2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
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[要旨集] 公募シンポジウム S01

8 月 28 日 (土) シンポジウム概要
  • S1-1: 日本のブナ属における遺伝的多様性と系統地理 (戸丸)
  • S1-2: 完新世、中央ヨーロッパ山岳における欧州ブナの移動と集団的拡大の動き (すぱいやー)
  • S1-3: ブナ分布北限域におけるブナとミズナラ (小林, 渡邊)
  • S1-4: 苗場山ブナ林における分光反射特性を利用したアップスケーリング (角張, 高野, 横山, 向井, さんちぇす)
  • S1-5: ミズナラ林の植生地理 (星野)
  • S1-6: A phytosociological survey of temperate deciduous forests of mainland Asia (Pavel, SONG Jong-Suk)
  • S1-7: 東アジアのナラ林vsブナ林 -- とくに中国と日本の相違性と相似性、どのような環境要因が決め手になるか -- (藤原)
  • S1-8: Development of European Beech forests in the Holocene (ポット)

09:30-12:30

S1-1: 日本のブナ属における遺伝的多様性と系統地理

*戸丸 信弘1
1名古屋大学大学院生命農学研究科

 日本列島は北東から南西に長く、それに沿うように数多くの山脈が伸びている。このような日本列島に分布する植物は、氷期と間氷期のような気候変動に対して太平洋側や日本海側を北上しまたは南下し、あるいは山腹を上昇しまたは下降して生育適地を求めてきた。現在の植物種が保有する遺伝的多様性と遺伝的構造は、このような過去の分布域の変遷と集団サイズの拡大・縮小を反映していると考えられている。特に、母性遺伝し、遺伝子流動が種子散布に限られるオルガネラ(葉緑体とミトコンドリア)には、過去の分布移動をよく反映した遺伝的構造がみられることがある。歴史的に形成された遺伝的構造、すなわち集団の系統の地理的分布は特に系統地理と呼ばれるている。
 私たちの研究グループは、日本の冷温帯の夏緑広葉樹林を代表する樹種であるブナ(Fagus crenata)を中心に同属のイヌブナ(Fagus japonica)も対象として、核ゲノムにコードされるアロザイム、葉緑体DNA(cpDNA)とミトコンドリアDNA(mtDNA)を遺伝マーカーとして、両種の遺伝的多様性と遺伝的構造を調べてきた。その結果、両種が保有する核ゲノムとオルガネラゲノムの遺伝的多様性と遺伝的構造には少なからず集団の歴史が反映されていることがわかった。特に、ブナのcpDNA変異とmtDNA変異には、興味深い系統地理学的構造がみられ、過去の移住ルートを示唆していると考えられた。


09:30-12:30

S1-2: 完新世、中央ヨーロッパ山岳における欧州ブナの移動と集団的拡大の動き

*すぱいやー まるていん1
1ハノーバー大学地植物学研究所

On the basis of new palaeoecological and genetical data from Central European mountain areas the Holocene processes of migration and mass expansion of beech (Fagus sylvatica) can be reflected as result of climate and human influence as well. In contrast to former models of vegetation dynamics both effects on the development of Central European beech forests can be differentiated now by using a spatial and temporal distribution model which includes elevation as an important environmental factor.
According to pollenanalytical studies these beech populations did not futher migrate into the large plain area of Northwest Germany after having conquered the central mountainuous areas. According to the genetical and palaeoecological data we can conclude that the Northwestern part of Germany, France and the Netherlands might be settled by different beech populations which did not mix with these southeastern proviniences in spite of the fact that man opened the landscape by distroying the former Atlantic mixed deciduous forests which could have provided a wider distribution of beech. In the plains of Northwest Germany Fagus sylvatica appears 3000 years later and than continuously formed small beech forest which reached their full size during historic times.


