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[要旨集] 公募シンポジウム S08
S8-1: 日本にはどのくらい湿地があったのか?_-_明治・大正時代と現在の湿地面積の比較_-_
国土地理院地理調査部では、明治・大正時代に作成された5万分1地形図と最新の地形図を比較計測することにより、日本全国(北方四島と竹島を除く)の湿地面積が約80年でどれだけ変化したか調査を行った。
調査によると、明治・大正期には全国で2,111km2の湿地が存在していた。しかし、現在までの約80年間で1,548km2の湿地が消滅しており、新たに増加した湿地を加えても明治・大正期から現在までに61%も減少している。減少面積が大きいのは釧路湿原、石狩川小湖沼群、勇払原野などで、釧路湿原だけでも110km2と、現在の釧路湿原の48%にあたる広大な湿地が消滅した。
減少比率では、石狩川小湖沼群、標津川流域湿地、苫小牧川湿地などで90%以上の湿地が消滅している。特に石狩川小湖沼群は明治・大正時代には86.2km2と現在のサロベツ原野を上回る湿地を有していたが、現在はわずか0.7km2が残るのみで、99%以上の湿地が消滅している。
一方、面積が増加した湿地もある。最大は渡良瀬遊水池で、3.5km2から19.7km2へ増加している。
現在、国土地理院環境地理課では、特に重要な湿地・湿原を対象に「湖沼湿原調査」を実施している。この調査は各湿地周辺の土地利用変化を明らかにするとともに、地形学的調査でより長期的な湖沼・湿原の変遷を明らかにするものである。平成15年度には勇払平野の調査が完了し、昭和30・40年代の都市化の進展による急激な湿地消滅の実態や、ウトナイ湖と周辺湿地の形成過程が明らかになった。現在は霧多布湿原の調査を実施中である。
筆者らは、これら成果が地域計画や自然再生事業などに広く活用されるよう、そのあり方を模索していきたいと考えている。ぜひ、今後の調査とデータ整備のあり方について、ご意見を頂ければ幸いです。
S8-2: 琵琶湖内湖再生の現状と課題
琵琶湖では、在来魚漁獲量の著しい減少に代表されるように、生物多様性の減少が近年著しい。そのため、生態系保全の観点から、魚類の繁殖場や鳥類を初めとする野生生物の生息場としての沿岸湿地(ヨシ帯)の重要性が注目されるようになってきた。内湖とは、琵琶湖の沿岸湿地が、浜堤や川から運ばれた土砂で琵琶湖と区切られ、ある程度独立した水塊となったが、水路等で琵琶湖と水系の連続性が保たれている水域と定義される。琵琶湖と水系でつながるため、水生生物にとって内湖は種のレフュージアであると同時に種の供給源ともなりうる。と同時に、集水域からの流入水を貯留した後、琵琶湖に流出する沈殿池としての機能も有している。内湖の総面積は、1940年には2902haだったが、大部分が干拓等で消失し、1995年には425haに減少した。にも関わらず、現在でも琵琶湖周辺のヨシ帯の60%は内湖に分布している。<BR>
滋賀県では、2000年に水質保全、水源涵養、自然的環境・景観保全の3つを柱にした琵琶湖総合保全整備計画(マザーレイク21計画)を策定した。計画は3期に分かれ、第1期2010年までの目標の一つとして、「生物生息空間(ビオトープ)をつなぎネットワーク化するための拠点の確保」を掲げ、ヨシ群落の新規造成、湖岸保全整備等様々な修復事業が行われ、干拓した一部の内湖については復元の動きもある。しかし、これらの事業は往々にして事業規模や修復したヨシ帯の面積等で評価され、琵琶湖の生態系回復への寄与について十分な検討が行われていない。また内湖復元についても、洪水制御や地域住民との関係、復元後の管理など様々な調整が求められている。今後、第1期事業を評価し、第2期に向けて新たな事業へフィードバックする順応的手法をとることが不可欠であるが、第1期の半ばにあたる現時点で、生態系保全の立場からどの程度目標が達成されたかを評価する適切な「ものさし」が求められる。
S8-3: 沿岸の人工干潟の施工事例とその問題点
人工干潟は今までに2,100ha程度造成されている.また,平成19年までに港湾事業では4,000haの干潟を,水産事業では5,000haの干潟と藻場を造成することになっている.今までの人工干潟は,大部分が東京都葛西海浜公園,広島県五日市人工干潟に代表される前浜干潟である.人工干潟の多くはアサリ漁場等の水産目的や公園的施設として計画されるが,浚渫土の有効利用としても計画されることもある.これらの人工干潟は基本的に埋立地造成の技術を用いて建設されている.
