置を占めている。
 このようなコナラ亜属などの落葉広葉樹は、最終氷期が終わり約1万年前以降に分布域を拡大したことが花粉分析学的研究により明らかにされている。しかし、花粉分析で一般に用いられる光学顕微鏡ではコナラ亜属花粉を種ごとに識別することができないため、このような植生の詳しい種組成は解明されていない。すなわち、その分布拡大過程や極相での種組成、さらに歴史時代に入り照葉樹林が二次林化した際の種組成の変化などはほとんど解明されていないのが現状である。
 そこで本研究では、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、コナラ亜属7種について合計49個体377粒の花粉を観察し、個体内変異および個体間変異に注意しながらその類型化を行った。その結果、花粉の表面に線状突起が認められるウバメガシ型(山崎・竹岡1959)と、顆粒が認められる型に大別できた。さらに、その顆粒がコンペイトウ状になるカシワ型(Miyoshi 1981)、いぼ状のコナラ節型(ミズナラ・コナラ・ナラガシワ)、しわ状のクヌギ節型(アベマキ・クヌギ)の3つに類型化することができた。このように花粉の表面微細構造が節ごとに類型化できたことは、植物分類学的にも重要な示唆に富むものである。
 次に、実際に高知平野伊達野で採取した堆積物の化石花粉をSEMで観察・計数したところ、約5000年前以降は顆粒がコンペイトウ状のカシワ型花粉がコナラ亜属の30〜40_%_を占め、後氷期の後半にカシワが多かったことが明らかになった。なお、現在高知平野にカシワは自生していないことから、いつ頃、どのようにして消滅したかについて,解明する必要がある。
 これまで、花粉分析へのSEMの適用はいずれも補助的な用法であったが、本報告では本格的にSEMを活用することで、過去の落葉ナラ林についてより詳細な検討が可能になったことを示す。


12:30-14:30

P3-178c: SEMを用いた花粉分析からみる後氷期における落葉広葉樹林の組成 -琵琶湖東岸部における後氷期初期の火事とカシワの出現-

*林 竜馬1, 牧野 真人2, 井上 淳3, 高原 光1
1京都府大院・農, 2北海道立林産試験場, 3大阪市大院・理

 後氷期初期にあたる10,000年前頃には、近畿地方内陸部にコナラ亜属を中心とした落葉広葉樹林が広がっていたことが知られている(高原 1998)。また、琵琶湖周辺での火事の発生が明らかにされていることから(井上ほか 2001)、この時期の落葉広葉樹林が火による撹乱を受けていた可能性が示唆される。しかし、コナラ亜属の中でもそれぞれの樹種で生態的特徴が異なっており、このような火事と植生史との関係を明らかにするためには、これまで困難であった過去の落葉広葉樹林の種組成を解明することが重要な課題である。
 そこで今回、琵琶湖東岸部に位置する曽根沼において採取された堆積物について、花粉分析および微粒炭分析を行い、さらに、牧野(本大会ポスター講演)によるSEMを用いた分類に従って、コナラ亜属花粉の同定を行うことで、後氷期初期における落葉広葉樹林組成の解明を試みた。
 花粉分析と微粒炭分析の結果、後氷期初期にあたる層準から、コナラ亜属花粉が高率で出現し、微粒炭も多量に検出された。さらに、SEMを用いてコナラ亜属花粉を同定した結果、この層準では、コナラ節型花粉(ミズナラ・コナラ・ナラガシワ)と共に、カシワ型花粉が認められた。また、この層準において、カシワ型花粉の出現割合が増加した。これらの結果から、後氷期初期には琵琶湖東岸部においても、コナラ亜属を中心とする落葉広葉樹林が広がり、火事が発生していたことが確認された。さらに、その落葉広葉樹林には、ミズナラあるいはコナラと共に、カシワが生育しており、この時期にカシワが分布を拡大していたことが明らかになった。
 コナラ亜属の中でも、カシワは火にかかっても回復力が強いため、山火事後に増加する傾向があるとされている(沼田・岩瀬 1975)。そのため、本研究により明らかになった後氷期初期の火事とカシワの出現には何らかの関係がある可能性が示唆される。


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P3-179c: The performance of GPS-3300 considering application in the habitat of northern Mt. Fuji, central Japan

*Jiang Zhaowen1, Sugita Mikio1, Fujisono Ai1, Kitahara Masahiko1, Gotou Takehiro1, Takatsuki Seiki2
1Yamanashi Institute of Environmental Sciences, 2University Museum, The University of Tokyo