09:30-12:30

S1-3: ブナ分布北限域におけるブナとミズナラ

*小林 誠1, 渡邊 定元2
1立正大学大学院地球環境科学研究科, 2森林環境研究所

 北海道の黒松内低地帯には,日本の冷温帯域の主要構成種であるブナ(Fagus crenata)の分布北限域が形成され,以北(以東)の冷温帯域には,ミズナラなどの温帯性広葉樹と針葉樹とからなる針広混交林が広く成立している。この現在のブナの分布域と分布可能領域との不一致については,様々な時間・空間スケール,生態学的・分布論的研究アプローチによってその説明が試みられてきている。
 植生帯の境界域においてブナや針広混交林構成種には,どのような生態的特徴,個体群の維持機構が見られるのだろうか?植生帯の境界域におけるこれら構成種の種特性を明らかにすることは,植生帯の境界域形成機構の解明に際して,重要な知見を与えるだろう。これまで渡邊・芝野(1987),日浦(1990),北畠(2002)などによって,北限のブナ林における個体群・群集スケールの動態が明らかになりつつある。本研究ではこれら従来の知見を基礎とし,最北限の「ツバメの沢ブナ保護林」における調査によってブナとミズナラの動態を検討した。
 ツバメの沢ブナ林においてブナ林は北西斜面に,ミズナラ林は尾根部に成立し,両者の間には混交林が成立している。1986年に設定された調査区の再測定と稚幼樹の分布調査から,(1)ブナとミズナラの加入・枯死傾向は大きく異なり,ブナは高い加入率と中程度の枯死率で位置づけられたが,ミズナラは加入・枯死率ともに小さかった。(2)ブナの稚幼樹はブナ林内・ミズナラ林内においても多数見られ,ブナのサイズ構造からも連続的な更新が示唆されたが,ミズナラの稚幼樹はほとんど見られなかった。(3)ブナは調査区内において分布範囲の拡大が見られたが,ミズナラには見られないことなどが明らかになった。これらのことは,分布最北限のブナ林においてブナは個体群を維持・拡大しているのに対し,ミズナラの更新は少なく,ブナに比べ16年間における個体群構造の変化は小さいことが明らかになった。


09:30-12:30

S1-4: 苗場山ブナ林における分光反射特性を利用したアップスケーリング

*角張 嘉孝1, 高野 正光1, 横山 憲1, 向井 譲2, さんちぇす あるとろ3
1静岡大学, 2岐阜大学, 3アルバータ大学 (カナダ)

1はじめ
森林による光合成生産量や炭素固定量を調べる際に、植物の生理機能の日変化や季節変化などの情報から生態生理的過程に忠実なモデルを組み立て解析する方法は確かに正しい。しかし、個葉レベルから樹冠レベル、流域レベルでの事象を的確に表現していない。個葉レベルからのアップスケーリングを意識したリモートセンシングの可能性を苗場山ブナ林で探った。
2. 材料と方法
1)調査地は、苗場山ブナ林(36°51′N、138°40′E)である。標高550m、900mと1500mのブナ林長期生態観察試験地である。
2)樹冠に達する観測鉄塔がある。550mでは5本、900mでは5本、1500mでは3本を測定対象木とした。光合成速度、Vcmaxなどの測定は開葉前から落葉後まで、季節を通して2週間ごとに測定した。
3)測定装置は米国Analytical Spectral Devices社製のSpectroradiometer
4)測定は午前9時半から正午までに実施。観測鉄塔の上から樹冠の各部にあるクラスターを構成する葉の反射分光特性を調べた。距離は0.5mないし5m前後の葉を調べた。
4)色素および生理的特性の測定
色素分析用のサンプルを打ち抜き冷凍保存。HPLCを用いて色素を分析。光合成はミニクベッテシステム、クロロフィル蛍光反応はMini-Pam、光合成速度の最大値(Pmax)やVcmax、量子収率などを参考。
3.データ処理
NDVIとPRIを調べた。
NDVI = (Rnir-R680) / (Rnir+R680)   
PRI = (R531-R570) / (R531+R570)
ここで Rnir は843nmから807nmの平均反射率である。今後、クロロフィルa,b、Pmax、Vcmaxなどとの関連を検討。
4.結果と検討
1) Pmax,とPRIの関係
光合成速度の季節変化とPRIやNDVIとの関係は相関が高い。標高により異なる。勾配には差がない。
2)PmaxとNDVIの関係
NDVIは標高の高いブナ林の低生産性を表している。


