2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
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[要旨集] 公募シンポジウム S03

8 月 26 日 (木) シンポジウム概要
  • S3-1: ()
  • S3-2: S3: Ecosystem managementとしてのシカ管理 2.シカが森林動態に与える長期的影響 洞爺湖中島の事例 (宮木)
  • S3-3: 3.知床半島のシカ分布と個体群動態 (岡田)
  • S3-4: 知床岬の森林植生の変化 (小平真佐夫)
  • S3-5: 知床岬の海岸草原植生の変化 (石川, 佐藤)
  • S3-6: エゾシカの爆発的増加:natural regulationかcontrolか (梶)

14:30-17:30

S3-1:

(NA)


14:30-17:30

S3-2: S3: Ecosystem managementとしてのシカ管理 2.シカが森林動態に与える長期的影響 洞爺湖中島の事例

*宮木 雅美1
1北海道環境科学研究センター

洞爺湖中島での16年間の植生モニタリングより,エゾシカ高密度個体群が落葉広葉樹林の森林動態に及ぼす長期的影響を調べた。
エゾシカの樹皮食いによる枯死が1980年頃から増加し始めた。樹皮食いは,ハルニレ,ツルアジサイ,ミズキ,ハクウンボク,イチイ,ニガキなどの特定の樹種に集中して発生した。樹皮食いを受けた樹種の多くは,広葉樹林の中で他の樹種と混交しており,大きなギャップはほとんど形成されなかった。樹皮食いは1980年代はじめに集中し,選好性の高い樹種が消失したため,その後はほとんどみられなくなった。
10cm以下の稚樹は,柵を設置した1984年後の数年間は多く発生したが,1992年頃になると減少した。2000年までの樹高1.3m以上の稚樹の加入は,柵内でも少なかった。林床の相対光量子密度は1.0_から_3.9%と暗く,柵内と柵外とで林床の明るさや成長率に差が認められなかった。
林分構造の変化を,Y-N曲線を用いて比較した。柵の内外ともに,樹皮食いを受けなかった残存木は個体間競争が緩和され,間伐効果と同様な生長が見られた。柵外では,柵内と同様に上木が成長し,林床も暗くなり,シカがいなくても稚樹が成長する条件にはないことをしめしていると考えられる。
シカによる森林の被害は,個体数増加の比較的早い時期に発生し,中程度の密度でその影響が目立ち始める。シカの適正密度として,稚樹の更新が可能なレベルを想定すれば,シカをかなり低い密度に抑える必要がある。しかし,更新が不可能でも,林冠が閉鎖し上木の成長が旺盛であれば森林は長期間維持されるので,適正密度は,管理目標に応じて幅広く設定することができる。


14:30-17:30

S3-3: 3.知床半島のシカ分布と個体群動態

*岡田 秀明1
1(財)知床財団

明治初期の乱獲と豪雪の影響で一時絶滅の危機に瀕したエゾシカはその後の保護政策によって次第に回復に向い、知床半島には1970年代に入って再分布した。1980年代以降、その生息動向について半島先端部と中央部で調査を継続している。
半島先端部の知床岬地区では、航空機を使って越冬個体数の推移を追ってきた。調査開始の1986年のカウント数は53頭であったが、その後指数関数的に急増し、1998年には592頭を確認した。しかし、1998-99年冬に大規模な自然死亡が発生し、同年のカウント数は177頭へと激減した。ただし、死亡個体の齢・性別は0才とオス成獣が大多数を占めており、メス成獣の死亡が少なかったことから個体数は急激な回復を見せ、その後毎年一定数の自然死亡を伴いながらも、2003年には過去最高の626頭と再びピークに達し、翌2003-04年冬に2回目の群れの崩壊が生じた。
また、半島中央部の幌別・岩尾別地区でも、春期と秋期にライトセンサスを継続しているが、知床岬地区と同様、1990年代の急増とそれに続く0才ジカとオス成獣を中心とした自然死、カウント数の減少、と類似した傾向が確認されている。
一方、知床半島におけるエゾシカの分布状況については、これまで調査されていなかったが、越冬地の分布と規模を把握する目的で、2003年3月に、ほぼ半島全域(遠音別岳原生自然環境保全地域山麓以北)を対象にヘリコプターセンサス法による調査を実施した。その結果、合計3,117頭(最低確認頭数)をカウントした。これらのシカは標高300m以下に集中しており、それを越える地域での確認頭数は全体の約0.6%に過ぎなかった。またシカの越冬地分布は非連続的であり、知床岬をはじめとする4地域が半島全体での主要な越冬地であることがわかった。脊梁山脈をはさんだ分布の偏りは顕著であり、斜里側の確認頭数は羅臼側の約2.3倍であった。