Habitat feature influences satellite available number and sequentially influences accuracy and GPS system ability. Animal behavior may also influence location success. We assessed these influences on performance of 4 GPS-3300 collars (Lotek) in northern Mt. Fuji. We tested at 15 sites with gradient in slope and tree canopy at 1000, 1500 and 2350 m in elevation. Collar was attached vertically at 1-m height. We recorded openness (o), large tree DBH (>10-cm), total tree density, and % canopy, and calculated basal area (m2/ha) of large tree for each site. We placed 4 collars on car top and drive along open and forest road at 10 km/h to test movement influence. 3D locations (DOP<5) were employed to calculate true site position.
Location success rate ranged 80–100%; mean distance error was 20.5-m (0.2–448.5). Proportion of 3D location ranged 17–100%. For all locations, 45% were less than 10-m and 93% less than 50-m from true position. There was no difference among elevations. For all locations, the location time of each attempt was negatively related to openness and positively related to tree canopy, large tree density and basal area, and in vice versa for success location rate, 3D location proportion, and available satellite number. However, all of them have no correlation with total tree density. DOP showed negatively related to openness, but no correlation with other habitat features. Location time was the longest and available satellite was the minimum when moving in forested area. No difference was found in success rate, 3D location proportion, and DOP between static and moving in open area, but success rate and 3D location proportion decreased, and DOP increased in forested area.
GPS-3300 is suitable to apply in northern Mt. Fuji.


12:30-14:30

P3-180c: キスゲとハマカンゾウにおける雑種形成の非対称性

*安元 暁子1, 矢原 徹一1
1九州大学理学部生物学教室

種分化に生態学的関心が集まっているが、生態的に多様化した2種間でどのような内的隔離機構が進化しているかを調べた研究は少ない。ユリ科キスゲ属のキスゲとハマカンゾウは、前者が夜咲きで蛾媒、後者が昼咲きで蝶・ハナバ チ媒という顕著な生態的分化を遂げているが、野外で浸透交雑集団が見られることから、内的隔離機構は不完全だと考えられる。このような2種に注目し、人工授粉実験を行ない、種間交雑(F1世代)と戻し交雑(BC1世代)における果実・種子稔性を比較し、 2種間にどのような内的隔離機構が発達しているかを調べた。種間交雑実験では、ハマカンゾウを胚珠親とした場合に、同種交配よりも種間交雑において果実稔性が有意に低く、キスゲを胚珠親とした場合には差がなかった。また、戻し交雑実験では、どちらの種が胚珠親であっても、果実稔性は同種交配よりも戻し交雑で有意に低かった。 その低下の程度はどちらの種が胚珠親でも変わらなかった。以上の結果から、キスゲとハマカンゾウの間では、(1)F1形成過程においてもBC1形成過程においても、不完全ながら内的隔離が発達している、(2)F1雑種の出来やすさには非対称性がある、(3)この非対称性はBC1形成過程では発現されない、ことが明らかになった。従って、2種の浸透交雑集団では、キスゲが胚珠親となっている場合が多いものと予想される。


12:30-14:30

P3-181c: ハビタットタイプによるビワヒガイの形態変異について

*小宮 竹史1, 堀 道雄1
1京都大学理学研究科動物生態学研究室

生物の形態は利用する食物やハビタットに応じて変異に富む。とりわけ栄養形態にみられる種内変異とそれに関連した採餌様式は、局所適応、さらには同所的分集団化の引き金として注目を浴びてきた。
 本研究では、琵琶湖固有種のコイ科魚類ビワヒガイについて、その幅広いニッチ占有と著しい頭部形態変異との関連を、幾何学的形態測定法(Geometric Morphometrics)を通じて明らかにした。岩礁帯に生息する集団は細身で頭部が長く、口吻は比較的前方に延びた。流水域の集団は紡錘形の体型で頭部が短く、口吻は比較的下方に延びた。砂礫帯の集団は、岩礁帯と砂礫帯の集団の中間的な形態であった。種間比較からは、岩礁帯と流水域において、ビワヒガイの形態と同所的に生息する同属種(順にアブラヒガイ、カワヒガイ)の形態とが類似していることが明らかとなった。また、検討した栄養形態のうち、口吻延長には頭部形態の変異と相関が認められ、頭が長くなるほど口吻が長く、より前方に延びることがわかった。これらの結果と食性調査の結果をふまえ、頭部形態にみられる変異の生態学的意義とその要因を、ハビタットごとの採餌戦術の面から考察した。