09:30-12:30

S1-5: ミズナラ林の植生地理

*星野 義延1
1東京農工大学農学部

ミズナラはモンゴナラの亜種とされ、北海道から九州までの冷温帯域に分布する。また、サハリンや中国東北部にも分布するとされている。
 ミズナラ林は日本の冷温帯域に広くみられ、二次林としての広がりも大きい。日本において最も広範囲に分布する森林型である。ブナの北限である北海道の黒松内低地以北では気候的極相としてのミズナラ林の存在が知られている。年平均降水量が少なく、冷涼な本州中部の内陸域や東北地方の北上高地ではブナの勢力が弱く、ミズナラの卓越する領域が認められる。また、地形的には尾根筋や河畔近くの露岩のある立地に土地的極相とみなせるようなミズナラ林の発達をみる。
 本州中部で発達した森林を調べるとブナとミズナラは南斜面と北斜面とで分布量が異なり、南斜面ではミズナラが、北斜面ではブナが卓越した森林が形成される傾向がみられ、少なくとも本州中部以北のやや内陸の地域では自然林として一定の領域を占めていると考えられる。
 ブナ林とミズナラ林の種組成を比較すると、ブナ林は日本固有種で中国大陸の中南部に分布する植物と類縁性のある種群で特徴づけられるのに対して、ミズナラ林を特徴づける種群は東北アジアに分布する植物群で構成される点に特徴がみられ、日本のミズナラ林は組成的には東アジアのモンゴリナラ林や針広混交林との類似性が高い。
 東日本のミズナラ林を特徴づける種群は、種の分布範囲からみると日本全土に分布するものが多く、ミズナラ林での高常在度出現域と種の分布域には違いがみられる。このような種は、西日本では草原や渓谷林などの構成種となっていて、森林群落にはあまり出現しない。
 ミズナラ林は種組成から地理的に比較的明瞭な分布域を持つ、いくつかの群集に分けられる。これらの群集標徴種には地域固有の植物群が含まれており、これらにはトウヒレン属、ツツジ属ミツバツツジ列、イタヤカエデの亜種や変種など分化の程度の低いものが多い。


09:30-12:30

S1-6: A phytosociological survey of temperate deciduous forests of mainland Asia

*KRESTOV Pavel1, SONG Jong-Suk2
1Institute of Biology & Soil Sci, 2Andong National Univ.

This study represents the 1st survey of the temperate deciduous forests of mainland Asia on the territories of the Russian Far East, Northeast China and Korea. A total of 1200 releves are used, representing nemoral broadleaved (Fraxinus mandshurica, Kalopanax septemlobus, Quercus mongolica, Tilia amurensis)-coniferous (Abies holophylla, Pinus koraiensis) forests, and broadleaved Quercus spp. forests. The vegetation is classified into 4 orders, 12 alliances, 50 associations, 31 subassociations and 8 variants. One order Lespedezo bicoloris-Quercetalia mongolicae, 4 alliances Rhododendro daurici-Pinion koraiensis, Phrymo asiaticae-Pinion koraiensis, Corylo heterophyllae-Quercion mongolicae and Dictamno dasycarpi-Quercion mongolicae, and 14 associations are described for the first time. The communities are placed into two classes. Quercetea mongolicae reflets monsoon humid maritime climate with the amount of summer precipitation higher than winter precipitation and the lack of period of moisture deficit. It occurs in Korea, montane regions of China east of Lesser Hingan and Sikhote-Alin. Betulo davuricae-Quercetea mongolicae unites forests in conditions of semiarid subcontinental climate with summer precipitation considerably higher than winter precipitation and with the period of moisture deficit in spring and early summer. It occupies mostly the regions of northeast China and eastern Russia west of the Lesser Hingan and in the low elevation belts of the southern Sikhote-Alin.