人工干潟を地盤が軟弱な場所に建設したり,内部の充填材料に浚渫土などを用いると,干潟面が沈下する.これについては,予め沈下予測を行い,沈下量を見込んで施工するが,沈下が進行すると造成した干潟が縮小する印象を与える.なお,沈下が起こると干潟の勾配が大きくなり,このため干潟面への波浪の影響が強くなり,浸食や底質粒子の淘汰が促進され,生物相に影響を及ぼす場合がある.また人工干潟は自然に干潟が形成されない外力の影響が大きな場所に作られることもある.浸食については,多くの干潟が1年確率波を条件に設計されているので,数年に1回程度の大型台風等が来襲すると,波浪による浸食で干潟の地形が変化する.これにも対応可能にすると波浪制御のコストがかかる.
完成後の人工干潟は生物相が貧弱であるといわれるが,完成後の生物相の変化状況についての情報は少ない.また,潮干狩りのように特定の生物の増殖を目的とする場合以外は,どのような生物相が形成されれば干潟として成功したと言えるか,明確な指針がない.
人工干潟の設計条件や地形・地盤高の変化予測については十分な情報公開が必要である.また,地形・生物相については,継続的なモニタリングを実施し,その結果をフィードバックして利用・補修などの計画を検討してゆくべきである.
S8-4: 沿岸における湿地生態系の自然再生事業の評価
自然再生事業は、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復することを直接の目的として、湿原の回復、都市臨海部における干潟の再生や森づくりなどを行う。その地域の生態系の質を高め、その地域の生物多様性を回復していくことに狙いがある。湿地生態系の機能を再生させるため、より自然に近い湿地生態系の自然再生実験等によって自然の節理を学び、湿地生態系の再生及び管理・事業評価を実施する必要がある。ここでは、沿岸における湿地生態系の自然再生事業の評価について、具体的に2つの自然再生事業について検討委員と第三者の立場から述べる。
1.「東京湾奥部海域環境創造事業」
国土交通省千葉港湾事務所が東京湾奥部の環境改善・創造するために、中ノ瀬航路浚渫土砂(約80万m3)を用いて覆砂造成や海浜造成を行い良好な海域環境を創造することを目的としている。平成14年度には2回の準備委員会、15年度には4回の検討委員会と2回の技術検討委員会を経て、浦安市舞浜沖に環境再生計画を決定した。その決定過程について概要を述べ、事業の自己評価を行う。
2.「霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全対策」
霞ヶ浦工事事務所(現:河川事務所)が「霞ヶ浦湖岸植生帯の緊急保全に係わる委員会」による5回の検討会を経て、13ヶ所で粗朶消波堤等の事業を平成13年度に実施した。その後、「湖岸緊急保全対策評価検討会」で別委員会による自己評価し、「霞ヶ浦意見交換会」で様々な環境問題に市民と意見を交換している。植生帯に影響する高水位維持を堅持するが水位調整の実験は認めてきている一方で、波浪による植生破壊を粗朶消波堤等で補償しようとしている。調査の結果、本来の湖岸植生の回復は実現されているとは言い難い。