14:30-17:30

S3-4: 知床岬の森林植生の変化

*小平真佐夫1
1知床財団

知床半島におけるエゾシカの天然植生への採食圧の経年変化は、半島最大の越冬地である岬地区において長期に観察されている。岬地区の広葉樹林内には1987年に固定調査区(100m×10m)を3ヶ所設置し、調査区内の木本と林床植生(ササ・草本)について16年間に5回の調査を行った。同期間のシカ密度増加(11-118 deer/km2)に連れ、大径木の樹皮剥ぎとそれによる枯死は増加し、胸高直径5cm以下の小径木は消失、地上高3m以下の枝被度は平均32%から2%へ減少した。林床では平均被度32%、平均高さ37cmあったクマイザサが消失、逆にシカの選好性が低いハンゴンソウやミミコウモリが増加した。1999年に追加設置した、本来シカの選好性が低いミズナラが優先する調査区(50m×50m)でも、同様にシカの樹皮食いを受けた個体が60%を越えた。種別には、シカ選好性の高いハルニレ・オヒョウ・ノリウツギは同地区でほぼ消失した。一方、こうした植生への影響は越冬地に限定された現象かどうかは未だ検討の余地がある。同半島でのシカ越冬地は海岸線の標高300m以下に不連続に分布し、断片的な調査によると越冬地以外の低標高地や、標高300mを越える地域ではハルニレ等の母樹の生存が確認されている。減少種や減少群落に対する緊急措置として、防護柵による種子資源の保護は数年前より始まっているが、今後はこれと並行して半島全域での水平的・垂直的なシカ採食圧評価が必要とされている。


14:30-17:30

S3-5: 知床岬の海岸草原植生の変化

*石川 幸男1, 佐藤 謙2
1専修大学北海道短期大学園芸緑地科, 2北海学園大学工学部

知床岬においては、1980年代半ば以降に急増したシカの採食によって植物群落が大きく変質した。岬の草原と背後の森林を越冬地として利用するとともに、植物の生育期にもこの地にとどまっているシカは、1980年代初めまではほとんど観察されなかったが、1990年代終わりには春先で600頭を超える個体数が確認されるようになった。その後、個体群の崩壊と回復が起こっている。
 1980年代初頭まで、海岸台地の縁に位置する風衝地にはガンコウラン群落とヒメエゾネギ群落が分布していた。また台地上には、エゾキスゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモツケ、ナガボノシロワレモコウ、シレトコトリカブトやナガバキタアザミ等から構成される高茎草本群落、イネ科草本(ススキ、イワノガリヤスやクサヨシ等)群落、およびクマイザサ、チシマザサやシコタンザサからなるササ群落も分布していた。
 2000年に行った現地調査の結果、ガンコウラン群落は消滅に近く、シカが近寄れない独立した岩峰などにわずかに残っていた。ガンコウラン群落が消滅した場所にはヒメエゾネギが侵入していた。かつての高茎草本群落も激減し、エゾキスゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモツケ、ヨブスマソウ等はほぼ消滅した。クマイザサとチシマザサも現存量が著しく減少した。一方、1980年初頭までには6種のみだった外来種、人里植物は、2000年には20種が確認された。また、シカの不食草であるハンゴンソウとトウゲブキが群落を形成し、外来種のアメリカオニアザミも急速に群落を拡大しつつある。
 失われかかっているこれらの群落の保護を目的として、2003年より防鹿柵を設置して、ガンコウラン、ヒグマの資源であるセリ科草本、シレトコトリカブトなどの亜高山性草本の回復試験を開始している。またアメリカオニアザミの駆除も開始した。


14:30-17:30

S3-6: エゾシカの爆発的増加:natural regulationかcontrolか

*梶 光一1
1北海道環境科学研究センター

世界で一番早く設定された国立公園であるイエローストーンでは,過去40年間以上にわたりエルクなどの有蹄類個体群に対し人為的な間引きを実施せずに,自然調節にまかせる(何もしない)という管理を行なってきた.その管理方針が適正であるか否かついて,主にエルクの増えすぎによる植生への悪影響をめぐって激しい論争が起こり,論争は現在でも継続している.
世界自然遺産の候補地となった知床国立公園でも近年になって,高密度となったエゾシカによる自然植生への悪影響が問題とされるようになり,エゾシカ管理のあり方が問われている.エゾシカの爆発的増加が人為的な影響によるものか,あるいは自然現象によるものかによって,とりわけ国立公園内ではエゾシカの管理方針が異なったものとなるだろう.1980年代に,洞爺湖中島,知床半島,釧路支庁音別町等で,エゾシカの長期モニタリングが開始された.それぞれ,人為的に持ち込まれた閉鎖個体群,自然に再分布した半閉鎖個体群,牧草地帯に定着した開放個体群であり,天然林,原生林,牧草地と空間スケールも生息環境にも大きな相違がある.しかし,いずれの個体群でも年率16_から_21%の爆発的な増加が生じた.これらの調査地域では,低密度から出発し環境収容力と十分な開きがあったこと,保護下あるいは捕獲があってもわずかであった点で共通している.これらの事例は,エゾシカの高い内的自然増加率を示している.エゾシカは北海道開拓以来130年にわたって,乱獲と豪雪による激減と保護による激増を繰り返してきた.このような個体群の縮小と拡大は人為的な攪乱がなくても,歴史的に繰り返されてきた可能性も考えられる.知床国立公園におけるエゾシカの個体群管理は,対象地域に何の価値を求めるのか,あるいはどれくらいの時間スケールを考えるのかによって管理方針,すなわち natural regulation かcontrolかの対応が分けられるだろう.