09:30-12:30

S1-7: 東アジアのナラ林vsブナ林 -- とくに中国と日本の相違性と相似性、どのような環境要因が決め手になるか --

*藤原 一繪1
1横浜国立大学大学院環境情報研究員

ブナおよびナラ林は、東アジアはもとより北半球に広く分布している。特にブナ林は冷温帯によく発達している。中国では常緑広葉樹林域山地にブナ林が発達している。また、中国では、11種のブナがかつて記載されていた程種の多様性が高く、現在は5種の主なFagus (Fagus lucida, F. hayatae, F. engleriana, F. longipetiolata, F. chienii)にまとめられている。日本の2種のブナ(Fagus crenata), イヌブナ(F. japonica)に比較し、環境の相違、地史的相違がうかがわれる。 ナラも同様に中国では51種が記載されている。主な種では、日本のミズナラの母種であるQuercus mongolicaが中国東北地方より極東のナラ林北限に位置し、大興安嶺西部にQ. liadogensisが北限・西限域のナラ林を形成している。その南部の常緑広葉樹林域には、日本の落葉二次林を構成する、アベマキ(Quercus variavilis)、 クヌギ(Q. acutissima)、ナラガシワ(Q. aliena)、コナラ(Q. serrata)、カシワ(Q. dentata)等が、主要な森林を形成し、また常緑広葉樹林域の二次林として発達し、南下している。日本では北海道の渡島半島を境にブナ林が消え、ナラ林に変わるが、中国では常緑広葉樹林域でほとんどの分布がきれ、北上していない。どの様な種組成の相違性・相似性が日本とユーラシア大陸東岸で、ブナ林、ナラ林に見られるか、分布とそれらの環境要因の相違を討議する。以下の3点に大きくまとめられる。1) 中国のブナ林は、中国のナラ林や日本のブナ林とも全く異なった種組成、分布をもっている。2) 中国と日本のブナ林の相似性、あるいは共通種は、中国沿岸域のFagus hayatae林と、九州・四国に見られる。3) 落葉ナラ林は多くの共通種が、林床種に特に多い。


09:30-12:30

S1-8: Development of European Beech forests in the Holocene

*ポット リヒャルト1
1ハノーバー大学

Summer-green deciduous forests with the beech (Fagus sylvatica) form the regional potential natural vegetation of Central Europe. Beach forest communities dominate large parts of a long development in the interaction between climate, soil and man.
Following the climatic improvements in the late Ice Age and thereafter, a number of different deciduous and coniferous trees advanced from their refuge areas. Governed by secular climate changes, they came in stages, from the first to the last type to migrate, over a period of 9000 years. From its various refuges in the Mediterranean area during the Glacial Periods, the beech took at least two different routes to North and Central Europe. Late glacial occurrences in Greece, near the Adriatic Sea, in the southern Alps, the Cantabrian Mountains, the Pyrenees and the Cevennes attest to their refuges. There might have been other refuges near the Carpathian mountains. The migration routes of the west and east provenances met in the northern part of the foothills of the Alps, and from there, the beech reached the central mountainous region of the Vosges Mountains, the Black forest, the Swabian Mountains and the Bavarian Forest in about 5000 BC. Since the middle of the Atlanticum, Fagus-pollen can be found in respective deposits in larger moors. At almost the same time, between 5000 and 4500 BC, the beech also reached the limestone and loess locations of the northern central mountains from the south-east. From there it very likely spread to the neighbouring loam areas in the sandy heathland of the north german coast (geest). We cannot rule out the possibility that the beech was spread by anthropo-zoogenical means, in northern Central Europe this is very likely to be the case.